特許第6186170号(P6186170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6186170セメント急結材及びそれを用いたセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186170
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】セメント急結材及びそれを用いたセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20170814BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C04B22/08 Z
   C04B28/02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-100541(P2013-100541)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-218414(P2014-218414A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】原 啓史
(72)【発明者】
【氏名】庄司 慎
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−012350(JP,A)
【文献】 特開平10−259047(JP,A)
【文献】 特開2001−240443(JP,A)
【文献】 特開平08−091896(JP,A)
【文献】 特開2001−253753(JP,A)
【文献】 特開平05−319881(JP,A)
【文献】 特開2007−119263(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/143506(WO,A1)
【文献】 特開2012−121775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200〜800℃の高温雰囲気で炭酸化してなる、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーと、アルミニウム化合物を含有してなるセメント急結材。
【請求項2】
炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーが、CaOを39.9〜70%、Alを29.9〜60%、炭酸成分をCO換算で0.1〜5%含有してなる請求項1記載のセメント急結材。
【請求項3】
セメントに請求項1又は2記載のセメント急結材を配合してなるセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野で使用されるセメント急結材及びそれを用いたセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に見ると、セメントの生産量は増加しており、急速にインフラ整備が進められている。特に、中国や東南アジアでの建設が目覚しい。インフラ整備が急がれる国において、使用する材料としても早期に強度発現を可能とする材料が求められている。
【0003】
その一例として、トンネル掘削時に使用されるセメント急結材がある。
トンネルの吹付け工法等に使用されるセメント急結材としては、カルシウムアルミネートを主成分とし、その他に、炭酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウムを含有するものなど、これまでに数多く提案されている(特許文献1〜5)。
これらのセメント急結材に含まれる炭酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウムはカルシウムアルミネートの反応を助長したり、それ自身がゲル化してごく初期のこわばりを与えるものであり、セメント急結材には欠くことのできない成分であると考えられている。
しかしながら、ナトリウムなどのアルカリ金属はコンクリート中の骨材と反応し、アルカリシリケートゲルを生成して膨潤し、膨張破壊を招く、いわゆる、アルカリ骨材反応を引き起こすという課題があった。
また、アルカリフリーであって、アルカリ金属を含有する急結材と同等以上の急結性状を有する急結材が開発されているものの(特許文献6)、液体と粉体を併用することや強酸性物質を使用することから、より簡便で安全な材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56−27457号公報
【特許文献2】特公平05−39899号公報
【特許文献3】特公平07−68057号公報
【特許文献4】特開昭63−206341号公報
【特許文献5】特開昭63−236741号公報
【特許文献6】特開2002−249352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、このような状況を鑑み、前記課題を解消すべく種々検討した結果、CaO-Al系クリンカーに特定の処理を施すと水和活性が高くなり、それを用いたセメント急結材はアルカリを添加することなく、従来のアルカリ含有のセメント急結材と同等以上の急結性状を有することを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(1)200〜800℃の高温雰囲気で炭酸化してなる、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーと、アルミニウム化合物を含有してなるセメント急結材。(2)炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーが、CaOを39.9〜70%、Alを29.9〜60%、炭酸成分をCO換算で0.1〜5%含有する(1)のセメント急結材、(3)セメントに(1)又は(2)のセメント急結材を配合してなるセメント組成物、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アルカリフリーで、従来のアルカリ含有のセメント急結材と同等以上の急結性状を有するセメント急結材及びそれを用いたセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明のセメント組成物とは、セメント組成物、モルタル組成物、コンクリート組成物を総称するものである。
【0009】
本発明で使用する、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーは、基材としてカルシウムアルミネートを使用し、高温下で炭酸ガスと反応させて合成する。
クリンカーは、通常、5〜30mm位の大きさの塊であり、粉砕して使用されるが、本発明の云うクリンカーとは、塊状、粉状などを総称するものである。
カルシウムアルミネートは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料とを混合して、キルンでの焼成や、電気炉での溶融等の熱処理をして得られる、CaOとAlとを主たる成分とし、水和活性を有する物質の総称であり、CaO及び/又はAlの一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAlとを主成分とするものに、これらが少量固溶した物質である。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲でCaO、Al3、CO以外のその他の成分を含有しても構わない。その他の成分としては、SiO、Fe、MgO、TiO、ZrO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、塩素や水分等の強熱減量成分等が挙げられる。その他の成分の含有量は、通常、0〜10%の範囲である。
鉱物形態としては結晶質、非晶質いずれであってもよい。結晶質の具体例としては、例えば、CaOをC、AlをA、RO(NaO、KO、LiO)をRとすると、CAやこれにアルカリ金属が固溶したC14RA、CAやC12やC11CaF、CA・Fe、及びC・CaSO等が挙げられる。
カルシウムアルミネートを製造する熱処理方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ロータリーキルンや電気炉等を使用する方法が挙げられ、原料の熱処理温度は特に限定されるものではないが、通常、1000〜1700℃程度で行われる。
本発明の炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーの化学成分は、CaOを39.9〜70%、Alを29.9〜60%、炭酸成分をCO換算で0.1〜5%含有することが好ましく、CaOが45〜65%、Alが35〜55%、炭酸成分はCO換算で0.1〜5%であることが好ましい。この成分範囲にないと、充分な急結性状が得られない場合がある。
【0010】
本発明で使用する、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーは、カルシウムアルミネートを炭酸ガスで処理する前に粉砕処理し、ブレーン比表面積で4000〜9000cm/gに調製することが好ましい。カルシウムアルミネートの粉末度が、ブレーン比表面積で4000cm/g以下では、十分な急結性が得られない場合や、低温での強度発現性が十分でない場合がある。また、9000cm/gを超えても更なる効果の増進が期待できない。
【0011】
カルシウムアルミネートの炭酸ガスでの処理方法は特に限定されるものではなく、カルシウムアルミネートを炭酸ガスに接触させることで合成できるが、特に、200〜800℃の高温雰囲気で炭酸ガスと接触させることが、水和活性を高める観点から好ましい。
なお、カルシウムアルミネートの炭酸化はクリンカーを粉砕しながら炭酸化しても良いし、クリンカーを粉砕してから炭酸化しても良い。
本発明のCaO-Al系クリンカーを炭酸化処理に使用する容器は、特に限定されるものではなく、クリンカーと炭酸ガスを接触させ反応させることが出来ればよく、電気炉でも良いし、流動層式加熱炉でも良いし、クリンカーを粉砕するミルでも良い。
本発明で使用する、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーに含まれる炭酸成分は、無機炭素分析法によって測定することができる。クリンカーに塩酸をかけ、発生するCOを吸収液に吸収させ、滴定法によって定量することができる。具体的な装置としては、日本アンス株式会社製「クーロメーター」などを用いることができる。
また、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーであるかどうかは電子顕微鏡などによって確認することができる。具体的には、クリンカー表面に電子線を照射したり、クリンカーを樹脂で包埋し、アルゴンイオンビームで表面処理を行い、粒子断面の組織を観察するとともに、元素分析を行うことで、CaO、Al、炭酸成分を含んでいるか確認することができる。
【0012】
本発明のセメント急結材では、200〜800℃の高温雰囲気で炭酸化した炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーにアルミニウム化合物を併用する。
本発明で使用するアルミニウム化合物の具体例としては、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、亜硝酸アルミニウム、及びオキシ水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物等が挙げられる。
本発明では、これらのうちの一種又は二種以上を使用することができるが、塩素を含まず、鉄筋コンクリート構造物への使用も可能である面から、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、亜硝酸アルミニウムが好ましい。
【0013】
アルミニウム化合物の使用量は、炭酸成分を含むCaO-Al系クリンカーとアルミニウム化合物の合計100部中、10〜50部が好ましく、20〜40部がより好ましい。これらの範囲外では凝結の始発終結ともに遅くなる場合がある。
【0014】
セメント急結材の使用量は、セメントとセメント急結材からなるセメント組成物100部中、3〜15部が好ましく、5〜10部がより好ましい。3部未満では充分な凝結促進効果が得られない場合があり、15部を超えて使用しても更なる効果の増進が期待できない場合がある。
【0015】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、又は石灰石微粉等を混合した各種混合セメント、並びに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられる。これらの中では、練り混ぜ性及び強度発現性の点で、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0016】
本発明では、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰等の混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、セッコウ、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0017】
本発明で使用する練り混ぜ水量は特に限定されるものではないが、通常、水/セメント組成物比で25〜70%が好ましく、30〜50%がより好ましい。これらの範囲外では施工性が大きく低下したり、強度が低下したりする場合がある。
【実施例】
【0018】
以下に実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
【0019】
「実験例1」
表1に示す、クリンカー及びアルミニウム化合物を配合してセメント急結材を調製した。セメント100部、砂300部、及び水60部を混練してモルタルを調製した後、セメントとセメント急結材からなるセメント組成物100部中、セメント急結材7部を添加して10秒間混練し混練物を作製し、その凝結時間を測定した。結果を表1に併記する。なお、市販されているアルカリを含有するセメント急結材についても同様に試験を行った。
【0020】
<使用材料>
セメント:市販の普通ポルトランドセメント
クリンカーA:CaO63.6%、Al34.4%、CO0%、その他2.0%。1450℃焼成粉砕品。ブレーン比表面積6000cm/g。
クリンカーB:クリンカーAを炭酸ガスとして100体積%のCOガスをフローしながら600℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO62.7%、Al33.8%、CO1.5%、その他2.0%。ブレーン比表面積6000cm/g。
クリンカーC:クリンカーAを20℃、湿度60%RH雰囲気で1ヶ月間さらし、自然に炭酸化させたもの。CaO63.5%、Al34.4%、CO0.1%、その他2.0%、6000cm/g。
クリンカーD:クリンカーAを炭酸ガスとして100体積%のCOガスをフローしながら200℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO%63.5、Al34.4%、CO0.2%、その他1.9%、ブレーン比表面積6000cm/g。
クリンカーE:クリンカーAを炭酸ガスとして100体積%のCOガスをフローしながら400℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO%63.2、Al34.3%、CO0.6%、その他1.9%、ブレーン比表面積6000cm/g。
クリンカーF:クリンカーAを炭酸ガスとして100体積%のCOガスをフローしながら800℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO62.7%、Al33.8%、CO1.6%、その他1.9%、ブレーン比表面積6000cm/g。
クリンカーG:クリンカーAを炭酸ガスとして100体積%のCOガスをフローしながら1000℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO63.6%、Al34.4%、CO0%、その他2.0%、ブレーン比表面積6000cm/g。
アルミニウム化合物イ:硫酸アルミニウム18水和物、市販品
アルミニウム化合物ロ:硝酸アルミニウム9水和物、市販品
市販品α:市販のセメント急結剤、アルカリ含有量17%、主成分非晶質カルシウムアルミネート
市販品β:市販のセメント急結剤、アルカリ含有量21%、主成分結晶質カルシウムアルミネート
水:水道水
細骨材:ケイ砂
【0021】
<測定方法>
凝結時間:ASTM C 403に準じて、混練物を迅速に型枠に詰めプロクター貫入抵抗値を測定して凝結時間の始発と終結を測定した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1より、高温炭酸化処理したクリンカーB、D、E、Fを用いると凝結が促進され、市販品よりも終結時間が短くなることが分かる。一方、大気中で自然に炭酸化させたクリンカーCや、1000℃で炭酸化させたクリンカーGでは、市販品よりも優れた凝結促進効果が得られない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の急結材は、アルカリ含有量が少なく、粉体のみで構成されており、アルカリ骨材反応の懸念がなく、セメントコンクリートの凝結硬化を促進せしめることができるなどの効果を奏する。