(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186251
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】インナーライナー用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 23/22 20060101AFI20170814BHJP
C08K 5/3477 20060101ALI20170814BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20170814BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
C08L23/22
C08K5/3477
C08L9/00
B60C5/14 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-234109(P2013-234109)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93928(P2015-93928A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】小山 修平
【審査官】
岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−047439(JP,A)
【文献】
特開2007−224140(JP,A)
【文献】
特開2013−043916(JP,A)
【文献】
特開2004−091766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00−23/36
9/00−9/10
B60C 5/00−5/24
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、下記一般式(1)で表されるテトラジン系化合物を0.1〜5.0質量部含有することを特徴とするインナーライナー用ゴム組成物。
【化1】
但し、上記一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ
ピリジル基を示す。
【請求項2】
前記ゴム成分がブチル系ゴム30〜100質量部とジエン系ゴム0〜70質量部とからなる(但し、両者の合計量が100質量部である)ことを特徴とする、請求項1に記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物からなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのインナーライナーとして用いられるゴム組成物、及びそれを用いたインナーライナーを備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
チューブレス空気入りタイヤにおいては、気密性を確保するために、タイヤ内面にインナーライナーと呼ばれる空気透過性の低いゴム層が設けられている。かかるインナーライナーには、トレッドやサイドウォールなどを構成する通常のゴム層に比べて空気透過性の低いハロゲン化ブチルゴムが一般に使用されている。
【0003】
また、耐空気透過性をより向上させるために、層状構造を有する瀝青炭の粉砕物や、偏平構造を有するタルクなどの平板状の充填剤を配合する場合がある。
【0004】
しかしながら、上記のような平板状充填剤を配合した場合、耐屈曲疲労性が悪化するという問題が生じ、そのため、耐空気透過性と耐屈曲疲労性をバランスよく改良することが求められている。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1では、所定のゴム成分と充填剤とを組み合わせて使用して、板状充填剤の分散性を向上させることにより、耐空気透過性と耐疲労性とを両立させる試みがなされている。
【0006】
しかしながら、これによっても耐空気透過性と耐屈曲疲労性とを満足のいくレベルまで向上させるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−43916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、耐空気透過性と耐屈曲疲労性とがバランス良く向上したインナーライナーが得られるゴム組成物及びこれを用いてなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、上記の課題を解決するために、ゴム成分100質量部に対して、下記一般式(1)で表されるテトラジン系化合物を0.1〜5.0質量部含有するものとする。
【化1】
【0010】
但し、上記一般式(1)において、R
1,R
2はそれぞれ
ピリジル基を示す。
【0011】
上記インナーライナー用ゴム組成物において、ゴム成分がブチル系ゴム30〜100質量%とジエン系ゴム0〜70質量%とからなる(但し、両者の合計量が100質量部である)ことが好ましい。
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、上記本発明のゴム組成物からなるインナーライナーを備えたものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のゴム組成物によれば、耐空気透過性と耐屈曲疲労性とがバランス良く従来よりも向上したインナーライナーが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物に用いるテトラジン系化合物は、次の一般式(1)で表されるものである。
【化2】
【0017】
上記一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ炭素数1〜11のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示す。R
1及びR
2は、少なくとも一方が含窒素複素環であることが好ましく、双方が含窒素複素環であることがより好ましい。含窒素複素環としてはピリジル基が好ましく、ピリジル基が特に好ましい。従って、好ましい具体例としては、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、3,6−ジ(2−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジンが挙げられる。
【0018】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物によれば、上記テトラジン系化合物を所定量含有することにより、耐空気透過性と耐屈曲疲労性とがバランス良く向上したインナーライナーが得られる。上記テトラジン系化合物の含有量は、これら耐空気透過性と耐屈曲疲労性とがバランス良く向上する点から、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜5.0質量部が好ましく、1.0〜3.0質量部がより好ましい。
【0019】
次に本発明のゴム組成物に用いられるゴム成分について述べる。ゴム成分は、耐空気透過性の点からブチル系ゴムを含有することが好ましい。本明細書でいう「ブチル系ゴム」とは、ハロゲン化ブチルゴム、ブチルゴム(IIR)及びこれらの混合物を包含する概念とする。ハロゲン化ブチルゴムの例としては、臭素化ブチルゴム(BIIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)等が挙げられる。
【0020】
ブチル系ゴムは、インナーライナーの耐空気透過性向上の点から、ハロゲン化ブチルゴム単独、又はハロゲン化ブチルゴムとブチルゴムとのブレンドゴムであることが好ましく、ブチル系ゴム成分中にハロゲン化ブチルゴムの占める比率が60質量%以上であることが好ましい。
【0021】
本発明では上記ブチル系ゴムをジエン系ゴムと併用することもできる。使用可能なジエン系ゴムとしては、各種天然ゴム(NR)、各種ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレンブタジエンゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)等が挙げられ、これらはいずれか一種を用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、各種ポリブタジエンゴムを用いる。また、これらのゴムとしては、アミノ基、アルコキシシラン基、ヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン等を導入した変性ジエンゴムも必要に応じて用いることができ、好適な例としてはエポキシ変性の天然ゴムが挙げられる。
【0022】
本発明のゴム組成物中の上記ブチル系ゴムとジエン系ゴムは、耐空気透過性向上の点から、ブチル系ゴムの配合割合が多い方が好ましく、ブチル系ゴム単独使用がより好ましい。従って、ゴム成分100質量部中、ブチル系ゴムの含有量は30〜100質量部が好ましく、50〜100質量部がより好ましい。また、ジエン系ゴムの含有量は70質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0023】
本発明では、インナーライナー用ゴムに通常使用されている補強性充填剤を使用することができる。補強性充填剤の例としては、ゴム分野で通常使用されているカーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化チタン等が例示され、通常はカーボンブラックが好適に用いられる。なお、タルク等の平板状充填剤も、本発明の目的に反しない範囲内であれば使用可能である。
【0024】
上記補強性充填剤の配合量は特に限定されず、充填剤の種類等によって調整され、通常は、通常はゴム成分100質量部に対して30〜90質量部程度である。カーボンブラックのみを使用する場合は、通常はゴム成分100質量部あたり30〜80質量部の範囲が好ましい。
【0025】
上記補強性充填剤としてシリカを使用する場合は、シランカップリング剤を併用するのが好ましい。シランカップリング剤の種類は特に限定されず、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用されるものを使用することができ、例としてはスルフィドシラン、メルカプトシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の含有量はシリカに対して5〜15質量%が好ましい。
【0026】
上記ゴム成分としてハロゲン化ブチルゴムを用いる場合は、通常は、亜鉛華(ZnO)が加硫剤(架橋剤)として配合される。その配合量は、上記ブチル系ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜4質量部である。
【0027】
ゴム成分としてブチル系ゴム以外のゴムを用いる場合は、加硫剤として、硫黄や硫黄含有化合物等を用いる。その配合量は特に限定するものではないが、ブチル系ゴム成分以外のゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0028】
本発明のゴム組成物には、未加硫ゴムの粘着性を向上させて、タイヤ成形時にジョイント部の開口を抑制する目的で炭化水素樹脂を添加することもできる。炭化水素樹脂としては、軟化点が90〜110℃であるものが好ましい。ここで、軟化点は、JIS K6220に準拠して測定される値である。炭化水素樹脂は、オイルなどの軟化剤や可塑剤に比べて、耐空気透過性を下げる要因とはならない点で好ましい。
【0029】
炭化水素樹脂としては、ナフサの熱分解により得られるC5〜C9のオレフィンを混合状態のまま重合して得られる石油樹脂を用いることが好ましく、更に、C5成分を主成分とする石油樹脂が好ましい。かかる石油樹脂は、ブチル系ゴムとの相溶性に優れ、粘着性の改良効果に優れる。
【0030】
炭化水素樹脂を使用する場合の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、2〜15質量部が好ましい。
【0031】
本発明に係るゴム組成物には、上記亜鉛華、加硫剤、炭化水素樹脂以外に、ステアリン酸、老化防止剤、ワックスなど、インナーライナー用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を必要に応じて配合することもできる。
【0032】
以上よりなるゴム組成物は、常法に従ってロールや押出機などでシート状に押し出し、押し出したシート状物をトレッドやサイドウォールなどを構成するゴムの内側に貼り付けられた状態で加硫成形することにより、タイヤ内面に薄いゴム層よりなるインナーライナーを備えるチューブレス空気入りタイヤが形成される。なお、インナーライナーの厚みは、タイヤサイズなどにより異なるが、通常は0.5〜3.0mmである。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下で示す配合割合は、特にことわらない限り質量基準(「質量部」、「質量%」等)とする。
【0034】
[実施例・比較例]
下記表1に示す配合に従い、亜鉛華及び硫黄を除く成分を混合し、次いで亜鉛華又は硫黄を添加混合して、インナーライナー用ゴム組成物を調製した。表1中の各配合物の詳細は以下の通りである。
【0035】
・ハロゲン化ブチルゴム:エクソンモービル社製、「ブロモブチル2222」
・ブチルゴム:エクソンモービル社製、「ブチル268」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製、「シーストV」
・亜鉛華:堺化学工業(株)製、「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製、「ルナックS20」
・炭素水素樹脂:エクソンモービル社製、「エスコレッツ1102」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製、「硫黄」
・3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン:東京化成工業(株)製
・3,6−ジ(2−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン:東京化成工業(株)製
【0036】
得られた各ゴム組成物について、加硫(架橋)後の耐屈曲疲労性及び耐空気透過性を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0037】
耐屈曲疲労性:JIS K 6260に準拠したデマチャ屈曲試験機を用い、比較例1の亀裂成長回数を100とした指数で示した。数値が大きいほど耐屈曲疲労性が良好であることを示す。
【0038】
耐空気透過性:160℃×30分で加硫した厚み1mmの加硫ゴムシートについて、ガス透過率試験器((株)東洋精機製作所製、「BT−3」)を用いて空気透過率を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。数値が小さいほど耐空気透過性に優れることを示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示された結果から分かるように、テトラジン系化合物を所定量使用した実施例のゴム組成物によれば、いずれも耐空気透過性と耐屈曲疲労性とがバランス良く向上しているのに対し、これを使用しない比較例1〜3及び過剰に使用した比較例4では、耐空気透過性と耐屈曲疲労性とのいずれか一方又は双方が劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のゴム組成物から得られるタイヤインナーライナーは、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる大型タイヤ(重荷重用タイヤ)、二輪車用タイヤなどの各種のチューブレス空気入りタイヤに利用することができる。