特許第6186258号(P6186258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6186258パラキシレンの高生産性製造のための、擬似向流クロマト分離のための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186258
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】パラキシレンの高生産性製造のための、擬似向流クロマト分離のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/13 20060101AFI20170814BHJP
   C10G 25/03 20060101ALI20170814BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 20/18 20060101ALN20170814BHJP
   B01J 20/34 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   C07C7/13
   C10G25/03
   C07C15/08
   !B01J20/18 D
   !B01J20/34 G
   !B01J20/18 A
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-246835(P2013-246835)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-108962(P2014-108962A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2016年10月3日
(31)【優先権主張番号】1203277
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】パスカル エチエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】フィリベール ルフレーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン ラインクーゲル ル コック
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ ラロッシュ
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−161439(JP,A)
【文献】 特表2009−543688(JP,A)
【文献】 特表2001−507007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラキシレンとパラキシレンの芳香族C8異性体とを実質的に含む供給原料(F)からの、擬似向流(SCC)クロマトグラフィーによる、パラキシレンの分離方法であって、該方法は、ゼオライト結晶Xと非ゼオライト相とをベースとするゼオライト固体吸着剤を用い、ゼオライト結晶Xは、数平均粒径が、0.1〜1.5μmであり、前記方法は、以下のように区画された4つのクロマトグラフィー帯域:
帯域1:脱着剤(D)の注入とエキストラクト(E)の抜き出しとの間の、パラキシレンの脱着帯域、
帯域2:エキストラクト(E)の抜き出しと、分別されるべき供給原料(F)の注入との間の、パラキシレンの異性体の脱着帯域、
帯域3:供給原料(F)の注入とラフィネート(R)の抜き出しとの間の、パラキシレンの吸着帯域、および
帯域4:ラフィネート(R)の抜き出しと脱着剤(D)の注入との間の帯域、
に分割された少なくとも1基の吸着器を用い、
吸着床数は、6〜18床であり、床は全て同一であり、かつ、各床の高さは0.7〜1.4mであり、前記方法は、異なる吸着器(単数または複数)に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcu)が6〜21mであり、かつ、各吸着器にわたる平均表面速度(Vsl)が1〜2cm/sであり、前記表面速度は、本方法の温度での、体積による平均再循環流量を、吸着器の断面積で除算したものとして定義され、固体吸着剤の累積高さ(Hcu)は、以下のように分配されることを特徴とする、方法:
1サイクルにわたる、帯域1の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの21±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域2の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの37.5±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域3の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの29±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域4の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの12.5±5%である。
【請求項2】
数平均粒径が、0.1〜1.2μmである、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項3】
吸着床数は、8〜15床である、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項4】
吸着剤の原子比Si/Alは、1.05<Si/Al<1.55であるようにされる、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項5】
吸着剤の原子比Si/Alは、1.10≦Si/Al<1.55であるようにされる、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項6】
吸着剤の原子比Si/Alは、1.10≦Si/Al<1.30であるようにされる、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項7】
固体吸着剤は、吸着剤の全重量に対して、33〜42重量%の範囲の酸化バリウムBaO含有量を有するゼオライトXを含む、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項8】
固体吸着剤は、吸着剤の全重量に対して、35〜38重量%の範囲の酸化バリウムBaO含有量を有するゼオライトXを含む、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項9】
各吸着器の直径は4〜10mである、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項10】
用いられる吸着器の数は1基である、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項11】
請求項1に記載のキシレンの分離方法であって、吸着工程の操作条件は以下の通りである、方法:
−温度は、100〜250℃であり、
−圧力は、本方法の温度でのキシレンの気泡圧力〜30×10Paであり、
−脱着剤の流量の、供給原料の流量に対する比は、0.7〜2.5であり、
−再循環比は、2.0〜12であり(再循環比は、吸着器の異なる床中を流れる平均流量と、当該吸着器に注入される供給原料の流量との比として定義される)、かつ
−液相中の含水量は、70〜140重量ppmである。
【請求項12】
−温度は、120〜180℃である、請求項11に記載のキシレンの分離方法。
【請求項13】
−再循環比は、2.5〜6である、請求項11に記載のキシレンの分離方法。
【請求項14】
−液相中の含水量は、80〜120重量ppmである、請求項11に記載のキシレンの分離方法。
【請求項15】
固体吸着剤は、小さい割合、すなわち5重量%未満の無定形相を有する、請求項1に記載のキシレンの分離方法。
【請求項16】
900℃で測定される固体吸着剤の強熱減量は、4.0〜7.7重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
900℃で測定される固体吸着剤の強熱減量は、4.7〜6.7重量%である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相と固相との間の接触によって、8個の炭素原子を実質的に含む芳香族炭化水素の供給原料から、パラキシレン(PX)を分離する分野に関する。このタイプの供給原料は、蒸留によって分離することが困難であり得るため、クロマト分離、あるいは、「擬似移動床」または「擬似向流」の方法または装置という名の下で知られている、一群の吸着方法および関連する装置が用いられるが、本明細書の以降において、略語SCCで称することとする。
【0002】
SCC分離方法に関する本発明により、単一の工程において、高純度、すなわち少なくとも99.7%の純度のPXを得ることが可能となる。
【背景技術】
【0003】
SCC分離法は、当該技術分野において周知である。一般に、擬似向流モードで機能するパラキシレンの分離方法は、少なくとも4つ、場合により5つまたは6つの帯域を含み、各帯域は、一定数の隣り合う(successive)床によって形成され、かつ、各帯域は、供給口と抜き出し口との間のその位置によって区画される。
【0004】
典型的には、パラキシレンの製造のためのSCC装置(unit)に、少なくとも1つの分別されるべき供給原料(F)(パラキシレンおよび他の芳香族C8異性体を含む)と、溶離剤と称されることもある脱着剤(D)(一般的に、パラジエチルベンゼンまたはトルエン)とが供給される。前記装置から、パラキシレンの異性体を含む少なくとも1つのラフィネート(R)および脱着剤と、パラキシレンを含むエキストラクト(E)および脱着剤とが抜き出される。
【0005】
供給口および抜き出し口は、経時的に変更され(modified)、1つの床に相当する値の分だけ同一方向にシフトされる(displaced)。異なる注入口または抜き出し口のこのシフトは、特許文献1に教示されているように、同期式か非同期式のいずれかであり得る。非同期式モードの操作による方法は、VARICOL(登録商標)と称される。
【0006】
従来、SCC装置において、以下の4つの異なるクロマトグラフィー帯域が区画される。
【0007】
帯域1:脱着剤(D)の注入とエキストラクト(E)の抜き出しとの間の、パラキシレンの脱着帯域。
【0008】
帯域2:エキストラクト(E)の抜き出しと、分別されるべき供給原料(F)の注入との間の、パラキシレンの異性体の脱着帯域。
【0009】
帯域3:供給原料(F)の注入とラフィネート(R)の抜き出しとの間の、パラキシレンの吸着帯域。
【0010】
帯域4:ラフィネート(R)の抜き出しと脱着剤(D)の注入との間の帯域。
【0011】
非特許文献1および非特許文献2に記載されているように、SCCによるパラキシレンの分離方法は、一般的に24個の床からなり、24個の床は2基の吸着器(adsorber)に分配され、各吸着器は12個の床からなり、各床は、高さ約1.1mの固体吸着剤からなる。従って、吸着器全体に対する、固体吸着剤の累積高さは、約26mであり、これは本明細書の以降においてHcuと称されることとなる。
【0012】
パラキシレン分離のための吸着剤の分野における近年の研究により、向上した移動特性を有する吸着剤の開発が可能となった。例えば、特許文献2および特許文献3には、バリウム、あるいは、バリウムおよびカリウムと交換されたゼオライトXまたはLSXの小結晶をベースとするゼオライト吸着剤が開示されている。
【0013】
特許文献4にも、パラキシレンの分離方法が特許請求されており、これは、パラキシレンを、バインダを含まない(英語の用語では、「バインダレス(binderless)」と称される)吸着剤と接触させることによる方法であり、吸着剤は、500ナノメートル〜1.5μmの結晶サイズを伴うゼオライトXの第1の部分と、500ナノメートル未満か1.8μm超のいずれかの結晶サイズを有するゼオライトXの第2の部分とを含む。
【0014】
特許文献4には、このタイプの吸着剤が、向上した物質移動特性を有することが記載されている。向上した移動を伴うこれらの吸着剤の実施は、好ましくは、低温でおよび/または低減したサイクルタイムでなされる。
【0015】
低減したサイクルタイムに関し、24個の床を有する(2基の吸着器を有し、各吸着器が12個の床を含む)典型的な擬似移動床装置において、他の点が全て等しい場合、サイクルタイムの低減は、生産性の増加に相当することが記載されている。
【0016】
実際、所定の工業用吸着器の場合、サイクルタイムの低減には、吸着器内の液体流量合計について同等の増加が伴い、このことは、固体と液体の流量比を、擬似移動床の異なる帯域内で一定に維持するためであることは、当業者に公知である。
【0017】
製造されるパラキシレンの量(すなわちPX/m/hのkgとして表される生産性)は、かくして、純度および/または収率の損失に比例する分だけ増加する(increase by an amount which is also proportional)。
【0018】
特許文献4の図6に示されていることから分かることは、ある所定の吸着剤では、サイクルタイムの低減により、収率(すなわち、供給原料中に導入されるPXの量に対する、エキストラクト中のPXの量)の低減が引き起こされることである。
【0019】
また、特許文献4の図6から、向上した移動特性を有する吸着剤の使用により、等しい収率を得ながら、サイクルタイム(従って、内部液体流量、および生産性)の大幅な低減が可能であることも分かる。
【0020】
要するに、向上した移動特性を有する、小結晶の吸着剤を実使用する場合、従来技術では、サイクルタイムの低減に関連する、流量(流入および流出する、並びに、内部を再循環する流量)の増加(これは、当該増加を、直接的に移動に用いるためである)か、低温(すなわち175℃以下)での操作のいずれかが推奨されており、これにより、吸着剤のキャパシティおよび選択性を増加させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】仏国特許発明第2785196号明細書
【特許文献2】仏国特許発明第2903978号明細書
【特許文献3】仏国特許発明第2925366号明細書
【特許文献4】米国特許第7812208号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】「Ind.Eng.Chem.Res.」2010年、第49巻、p3316−3327、Limら著
【非特許文献2】「Ind.Eng.Chem.Res.」2005年、第44巻、p5703−5714、Kurupら著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、上述したような、従来技術の問題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明による方法は、高純度のパラキシレンの製造の向上した実施であって、24床吸着器において従来用いられるものより低い、全吸着器(単数または複数)に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcuと称される)を用い、かつ、各吸着器の平均表面速度(mean superficial velocity)が1〜2cm/sで本方法を行い、平均表面速度は、本方法の温度での、体積による平均再循環流量を、吸着器の断面積(the area of the section of the adsorber)によって除算したものとして定義されることを提案するものである。
【0025】
実際、驚くべきことに、吸着器全体に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcu)を6〜21mとし、かつ、各吸着器の平均表面速度(Vsl)を1〜2cm/sとすることにより、従来の24床での実施と比較して、向上したレベルの性能で、高純度、すなわち純度99.7%超のパラキシレンを製造することが可能となることが、認められている。
【0026】
累積高さ(Hcu)の大幅な低減により、特定の場合において、単一の吸着器で装置を操作することが可能となり、これにより、2基の吸着器からなる方法と比較して、設備投資の観点から大幅な利得が得られる。
【0027】
1基の吸着器を構成する床は、全て同一であり、吸着床の全数は、一般的に6〜18床、好ましくは8〜15床である。
【0028】
より正確には、本発明は、パラキシレンとパラキシレンの芳香族C8異性体とを実質的に含む供給原料(F)から、擬似向流(SCC)クロマトグラフィーにより、パラキシレンを分離するための方法であって、前記方法は、ゼオライト結晶Xと所定の割合の非ゼオライト相とをベースとするゼオライト固体吸着剤を用い、ゼオライト結晶Xは、数平均粒径(average diameter by number)が、1.7μm以下、好ましくは1.5μm以下、より一層好ましくは1.2μm以下であり、前記方法は、以下のように区画される4つのクロマトグラフィー帯域:
帯域1:脱着剤(D)の注入とエキストラクト(E)の抜き出しとの間の、パラキシレンの脱着帯域、
帯域2:エキストラクト(E)の抜き出しと、分別されるべき供給原料(F)の注入との間の、パラキシレンの異性体の脱着帯域、
帯域3:供給原料(F)の注入とラフィネート(R)の抜き出しとの間の、パラキシレンの吸着帯域、
帯域4:ラフィネート(R)の抜き出しと脱着剤(D)の注入との間の帯域、
に分割された少なくとも1基の吸着器中で行われ、
前記方法は、吸着器全体に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcu)が6〜21mであることと、各吸着器にわたる平均表面速度(Vsl)が1〜2cm/sであることとを特徴とする、方法として規定され得る。
【0029】
本発明によるキシレン分離方法の好ましい変形例において、吸着剤の原子比Si/Alは、好ましくは1.05<Si/Al<1.55であるようにされ、より好ましくは1.10Si/Al<1.55であるようにされ、より一層好ましくは1.10Si/Al<1.30であるようにされる。
【0030】
本発明によるキシレン分離方法の別の好ましい変形例において、用いられる固体吸着剤は、数平均粒径が0.1〜1.5μm、好ましくは0.1〜1.2μmである結晶を有する、凝集により形成されたゼオライト吸着剤である。
【0031】
本発明によるキシレン分離方法の別の変形例において、固体吸着剤の累積高さ(Hcu)の、1サイクルにわたる平均分配は、以下の通りである:
1サイクルにわたる、帯域1の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの21±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域2の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの37.5±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域3の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの29±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域4の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの12.5±5%である。
【0032】
好ましくは、全床数は6〜18床であり、より一層好ましくは、全床数は8〜15床である。
【0033】
本発明によると、全床数は、1基以上の吸着器にわたって分配され得る。
【0034】
好ましくは、1個の床の高さは、0.7〜1.40mである。
【0035】
好ましい変形例において、本発明による方法において用いられる吸着器の数は、1基である。
【0036】
複数の吸着器が存在する場合、それらは直列に配置され、直列とは、以下の3つの特徴を有することを意味する:
−n個目の吸着器の最後の床は、少なくとも1つの再循環ポンプと、場合による他の機器、例えば流量計や圧力センサ等とを含むラインを介して、n+1個目の吸着器の第1床に接続される、
−最後の吸着器の最後の床は、少なくとも1つの再循環ポンプと、場合による他の機器、例えば流量計や圧力センサ等とを含むラインを介して、第1吸着器の第1床に接続される、
−吸着器全体には、少なくとも、供給原料の導入口が1箇所、溶離剤の導入口が1箇所、ラフィネートの抜き出し口が1箇所、かつ、エキストラクトの抜き出し口が1箇所設けられている。
【0037】
好ましくは、本発明による方法の吸着工程の操作条件は、以下の通りである:
−温度は、100〜250℃、好ましくは120〜180℃であり、
−圧力は、本方法の温度でのキシレンの気泡圧力〜30×10Paであり、
−脱着剤の流量の、供給原料の流量に対する比は、0.7〜2.5であり、
−再循環比は、2.0〜12、好ましくは2.5〜6であり(再循環比は、吸着器の異なる床中を流れる平均流量と、当該吸着器に注入される供給原料の流量との比として定義される)、かつ
−液相中の含水量は、70〜140重量ppm、好ましくは80〜120重量ppmである。
【0038】
本発明によるキシレン分離方法の好ましい変形例において、固体吸着剤は、小さい割合、すなわち5重量%未満の無定形相を有する。
【0039】
最後に、本発明による方法の別の好ましい変形例によると、900℃で測定される固体吸着剤の強熱減量は、4.0〜7.7重量%、好ましくは4.7〜6.7重量%である。
【発明の効果】
【0040】
本発明方法によれば、従来技術と比較して非常に有意に、純度、パラキシレン収率、および生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、パラキシレンとパラキシレンの芳香族C8異性体とを実質的に含む供給原料(F)からの、擬似向流(SCC)クロマトグラフィーによる、パラキシレンの分離方法に関し、前記方法は、吸着器内で行われ、かつ、吸着器全体に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcu)が6〜21mであることと、各吸着器にわたる平均表面速度(Vsl)が1〜2cm/sであることとを特徴とする。
【0042】
全吸着器に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcu)が21m超である場合、圧力降下および吸着器の寸法の理由から、単一の吸着器での操作が高価となる。
【0043】
加えて、本発明による方法は、処理されるべき供給原料のかなりの流量を処理することを目的としており、このことにより、各吸着器の内部直径を4〜10mとすることが必要となる。
【0044】
全吸着器に対する固体吸着剤の累積高さ(Hcu)が6m未満である場合、液体の分配の観点から問題が生じる。
【0045】
更に、線(linear)表面速度(Vsl)が低い(すなわち1cm/s未満)である場合、特に径の大きい吸着器では、一般的に高生産性を実現することは不可能となり、分配にまつわる問題を引き起こしやすい。
【0046】
逆に、表面速度(Vsl)が2cm/s超である場合、床の表面における吸着剤の移動(movement)を引き起こし得、これは、性能のレベルに弊害をきたし、かつ、床の摩耗を引き起こし得る。
【0047】
本方法の1つの特徴によると、吸着工程で用いられる吸着剤は、バリウムと交換されたか、あるいは、バリウムおよびカリウムと交換されたフォージャサイトタイプのゼオライトを含んでもよい。
【0048】
好ましくは、本発明による方法の吸着剤は、ゼオライト結晶Xと非ゼオライト相とをベースとするゼオライト吸着剤であり、酸化バリウムBaOの含有量は、吸着剤の全重量に対して、33重量%超、好ましくは33〜42重量%の範囲、より有利には35〜38重量%の範囲である。
【0049】
酸化カリウムKOの含有量は、吸着剤の全重量に対して、一般的に9重量%未満、より一層好ましくは0〜2重量%の範囲、有利には0〜1重量%の範囲である。
【0050】
バリウムおよびカリウム以外のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類イオンの酸化物の全含有量は、吸着剤の全重量に対して、好ましくは5重量%未満、好ましくは0〜2重量%の範囲、有利には0〜1重量%の範囲である。
【0051】
本発明による方法の吸着剤は、また、好ましくは、ゼオライト結晶Xと非ゼオライト相とをベースとするゼオライト吸着剤であり、ゼオライト結晶Xは、数平均粒径が、1.7μm以下、好ましくは1.5μm以下、より一層好ましくは1.2μm以下である。
【0052】
非常に好ましくは、ゼオライト結晶Xは、数平均粒径が、0.1〜1.5μmの範囲、有利には0.1〜1.2μmの範囲である。
【0053】
非ゼオライト相は、一般的に、無定形残留(residual)バインダによって構成されている。
【0054】
吸着剤の原子比Si/Alは、好ましくは1.05<Si/Al<1.55であるようにされ、好ましくは1.10Si/Al<1.55であるようにされ、より一層好ましくは1.10Si/Al<1.30であるようにされる。
【0055】
固体吸着剤中に含まれるゼオライト結晶Xの、数平均粒径の推定は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、化学コントラスト(chemical contrast)を有する逆拡散電子モード(retrodiffused electron mode)で研磨薄片上を観測することによって行われる。
【0056】
試料上のゼオライト結晶のサイズを推定するために、少なくとも5000倍の倍率の画像の集合体が作成(produced)される。次いで、少なくとも200個の結晶の径が、専用のソフトウェア(Smile View(登録商標)、LoGraMi)によって測定される。
【0057】
次いで、数平均粒径は、標準ISO 9276-2:2001を適用することにより、粒度分析的分布から計算される。当該計算について、文献「Representation of data obtained by granulometric analysis” − Part 2 : calculation of the sizes/average diameters of particles from granulometric distribution」が参照される。
【0058】
この引用文献中において、表現「数平均粒径(average diameter by number)」が、ゼオライト結晶について用いられ、これは、本発明に関連して保持(retain)される。
【0059】
本発明によるパラキシレン分離方法では、相当な割合、すなわち一般的に10〜25%のバインダを含む吸着剤を用いてもよいが、バインダを含まない(英語の用語では「バインダレス(binderless)」と称される)、すなわち一般的に1%未満の量の無定形相を含む吸着剤を用いてもよく、また、低減したバインダ含有量(英語の用語では「低バインダ(binderlow)」と称される)を含む、すなわち一般的に1〜5%の量の無定形相を含む吸着剤を用いてもよい。
【0060】
上記の吸着剤のうち、最後の2つのタイプの吸着剤は、バインダのゼオライト化工程の後に得られ得る。より一層好ましくは、吸着剤の無定形相の割合は、小さく、すなわち5重量%未満である。
【0061】
900℃で測定される強熱減量は、4.0〜7.7重量%、好ましくは4.7〜6.7重量%である。
【0062】
好ましい脱着剤は、パラジエチルベンゼンである。しかし、他の脱着剤、例えば、トルエン、パラジフルオロベンゼン、またはジエチルベンゼン類も、単独または混合物として、適切である。パラジエチルベンゼンが、好ましくは推奨されるが、これは、蒸留による回収が容易でありかつ吸着剤に対する親和性が高いからである。
【0063】
本方法の別の特徴によると、吸着工程の操作条件は、以下の通りである:
−温度は、100〜250℃、好ましくは120〜180℃であり、
−圧力は、本方法の温度でのキシレンの気泡圧力〜30×10Paであり、
−脱着剤の流量の、供給原料の流量に対する比は、0.7〜2.5であり、
−再循環比は、2.0〜12、好ましくは2.5〜6であり(再循環比は、吸着器の異なる床中を流れる平均流量と、当該吸着器に注入される供給原料の流量との比として定義される)、かつ
−液相中の含水量は、70〜140重量ppm、好ましくは80〜120重量ppmである。
【0064】
本発明による方法の床は、全床数が、好ましくは6〜18床、より一層好ましくは8〜15床であり、1基以上の吸着器にわたって分配される。
【0065】
床数は、各床の高さが好ましくは0.70〜1.40mであるように調節される。
【0066】
4つのクロマトグラフィー帯域は、一般的に、以下のように区画される:
帯域1:脱着剤(D)の注入とエキストラクト(E)の抜き出しとの間の、パラキシレンの脱着帯域、
帯域2:エキストラクト(E)の抜き出しと、分別されるべき供給原料(F)の注入との間の、パラキシレンの異性体の脱着帯域、
帯域3:供給原料(F)の注入とラフィネート(R)の抜き出しとの間の、パラキシレンの吸着帯域、
帯域4:ラフィネート(R)の抜き出しと脱着剤(D)の注入との間の帯域。
【0067】
本発明の方法の別の特徴によると、固体吸着剤の累積高さの、サイクルにわたる平均分配は、以下の通りである:
1サイクルにわたる、帯域1の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの21±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域2の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの37.5±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域3の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの29±5%であり、
1サイクルにわたる、帯域4の固体吸着剤の平均累積高さは、Hcuの12.5±5%である。
【実施例】
【0068】
本発明は、以下の2つの実施例から、より良く理解されることができる。
実施例1(従来技術による方法)
24個の床によって構成され、各床の長さが1.1mであり内部半径が4mであるSCC吸着器について検討した。SCC吸着器は、1つの供給原料注入口、1つの脱着剤注入口、1つのエキストラクト抜き出し口、および1つのラフィネート抜き出し口を有していた。
【0069】
用いた吸着剤は、1μmのボール形状の結晶からなる、0.53mmのBaXタイプの固体ゼオライトであった。
【0070】
脱着剤はパラジエチルベンゼンであった。
【0071】
温度は175℃であり、圧力は15バールであった。含水量は95重量ppmであった。
【0072】
供給原料の組成は、パラキシレン21.6%、オルトキシレン20.8%、メタキシレン47.9%、およびエチルベンゼン9.7%であった。
【0073】
SCC吸着器は、2基の吸着器にわたり分配された24個の床によって構成され、床は、分配器プレートによって分離されていた。
【0074】
各分配器プレートは、注入ネットワークおよび抜き出しネットワークに対応していた。
【0075】
用いた洗浄装置は、国際公開第2010/020715号パンフレットに記載のバイパス流体流量調節装置であった。各帯域における同期性は100%であった。
【0076】
異なる注入口および抜出口のシフトは、同期していた。床を、以下の構成で、4つのクロマトグラフィー帯域に分配した:5/9/7/3。
【0077】
供給原料と脱着剤の注入流量(基準温度を40℃と考慮して規定される)は、以下の通りであった:
−供給原料の注入流量:15.44m・min−1、および
−脱着剤の注入流量:19.51m・min−1
【0078】
エキストラクト抜き出し流量は、10.03m・min−1であった。切り替え(permutation)周期は40.7秒であった。
【0079】
吸着器全体にわたる平均表面速度は、2.07cm/sであった。
【0080】
シミュレーションによって、パラキシレン純度99.81%、パラキシレン収率97.6%、および生産性124.5kgPX・h−1・m−3を得た。
【0081】
実施例2(本発明による方法)
1基の吸着器にわたって分配された14個の床によって構成された、SCC吸着器について検討した。各床は、長さが1.1mであり、すなわちHcuが15.4mであり、内部半径が4mであり、SCC吸着器は、1つの供給原料注入口、1つの脱着剤注入口、1つのエキストラクト抜き出し口、および1つのラフィネート抜き出し口を有していた。
【0082】
用いた吸着剤は、1μmのボール形状の結晶からなる、0.53mmのBaXタイプの固体ゼオライトであった。脱着剤はパラジエチルベンゼンであった。吸着剤と脱着剤は、従って、従来技術による実施例のものと同一であった。
【0083】
温度は175℃であり、圧力は15バールであった。含水量は、95重量ppmであった。
【0084】
供給原料の組成は、パラキシレン21.6%、オルトキシレン20.8%、メタキシレン47.9%、およびエチルベンゼン9.7%であった。
【0085】
SCC吸着器は、分配器プレートによって分離された14個の床によって構成されていた。各分配器プレートは、注入ネットワークおよび抜き出しネットワークに対応していた。
【0086】
用いた洗浄装置は、国際公開第2010/020715号パンフレットに記載のバイパス流体流量調節装置であった。各帯域における同期性は100%であった。
【0087】
異なる注入口および抜出口のシフトは、同期していた。床を、以下の構成で、4つのクロマトグラフィー帯域に分配した:3/5/4/2。
【0088】
供給原料と脱着剤の注入流量(基準温度を40℃と考慮して規定される)は、以下の通りであった:
−供給原料の注入流量:9.01m・min−1、および
−脱着剤の注入流量:11.38m・min−1
【0089】
エキストラクト抜き出し流量は、5.85m・min−1であった。切り替え周期は69.8秒であった。
【0090】
吸着器全体にわたる平均表面速度は、1.20cm/s−1であった。
【0091】
シミュレーションによって、パラキシレン純度99.83%、パラキシレン収率98.2%、および生産性125.3kgPX・h−1・m−3を得た。従って、純度、パラキシレン収率、および生産性についての増加(gain)は、従来技術と比較して、非常に有意である。