(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例】
【0040】
実施例1
参照gp100 TCRアルファ及びベータ鎖可変領域配列の、pGMT7に基づく発現プラスミドへのクローニング
参照gp100 TCR可変アルファ及びTCR可変ベータドメインを、gp100T細胞クローンから単離したトータルcDNAからPCR増幅した。アルファ鎖の場合、制限部位NdeI、細菌での発現の効率的な開始のために導入されたメチオニンをコードするアルファ鎖可変領域配列特異的オリゴヌクレオチドA1 (ggaattccatatgagtcaacaaggagaagaagatcc 配列番号39)と、制限部位SalIをコードするアルファ鎖定常領域配列特異的オリゴヌクレオチドA2 (ttgtcagtcgacttagagtctctcagctggtacacg 配列番号40)とを用いて、アルファ鎖可変領域を増幅した。ベータ鎖の場合、制限部位NdeI、細菌での発現の効率的な開始のために導入されたメチオニンをコードするベータ鎖可変領域配列特異的オリゴヌクレオチドB1 (tctctcatatggatggtggaattactcaatccccaa 配列番号41)と、制限部位AgeIをコードするベータ鎖定常領域配列特異的オリゴヌクレオチドB2 (tagaaaccggtggccaggcacaccagtgtggc 配列番号42)とを用いて、ベータ鎖可変領域を増幅した。
【0041】
アルファ及びベータ可変領域を、Cα又はCβのいずれかを含有するpGMT7に基づく発現プラスミドに、(Sambrook及びRussellによるMolecular Cloning a Laboratory Manual第3版)に記載される標準的な方法によりクローニングした。プラスミドを、Applied Biosystems 3730xl DNAアナライザを用いて配列決定した。
NdeI及びSalIで切断したTCRアルファ鎖をコードするDNA配列をpGMT7+ Cαベクターにライゲーションし、これをNdeI及びXhoIで切断した。NdeI及びAgeIで切断したTCRベータ鎖をコードするDNA配列を、これもまたNdeI及びAgeIで切断した別のpGMT7+ Cβベクターにライゲーションした。
ライゲーション
ライゲーションしたプラスミドで、コンピテント大腸菌(Escherichia coli) XL1-blue株の細胞を形質転換し、100μg/mlアンピシリンを含有するLB/寒天プレートに播種する。37℃にて1晩のインキュベーションの後に、単一コロニーを採取し、100μg/mlアンピシリンを含有する10 mlのLB中で、37℃にて1晩、振とうしながら成長させる。クローニングされたプラスミドを、Miniprepキット(Qiagen)を用いて精製し、挿入断片を、自動DNAシーケンサー(Lark Technologies)を用いて配列決定する。
【0042】
図1C及び2Cはそれぞれ、それぞれ
図1B及び2BのDNA配列から生成される、可溶性ジスルフィド連結参照gp100 TCRα及びβ鎖細胞外アミノ酸配列(細菌での効率的な発現のために挿入された、導入された先頭のメチオニンがない) (それぞれ配列番号45及び46)を示す。システインが、ヘテロダイマーTCRを形成するようにリフォールディングの際に人工的に鎖間ジスルフィド結合をもたらすように、アルファ及びベータ鎖の定常領域中に置換されたことに注意されたい。導入されたシステインに、陰影を付して示す。
図1B及び2BのDNA配列中の制限酵素認識配列に下線を付す。
【0043】
実施例2
可溶性参照gp100 TCRの発現、リフォールディング及び精製
実施例1のようにして調製したそれぞれTCRα鎖及びβ鎖を含有する発現プラスミドで、別々に大腸菌Rosetta (DE3)pLysS株を形質転換し、単一アンピシリン耐性コロニーを、37℃にてTYP (アンピシリン100μg/ml)培地中でOD
600が約0.6〜0.8になるまで成長させた後に、タンパク質発現を、0.5 mM IPTGを用いて誘導した。細胞を、誘導の3時間後に、30分間、4000 rpmにてBeckman J-6B中での遠心分離により採集した。細胞ペレットを、25 ml Bug Buster (NovaGen)を用いてMgCl
2及びDNアーゼIの存在下で溶解した。封入体ペレットを、30分間、13000 rpmにてBeckman J2-21遠心分離機中での遠心分離により回収した。3回の洗剤での洗浄を次いで行って、細胞破片及び膜成分を除去した。各回に、封入体ペレットを、Tritonバッファー(50 mM Tris-HCI pH8.0、0.5% Triton-X100、200 mM NaCl、10 mM NaEDTA)中でホモジナイズした後に、15分間、4,000 rpmにて遠心分離によりペレットにした。洗剤及び塩を、次いで、以下のバッファー中での同様の洗浄により除去した:50 mM Tris-HCl、1 mM NaEDTA、pH 8.0。最後に、封入体を30 mgの分割量に分け、-70℃にて凍結した。封入体タンパク質収率は、6Mグアニジン-HClでの可溶化により定量し、OD測定をHitachi U-2001分光光度計で行った。タンパク質濃度を、次いで、吸光係数を用いて算出した。
【0044】
およそ30 mgのTCRβ鎖可溶化封入体及び60 mgのTCRα鎖可溶化封入体を、凍結ストックから融解し、15 mlのグアニジン溶液(6Mグアニジン塩酸塩、50 mM Tris HCl pH8.1、100 mM NaCl、10 mM EDTA、10 mM DTT)に希釈して、鎖の完全な変性を確実にした。完全に還元され、変性されたTCR鎖を含有するグアニジン溶液を、次いで、1リットルの以下のリフォールディングバッファーに注入した:100 mM Tris pH 8.1、400 mM L-アルギニン、2 mM EDTA、5M尿素。レドックス対(システアミン塩酸塩とシスタミン二塩酸塩、それぞれ6.6 mM及び3.7 mMの最終濃度まで)を加えたおよそ5分後に、変性したTCR鎖を加えた。溶
液を約1時間放置した。リフォールディングされたTCRを、透析チューブセルロース膜(Sigma-Aldrich; 製品番号D9402)中で10LのH
2Oに対して5℃±3℃にて18〜20時間透析した。この時間の後に、透析バッファーを2回、新鮮な10 mM Tris pH 8.1 (10L)に交換し、透析を5℃±3℃にてさらに約8時間継続した。
【0045】
可溶性TCRを、誤って折り畳まれた分解生成物及び不純物から、透析したリフォールディングされた物質をPOROS 50HQアニオン交換カラムに載せ、結合したタンパク質を、10 mM Tris pH 8.1中の0〜500 mM NaClの勾配を6カラム容量にわたって用いて、Akta精製装置(GE Healthcare)を用いて溶出することにより分離した。プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)を、ピーク画分に加えた。画分を、次いで4℃で貯蔵し、クーマシー染色SDS-PAGEで分析した後にプールして濃縮した。最後に、可溶性TCRを精製し、PBSバッファー(Sigma)で予め平衡化したGE Healthcare Superdex 75HRゲル濾過カラムを用いて特徴決定した。およそ50 kDaの相対分子量にて溶出されたピークをプールし、濃縮した後に、BIAcore表面プラズモン共鳴分析により特徴決定した。
【0046】
実施例3
結合の特徴決定
BIAcore分析
表面プラズモン共鳴バイオセンサ(BIAcore 3000(商標))を用いて、可溶性TCRとそのペプチド-MHCリガンドとの結合を分析できる。このことは、可溶性ビオチン化ペプチド-HLA (「pHLA」)複合体を生成することにより容易になり、これは、ストレプトアビジンで被覆された結合表面(センサチップ)に固定化できる。センサチップは、4つの個別のフローセルを含み、これらは、4つの異なるpHLA複合体へのT細胞レセプター結合を同時測定することを可能にする。pHLA複合体を手動で注入することにより、精密なレベルの固定化されたクラスI分子を容易に操作することが可能になる。
ビオチン化クラスIHLA-A
*02分子を、インビトロにて、構成されたサブユニットタンパク質と合成ペプチドとを含有する、細菌により発現された封入体からリフォールディングし、その後、精製及びインビトロ酵素ビオチン化を行った(O'Callaghanら(1999) Anal. Biochem. 266: 9〜15)。C末端ビオチン化タグを有するHLA-A
*02重鎖を発現させ、このタグは、適当な構築物中でタンパク質の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを置き換える。得られた封入体の発現レベルは、約75 mg/リットル細菌培養物であった。HLA軽鎖又はβ2-ミクログロブリン(β2m)も、適当な構築物から大腸菌において封入体として、約500 mg/リットル細菌培養物のレベルで発現された。
【0047】
大腸菌細胞を溶解し、封入体をおよそ80%の純度まで処理した。合成ペプチド(gp100 YLEPGPVTA)をDMSOに、4mg/mlの最終濃度まで溶解する。b2m及び重鎖の封入体を、別々に、6Mグアニジン-HCl、50 mM Tris pH 8.1、100 mM NaCl、10 mM DTT、10 mM EDTA中で変性させた。0.4 M L-アルギニン、100 mM Tris pH 8.1、3.7 mMシスタミン二塩酸塩、6.6 mMシステアミン塩酸塩を含有するリフォールディングバッファーを調製し、5℃未満で冷却した。好ましくは、ペプチドをまずリフォールディングバッファーに加え、その後、変性されたb2mを加え、次いで変性された重鎖を加える。gp100 YLEPGPVTAペプチドを、リフォールディングバッファーに4mg/リットル(最終濃度)まで加える。次いで、30 mg/リットルのb2m、その後、30 mg/リットルの重鎖(最終濃度)を加える。リフォールディングの完了は、4℃にて少なくとも1時間で到達することが可能であった。
【0048】
バッファーを、10容量の10 mM Tris pH 8.1中での透析により交換した。溶液のイオン強度を十分に低減するために、2回のバッファー交換が必要であった。タンパク質溶液を、次いで、1.5μmのセルロースアセテートフィルタを通して濾過し、POROS 50HQアニオン交換カラム(8 mlベッド容量)に載せた。タンパク質を、10 mM Tris pH 8.1中の0〜500 mM NaClの直線勾配で、Akta精製装置(GE Healthcare)を用いて溶出した。およそ250 mM NaClにて溶出されたHLA-A
*02-ペプチド複合体及びピーク画分を回収し、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)を加え、画分を氷上で冷却した。
ビオチン化タグを付加したpHLA分子のバッファーを、10 mM Tris pH 8.1、5 mM NaClに、同じバッファーで平衡化したGE Healthcare fast脱塩カラムを用いて交換した。ちょうど溶出の際に、タンパク質含有画分を氷上で冷却し、プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Calbiochem)を加えた。ビオチン化試薬を、次いで加えた:1mMビオチン、5mM ATP (pH8に緩衝)、7.5 mM MgCl
2及び5μg/ml BirA酵素(O'Callaghanら(1999) Anal. Biochem. 266: 9〜15に従って精製)。混合物を、次いで、室温にて1晩インキュベートした。
【0049】
ビオチン化pHLA-A
*02分子を、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて精製した。GE Healthcare Superdex 75 HR 10/30カラムを、濾過したPBSで予め平衡化し、1mlのビオチン化試薬混合物を載せ、カラムを、PBSで0.5 ml/分にて、Akta精製装置(GE Healthcare)を用いて展開した。ビオチン化pHLA-A
*02分子は、およそ15 mlでの単一ピークとして溶出された。タンパク質を含有する画分をプールし、氷上で冷却し、プロテアーゼ阻害剤のカクテルを加えた。タンパク質濃度を、クーマシー結合アッセイ(PerBio)を用いて決定し、ビオチン化pHLA-A
*02分子の分割量を、-20℃にて凍結貯蔵した。
このような固定化された複合体は、T細胞レセプターとコレセプターCD8ααとの両方と結合でき、これらはともに可溶性相に注入できる。可溶性TCRのpHLA結合特性は、TCRを可溶性又は固定化された相のいずれかで用いるならば、定性的及び定量的に類似しているように観察される。このことは、可溶性種の部分活性の重要な制御であり、ビオチン化pHLA複合体が、非ビオチン化複合体と同様に生物学的に活性であることも示唆する。
【0050】
BIAcore 3000 (商標)表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサは、小さいフローセル内のセンサ表面付近の、応答単位(RU)として表される屈折率の変化を測定し、これは、レセプター-リガンド相互作用を検出し、それらの親和性及び動態パラメータを分析するために用いることができる本質である。BIAcore実験を、25℃の温度にて、運転バッファーとしてPBSバッファー(Sigma、pH 7.1〜7.5)を用い、タンパク質試料の希釈を調製して行った。ストレプトアビジンをフローセルに、標準的なアミンカップリング法により固定化した。pHLA複合体をビオチンタグにより固定化した。次いで、アッセイを、可溶性TCRを一定流速にて異なるフローセルの表面上を通過させ、そのようにしている間のSPR応答を測定することにより行った。
【0051】
平衡結合定数
上記のBIAcore分析法を用いて、平衡結合定数を決定した。参照gp100 TCRのジスルフィド連結可溶性ヘテロダイマー形の系列希釈を調製し、5μl/分の一定流速にて、2つの異なるフローセルに注入した。1つは、約300 RUの特異的YLEPGPVTA HLA-A2複合体(又はバリアントペプチドYLEPGPVTV HLA-A2複合体)で被覆され、次のものは約300 RUの非特異的HLA-A2-WT1 wtペプチド(RMFPNAPYL)複合体で被覆されていた。応答を、各濃度について、対照セルからの測定を用いて標準化した。標準化されたデータ応答を、TCR試料の濃度に対してプロットし、非線形曲線適合モデルに適合させて、平衡結合定数K
Dを算出した(Price及びDwek、Principles and Problems in Physical Chemistry for Biochemists (第2版) 1979、Clarendon Press、Oxford)。参照gp100 TCRのジスルフィド連結可溶化形(実施例2)は、およそ19μMのK
Dを示した。同じBIAcoreデータから、T
1/2は、およそ0.8sであった。
この親和性の決定は、HLA-A
*0201を載せた、gp100 YLEPGPVTA (配列番号1)ペプチドのバリアントペプチド (YLEPGPVTV-配列番号6)を用いても反復した。可溶性ジスルフィド連結参照gp100 TCRは、YLEPGPVTV (配列番号6)-HLA*0201複合体(およそ19μM)について、gp100 YLEPGPVTA (配列番号1)-HLA
*0201複合体について得られたものと同様の親和性(K
D)を有する。
【0052】
動態パラメータ
上記のBIAcore分析法も用いて、平衡結合定数と解離定数とを決定した。
高親和性TCR (以下の実施例4を参照)について、K
Dを、解離速度定数k
off及び会合速度定数k
onを実験的に測定することにより決定した。平衡定数K
Dは、k
off/k
onとして算出した。
TCRを、2つの異なるセル(1つは、約300 RUの特異的YLEPGPVTA HLA-A
*02複合体(又は明記する場合はYLEPGPVTV HLA-A
*02複合体)で被覆され、次のものは、約300 RUの非特異的HLA-A2-ペプチド複合体で被覆された)に注入した。流速は、50μl/分に設定した。典型的には、K
Dの約10倍に等しい濃度の250μlのTCRを注入した。緩衝液を、次いで、応答がベースラインに戻るまで、又は2時間を超えるまでバッファーを流した。動態パラメータを、BIAevaluationソフトウェアを用いて算出した。解離段階を、半減期の算出を可能にする単一指数減衰等式に適合させた。
【0053】
実施例4
天然gp100 TCRの高親和性バリアントの作製
ファージディスプレイは、高親和性変異体を同定するためにgp100 TCRバリアントのライブラリーを作製できる1つの手段である。(Liら、(2005) Nature Biotech 23 (3): 349〜354)に記載されるTCRファージディスプレイ及びスクリーニング法を、実施例2の参照gp100 TCRに用いた。6つ全てのgp100 TCR CDR領域(参照TCRにおいて天然TCRにおけるのと同じである)を、突然変異誘発の標的にし、各CDRライブラリーを別々にピックアップしてスクリーニングした。
参照gp100 TCRのものの少なくとも2倍(よって、天然TCRのものの少なくとも2倍)の親和性及び/又は結合半減期を有するTCRを同定し、これらは、配列番号2に示す番号付けを用いて94S、94T、94R、97M、98M、98Q、98G、98S、98A若しくは102Dの1つ以上のアルファ鎖可変ドメインアミノ酸残基、及び/又は配列番号3に示す番号付けを用いて27I、28F、29Q、30K、31K、50W、51A、51G、52Q、52Y、52T、53G、53F、54N、54H、61T、94L、95Y、95H、95W、95F、95S、95V、96C、97E、97A、98G、100Q若しくは100Pの1つ以上のベータ鎖可変ドメインアミノ酸残基を有した。
【0054】
高親和性TCRのアルファ鎖(配列番号7、8及び9)及びベータ鎖(配列番号10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34及び35)の可変領域のアミノ酸配列の具体例を、それぞれ
図3A〜C及び4A〜Zに示す。これらのアルファ鎖は、CDR3においてのみ変異され、ベータ鎖は、CDR1、CDR2及びCDR3の1つ以上において変異される。
TCRヘテロダイマーを、上記の実施例2の方法を用いてリフォールディングした(定常領域に導入されたシステインを含んで、人工的な鎖間ジスルフィド結合をもたらす)。このようにして、(a) 参照TCR ベータ鎖と配列番号7、8及び9の可変ドメインを含むように変異されたアルファ鎖、(b)参照TCRアルファ鎖と配列番号10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34及び35のベータ鎖可変ドメインを含むように変異された参照TCRベータ鎖、(c)変異可変ドメインを含むベータ及びアルファ鎖の種々の組み合わせからなるTCRを調製した。
【0055】
これらの高親和性可溶性ジスルフィド連結gp100 TCRと、天然ペプチド YLEPGPVTA HLA-A
*02複合体との間の相互作用を、上記のBIAcore法を用いて分析し、結合データを表1に示す。表1Aは、バリアントペプチドYLEPGPVTV HLA-A
*02複合体に対して試験した場合のこれらの高親和性TCRについての結合データを示す。
これらの高親和性可溶性ジスルフィド連結gp100 TCRとYLEPGPVTV HLA-A
*02複合体との間の相互作用を、上記のBIAcore法を用いて分析し、結合データを表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表1A】
【0058】
上記の表1及び表1Aは、天然gp100 YLEPGPVTAペプチド HLA-A
*02複合体又はバリアントgp100 YLEPGPVTVペプチドHLA-A
*02複合体のいずれかに対して試験したそれぞれの高親和性TCRについて、実験誤差の範囲内で、非常に類似した動態パラメータが得られたことを示す。この観察の後に、いくつかの高親和性TCRを、バリアントYLEPGPVTVペプチドHLA-A
*02複合体(表2を参照)に対してのみ試験した。これらのTCRは、天然ペプチドHLA-A
*02複合体について非常に類似した動態パラメータを示すことが予測される。
【0059】
【表2】
【0060】
注:上記の表において、配列番号8の可変ドメインを有するTCRは、変動可能なアミノ酸XをSとして有した。しかし、変動可能なアミノ酸XがAであるバリアントは、本質的に類似であるT
1/2及びK
Dを有した。
【0061】
実施例5
高親和性gp100 TCRを用いるインビトロ細胞染色
以下のアッセイを行って、配列番号8(X=S)のVαと配列番号27のVβとを有する実施例4の可溶性高親和性gp100 TCRが、バリアントYLEPGPVTV (配列番号6)ペプチドでパルスしたT2細胞を染色できることを証明した。
この実施例の目的のために、ビオチンタグを、配列番号27のVβを有するgp100ベータ鎖の定常ドメインのC末端に融合し、遺伝子全体(Vβ+Cβ+ビオチンタグ)をpGMT7に基づく発現プラスミドに挿入した。TCRベータ鎖-ビオチンタグを、実施例2に記載した方法を用いて発現させた。αβTCR-ビオチンタグを、実施例2に記載した方法を用いてリフォールディングさせた。リフォールディングされたTCRを、実施例2に記載した方法を用いて第1アニオン交換ステップにおいて精製した。次いで、TCRを、実施例3に記載した方法を用いてビオチン化した。最後に、ビオチン化TCRを、実施例2に記載したようにして、GE Healthcare Superdex 75HRゲル濾過カラムを用いて精製した。
【0062】
試薬
R10アッセイ媒体:10% FCS (熱不活化、Gibco、cat# 10108-165)、88% RPMI 1640 (Gibco、cat# 42401-018)、1%グルタミン(Gibco、cat# 25030-024)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、cat# 15070-063)。
FACSバッファー:PBS/0.5% BSA (Promega、cat# W3841)。2mM EDTA
顕微鏡観察バッファー:PBS/0.5% BSA (Promega、cat# W3841)、400μM CaPO
4、400μM MgPO
4
【0063】
フローサイトメトリーの方法
T2リンパ芽球様細胞を、バリアントgp100ペプチド(YLEPGPVTV (配列番号6))又は無関係のペプチド(ELAGIGILTV (配列番号43))で、さまざまな濃度(10
-7〜10
-9 M)にて少なくとも90分間、37℃/5% CO
2にてR10培地中でパルスした。
パルスの後に、細胞をFACSバッファー中で3回洗浄し、1×10
6細胞を、高親和性ビオチン化gp100 TCR (5μg/ml)と30分間室温にてインキュベートし、FACSバッファーで2回洗浄し、ストレプトアビジン-PE (5μg/ml: BD biosciences、cat# 349023)と20分間室温にてインキュベートした。FACSバッファーで洗浄した後に、結合した高親和性gp100 TCRを、フローサイトメトリーにより、Beckman Coulter FC500フローサイトメーターを用いて定量した。gp100 TCRを省略したか、又は無関係のTCRを加えた、ペプチドでパルスしたT2細胞を用いる対照を含めた。
【0064】
結果
10
-9 M〜10
-7 Mの間のYLEPGPVTV (配列番号6)バリアントgp100ペプチドでパルスしたT2細胞は、可溶性高親和性gp100 TCRにより染色されることが、うまく証明された。試験に対する対照のペプチドでパルスしたT2細胞の染色を示すサイトメトリーヒストグラムについての
図5Aを参照されたい(塗りつぶした曲線が「TCRなし」対照である)。
【0065】
顕微鏡観察の方法
バリアントペプチドYLEPGPVTV (配列番号6)でパルスしたT2細胞の染色を、蛍光顕微鏡観察により、高親和性ビオチン化gp100 TCRを用いて視覚化した。T2細胞のパルス及び染色を、上記の「フローサイトメトリー」に記載されるようにして行った。染色及び洗浄の後に、3×10
4細胞をR10 (フェノールレッドを含まない)中でもう一度洗浄し、最終的に、400μlのR10 (フェノールレッドを含まない)に再懸濁し、包囲したガラスカバースライド(Nunc、Lab-tek、cat# 155411)に移して、3次元蛍光顕微鏡観察の前に定着させた。
蛍光顕微鏡観察を、63倍の油対物レンズ(Zeiss)を備えるAxiovert 200M (Zeiss)顕微鏡を用いて行った。300Wキセノンアークランプ(Sutter)を有するラムダLS光源を照明のために用い、光強度を最適レベルまで、0.3及び0.6の減光フィルタを光路に配置することにより低減した。励起及び発光スペクトルを、TRITC/DiIフィルタセット(Chroma)を用いて分離した。細胞を、3次元で、z−スタック取得(21平面、1μm間隔)により画像にした。画像取得及び分析は、Metamorphソフトウェア(Universal Imaging)と用いて、記載されるようにして行った(Irvineら、(2002) Nature 419 (6909): 845〜9及びPurbhooら、Nature Immunology 5 (5): 524〜30)。
【0066】
結果
図5Bは、高親和性ビオチン化gp100 TCRが、YLEPGPVTV (配列番号6)ペプチドでパルスされたT2細胞とうまく結合したことを示す。
実施例6
可溶性抗CD3 scFv-gp100 TCR融合体の発現、リフォールディング及び精製
配列番号36 (
図6)は、リンカー、すなわち配列番号48のGGGGS (下線)を介してgp100 TCRβ鎖のN末端にて融合されたが、タンパク質合成の効率的な開始のための導入された先頭のメチオニンを有さない抗CD3 scFv抗体断片(太字タイプ)のアミノ酸配列である。gp100 TCRβ鎖は、配列番号27の可変ドメインを含有する。
本実施例におけるTCR融合体のgp100 TCRα鎖は、X = Sである配列番号8の可変ドメイン(
図3B)を含有する。
上記の構築物は、次のようにして調製した。
【0067】
ライゲーション
(a)TCR Vα鎖及び(b)配列番号36の融合配列(1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIである)をコードする合成遺伝子を、pGMT7 + Cα(ジスルフィド結合の形成を可能にするシステインが導入されている)ベクター及びpGMT7に基づく発現プラスミドにそれぞれ別々にライゲーションし、これらは、大腸菌Rosetta (DE3)pLysS株における高い発現レベルのためのT7プロモーターを含有した(Panら、Biotechniques (2000) 29 (6): 1234〜8)。先頭のメチオニンを、TCRアルファ鎖可変ドメインのN末端及び配列番号36の融合配列のN末端に導入して、細菌におけるタンパク質合成の効率的な開始を可能にしたことに注意されたい。
【0068】
発現
発現プラスミドで、大腸菌Rosetta (DE3)pLysS株を別々に形質転換し、単一のアンピシリン耐性コロニーを、37℃にてTYP (アンピシリン100μg/ml)培地中で約0.6〜0.8のOD
600まで成長させた後に、タンパク質発現を、0.5 mM IPTGを用いて誘導した。細胞を、誘導の3時間後に、30分間、4000 rpmにてBeckman J-6B中での遠心分離により採集した。細胞ペレットを、25 ml Bug Buster (NovaGen)を用いてMgCl
2及びDNアーゼの存在下で溶解した。封入体ペレットを、30分間、4,000 rpmでの遠心分離により回収した。3回の洗剤での洗浄を次いで行って、細胞破片及び膜成分を除去した。各回に、封入体ペレットを、Tritonバッファー(50 mM Tris-HCI pH8.0、0.5% Triton-X100、200 mM NaCl、10 mM NaEDTA)中でホモジナイズした後に、15分間、13000 rpmにてBeckman J2-21中での遠心分離によりペレットにした。洗剤及び塩を、次いで、以下のバッファー中での同様の洗浄により除去した:50 mM Tris-HCl pH 8.0、1 mM NaEDTA。最後に、封入体を30 mgの分割量に分け、-70℃にて凍結した。
リフォールディング
およそ20 mgのTCRα鎖及び40 mgのscFv-TCRβ鎖可溶化封入体を、凍結ストックから融解し、20 mlのグアニジン溶液(6Mグアニジン塩酸塩、50 mM Tris HCl pH8.1、100 mM NaCl、10 mM EDTA、20 mM DTT)に希釈して、37℃の水浴で30分〜1時間インキュベートして、鎖の完全な変性を確実にした。完全に還元され、変性されたTCR鎖を含有するグアニジン溶液を、次いで、1リットルの以下のリフォールディングバッファーに注入した:100 mM Tris pH 8.1、400 mM L-アルギニン、2 mM EDTA、5M尿素。レドックス対(システアミン塩酸塩とシスタミン二塩酸塩(それぞれ10 mM及び1 mMの最終濃度まで))を加えたおよそ5分後に、変性したTCRα及びscFv-TCRβ鎖を加えた。溶液を約30分間放置した。リフォールディングされたscFv-TCRを、透析チューブセルロース膜(Sigma-Aldrich; 製品番号D9402)中で10LのH
2Oに対して18〜20時間透析した。この時間の後に、透析バッファーを2回、新鮮な10 mM Tris pH 8.1 (10L)に交換し、透析を5℃±3℃にてさらに約8時間継続した。可溶性の正しく折り畳まれたscFv-TCRを、分解生成物及び不純物から、以下に記載される3ステップ精製法により分離した。
【0069】
第1精製ステップ
透析したリフォールディングされた物質をPOROS 50HQアニオン交換カラムに載せ、結合したタンパク質を、0〜500 mM NaClの勾配を6カラム容量にわたって用いて、Akta精製装置(GE Healthcare)を用いて溶出した。ピーク画分(約20mS/cmの電気伝導度で溶出される)を4℃にて貯蔵した。ピーク画分を、Instant Blue Stain (Novexin)で染色するSDS-PAGEにより分析した後にプールした。
【0070】
第2精製ステップ
カチオン交換精製
アニオン交換でプールした画分を、scFv-TCR融合体のpIに応じて、20 mM MES pH6〜6.5で希釈することによりバッファー交換した。可溶性で正しく折り畳まれたscFv-TCRを、誤って折り畳まれた分解生成物及び不純物から、希釈したプールした画分(20 mM MES pH6〜6.5中)を、POROS 50HSカチオン交換カラムに載せ、結合したタンパク質を、0〜500 mM NaClの勾配を6カラム容量にわたって用いて、Akta精製装置(GE Healthcare)を用いて溶出することにより分離した。ピーク画分(約10 mS/cmの電気伝導度で溶出される)を4℃にて貯蔵した。
【0071】
最終精製ステップ
第2精製ステップからのピーク画分を、Instant Blue Stain (Novexin)で染色するSDS-PAGEにより分析した後にプールした。プールした画分を、次いで、最終精製ステップのために濃縮し、ここでは、可溶性scFv-TCRを精製し、PBSバッファー(Sigma)で予め平衡化したSuperdex S200ゲル濾過カラム(GE Healthcare)を用いて特徴決定した。およそ78 kDaの適切な分子量で溶出されるピークを、Instant Blue Stain (Novexin)で染色するSDS-PAGEにより分析した後にプールした。
上記の実施例6により調製された構築物を、配列番号48のリンカー配列GGGGSを、代替リンカー配列、例えば配列番号49のGGGSG、配列番号50のGGSGG、配列番号51のGSGGG、及び配列番号47のGGEGGGSEGGGSから選択される配列で置換することにより、かつ/又は配列番号36のアミノ酸D1をAで置換することにより、かつ/又は配列番号36のI2をQで置換することにより、かつ/又は配列番号8のS1をA若しくはGで置換することにより変動させ得る。別の変動において、配列番号36のベータ可変ドメイン配列形成部分を、配列番号27から配列番号13、17、23又は26に変更し得る。
【0072】
実施例7
非放射活性細胞傷害性アッセイ
このアッセイは、
51Cr放出細胞傷害性アッセイの比色による代替であり、細胞溶解の際に放出される酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)を定量的に測定する。培養上清中に放出されるLDHを、30分結合酵素アッセイを用いて測定し、これは、テトラゾリウム塩(INT)を、赤色のフォルマザン生成物に変換させる。形成された色の量は、溶解された細胞の数に比例する。吸光度のデータは、標準的な96ウェルプレートリーダーを用いて490nmにて回収される。
【0073】
材料
- CytoTox96 (登録商標)非放射活性細胞傷害性アッセイ(Promega) (G1780)は、基質ミックス、アッセイバッファー、溶解溶液及び停止溶液を含有する。
- アッセイ媒体:10% FCS (熱不活化、Gibco、cat# 10108-165)、フェノールレッド非含有88% RPMI 1640 (Invitrogen、cat# 32404014)、1%グルタミン、200 mM (Invitrogen、cat# 25030024)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen cat# 15070063)
- Nuncマイクロウェル丸底96ウェル組織培養プレート(Nunc、cat# 163320)
- Nunc-ImmunoプレートMaxisorb (Nunc、cat# 442404)
【0074】
方法
標的細胞の調製
本アッセイにおいて用いた標的細胞は、腫瘍株化細胞Mel526 (メラノーマ株化細胞HLA-A2
+ gp100
+)及びA375 (メラノーマ株化細胞HLA-A2
+ gp100
-)からであった。標的細胞を、アッセイ媒体中で調製した。標的細胞濃度は、2×10
5細胞/mlに調整して、1×10
4細胞/50μl-ウェルとした。
【0075】
エフェクター細胞の調製
本アッセイにおいて用いたエフェクター細胞は、PBMC (末梢血単核細胞)であった。エフェクター対標的の比率は、50:1(5×10
5細胞/50μl-ウェルを与える1×10
7細胞/ml)。
【0076】
試薬/試験化合物の調製
種々の濃度の抗CD3 scFv-gp100 TCR融合体(30 nM〜0.03 pM)を、アッセイ媒体中への希釈により調製した。抗CD3 scFv-gp100 TCR融合体を、実施例6に従って調製した。
【0077】
アッセイの準備
アッセイの構成要素を、以下の順序でプレートに加えた。
- 50μlの標的細胞(上記のようにして調製した)を各ウェルへ
- 50μlのエフェクター細胞(上記のようにして調製した)を各ウェルへ
- 50μlの試薬(上記のようにして調製した)を各ウェルへ。
いくつかの対照を、以下のようにして調製した。
- エフェクター自発放出:50μlのエフェクター細胞のみ。
- 標的細胞自発放出:50μlの標的細胞のみ。
- 標的最大放出:50μlの標的細胞のみ。
- アッセイ媒体対照:150μlの媒体のみ。
- 溶解溶液についてのアッセイ媒体容量対照: 150μlの媒体のみ。
全てのウェルを、3重で、150μlの最終容量で調製した。
【0078】
プレートを250×gで4分間遠心分離し、次いで、37℃にて24時間インキュベートした。上清採集の45分前に、15μlの溶解溶液を、標的細胞最大放出及びアッセイ媒体容量対照のウェルに加えた。
プレートを、250×gで4分間遠心分離した。アッセイプレートの各ウェルからの50μlの上清を、平底96ウェルNunc Maxisorbプレートの対応するウェルに移した。基質ミックスを、アッセイバッファー(12 ml)を用いて再構成した。50μlの再構成された基質ミックスを、次いで、プレートの各ウェルに加えた。プレートを、アルミホイルで覆い、室温にて30分間インキュベートした。50μlの停止溶液をプレートの各ウェルに加えて、反応を停止した。490nmでの吸光度を、ELISAプレートリーダー上で、停止溶液の添加の1時間後に記録した。
【0079】
結果の計算
培養培地バックグラウンドの吸光度の値の平均を、実験、標的細胞自発放出及びエフェクター細胞自発放出の全ての吸光度の値から差し引いた。
容量補正対照の吸光度の値の平均を、標的細胞最大放出対照について得られた吸光度の値から差し引いた。
最初の2つのステップで得られた補正された値を、以下の式に用いて、パーセント細胞傷害性を計算した。
%細胞傷害性= 100×(実験−エフェクター自発−標的自発) / (標的最大−標的自発)
【0080】
結果
図7のグラフは、gp100提示細胞(Mel526細胞)と特異的に結合する抗CD3 scFv-gp100高親和性TCR (実施例6に記載されるようにして調製)により再指向されたT細胞によるメラノーマ細胞の特異的死滅を示す。
【0081】
実施例8
天然gp100 TCRの高親和性バリアントでのT細胞の形質移入
(a) 293T細胞のExpress-In媒介一過性形質移入によるレンチウイルスベクターの調製
第3世代のレンチウイルスパッケージング系を用いて、所望のTCRをコードする遺伝子を含有するレンチウイルスベクターをパッケージングする。293T細胞に、4つのプラスミド(実施例8cに記載するTCRアルファ鎖-P2A-TCRベータ鎖単一ORF遺伝子を含有する1つのレンチウイルスベクターと、感染性であるが非複製性のレンチウイルス粒子の構築のために必要なその他の成分を含有する3つのプラスミド)を、Express-In-媒介形質移入(Open Biosystems)を用いて形質移入する。
形質移入のために、プレート上に均質に分布し、50%集密よりもわずかに高い細胞を含む、1つのT150フラスコの指数関数的成長期にある293T細胞を採用する。Express-In分割量を室温にする。3mlの血清フリー培地(RPMI 1640 + 10 mM HEPES)を、滅菌15 mlコニカルチューブに入れる。174μlのExpress-In試薬を、血清フリー培地に直接加える(このことにより、試薬の、DNAに対する3.6:1の重量比率が得られる)。チューブを3〜4回逆さまにすることにより十分に混合し、室温にて5〜20分間インキュベートする。
【0082】
別の1.5 mlマイクロチューブ中で、15μgのプラスミドDNAを、通常、約22μlのあらかじめ混合したパッケージングミックス分割量(18μg pRSV.REV (Rev発現プラスミド)、18μg pMDLg/p.RRE (Gag/Pol発現プラスミド)、7μgのpVSV-G (VSV糖タンパク質発現プラスミド)に加え、ピペットで上下させて、確実にDNAミックスが均質になるようにした。およそ1mlのExpress-In/血清フリー培地をDNAミックスに滴下し、次いで、ピペットで穏やかに上下させた後に、Express-In/血清フリー培地の残りに戻した。チューブを3〜4回逆さまにし、室温にて15〜30分間インキュベートする。
【0083】
古い培養培地を、細胞のフラスコから除去する。Express-In/培地/DNA (3ml)複合物をフラスコに、293T細胞の縦型フラスコの底に直接加える。フラスコをゆっくりと平らにして細胞を覆い、フラスコを非常に穏やかに揺り動かして、均一な分布を確実にする。1分後に、22 mlの新鮮な培地(R10+HEPES: RPMI 1640、10%熱不活化FBS、1% Pen/Strep/L-グルタミン、10 mM HEPES)を加え、注意してインキュベーターに戻す。37℃/5% CO
2にて1晩インキュベートする。24時間後に、パッケージングされたレンチウイルスベクターを含有する培地の採集に進む。
パッケージングされたレンチウイルスベクターを採集するために、細胞培養上清を、0.45ミクロンのナイロンシリンジフィルタを通して濾過し、培養培地を10,000 gにて18時間(又は112,000 gで2時間)遠心分離し、上清のほとんど(ペレットを乱さないように注意する)を除去し、ペレットを、残った数mlの上清に再懸濁する(通常、チューブあたり31 mlの開始容量から約2ml)。1mlの分割量でドライアイス上で急速凍結させ、-80℃にて貯蔵する。
【0084】
(b) 興味対象の遺伝子を含有する、パッケージングされたレンチウイルスベクターでのT細胞の形質導入
パッケージングされたレンチウイルスベクターでの形質導入の前に、ヒトT細胞(要求に応じてCD8若しくはCD4又はその両方)を、健常ボランティアの血液から単離する。これらの細胞を計数し、50 U/ml IL-2含有R
10中で、1mlあたり1×10
6細胞(0.5 ml/ウェル)にて48ウェルプレート中で、あらかじめ洗浄した抗CD3/CD28抗体被覆マイクロビーズ(Dynal T細胞エキスパンダー、Invitrogen)とともに、細胞あたり3ビーズの比率で1晩インキュベートする。
1晩の刺激の後に、0.5 mlのそのままのパッケージングされたレンチウイルスベクターを所望の細胞に加える。37℃/5% CO
2にて3日間インキュベートする。形質導入の3日後に細胞を計数し、0.5×10
6細胞/mlに希釈する。必要により、IL-2を含有する新鮮な培地を加える。形質導入の5〜7日後にビーズを除去する。細胞を計数し、IL-2を含有する新鮮な培地を、2日間隔で、置き換えるか又は加える。細胞を0.5×10
6と1×10
6細胞/mlの間に保つ。細胞は、第3日からフローサイトメトリーにより分析でき、第5日から機能的アッセイ(例えばIFNγ放出についてのELISPOT)のために用いることができる。第10日から、又は細胞の分割が遅くなり、サイズが減少してから、少なくとも4×10
6細胞/バイアル(90% FBS/10% DMSO中で1×10
7細胞/ml)の分割量にて貯蔵のために細胞を凍結させる。
【0085】
(c) 上記の方法(a)及び(b)によるT細胞形質移入のための野生型(wt)TCR遺伝子
図8Aは、天然gp100 TCR (最大ヒト細胞発現のために最適化されたコドン)をコードするDNA配列(配列番号37)である。これは、全長アルファ鎖(TRAV17)-ブタテッショウウイルス-1 2A-全長ベータ鎖(TRBV19)単一オープンリーディングフレーム構築物である。2A配列に下線を付し、2A配列のタンパク質分解による除去を支援するためのフューリン切断部位をコードするヌクレオチドが先行する(
図8Bと関連して、以下でさらに論じる(配列番号38))。2A配列の3'末端にてmRNAのタンパク質翻訳中にスキップするペプチド結合は、2つのタンパク質を生成する:1)アルファ TCR鎖-2A融合体。2) ベータTCR鎖。配列番号37 (
図8A)は、NheI及びSalIの制限部位(下線)を含む。
【0086】
図8Bは、
図8Aに対応するアミノ酸配列(配列番号38)である。
図8Bにおいて:
M1-N20は、野生型アルファ鎖TCRの成熟の際に除去されるリーダー配列である;
S21-S223は、配列番号2の野生型アルファ鎖配列に相当する;
S21-R250は、野生型アルファ鎖細胞外ドメインに相当する;
I251-L267は、成熟TCRのアルファ鎖膜貫通領域である;
W268-S270は、成熟TCRのアルファ鎖細胞内領域である;
R273-R276は、P2A配列A281-P299を、ゴルジ装置においてタンパク質分解により除去することを支援するための、フューリン切断部位である;
G271、S272、S277〜G280、R300は、フューリン切断及びP2A配列の完全な機能を可能にするフレキシブルリンカーである;
M301-V319は、野生型ベータ鎖TCRの成熟の際に除去されるリーダー配列である;
D320-D561は、配列番号3の野生型ベータ鎖配列に相当する;
D320-E581は、野生型ベータ鎖細胞外ドメインに相当する;
I582-V603は、成熟TCRのベータ鎖膜貫通領域である;
K604-G610は、成熟TCRのベータ鎖細胞内領域である。
【0087】
(d) 野生型および高親和性gp100 TCRで形質移入されたT細胞
上記の(a)及び(b)に記載した手順の後に、gp100アルファwt-2A-ベータwt TCR遺伝子(配列番号37 (
図8A))を、pELNSxvレンチベクターに、両方のDNA構築物にユニークなNheI及びSalI制限部位を用いて挿入し、形質移入されたT細胞を創出した。
同様にして、T細胞を、(a)配列番号2の野生型アルファ鎖の可変ドメイン配列(S1〜A109)が、配列番号10〜35の1つを有するベータ鎖可変ドメインと会合したTCR、又は(b)配列番号7〜9の1つを有するアルファ鎖可変ドメインが配列番号3の野生型ベータ鎖の可変ドメイン配列(D1〜T112)と会合したTCR、又は(c) 配列番号7〜9の1つを有するアルファ鎖可変ドメインが配列番号10〜35の1つを有するベータ鎖可変ドメインと会合したTCRをコードすること以外は、配列番号37 (
図8A)と同一の遺伝子で形質移入することにより創出できる。
【0088】
実施例9
野生型-親和性TCRを形質導入したT細胞と比較した、腫瘍株化細胞に応答する、gp100改善親和性TCRを形質導入したT細胞の活性化の増加。
ELISPOTプロトコール
以下のアッセイを行って、腫瘍株化細胞に応答するTCR形質導入細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性化を証明した。ELISPOTアッセイを用いて測定されるIFN-γ生成を、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)活性化の読み出しとして用いた。
【0089】
試薬
アッセイ媒体:10% FCS (Gibco、Cat# 2011-09)、88% RPMI 1640 (Gibco、Cat# 42401)、1%グルタミン(Gibco Cat# 25030)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco Cat# 15070-063)。
洗浄バッファー:0.01 M PBS/0.05% Tween 20
PBS (Gibco Cat# 10010)
ヒトIFNγELISPOT PVDF-酵素キット (Diaclone、France; Cat# 856.051.020)は、必要なその他の全ての試薬を含有する(捕捉及び検出抗体、脱脂粉乳、BSA、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ及びBCIP/NBT溶液、並びにヒトIFN-γ PVDF ELISPOT 96ウェルプレート)。
【0090】
方法
標的細胞の調製
この方法において用いた標的細胞は、天然エピトープ提示細胞であった。Mel526メラノーマ、Mel624メラノーマ、MeWo及びSKMel5、これらは全てHLA-A2
+ gp100
+である。A375メラノーマ(HLA-A2
+ gp100
-)を、陰性対照株化細胞として用いた。HLA-A2
+ヒト初代肝細胞(ロットHEP2、ScienCellから入手)は、gp100
-と決定され(gp100 mRNA発現がRT-PCRにより検出されなかった)、陰性対照として用いた。十分な標的細胞(50,000細胞/ウェル)を、遠心分離により3回、1200 rpmにて10分間、Megafuge 1.0 (Heraeus)中で洗浄した。細胞を、次いで、アッセイ媒体中に10
6細胞/mlにて再懸濁した。
【0091】
エフェクター細胞の調製
この方法において用いたエフェクター細胞(T細胞)は、CD4+とCD8+ T細胞との1:1混合物であった(PBLからのネガティブ選択により得られた(CD4及びCD8ネガティブ単離キット、Dynalを用いる))。細胞を、抗CD3/CD28被覆ビーズ(T細胞エキスパンダー、Invitrogen)で刺激し、興味対象の完全αβTCR(実施例8に記載され、
図8Bに示す構築物に基づく)をコードする遺伝子を有するレンチウイルスで形質導入し、形質導入の10〜13日後まで、50U/ml IL-2を含有するアッセイ媒体で増殖させる。これらの細胞を、次いで、アッセイ媒体中に入れた後に、1200 rpm、10分間、Megafuge 1.0 (Heraeus)での遠心分離により洗浄した。細胞を、次いで、アッセイ媒体中に、最終的に必要とされる濃度の4倍で再懸濁した。
【0092】
ELISPOT
プレートを、以下のようにして調製した:100μlの抗IFN-γ捕捉抗体を、プレートあたり10 ml滅菌PBSで希釈した。100μlの希釈された捕捉抗体を、次いで、各ウェルに分割した。プレートを、次いで、4℃にて1晩インキュベートした。インキュベーションの後に、プレートを洗浄し(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置; Dynex)、捕捉抗体を除去した。プレートを、次いで、100μlの滅菌PBS中の2% 脱脂乳を各ウェルに加えて、プレートを室温にて2時間インキュベーションすることによりブロックした。脱脂乳を、次いで、プレートから洗浄し(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、いずれの残りの洗浄バッファーを、ELISPOTプレートをペーパータオル上ではたいてたたくことにより除去した。
【0093】
アッセイの構築物を、次いで、以下の順序でELISPOTプレートに加えた。
50μlの標的細胞10
6細胞/ml (合計で50,000標的細胞/ウェルを与える)。
50μlの可溶性高親和性gp100 TCR (300nMの最終濃度を与えるように1.2μMにて)を、TCRを形質導入したT細胞のgp100特異的活性化を遮断するために加えることができる。
ウェルあたり200ulの最終容量を与えるのに十分な媒体(アッセイ媒体)。
50μlのエフェクター細胞(5,000の混合CD4/8
+細胞/ウェル)。
プレートを、次いで、1晩インキュベートした(37℃/5% CO
2)。次の日に、プレートを3回(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、洗浄バッファーで洗浄し、ペーパータオル上でたたいて、過剰な洗浄バッファーを除去した。100μlの1次検出抗体を、次いで、各ウェルに加えた。1次検出抗体を、550μlの蒸留水をDiacloneキットとともに供給される検出抗体のバイアルに加えることにより調製した。100μlのこの溶液を、次いで、10 ml PBS/1% BSAで希釈した(単一のプレートに要求される容量)。プレートを、次いで、室温にて少なくとも2時間インキュベートした後に、3回(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、洗浄バッファーで洗浄し、過剰の洗浄バッファーを、ペーパータオル上でプレートをたたくことにより除去した。
【0094】
2次検出を、100μlの希釈ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼを各ウェルに加え、プレートを室温にて1時間インキュベートすることにより行った。ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼは、10μlのストレプトアビジン-アルカリホスファターゼを10 ml PBS/1% BSAに加えることにより調製した(単一のプレートに要求される容量)。プレートを、次いで、3回(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、洗浄バッファーを用いて洗浄し、ペーパータオル上でたたいて過剰の洗浄バッファーを除去した。Diacloneキットとともに供給される100μlのBCIP/NBT溶液を、次いで、各ウェルに加えた。現像中に、プレートをホイルで覆い、5〜15分間放置した。現像しているプレートを、この期間中にスポットについて定期的に調べて、反応を停止するのに最適な期間を決定した。プレートを、シンク満杯の水道水で洗浄して、現像反応を停止し、振って乾燥させた後に、プレートを3つの構成部分に分解した。プレートを、次いで、50℃にて1時間乾燥させた後に、メンブレン上に形成されたスポットをImmunospotプレートリーダー(CTL; Cellular Technology Limited)を用いて計数した。
【0095】
結果
種々のgp100-陽性及び対照株化細胞又は対照肝細胞に応答する、活性化されたTCR形質導入T細胞によるIFNγの放出を、ELISPOTアッセイ(上記のようにして)により試験した。各ウェルにおいて観察されたELISPOTスポットの数を、Prism (Graph Pad)を用いてプロットした。
実施例8に記載され
図8Bに示す構築物に基づくが、以下の表に記載されるTCRアルファ鎖及びベータ鎖可変ドメインを有する、a) TCR番号1(配列番号38のアミノ酸配列)、b) TCR番号2又はc) TCR番号3を発現する混合CD4
+/CD8
+T細胞を、gp100
+ HLA-A2
+腫瘍株化細胞Mel526、Mel624、SKMel5若しくはMeWo、又はgp100-HLA-A2
+ A375若しくはHEP2とインキュベートした。gp100特異的遮断は、配列番号8のVαと配列番号27のVβとを有する300nMの実施例4のgp100 TCR (実施例2に記載するようにして調製)を加えることにより行った。
【0096】
【表3】
【0097】
図9aは、TCR番号1を形質導入したT細胞が、Mel526、Mel624及びSKMel5メラノーマ株化細胞のみに応答してIFNγを放出し、これは、配列番号8のVαと配列番号27のVβとを有する300nMの実施例4のgp100 TCRにより効率的に遮断されたことを示す。
改善された親和性のgp100 TCR番号2を形質導入したT細胞は、これらの腫瘍株化細胞に対するより大きい応答を示し、これは、配列番号8のVαと配列番号27のVβとを有する300nMの実施例4のgp100 TCR により効率的に遮断された。
図9bは、TCR番号1を形質導入したT細胞が、Mel526細胞に応答してIFNγを放出し、これは、300nMのgp100 TCRにより効率的に遮断されたことを示す。IFNγ放出は、MeWo細胞に対して非常に乏しかった。
TCR番号2を形質導入したT細胞及びTCR番号3を形質導入したT細胞は、Mel526及びMeWo細胞の両方に対してより大きい応答を示し、これは、300nMのgp100 TCRにより効率的に遮断された。
【0098】
実施例10
さまざまなTCR親和性を有するいくつかのgp100 TCR-抗CD3融合体の効力の評価
ELISPOTプロトコール
以下のアッセイを行って、種々のgp100 TCR-抗CD3融合タンパク質が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を、gp100ペプチド-HLA-A2複合体を提示する腫瘍株化細胞に応答して活性化する効力を比較した。ELISPOTアッセイを用いて測定されるIFN-γ生成を、T細胞活性化の読み出しとして用いた。ELISPOTアッセイは、前の実施例9に記載される。
【0099】
試薬
アッセイ媒体、洗浄バッファー、PBS及びヒトIFNγELISPOT PVDF-酵素キットは、実施例9に記載した通りに用いた。
【0100】
方法
標的細胞の調製
この方法において用いた標的細胞は、HLA-A2
+ gp100
+である天然エピトープ提示細胞Mel526メラノーマ細胞であった。十分な標的細胞(50,000細胞/ウェル)を、1200 rpmにて10分間、Megafuge 1.0 (Heraeus)中で1回の遠心分離により洗浄した。細胞を、次いで、アッセイ媒体中に、10
6細胞/mlにて再懸濁した。
【0101】
エフェクター細胞の調製
この方法において用いたエフェクター細胞(T細胞)は、CD8+T細胞であった(PBLからのネガティブ選択により得られた(CD8ネガティブ単離キット、Dynal、Cat# 113.19を用いる))。エフェクター細胞を解凍し、アッセイ媒体中に入れた後に、1200 rpmにて10分間、Megafuge 1.0 (Heraeus)中での遠心分離により洗浄した。細胞を、次いで、アッセイ媒体中に、最終的に必要とされる濃度の4倍で再懸濁した。
【0102】
試薬/試験化合物の調製
種々の濃度の各gp100 TCR-scFv (10 nM〜0.1 pM)を、アッセイ媒体中で4×最終濃度を得るように希釈することにより調製した。試験したgp100 TCR-scFv融合体は、結果の部分で同定し、実施例6に記載するようにして調製した。
【0103】
ELISPOT
プレートを、実施例9に記載するようにして調製した。
アッセイの構成要素を、以下の順序でELISPOTプレートに加えた。
50μlの標的細胞10
6細胞/ml (合計で50,000標的細胞/ウェルを与える)
50μlの試薬(TCR-抗CD3融合体;種々の濃度)
50μlの媒体(アッセイ媒体)
50μlのエフェクター細胞(5,000 CD8+細胞/ウェル)。
プレートを、次いで、1晩インキュベートした(37℃/5%CO
2)。プレートの洗浄、1次抗体の調製及び1次抗体の検出は、実施例9に記載するようにして行った。
2次検出及び現像を、実施例9に記載するようにして行った。プレートを、次いで、50℃にて1時間乾燥させた後に、メンブレン上に形成されたスポットをImmunospotプレートリーダー(CTL; Cellular Technology Limited)を用いて計数した。
【0104】
結果
本実施例で試験したgp100 TCR-抗CD3 scFv融合体は、配列番号2(アミノ酸1〜109)の可変ドメイン(アミノ酸1〜109)を有する配列番号45のgp100 TCRアルファ鎖配列、又は配列番号8(X = S)の可変ドメイン(アミノ酸1〜109)を有するgp100 TCRアルファ鎖配列と、配列番号36のgp100 TCRベータ鎖-抗CD3 scFv (1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、108〜131のアミノ酸残基が、バリアントリンカー、すなわちRTSGPGDGGKGGPGKGPGGEGTKGTGPGG (配列番号44)で置き換えられ、254〜258のアミノ酸残基が、バリアントリンカー、すなわちGGEGGGSEGGGS (配列番号47)で置き換えられ、配列番号27のベータ鎖可変ドメインを有する(これは、以下の表に示すように、配列番号3(配列番号3のD1〜T112)の可変ドメイン、又は配列番号13の可変ドメイン、又は配列番号17の可変ドメイン、又は配列番号23の可変ドメイン、又は配列番号26の可変ドメインに変更できる))とを含む。TCR-抗CD3融合体は、実施例6に記載するようにして調製した。
【0105】
各ウェルにおいて観察されたELISPOTスポットの数を、融合構築物の濃度に対して、Prism (Graph Pad)を用いてプロットした(
図10を参照)。これらの用量応答曲線から、EC50の値を決定した(EC50は、最大応答の50%を誘導するTCR-抗CD3融合体の濃度にて決定される)。
図10におけるグラフは、gp100提示細胞と特異的に結合するgp100 TCR-抗CD3融合体による、CD8
+T細胞の特異的活性化を示す。
以下の表は、各gp100 TCR-抗CD3融合体のEC
50と、WT TCR (TCR番号1)と比較したTCR/ペプチド-HLA親和性の改善とを示す。
【0106】
【表4】
【0107】
全体として、この実験は、より高い親和性のTCR部分を有するTCR-抗CD3融合体が、CD8
+T細胞のより良好な活性化をもたらすことを示す。これらの結果は、gp100ペプチド-HLA-A2複合体についてのTCRの親和性と、TCR-抗CD3融合体がCD8
+T細胞を活性化する効力との間の相関関係を証明する。TCR番号7-抗CD3融合体は、その他の試験した他のTCR融合体と比較して、優れた効力を証明した。
【0108】
実施例11
高親和性gp100-抗CD3融合体の効力を試験する、T細胞再指向アッセイ
ELISPOTプロトコール
以下のアッセイを行って、種々のgp100 TCR-抗CD3融合タンパク質が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を、gp100ペプチド-HLA-A2複合体を提示する腫瘍株化細胞に応答して活性化する効力を比較した。ELISPOTアッセイを用いて測定されるIFN-γ生成を、T細胞活性化の読み出しとして用いた。
【0109】
試薬
アッセイ媒体:10% FBS (熱不活化) (Sera Laboratories International、Cat# EU-000-F1) 88% RPMI 1640 (Invitrogen、Cat# 42401018)、1% L-グルタミン(Invitrogen、Cat# 25030024)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen、Cat# 15070063)。
洗浄バッファー:0.01 M PBS、1包を1Lの脱イオン水で希釈(Sigma、Cat# P3813)/0.05% Tween 20 (Sigma、Cat# P7949)
PBS (Invitrogen、cat# 10010015)
希釈バッファー:10% FBS (熱不活化) (Sera Laboratories International、cat# EU-000-F1)を含有するPBS (Invitrogen、cat# 10010015)
ヒトIFNγELISPOT PVDF-酵素キット(10プレート) (BD; Cat# 551849)、これは、PVDF ELISPOT 96ウェルプレート、捕捉抗体、検出抗体及びストレプトアビジン-HRP (セイヨウワサビペルオキシダーゼ)を含む。
AEC基質試薬セット(BD、cat# 551951)
【0110】
方法
標的細胞の調製
この方法において用いた標的細胞は、HLA-A2
+ gp100
+である天然エピトープ提示細胞Mel526メラノーマ細胞であった。A375メラノーマ(HLA-A2
+ gp100
-)を、陰性対照株化細胞として用いた。十分な標的細胞(50,000細胞/ウェル)を、1200 rpmにて10分間、Megafuge 1.0 (Heraeus)中で1回の遠心分離により洗浄した。細胞を、次いで、アッセイ媒体中に、10
6細胞/mlにて再懸濁した。
【0111】
エフェクター細胞の調製
この方法において用いたエフェクター細胞(T細胞)は、CD8+T細胞であった(PBLからのネガティブ選択により得られた(CD8ネガティブ単離キット、Dynal、Cat# 113.19を用いる))。エフェクター細胞を解凍し、アッセイ媒体中に入れた後に、1200 rpmにて5分間、Megafuge 1.0 (Heraeus)中での遠心分離により洗浄した。細胞を、次いで、アッセイ媒体中に、1mlあたり1.6×10
5細胞で再懸濁して、50μl中のウェルあたり8,000細胞とした。
【0112】
試薬/試験化合物の調製
種々の濃度の各gp100 TCR-scFv (10 nM〜0.1 pM)を、アッセイ媒体中で4×最終濃度を得るように希釈することにより調製した。試験したgp100 TCR-scFv融合体は、結果の部分で同定し、実施例6に記載するようにして調製した。
【0113】
ELISPOT
プレートを、次のようにして調製した。50μlの抗IFN-γ捕捉抗体を、プレートあたり10 mlの滅菌PBSで希釈した。100μlの希釈した捕捉抗体を、次いで、各ウェルに分割した。プレートを、次いで、4℃にて1晩インキュベートした。インキュベーションの後に、プレートを、次いで、シンク中に捕捉抗体をはたき落とし、ブルーロール上にたたいて残存抗体を除去し、各ウェルに200μlのアッセイ媒体を加え、プレートを室温にて2時間インキュベートすることによりブロッキングした。ブロッキングアッセイ媒体を、シンクにはたくことにより除去し、いずれの残存媒体も、ELISPOTプレートをペーパータオル上でたたくことにより除去した。
【0114】
アッセイの構成要素を、次いで、ELISPOTプレートに、以下の順序で加えた。
50μlの標的細胞10
6細胞/ml (合計で50,000標的細胞/ウェルを与える)
50μlの試薬(TCR-抗CD3融合体;種々の濃度)
50μlの媒体(アッセイ媒体)
50μlのエフェクター細胞(8,000 CD8+細胞/ウェル)。
【0115】
プレートを、次いで、1晩インキュベートした(37℃/5%CO
2)。次の日に、プレートを3回(プログラム1、プレートタイプ2。Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、洗浄バッファーで洗浄し、ペーパータオル上でたたいて、過剰の洗浄バッファーを除去した。100μlの1次検出抗体を、次いで、各ウェルに加えた。1次検出抗体を、40μlを10 mlの希釈バッファー(単一プレートに要求される容量)に加えることにより調製した。プレートを、次いで、室温にて少なくとも2時間インキュベートした後に、3回(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、洗浄バッファーで洗浄し、過剰の洗浄バッファーを、ペーパータオル上でプレートをたたくことにより除去した。
【0116】
2次検出を、100μlの希釈ストレプトアビジン-HRPを各ウェルに加え、プレートを室温にて1時間インキュベートすることにより行った。ストレプトアビジン-HRPは、100μlのストレプトアビジン-HRPを10 mlの希釈バッファー(単一のプレートに要求される容量)に加えることにより調製した。プレートを、次いで、3回(プログラム1、プレートタイプ2、Ultrawash Plus 96ウェルプレート洗浄装置、Dynex)、洗浄バッファーを用いて洗浄した後に、PBSで2回洗浄し、これは、ウェルあたり200μlを加えることにより手動でピペット操作し、シンクにはたき出した。プレートをペーパータオル上でたたくことにより過剰のPBSを除去した。100μlのAEC基質試薬を、次いで、各ウェルに加えた。基質を、10滴のAEC色素原を10 ml AECバッファー(単一のプレートに要求される容量)に加えることにより調製した。現像中に、プレートをホイルで覆い、5〜15分間放置した。現像しているプレートを、この期間中にスポットについて定期的に調べて、反応を停止するのに最適な期間を決定した。プレートを、脱イオン水で洗浄して現像反応を停止し、たたいて乾燥させた後に、プレートを3つの構成部分に分解した。プレートを、次いで、室温にて少なくとも1時間風乾させた後に、メンブレン上に形成されたスポットをImmunospotプレートリーダー(CTL; Cellular Technology Limited)を用いて計数した。
【0117】
結果
本実施例において試験したgp100 TCR-抗CD3 scFv融合体を、以下に、タンパク質1、2、3及び4として記載する。
タンパク質1は、配列番号45の配列を有するが、配列番号8(X = S)の可変ドメインを有するgp100 TCRアルファ鎖と、1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIである配列番号36のgp100 TCRベータ鎖-抗CD3 scFvとを含む。
タンパク質2は、配列番号45の配列を有するが、配列番号8(X = G)の可変ドメインを有するが、そのC末端にて8アミノ酸残基(F196〜S203、両端含む)が切断されたgp100 TCRアルファ鎖と、1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQである配列番号36のgp100 TCRベータ鎖-抗CD3 scFvとを含む。
タンパク質3は、配列番号45の配列を有するが、配列番号8(X = A)の可変ドメインを有するが、そのC末端にて8アミノ酸残基(F196〜S203、両端含む)が切断されたgp100 TCRアルファ鎖と、1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIである配列番号36のgp100 TCRベータ鎖-抗CD3 scFvとを含む。
タンパク質4は、配列番号45の配列を有するが、配列番号8(X = G)の可変ドメインを有するが、そのC末端にて8アミノ酸残基(F196〜S203、両端含む)が切断されたgp100 TCRアルファ鎖と、1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIである配列番号36のgp100 TCRベータ鎖-抗CD3 scFvとを含む。
【0118】
TCR-抗CD3融合体は、実施例6に記載するようにして調製した。
高親和性gp100 TCR-抗CD3融合タンパク質により再指向された活性化CD8T細胞によるIFNγ放出を、ELISPOTアッセイ(上記のようにして)により試験した。各ウェルにおいて観察されたELISPOTスポットの数を、Prism (Graph Pad)を用いてプロットした(
図11を参照)。用量応答曲線から、EC50の値を決定した(EC50は、最大応答の50%を誘導するTCR-抗CD3融合体の濃度にて決定される)。
図11のグラフは、gp100提示細胞と特異的に結合するgp100 TCR-抗CD3融合体による、CD8
+T細胞の特異的活性化を示す。このアッセイにより、4つのgp100 TCR-抗CD3融合タンパク質の試験が可能になり、これらは全て、T細胞の効率的な再指向と、以下の表に示す非常に類似した効力とを示した。
【0119】
【表5】
【0120】
実施例12
高親和性gp100-抗CD3融合体のインビボ効力
高親和性gp100-抗CD3融合体は、ヒトYLEPGPVTA gp100ペプチド-HLA-A2複合体及びヒトCD3に特異的であり、マウスgp100ペプチド-HLA複合体又はCD3と結合しない。よって、抗腫瘍効力を、ヒトメラノーマ異種移植モデルを用いて免疫不全マウスにおいて研究した。
【0121】
ベージュ/SCID Mel526異種移植モデル:
Mel526ヒトメラノーマ株化細胞を、ヒト異種移植モデルを確立するために選択した。なぜなら、gp100ペプチド-HLA-A2複合体及び高親和性gp100-抗CD3融合体を示すMel526細胞は、インビトロでMel526細胞の再指向された溶解を示したからである。免疫不全ベージュ/SCIDマウス(T,B、NK細胞機能の不全)を、このモデルにおいて用いた。
【0122】
細胞の移植
Mel526腫瘍細胞(2×10
6/マウス)を、ヒトPBMC細胞(5×10
6/マウス)と、PBS (200μl/マウス)中で混合し、第0日に各マウスに皮下注射した。4名の健常ヒト提供者を起源とするPBMCを、8匹のマウスの6群に均一に分配した。
【0123】
研究の設計:
各群8匹の動物を、ビヒクル対照(PBS+マウス血清)又は高親和性gp100 TCR-抗CD3融合体で、Mel526腫瘍細胞とPBMC又はMel526細胞単独の皮下注射の1時間後に開始して、5日間連続で静脈内処置した。研究設計の詳細は、以下の表に示す。本実験で試験したgp100 TCR-抗CD3融合体は、配列番号8(X = S)のアルファ可変ドメインを含有するgp100 TCRアルファ鎖と、配列番号36 (1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIである)のgp100 TCRベータ鎖-抗CD3 scFvとを含む。このTCR-抗CD3融合体は、実施例6で説明した。
【0124】
【表6】
【0125】
研究の読み出し
腫瘍サイズ及び体重を、研究の間中(週3回)、腫瘍/PBMCの移植の日に開始して測定した。腫瘍の寸法は、外側カリパスを用いて長さ及び幅を測定することにより決定した。長さは、腫瘍の最大の水平方向寸法に相当し、幅は、腫瘍の最短の寸法に相当する。平均腫瘍容量(平均+SD;平均+SEM)を評価し、グラフに示した。腫瘍成長のデータは、それぞれの個別に同定されるマウスについて記録した。腫瘍量は、以下の式を用いて算出した:V = 長さ×幅
2/2。
【0126】
結果
図12は、各研究群における平均腫瘍量を示す。エフェクター細胞なしで標的細胞を注射し、その後にビヒクル処置(群1)をした場合と、エフェクター細胞とともにT細胞を注射し、その後にビヒクル処置(群2)をした場合は、第11日から開始して、測定可能な腫瘍の成長を示した。群2における腫瘍の成長速度は、群1における腫瘍の成長速度と同様であった。
高親和性gp100 TCR-抗CD3処置は、測定可能な腫瘍成長における著しい治療効力を示し、Mel 526腫瘍成長における用量依存的な阻害が、PBMCエフェクター細胞の存在下で誘導された。