(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術では、シールリングのポケットに入り込んだオイルが、シールリングとシャフトとの間に流入して、シールリングとシャフトとの間に油膜を形成する。この油膜の形成により、シールリングの潤滑性が向上してフリクションロスが低減される。この反面、この油膜が厚くなりすぎるとオイルがシールリングより外側に漏れやすくなる。このように、フリクションロスとオイル漏れとはトレードオフの関係になりやすい。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、フリクションロスの低減とオイル漏れの抑制とを両立可能なシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るシールリングは、内周面と、上記内周面に対向する外周面と、上記内周面及び上記外周面に直交する側面と、上記側面に相互に離間して設けられた複数のポケットと、を具備する。
上記複数のポケットはそれぞれ、周方向に対称な形状を有し、上記内周面側が開放され、上記外周面側が閉塞されている。
上記複数のポケットはそれぞれ、上記周方向の端部に設けられ、上記側面に接続する凸状のR面である周端部と、上記周方向の中央領域に設けられた底部と、上記周端部と上記底部との間に延在する斜面部と、を有する。
上記斜面部は、少なくとも1つの稜部と、上記底部と上記稜部との間に延在し、上記側面に対して第1角度を成す第1斜面部と、上記周端部と上記稜部との間に延在し、上記側面に対して上記第1角度より小さい第2角度を成す第2斜面部と、を有する。
【0010】
このシールリングでは、ポケットが設けられた側面がシャフトの溝部に対するシール面として機能する。各ポケットは、第1斜面部における側面に対する第1角度が比較的大きいため、第1斜面部において内周面側に広く開放されている。これにより、オイルがポケット内に入り込みやすくなるため、ポケット内へのオイルの充分な流入量を確保することができる。
【0011】
また、ポケット内に入り込んだオイルは、第1斜面部から第2斜面部に流入する。ポケットには、第2斜面部により楔状のオイル流路が形成されている。第2斜面部における側面に対する第2角度が第1角度より小さいため、オイルが第1斜面部から第2斜面部に流入する際にオイル流路の絞りが緩やかになる。これにより、オイルは、シールリングの内周面側に逃げることなく、第2斜面部の奥まで進入しやすくなる。このため、第2斜面部に加わる油圧が増大する。
【0012】
更に、第2斜面部を通過したオイルは、周端部に流入する。周端部は凸状のR面であるため、周端部によって形成されるオイル流路の絞りは徐々に緩やかになる。これにより、第2斜面部を通過したオイルは、シールリングの内周面側に逃げることなく、周端部の奥まで進入しやすくなる。このため、このシールリングでは、周端部を通過したオイルによって側面に適度な油膜が形成される。
【0013】
以上の作用により、このシールリングでは、シャフトに対するフリクションロスが効果的に低減される。また、このシールリングでは、各ポケットが周方向に対称に形成されているため、シャフトに対する相対的な回転方向によらずに、フリクションロスを低減する効果が得られる。
更に、このシールリングでは、各ポケットが外周面側に閉塞されているため、ポケット内に入ったオイルが外周面側に漏れ出しにくい。また、各ポケットが内周面側に開放されているため、ポケット内の油圧が過度に高くなることを防止することができる。これらにより、このシールリングでは、オイル漏れが抑制される。
このように、このシールリングでは、フリクションロスの低減とオイル漏れの抑制とを両立可能である。
【0014】
上記斜面部は、単一の上記稜部を有していてもよい。
上記第1斜面部と上記第2斜面部とが上記稜部によって接続されていてもよい。
この構成では、斜面部を第1斜面部及び第2斜面部の2段構成とすることにより、上記の効果が得られる。
【0015】
上記稜部は、凸状のR面として構成されていてもよい。
上記複数のポケットはそれぞれ、上記底部と上記第1斜面部とを接続する凹状のR面である接続部を更に有していてもよい。
これらの構成では、ポケット内のオイルがよりスムーズに流動可能となる。これにより、このシールリングでは、フリクションロスを低減する作用が促進される。
【0016】
上記底部は、上記側面に平行な平面であってもよい。
このシールリングでは、底部においてポケット内にオイルが入り込みやすい。したがって、ポケット内へのオイルの充分な流入量が確保されるため、より効果的にフリクションロスを低減することができる。
【0017】
上記複数のポケットが、両方の上記側面に設けられていてもよい。
このシールリングでは、いずれの側面がシール面である場合でも、フリクションロスの低減とオイル漏れの抑制とを両立可能である。このため、このシールリングでは、シャフトへの装着の向きを気にする必要がないため、作業性が向上する。
【0018】
上記複数のポケットは、一方の上記側面と他方の上記側面とで相互に対称となるように形成されていてもよい。
この構成では、シールリングの強度が向上し、シールリングに変形が生じにくくなる。このため、このシールリングでは、シール性などの各種性能が良好に維持される。
【発明の効果】
【0019】
フリクションロスの低減とオイル漏れの抑制を両立可能なシールリングを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
【0022】
[シールリング1]
図1は、本発明の一実施形態に係るシールリング1の平面図である。シールリング1は、外周面1a、内周面1b、及び側面1cを有し、中心軸Cを中心とする環状に形成されている。外周面1a及び内周面1bは中心軸Cを中心とする円筒面であり、側面1cは外周面1a及び内周面1bに直交する平面である。
【0023】
シールリング1は、2つの側面1cにそれぞれ相互に間隔をあけて配置された複数のポケット10を有する。各ポケット10は、側面1cから窪む凹状に形成されている。また、シールリング1には、必要に応じ、シャフトへの装着を容易にするための合口部30が設けられる。なお、本発明において、合口部30を有する場合のシールリング1の形状は、合口部30を閉じた状態として定義されるものとする。
【0024】
合口部30の形状としては、特に限定されず、公知の形状を採用可能である。合口部30としては、例えば、直角(ストレート)合口、斜め(アングル)合口、段付き(ステップ)合口、ダブルアングル合口、ダブルカット合口、トリプルステップ合口などを採用可能である。ダブルアングル合口、ダブルカット合口、トリプルステップ合口では、合口部30からのオイル漏れが特に良好に抑制される。
【0025】
シールリング1は、合口部30が広げられた状態でシャフトの溝部に装着される。シールリング1が装着されたシャフトは、シールリング1の外周面1aが溝部から少し突出した状態で、ハウジングに挿通される。このとき、シールリング1の外周面1aがハウジングの内周面に接触するとともに、シールリング1の側面1cがシャフトの溝部に接触する。これにより、シールリング1によってシャフトとハウジングとの間が封止される。
【0026】
シールリング1は、シャフト及びハウジングに装着された状態で、ポケット10がシャフトの溝部内に配置されるように構成されている。したがって、シールリング1とシャフトの溝部との間には、ポケット10によって空間が形成される。シールリング1では、ポケット10内に流入したオイルの油圧が、側面1cからシャフトの溝部に加わる圧力を弱めるキャンセル圧として作用するため、シャフトの溝部との間の摩擦が抑制される。
【0027】
シールリング1の径や厚さt
0(
図3参照)は、装着するシャフトやハウジングの構成に応じて決定可能である。シールリング1の外径は、例えば、10mm以上200mm以下とすることができる。シールリング1の厚さt
0は、例えば、0.8mm以上3.5mm以下とすることができる。
【0028】
シールリング1を形成する材料は、特定の種類に限定されず、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)などを用いることができる。また、シールリング1を形成する材料には、これらにカーボン粉末やカーボン繊維等の添加剤が充填されていてもよい。
【0029】
シールリング1の製造方法は、特定の方法に限定されない。例えば、射出成形法や圧縮成型法では、ポケット10が設けられたシールリング1を直接製造することが可能である。射出成形法に適した材料としては、例えば、PEEK、PPS、PIなどの樹脂が挙げられる。圧縮成型法に適した材料としては、例えば、PTFEなどの樹脂が挙げられる。また、例えば、PTFEなどの樹脂については、事後的にポケット10を機械加工することによりシールリング1を製造することも可能である。
【0030】
[ポケット10の構成]
図2は、シールリング1の概略構成を示す部分斜視図であり、ポケット10を拡大して示している。
図3は、シールリング1のポケット10を内周面1b側から示す図である。
図3では、シールリング1の内周面1bに沿った形状を示している。
図3に示す寸法d
0,d
1,d
2は、シールリング1の内周面1bの周方向に沿った寸法を示している。
【0031】
ポケット10は、シールリング1の側面1cの内周面1b側に設けられている。ポケット10は、シールリング1の外周面1aとの間に隔壁部17を具備し、外周面1a側が隔壁部17によって閉塞されている。したがって、シールリング1では、ポケット10内のオイルがシールリング1の外周面1a側に漏れ出すことを抑制することができる。
【0032】
この一方で、ポケット10は、内周面1bとの間に隔壁部を有しておらず、シールリング1の内周面1b側に開放されている。これにより、ポケット10内の油圧が過度に高くなることを防止することができるため、ポケット10内のオイルがシールリング1の外周面1a側に漏れ出すことを効果的に抑制することができる。
【0033】
ポケット10の隔壁部17は、シールリング1の側面1cに直交する平面として構成されている。しかし、隔壁部17は、ポケット10内の空間と外周面1a側の空間とを隔てることができれば、特定の構成に限定されない。
【0034】
各ポケット10は、側面1cに設けられた柱部20によってシールリング1の周方向に隔てられている。つまり、シールリング1の内周面1bには、ポケット10と柱部20とが交互に配置されている。
【0035】
ポケット10の寸法d
0及び柱部20の寸法d
1は、それぞれシールリング1の径などに応じて適宜決定可能である。ポケット10の寸法d
0は、例えば、2.0mm以上35mm以下とすることができる。柱部20の寸法d
1は、例えば、0.1mm以上5.0mm以下とすることができる。
【0036】
ポケット10の形状は、中心軸Cを通り、周方向における中央にある
図3に一点鎖線で示す平面Dについて対称となるように構成されている。また、シールリング1の2つの側面1cにおけるポケット10の位置及び形状は、シールリング1の厚さt
0方向における中央にある
図3に一点鎖線で示す平面Eについて対称となるように構成されている。
【0037】
ポケット10は、底部11と、第1斜面部12a,12bと、第2斜面部13a,13bと、を具備する。また、ポケット10は、接続部14a,14bと、稜部15a,15bと、周端部16a,16bと、を具備する。上記のポケット10の構成は、いずれも平面Dについて対称である。第1斜面部12a及び第2斜面部13aは一連の斜面部を構成し、第1斜面部12b及び第2斜面部13bは一連の斜面部を構成している。
【0038】
底部11は、ポケット10の周方向の中央領域に設けられ、ポケット10において側面1cからの深さが最も深い部位である。底部11は、シールリング1の回転方向によらず、オイルの流入口として機能する。底部11は、一連の平面として構成されていることが好ましく、側面1cに平行な平面として構成されていることが更に好ましい。これにより、オイルがポケット10に流入しやすくなり、ポケット10内へのオイルの充分な流入量を確保することができる。
【0039】
底部11の寸法d
2及び側面1cからの深さt
1は、適宜決定可能である。底部11の寸法d
2は、例えば、0.01mm以上20mm以下とすることができる。底部11の側面1cからの深さt
1は、例えば、0.1mm以上1.0mm以下とすることができる。また、底部11の側面1cからの深さt
1は、例えば、シールリング1の厚さt
0の50%以上98%以下とすることができる。
【0040】
第1斜面部12a,12bは、底部11の周方向の両側にそれぞれ設けられている。
図2,3に示す例では、第1斜面部12aが底部11の右側に配置され、第1斜面部12bが底部11の左側に配置されている。第1斜面部12a,12bは、それぞれ底部11から離れるにつれて、側面1cからの深さが浅くなるように傾斜している。
【0041】
第2斜面部13a,13bは、第1斜面部12a,12bの底部11とは反対側にそれぞれ設けられている。
図2,3に示す例では、第2斜面部13aが第1斜面部12aの左側に配置され、第2斜面部13bが第1斜面部12bの右側に配置されている。第2斜面部13a,13bは、それぞれ第1斜面部12a,12bから離れるにつれて、側面1cからの深さが浅くなるように傾斜している。
【0042】
第1斜面部12a,12b及び第2斜面部13a,13bは、設計や加工の容易さなどの観点から、平面であることが好ましい。しかし、第1斜面部12a,12b及び第2斜面部13a,13bは、曲面であってもよく、例えば、凸状や凹状の曲面であってもよい。
【0043】
第1斜面部12a,12bはそれぞれ、側面1cに対して角度αを成している。また、第2斜面部13a,13bはそれぞれ、側面1cに対して角度βを成している。第2斜面部13a,13bの傾斜角度βは、第1斜面部12a,12bの傾斜角度αよりも小さい。
【0044】
接続部14a,14bは、底部11と第1斜面部12a,12bとを接続している。接続部14a,14bは、凹状のR面であることが好ましい。接続部14a,14bの曲率半径は、例えば、オイルが底部11から第1斜面部12a,12bにスムーズに流動可能となるように決定される。
【0045】
接続部14a,14bは、単一の曲率半径で形成されていても、連続して曲率半径が変化するように形成されていてもよい。接続部14a,14bの最も曲率半径が小さい部分の曲率半径(先端曲率半径)は0mmより大きければよい。また、接続部14a,14bの先端曲率半径は、0.5mm以上100mm以下であることが好ましく、0.5mm以上80mm以下であることがより好ましく、1mm以上60mm以下であることが更に好ましい。
【0046】
なお、接続部14a,14bの構成は、R面に限定されず、例えば、C面であっても、底部11と第1斜面部12a,12bとが交わる谷線であってもよい。
【0047】
稜部15a,15bは、第1斜面部12a,12bと第2斜面部13a,13bとを接続している。稜部15a,15bは、底部11における側面1cに対する深さt
1よりも浅い位置にある。第2斜面部13a,13bの傾斜角度βが第1斜面部12a,12bの傾斜角度αよりも小さいため、稜部15a,15bは凸状となる。
【0048】
稜部15a,15bは、凸状のR面であることが好ましい。稜部15a,15bの曲率半径は、例えば、オイルが第1斜面部12a,12bから第2斜面部13a,13bにスムーズに流動可能となるように決定される。
【0049】
稜部15a,15bは、単一の曲率半径で形成されていても、連続して曲率半径が変化するように形成されていてもよい。稜部15a,15bの最も曲率半径が小さい部分の曲率半径(先端曲率半径)は、0.5mm以上100mm以下であることが好ましく、0.5mm以上80mm以下であることがより好ましく、1mm以上60mm以下であることが更に好ましい。
【0050】
なお、稜部15a,15bの構成は、R面に限定されず、例えば、C面であっても、第1斜面部12a,12bと第2斜面部13a,13bとが交わる稜線であってもよい。
【0051】
周端部16a,16bは、ポケット10の周方向の両端部に配置され、第2斜面部13a,13bと柱部20の側面1cとを接続している。周端部16a,16bは、凸状のR面として構成されている。周端部16a,16bの詳細については後述する。
【0052】
シールリング1では、両側面1cのすべてのポケット10が平面Eについて対称に構成されていることが好ましい。これにより、シールリング1の強度が向上し、シールリング1に変形が生じにくくなる。このため、シールリング1では、シール性などの各種性能が良好に維持される。
【0053】
しかしながら、必要に応じて、シールリング1は、
図4に示すように、両側面1cのポケット10が相互に周方向にずらして配置することもできる。
図4に示すシールリング1でも、
図3に示すシールリング1と同様のポケット10の作用が得られる。両側面1cにおけるポケット10の周方向のずれ量は任意に決定可能である。
【0054】
また、シールリング1では、両側面1cにポケット10が設けられていることが好ましい。これにより、シールリング1では、いずれの側面1cがシール面である場合にも、ポケット10の作用が得られるようになる。したがって、両側面1cにポケット10が設けられたシールリング1では、シャフトへの装着の向きを気にする必要がないため、作業性が向上する。
しかしながら、必要に応じ、ポケット10はシールリング1の2つの側面1cのうち一方のみに設けることもできる。
【0055】
[ポケット10の作用効果]
(ポケット10内の油圧)
図5は、シールリング1の回転時に高い油圧を受ける部位をハッチングで示している。
図5(A)は矢印R方向に右回転する場合について示し、
図5(B)は矢印L方向に左回転する場合について示している。
なお、本実施形態において、シールリング1の回転とは、シャフトに対する相対的な回転を意味するものとする。したがって、シールリング1の回転方向は、シャフトを基準とする回転方向である。
【0056】
図5(A)に示す矢印R方向に回転しているシールリング1では、各ポケット10の矢印R方向とは反対側の第2斜面部13aが高い油圧を受けている。
図5(B)に示す矢印L方向に回転しているシールリング1では、各ポケット10の矢印L方向とは反対側の第2斜面部13bが高い油圧を受けている。
【0057】
このように、シールリング1では、回転方向に応じて第2斜面部13a,13bの一方が高い油圧を受けることにより、側面1cからシャフトの溝部に加わる圧力を弱めるキャンセル圧が得られる。これにより、シールリング1では、シャフトとの間の摩擦が良好に抑制され、フリクションロスが効果的に低減される。
【0058】
シールリング1では、第1斜面部12a,12b及び第2斜面部13a,13bの作用により、シャフトとの間のフリクションロスがより効果的に低減される。以下、第1斜面部12a,12b及び第2斜面部13a,13bの作用について
図2,3を参照しながら説明する。
【0059】
(第1斜面部12a,12b及び第2斜面部13a,13b)
シールリング1において、第1斜面部12a,12bは、主に、オイルをポケット10内に取り込み、ポケット10内に取り込んだオイルをスムーズに第2斜面部13a,13bへ送り込む機能を有する。
【0060】
第1斜面部12a,12bの傾斜角度αは、第2斜面部13a,13bの傾斜角度βより大きい。このため、ポケット10が第1斜面部12a,12bにおいて内周面1bに広く開放されている。したがって、オイルがポケット10内に入り込みやすくなるため、ポケット10内へのオイルの流入量が増加する。
【0061】
また、第1斜面部12a,12bと第2斜面部13a,13bとでは傾斜方向が一致しているため、オイルがスムーズに第1斜面部12a,12bから第2斜面部13a,13bへと流れることができる。
以上のような第1斜面部12a,12bの構成により、第2斜面部13a,13bに流入するオイルの量が増加するため、第2斜面部13a,13bに高い油圧が加わる。
【0062】
第2斜面部13a,13bは、主に、オイルからの油圧をシールリング1の側面1cからシャフトの溝部に加わる圧力を弱めるキャンセル圧として利用して、シールリング1のフリクションロスを低減させる機能を有する。
【0063】
第2斜面部13a,13bは、楔状のオイル流路が形成している。また、第2斜面部13a,13bの傾斜角度βは、第1斜面部12a,12bの傾斜角度αより小さい。このため、オイルが第1斜面部12a,12bから第2斜面部13a,13bに流入する際にオイル流路の絞りが緩やかになる。これにより、オイルは、シールリング1の内周面1b側に逃げることなく、第2斜面部13a,13bの奥まで進入しやすくなる。このため、第2斜面部13a,13bに加わる油圧が増大する。
【0064】
また、第2斜面部13a,13bの側面1cに対する角度βが比較的緩やかであるため、オイルから第2斜面部13a,13bに加わる力における側面1cに垂直な方向の成分が大きくなる。このため、第2斜面部13a,13b内の油圧が、より効率的にシールリング1からシャフトの溝部に加わる圧力を弱めるキャンセル圧として作用する。これにより、シールリング1では、シャフトとの間の摩擦が効果的に抑制されるため、シャフトとの間のフリクションロスが更に低減される。
【0065】
角度α,βの具体的な数値は、シールリング1の用途や使用環境などに応じて適宜決定可能である。しかしながら、角度αは、2°以上85°以下であることが好ましく、2°以上60°以下であることがより好ましく、5°以上45°以下であることが更に好ましい。また、角度βは、1°以上20°以下であることが好ましく、1°以上15°以下であることがより好ましく、1°以上10°以下であることが更に好ましい。
【0066】
(周端部16a,16b)
周端部16a,16bは、主に、柱部20の側面1cにおいて適度な油膜を形成する機能を有する。
【0067】
上記のとおり、周端部16a,16bは、凸状のR面である。このため、周端部16a,16bの側面1cに対する角度は、第2斜面部13a,13bから柱部20に向けて徐々に小さくなる。つまり、周端部16a,16bが形成するオイル流路は、狭くなるにつれて絞りが小さくなる。
【0068】
これにより、第2斜面部13a,13bを通過したオイルは、内周面1b側に逃げることなく、周端部16a,16bの奥まで進入しやすくなる。シールリング1では、周端部16a,16bを通過したオイルによって柱部20の側面1cに適度な油膜が形成される。これにより、シールリング1のフリクションロスが効果的に低減される。
【0069】
ここで、柱部20の側面1cに形成される油膜が薄すぎると、シールリング1におけるフリクションロスを低減する効果が充分に得られない場合がある。また、柱部20の側面1cに形成される油膜が厚すぎると、シールリング1の外周面1a側へのオイル漏れが増加する場合がある。
【0070】
このため、シールリング1では、柱部20の側面1cにおける油膜が適切な厚さになるように、周端部16a,16bや第1斜面部12a,12bや第2斜面部13a,13bなどのポケット10の各構成が設計されることが好ましい。
【0071】
なお、周端部16a,16bは、単一の曲率半径で形成されていても、連続して曲率半径が変化するように形成されていてもよい。周端部16a,16bの最も曲率半径が小さい部分の曲率半径(先端曲率半径)は0mmより大きければよい。また、周端部16a,16bの先端曲率半径は、0.5mm以上100mm以下であることが好ましく、0.5mm以上80mm以下であることがより好ましく、1mm以上60mm以下であることが更に好ましい。
【0072】
(ポケット10の数)
シールリング1では、ポケット10の周方向の寸法d
0を小さくしても、第1斜面部12a,12bの傾斜角度αを大きくして、ポケット10の深さt
1を深くすることにより、ポケット10内へのオイルの流入量を維持することができる。これにより、1つのポケット10あたり得られるキャンセル圧も維持される。
【0073】
この一方で、シールリング1において、ポケット10の周方向の寸法d
0を小さくすれば、ポケット10をより多く配置することが可能となる。したがって、シールリング1では、ポケット10の数を増加させることにより、シールリング1が全体として受けるキャンセル圧を向上させることが可能である。これにより、シールリング1におけるフリクションロスがより効果的に低減される。
【0074】
また、シールリング1では、ポケット10の数を多くすることにより、高い油圧を受ける部位の間隔を狭め、つまり高い油圧を受けない部位の範囲を狭めることが可能である。これにより、シールリング1はその全体として、ポケット10内のオイルから、シールリング1からシャフトの溝部に加わる圧力を弱めるキャンセル圧を安定して得ることができる。
【0075】
以上の観点から、シールリング1では、各側面1cにおけるポケット10の数を8個以上とすることが好ましい。
【0076】
また、シールリング1では、フリクションロスを効果的に低減するために、各ポケット10の周方向の寸法d
0の合計が、内周面1bの全周の50%以上であることが好ましい。この一方で、シールリング1では、柱部20によって各ポケット10の機能を正常に保つために、各ポケット10の周方向の寸法d
0の合計が、内周面1bの全周の98%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0077】
[実施例に係るシールリング1]
本発明の実施例として、上記実施形態の構成のシールリング1を作製した。シールリング1の外径は51mmとし、ポケット10の数は12個とした。なお、以下に説明する比較例1〜4に係るシールリング101,201,301,401は、特に説明する構成以外について、本実施例に係るシールリング1と同様に構成されている。
【0078】
[比較例1に係るシールリング101]
図6は、本発明の比較例1に係るシールリング101を示す図である。
図6(A)はシールリング101の平面図であり、
図6(B)はシールリング101の
図6(A)のA−A'線に沿った断面図である。
【0079】
シールリング101では、側面101cが、外周面101aから内周面101bに向けて間隔が狭くなるように傾斜している。シールリング101では、側面101cとシャフトの溝部とが面接触しない構成とすることにより、フリクションロスの低減が図られている。
【0080】
[比較例2に係るシールリング201]
図7は、本発明の比較例2に係るシールリング201を示す図である。
図7(A)はシールリング201の平面図であり、
図7(B)はシールリング201の
図7(A)のB−B'線に沿った断面図である。
【0081】
シールリング201には、8個のポケット210が設けられている。ポケット210は、実施例に係るシールリング1のポケット10とは異なり、内周面201bと側面201cとを接続する傾斜面を有する。シールリング201では、側面201cとシャフトの溝部との面接触を保ちつつ、ポケット210によるフリクションロスの低減が図られている。
【0082】
[比較例3に係るシールリング301]
図8は、本発明の比較例3に係るシールリング301を示す図である。
図8(A)はシールリング301の平面図であり、
図8(B)はシールリング301のポケット310を拡大して示す部分斜視図である。
【0083】
シールリング301に設けられたポケット310は、内周面301bに設けられた流入口311から外周面301aと内周面301bとの間の領域に沿って延びている。ポケット310は、流入口311から離れるにつれて幅及び側面301cからの深さが小さくなるように構成されている。
【0084】
シールリング301は、オイル流路を絞りつつ、流入口311からポケット310内に流入したオイルが内周面301b側に流出しないように構成されている。シールリング301は、ポケット310内の油圧を高めることによるフリクションロスの低減に特化した構成となっている。
【0085】
[比較例4に係るシールリング401]
図9は、本発明の比較例4に係るシールリング401を示す図である。
図9(A)はシールリング401の部分斜視図であり、
図9(B)はシールリング401の内周面401bを部分的に示す図である。
【0086】
変形例4に係るシールリング401のポケット410は、底部11を有し、周方向に対称に形成されている点で、上記実施形態に係るシールリング1のポケット10と共通する。しかし、変形例4に係るシールリング401のポケット410は、上記実施形態に係るシールリング1のポケット10のように2段構成の斜面部を有していない。
【0087】
つまり、シールリング401では、底部11と周端部416a,416bとが単一の斜面部412a,412bによって接続されている。変形例4に係るシールリング401の斜面部412a,412bは、上記実施形態に係るシールリング1の第1斜面部12a,12bと同様に、側面401cに対して角度αを成している。
【0088】
シールリング401は、斜面部412a,412bの先端部において高い油圧を受ける。そして、凸状のR面である周端部416a,416bを通過したオイルが、柱部20において油膜を形成する。このように、シールリング401では、斜面部412a,412b及び周端部416a,416bによってフリクションロスの低減が図られている。
【0089】
[フリクションロス評価]
実施例に係るシールリング1、比較例1に係るシールリング101、比較例2に係るシールリング201、比較例3に係るシールリング301、及び比較例4に係るシールリング401をサンプルとするフリクションロス評価を行った。フリクションロス評価としては、各サンプルを2本用い、オイルの温度を80℃とし、油圧を0.5MPaとする引き摺りトルク(N・m)の測定を行った。引き摺りトルクの測定における各サンプルの回転数は1000〜6000rpmとした。
【0090】
図10は、引き摺りトルクの測定結果を示すグラフである。
図10の横軸は回転数(rpm)を示し、縦軸は引き摺りトルクの相対値を示している。
【0091】
実施例に係るシールリング1、比較例1に係るシールリング101、比較例2に係るシールリング201、比較例3に係るシールリング301、及び比較例4に係るシールリング401のいずれにおいても低い引き摺りトルクが得られ、フリクションロスが低減されていた。
【0092】
その中でも、実施例に係るシールリング1及び比較例3に係るシールリング301では、非常に低い引き摺りトルクが得られ、より効果的にフリクションロスが低減されていることがわかった。
【0093】
また、実施例に係るシールリング1と比較例4に係るシールリング401とを比較すると、いずれの回転数においても実施例に係るシールリング1の方が低い引き摺りトルクが得られた。これにより、ポケット10に第2斜面部13a,13bを設けることによって、より効果的にフリクションロスが低減されることがわかった。
【0094】
[オイル漏れ評価]
実施例に係るシールリング1、比較例1に係るシールリング101、比較例2に係るシールリング201、比較例3に係るシールリング301、及び比較例4に係るシールリング401をサンプルとするオイル漏れ評価を行った。オイル漏れ評価として、各サンプルを2本用い、オイルの温度を80℃とし、油圧を0.5MPaとするオイル漏れ量(ml/min)を測定した。オイル漏れ量の測定における各サンプルの回転数は1000〜6000rpmとした。
【0095】
図11は、オイル漏れ量の測定結果を示すグラフである。
図11の横軸は回転数(rpm)を示し、縦軸はオイル漏れ量の相対値を示している。
【0096】
実施例に係るシールリング1、比較例1に係るシールリング101、比較例2に係るシールリング201、比較例3に係るシールリング301、及び比較例4に係るシールリング401のいずれにおいてもオイル漏れ量が少なく、オイル漏れが抑制されていた。
【0097】
その中でも、実施例に係るシールリング1、比較例2に係るシールリング201、及び比較例4に係るシールリング401では、回転数によらず、ほとんどオイル漏れが発生しておらず、より効果的にオイル漏れが抑制されていることがわかった。一方、比較例3に係るシールリング301では、低回転数において良好な結果が得られているものの、特に高回転数において実施例に係るシールリング1には適わなかった。
【0098】
また、実施例に係るシールリング1と比較例4に係るシールリング401とでオイル漏れ量に差が見られなかった。これにより、ポケット10に第2斜面部13a,13bを設けても、オイル漏れ量には影響がないことがわかった。
【0099】
[まとめ]
実施例に係るシールリング1では、フリクションロス評価及びオイル漏れ評価のいずれについても比較例1に係るシールリング101よりも更に良好な結果が得られた。
また、実施例に係るシールリング1では、オイル漏れ評価について比較例2に係るシールリング201と遜色のない結果が得られ、フリクションロス評価について比較例2に係るシールリング201よりも更に良好な結果が得られた。
更に、実施例に係るシールリング1では、フリクションロス評価について比較例3に係るシールリング301と遜色のない結果が得られ、オイル漏れ評価について比較例3に係るシールリング301よりも更に良好な結果が得られた。
加えて、実施例に係るシールリング1では、オイル漏れ評価について比較例4に係るシールリング401と遜色のない結果が得られ、フリクションロス評価について比較例4に係るシールリング401よりも更に良好な結果が得られた。
【0100】
上記のとおり、本発明の実施例に係るシールリング1では、フリクションロス評価及びオイル漏れ評価の両方において特に良好な結果が得られた。これにより、シールリング1では、フリクションロスの低減とオイル漏れの抑制とを両立可能であることがわかる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0102】
一例として、本発明において、シールリングの2つの側面に同様の構成のポケットが設けられている構成は必須ではない。例えば、シールリングの2つの側面にそれぞれ異なる構成のポケットが設けられていてもよい。更に、ポケットの数がシールリングの2つの側面で相互に異なっていてもよい。
【0103】
また、本発明において、シールリングの斜面部の構成は、2段構成に限定されず、必要に応じて3段以上に構成されていてもよい。いずれの場合にも、周端部に隣接する第2斜面部の傾斜角度βが、底面部に隣接する第1斜面部の傾斜角度αより小さく設定される。これらの場合にも、オイルが第1斜面部からポケットに入り込みやすく、第2斜面部において高い油圧を受けられるという本発明の効果が得られる。
【0104】
例えば、斜面部は、第1斜面部と第2斜面部との間に第3斜面部を有していてもよい。このとき、第3斜面部の傾斜角度γは、第1斜面部の傾斜角度αより小さく、第2斜面部の傾斜角度βより大きくてもよい。この場合、斜面部には、第1斜面部と第3斜面部とを接続する第1稜部と、第2斜面部と第3斜面部とを接続する第2稜部と、が形成される。この構成では、第1斜面部、第3斜面部、第2斜面部の順番で、つまりオイルが進入する順番で傾斜角度が小さくなるため、ポケット内におけるオイルの流動がよりスムーズになる。