【実施例】
【0129】
6.実施例
以下の実施例及び本明細書に記載の実施形態は例示目的にすぎず、それに照らして様々な改変又は変更が当業者に示唆され、それらは本出願の趣旨及び範囲並びに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが理解されよう。
【0130】
別段指示がない限り、本明細書に開示する特定のバクテリオファージは、以下の方法に従って単離し、処理し、解析した。さらに、以下に記載される研究は、Instituto de Medicina Molecularの動物倫理委員会によって所内で承認され、ポルトガルの法律に基づいて、ポルトガルのGeneral Directorate of Veterinary Services(Direccao Geral de Veterinaria)によって国家的に承認された。研究におけるすべての動物は、欧州指針86/609/EC(Council of the European Communities. Council Directive 86/609/EEC of 24 November 1986 on the approximation of laws, regulations and administrative provisions of the Member States regarding the protection of animals used for experimental and other scientific purposes. Off J Eur Communities L358:1-28)、ポルトガルの法律(条例1005/92)(Portuguese Agricultural Ministry. Portaria no. 1005/92 of 23 October on the protection of animals used for experimental and other scientific purposes. Diario da Republica I - Serie B245:4930-4942)、及び実験動物の管理と使用に関する指針(NRC2011)(Institute for Laboratory Animal Research. 2011. Guide for the care and use of laboratory animals. Washington (DC): National Academies Press.)に基づいて維持した。
【0131】
本研究の一目的は、DMの2種の動物モデル(ラット及びブタ)において、黄色ブドウ球菌、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニの慢性感染を伴う創傷に対して局所的に送達したバクテリオファージ溶液の抗微生物活性及び創傷治癒能力を検討することであった。
【0132】
6.1.1 細菌株の調製
黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05株を、患者から採取したヒト臨床皮膚創傷試料から単離し、リスボン地区の病院で同定した。黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05株は、ブダペスト条約の下に、NCIMB Limited社(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, AB21 9YA, Scotland UK)に2011年9月16日に寄託し、それぞれ受託番号NCIMB41862、NCIMB41861及びNCIMB41863を有する。各単離物を、トリプトンダイズ寒天培地プレート(TSA、Biokar Diagnostics社, PantinCedex, France)上に画線し、37℃で18時間インキュベートした。すべての宿主株は、必要になるまで、15%グリセロール(w/v)を含むトリプトンダイズブロス(TSB、Biokar Diagnostics社, Pantin Cedex, France)中で、−70℃で保管した。
【0133】
−70℃で凍結保存した株を、TSA上で37℃で一晩増殖させた。
【0134】
インビトロでの実験用に、シングルコロニーを、撹拌してTSB中で37℃で一晩増殖させた。別の細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物)を調製し、撹拌して37℃でインキュベートし、それが指数増殖期(600nmでの光学密度が0.3〜0.5)に達した時に収集した。約2.0×10
7cfu/mlの接種材料を増殖曲線用に使用した。
【0135】
インビボでの実験用に、シングルコロニーをトリプトンダイズ寒天(TSA、Biokar Diagnostics社)上で、37℃で一晩増殖させた。24時間インキュベートしてから、細菌懸濁液を生理食塩水(NaCl 0.9%、Applichem社, Darmstadt, Germany)中で調製し、マクファーランド標準と比較し(すなわち、1:10の連続希釈によってマクファーランドのスケール(bioMerieux社, Craponne, France)に合わせ)、2.0×10
7cfu/mLの最終的な溶液濃度を得た。2.0×10
6cfuの臨床株の単回用量を使用して、創傷に接種した。
【0136】
6.1.2 バクテリオファージ株の調製
黄色ブドウ球菌F44/10及びF125/10、緑膿菌F770/05及びF510/08並びにアシネトバクター・バウマンニF1245/05溶菌性バクテリオファージをリスボン地区の汚水から単離しそれぞれ黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05臨床株で増幅した。上記の宿主株を使用して、バクテリオファージの単離及び増幅のための標準的な方法(Adams M. Bacteriophages. New York: Interscience Publishers, Inc., 1959)を用いた。実験に十分な量のバクテリオファージストックを産生するために、増幅、高速遠心分離による濃縮及び塩化セシウムグラジエントによる精製の、以前に記載されているプロトコールを使用した(Miller H., 1987, Methods Enzymol. 152: 145-70)。終濃度は、二重寒天重層プラークアッセイ(Kropinski et al., 2009, In: Clokie M, Kropinski A, editors. Bacteriophages Methods and Protocols, volume 1: isolation, characterization, and interactions. New York: Humana Press, Springer Science + Business Media, 69-76)を用いて決定した。ファージ株F44/10、F125/10、F770/05、F510/08及びF1245/05は、ブダペスト条約の下に、NCIMB Limited社(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, AB21 9YA, Scotland UK)に2011年9月16日に寄託し、それぞれ受託番号NCIMB41867、NCIMB41866、NCIMB41864、NCIMB41868及びNCIMB41865を有する。
【0137】
黄色ブドウ球菌、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニに対する溶菌性バクテリオファージを単離するために、3種の臨床株を使用した(指標株)。バクテリオファージの存在を決定するための二重寒天重層プラークアッセイで使用する前に、リスボン市街地の様々な由来からの汚水を高速遠心分離によって濃縮した。
【0138】
水試料50mlを、8000×gで10分間4℃で遠心分離した。上清を、0.45μmのMillexフィルター(Millipore社, Massachusetts, USA)で濾過し、17000rpm(Beckman社J2-21M/E、JA-20ローター)で3時間4℃で遠心分離した。ペレットを5mlのSM緩衝液(0.05MのTris−HCl pH7.5、0.1MのNaCl、10mMのMgSO
4.7H
2O、0.03%ゼラチン)中に溶出し、4℃で一晩溶出させた。再懸濁したペレットは、必要になるまで4℃で保管した。
【0139】
水試料はまた、バクテリオファージを単離するチャンスを増やすために増菌した(Van Twest and Kropinski 2009)。黄色ブドウ球菌743/06指標株の1つのシングルコロニーを、0.5%酵母エキスを補充した5mlのトリプトンダイズブロス(TSBY、Biokar Diagnostics社, PantinCedex, France)に接種し、撹拌して37℃で一晩インキュベートした。5mlのTSBY、50μlの一晩培養した細菌、100μlの濃縮した水、並びに5mMのCaCl
2及びMgCl
2を用いる培養物を調製し、撹拌して37℃で一晩インキュベートした。8000×gで10分間、4℃で培養物を遠心分離する前に、クロロホルムを加え、5〜10分間室温でインキュベートして、細胞を溶解し、細胞内のバクテリオファージを培地中に遊離させた。上清を、0.45μmのMillexフィルター(Millipore社, Massachusetts, USA)で濾過し、必要になるまで4℃で保管した。
【0140】
濃縮及び/又は増菌してから、汚水試料を、黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05臨床株に感染する能力を有するバクテリオファージの存在について、二重寒天重層プラークアッセイによって試験した。簡単に述べると、細菌指標株を、TSB又はTSBY(黄色ブドウ球菌バクテリオファージの単離用)中で、撹拌して37℃で一晩増殖させた。別の細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物:黄色ブドウ球菌指標株については1:200、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ指標株については1:50)を調製し、撹拌して37℃でインキュベートし、それが指数増殖期(600nmでの光学密度が0.3〜0.5)に達した時に収集した。各培養物は、CaCl
2及び/又はMgCl
2(黄色ブドウ球菌株は5mMのCaCl
2及びMgCl
2、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株は10mMのMgCl
2)を補充し、濃縮及び/又は増菌した水試料(黄色ブドウ球菌バクテリオファージの単離については100μl、並びに緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニバクテリオファージの単離については50μl)と共に、ガラスチューブ内に設置した(黄色ブドウ球菌については200μl、緑膿菌については400μl及びアシネトバクター・バウマンニ株については150μl)。この混合物を37℃で30分間インキュベートし、その後、50℃で予め平衡化した3mlの軟寒天を加えた(黄色ブドウ球菌バクテリオファージの単離については0.35%、並びに緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニバクテリオファージの単離については0.7%)。短時間ボルテックスしてから、この寒天−水−細菌懸濁物を、黄色ブドウ球菌バクテリオファージの単離用の0.5%酵母エキスを補充したトリプトンダイズ寒天(TSAY、Biokar Diagnostics社, Pantin Cedex, France)上に、又は1.5%TSAプレート(緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニバクテリオファージの単離用)上に重層し、室温で固まらせ、37℃でインキュベートした。18〜24時間後、このプレートを、細菌ローン内のバクテリオファージ(透明な領域)について確認し、これによって、バクテリオファージの存在が示された。滅菌したピペットチップを使用してバクテリオファージのプラークを突つき、100μlのSM緩衝液に移し、4℃で保管した。
【0141】
6.1.3 ファージ増殖及び特性評価
単離したバクテリオファージを、指標株において、増殖、増幅及び精製(3連続溶出)の工程にかけてから、その宿主域を評価した。特定のバクテリオファージに対する30の細菌分離株の感受性を、スモールドロッププラークアッセイシステム(Mazzocco A, et al. 2009. Bacteriophages, methods and protocols vol. 1 chapter 9 Humana Press.)を使用して実施した。簡単に述べると、細菌指標株を、撹拌してTSB中で37℃で一晩増殖させた。新しい細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物:黄色ブドウ球菌指標株については1:200、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ指標株については1:50)を調製し、撹拌して37℃でインキュベートし、それが指数増殖期(600nmでの光学密度が0.3〜0.5)に達した時に収集した。各培養物は、CaCl
2及び/又はMgCl
2(黄色ブドウ球菌株は5mMのCaCl
2及びMgCl
2、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株は10mMのMgCl
2)を補充し、ガラスチューブ内に設置し(黄色ブドウ球菌については200μl、緑膿菌については400μl及びアシネトバクター・バウマンニ株については150μl)、それに、50℃で予め平衡化した3mlの軟寒天(黄色ブドウ球菌バクテリオファージの単離については0.35%、並びに緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニバクテリオファージの単離については0.7%)を加えた。短時間ボルテックスしてから、この寒天−細菌懸濁液を1.5%TSAプレート上に重層し、室温で固まらせた。少容量(5μl)の新しく単離されたバクテリオファージのそれぞれを、新たに調製した細菌ローン上に落下させ、プレートを室温で乾燥させてから、37℃で一晩インキュベートした。30の細菌分離株の特定のバクテリオファージに対する感受性を、スポット領域における溶菌領域の出現を観察することによって決定した。
【0142】
宿主域で感染の最も良いパーセントを有するバクテリオファージを選択して、増幅、高速遠心分離による濃縮、塩化セシウム(CsCl)グラジエントでの精製、バクテリオファージゲノムDNAの抽出及び制限の新しい工程に移した。100の細菌分離株を用いて、宿主域に関してこの工程を反復し、バクテリオファージの最終的な選択が行われるまで行い、それらのゲノムをシークエンスした。
【0143】
6.1.4 ファージカクテルのインビトロでの有効性
それぞれ個々の又は液体培養中で組み合わせた、黄色ブドウ球菌F44/10及びF125/10、緑膿菌F770/05及びF510/08並びにアシネトバクター・バウマンニF1245/05バクテリオファージの、黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05指標株に対する溶菌活性を研究するために、インビトロでのアッセイを実施した。
【0144】
細菌指標株を、撹拌してTSB中で37℃で一晩増殖させた。新鮮な細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物:黄色ブドウ球菌指標株については1:200、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ指標株については1:50)を調製し、撹拌して37℃でインキュベートし、それが指数増殖期(600nmでの光学密度が0.3〜0.5)に達した時に収集した。各培養物は、CaCl
2及び/又はMgCl
2(黄色ブドウ球菌株は5mMのCaCl
2及びMgCl
2、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株は10mMのMgCl
2)を補充した。
【0145】
各細菌について、10mlのTSBの3つの液体培養を調製し、同時に試験した。細菌の対照培養物を、培地及び2.0×10
7cfu/mlの指数増殖期の銘々の指標株(黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05)で接種した。バクテリオファージの対照培養物を、予め決定された感染多重度(F44/10 MOI=10、F125/10 MOI=10、F770/05 MOI=1、F510/08 MOI=10及びF1245/05 MOI=10)で、培地及び指標株に対する試験バクテリオファージで接種した。試験培養物を、培地、試験バクテリオファージ(F44/10 MOI=10、F125/10 MOI=10、F770/05 MOI=1、F510/08 MOI=10及びF1245/05 MOI=10)及び2.0×10
7cfus/mlの指数増殖期の銘々の指標株(黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05)で接種した。すべての培養物は、CaCl
2及び/又はMgCl
2(黄色ブドウ球菌株は5mMのCaCl
2及びMgCl
2、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株は10mMのMgCl
2)を補充した。培養物は、弱く撹拌して37℃でインキュベートした。100μlアリコートの試料を、24時間のインキュベーション期間にわたって、1時間間隔で各培養物から取得し、段階希釈に使用した。
【0146】
生存細菌数を10倍段階希釈方法(Murray PR, et al. 2003. Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press.)によって定量化した。細菌の対照培養物及び試験培養物については、銘々の選択培地プレート(黄色ブドウ球菌についてはチャップマンマンニット食塩寒天培地(Biokar Diagnostics社, PantinCedex, France)、緑膿菌についてはセトリマイド寒天培地(Merck Chemical社, Darmstadt, Germany)及びアシネトバクター・バウマンニについてはCHROmagarアシネトバクター培地(CHROmagar社, Paris, France))上に100μlの各希釈物を接種した。これらのプレートを好気性条件下で37℃で24時間インキュベートし、その後、コロニーを数えた。チャップマンマンニット食塩寒天培地で増殖した分離菌は、コロニーの形態及びマンニット食塩寒天培地の発酵(Chapman GH. 1946. J Bacteriol 51:409-410)に基づいて、黄色ブドウ球菌として推定的に同定した。セトリマイド寒天培地で増殖した分離菌は、コロニーの形態(Brown VI, et al. 1965. J Clin Pathol 18:752-756)に基づいて、緑膿菌として推定的に同定した。CHROmagarアシネトバクター培地で増殖した分離菌は、コロニーの赤色(Wareham DW, et al. 2011. J Clin Pathol 64:164-167)に基づいて、アシネトバクター・バウマンニとして推定的に同定した。
【0147】
バクテリオファージの対照培養物については、100μlアリコートを時点(t0)で取得し、直ちに希釈して、二重寒天重層プラークアッセイによって、各バクテリオファージの最初の力価を決定した。簡単に述べると、細菌指標株を、撹拌してTSB中で37℃で一晩増殖させた。新鮮な細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物:黄色ブドウ球菌指標株については1:200、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ指標株については1:50)を調製し、撹拌して37℃でインキュベートし、それが指数増殖期(600nmでの光学密度が0.3〜0.5)に達した時に収集した。各培養物は、CaCl
2及び/又はMgCl
2(黄色ブドウ球菌株は5mMのCaCl
2及びMgCl
2、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株は10mMのMgCl
2)を補充し、100μlのバクテリオファージ培養希釈物と共に、ガラスチューブ内に設置した(黄色ブドウ球菌については200μl、緑膿菌については400μl及びアシネトバクター・バウマンニ株については150μl)。この混合物を37℃で30分間インキュベートし、その後、50℃で予め平衡化した3mlの軟寒天を加えた(黄色ブドウ球菌については0.35%、並びに緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ培養物については0.7%)。短時間ボルテックスしてから、この寒天−バクテリオファージ−細菌懸濁物を1.5%TSAプレート上に重層し、室温で固まらせ、37℃でインキュベートした。18〜24時間後に、プラーク形成単位(pfu, plaque forming unit)を計算して、バクテリオファージの力価を決定した。
【0148】
6.1.5 ファージカクテルの調製
図1は、本発明による例示的なファージカクテル組成物の調製物を説明する。F44/10、F125/10、F770/05、F510/08及びF1245/05バクテリオファージのインビトロでのアッセイの後、個々の及び組み合わせた、5種のバクテリオファージの溶菌活性を、単一のバクテリオファージカクテル中で一緒に試験した。様々な濃度及び相対的比率の精製したバクテリオファージを使用して、3種の初期カクテル(黄色ブドウ球菌カクテル、緑膿菌カクテル及びアシネトバクター・バウマンニカクテル)及び1種の最終的なカクテルを調製した。これらのバクテリオファージカクテルは、予め決定されたMOI(F44/10 MOI=10、10
10pfu/mL;F125/10 MOI=10、10
10pfu/mL;F770/05 MOI=1、10
9pfu/mL;F510/08 MOI=10、10
10pfu/mL;及びF1245/05 MOI=10、10
10pfu/mL)で存在する各バクテリオファージを用いて、生理食塩水中で調製した。
【0149】
各培養は、個々のバクテリオファージ試験について以前に記載されているように実施した。黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05指標株について、細菌の対照培養物、バクテリオファージカクテルの対照培養物及び試験培養物を調製した。培養物は、弱く撹拌して37℃でインキュベートし、100μlアリコートを1時間間隔で24時間取得し、段階希釈に使用した。
【0150】
生存細菌数を、10倍段階希釈方法(Murray PR, et al. 2003. Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press.)によって定量化した。細菌の対照培養物及び試験培養物については、100μlの各希釈物を、銘々の選択培地プレート(黄色ブドウ球菌についてはチャップマンマンニット食塩寒天培地、緑膿菌についてはセトリマイド寒天培地、及びアシネトバクター・バウマンニについてはCHROmagarアシネトバクター培地)上に接種した。これらのプレートを37℃で24時間インキュベートし、その後、コロニーを数えた。チャップマンマンニット食塩寒天培地で増殖した分離菌は、コロニーの形態及びマンニット食塩寒天培地の発酵(Chapman GH. 1946. J Bacteriol 51:409-410)に基づいて、黄色ブドウ球菌として推定的に同定した。セトリマイド寒天培地で増殖した分離菌は、コロニーの形態(Brown VI, et al. 1965. J Clin Pathol 18:752-756)に基づいて、緑膿菌として推定的に同定した。CHROmagarアシネトバクター培地で増殖した分離菌は、コロニーの赤色(Wareham DW, et al. 2011. J Clin Pathol 64:164-167)に基づいて、アシネトバクター・バウマンニとして推定的に同定した。
【0151】
最初のバクテリオファージの力価を二重寒天重層プラークアッセイによって決定した。100μlアリコートの試料を時点(t0)で取得し、直ちに希釈した。細菌指標株を、撹拌してTSB中で37℃で一晩増殖させた。新鮮な細菌懸濁液(一晩培養したものの希釈物:黄色ブドウ球菌指標株については1:200、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ指標株については1:50)を調製し、撹拌して37℃でインキュベートし、それが指数増殖期(600nmでの光学密度が0.3〜0.5)に達した時に収集した。各培養物は、CaCl
2及び/又はMgCl
2(黄色ブドウ球菌株は5mMのCaCl
2及びMgCl
2、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株は10mMのMgCl
2)を補充し、100μlのバクテリオファージカクテル培養希釈物と共に、ガラスチューブ内に設置した(黄色ブドウ球菌については200μl、緑膿菌については400μl、及びアシネトバクター・バウマンニ株については150μl)。この混合物を37℃で30分間インキュベートし、その後、50℃で予め平衡化した3mlの軟寒天を加えた(黄色ブドウ球菌については0.35%並びに緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ培養物については0.7%)。短時間ボルテックスしてから、この寒天−バクテリオファージ−細菌懸濁物を1.5%TSAプレート上に重層し、室温で固まらせ、37℃でインキュベートした。18〜24時間後、pfu(プラーク形成単位)の計算によってバクテリオファージの力価を決定した。
【0152】
6.1.6 ラットモデルにおけるファージカクテルのインビボでの有効性
図2は、本発明による例示的なファージカクテル組成物のラットモデルにおけるインビボでの有効性を示すのに使用する研究プロトコールを説明する。化学誘発性糖尿病のウィスターマウスにおいて以前に最適化されたげっ歯類の創傷感染モデルを使用した(Mendes JJ, et al. 2012. Comp Med 62:1-12)。
【0153】
動物
体重が250〜350g(8〜10週齢)の、特定病原体除去のオスのウィスターラット[Crl:WI(Han)]をCharles River Laboratories社(L'Arbresle, Cedex, France)から得た。この動物を、以下の条件(湿度(50〜70%)及び温度(20〜22℃)で制御され、14時間明期及び10時間暗期のサイクルで、ペレット化したげっ歯類用固形飼料及び濾過滅菌した水へ自由にアクセスできる部屋の中のマイクロアイソレーターでの飼育)下で、承認された動物ケアセンターで飼った。この動物を、最初に2つの群で飼育した。除毛及びそれに続く手順の後で、動物を個々に飼育して、皮膚、及び後の包帯の完全性を保護した。すべての外科的処置は、オートクレーブ滅菌した器具を使用して、衛生的な手術室で実施した。
【0154】
DMの誘発
Wu et al.(Wu K, et al. 2008. Curr Protoc Pharmacol 40:5.47.1-5.47.14)によって記載されているように、DMを化学的に誘発した。12時間絶食させてから、0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.5)中で新たに調製したストレプトゾトシン(65mg/kg;Merck Chemical社, Darmstadt, Germany)を動物に単回腹腔内(i.p., intraperitoneal)注射した。8日後に、グルコメーターを使用して、尾の静脈の血液について血糖を測定した。250mg/dLより高い空腹時血糖レベルを示すラットを糖尿病とみなした。
【0155】
除毛
DM確認後に(8日後に)、42匹の糖尿病ラットに、塩酸キシラジン(10mg/kg)及び塩酸ケタミン(25mg/kg)のi.p.注射によって麻酔をかけ、それらの背面の毛を電気バリカンで刈り込み、一方で、コールドワックスストリップ(Veet cold wax strips、Reckitt Benckiser社, West Ryde, Australia)を使用して、残りの毛を徹底的にワックスで固めて抜いた。次いで、動物の背中を10%ポビドンヨード液ですすぎ、乾燥及びクレンジング後に、液体の膜形成性アクリレート(Cavilon Skin Cleanser、3M Health Care社, Saint Paul, MN)を均等に塗って、除毛領域を覆った。
【0156】
創傷、副子固定、第1の撮影及び包帯
除毛してから4日後に、同一のプロトコールで、動物に再び麻酔をかけ、背中の皮膚を滅菌生理食塩水で徹底的に洗浄し、続いて、10%ポビドンヨードで消毒し、10分のポビドンヨードの接触時間の後に、70%イソプロピルアルコールで洗浄した。パンチ生検器具(直径6mm;Accu-Punch、Acuderm社, Fort Lauderdale, FL, USA)を使用して、各ラットの上背部の肩甲間部皮筋層まで及ぶ全層切開を1つ行って、円形の創傷を作り、虹彩はさみを使用して皮弁を切除した。卵型のシリコーン副子を粘着性コーンクッション(Comforsil社, Toledo, Spain)から作り変えた。使い捨ての単回用量パッケージに入っている即時接着性のシアノアクリレート接着剤(Loctite、Henkel Corporation社, Westlake, OH)を使用して、副子を皮膚へ固定し、続いて、結節3−0ナイロン縫合糸によって固定して、その位置を確実にした。包帯をする前に、固定されたデジタル顕微鏡(SuperEyes 200× USB Digital Microscope、Shenzhen Tak and Assistive Technology社, Shenzhen, China)を使用して、標準的な高さ(1.5cmの距離)から創傷を撮影した。次いで、液体の膜形成性アクリレートを脱毛領域に塗り、創傷及びその周辺領域を、前もって適合させておいた、半閉塞性で不織のポリエステル包帯(Fixomull Stretch、BSN Medical社, Hamburg, Germany)で覆った。接着テープでできている被覆物(Leukoplast surgical tape、BSN Medical社, Hamburg, Germany)を用いて、副子及び包帯を、実験の経過全体を通して所定の位置に維持した。
【0157】
群の無作為化
包帯を適用した後で、動物がまだ麻酔をかけられている状態で、動物を7群(陰性対照(n=6)、黄色ブドウ球菌接種対照(n=6)及び試験(n=6)、緑膿菌接種対照(n=6)及び試験(n=6)、並びにアシネトバクター・バウマンニ接種対照(n=6)及び試験(n=6))に無作為に分けた。
【0158】
創傷感染
陰性対照群の動物の創傷には100μLの滅菌生理食塩水で注射し、一方、接種群(試験及び対照)の創傷には、滅菌生理食塩水に再懸濁した、100μLの培養した黄色ブドウ球菌、緑膿菌又はアシネトバクター・バウマンニ(約2.0×10
6cfu)を、1−mLの使い捨ての注射器に取り付けられた27G/19mmのニードルをシリコーン副子を介して45度の角度で挿入することによって、それぞれ接種した。
【0159】
デブリードマン
創傷後4、5及び8日目に、すべての動物において半閉塞性包帯を切り取り、創傷を清拭した。デブリードマンは、厳密な無菌的手法を使用する、乾燥した血液、血清及び滲出液の堅くなった表面と定義される瘡蓋の単純な機械的除去からなっていた。
【0160】
バクテリオファージ処置のプロトコール
バクテリオファージ処置のプロトコールは導入期及び維持期に分けられ、すべての試験群で実施した。導入期は、第1のデブリードマン(創傷後4日目)の後に行い、6回(4時間毎)の100μLの初期バクテリオファージ溶液の投与からなっていた。維持期は5日目〜8日目に行い、1日2回(12時間毎)の100μLの初期バクテリオファージ溶液の投与からなっていた。デブリードマンを実施した場合は、バクテリオファージ投与が続いた。対照群には、100μLの滅菌生理食塩水を同一頻度で与えた。
【0161】
微生物学的解析
創傷後4、5及び8日目並びにデブリードマンの後に、液体のAmies溶出スワブ(eSwab Collection and Preservation System、Copan社, Corona, CA)を使用して、スワブ培養物を採取及び輸送した。細菌採取は、Sullivan et al.(Sullivan PK et al. 2004 Wounds 16:115-123)によって記載されている1点法を使用して実施した。簡単に述べると、滅菌したスワブを使用して、十分な指圧でスワブを時計回りに3回回転させて、各創傷の中心の表面をよくこすり、小量の滲出液を得た。次いで、このスワブをチューブに挿入し、実験室に輸送して、即時処理した。このスワブ採取チューブを、(スワブを内に入れて)5秒間ボルテックスし、得られた懸濁液の100μLアリコートを段階希釈に使用した。
【0162】
10倍段階希釈方法(Murray PR et al. 2003. Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press)を使用して、定量化を実施した。感染/接種群では、100μLの各希釈物を銘々の選択培地プレート(黄色ブドウ球菌についてはチャップマンマンニット食塩寒天培地(Biokar diagnostics社, Pantin Cedex, France)、緑膿菌についてはセトリマイド寒天培地(Merck Chemical社, Darmstadt, Germany)及びアシネトバクター・バウマンニについてはCHROmagarアシネトバクター培地(CHROmagar社, Paris, France))上にプレーティングした。アシネトバクター・バウマンニ−感染群では、100μLの各希釈物をトリプトンダイズ寒天培地プレート(TSA、Biokar Diagnostics社, Pantin Cedex, France)上に同時に接種した。陰性対照群では、100μLの各希釈物をトリプトンダイズ寒天培地プレート上に接種した。これらのプレートを好気性条件下で37℃で24時間インキュベートし、その後、コロニーを数えた。チャップマンマンニット食塩寒天培地で増殖した分離菌は、コロニーの形態及びマンニット食塩寒天培地の発酵(Chapman GH. 1946. J Bacteriol 51:409-410)に基づいて、黄色ブドウ球菌として推定的に同定した。セトリマイド寒天培地で増殖した分離菌は、コロニーの形態(Brown VI, et al. 1965. J Clin Pathol 18:752-756)に基づいて、緑膿菌として推定的に同定した。CHROmagarアシネトバクター培地で増殖した分離菌は、コロニーの赤色(Wareham DW, et al. 2011. J Clin Pathol 64:164-167)に基づいて、アシネトバクター・バウマンニとして推定的に同定した。
【0163】
創傷閉鎖動態(面積測定)
創傷後9日目に、屠殺する前に、以前に記載されているように固定したデジタル顕微鏡を使用して、1.5cmの標準的な高さから創傷を撮影した。創傷動態を画像処理ソフトウェア(ImageJ、US National Institutes of Health, Bethesda, MD)を使用して定量化して、面積測定によって創傷領域を測定し、創傷領域を最初の創傷領域のパーセントとして表した。
【0164】
組織学的解析
すべての動物を、ペントバルビタール(200mg)のi.p.注射によって創傷後9日目に屠殺し、0.5cmの皮膚縁を含む各潰瘍を、滅菌した外科用ばさみを使用して完全に収集し、チューブ内に設置した。この試料を10%緩衝ホルマリン溶液中で固定し、一晩固定した後、組織をトリミングし、最大幅のマージンで切り開き、パラフィンに包埋し、3μmずつ増やして切片を作った。前後軸に垂直かつ創傷の表面に垂直に、切片を作製した。
【0165】
各創傷について、2つの連続切片をスライドに置き、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。カラーカメラ(Leica DM2500、Leica Microsystems GmbH社, Wetzlar, Germany)を備えた電動式倒立明視野顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M、Gottingen, Germany)を使用して、光学顕微鏡検査下で、50×倍率で切片を撮影した。各創傷のパノラマ式横断面デジタル画像を顕微鏡自動化ソフトウェア(MetaMorph、MDS Analytical Technologies社, Sunnyvale, CA)を使用して調製し、画像処理ソフトウェア(ImageJ、US National Institutes of Health, Bethesda, MD)を使用して処理した。同じ画像処理ソフトウェアを使用して、上皮間隙(EG, epithelial gap)及び真皮間隙(DG, dermal gap)について画像を解析した。
【0166】
EGは、はっきりした、多層の新表皮の進行端部間の距離と定義され(Galiano RD, et al. 2004. Wound Repair Regen 12:485-492; Scherer SS, et al. 2008. Wounds 20:18-28)、そのサイズをミリメートルで測定し、ゼロのEGは、完全に再上皮化した創傷を表した。DGは、創傷の両側の傷害を受けていない真皮間の距離と定義され(Galiano RD, et al. 2004. Wound Repair Regen 12:485-492; Scherer SS, et al. 2008. Wounds 20:18-28)、ミリメートルで測定した。すべての創傷動態及び組織学的測定は試料の由来(試験又は対照)に関して知らされていない研究者で実施した。
【0167】
6.1.7 ブタモデルにおけるファージカクテルのインビボでの有効性
図3は、本発明による例示的なファージカクテル組成物のブタモデルにおけるインビボでの有効性を示すのに使用する研究プロトコールを説明する。Hirsch et al.(Hirsch T, et al. 2008. BMC Surg 8:5)によって記載されているような、以前に最適化された、化学的に誘発したDMを有する動物におけるブタ創傷感染モデルを、本研究の要求に適合するように改変した。合計で48切除創傷(12陰性対照創傷、12緑膿菌接種創傷、12黄色ブドウ球菌接種創傷、及び12アシネトバクター・バウマンニ接種創傷)を有する3動物(陰性対照、接種−対照、及び接種−試験)を本研究で使用した。
【0168】
動物
到着時に±60kgの体重のメスのヨークシャーブタ(飼育場)3匹を、実験開始前に1週間順応させた。動物は、一匹ずつケージで飼育し、水へ自由にアクセスさせ、標準的な餌を1日2回与えた。処置の間は、ブタを封じ込めデバイス中に維持した。
【0169】
DMの誘発及び制御
ブタを12時間絶食させてから、DMを誘発した。処置の日は、動物を秤量し、塩酸キシラジン及び塩酸ケタミンで筋内麻酔を導入した。動物が麻酔にかかっている間に、21ゲージの静脈内(i.v., intravenous)カテーテルを耳の静脈に挿入した。ストレプトゾトシンは、10mL/g滅菌生理食塩水に希釈した体重1kg当たり150mgの用量で調製し、濾過滅菌し、カテーテルを介して1分かけて投与した。麻酔から回復した後、メトクロプラミドを用いる処置後の制吐療法を与えた。最初の3時間はブタを継続的に観察し、次いで、低血糖を回避するために食物を自由に与えた。実験の間、毎日血糖を測定した。血糖濃度を250〜400mg/dLに維持するために、16IUの予め混合してある、中性インスリン(30%)とイソフェンインスリン(70%)(Mixtard 30、Novo Nordisk社, Bagsvaerd, Denmark)の中性懸濁液を、ブタに毎日皮下注射した。
【0170】
除毛、創傷、第1の撮影及び感染
DMを誘発してから14日後に、以前に記載されているように、ブタに麻酔を導入した。導入後、ブタに気管内挿管を与え、従量式の時間設定BIRD人工呼吸器(Mark 9;Bird Corporation社, Palm Springs, CA)で、室内空気及び用量設定したイソフルラン(0.5%〜1.5%)の混合物を機械的に通気した。1回換気量を12mL/kgに設定し、人工呼吸器の速度を1分当たり12呼吸に設定した。手術より前に、背面の毛を電気バリカンで刈り込み、コールドワックスストリップを使用して、残りの毛を徹底的にワックスで固めて抜き、10%ポビドンヨードペイントを使用して傍脊柱領域を徹底的に消毒し、次いで、15分間の接触時間の後、70%イソプロパノールで洗浄した。
【0171】
接種−対照、及び接種−試験のブタについては、直径6mmの生検パンチを使用して、傍脊柱領域の両側に9つの全層切除創傷(直径6mm及び深度6mm)を作った(全体で18)。陰性対照のブタについては、6つの切除創傷のみを傍脊柱領域の両側に作った(全体で12)。続いて、滅菌した鉗子及び外科用の刃を使用して、全層の皮弁を除去し、滅菌ガーゼを利用して、創傷からいかなる凝固血液も取り除き、かつ出血を制御した。粘着性チャンバーで覆う前に、固定したデジタル顕微鏡を使用して、標準的な高さから創傷を撮影した。半閉塞性の不織のポリエステル包帯で覆われた結腸瘻バッグで作られている改変粘着性チャンバー(ツーピース35mmオストミー、Hollister Incorporated社, Libertyville, IL)を各創傷の上に設置し、外科用ステープル(Manipler AZ、B. Braun社, Tuttlingen, Germany)及び絆創膏で所定の位置に固定した。
【0172】
接種−対照及び接種−試験動物では、創傷を3つの亜群(黄色ブドウ球菌(2×6潰瘍)、緑膿菌(2×6潰瘍)及びアシネトバクター・バウマンニ(2×6潰瘍))に分けた。囲われた表面を浸すために、創傷を、100μLの全溶液(滅菌した0.9%生理食塩水)中の2×10
6黄色ブドウ球菌cfu、100μLの全溶液(滅菌した0.9%生理食塩水)中の2×10
6緑膿菌cfu、及び100μLの全溶液(滅菌した0.9%生理食塩水)中の2×10
6アシネトバクター・バウマンニcfuでそれぞれ接種した。陰性対照群(12潰瘍)では、創傷を100μLの滅菌生理食塩水で注射した。麻酔から回復した後、処置後の麻酔(ブプレノルフィン0.005mg/kg)及び制吐療法を12時間毎に48時間与えた。
【0173】
デブリードマン
創傷後4、5及び8日目に、半閉塞性包帯を切り取り、創傷を清拭した。げっ歯類モデルについて記載されているように、デブリードマンは、厳密な無菌的手法を使用する、乾燥した血液、血清及び滲出液の堅くなった表面と定義される瘡蓋の単純な機械的除去からなっていた。
【0174】
バクテリオファージ処置のプロトコール
げっ歯類モデルと類似している、導入期及び維持期に分けられるバクテリオファージ処置のプロトコールを使用した。導入期は、第1のデブリードマン(創傷後4日目)の後に行い、最終的なバクテリオファージカクテルを使用する、6回(4時間毎に24時間)の100μLのバクテリオファージ溶液の投与からなっていた。維持期は5日目〜8日目に行い、最終的なバクテリオファージカクテルを使用する、1日2回(12時間毎)の100μLのバクテリオファージ溶液の投与からなっていた。デブリードマンを実施した場合は、バクテリオファージ投与が続いた。対照群には、100μLの滅菌生理食塩水を同一頻度で与えた。
【0175】
微生物学的解析
げっ歯類の研究と類似している微生物学的解析プロトコールを使用した。創傷後4、5及び8日目並びにデブリードマンの後に、液体のAmies溶出スワブを使用して、スワブ培養物を採取及び輸送した。以前に記載されているように、細菌採取は、Sullivan et al.(Sullivan PK, et al. 2004. Wounds 16:115-123)によって記載されている1点法を使用して実施した。次いで、このスワブをチューブに挿入し、実験室に輸送して、即時処理した。10倍段階希釈方法(Murray PR, et al. 2003. Manual of clinical microbiology. Washington, DC: ASM Press)を使用して、定量化を実施した。
【0176】
感染/接種群では、銘々の選択培地プレート(チャップマンマンニット食塩寒天培地、セトリマイド寒天培地及びCHROmagarアシネトバクター培地)上に、100μLの各希釈物をプレーティングした。陰性対照群では、100μLの各希釈物をトリプトンダイズ寒天培地プレート上に接種した。これらのプレートを好気性条件下で37℃で24時間インキュベートし、その後、コロニーを数えた。分離菌は、以前に記載されているように、推定的に同定した。陰性対照群では、任意の所定の日に10
3cfu/スワブ超を有する潰瘍を、激しくコロニー化されたとみなし、さらなる解析から除外した。
【0177】
創傷閉鎖動態(面積測定)
創傷後9日目に、屠殺してから、以前に記載されているように、固定したデジタル顕微鏡を使用して、標準的な高さから創傷を撮影した。げっ歯類の研究と同様に、創傷動態を画像処理ソフトウェアを使用して定量化した。創傷領域を最初の創傷領域のパーセントとして表した。
【0178】
組織学的解析
すべての動物を、ペントバルビタールのi.v.注射によって創傷後9日目に屠殺し、0.5cmの皮膚縁を含む各潰瘍を、滅菌した外科用ばさみを使用して完全に収集し、チューブ内に設置した。この試料を、げっ歯類の研究について記載されているように処理及び撮影した。げっ歯類の研究と同じ方法を用いて、上皮間隙(EG)について画像を解析した。
【0179】
統計解析
すべての定量的な微生物学的結果は、銘々の標準偏差と共に平均として提供し、対数に変換した値[スワブ試料についてはlog(cfu/スワブ)及び組織試料についてはlog(cfu/潰瘍)]として表す。培養間におけるcfu/スワブの幅広い変動のために、対数スケールを使用してデータを比較した。両側のスチューデントのt検定を使用して群間を比較し、0.05未満のp値を有意とみなした。すべての面積測定の結果は、銘々の標準偏差と共に、元の創傷サイズ領域のパーセントの平均として表す。両側のスチューデントのt検定を使用して群間を比較し、0.05未満のp値を有意とみなした。組織学的測定の結果は、銘々の標準偏差と共に、平均値として提供する。両側のスチューデントのt検定を使用して群間を比較し、0.05未満のp値を有意とみなした。すべてのデータは、表計算プログラム(Excel、Microsoft社, Redmond, WA)に入れて、統計解析を行った。解析的統計は、表計算プログラム用の統計的なアドインプログラムである、Analyse-itバージョン2.21Excel 12+(Analyse-it Software社, Leeds, UK)によって実施した。
【0180】
6.1.8 結果
前臨床研究−薬理学/概念実証
バクテリオファージの様々な特異性の組合せにおける以前の困難、例えば保管時の不安定性にもかかわらず、本発明者らは、使用される個々のバクテリオファージ株への耐性出現の問題を克服するために、それぞれ高い溶菌活性を有する1種を超える別々のバクテリオファージ株を使用して、バクテリオファージカクテル組成物を開発した。驚いたことに本カクテルは、インビトロでのアッセイに関する
図4、5及び6の死滅曲線で説明するように、ファージを個々に使用する場合よりも優れた複合効果を実証する。個々のバクテリオファージ株の培養物の使用と比較して、例えばF770/05及びF510/08が組み合わされた培養物を使用して観察される低下は、緑膿菌株に対する溶菌活性を増大させ、一方で、バクテリオファージ株に抵抗性の細菌の出現を低下させるために1種を超えるバクテリオファージ株を使用する(すなわち、本発明によるバクテリオファージカクテルを使用する)という利点を実証する。ここで、本発明者らは、100の異なる細菌株において、選択されたバクテリオファージのそれぞれの感染能力を測定した。F510/08は80%の宿主域を有し、F770/05は55%の宿主域を有し、F44/10及びF125/10の両方は100%の宿主域を有し、F1245/05は75%の宿主域を有する。
【0181】
ファージカクテルの開発
創傷感染で適用するためのバクテリオファージカクテルを開発するために、新しく単離し、特徴づけられた黄色ブドウ球菌バクテリオファージ株F44/10及びF125/10、緑膿菌バクテリオファージ株F770/05及びF510/08並びにアシネトバクター・バウマンニバクテリオファージ株F1245/05の溶菌活性を、それぞれ、黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05株に対して調べた。
図4、5及び6で示すように、バクテリオファージカクテル(赤色のライン)のインビトロでの使用は、黄色ブドウ球菌、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニの細菌数の有意な低減をもたらす。バクテリオファージカクテルのインビトロでの使用の結果は、別々の細菌の異なるバクテリオファージ株の存在が原因の、バクテリオファージ株の感染能力の阻害がないこと示し、このカクテルが、場合によっては(例えば緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ細菌の場合)細菌の溶解を実際に増強することをさらに実証する。
【0182】
以前に測定された細菌接種材料を使用して、制御された条件下で、慣習的な増殖曲線を実施した。予備的な研究を行い、ラットモデルにおいて、黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07又はアシネトバクター・バウマンニ1305/05株での4日間の感染における細菌の負荷質量を決定した。cfuの決定によって、約2.0×10
7cfu/創傷の細菌負荷が示された。これを、インビトロでのアッセイで使用する接種材料とした。
【0183】
バクテリオファージカクテル組成物を評価する前に、様々なMOI(データ不図示)で、各バクテリオファージを個々に及び組み合わせて試験して、動物モデルにおいて、潜在的な治療及び実験使用に対するそれらの有効性をスクリーニングした。生存細菌数を1時間間隔で24時間モニタリングした。
【0184】
図4は、黄色ブドウ球菌743/06に対して調べた溶菌性研究の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のインビトロでの有効性を示す。バクテリオファージF44/10を、10に等しいMOIで個別に試験して、黄色ブドウ球菌743/06に感染させた。最初の3時間以内に、生存細菌数は、細菌の対照培養物と比較して約4log単位低減した。その後、細菌は増加し始め、培養物の感染後6時間では、生存細菌は2.1×10
6cfu/mlであった。細菌の対照培養物(24時間のインキュベーションで、生存数は9.9×10
9cfu/mlであった)と比較した場合、97%の低減があったが、バクテリオファージF44/10は、宿主細胞を完全になくせなかった。個々にアッセイした場合、5種のバクテリオファージについて同様の結果が観察され、おそらく、バクテリオファージ感染に対する影響を受けにくい細菌の出現の結果であった。
【0185】
(
図4で説明するように)10に等しいMOIでバクテリオファージF125/10を使用して、黄色ブドウ球菌743/06に感染させ、細菌743/06の対照培養物と比較した場合、1時間以内に、細菌の生存数を約3log単位低減させた。6時間のインキュベーションで、生存細菌は3.6×10
7cfu/ml(F44/10培養の値より低い)であり、インキュベーション期間(24時間)の終わりでは、生存細菌は6.6×10
9cfu/mlであった。最初の3時間のインキュベーションのバクテリオファージF44/10とF125/10の活性の変動で見られる別々の挙動は、それらの吸着速度、潜伏期及びバーストサイズの違いを反映する(データ不図示)。
【0186】
黄色ブドウ球菌743/06に対する2種のバクテリオファージ株(F44/10及びF125/10)の組合せは、個々に観察したものと比較して、細菌の増殖をさらに低減するであろうと予想された。細菌の対照培養物と比較した場合、バクテリオファージF44/10及びF125/10は、細菌を早期に溶解し、5log単位の低減(1.9×10
4cfu/mlの生存細菌)に達した。しかし、細菌の対照培養物と比較した場合減少したにもかかわらず、低レベルの生存細菌数は4時間維持された。24時間のインキュベーションで、生存細菌数は4.3×10
9cfu/ml(細菌数の56.6%の低減)に達した。
【0187】
図5は、緑膿菌433/07に対して調べた溶菌性研究の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のインビトロでの有効性を示す。黄色ブドウ球菌743/06で見られたものと類似した傾向が、バクテリオファージF770/05及びF510/08を感染させた緑膿菌433/07について観察された。
【0188】
図5で説明するように、バクテリオファージF770/05を、緑膿菌433/07に対して、1に等しいMOIで個別に試験した。インキュベーションの最初の2時間以内に、生存細菌数は、細菌433/07の対照培養物と比較して約3log単位低減し、4.6×10
5cfu/mlに達した。インキュベーションの3時間以内に、細菌は指数関数的に増殖し始め、6時間のインキュベーションで、生存細菌は7.3×10
7cfu/mlであった。培養インキュベーション期間(24時間)の終わりでは、細菌数は2.8×10
9cfu/mlであり、4.8×10
9cfu/mlを有する細菌の対照培養物と比較した場合41.6%の低減であった。
【0189】
図5で説明するように、バクテリオファージF510/08も、緑膿菌433/07に対して、10に等しいMOIで個別に試験してから、バクテリオファージF510/08を、F770/05と組み合わせた場合の使用について試験した。インキュベーションの2時間以内に、バクテリオファージF510/08は細菌を溶解し、細菌の対照培養物と比較した場合、約5log単位の細菌数の低減に達した。6時間のインキュベーションで、生存細菌は1.7×10
7cfu/mlであり、最初の接種材料の約2.0×10
7cfu/mlに達した。24時間後では、F510/08の培養は、2.8×10
9cfu/mlを有する細菌の対照培養物のものと類似した細菌数(41.6%の低減に相当する)をもたらした。
【0190】
様々なMOIを有するバクテリオファージF770/05及びF510/08を用いた以前のアッセイは、2種のバクテリオファージの組合せでの使用に適切な感染多重度(1に等しいMOIを有するF770/05及び10に等しいMOIを有するF510/08の使用)が、緑膿菌433/07の感染において、より有効であることを示した。
【0191】
同様に
図5で説明するように、それぞれ1及び10に等しいMOIを有するバクテリオファージF770/05及びF510/08を、緑膿菌433/07に対して試験した。インキュベーションの3時間以内に、細菌数は、細菌の対照培養物と比較した場合、4log単位の低減を呈し、F770/05単独の培養と比較した場合、1log単位の低減を呈した。この時点で、F510/08は、単独でより有効であると思われた。6時間のインキュベーションで、すなわち培養物の感染後6時間で、生存細菌数は1.4×10
8cfu/mlであったが、インキュベーション期間(24時間)の終わりでは、生存細菌は1.7×10
8cfu/mlであった。これは、細菌の対照培養物と比較した場合、96.5%の低減に相当する。この減少は、各バクテリオファージの個々の培養物の使用と比較して、F770/05とF510/08の両方を使用して観察され、例えば、本明細書で論じるような、1種を超えるバクテリオファージ(バクテリオファージ「カクテル」と同様)を使用する利点を示す。
【0192】
図6はアシネトバクター・バウマンニ1305/05に対して調べた溶菌性研究の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のインビトロでの有効性を示す。
図6で説明するように、バクテリオファージF1245/05も、ここで説明する例示的なバクテリオファージカクテル組成物に含むために選択し、アシネトバクター・バウマンニ1305/05に対して、10に等しいMOIで個別に試験した。このMOIで、バクテリオファージF1245/05は、生存細菌の急速な減少を引き起こし、その結果、たった1時間で、2.0×10
7cfu/mlから6.8×10
4cfu/mlに数が減った。細菌の対照培養物と比較した場合、低いcfu値は約3時間維持された。6時間のインキュベーション後、生存細菌数は1.1×10
8cfu/mlであり、インキュベーション期間(24時間)の終わりでは、細胞は、2.2×10
9cfu/mlに増殖した。したがって、バクテリオファージF1245/05は個別に、アシネトバクター・バウマンニ1305/05に対して高い溶菌活性を示し、対照培養物と比較した場合、24時間のインキュベーションで、細菌数の76.3%の低減を達成した。
【0193】
この結果は、個々のバクテリオファージ株の使用は、特定のバクテリオファージ株に対する耐性の出現を最終的に、引き起こし得ることを示し、これを回避又は最小化する1つの方法は、好ましくはそれぞれが特定の細菌に対して高い溶菌活性を有する1種を超えるバクテリオファージ株を含む組成物を開発することである。
【0194】
例示的なバクテリオファージカクテル
本研究の目的は、様々なこれらの細菌に対して広域活性を示し、かつ創傷感染の管理で使用可能なバクテリオファージ株を使用して、黄色ブドウ球菌、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニ株に対する例示的なバクテリオファージカクテルを産生することであった。
【0195】
ある種のバクテリオファージ株の細菌株に対する個々の活性を試験した後、以下の組成物、MOI=10のF44/10、MOI=10のF125/10、MOI=1のF770/05、MOI=10のF510/08及びMOI=10のF1245/05、を有するバクテリオファージカクテルを調製した。
図1を参照されたい。
【0196】
このバクテリオファージカクテルを、黄色ブドウ球菌743/06、緑膿菌433/07及びアシネトバクター・バウマンニ1305/05株に対してインビトロで試験した。生存細菌数を、増殖曲線において1時間間隔で24時間、各細菌について個々に測定した。バクテリオファージカクテルのインビトロでの適用は、黄色ブドウ球菌、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマンニの細菌数の有意な低減をもたらす(それぞれ
図4〜6を参照されたい)。
【0197】
図4で説明するように、細菌の対照培養物と比較した場合、バクテリオファージカクテルの単独接種は、黄色ブドウ球菌743/06を5log単位低減するのに十分であった。組み合わせた2種の黄色ブドウ球菌バクテリオファージ株の活性について類似した低下が観察された。インキュベーションの2時間目と6時間目の間では、カクテルの有効性は、2種のバクテリオファージ株F44/10とF125/10が一緒よりも低いが、24時間後では、これら2つの培養物の間の差は著しかった。細菌数は減少し始め、インキュベーション期間(24時間)の終わりでは、生存細菌は6.8×10
8cfu/mlであった(対照培養物と比較した場合93.1%の低減)。
【0198】
図5で説明するように、このバクテリオファージカクテルを、緑膿菌433/07に対しても試験し、2時間のインキュベーション期間で、ほぼ4log単位の細菌数の低減を呈した。培養インキュベーション時間(24時間)の終わりでは、細菌数は3.9×10
8cfu/mlであり、両方のバクテリオファージ株を一緒に試験した時よりもわずかに高いが、細菌の緑膿菌433/07の対照培養物と比較した場合、これは、生存細菌の91.9%の低減に相当する。この差は、緑膿菌バクテリオファージ株F770/05及びF510/08の溶菌活性に対するカクテルの阻害効果と関連づけるのに十分でなかった。
【0199】
図6で説明するように、このバクテリオファージカクテルを、アシネトバクター・バウマンニ1305/05株に対しても試験した。細菌1305/05の対照培養物と比較した場合、2時間のインキュベーションで、このバクテリオファージカクテルは細菌数を約4log単位低減した。培養インキュベーション期間(24時間)の終わりでは、細菌数は8.6×10
8cfu/mlに達し、これは、対照培養物と比較した場合、92.8%の低減に相当する。これらの結果は、カクテル中のこのバクテリオファージのより優れたパフォーマンスを示す。
【0200】
バクテリオファージカクテルのインビトロでの適用の結果は、別々の細菌の異なるバクテリオファージの存在に起因する各バクテリオファージの感染能力の阻害がないことを示した。
【0201】
げっ歯類モデルを使用した結果
要点をまとめると、げっ歯類で行われた研究は、Instituto de Medicina Molecularの動物倫理委員会によって所内で承認され、ポルトガルの法律に基づいて、ポルトガルのGeneral Directorate of Veterinary Services(Direccao Geral de Veterinaria)によって国家的に承認された。すべての動物は、欧州指針86/609/EC、ポルトガルの法律(条例1005/92)及び実験動物の管理と使用に関する指針(NRC2011)に基づいて維持した。化学誘発性糖尿病のウィスターマウスにおいて以前に最適化されたげっ歯類の創傷感染モデルを使用した(Mendes JJ, et al. 2012. Comp Med 62:1-12)。
【0202】
上で述べたように、
図2は研究プロトコールを説明する。簡単に述べると、糖尿病を誘発し、確立した後、バクテリオファージ株の溶菌曲線に基づいて処置を施し、処置は抗生物質の薬量学と類似しており、すなわち、最初の24時間は4時間毎、次いで5日間は1日1回であった。用量は、ポルトガルの幾つかの病院から集めた様々な患者で以前に行われた疫学研究で得られた結果に基づいた(データ不図示)。本研究では、糖尿病性足部潰瘍に感染させる細菌濃度は10
6〜10
8の範囲にわたると結論した。インビトロでのアッセイは、MOIは、バクテリオファージ株に応じて1又は10であることを示し、その結果、ファージ濃度は、潰瘍の1cm
2当たり10
7〜10
9であった。
【0203】
感染させる慢性創傷モデルの選択は、バクテリオファージは、その特定の生きた細菌宿主でのみ複製するという事実に基づき、したがって、感染が慢性でないであろうモデルを研究することは意味をなさなかった。主要エンドポイントは、創傷における微生物の減少であった。組織病理を微生物学的結果と比較する時と同様に、創傷閉鎖の違いが、真皮及び上皮間隙における本当の減少を必ずしも反映するとは限らないけれども、創傷閉鎖も測定した。
【0204】
環境条件と関わり合いを持つ動物モデルにおいて起こり得るバクテリオファージの消耗及び細菌の耐性出現の問題並びに処置の延長の問題を克服するために、インビボでの実験では、すなわち創傷に接種し、動物を処置するために、より多くの数のバクテリオファージを使用した。インビボでの使用に関する例示的カクテル中に存在するバクテリオファージ粒子の数は、1log増やした。
【0205】
微生物学的解析
図7は、黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種の動物についての対照(C)群及び試験(T)群に対する微生物負荷解析の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のラットモデルでのインビボでの有効性を示す。
【0206】
導入療法後(t1)では、黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種群において、対照と試験亜群の間で、選択培地のコロニー数に統計的有意差があった。処置開始後4日目(t4)では、対照と試験亜群の間で、選択培地のコロニー数に統計的有意差があった。黄色ブドウ球菌及び緑膿菌接種対照亜群のt0〜t4に、微生物負荷低減の傾向があった。すなわち、t1及びt4で、3つの群すべてにおいて、バクテリオファージ処置した動物が対照動物より有意に低い数を示した。
【0207】
創傷閉鎖動態(面積測定)
図8は、黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種の動物についての陰性群、対照(C)群及び試験(T)群に対する創傷閉鎖解析の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のラットモデルでのインビボでの有効性を示す。創傷領域は、t1及びt9で評価し、2時点間の差を計算した。
【0208】
ラットモデルにおける創傷の面積測定解析は、陰性対照群及びすべての接種対照亜群の創傷領域の間で、すべての群の対照と試験亜群の間に創傷領域低減の傾向を伴って、統計的有意差を示し、黄色ブドウ球菌接種群及び緑膿菌接種群において、対照と試験亜群の創傷領域間に統計的有意差を示した。すなわち、バクテリオファージ処置は、黄色ブドウ球菌感染創傷及び緑膿菌感染創傷の両方で、創傷サイズを低減した(pは0.05未満)。
【0209】
組織学的解析
図9は、黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種の動物についての陰性群、対照(C)群及び試験(T)群に対する組織学的解析の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のラットモデルでのインビボでの有効性を示す。
【0210】
上皮間隙(EG)及び真皮間隙(DG)の両方において、陰性対照群及びすべての接種対照亜群の間で統計的有意差があった。黄色ブドウ球菌接種群及び緑膿菌接種群において、対照と試験亜群のEGの間に統計的有意差があった(pは0.05未満)。DGでは、試験及び対照亜群の間の差は、緑膿菌接種群においてのみ統計的有意性が得られた。これらの結果は、緑膿菌は黄色ブドウ球菌よりも深く組織に侵入するという事実と相関する。アシネトバクター・バウマンニは、経過の後期に患者に出現する生着菌であり、このことは、ある種の実施形態では、バクテリオファージカクテルにとってこのバクテリオファージを含むことが重要であることの理由である。
【0211】
ブタモデルを使用した結果
上記で説明したものと同様の結果がブタモデルを使用して得られた。要点をまとめると、Hirsch et al.(Hirsch T, et al. 2008. BMC Surg 8:5)によって記載されているような、以前に最適化された化学的誘発動物におけるブタ創傷感染モデルを、本研究の要求に適合するように改変した。合計で48切除創傷(12陰性対照創傷、12緑膿菌接種創傷、12黄色ブドウ球菌接種創傷、及び12アシネトバクター・バウマンニ接種創傷)を有する3匹の動物(陰性対照、接種−対照、及び接種−試験)を使用した。上で述べたように、
図3は研究プロトコールを説明する。上記のラットモデルと同じ投薬及び投薬スケジュールを使用した。
【0212】
微生物学的解析
図10は黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種の動物についての対照(C)群及び試験(T)群に対する微生物負荷解析の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のブタモデルでのインビボでの有効性を示す。
【0213】
導入療法後(t1)では、黄色ブドウ球菌接種群及び緑膿菌接種群において、対照と試験亜群の間で、選択培地のコロニー数に統計的有意差があり、アシネトバクター・バウマンニ接種試験及び対照亜群について、平均コロニー数における微生物負荷低減の傾向(pは0.05未満)があった。処置開始後4日目(t4)では、黄色ブドウ球菌接種群及び緑膿菌接種群において、対照と試験亜群の間で、コロニー数に統計的有意差があった。アシネトバクター・バウマンニ接種試験及び対照亜群において平均コロニー数に統計的有意差がなかったが、コロニー数低下の傾向がある。
【0214】
創傷閉鎖動態(面積測定)
図11は、黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種の動物についての陰性群、対照(C)群及び試験(T)群に対する創傷閉鎖解析の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のブタモデルでのインビボでの有効性を示す。
【0215】
組織学的解析
図12は、黄色ブドウ球菌接種、緑膿菌接種及びアシネトバクター・バウマンニ接種の動物についての陰性群、対照(C)群及び試験(T)群に対する組織学的解析の結果を説明し、本発明による例示的なファージカクテル組成物のブタモデルでのインビボでの有効性を示す。
【0216】
EGでは、陰性対照群及びすべての接種対照亜群の間で統計的有意差があった。EGに関しては、黄色ブドウ球菌接種群及び緑膿菌接種群の対照と試験亜群の間にも統計的有意差があった(pは0.05未満)。
【0217】
結果の考察
以前のげっ歯類の研究(Mendes JJ, et al. 2012. Comp Med 62:1-12)に基づくと、t4の感染した創傷から培養された組織中の細菌コロニー数は、平均で、潰瘍当たり7.54±0.19log(CFU)であることがわかっていた。本研究は、高バクテリオファージ用量(投与当たり10
8〜10
9pfu)を使用し、これは、10〜100の感染多重度をもたらす。この初回用量は、バクテリオファージが複製し、生活環を完了する必要なしに低減を引き起こすように、標的細菌集団を十分に上回っていると考えられる。これは、比較的低いバクテリオファージ用量を用い、標的細菌を低減させるためにファージの感染/複製サイクルを伴う能動的療法に主に依存していた以前のバクテリオファージ療法研究(Loc Carrillo C, et al., 2005, Appl Environ Microbiol. 71(11):6554-6563)と対照的である。能動的及び受動的バクテリオファージ療法のこれらの方法は、インビトロ及びインビボでの研究について記載されている(Cairns BJ, et al., 2011, PLoS Pathog. 5(1):e1000253;及びHooton SP, et al., 2011, Int J Food Microbiol. 151(2): 157-163)。
【0218】
黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に感染した動物において、3つの転帰すべてがバクテリオファージ処置によって改善され、アシネトバクター・バウマンニに感染した動物において、細菌の低減が観察された。理論に拘束されるものではないが、これは、バイオフィルムコミュニティー中にアシネトバクター属種が存在することによって、他の種、すなわちブドウ球菌属種の表面定着が容易になることが発見された研究(例えば、Simoes LC, et al., 2008, Appl Environ Microbiol. 74(4): 1259-1263)によって説明することができる。本明細書の結果は、アシネトバクター・バウマンニ接種群の、非選択的培地で増殖する過剰な細菌は主としてブドウ球菌属種であることが確認されたという点において、この発見と合致している。
【0219】
本研究では、細菌数をt4(処置開始後4日目)で評価し、コロニー数は、対照と比較して、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌試験条件について、特に緑膿菌に関して有意に異なった。これらの発見は、以前の研究(例えば、Mendes JJ, et al. 2012. Comp Med 62:1-12;及びFazli M, et al., 2009, J Clin Microbiol. 47(12): 4084-4089)と一致している。特に、Fazli et al.は、臨床的な創傷生検検体に関して共焦点レーザー走査顕微鏡検査を使用して、緑膿菌凝集体から創傷表面への距離が、黄色ブドウ球菌凝集体からの距離より有意に長いことを示し、これがスワブ試料における前者の過小評価につながった。この知見は、各病原性細菌株に内在する要因が、スワブから増殖した培養物と組織試料から増殖した培養物を比較する研究間の差に寄与し得る可能性を支持する。
【0220】
面積測定の評価は、対照並びに黄色ブドウ球菌及び緑膿菌で処置した試験群の間の統計的有意差を明らかにし、アシネトバクター・バウマンニついて同じ傾向が観察された。これらの結果は、収集した組織学的検体におけるEG及びDGの測定と類似していた。
【0221】
ブタは、皮膚疾患研究の理想的な大型動物モデルであると考えられており(Greenhalgh DG., 2005, J Burn Care Rehabil. 26(4): 293-305)、重要なことに、げっ歯類モデルで得られた結果は、大部分がブタでの実験によって確証された。両方のモデルにおいて、黄色ブドウ球菌感染及び緑膿菌感染について、両時点(t1及びt4)で細菌数の有意な低減があった。
【0222】
EG測定に関して、黄色ブドウ球菌接種及び緑膿菌接種の試験動物において有意な結果が観察された。
【0223】
したがって、本研究は、バクテリオファージ含有TATは、薬物抵抗性細菌によって引き起こされる感染症を含めたDFIに対する実行可能な処置を提供し、DFI並びに他の慢性の皮膚感染症及び軟部組織感染症と関連がある重大な問題に対処するための有効かつ新規な処置アプローチを与えることを示唆する。すなわち、バクテリオファージ処置は、黄色ブドウ球菌感染及び緑膿菌感染において、上皮間隙及び真皮間隙の縮小によって示されるように、効果的に細菌コロニー数を低下させ、創傷治癒を改善し、したがって、局所的に投与されるバクテリオファージ処置は、特に創傷デブリードマンと併せて適用する場合に、慢性の感染症を回復させるのに有効である。
【0224】
6.1.9 最初のヒト研究用の毒性プログラム
以下に示すミニブタでの4週間の真皮炎症研究は、最初の臨床研究を支持するために提案される。バクテリオファージ株は、特定の細菌の存在下にない場合は複製しないので、静脈内(iv)研究は、いかなる結論も導かないと考えられており(しかし、iv研究は、この考えをさらに強くすることができる)、バクテリオファージ株は、(iv研究における、局所適用と同じ用量の使用は、考え得る最大吸収と比較した場合にはるかに高い用量を反映するので)はるかに高い量で与えた場合に安全であるとも考えられているが、必要であれば、ラットでの4週間のiv研究も行うことができる。
【0225】
ミニブタでの4週間の真皮炎症研究、4週間の回復期(GLP)
研究計画は5匹のメスのミニブタを伴い、投薬経路は、1日1回の頻度で真皮(2部位/側面;覆われた/洗浄された)である。用量調製物は、受取ったままの状態で使用するためのものである。観察は1日2回行う(死亡/病的状態)が、体重測定を含めた詳細な臨床的観察は、1週1回行う。身体検査は、被験物質(TA, test article)としての本発明による例示的なファージカクテル組成物の投与を開始する前に、すべての動物について獣医スタッフが行う。
【0226】
皮膚反応を調べるために、紅パッチ及び浮腫について、2日目に始まる各投薬より前に、各動物を毎日調べる。いかなる非試験部位の病変も注意し、記載する。皮膚炎症をスコア付けするためのドレーズスケールを、以下のように使用する。紅パッチ及び痂皮形成については、0は紅パッチなしを示し、1は非常に軽度の紅パッチ(辛うじて認識可能)を示し、2ははっきりとした紅パッチを示し、3は中程度から重度までの紅パッチを示し、そして4は重度な紅パッチ(高度紅斑)からわずかな痂皮形成(深部傷害)までを示す。浮腫形成については、0は浮腫なしを示し、1は非常に軽度の浮腫(辛うじて認識可能)を示し、2は軽度浮腫(明確な隆起によるはっきりとした領域の縁)を示し、3は中程度の浮腫(約1ミリメートルの隆起)、そして4は 重度な浮腫(1ミリメートルを超える隆起及び曝露領域を越えた広がり)を示す。部検がない場合は、動物をストックに戻す。
【0227】
組織学的解析のためにパンチ生検を行う。左側面から3試料(ナイーブ、プラセボ、TA)を29日目に採取し、右側面から3試料を57日目に採取する。すべての試料を保存し、スライドに加工し、顕微鏡的に調べる。配合分析は、第三者によって提供された分析証明書を伴う。
【0228】
ラットにおける4週間の真皮毒性研究、4週間の回復期(GLP)
研究計画は、以下の表に示す、本発明による例示的なファージカクテル組成物を投与するための投薬スケジュールを伴う。
【0229】
【表1】
【0230】
さらなる動物/性別/処置群を交替動物として含む。
【0231】
投薬経路は1日1回の頻度でivボーラスである。用量調製物は、受取ったままの状態で使用するためのものである。観察は1日2回行う(死亡/病的状態)が、体重測定を含む詳細な臨床的観察観測は、1週1回行う。食物消費もまた1週1回行う。
【0232】
眼科試験は、すべての動物について試験前に実施し、すべての生存している主要研究動物について終了及び回復時に実施する。血液学、凝固、臨床化学及び尿検査を含めた臨床病理試験は、すべての生存している主要研究動物について、終了部検又は回復部検時に一度実施する。部検試験は、すべての主要研究動物及び回復動物について実施し、TK動物は安楽死させ処分する。器官重量は、副腎、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、卵巣、下垂体、前立腺、唾液腺、精嚢、脾臓、副甲状腺を含む甲状腺、胸腺、精巣及び子宮について測定する。
【0233】
スライド調製及び顕微鏡的病理は、媒体対照及び高用量群のすべての動物並びにすべての死滅して発見された動物について実施し、低用量及び中用量群の標準的な組織(約65)及び標的器官のフルセットの調製、並びにすべての回復動物についての調製を含む。スライド調製及び顕微鏡的病理は、すべての動物の肉眼的病変にも実施する。
【0234】
標準的な統計的解析を使用する。AUC、t
1/2、t
max及びC
maxなどの毒物動態学解析の標準的なパラメーターも使用する。
【0235】
6.1.10 臨床研究
臨床試験/概念実証
図13は、糖尿病性足感染症の分類、及び本発明による例示的なファージカクテル組成物を使用する、糖尿病性足感染症へのファージ療法の適用を説明する。基本的に、本発明によるバクテリオファージカクテル組成物は、PEDIS分類に基づいて、グレード2〜3の潰瘍に適用する。投与は、創傷のデブリードマンの後に局所的に適用される液体製剤の使用を伴う。
【0236】
図14は、糖尿病性足部潰瘍に対する療法で使用するための本発明による例示的なファージカクテル組成物に対する臨床研究計画を説明する。研究の種類は、平行割付(parallel assignment)の介入モデルを伴う介入性であり、研究計画はオープンラベルマスキングを用いる無作為割付を伴い、エンドポイント分類は安全性及び有効性を含むが、主な目的は処置に関してである。主要転帰の尺度は、微生物組織負荷(生検)、創傷液体微生物負荷(時間枠:発泡体の取替え毎)、及び組織微生物負荷(時間枠:24時間/第3日/第5日/臨床徴候オフ/オン)を含む。二次転帰の尺度は、各経過観察来院(時間枠4週間及び12週間)の際の創傷評価を含む。
【0237】
スクリーニングの来院及び創傷のデブリードマンの後に、適格な患者集団にプラセボ又は10
9ファージ/cm
2/投与の本発明によるバクテリオファージカクテル組成物を、最初の24時間は4時間/4時間で、次いで5日間は1日1回で無作為に与える。薬物の安全性及び有効性は、プラセボ群と比較する。しかし、患者が、切断を要する危険性があると判定される場合は、その患者を療法群に含めることもできる。
【0238】
判定基準は、以下の組み入れ基準及び除外基準を伴う。組み入れ基準は、PEDIS分類によるグレード2又は3の潰瘍部位における臨床的細菌感染症、及び陰圧閉鎖療法への禁忌がないことを含む。除外基準は、7日前以内の、創傷ケア進展のための任意の薬剤の創傷への局所適用(例えば増殖因子の使用)を含む。
【0239】
前述の説明を読めば、当業者は何らかの改変及び改善を思い浮かべるであろう。すべてのそうした改変及び改善は、簡潔さと読み易さのために本明細書において削除されているが、適切に、以下の特許請求の範囲の範囲内にあることを理解されたい。
【0240】
本明細書に引用されるすべての刊行物、特許及び特許出願は、すべての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。