(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186428
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20170814BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
C09K3/14 520F
F16D69/02 G
C09K3/14 520Z
C09K3/14 520C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-506500(P2015-506500)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2013058255
(87)【国際公開番号】WO2014147807
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(72)【発明者】
【氏名】服部 恭輝
(72)【発明者】
【氏名】矢口 光明
(72)【発明者】
【氏名】高田 利也
【審査官】
鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5057000(JP,B2)
【文献】
特開平08−135701(JP,A)
【文献】
特開2012−107084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材であって、摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、前記摩擦材組成物は、潤滑材として平均粒子径が1〜70μmの薄片状黒鉛粒子(バインダを使用して凝集させたものを除く)を摩擦材組成物全量に対し0.3〜5重量%含有し、摩擦材組成物に含まれる銅成分の総量が摩擦材組成物全量に対して5重量%未満であることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記薄片状黒鉛粒子は、平均粒子径が30〜500μmの凝集物(バインダを使用して凝集させたものを除く)の形態で摩擦材組成物に含有されることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記摩擦材組成物は、さらに平均粒子径100〜400μmのマイカを摩擦材組成物全量に対し2〜10重量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、NAO(Non-Asbestos-Organic)材の摩擦材組成物を成型した摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車の制動装置としてディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として鋼鉄等の金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
摩擦材は、繊維基材としてスチール繊維を摩擦材組成物全量に対して30重量%以上60重量%未満含有するセミメタリック摩擦材と、繊維基材の一部にスチール繊維を含み、且つ、スチール繊維を摩擦材組成物全量に対して30重量%未満含有するロースチール摩擦材と、繊維基材としてスチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維を含まないNAO材に分類されている。
【0004】
ブレーキノイズの発生が少ない摩擦材が求められている近年においては、スチール系繊維を含まず、且つ、結合材、繊維基材、潤滑材、チタン酸金属塩、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、充填材等から成る、NAO材の摩擦材を使用したディスクブレーキパッドが広く使用されるようになってきている。
【0005】
ディスクブレーキパッドに使用されるNAO材の摩擦材には、耐フェード性と耐摩耗性を確保するため、銅や銅合金の繊維又は粒子等の銅成分が必須成分として摩擦材組成物全量に対し、5〜20重量%程度添加されている。
【0006】
しかし近年、このような摩擦材は制動時に摩耗粉として銅を排出し、この排出された銅が河川、湖、海洋に流入することにより水域を汚染する可能性があることが示唆されている。
【0007】
このような背景から、アメリカのカリフォルニア州やワシントン州では、2021年以降、銅成分を5重量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止し、2025年以降、銅成分を0.5重量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止する法案が可決している。
【0008】
そして、今後このような規制は世界中に波及するものと予想されることから、NAO材の摩擦材に含まれる銅成分を削減することが急務となっており、NAO材の摩擦材に含まれる銅成分を削減することにより低下する、耐フェード性と耐摩耗性の改善が課題となっている。
【0009】
特許文献1には、金属スズ又はスズ合金を摩擦材組成物全量に対し0.5〜50重量%と、銅を摩擦材組成物全量に対し0.001〜4.999重量%含有する摩擦材組成物を成型してなる摩擦材が記載されている。
【0010】
特許文献2には、結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有するノンアスベスト摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、無機充填材として、マイカ及び粒子径90μm以下の黒鉛を含有し、かつ、粒子径が90μmを超える黒鉛を含有しないノンアスベスト摩擦材組成物、及び、該ノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材が記載されている。
【0011】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の摩擦材は銅成分の含有量について上記の法規を満足しているが、耐フェード性と耐摩耗性の要求性能を十分に確保しているとは言えない。
【0012】
特許文献3には、繊維基材と、樹脂結合剤と、充填剤とを含む摩擦材において、前記充填剤として、鱗状天然黒鉛を薄片化し、かつ造粒した薄片化造粒黒鉛であって、平均粒子径が100〜1000μmであり、かつ、嵩密度が0.10〜0.20g/cm
3である薄片化造粒黒鉛を含有する摩擦材が記載されている。
【0013】
この薄片化造粒黒鉛は、鱗状天然黒鉛を劈開して薄片化し、これをコールタールピッチ、或いはバルクメソフェーズピッチ、またはフェノール樹脂、ポリイミド樹脂等の黒鉛化性バインダと混合、混練し、造粒した後炭化焼成するか、または炭化焼成した後粉砕することによって形成されたものであり、比較的粒子径が大きく、嵩密度が小さいため、摩擦材の気孔率を適切に高める効果がある。
【0014】
薄片化造粒黒鉛は粒子全体が黒鉛化性バインダによりコーティングされており、薄片化黒鉛が本来持つ熱伝導性、導電性等の特性が黒鉛性バインダにより阻害されるため、気孔率を高める効果以外は期待できない。
【0015】
また、摩擦材に含まれる銅成分を削減することにより、製造工程においても様々な問題が顕在化している。
【0016】
ディスクブレーキパッドは、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、塗料を塗装する塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗装焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0017】
塗装工程は、有機溶剤塗料等の液体塗料をしたスプレー塗装に比べ、塗膜性能に優れ、塗料の回収も容易で揮発性有機溶剤による環境負荷もないメリットがあることから、特許文献4のような粉体塗料を使用した静電粉体塗装が採用されている。
【0018】
塗装は、防錆を目的として金属製のバックプレートの外面のみ実施されていたが、近年では、ディスクブレーキパッドの商品価値を高めるために、バックプレートの外面だけではなく摩擦面を除く摩擦材の外周側面も塗装されるようになってきている。
【0019】
摩擦材に金属材料を含んでいる場合には摩擦材も導電性を有するため、金属製のバックプレートと同様に摩擦材を静電粉体塗装することが可能である。しかし、銅成分を削減することにより摩擦材の導電性が著しく低下し、静電気による粉体塗料の付着力が弱くなるので、摩擦材側面への塗装が困難になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国公開特許2010/0331447号公報
【特許文献2】特許第5057000号公報
【特許文献3】特開平8−135701号公報
【特許文献4】特開平6−320067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、耐フェード性と耐摩耗性の要求性能を確保でき、更に静電紛体塗装による塗装性が良好な摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに使用されるNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、潤滑材として特定の平均粒子径を持つ薄片状黒鉛粒子を特定量含有し、摩擦材組成物に含まれる銅成分の総量が摩擦材組成物全量に対し5重量%未満である摩擦材組成物を使用することにより上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成した。
【0023】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0024】
(1)ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材であって、摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、前記摩擦材組成物は、潤滑材として平均粒子径が1〜100μmの薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し0.3〜5重量%含有し、摩擦材組成物に含まれる銅成分の総量が摩擦材組成物全量に対して5重量%未満であることを特徴とする摩擦材。
【0025】
(2)前記薄片状黒鉛粒子は、凝集物の形態で摩擦材組成物に含有されることを特徴とする(1)の摩擦材。
【0026】
(3)前記摩擦材組成物は、さらに平均粒子径100〜400μmのマイカを摩擦材組成物全量に対し2〜10重量%含有することを特徴とする(1)又は(2)の摩擦材。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用されるNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら耐フェード性と耐摩耗性を確保でき、更に静電紛体塗装による塗装性が良好な摩擦材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の摩擦材を用いてなるディスクブレーキパッドの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明においては、ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材組成物を成型した摩擦材において、潤滑材として平均粒子径が1〜100μmの薄片状黒鉛粒子を摩擦材組成物全量に対し0.3〜5重量%含有し、摩擦材組成物に含まれる銅成分の総量が摩擦材組成物全量に対して5重量%未満である摩擦材組成物を使用する。
【0030】
薄片状黒鉛粒子は、高アスペクト比の薄片形状を持つ黒鉛粒子であり、通常摩擦材に使用される天然鱗片状黒鉛,キッシュ黒鉛,熱分解黒鉛よりも熱伝導性が大きく、上記のように摩擦材組成物に添加することにより摩擦材の放熱性を向上させることができる。
【0031】
また、薄片状黒鉛粒子は高い導電性を有することから、摩擦材に導電性を付与することができ、銅成分を削減した場合においても、静電粉体塗装による塗装性が低下することが無い。
【0032】
薄片状黒鉛粒子は、天然鱗片状黒鉛,キッシュ黒鉛,熱分解黒鉛等の粒子を数十〜数百倍に発熱膨張させた膨張黒鉛粒子を微粉砕して得られる黒鉛粒子である。
【0033】
膨張黒鉛は、天然鱗片状黒鉛,キッシュ黒鉛,熱分解黒鉛等の黒鉛粒子に高濃度の硫酸、硝酸及び酸化剤を添加し、適宜の温度で適宜の時間反応させて硫酸―黒鉛層間化合物を合成し、これを水洗した後、1000℃の高温に加熱することにより、黒鉛粒の厚さ方向に100〜300倍膨張させる方法等により製造される。
【0034】
薄片状黒鉛粒子は上記の方法等により得られた膨張黒鉛粒子の空隙内に液体を充填した状態又は該液体を凍結した状態で粉砕する方法や、膨張黒鉛粒子を液体中に分散させ、液体中で超音波を作用させる方法や、膨張黒鉛粒子を液体中に分散させ、液体中にてメディアを作用させて磨砕する方法や、膨脹黒鉛を分散媒体に浸漬した後、粗粉砕して黒鉛スラリーとし、スラリーを摩砕機で微粉砕する方法等により製造される。
【0035】
薄片状黒鉛粒子としては、例えば、ASBURYCARBONS, INC.製のSURFACE ENHANCED FLAKE GRAPHITEシリーズが挙げられ、商業的に入手することができる。
【0036】
また、薄片状黒鉛粒子は薄片状黒鉛粒子を、バインダを使用せず凝集させた凝集物の形態で摩擦材組成物に含有されることが好ましい。
【0037】
薄片状黒鉛粒子を凝集物の形態で摩擦材組成物に添加することにより、薄片状黒鉛粒子を摩擦材中に均一に分散させることができる。凝集物は平均粒子径30〜500μmであることが好ましい。
【0038】
薄片状黒鉛粒子の凝集物は、薄片状黒鉛粒子をローラーコンパクターで圧縮し、整粒機で整粒する方法や、回転式ドラム造粒装置や流動層造粒装置や転動流動層造粒装置等の通常の造粒装置を用いて造粒する方法等、通常実施される方法を用いて製造される。
【0039】
薄片状黒鉛粒子の凝集物としては、例えば、TIMCALS.A.製のC−THERM(米国登録商標)シリーズが挙げられ、商業的に入手することができる。
【0040】
薄片状黒鉛粒子は薄片形状の面方向に対して特に高い熱伝導性を有する。ディスクブレーキパッド用の摩擦材においては、摩擦材の摩擦面の放熱性を向上させる必要があるため、薄片状黒鉛粒子の面と摩擦面が水平となるよう薄片状黒鉛粒子を配向させることが望ましい。
【0041】
そこで本発明では、薄片状黒鉛粒子の配向性を向上させるため、無機摩擦調整材として平均粒子径100〜400μmのマイカを摩擦材組成物全量に対し2〜10重量%添加する。
【0042】
マイカは、摩擦材組成物を成型用金型で成型する際、摩擦面と水平に配向しやすいという特性を持っており、上記のようにマイカを摩擦材組成物に添加することにより、摩擦材組成物に含まれる原料を全体的に同じ方向に配向させることができる。
【0043】
なお、本発明において、平均粒径はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いた。
【0044】
上記の摩擦材組成物を使用することにより、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、耐フェード性と耐摩耗性の要求性能を確保でき、更に静電紛体塗装による塗装性が良好な摩擦材を提供することができる。
【0045】
本発明の摩擦材は、上記の薄片状黒鉛粒子又は薄片状黒鉛粒子の凝集物と、マイカの他に、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、チタン酸塩、潤滑材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、充填材等を含む摩擦材組成物から成る。
【0046】
結合材として、ストレートフェノール樹脂や、フェノール樹脂をカシューオイルやシリコーンオイル、アクリルゴム等の各種エラストマーで変性した樹脂、フェノール類とアラルキルエーテル類とアルデヒド類とを反応させて得られるアラルキル変性フェノール樹脂、フェノール樹脂に各種エラストマー、フッ素ポリマー等を分散させた熱硬化性樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。結合材の含有量は、摩擦材組成物全量に対して4〜12重量%とするのが好ましく、5〜8重量%とするのがより好ましい。
【0047】
繊維基材としては、アラミド繊維,セルロース繊維,ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維,アクリル繊維等の摩擦材に通常使用される有機繊維や、銅繊維,青銅繊維,真鍮繊維,アルミニウム繊維,亜鉛繊維等の摩擦材に通常使用される金属繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
有機繊維基の含有量は、摩擦材組成物全量に対して1〜7重量%とするのが好ましく、2〜4重量%とするのがより好ましい。
【0049】
金属繊維の含有量は、摩擦材組成物全量に対して7重量%未満とするのが好ましく、4重量%未満とするのがより好ましい。銅成分を含有する金属繊維を使用する場合は、銅成分の総量が摩擦材組成物全量に対して5重量%未満、好ましくは0.5重量%未満となるようにする。なお、環境負荷低減の観点から摩擦材組成物には銅成分を含まないことがより好ましい。
【0050】
チタン酸塩としては、板状の形状をしたものが好ましく、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸カリウムマグネシウム等の摩擦材に通常使用されるチタン酸塩が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。チタン酸塩の含有量は摩擦材組成物全量に対して7〜35重量%とするのが好ましく、17〜25重量%とするのがより好ましい。
【0051】
潤滑材として上記の薄片状黒鉛粒子又は薄片状黒鉛粒子の凝集物の他に、二硫化モリブデン,硫化亜鉛,硫化スズ,複合金属硫化物等の金属硫化物系潤滑材や、上記薄片状黒鉛粒子以外の黒鉛,石油コークス,活性炭,酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉等の炭素質系潤滑材等の摩擦材に通常使用される潤滑材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。潤滑材の含有量は、上記の薄片状黒鉛粒子と合わせて摩擦材組成物全量に対して2〜13重量%とするのが好ましく、5〜10重量%とするのがより好ましい。
【0052】
無機摩擦調整材として、上記のマイカの他に、バーミキュライト,四三酸化鉄,ケイ酸カルシウム水和物,ガラスビーズ,酸化マグネシウム,酸化ジルコニウム,ケイ酸ジルコニウム,アルミナ,炭化ケイ素等の粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト,セピオライト,バサルト繊維,ガラス繊維,生体溶解性人造鉱物繊維,ロックウール等の繊維状無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。無機摩擦調整材の含有量は、上記のマイカと合わせて摩擦材組成物全量に対して15〜50重量%とするのが好ましく、20〜45重量%とするのがより好ましい。
【0053】
有機摩擦調整材として、カシューダスト,タイヤトレッドゴムの粉砕粉や、ニトリルゴム,アクリルゴム,シリコーンゴム,ブチルゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機摩擦調整材の含有量は、摩擦材組成物全量に対して3〜8重量%とするのが好ましく、4〜7重量%とするのがより好ましい。
【0054】
pH調整材として水酸化カルシウム等の通常摩擦材に使用されるpH調整材を使用することができる。pH調整材は、摩擦材組成物全量に対して2〜6重量%とするのが好ましく、2〜3重量%とするのがより好ましい。
【0055】
摩擦材組成物の残部としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填材を使用する。
【0056】
本発明のディスクブレーキに使用される摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、粉体塗料を塗装する静電粉体塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0057】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0059】
[実施例1〜11・比較例1〜6の摩擦材の製造方法] 表1、表2に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、エポキシ樹脂系の粉体塗料を摩擦帯電式の静電粉体塗装装置で塗装し、中赤外線ヒーターにより220℃で4分間加熱し塗装を焼き付けた後、研磨して摩擦面を形成し乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した(実施例1〜11、比較例1〜6)。
【0060】
得られた摩擦材において、耐フェード性、耐摩耗性、塗装性を評価した。評価結果を表3、表4に、評価基準を表5に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、耐フェード性、耐摩耗性を確保でき、更に静電紛体塗装による塗装性が良好な摩擦材を得ることができ、きわめて実用的価値の高いものである。
【符号の説明】
【0067】
1 ディスクブレーキパッド 2 バックプレート 3 摩擦材