【実施例】
【0050】
以下の実験1〜3の操作は、特に明示しない限り、25℃の温度条件下において行った。
【0051】
<実験1>
本実験では、下記表に示す組成を有するマキサカルシトール含有水溶液製剤を用いた。表中、各成分の量は、水溶液製剤の全量1mLあたりの配合量として示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(1)液体輸送管の材料によるマキサカルシトール含有水溶液製剤への影響の確認試験
本実験では、
図1に示す概略構造を備えた充填機10を用いて、以下の実験を行った。輸送管15として、内径6mmのシリコーンチューブ又は内径4mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)チューブを用いた。なお、中間タンク12、ピストン13、及び、充填ノズル14はいずれも、薬液Lと接する部分はステンレス鋼により形成されていた。なお、シリコーンチューブ又はPTFEチューブは、それぞれ、内周面を含む全体がシリコーン樹脂又はPTFE樹脂からなる。
【0054】
充填室内照明17として、波長600〜650nmのレッドランプ(Panasonic製カラーパルック蛍光灯FLR−40S・ER/M(40W型))を使用した。
【0055】
上記組成のマキサカルシトール含有水溶液製剤を薬液Lとして用いた。
輸送管15としてシリコーンチューブを備える充填機10、及び、PTFEチューブを備える充填機10のそれぞれを用いて、以下の4種の試験を行った。
試験A:遮光有り、1時間放置
試験B:遮光有り、2時間放置
試験C:遮光無し、1時間放置
試験D:遮光無し、2時間放置
【0056】
<試験A>
試験Aは次の条件で行った。
1)充填機10が設置された室内を消灯し、充填機10の充填室16内において、充填室内照明(レッドランプ)17及び図示しないレッドランプ補助光を点灯した。輸送管15としてシリコーンチューブを用いた場合、照度が460lxとなるように充填室内照明17を点灯し、輸送管15としてPTFEチューブを用いた場合、照度が1,760lxとなるように充填室内照明17を点灯した。
2)中間タンク12に薬液Lを約2,000mL収容した。
3)充填ノズル14の先端から輸送管15内の空気抜きを行い、輸送管15内を薬液Lで満たした。
4)中間タンク12とピストン13とを接続する輸送管15及びピストン13と充填ノズル14とを接続する輸送管15の全体をアルミホイルで覆い遮光した。
5)1時間後、中間タンク12とピストン13とを接続する輸送管15を、上流側(中間タンク12側)で外して、サンプリング容器(図示せず)に回収した。このとき、輸送管15としてシリコーンチューブを用いた場合は50mLを回収し、輸送管15としてPTFEチューブを用いた場合は5mLを回収した。サンプリング容器は全体をアルミホイルで覆い遮光した。輸送管15としてシリコーンチューブを用いた場合、中間タンク12内の薬液Lが輸送管15内に流入しないように、上流側を指で押さえつつ輸送管15を取り外し、薬液Lを回収した。
【0057】
<試験B>
試験Bは、上記5)に示す薬液Lの回収を1時間後ではなく2時間後に行うこと以外は、試験Aと同様の条件で行った。
【0058】
<試験C>
試験Cは、上記4)に示す輸送管15のアルミホイルによる遮光を行わないこと以外は、試験Aと同様の条件で行った。
【0059】
試験Cでは、輸送管15は遮光されていない。1時間の放置により、輸送管15としてシリコーンチューブを用いた場合には曝光量が22,800lx・min、輸送管15としてPTFEチューブを用いた場合には曝光量が105,000lx・minとなった。
【0060】
<試験D>
試験Dは、上記5)に示す薬液Lの回収を1時間後ではなく2時間後に行うこと、並びに、上記4)に示す輸送管15のアルミホイルによる遮光を行わないこと以外は、試験Aと同様の条件で行った。
【0061】
試験Dでは、輸送管15は遮光されていない。2時間の放置により、輸送管15としてシリコーンチューブを用いた場合には曝光量が45,600lx・min、輸送管15としてPTFEチューブを用いた場合には曝光量が210,000lx・minとなった。
【0062】
(2)陽性対照試験
陽性対照試験は、光曝露による影響を確認することを目的とする。
上記組成のマキサカルシトール含有水溶液製剤(薬液L)を、メジウム瓶(ガラス製)に薬液を入れ、蓋を閉じず開放した状態で、上記(1)で用いたのと同じ充填機10の充填室16内の、充填室内照明(レッドランプ)17の直下の、アンプル30が搬送される高さの位置に置き、2時間放置した。メジウム瓶内の液面の照度は900lx、2時間(120分間)の光曝露量は108,000lx・minであった。
【0063】
(3)マキサカルシトール含量及び類縁物質の分析
調合直後(「イニシャル」とする)、試験A、B、C、Dによる処理後、及び、陽性対照試験による処理後のマキサカルシトール含有水溶液製剤(薬液L)のそれぞれについて、マキサカルシトール含量、及び、類縁物質量を分析した。イニシャルのマキサカルシトール含有水溶液製剤については、3回測定し、最小桁数で四捨五入した平均値を求めた。
【0064】
(3)−A:マキサカルシトール含量
本操作は光を避け、遮光した容器を用いて行う。薬液を試料溶液とする。別に、定量用マキサカルシトール約2.5mg(含量99.5%以上、別途、水分を測定しておく)を精密に量り、エタノール(99.5%)10mLを加えて溶かし、希釈溶液を加えて正確に100mLとする。この液5mLを正確に量り、希釈液を加えて正確に50mLとし、標準溶液とする。試料溶液及び標準溶液80μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行い、それぞれの液のマキサカルシトール及びプレマキサカルシトール(マキサカルシトールに対する相対保持時間約0.8)のピーク面積の合計At及びAsを測定する。但し、プレマキサカルシトールのピーク面積は自動積分法で求めた面積に感度係数2.2を乗じた値とする。
【0065】
マキサカルシトールの量(%)=Ms×At/As×40
Ms:脱水物に換算した定量用マキサカルシトールの秤取量(mg)
At:試料溶液から得られるマキサカルシトールのピーク面積と、プレマキサカルシトールの自動積分法で求めたピーク面積に感度係数2.2を乗じた値との合計
As:標準溶液から得られるマキサカルシトールのピーク面積と、プレマキサカルシトールの自動積分法で求めたピーク面積に感度係数2.2を乗じた値との合計
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:266nm)
カラム:内径2.1mm、長さ15cmのステンレス管に2.6μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:水/ギ酸混液(1000:1)
移動相B:アセトニトリル/メタノール/ギ酸混液(750:250:1)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する。
【0066】
【表2】
流量:毎分0.32mL
【0067】
(3)−B:類縁物質
以下の条件の高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により類縁物質の量を定量した。
【0068】
本操作は光を避け、遮光した容器を用いて行う。薬液を試料溶液とする。別に、定量用マキサカルシトール約2.5mg(含量99.5%以上、別途、水分を測定しておく)を精密に量り、エタノール(99.5%)10mLを加えて溶かし、希釈溶液を加えて正確に100mLとする。この液5mLを正確に量り、希釈液を加えて正確に50mLとする。この液5mLを正確に量り、希釈液を加えて正確に50mLとする。この液5mLを正確に量り、希釈溶液を加えて正確に50mLとし、標準溶液とする。試料溶液及び標準溶液80μLずつを正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行う。それぞれの液のピーク面積を自動積分法により測定し、類縁物質の量を計算するとき、マキサカルシトールのピークに対する相対保持時間が約0.93のピークがマキサカルシトール5E異性体、約0.77のピークがマキサカルシトール20R異性体、約0.83のピークがプレマキサカルシトールに相当する。但し、プレマキサカルシトールのピーク面積は、自動積分法で求めた面積に感度係数2.2を乗じた値とする。
【0069】
マキサカルシトール5E異性体の量(%)=Ms×At5E/As×2/5
マキサカルシトール20R異性体の量(%)=Ms×At20R/As×2/5
プレマキサカルシトールの量(%)=Ms×Atp/As×2.2×2/5
その他の類縁物質の量(%)=Ms×At1/As×2/5
Ms:脱水物に換算した定量用マキサカルシトールの秤取量(mg)
As:標準溶液から得られるマキサカルシトールのピーク面積(プレマキサカルシトールのピークは検出されなかった)
At5E:試料溶液から得られるマキサカルシトール5Eの異性体のピーク面積
At20R:試料溶液から得られるマキサカルシトール20Rの異性体のピーク面積
Atp:試料溶液から得られるプレマキサカルシトールの自動積分法で求めたピーク面積
At1:試料溶液から得られるその他の類縁物質のピーク面積
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:266nm)
カラム:内径2.1mm、長さ15cmのステンレス管に2.6μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:水/ギ酸混液(1000:1)
移動相B:アセトニトリル/メタノール/ギ酸混液(750:250:1)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する。
【0070】
【表3】
流量:毎分0.32mL
【0071】
(4)結果
分析結果を下記表に示す。
類縁物質として20R異性体のピークは検出されなかった。プレマキサカルシトールの定量結果は次表では記載していない。マキサカルシトールのピークに対する相対保持時間が0.14であったピークは未知の類縁物質と推定し、「u.k.0.14」とした。表中「N.D.」はピークが検出されなかったことを示す。
【0072】
【表4】
【0073】
マキサカルシトール含有水溶液製剤をシリコーンチューブと接触させた場合、マキサカルシトールの含量の低下が著しく、且つ、u.k.0.14の増加が著しい。
【0074】
一方、マキサカルシトール含有水溶液製剤をPTFEチューブと接触させた場合、マキサカルシトールの含量の低下は僅かであった。また、u.k.0.14の増加は0.3〜0.4%程度であり十分に小さい。
【0075】
以上の結果は、マキサカルシトール含有水溶液製剤を輸送するための輸送管としては、少なくとも液と接触する内周面がPTFEにより形成されている輸送管を用いることが好ましいことを裏付ける。
【0076】
マキサカルシトール含有水溶液製剤を光曝露するとき、マキサカルシトール含量に悪影響は無いが、マキサカルシトール5E異性体量が増加する傾向が確認された。
【0077】
<実験2>
本実験では、下記表に示す組成を有するマキサカルシトール含有水溶液製剤の製造工程における曝光量の影響を確認した。表中、各成分の量は、水溶液製剤の全量1mLあたりの配合量として示す。
【0078】
【表5】
【0079】
(1)製造手順と曝光量の測定
(1)−A 秤量・1次混合工程
秤量用キャビネット内で、マキサカルシトールを容器から取り出し秤量し、無水エタノールへ溶解し、1次溶解液を調製した。
【0080】
秤量用キャビネットが置かれた部屋には、光源として、波長600〜650nmのレッドランプ(Panasonic製カラーパルック蛍光灯FLR−40S・ER/M(40W型))が設置されている。秤量用キャビネット内の照度を測定した。更に、該工程において、マキサカルシトール及び1次溶解液が、開放された容器内にあり光に曝されている時間を計測した。
【0081】
(1)−B 液調製工程
液調製工程及び後述する充填工程は、
図1に概略を示す、薬液Lを調合するための調合用タンク20、無菌濾過フィルター40、及び、調合された薬液Lをアンプル30に充填する充填機10を用いて行った。なお、各輸送管15としては、PTFEチューブを用いた。調合用タンク20と、充填機10とは、それぞれ異なる部屋に設置し、無菌濾過フィルター40は調合用タンク20と同じ部屋に設置した。
【0082】
調合用タンク20を設置した部屋には、光源として、波長600〜650nmの上記のレッドランプが設置されている。
【0083】
液調製工程は、上記の秤量・1次混合工程で得られたマキサカルシトールの1次溶解液と、表5に示す各成分とを、調合用タンク20に、開閉可能な蓋21を開けて、タンク本体24の開口部23を開放した状態で供給し、蓋21を閉じ、撹拌翼22により撹拌して混合する工程である。
【0084】
調合用タンク20のタンク本体24の開口部23の位置での照度を測定した。更に、該工程においてマキサカルシトールが光に曝されている時間、すなわち、マキサカルシトールの1次溶解液を、秤量用キャビネットから取り出し、他の成分とともに調合用タンク20内に供給し蓋21を閉じるまでの時間を測定した。調合用タンク20はステンレス鋼製であり、調合用タンク20内は蓋21を閉じると遮光されるため、蓋21を閉じてから混合液を撹拌する時間は、曝光時間には含めない。
【0085】
(1)−C 充填工程
充填工程は、調合用タンク20内で調整された薬液Lを、輸送管15を経由して充填機10の中間タンク12に供給し、供給された薬液Lを、ピストン13により、輸送管15を経由して充填ノズル14まで供給し、アンプル30に充填する工程である。アンプル30は薬液L充填後、熱により熔閉される。
【0086】
充填工程は、充填機10が設置される部屋は消灯し、充填室内照明(レッドランプ)17を点灯した状態で行った。
【0087】
充填工程は閉鎖系で行われるため、薬液Lが光に曝されるのは、透光性のPTFEからなる輸送管15を通過するときである。そこで、充填室16内の中間タンク12からピストン13までの輸送管15並びにピストン13から充填ノズル14までの輸送管15のそれぞれ光源に近い部分における照度を測定した。照度はそれぞれ透光性の輸送管15内を通過するため,測定した照度の合算値を輸送管15内の薬液Lの曝光量とした。
【0088】
使用した充填機10では、充填ノズル14一つあたり、1時間(3600秒)にアンプル2000本の速度で充填を行った。そこで、アンプル1本分の薬剤Lを充填する際の曝光時間を、3600秒を2000で割った1.8秒間と算出した。
【0089】
アンプル30として、ホウケイ酸ガラス製の1mL褐色アンプルを用いた。充填後の処理は褐色アンプル中で行っているため、充填後の処理の時間は曝光時間には含めない。
【0090】
(2)類縁物質の分析
類縁物質の分析は、実験1と同様の手順で行った。
【0091】
(3)結果
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
以上の結果から、マキサカルシトール含有水溶液製剤の製造工程において、マキサカルシトールへの波長600〜650nmの光による通算曝光量が2500 lx・min以下とすることにより、類縁物質の生成を抑制できることが確認された。
【0095】
<実験3>
本実験では、下記表に示す組成を有するマキサカルシトール含有水溶液製剤を用いた。表中、各成分の量は、水溶液製剤の全量1mLあたりの配合量として示す。
【0096】
【表8】
【0097】
(1)ガラス及びステンレス鋼によるマキサカルシトール含有水溶液製剤への影響の確認試験
50mL容量のガラス製ビーカーと、100mL容量のステンレス鋼(SUS)製ビーカーを用意した。各ビーカーに上記のマキサカルシトール含有水溶液製剤を30mL加え、蓋をせずに、室内に2.5時間放置した。実験を行った室内には、光源として、波長600〜650nmの実験1、2と同様のレッドランプが設置されており、実験はこのレッドランプを点灯した状態で行った。
【0098】
(2)マキサカルシトール含量及び類縁物質の分析
実験1と同様の手順により、マキサカルシトール含有水溶液製剤の調合直後(「イニシャル」とする)、実験開始から5分後、15分後、30分後、2.5時間後のマキサカルシトール含有水溶液製剤のそれぞれについて、マキサカルシトール含量、及び、類縁物質量を分析した。イニシャルのマキサカルシトール含有水溶液製剤については、3回測定し、小数点下3位で四捨五入した平均値を求めた。
【0099】
(3)結果
類縁物質として20R異性体のピークは検出されなかった。プレマキサカルシトールの定量結果は次表では記載していない。表中「N.D.」はピークが検出されなかったことを示す。
【0100】
【表9】
【0101】
この結果は、ガラス又はステンレス鋼との接触は、マキサカルシトール含有水溶液製剤の品質に実質的な悪影響を与えないことを示している。