(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6186541
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】タンデム加速器及びイオン注入システム
(51)【国際特許分類】
H05H 5/06 20060101AFI20170814BHJP
G21K 1/14 20060101ALI20170814BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
H05H5/06
G21K1/14
H01J37/317 C
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-510522(P2017-510522)
(86)(22)【出願日】2015年8月19日
(86)【国際出願番号】US2015045892
(87)【国際公開番号】WO2016032822
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2017年4月3日
(31)【優先権主張番号】14/469,050
(32)【優先日】2014年8月26日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239188
【氏名又は名称】ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】シュヨンウー チャン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ルポリ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム デイビス リー
(72)【発明者】
【氏名】フランク シンクレア
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ピクスリー
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−245998(JP,A)
【文献】
特開平08−184697(JP,A)
【文献】
米国特許第5247263(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 5/06
G21K 1/14
H01J 37/317
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力電極と、
複数の出力電極と、
前記複数の入力電極の最内部の電極と前記複数の出力電極の最内部の電極との間に配置され、第1の電圧でバイアスを受ける、端子と、
該端子内に配置され、前記複数の入力電極の近くの入り口と、前記複数の出力電極の近くの出口と、除去ガスの導入のための注入管路とを有する、除去管と、
該除去管の前記出口と前記複数の出力電極の前記最内部の電極との間に配置される、第1のバイアス電極とを備え、
該第1のバイアス電極は、前記第1の電圧よりもっと正の多い第2の電圧でバイアスを受ける、
タンデム加速器。
【請求項2】
前記第1のバイアス電極は前記端子内に配置される、請求項1記載のタンデム加速器。
【請求項3】
前記第1のバイアス電極は前記端子の外側に配置される、請求項1記載のタンデム加速器。
【請求項4】
前記複数の入力電極の最外部の電極は接地され、各隣接する入力電極は前の入力電極よりもっと正が多くバイアスを受け、前記複数の入力電極の前記最内部の電極は最も正が多くバイアスを受け、
前記複数の出力電極の最外部の電極は接地され、各隣接する出力電極は次の出力電極よりもっと正が少なくバイアスを受け、前記複数の出力電極の前記最内部の電極は最も正が多くバイアスを受ける、請求項1記載のタンデム加速器。
【請求項5】
前記複数の入力電極の各々は前記隣接する入力電極に抵抗器を介して結合され、前記複数の入力電極の前記最内部の電極は前記端子に結合され、
前記複数の出力電極の各々は前記隣接する出力電極に抵抗器を介して結合され、前記複数の出力電極の前記最内部の電極は前記端子に結合される、請求項4記載のタンデム加速器。
【請求項6】
前記第2の電圧を前記第1のバイアス電極へ供給する電源を、さらに備える、請求項1記載のタンデム加速器。
【請求項7】
前記電源は前記端子に関連される、請求項6記載のタンデム加速器。
【請求項8】
前記第2の電圧は前記第1の電圧より100〜2000ボルト大きい、請求項1記載のタンデム加速器。
【請求項9】
前記除去管の前記入り口と前記複数の入力電極の前記最内部の電極との間に配置され、前記第2の電圧でバイアスを受ける、第2のバイアス電極を、さらに備える、請求項1記載のタンデム加速器。
【請求項10】
複数の入力電極と、
複数の出力電極と、
前記複数の入力電極の最内部の電極と前記複数の出力電極の最内部の電極との間に配置され、第1の電圧でバイアスを受ける、端子と、
該端子内に配置され、前記複数の入力電極の近くの入り口と、前記複数の出力電極の近くの出口と、除去ガスの導入のための注入管路とを有する、除去管とを備え、
前記複数の出力電極の前記最内部の電極は、前記第1の電圧よりもっと正の多い第2の電圧でバイアスを受ける、
タンデム加速器。
【請求項11】
前記複数の入力電極の前記最内部の電極は、前記第2の電圧でバイアスを受ける、請求項10記載のタンデム加速器。
【請求項12】
前記複数の入力電極の最外部の電極は接地され、各隣接する入力電極は前の入力電極よりもっと正が多くバイアスを受け、前記複数の入力電極の前記最内部の電極は最も正が多くバイアスを受け、
前記複数の出力電極の最外部の電極は接地され、各隣接する出力電極は次の出力電極よりもっと正が少なくバイアスを受け、前記複数の出力電極の前記最内部の電極は最も正が多くバイアスを受ける、請求項11記載のタンデム加速器。
【請求項13】
前記第2の電圧を供給する電源を、さらに備え、
前記複数の入力電極の各々は前記隣接する入力電極に抵抗器を介して結合され、前記複数の入力電極の前記最内部の電極は前記電源に結合され、
前記複数の出力電極の各々は前記隣接する出力電極に抵抗器を介して結合され、前記複数の出力電極の前記最内部の電極は前記電源に結合される、請求項12記載のタンデム加速器。
【請求項14】
前記第2の電圧は前記第1の電圧より100〜2000ボルト大きい、請求項10記載のタンデム加速器。
【請求項15】
負のイオンビーム源と、
該負のイオンビーム源からの負のイオンビームを正のイオンビームに変換するタンデム加速器と、を備えるイオン注入システムであって、
前記タンデム加速器は、
複数の入力電極と、
複数の出力電極と、
前記複数の入力電極の最内部の電極と前記複数の出力電極の最内部の電極との間に配置され、第1の電圧でバイアスを受ける、端子と、
該端子内に配置され、前記複数の入力電極の近くの入り口と、前記複数の出力電極の近くの出口と、除去ガスの導入のための注入管路とを有する、除去管と、
該除去管の前記出口と前記複数の出力電極の前記最内部の電極との間に配置される、第1のバイアス電極とを備え、
該第1のバイアス電極は、前記第1の電圧よりもっと正の多い第2の電圧でバイアスを受ける、
イオン注入システム。
【請求項16】
前記負のイオンビーム源と前記タンデム加速器との間に配置される、質量分析器をさらに備える、請求項15記載のイオン注入システム。
【請求項17】
前記タンデム加速器の出力に配置される、スキャナー及びコリメータをさらに備え、前記スキャナー及び前記コリメータの出力はワークピースの方へ向けられる、請求項15記載のイオン注入システム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は2014年8月26日に出願された米国特許出願第14/469,050号の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明の実施態様はタンデム加速器及びタンデム加速器を用いるイオン注入システムに関する。
【背景技術】
【0003】
タンデム加速器は、半導体ワークピースであることが多いターゲットの方へ、イオンを加速するために使用される。タンデム加速器は、イオンビームを2回加速するために、そのように名付けられる。タンデム加速器は、次第にもっと正の多い電圧でバイアスを受けた複数の入力電極及び次第にもっと正の少ない電圧でバイアスを受けた複数の出力電極を含み、これらの2つの複数の電極の間に配置されて正のバイアスを受けた端子を有する。
【0004】
加速されたイオンビームを創生するために、負のイオンビームが正の端子の方へ加速される。この負のイオンビームは端子で電子を取り除かれて正のイオンビームになる。正のイオンビームは、次いで、正の端子から離れてもっと正の少ない出力電極の方へ加速される。
【0005】
負のイオンビームから電子を取り除くために、負のイオンビームは除去管に入る。中性分子も除去管に供給される。負のイオンビームが中性分子を通過する時に、電子は負のイオンビームから取り除かれて、負のイオンビームは正のイオンビームに変換される。これらの正のイオンは、次いで、正の端子からもっと負の多い出力電極の方へ引き付けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
理想的には、元の負のイオンから創生された正のイオンのみが、タンデム加速器を通過する。しかしながら、場合によっては、中性分子からの正のイオンなどの他のイオンもタンデム加速器を通過する。これらの望ましくないイオンは、ワークピースの品質を落とし得て、イオン注入プロセスの収率を低減し得る。
【0007】
したがって、望ましくないイオンを導入することなく、高エネルギーイオンビームを創生するための向上したタンデム加速器があることが有益である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
向上した性能を有するタンデム加速器及びイオン注入機を開示する。タンデム加速器は、複数の入力電極と、複数の出力電極と、それらの間に配置された高電圧端子とを含む。高電圧端子は除去管を含む。中性分子が除去管に注入され、中性分子は流入する負のイオンビームから電子を取り除く。その結果として生じた正のイオンは、複数の出力電極の方へ加速される。除去管を出る望ましくない正のイオンの量を低減するために、バイアス電極は、除去管の入り口と出口に配置される。バイアス電極は、端子に印加される第1の電圧より大きい第2の電圧でバイアスを受ける。バイアス電極は、ゆっくり動く正のイオンをはね返し、それらが除去管を出てワークピー
スの品質劣化をすることを防止する。
【0009】
一実施態様においてタンデム加速器を開示する。タンデム加速器は、複数の入力電極と、複数の出力電極と、前記複数の入力電極の最内部の電極と前記複数の出力電極の最内部の電極との間に配置され、第1の電圧でバイアスを受ける、端子と、該端子内に配置され、前記複数の入力電極の近くの入り口と、前記複数の出力電極の近くの出口と、除去ガスの導入のための注入管路とを有する、除去管と、該除去管の前記出口と前記複数の出力電極の前記最内部の電極との間に配置される、第1のバイアス電極とを備え、該第1のバイアス電極は、前記第1の電圧よりもっと正の多い第2の電圧でバイアスを受ける。
【0010】
別の実施態様においてタンデム加速器を開示する。タンデム加速器は、複数の入力電極と、複数の出力電極と、前記複数の入力電極の最内部の電極と前記複数の出力電極の最内部の電極との間に配置され、第1の電圧でバイアスを受ける、端子と、該端子内に配置され、前記複数の入力電極の近くの入り口と、前記複数の出力電極の近くの出口と、除去ガスの導入のための注入管路とを有する、除去管とを備え、前記複数の出力電極の前記最内部の電極は、前記第1の電圧よりもっと正の多い第2の電圧でバイアスを受ける。
【0011】
別の実施態様においてイオン注入システムを開示する。イオン注入システムは、負のイオンビーム源と、該負のイオンビーム源からの負のイオンビームを正のイオンビームに変換するタンデム加速器と、を備えるイオン注入システムであって、前記タンデム加速器は、複数の入力電極と、複数の出力電極と、前記複数の入力電極の最内部の電極と前記複数の出力電極の最内部の電極との間に配置され、第1の電圧でバイアスを受ける、端子と、該端子内に配置され、前記複数の入力電極の近くの入り口と、前記複数の出力電極の近くの出口と、除去ガスの導入のための注入管路とを有する、除去管と、該除去管の前記出口と前記複数の出力電極の前記最内部の電極との間に配置される、第1のバイアス電極とを備え、該第1のバイアス電極は、前記第1の電圧よりもっと正の多い第2の電圧でバイアスを受ける。
【0012】
本発明の理解を容易にするために、参照により本明細書に組み込まれる添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】前記実施形態のいずれかによるタンデム加速器を用いるイオン注入システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
向上したタンデム加速器及び向上したタンデム加速器を用いるイオン注入システムが開示される。向上したタンデム加速器は、除去管からの望ましくない正のイオンの通過を抑止し又は低減する。バイアス電極は、除去管の出口と複数の出力電極の間に配置される。正のバイアスを受けた電極は、高速イオンの通過に影響を与えることなく、低速で動く正のイオンの通過を抑止し又は低減し、ワークピースの品質劣化をより少なくする。
【0015】
図1はタンデム加速器100の第1の実施形態を示す。タンデム加速器100は複数の入力電極20を備える。これらの入力電極20は、チタン又は他の金属などの任意の適切な導電性材料であり得る。入力電極20の各々は、次第にもっと正の多い電圧でバイアスを受ける。最外部の入力電極20aは、接地することができる。それに続く入力電極の各々(すなわち、第2の入力電極20b、第3の入力電極20c及び最内部の入力電極20d)は、例えば1MΩを超える抵抗を有するような抵抗器23を介して、前の入力電極に接続される。もちろん、入力電極20の数は、4又は任意の他の特定の数に限定されない。いくつかの実施形態において、入力電極20の数は20以上にすることができる。
【0016】
端子30に最も近い最内部の入力電極20dは、抵抗器23を介して、端子30にも接続することができる。抵抗器23の全てが等しい抵抗を有する場合、各入力電極20の電圧は増大する大きさを有し、隣接する入力電極20間の電圧の増加は一定である。例えば、端子30が4MVなどの第1の電圧に対しバイアスを受け、4つの入力電極20を用いる場合、最外部の入力電極20aの電圧は0Vである。第2の入力電極20bは1MVでバイアスを受け、第3の入力電極20cは2MVでバイアスを受ける。最内部の入力電極20dは3MVでバイアスを受ける。さらに、上記の例は、全ての抵抗器23の抵抗は同一であると仮定しているが、本発明は本実施形態に限定されない。抵抗器23は各々異なる抵抗を有しても良いし、又、同一の抵抗を有しても良い。さらに、上記の例は、4MVの第1の電圧を開示しているが、他の電圧を用いることはでき、本発明は任意の特定の電圧に限定されない。
【0017】
いくつかの実施形態において、入力電極20の各々のアパーチャのサイズは、変化する。いくつかの実施形態において、アパーチャは、各入力電極20で次第により小さくなり、端子30に至る。例えば、最外部の入力電極20aは最も広いアパーチャを有することができ、一方、最内部の入力電極20dは最も小さいアパーチャを有することができる。最外部の入力電極20aと最内部の入力電極20dとの間の入力電極(すなわち、第2の入力電極20b及び第3の入力電極20c)のアパーチャは、次第により小さくなることができる。
【0018】
入力電極20のアパーチャは、端子30内に配置された除去管40に至る。端子30及び除去管40は、最外部の入力電極20aに対し正のバイアスを受ける。いくつかの実施形態において、端子30及び除去管40は、入力電極20の全てに対し正のバイアスを受ける。例えば、最外部の入力電極20aは接地することができ、一方、端子30は、例えば、数百万ボルトになり得る第1の電圧に対しバイアスを受ける。除去管40は、端子30と同じ電圧でバイアスを受けることができる。言い換えれば、除去管40も第1の電圧でバイアスを受ける。除去管40は、除去ガスが注入される注入管路41も含む。除去ガスは中性分子を含むことができる。これらの中性分子は、限定されないが、アルゴン及び窒素などの任意の適切な種であり得る。除去管40は、複数の入力電極20と同じ側に配設された入り口42を有する。除去管40の出口43は、複数の出力電極25と連通している。
【0019】
複数の出力電極25は、入力電極20の鏡像とすることができ、出力電極25のアパーチャは、端子30から離れるにつれてより大きくなる。例えば、最内部の出力電極25dは最も小さいアパーチャを有することができる。隣接する出力電極(すなわち、第2の出力電極25c及び第3の出力電極25b)のアパーチャは、次第により大きくなることができ、一方、最外部の出力電極25aは最も大きいアパーチャを有することができる。これらの出力電極25は、チタン又は他の金属などの任意の適切な導電性材料であり得る。
【0020】
出力電極25は、一連の抵抗器28を介して電気的に接続することもできる。上述のように、最内部の出力電極25dは、抵抗器28を介して端子30に接続することができる。各隣接する出力電極25は、抵抗器により、前の出力電極に接続することができる。最外部の出力電極25aは接地することができる。このように、各出力電極25は、端子30から離れるにつれて次第により正の電圧が少なくなる。
【0021】
いくつかの実施形態において、タンデム加速器100は鋼鉄から作ることができるハウジング(図示せず)内に収納することができる。ガラスであり得る絶縁体(図示せず)は、電極間のアーク放電を防ぐために、電極の各々の間に配置することができる。絶縁体は、イオンビームが通過するタンデム加速器の領域に真空を創生させるのにも役立つことができる。SF
6などの絶縁ガスは、ハウジング内に収容することもできる。
【0022】
端子30内に配置されるのは、バイアス電極60a,60bである。これらのバイアス電極60a,60bは、除去管40の入り口42及び出口43の近くに、それぞれ、配置される。これらのバイアス電極60a,60bは、電源80によるなどして、端子30に対して正のバイアスを受ける。言い換えれば、バイアス電極60a,60bは、端子30がバイアスを受ける第1の電圧より大きい(すなわち、もっと正の多い)第2の電圧でバイアスを受けることができる。いくつかの実施形態において、他の電圧を用いることができるけれども、第2の電圧は第1の電圧より大きい約100〜2000ボルトにすることができる。いくつかの実施形態において、電源80は端子30に関連している。
【0023】
タンデム加速器100は以下のように動作する。所望の種の負のイオンビーム10が創生される。この負のイオンビーム10は、多くの方法で生成することができる。一実施形態において、正のイオンビームは、ベルナス(Bernas)イオン源又はIHCイオン源を用いるなどの従来の方法で創生することができる。イオン源から出る正のイオンビームは、正のイオンビームを負のイオンビーム10に変換するMg電荷交換電池に結合させることができる。もちろん、負のイオンビーム10の生成のための他の機構は、当技術分野で周知である。負のイオンビーム10の創生のために用いる機構は、本開示により限定されない。
【0024】
所望の種の負のイオンビーム10は、タンデム加速器100の方へ向けられる。負のイオンビーム10は、タンデム加速器100の中へ、かつ、正のバイアスを受けた端子30の方へ、引き付けられる。
【0025】
負のイオンビーム10が入力電極20のアパーチャを通過する時に、入力電極20は次第にもっと正の多い電圧でバイアスを受けるので、負のイオンは速度を増す。
【0026】
これらの非常に速く動く負のイオンは、除去管40の入り口42に入り、その中の中性分子と衝突する。これらの中性分子は、負のイオンビーム10から電子を除去するのに役立ち、所望の種の正のイオンを創生する。
【0027】
所望の種のこれらの正のイオンは、次いで、次第にもっと正の少ない電圧でバイアスを受けた出力電極25により、除去管40の出口43から引き出されて、正のイオンビーム50を形成する。したがって、最初は、入力電極20を通過する負のイオンビーム10として、次いで、出力電極25を通過する正のイオンビーム50として、イオンは2回加速される。
【0028】
理想的には、負のイオンビーム10を形成する所望の種のみが、正のイオンに変換されて、出力電極25を介して加速される。しかしながら、他の種も正のイオンに変換されることができ、出力電極25を介して加速されることができる。
【0029】
例えば、いくつかの実施形態では、除去ガス内の中性分子は、正電荷を持つようになり、出力電極25を介して加速される。例えば、除去ガスはアルゴンであってもよい。負のイオンビーム10がアルゴン分子に衝突する場合、Ar
+などの望ましくないアルゴンイオンが形成され得る。さらに、いくつかの実施形態では、絶縁ガスの分子は、除去管40に漏出することができ、負のイオンビーム10との衝突により正電荷を持つようになり、出力電極25を介して加速される。絶縁ガスがSF
6の場合、追加の望ましくないイオンは、S
+及びF
+であり得る。さらに、除去管40が黒鉛の場合、望ましくないC
+イオンは、一次イオンビームスパッタリングから除去管40内に作り出され得る。これらの望ましくない正のイオンは、除去管40内に創出され得て、正のイオンビーム50の部分として出力電極25により引き出され得る。これらの他の種は、望ましくなく、イオン注入の品質及び収率に影響を与え得る。また、場合によっては、これらの望ましくない種は、出力電極25に衝突し又は突き当たり、出力電極25の汚染を引き起こす。
【0030】
これらの望ましくない正のイオンは、典型的に、望ましい種のより速く動くイオンより、もっとよりゆっくり動く。したがって、バイアス電極60a,60bの使用により、これらの望ましくない正のイオンを除去管40内に封じ込めることができる。上述のように、これらのバイアス電極60a,60bは、端子30及び除去管40に対して、正のバイアスを受けている。したがって、それらは、除去管40からのゆっくり動く正のイオンを除去管40の中へ戻すようにはね返しやすい。バイアス電極60a,60bは導電性であり、黒鉛又は他の金属とすることができる。
【0031】
しかしながら、バイアス電極60a,60bに加えられる第2の電圧の第1の電圧に対する大きさは、小さくすることができ、負のイオンビーム10から発生された望ましい種のより速く動く正のイオンを、遅くしはね返すには効果がないようにすることができる。しかしながら、第2の電圧と第1の電圧との間のこの正の電圧の差は、除去ガスの分子から、又は、絶縁ガスの分子から創生された正の電荷イオンなどのゆっくり動く正のイオンをはね返すには十分である。
【0032】
バイアス電極60a,60bに加えられる第2の電圧は、第1の電圧より数百ボルト又は数千ボルト大きくすることができる。例えば、一実施形態において、本発明は任意の特定の値に限定されないけれども、第1の電圧は750kVにすることができ、一方、第2の電圧は第1の電圧より140ボルト大きくすることができる。いくつかの実施形態において、第1の電圧と第2の電圧との間の差の第1の電圧と比べて(すなわち、140Vの750kVと比べて)の比率は、0.1%より小さくすることができる。他の実施形態において、この比率は、0.05%より小さくすることができる。さらに他の実施形態において、この比率は、0.02%より小さくすることができる。上述のように、除去ガスの分子又は絶縁ガスの分子から創生されたゆっくり動く正のイオンを抑制し、望ましい種の速く動く正のイオンの通過を抑制しない、任意の第2の電圧を用いることができる。
【0033】
本実施形態において、これらのバイアス電極60a,60bは、端子30内で除去管40の入り口42及び出口43の近くに配設される。それらは、少し正の多い第2の電圧で保持されるので、それらは、相隔たっているか、あるいは、除去管40及び端子30から絶縁されている。電源80は、端子30に関連することができ、従来の電源であってもよいし、蓄電池であってもよいし、又は、他の電源であってもよい。
【0034】
図2は、タンデム加速器200の第2の実施形態を示す。本実施形態において、全ての同様の構成部品は、同一の参照番号が与えられており、再び説明はしない。それ故に、
図2は
図1の実施形態に関連して解釈すべきである。本実施形態において、バイアス電極70a,70bは、端子30の外側に配置される。これらのバイアス電極70a,70bは、端子30と最内部の入力電極20dとの間、及び、端子30と最内部の出力電極25dとの間に、それぞれ配置される。バイアス電極70a,70bは、電源80によるような端子30の第1の電圧より大きい、第2の電圧でバイアスを受ける。バイアス電極70a,70bは、最内部の入力電極20d、最内部の出力電極25d及び端子30から分離されているか、あるいは、絶縁されている。前の実施形態と同様に、バイアス電極70aは最内部の入力電極20dと除去管40の入り口42との間に配置される。バイアス電極70bは、最内部の出力電極25dと除去管40の出口43との間に配置される。
【0035】
図3は、タンデム加速器300の別の実施形態を示す。このタンデム加速器300は、単一のバイアス電極70のみが端子30の出口側に配置されることを除いて、
図2のタンデム加速器200と同一である。望ましくないイオンが出力電極25を通って通過することにより、収率及び品質の低減に導くかもしれないために、いくつかの実施形態において、端子30の入り口側のバイアス電極を除去することができる。なお、所望の場合、
図1の実施形態は、バイアス電極60bのみを端子30の出口側に含むように変更することができる。
【0036】
図1〜3の実施形態は全てタンデム加速器を含み、タンデム加速器は、次第にもっと正の多い電圧でバイアスを受けた複数の入力電極20、次第にもっと正の少ない電圧でバイアスを受けた複数の出力電極25、及び、これらの2つの複数の電極の間に配置されて第1の電圧でバイアスを受けた端子30を有する。各実施形態において、除去管40は端子30内に配置され、第1のバイアス電極は除去管40の出口43と最内部の出力電極25dとの間に配置される。いくつかの実施形態において、第1のバイアス電極は端子30内に配置され(
図1を参照)、一方、他の実施形態において、第1のバイアス電極は端子30の外側に配置される(
図2、3を参照)。第1のバイアス電極は第2の電圧でバイアスを受け、第2の電圧は、ゆっくり動く正のイオンを除去管40の中へ戻すようにはね返すのに、端子30に印加される第1の電圧より、もっと正が多い。
【0037】
いくつかの実施形態では、第2のバイアス電極は除去管40の入り口42と最内部の入力電極20dとの間に配置される。いくつかの実施形態において、第2のバイアス電極は端子30内に配置され(
図1を参照)、一方、他の実施形態において、第2のバイアス電極は端子30の外側に配置される(
図2を参照)。第2のバイアス電極は第2の電圧でバイアスを受けることもでき、第2の電圧は、ゆっくり動く正のイオンを除去管40の中へ戻すようにはね返すのに、端子30に印加される第1の電圧より、もっと正が多い。
【0038】
図4は別の実施形態を示す。本実施形態では、タンデム加速器400は、
図1〜3で示したような別個のバイアス電極を含まない。むしろ、最内部の出力電極25dは第2の電圧でバイアスを受け、第2の電圧は、電源80を用いるなどで端子30に印加される第1の電圧より、もっと正が多い。このように、最内部の出力電極25dは、前の実施形態の第1のバイアス電極と同じ機能を果たす。いくつかの実施形態では、最内部の入力電極20dは、端子30より、もっと正が多い電圧で同様にバイアスを受けることができる。他の実施形態では、最内部の入力電極20dは、抵抗器23を介して端子30に結合することができる(
図3を参照)。
【0039】
図4に示す実施形態は、最内部の出力電極25d及び最内部の入力電極20dを電源80の出力に結合することにより、創生することができ、前の実施形態で行ったように、端子30を電源80の出力に結合することはしない。
【0040】
図4に示す実施形態では、第2の出力電極25cは、抵抗器28を介して端子30に電気的に結合される。同様に、第3の入力電極20cは、抵抗器23を介して端子30に電気的に結合される。
【0041】
別の実施形態では、第2の出力電極25cは、抵抗器を介するなどで最内部の出力電極25dに電気的に結合される。この抵抗器は、他の出力電極(すなわち、第3の出力電極25b及び最外部の出力電極25a)を結合するために用いられる抵抗器28の値とは異なる値にすることができる。他の実施形態では、この抵抗器は同じ値にすることができる。これらの実施形態において、最内部の出力電極25dは、端子30に印加される第1の電圧より大きい第2の電圧であるけれども、第2の出力電極25c、第3の出力電極25b及び最外部の出力電極25aは、各々、端子30より正の少ない電圧である。
【0042】
最内部の出力電極25d及び選択的に最内部の入力電極20dは、次いで、ゆっくり動く正のイオンを端子30の方へ戻すようにはね返すのに役立つ。したがって、本実施形態では、タンデム加速器400は、次第にもっと正の多い電圧でバイアスを受けた複数の入力電極20、次第にもっと正の少ない電圧でバイアスを受けた複数の出力電極25、及び、これらの2つの複数の電極の間に配置されて第1の電圧でバイアスを受けた端子30を備える。除去管40は端子30内に配置される。本実施形態では、少なくとも最内部の出力電極25dは、第1の電圧より、もっと正が多い第2の電圧でバイアスを受ける。
【0043】
したがって、前の実施形態のように、本実施形態は、除去管40の出口43の近くに配置された最内部の出力電極25dを含み、最内部の出力電極25dは、端子30に印加される第1の電圧より、もっと正が多い第2の電圧でバイアスを受ける。さらに、いくつかの実施形態では、最内部の入力電極20dは、除去管40の入り口42の近くに配置され、第2の電圧でバイアスも受ける。
【0044】
本明細書で説明される任意のタンデム加速器は、イオン注入システムの構成部品として用いることができる。
図5は、前記実施形態のいずれかによるタンデム加速器を含む代表的イオン注入システムを示す。
【0045】
イオン注入システムは、負のイオンビームを発生するために用いられる負のイオンビーム源500を備える。上述のように、これは、正のイオンビームを発生するために用いられる従来のイオン源であり得て、Mg交換電池がイオン源の出力に結合される。負のイオンビーム源500の出力は、質量分析器510に向けることができ、質量分析器510は特定のイオン種の通過を可能とするだけである。質量分析器510を出るイオンは、タンデム加速器520の方へ向けられ、タンデム加速器520で1組の入力電極により端子の方へ加速される。このタンデム加速器520は、
図1〜4で説明した任意の実施形態であり得る。これらの実施形態の各々において、端子内に配置された除去管の中で、電子は負のイオンビームから除去され、正のイオンビームは出力電極によりタンデム加速器520から加速される。正のイオンビームは、次いで、フィルター530の方へ向けることができ、フィルター530は特定の電荷のみのイオンの通過を可能にする。他の実施形態では、フィルターを用いないようにすることができる。フィルター530の出力は、スキャナー及びコリメータ540を通過することができ、スキャナー及びコリメータ540は、イオンの所望の種を含む最終イオンビームを創生するのに役立つ。スキャナー及びコリメータの出力は、次いで、ワークピース550の方へ向けられる。
【0046】
本明細書で説明されるタンデム加速器及びイオン注入システムは、タンデム加速器から出る不必要なイオンの数を低減することができる。上述のように、除去ガス又は絶縁ガスから形成される不必要な正のイオンは、ワークピース又は出力電極の品質を落とし得る。これは、CMOSイメージセンサーなどに形成されるデバイスの製造量を低減し得て、又は、タンデム加速器の性能にマイナスの影響を及ぼし得る。除去管の出口にバイアス電極を導入することにより、(典型的に除去ガス又は絶縁ガスから形成される)よりゆっくりと動くイオンをはね返すことができ、除去管の中に封じ込めることができ、一方、望ましいイオンを加速し出力電極の方へ向ける。
【0047】
本発明は本明細書に記載された特定の実施形態によって範囲を限定されるものではない。実際に、本明細書に記載された実施形態に加えて、本発明の他の様々な実施形態および変更例が前述の記載および添付図面から当業者には明らかであろう。したがって、このような他の実施形態および変更例は、本発明の範囲内に含まれることを意図している。さらに、本発明は、特定の目的のための、特定の環境における、特定の実施形態の文脈で本明細書に記載されているが、その有用性は特定の実施形態に限定されるものでなく、本発明は多くの目的のために多くの環境で有益に実装し得ることは当業者に認識されよう。従って、以下に記載する特許請求の範囲は、本明細書に記載された本発明の全範囲及び精神に鑑みて解釈されるべきものである。
【要約】
向上した性能を有するタンデム加速器及びイオン注入機を開示する。タンデム加速器は、複数の入力電極と、複数の出力電極と、それらの間に配置された高電圧端子とを含む。高電圧端子は除去管を含む。中性分子が除去管に注入され、中性分子は流入する負のイオンビームから電子を取り除く。その結果として生じた正のイオンは、複数の出力電極の方へ加速される。除去管を出る望ましくない正のイオンの量を低減するために、バイアス電極は、除去管の入り口と出口に配置される。バイアス電極は、端子に印加される第1の電圧より大きい第2の電圧でバイアスを受ける。バイアス電極は、ゆっくり動く正のイオンをはね返し、それらが除去管を出てワークピース及び出力電極の品質劣化をすることを防止する。