(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6186545
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】高塩基性塩化アルミニウムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/56 20060101AFI20170814BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
C01F7/56 A
B01D21/01 102
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-523933(P2017-523933)
(86)(22)【出願日】2016年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2016060841
【審査請求日】2017年5月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000213840
【氏名又は名称】朝日化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】北山 博章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】久保 広和
(72)【発明者】
【氏名】楫野 正行
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−024694(JP,A)
【文献】
特開2009−203125(JP,A)
【文献】
特開2000−264627(JP,A)
【文献】
特開平05−000814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 − 7/76
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が、Si/Al2O3(モル比)=0.001〜0.1、M/Al2O3(モル比)=0.1〜1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0〜0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0〜3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0〜0.08であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウム。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属Eが、マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載の高塩基性塩化アルミニウム。
【請求項3】
前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50〜80%であることを特徴とする請求項1または2に記載の高塩基性塩化アルミニウム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法であって、
(1)塩基度40〜65%の塩基性塩化アルミニウム第1溶液と、アルカリケイ酸塩を含むアルカリ溶液とを混合し反応させてアルミナゲルを生成させる第1工程と、
(2)第1工程で得られるアルミナゲルを塩基度40〜55%の塩基性塩化アルミニウム第2溶液に添加し溶解する第2工程と、
(3)第2工程で得られる、アルミナゲルが溶解した第2溶液を、30〜60℃で熟成する第3工程と、を包含することを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【請求項5】
前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50〜80%であることを特徴とする請求項4に記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【請求項6】
前記塩基性塩化アルミニウム第2溶液が、硫酸アルミニウムを含む塩基性塩化アルミニウム溶液であることを特徴とする請求項4または5に記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【請求項7】
前記第3工程において、さらに硫酸アルミニウムを添加して熟成を行うことを特徴とする請求項4または5に記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【請求項8】
前記塩基性塩化アルミニウム第1溶液が、塩化マグネシウムを含む塩基性塩化アルミニウム溶液であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【請求項9】
前記塩基性塩化アルミニウム第2溶液が、塩化マグネシウムを含む塩基性塩化アルミニウム溶液であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業排水・用水、上下水などの水処理用凝集剤に使用する高塩基性塩化アルミニウムに関し、さらには、処理すべき水の各種類によるpH、アルカリ度、溶解イオン、濁度などの幅広い変動にも対応でき、また保管時の大きい温度変化にも対応できる保管安定性に優れた高塩基性塩化アルミニウムに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理用凝集剤である塩基性塩化アルミニウムは、一般的に、塩酸とアルミナ水和物を反応させ、塩基性塩化アルミニウムとなし、これに硫酸又は水溶性硫酸塩を添加し含硫酸塩塩基性塩化アルミニウム(PAC)が製造されている。
【0003】
具体的には、目標とする塩基度に応じて塩酸とアルミナ水和物をオートクレーブに投入し、約120℃〜約200℃で、約30分〜約1時間撹拌することにより塩基性塩化アルミニウムを合成し、次いで冷却後これに硫酸又は水溶性硫酸塩を添加し、含硫酸塩塩基性塩化アルミニウムを製造する方法である。
【0004】
このようにして得られるPACは、塩基度が50%前後であり、このため硫酸根を含有させることにより、凝集性能を向上させているが、pH、アルカリ度、溶解しているイオン、濁度などが異なる種々の水すべてに対応できるわけではなく、適用範囲が狭められている。
【0005】
このため、塩基度を上げ凝集性能を向上させることにより、水の種類による幅広い物性の変動に対応できる塩基性塩化アルミニウムを得ることが期待される。
【0006】
高塩基度の塩基性塩化アルミニウムの製造方法については、特許文献1には、(1)塩基度が50%未満の塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリとして炭酸塩、又はアルミン酸アルカリ溶液と炭酸塩の混合溶液のいずれか一種を所要の割合にて同時に添加混合反応せしめアルミナゲルを生成する第1工程、(2)第1工程で得られたアルミナゲルを、塩基度が50%未満の塩基性塩化アルミニウム溶液に、溶解する第2工程、(3)第2工程で得られた塩基性塩化アルミニウム溶液に水溶性硫酸塩を添加する第3工程、よりなることを特徴とする塩基度が60〜80%の硫酸根含有高塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法が開示されている。このようにして得られる高塩基性塩化アルミニウムは、従来の塩基性塩化アルミニウム(PAC)に比べると、広範囲の幅広い物性の変動による水処理に対し一定程度改善効果があるが、十分ではない。また安定性については、むしろ劣化する傾向にある。
【0007】
安定性については、添加する硫酸根が関与していることが知られている。たとえば特許文献2には、添加する硫酸根が安定性に影響し、アルミニウムイオンが加水分解反応を起こさないよう、塩基度、Al
2O
3濃度を考慮して60℃以下でSO
4を添加することが記載されている。
【0008】
また特許文献3には、PAC中に含有させた硫酸イオンは、PACの凝集性能を向上させる反面、PAC中の硫酸イオン濃度が高くなると、PACの安定性を阻害して、保存時に液の白濁さらにはゲル化等の問題を生ずる。そのため、PAC中に含有させる硫酸イオン濃度には限界があり、塩化アルミニウムの日本工業規格(JIS)K1475では、アルミニウム(Al
2O
3として)含有量の範囲を10.0〜11.0%、塩基度の範囲を45〜65%、硫酸イオン含有量を3.5%以下に規制していることが記載されている。
【0009】
また、洗浄後の洗浄水排水等には、硫酸イオンが1mg/L以下しか含まれていない場合があり、このような硫酸イオン濃度が1mg/L以下の被処理水に、アルミニウム塩系の従来のPACを注入しても、被処理水中の懸濁物質や溶解性有機物等の凝集は良好に行われないことが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、硫酸根含有量が残存Al濃度の低減に関係しており、少ない方が残存Alの低減のできることが記載されており、硫酸根は少ない方が良いことを示唆している。
【0011】
したがって、幅広い水の種類による物性変動に対応し、温度変化にかかわらず保管安定性が向上した塩基性塩化アルミニウムを得るには、塩基度および硫酸根濃度により制御するのは限界があり、硫酸根濃度を低減させると共にその硫酸根に代わる添加物による凝集性の向上、安定性に向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−172824号公報
【特許文献2】特開昭50−29479号公報
【特許文献3】特開2009−279512号公報
【特許文献4】特開2000−271574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、産業排水・用水、上下水などの水処理用凝集剤に使用する塩基性塩化アルミニウムに関し、硫酸根濃度をできるだけ少なくして、処理すべき水の各種類によるpH、アルカリ度、溶解イオン、濁度などの幅広い変動にも対応でき、また保管時の大きい温度変化にも対応できる保管安定性に優れた塩基性塩化アルミニウムを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、組成が、Si/Al
2O
3(モル比)=0.001〜0.1、M/Al
2O
3(モル比)=0.1〜1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al
2O
3(モル比)=0〜0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al
2O
3(モル比)=1.0〜3.0、SO
4/Al
2O
3(モル比)=0〜0.08であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムである。
【0016】
また本発明は、前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50〜80%であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムである。
【0017】
さらにまた本発明は、前記高塩基性塩化アルミニウムの製造方法であって、
(1)塩基度40〜65%の塩基性塩化アルミニウム第1溶液と、アルカリケイ酸塩を含むアルカリ溶液とを混合し反応させ、アルミナゲルを生成させる第1工程と、
(2)第1工程で得られるアルミナゲルを塩基度40〜55%の塩基性塩化アルミニウム第2溶液に添加し溶解する第2工程と、
(3)第2工程で得られる、アルミナゲルが溶解した第2溶液を、30〜60℃で熟成する第3工程と、を包含することを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法である。
【0018】
また本発明は、前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50〜80%であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法である。
また本発明は、前記塩基性塩化アルミニウム第2溶液が、硫酸アルミニウムを含有した塩基性塩化アルミニウム溶液であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法である。
【0019】
また本発明は、前記第3工程において、さらに硫酸アルミニウムを添加して熟成を行うことを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法である。
また本発明は、前記塩基性塩化アルミニウム第1溶液が、塩化マグネシウムを含む塩基性塩化アルミニウム溶液であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法である。
【0020】
また本発明は、前記第2工程において、用いる塩基性塩化アルミニウム第2溶液が、塩化マグネシウムを含む塩基性塩化アルミニウム溶液であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、塩基性塩化アルミニウムにおいて、硫酸根濃度を低くし、SiまたはSiとMg化合物を含有させることにより、産業排水・用水、上下水などpH、アルカリ度、溶解イオン、濁度などの幅広い範囲の水処理に適応でき、また保管安定性に優れた凝集剤である高塩基性塩基性塩化アルミニウムを得ることができる。
【0022】
本発明は、硫酸根濃度を低くし、SiまたはSiとMg化合物を含有させた高塩基性塩基性塩化アルミニウムであって、産業排水・用水、上下水などpH、アルカリ度、溶解イオン、濁度などの幅広い範囲の水処理に適応でき、また保管安定性に優れた凝集剤である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とからより明確になるであろう。
【0024】
【
図1】
図1は、実験例において、実施例および比較例で高塩基性塩基性塩化アルミニウムの河川水に対するフロック状態を評価するために使用したフロック粒径図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、組成が、Si/Al
2O
3(モル比)=0.001〜0.1、M/Al
2O
3(モル比)=0.1〜1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al
2O
3(モル比)=0〜0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al
2O
3(モル比)=1.0〜3.0、SO
4/Al
2O
3(モル比)=0〜0.08の高塩基性塩化アルミニウムである。またその塩基度は好ましくは、50〜80%であり、さらに好ましくは、60〜80%である。
【0026】
この高塩基性塩化アルミニウム中には、SiがAl
2O
31モルに対し0.001〜0.1モル含まれる。特に好ましくは、0.003〜0.07モルである。Siは凝集性を高めると共に特に高濁度での処理水に効果がある。0.001モルより少ないと、凝集性に改善が認められず、0.1モルを超えても効果が飽和するので好ましくない。
【0027】
またこの高塩基性塩化アルミニウム中には、Na、Kなどアルカリ金属がAl
2O
31モルに対し0.1〜1.2モル、特に好ましくは0.3〜0.8モル含まれる。このアルカリ金属は、製造工程で反応によりアルミナゲルを生じさせるために必然的に含有するものである。前記アルカリ金属は、高塩基性塩化アルミニウムにおいて、NaClまたはKClの形態で含まれるが、このアルカリ金属が、Al
2O
31モルに対し0.1モル未満だと所望の量のゲルを得ることができず塩基度が上がらないので好ましくなく、1.2モルを超えると、安定性が悪くなるので好ましくない。1.2モルを超える場合には、ゲル生成段階で脱塩処理をし、範囲内とすることが好ましい。
【0028】
またこの高塩基性塩化アルミニウム中には、必要に応じCa、Mgなどアルカリ土類金属がAl
2O
31モルに対し0〜0.3モル、特に好ましくは0.02〜0.2モル含まれる。アルカリ土類金属としてはMgが好ましい。このアルカリ土類金属は、シリコンとの相乗効果により、さらに凝集性を高め、特に低濁度、高pH領域で効果がある。含有量が0.3モルを超えても効果が飽和するため好ましくない。
【0029】
またこの高塩基性塩化アルミニウム中には、ClがAl
2O
31モルに対し1.0〜3.0モル、特に好ましくは1.5〜2.7モル含まれる。このClは、Alに結合しているClとアルカリ金属に結合しているClを合算したものである。1.0モル未満であっても、3.0モルを超えても塩基性塩化アルミニウムの安定性が悪くなるので好ましくない。
【0030】
またこの高塩基性塩化アルミニウム中には、SO
4がAl
2O
31モルに対し0〜0.08モル含まれる。このSO
4は凝集性に対し補助的に用いられ、水の種類によっては含まなくても可能である。
【0031】
SO
4含有量は、市販(たとえば朝日化学工業社製)のポリ塩化アルミニウム(PAC)の分析例(Al
2O
3:10.3%、塩基度:52%、SO
42−:2.6%(SO
4/Al
2O
3(モル比)=0.27)に比べると著しく含有量が小さい。
【0032】
硫酸根は、凝集性を高くする効果があるが、これによる凝集性は、処理すべき水のpH、アルカリ度、溶解イオン、濁度などの変動の影響を受けやすい。また塩基度が高くなると、硫酸根により安定性が悪くなり、含有量も著しく制限される。本発明は、このよう状況に鑑み、SiまたはSiとMg化合物を含有させることにより、硫酸根含有量がゼロまたは極めて少ない量でも凝集性が良好で、物性の変動幅が大きい各種水処理に適用でき、保管安定性も向上できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0033】
このような高塩基性塩化アルミニウムを製造する方法として、(1)塩基性塩化アルミニウム第1溶液と、アルカリケイ酸塩を含むアルカリ溶液とを反応させ、アルミナゲルを生成させる第1工程と、(2)第1工程で得られるアルミナゲルを、塩基性塩化アルミニウム第2溶液に添加し溶解する第2工程と、(3)30〜60℃で熟成する第3工程を経ることにより製造することができる。
【0034】
この第1工程または第2工程で用いる塩基性塩化アルミニウム第1、第2溶液は、特に限定されないが、式Al
n(OH)
mCl
3n−mで表される塩基度〔(m/3n)×100〕が0を超え、かつ50%未満、望ましくは30%を超え、かつ50%未満のものである。
本発明の塩基性塩化アルミニウムは、既知の方法で製造されるものであればよく、たとえば塩酸と酸化アルミニウムとを反応させることによって、製造することができ、その1例をあげると、35%塩酸:649g、水酸化アルミニウム(含水率2.6%):325.3g、水:35.7gをオートクレーブ中で160℃、160分反応させて合成されるものである。また、第一溶液と第二溶液で濃度や塩基度が異なっていても問題はない。
【0035】
また第1工程で用いるアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸アルカリ、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどのアルミン酸アルカリを含む溶液であればよい。
【0036】
このアルカリ溶液中には、Si源としてケイ酸アルカリを混合し溶解する。これにより、ゲル生成過程でSiが均一に分散したアルミナゲルとなり、これを用いて高塩基性塩化アルミニウム溶液とすることにより一部にAl−Si結合が均一に生じ凝集性能に優れた凝集剤とすることができる。
【0037】
ケイ酸アルカリを混合溶解する量は、製品の高塩基性塩化アルミニウムとして、SiがAl
2O
31モルに対し0.001〜0.1モル、好ましくは、0.003〜0.07モル含まれる量に調整する。
【0038】
第1工程のアルミナゲルを生成する方法としては、塩基性塩化アルミニウム第1溶液と前記アルカリ溶液を同時に添加する方法、塩基性塩化アルミニウム第1溶液にアルカリ溶液を添加する方法、アルカリ溶液に塩基性塩化アルミニウム第1溶液を添加する方法などを挙げることができる。
【0039】
このようにして得られたアルミナゲルは、第2工程において、塩基度55%未満、通常20%〜50%の低塩基度の塩基性塩化アルミニウム第2溶液に溶解する。最終製品の高塩基性塩化アルミニウム溶液中にClがAl
2O
31モルに対し3.0モルを超えると、NaClまたはKClに起因して安定性が悪くなるので、この場合には、この範囲になるようアルミナゲルの生成段階で脱塩するのが好ましい。脱塩方法としては常法による濾過洗浄、希釈/デカンテーション等いかなる方法でも良い。
【0040】
Mgなどアルカリ土類金属を含有させる方法としては、第1工程における塩基性塩化アルミニウム第1溶液にMgCl
2などと混合溶解する方法、第2工程における原料の塩基性塩化アルミニウム第2溶液にMgCl
2などとして混合溶解する方法を挙げることができる。
【0041】
なお、前述の第1工程または第2工程で使用する原料の塩基性塩化アルミニウム第1、第2溶液は、オートクレーブにより合成した直後の硫酸根添加前の塩基性塩化アルミニウム、その他、所望の硫酸根濃度に留意すれば、硫酸根を含むPAC(市販のJIS規格品)を用いることも可能である。
【0042】
第3工程における熟成は、30℃〜60℃、好ましくは、30℃〜50℃で0.5〜2.0時間行う。これにより、未溶解ゲルをできるだけ溶解するとともに、高塩基性塩化アルミニウムを安定化させ、保管時の析出沈降などを防止する。この熟成温度が高すぎると重合が進み、かえって安定性が劣化するので好ましくない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
【0044】
アルミン酸ナトリウム溶液(Al
2O
3換算18.8%、Na
2O換算19.4%)109.0gと、ケイ酸ナトリウム溶液(SiO
2換算28%、Na
2O換算10%)7.0gを混合した。これに塩基性塩化アルミニウム溶液第1溶液(塩基性塩化アルミニウム、塩基度52%、Al
2O
310.3%、SO
42.6%、Cl11.4%)231.4gを混合し、アルミナゲルを生成した。
【0045】
その後、このゲルを室温で0.25〜2時間熟成し、さらに塩基性塩化アルミニウム第2溶液(塩基度46.8%、Al
2O
319.7%、Cl22.7%)290.9gおよび液体硫酸バンド(Al
2O
38.0%、SO
422.3%)5.3gを添加し溶解した。この溶液を30〜50℃で90分間熟成し、塩基度71.5%の高塩基性塩化アルミニウム溶液(Al
2O
310.3%)を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウムの組成は、Si/Al
2O
3(モル比)=0.03、Na/Al
2O
3(モル比)=0.7、Cl/Al
2O
3(モル比)=2.6、SO
4/Al
2O
3(モル比)=0.072であった。なお、各元素の分析に関しては、JIS分析法に従って分析を行った。
【0046】
この高塩基性塩化アルミニウムについて、表2に示す河川水を用いて、凝集剤としての性能を下記の試験条件により評価した。結果は表3〜5に、総合評価を表6に示す。
【0047】
(試験方法)
ビーカーに各種河川水1リットルを入れ、急速撹拌(150rpm:96cm/sec)しながら実施例および比較例の高塩基性塩化アルミニウムを添加し、引き続き上記条件と同じ急速撹拌1分、緩速撹拌(50rpm;32cm/sec)を10分行い、10分間静置し、上澄液をサイホンにて採取し、濁度、フロック状態、E260(紫外部吸光度:トリハロメタン除去率)
、残留アルミ濃度を求めた。E260の分析は、試料を0.45μmのろ紙を用いろ過した後、光路長1cmの石英ガラスセルを用いて分光光度計にて波長260nmの吸光度を測定した。また、残留アルミ濃度は、ICP発光分光法を用いて測定した。
【0048】
河川水は淀川水系から採取し調合して、濁度、pH、アルカリ度の異なるもの3種(A、B、C)を用いて試験した。フロック状態は、D1〜D5までフロック粒径図により評価した。数字が大きいほど粒径大である。結果は、河川水ごとに、処理後の濁度、処理時間、フロック状態、凝集剤必要量などから○、△、×で個別評価し,総合評価では、各河川水の個別評価がすべて○のものを○、個別評価において○が2つのものを△、個別評価において○が1または0のものを×とした。
【0049】
(実施例2)
実施例1の塩基性塩化アルミニウム第2溶液が、塩化マグネシウム2%添加し合成した塩基性塩化アルミニウム(35%塩酸:649g、水酸化アルミニウム(含水率2.6%):325.3g、水:35.7g、無水塩化マグネシウム:20gをオートクレーブ中で160℃、160分反応)である他は、実施例1と同様にして高塩基性塩化アルミニウムを得た。組成は表1に示す。また実施例1と同様に試験をして評価した。評価結果を表3〜5に示す。
【0050】
(実施例3)
塩基性塩化アルミニウム第2溶液が、実施例2と同様に製造した塩基性塩化アルミニウムであり、硫酸バンドを添加しないでゲルを溶解した他は、実施例1と同様にして高塩基性塩化アルミニウムを得た。組成は表1に示す。また実施例1と同様に試験をして評価した。評価結果を表3〜5に示す。
【0051】
(実施例4)
ゲルに、液体硫酸バンドを添加しないで塩基性塩化アルミニウム第2溶液のみを添加し溶解した他は、実施例1と同様にして高塩基性塩化アルミニウムを得た。組成は表1に示す。また実施例1と同様に試験をして評価した。評価結果を表3〜5に示す。
【0052】
(実施例5)
実施例2の塩基性塩化アルミニウム第2溶液として、市販のPAC(Al
2O
3:10.3%、塩基度:52%、SO
42−:2.6%(SO
4/Al
2O
3(モル比)=0.27)を用い、液体硫酸バンドは添加しないで溶解した他は、実施例1と同様にして高塩基性塩化アルミニウムを得た。組成は表1に示す。また実施例1と同様に試験をして評価した。評価結果を表3〜5に示す。
【0053】
(比較例1)
実施例1の高塩基性塩化アルミニウムに代えて、市販のPAC(Al
2O
3:10.3%、塩基度:52%、SO
42−:2.6%(SO
4/Al
2O
3(モル比)=0.27)を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表3〜5に示す。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、アルミン酸ナトリウム溶液のみを用いて、ケイ酸ナトリウムは混合しないでアルミナゲルを生成した他は、実施例1と同様にして高塩基性塩化アルミニウムを得た。これを用いて実施例1と同様に試験をして評価した。評価結果を3〜5に示す。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、ケイ酸ナトリウムは混合しないでアルミン酸ナトリウム溶液のみを用いて、アルミナゲルを生成し、そのゲルに、液体硫酸バンドを添加しないで塩基性塩化アルミニウム第2溶液のみを添加し溶解した他は、実施例1と同様にして高塩基性塩化アルミニウムを得た。これを用いて実施例1と同様に試験をして評価した。評価結果を表3〜5に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は特許請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【要約】
組成が、Si/Al
2O
3(モル比)=0.001〜0.1、M/Al
2O
3(モル比)=0.1〜1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al
2O
3(モル比)=0〜0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al
2O
3(モル比)=1.0〜3.0、SO
4/Al
2O
3(モル比)=0〜0.08である高塩基性塩化アルミニウムおよび塩基度40〜65%の塩基性塩化アルミニウム第1溶液と、アルカリケイ酸塩を含むアルカリ溶液とを反応させてアルミナゲルを生成させる第1工程と、第1工程で得られるアルミナゲルを塩基度40〜55%の塩基性塩化アルミニウム第2溶液に添加し溶解する第2工程と、30〜60℃で熟成する第3工程とを包含することを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの製造方法。