(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186611
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】アナログ・デジタル・コンバータの出力信号における位相異常の軽減
(51)【国際特許分類】
H03M 1/08 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
H03M1/08 A
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-502302(P2015-502302)
(86)(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公表番号】特表2015-515204(P2015-515204A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】EP2013056397
(87)【国際公開番号】WO2013144142
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年2月1日
(31)【優先権主張番号】12275035.9
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514238135
【氏名又は名称】エアバス・ディフェンス・アンド・スペース・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】ルイス・ファルジア
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ギブソン
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・ピアソン
【審査官】
河合 弘明
(56)【参考文献】
【文献】
特表平10−505471(JP,A)
【文献】
特許第4365821(JP,B2)
【文献】
特開平11−163826(JP,A)
【文献】
米国特許第07266161(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00−1/88
H04J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)の出力信号における位相異常を軽減する方法であって、
前記ADCによって出力された複数の符号語を受信するステップと、
前記複数の符号語の各々について、前記符号語におけるビットの論理値に基づいて、前記符号語による前記ADCの出力と前記ADCの入力との間の推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、
前記取得された情報に基づいて、前記推定された干渉レベルの同相(I)および直角位相(Q)調整を取得するステップと、
前記IおよびQ調整を、前記ADCの出力信号から取得されたIおよびQ値に適用するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、前記符号語のハミングウェイトに基づいて前記情報を取得するステップを有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、
前記符号語の各々のビットを、そのビットについての所定の重み付け係数で乗算し、重み付けされたビットを合計することによって、前記符号語の重み付けされた数字の合計を取得するステップと、
前記重み付けされた数字の合計に基づいて前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、
を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、
前記符号語の各々のビットを、前記ADCによって出力された先行する符号語の各々の対応するビットと比較して、前記先行する符号語に対する0から1へのビット遷移数および1から0へのビット遷移数を判定するステップと、
前記0から1へのビット遷移数、前記1から0へのビット遷移数、および現在の符号語において1に設定されたビット数に基づいて、前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、
をさらに有する請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、
前記複数の符号語の各々において1に設定されたビット数についての数字の合計の情報を記憶するステップと、
前記記憶された数字の合計の情報に基づいて現在の符号語による前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、
をさらに有する請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
各々の符号語についての前記推定された干渉レベルについての情報は、前記符号語による相対的な干渉レベルを表わす値を有し、前記複数の符号語について取得された複数の前記値は推定された干渉信号を定義し、
前記IおよびQ調整は、所定の振幅スケーリング・パラメータおよび所定の位相回転パラメータに従って前記推定された干渉信号をスケーリングおよび位相回転することによって取得される請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ADCの出力信号を第1基準信号と相関させて前記ADCの出力信号から前記IおよびQ値を取得するステップをさらに有し、
前記推定された干渉信号を位相回転するステップは、前記所定の位相回転パラメータによって決定された角だけ前記第1基準信号に対して位相回転された第2基準信号を生成し、前記推定された干渉信号を前記第2基準信号と相関させるステップを有する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記IおよびQ調整は、前記推定された干渉信号を前記第2基準信号と相関させた相関結果に基づいて取得される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)の出力信号における位相異常を軽減する装置であって、
前記ADCによって出力された複数の符号語を受信し、前記複数の符号語の各々について、前記符号語におけるビットの論理値に基づいて、前記符号語による前記ADCの出力と前記ADCの入力との間の推定された干渉レベルについての情報を取得する手段(420;520)と、
前記取得された情報に基づいて、前記推定された干渉レベルの同相(I)および直角位相(Q)調整を取得する手段(422;522)と、
前記IおよびQ調整を、前記ADCの出力信号から取得されたIおよびQ値に適用する手段(524−2)と、
を備える装置。
【請求項10】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、ハミングウェイト計算器(520)である請求項9に記載の装置。
【請求項11】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、各々の符号語について、前記符号語の各々のビットを、そのビットについての所定の重み付け係数で乗算し、重み付けされたビットを合計することによって、前記符号語の重み付けされた数字の合計を取得し、前記重み付けされた数字の合計に基づいて前記推定された干渉レベルについての情報を取得するように構成された請求項9に記載の装置。
【請求項12】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、各々の符号語について、前記符号語の各々のビットを、前記ADC(416−1;516−1)によって出力された先行する符号語の各々の対応するビットと比較して、前記先行する符号語に対する0から1へのビット遷移数および1から0へのビット遷移数を判定し、前記0から1へのビット遷移数、前記1から0へのビット遷移数、および現在の符号語において1に設定されたビット数に基づいて、前記推定された干渉レベルについての情報を取得するようにさらに構成された請求項9、10、または11に記載の装置。
【請求項13】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、前記複数の符号語の各々において1に設定されたビット数についての数字の合計の情報を記憶し、前記記憶された数字の合計の情報に基づいて各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するようにさらに構成された請求項9から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
推定された干渉レベルについての前記情報は、前記符号語による相対的な干渉レベルを表わす値を有し、前記複数の符号語について取得された複数の前記値は推定された干渉信号の現在の信号レベルを定義し、
前記IおよびQ調整を取得する手段は、所定の振幅スケーリング・パラメータおよび所定の位相回転パラメータに従って前記推定された干渉信号をスケーリングする手段および位相回転する手段(522−1)を備える請求項9から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
第1基準信号(REF1)および前記所定の位相回転パラメータによって決定された角だけ前記第1基準信号に対して位相回転された第2基準信号(REF2)を生成するように構成された基準信号生成器(526)と、
前記ADCの出力信号を前記第1基準信号と相関させて前記ADCの出力信号の前記IおよびQ値を取得するように構成された第1相関器(524−1)と、
を備え、
前記推定された干渉信号をスケーリングする手段および位相回転する手段は、前記推定された干渉信号を前記第2基準信号と相関させて、前記位相回転を前記推定された干渉信号に適用するように構成された第2相関器(522−1)を含む請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)の出力信号における位相異常を軽減することに関する。より詳しくは、本発明は、符号語におけるビットの論理値に基づいて複数の符号語の各々によるADCの出力とADCの入力との間の推定された干渉レベルについての情報を取得し、取得された情報に基づいてADCの出力信号から取得されたIおよびQ値を調整することに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば地表に配置された送信機からまたは他の衛星からアナログ信号を受信する通信衛星は、機内での処理のためにアナログ信号をデジタル領域に変換するように構成することができる。受信されたアナログ信号は、特定の時間における信号レベル、例えば電圧または電流を測定し、測定された信号レベルを表わす符号語を出力するアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)を使用して変換される。従って、ADCによって出力されたデジタル信号は、時間にわたる受信された信号レベルの変化を表わす符号語の列を有する。
【0003】
また、信号処理のアプリケーションにおいて、処理される信号の位相角を正確に測定することが必要であり得る。例えば、直角位相振幅変調(QAM)方式が使用されるとき、変調の次数が増加するに連れて、コンステレーションの起点を基準とした異なるシンボルの間の角分離が減少する。従って、シンボルが信頼して区別できることを保証するために、正確な位相角の測定が望ましい。受信された信号には、例えばガウスノイズのような誤差が存在し得る。または、デジタル信号プロセッサ(DSP)の前の様々な構成要素によって誤差が導入され得る。ADCによるアナログからデジタル信号への変換の場合において、ADCそれ自身によって系統誤差が導入され得る。例えば、ADCは、ADCを使用することができるダイナミックレンジを減少させる積分非直線性(INL)および微分非直線性(DNL)の作用を受け得ることが知られている。
【0004】
本発明は、この背景で行われた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)の出力信号における位相異常を軽減する方法が提供され、前記方法は、前記ADCによって出力された複数の符号語を受信するステップと、前記複数の符号語の各々について、前記符号語におけるビットの論理値に基づいて、前記符号語による前記ADCの出力と前記ADCの入力との間の推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、前記取得された情報に基づいて同相(in-phase)(I)および直角位相(quadrature)(Q)調整を取得するステップと、前記IおよびQ調整を、前記ADCの出力信号から取得されたIおよびQ値に適用するステップと、を有する。
【0006】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、前記符号語のハミングウェイトに基づいて前記情報を取得するステップを有してもよい。
【0007】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、前記符号語の各々のビットを、そのビットについての所定の重み付け係数で乗算し、重み付けされたビットを合計することによって、前記符号語の重み付けされた数字の合計を取得するステップと、前記重み付けされた数字の合計に基づいて前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、を有してもよい。
【0008】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、前記符号語の各々のビットを、前記ADCによって出力された先行する符号語の各々の対応するビットと比較して、前記先行する符号語に対する0から1へのビット遷移数および1から0へのビット遷移数を判定するステップと、前記0から1へのビット遷移数、前記1から0へのビット遷移数、および現在の符号語において1に設定されたビット数に基づいて、前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、をさらに有してもよい。
【0009】
各々の符号語について前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップは、前記複数の符号語の各々において1に設定されたビット数についての数字の合計の情報を記憶するステップと、前記記憶された数字の合計の情報に基づいて現在の符号語による前記推定された干渉レベルについての情報を取得するステップと、をさらに有してもよい。
【0010】
各々の符号語についての前記推定された干渉レベルは、前記符号語による相対的な干渉レベルを表わす値を有してもよく、前記複数の符号語について取得された複数の前記値は推定された干渉信号を定義し、前記IおよびQ調整は、所定の振幅スケーリング・パラメータおよび所定の位相回転パラメータに従って前記推定された干渉信号をスケーリングおよび位相回転することによって取得されてもよい。
【0011】
前記方法は、前記ADCの出力信号を第1基準信号と相関させて前記ADCの出力信号から前記IおよびQ値を取得するステップをさらに有してもよく、前記推定された干渉信号を位相回転するステップは、前記所定の位相回転パラメータによって決定された角だけ前記第1基準信号に対して位相回転された第2基準信号を生成し、前記推定された干渉信号を前記第2基準信号と相関させるステップを有してもよい。
【0012】
前記IおよびQ調整は、前記推定された干渉信号を前記第2基準信号と相関させた相関結果に基づいて取得されてもよい。
【0013】
本発明によれば、アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)の出力信号における位相異常を軽減する装置がさらに提供され、前記装置は、前記ADCによって出力された複数の符号語を受信し、前記複数の符号語の各々について、前記符号語におけるビットの論理値に基づいて、前記符号語による前記ADCの出力と前記ADCの入力との間の推定された干渉レベルについての情報を取得する手段と、前記取得された情報に基づいて同相(I)および直角位相(Q)調整を取得する手段と、前記IおよびQ調整を、前記ADCの出力信号から取得されたIおよびQ値に適用する手段と、を備える。
【0014】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、ハミングウェイト計算器であってもよい。
【0015】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、各々の符号語について、前記符号語の各々のビットを、そのビットについての所定の重み付け係数で乗算し、重み付けされたビットを合計することによって、前記符号語の重み付けされた数字の合計を取得し、前記重み付けされた数字の合計に基づいて前記推定された干渉レベルについての情報を取得するように構成されてもよい。
【0016】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、各々の符号語について、前記符号語の各々のビットを、前記ADCによって出力された先行する符号語の各々の対応するビットと比較して、前記先行する符号語に対する0から1へのビット遷移数および1から0へのビット遷移数を判定し、前記0から1へのビット遷移数、前記1から0へのビット遷移数、および現在の符号語において1に設定されたビット数に基づいて、前記推定された干渉レベルについての情報を取得するようにさらに構成されてもよい。
【0017】
推定された干渉レベルについての情報を取得する前記手段は、前記複数の符号語の各々において1に設定されたビット数についての数字の合計の情報を記憶し、前記記憶された数字の合計の情報に基づいて各々の符号語による前記推定された干渉レベルについての情報を取得するようにさらに構成されてもよい。
【0018】
推定された干渉レベルについての前記情報は、前記符号語による相対的な干渉レベルを表わす値を有してもよく、前記複数の符号語について取得された複数の前記値は推定された干渉信号を定義し、前記IおよびQ調整を取得する手段は、所定の振幅スケーリング・パラメータおよび所定の位相回転パラメータに従って前記推定された干渉信号をスケーリングする手段および位相回転する手段を備えてもよい。
【0019】
前記装置は、第1基準信号および前記所定の位相回転パラメータによって決定された角だけ前記第1基準信号に対して位相回転された第2基準信号を生成するように構成された基準信号生成器と、前記ADCの出力信号を前記第1基準信号と相関させて前記ADCの出力信号から前記IおよびQ値を取得するように構成された第1相関器と、を備えてもよく、前記推定された干渉信号をスケーリングする手段および位相回転する手段は、前記推定された干渉信号を前記第2基準信号と相関させて、前記位相回転を前記推定された干渉信号に適用するように構成された第2相関器を含んでもよい。
【0020】
ここで、添付図面を参照して、単に例として、本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】通信衛星において使用するための信号処理系を表わす。
【
図2】
図1の系について入力信号電力に対する位相遅延誤差をプロットしたグラフである。
【
図3】ADCの出力信号におけるデジタル・アナログ干渉を表わす。
【
図4】本発明の一実施例による、ADCの出力信号における位相異常を軽減する装置を表わす。
【
図5】本発明の一実施例による、位相角を測定する系において位相異常を軽減する装置を表わす。
【
図6】
図5の系について入力信号電力に対する位相遅延誤差をプロットしたグラフである。
【
図7】本発明の一実施例による、ADCの出力信号における位相異常を軽減する方法を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで
図1を参照すると、通信衛星において使用するための信号処理系が図示されている。この系は、ADC・110、ADC・110の出力に接続されたDSP・112、およびDSP・112の出力に接続されたデジタル・アナログ・コンバータ(DAC)114を備える。アナログ信号がADC・110に入力されてデジタル信号に変換され、そしてこのデジタル信号はDSP・112によって処理される。そして処理されたデジタル信号はDAC・114によって変換されアナログ領域に戻される。
【0023】
図1に表わされているように、本実施例において、アナログからデジタルへの、および、アナログに戻る遷移を通して、信号位相が正しく維持されていかどうかを検査するためにDSP較正器116が使用される。DSP較正器116は、処理される入力信号に存在する他の周波数と干渉しないように選択された周波数で、ADC・110の入力に既知の基準信号を導入することによって動作する。DSP較正器116は、それ自身のADC、すなわち較正器116に含まれるさらなるADCを用いて、DAC・114のアナログ出力を再変換してデジタル表現に戻し、そしてこの信号をそれ自身の局所的なデジタルのI、Qデジタル基準信号と相関させ、この基準信号から位相角が測定される。基準信号の既知の周波数を所与のものとすれば、位相角の測定は系統的な推定(systematic inference)によって位相遅延に導かれる。従って、DSP較正器116は、DAC・114の出力における基準信号を入力基準信号と比較して、基準信号の位相が維持されているかどうか、または位相誤差が導入されたかどうかを判定することができる。
【0024】
図2は、
図1の系について入力信号電力に対する位相遅延誤差をプロットしたグラフである。位相遅延誤差はピコ秒(ps)で測定され、入力信号電力は1ミリワットを基準としたデシベル(dBm)で測定される。位相遅延誤差は、9.80メガヘルツ(MHz)で一定のトーンを有する基準信号について、DSP較正器116によって得られる測定に本来備わっている誤差である。
図2に表わされているように、DSP較正器116において相関器によって位相角が不正確に測定された結果とともに、相関器によって位相が不正確に測定された結果として、低い入力信号電力において数百psもの位相遅延誤差が推定される。発明者らによる調査は、低い信号電力におけるこの位相遅延異常の源は、較正器116におけるADC出力とADC入力の間のデジタル・アナログ干渉であることを明らかにした。具体的には、異なる出力符号語は、各々の符号語における電圧レベルに依存して、入力アナログ信号と異なって干渉し得る。
【0025】
図1のDSP較正器116のADC316−1におけるデジタル・アナログ干渉が
図3に図式的に示されている。ADC出力バスとADC入力の間に漏洩経路300が存在し、ADC316−1によって現在出力されている符号語における電流レベルによって、入力信号が影響され得ることを意味する。実際、入力と出力は完全に分離されていないので、そのような漏洩経路はどのような従来のADCにも存在し得る。これは、位相遅延異常が、較正器116において使用されるADCの種類に関係なく依然として発生し得ることを意味する。
【0026】
より詳しくは、
図3に表わされているように、ADC出力バスは、各々が出力符号語の1つのビットを搬送するように構成された複数の信号ラインを含む。この例において、ADC316−1は8ビットのADCであるが、本発明は、一般に任意の解像度のADCに適用可能である。ADCの動作原理はよく知られているので、ここでは詳しい説明はしない。
図3に表わされているように、出力ラインの各々における電流レベルは、現在出力される符号語のビットが0に設定されるか、1に設定されるか、すなわち電圧がローに設定されるか、ハイに設定されるかに依存する。具体的には、ビットの電圧が1の2進数値を表わすハイに設定されるとき、そのビットを搬送する信号ラインにおいて、0の2進数値を搬送する信号ラインより高い電流が流れる。出力符号語の全てのビットが1に設定されるとき、最も高い出力電流が得られ、出力符号語の全てのビットが0に設定されるとき、最も低い出力電流が得られる。従って、任意の時点におけるデジタル・アナログ干渉の強さは、ADC316−1によって現在出力される符号語において1に設定されるビット数に依存する。すなわち、より多くのビットが1に設定されるとき、平均出力電流はより高いので、干渉はより強い。
【0027】
図3に表わされている例示の電流レベルは、高い電圧レベルが1の値を表わし、低い電圧レベルが0の値を表わす1つの特定の電気的プロトコルに対応するが、当業者は本発明がそのようなプロトコルを伴う使用に限定されないことを理解する。他の実施例において、他の電気的プロトコルを使用することができ、例えば1と0の両方の状態における電流レベルは、電流の方向が変化するだけで同じであり得る。どのような場合においても、使用される特定のプロトコルに関係なく、符号語におけるビットの論理値、例えば1に設定されたビット数、および/または、先行する符号語に対する1から0へおよび0から1への遷移数、すなわち、現在の符号語におけるビットの論理値と、先行する符号語における対応するビットの論理値との間の差、に従って干渉レベルが変化すると想定することができる。一般の観点で、本発明の実施例は符号語におけるビットの論理値に基づいて符号語による干渉レベルを推定することができる。
【0028】
ここで
図4を参照すると、本発明の一実施例による、ADCの出力信号における位相異常を軽減する装置が図示されている。この装置は、ADC416−1によって出力される符号語を分析する符号語分析モジュール420、ADCの出力信号からIおよびQ値を取得する相関器424、および、ADCの出力信号から取得されたIおよびQ値に適用される同相(I)および直角位相(Q)調整を取得するI/Q調整モジュール422を備える。
【0029】
より詳しくは、符号語分析モジュール420は、ADC416−1によって出力される符号語を受信し、その符号語によるADC出力と入力の間の予期される干渉レベルについての情報を取得するように構成される。上述したように、ADCによって出力される符号語によって引き起こされるデジタル・アナログ干渉レベルは、出力信号ラインにおける平均電流、および/または、連続する符号語の間のビット遷移数によって影響され得る。一般に、符号語分析モジュール420は、符号語におけるビットの論理値に基づく予期される干渉レベルについての情報を取得するように構成することができる。例えば、これは、特定のタイプのADCについて、干渉レベルが平均電流によって強く影響されることをテストする間に判定することができ、平均電流それ自身は符号語において1に設定されたビット数に依存する。従って、この場合、符号語分析モジュール420は、受信された符号語において1に設定されたビット数についての情報を取得するように構成することができる。ここで、1に設定されたビット数についての情報は様々な形式をとることができる。
例えば、一実施例において、この情報は、単に、1に設定されたビットの合計数、すなわち、符号語のハミングウェイト(Hamming weight)とすることができる。ハミングウェイトは2進数の数字の合計であり、「ポピュレーションカウント(population count)」または「サイドウェイサム(sideways sum)」とも呼ばれ得る。例えば、8ビットの2進数のハミングウェイトは0(すなわち全てのビットが0に設定された)と8(すなわち全てのビットが1に設定された)の間のいずれかの整数であり得る。
図3の例において、出力符号語01101010は4(0+1+1+0+1+0+1+0)のハミングウェイトを有する。
【0030】
他の実施例において、他のアプローチが使用され得る。例えば、ハミングウェイトを使用する代わりに、符号語分析モジュール420は、各々のビット値(すなわち1または0)をそのビットに対応する所定の重み付け係数で乗算して重み付されたビットを合計することによって、受信された符号語の重み付された数字の合計を取得するように構成することができる。この方法は、ADCの全てでない出力信号ラインがADC入力と等しく干渉し得るという事実を考慮することができる。例えば、任意の与えられた信号ラインと入力の間の結合は、ADC内の設計の物理的配置によって影響され得る。より強く干渉するライン上で伝送されるビットは、より弱く干渉するライン上で伝送されるビットより高い重み付けを与えることができる。重み付け係数は異なるADCの設計について異なり得る。そして、重み付け係数は系のセットアップおよび較正の間に決定することができる。
【0031】
1に設定されたビット数に基づいて、例えばハミングウェイトまたは重み付けされた数字の合計に基づいて、干渉レベルを推定することによって、装置は、静的な作用、具体的にはADCバス電流によるデジタル・アナログ干渉を考慮することができる。ADCの設計に依存して、いくつかの場合において、干渉はADCバス遷移、すなわち連続する符号語において特定のビットが1から0へまたは0から1へ変化するかどうか、のような動的な作用によっても影響され得る。これらの動的な作用を考慮するために、いくつかの実施例において、符号語分析器420は、符号語の各々のビットを、ADCによって出力された先行する符号語の各々の対応するビットと比較して、先行する符号語に対する0から1へのビット遷移数および1から0へのビット遷移数を判定するように構成することができる。そして、予期される干渉レベルについての情報は、現在の符号語における1に設定されたビット数とともに遷移数に基づいて取得することができる。さらに、いくつかの実施例において、符号語の重み付けされた数字の合計と同様に、遷移数の重み付けされた合計を比較することができる。これは、ADCバスの特定のライン上の遷移が、ADCバスの他のライン上の遷移より、ADC入力と強く干渉し得るという事実を考慮することができる。
【0032】
さらにもう1つの実施例において、情報は、ADCによって出力される符号語の列の各々について1に設定されたビット数について記憶することができる。そして、符号語分析器420は、この記憶された情報を使用して、例えば時間に対するハミングウェイトまたは重み付けされた数字の合計の導関数、例えば一次または二次導関数を計算することができる。導関数は、干渉レベルを推定するとき、より高い次数の作用を考慮するために考慮することができる。いくつかの実施例において、一次、二次、三次等の導関数を直接に計算する代わりに、一次、二次、三次等の導関数の近似値として差が使用され得る。ここで、問題となる変数、例えばハミングウェイトまたは重み付けされた数字の合計は連続変数ではなく、有限な数の離散値の間で不連続に変化するので、真の数学的な導関数の近似として有限な差が使用される。
【0033】
干渉レベルを推定し、IおよびQ調整を取得するために、様々な解決手段が可能である。ここで、本発明の一実施例による、ADCの出力信号における位相異常を軽減する装置を図示する
図5を参照して一例の解決手段を詳細に説明する。
【0034】
本質的に、
図5でとられたアプローチはデジタル・アナログ干渉信号の位相および振幅を推定することである。これは、現在の符号語におけるビットの論理値、例えばハミングウェイト、重み付けされた数字の合計、および/または、先行する符号語に対する1から0へおよび0から1へのビット遷移数に基づいて、任意の時点における信号レベルを設定することによって行われる。本実施例において、ハミングウェイトが使用され、ADC516−1によって出力されたデジタル信号のハミングウェイトを計算するために、ハミングウェイト計算モジュール520が設けられる。
図5に表わされているように、本実施例におけるADC516−1は12ビットのADCである。12ビットの符号語のハミングウェイトは0と12の間の整数値をとり得るので、2進数形式で0と12の間のいずれかの値を伝送するために4ビット出力バスを用いてハミングウェイト計算モジュール520が設けられる。
【0035】
ハミングウェイト計算モジュール520の出力は、本質的に、他の符号語に対するその特定の符号語による干渉レベルの正規化表現として使用される。複数の符号語が出力され処理される長い期間にわたるハミングウェイト計算モジュール520の出力は、任意の時間における推定された干渉信号の信号レベルが現在の符号語のハミングウェイトによって与えられる、推定された干渉信号のモデルを提供すると考えることができる。そして、推定された干渉信号、すなわちハミングウェイト計算モジュール520の出力は、現在の符号語によるADC出力と入力の間の干渉レベルの量子化指標を提供するために、振幅においてスケーリングされる。これを達成するために、ハミングウェイト計算モジュール520の出力は、所定の振幅スケーリング・パラメータαによって乗算される。本実施例において、12ビットのスケーリングされた推定された干渉信号が取得されるように、αは8ビットの数として与えられる。
【0036】
次に、スケーリングされた信号が第2相関器522に送信され、第2相関器522は、ADC516−1によって出力された元の(すなわち調整されていない)デジタル信号のIおよびQ値を取得するために使用される第1相関器524と同様である。ここで、アナログ入力信号と干渉する符号語が、入力信号の現在の値とは対照的に、以前の信号の値と対応するという事実を考慮するために、スケーリングされた信号に一定の位相回転が適用される。これは、例えばサンプル・ホールド回路およびパイプラインを含み得るADC516−1においてアナログ・デジタル変換に関連する遅延が存在するために生じる。
【0037】
より詳しくは、位相回転が、スケーリングされた信号に直接に適用でき、または、スケーリングされた信号を位相回転された干渉信号と相関させることによって間接的に適用できる。これら2つの方法は数学的に等価であるが、後者の選択肢は、第2相関器522もIおよびQ調整を取得するために使用することができるので、本実施例において好ましい。従って、本実施例において、βの位相差を有する2つの基準信号を生成し、各々の基準信号を、相関器522、524の異なる1つに供給することによって位相回転が適用される。具体的には、本実施例において8ビットの数であるβの値が基準信号生成器526に入力される。基準信号生成器526は、第1相関器524に送信される第1基準信号(REF1)および第2相関器522に送信される第2基準信号(REF2)を生成する。本実施例において、REF1は、式
【0039】
に基づいて生成され、一方、REF2は、式
【0041】
に基づいて生成され、ここでβは所定の位相回転パラメータである。これらは例に過ぎず、他の実施例において、必要な位相差を有する基準信号を生成するために他のアプローチが使用され得る。
【0042】
αおよびβの値は、異なる値をテストしてどれが位相遅延異常において最も効果的な減少を与えるかを決定することによって、系の較正の間に経験的に決定することができる。従って、実際の干渉のメカニズムまたはADC516−1の内部構造の知識は必要とされない。従って、αおよびβのパラメータの最適化はオフラインで、すなわち系が使用に供される前に取得することができ、その後、時間的に不変と仮定することができる。しかし、いくつかの実施例において、系の構成要素の経年劣化のような作用を考慮するために、αとβの値を更新するために定期的に再較正を行うための手段を設けることができる。また、本実施例において、ADC516−1の積分非直線性(INL)および微分非直線性(DNL)を無視できると仮定したが、いくつかの実施例において、そうでない場合もあり得る。INLおよびDNLの作用がわずかでないならば、αおよびβは振幅に依存する。これは、異なる振幅について使用されるαおよびβの異なる値を決定することによって考慮することができる。
【0043】
回転を適用した後、ADCの出力信号に現在存在する干渉レベルの量子化された推定が取得される。また、相関の結果として、推定された干渉信号の同相(I)および直角位相(Q)値が取得される。これらのIおよびQ値は、第1相関器524によって取得される出力信号のIおよびQ値に適用される調整として使用することができる。従って、出力信号における位相ノイズは、ADCの出力信号の元のIおよびQ値から、取得されたIおよびQ調整を減算することによって減少させることができる。
【0044】
図5に表わされているように、本実施例において、第2相関器522は、第2基準信号REF2を用いて相関を実行する相関部522−1、および、相関結果についてビット・シフト・スケーリング関数を実行するビット・シフト部522−2を含む。ビット・シフト部522−2は相関部522−1の累積された結果を扱う、従って相関部522−1より遅いレートで動作するように構成される。ビット・シフト部522−2は、αによる乗算の後、ビット成長を補償するためにビット・シフト・スケーリング関数を実行する。同様に、第1相関器524は、相関部524−1および減算部524−2を含み、減算部は第2相関器522のビット・シフト部522−2と同じ、より遅いレートで動作するように構成される。本実施例において、両方の相関部522−1、524−1は48MHzで動作し、ビット・シフト部522−2および減算部524−2は10MHzで動作するが、これらの周波数は例に過ぎず、他の周波数が使用され得る。
【0045】
図6は、デジタル・アナログ干渉による位相異常が減少した、
図5の系について入力信号電力に対する位相遅延誤差をプロットしたグラフである。
図2におけるように、
図6において、位相遅延誤差はピコ秒(ps)で測定され、入力信号電力は1ミリワットを基準としたデシベル(dBm)で測定される。9.80メガヘルツ(MHz)で一定のトーンを有する基準信号について位相遅延誤差の測定が取得される。
図2との比較によって、
図5の系が低い入力信号電力でさえ位相遅延誤差を実質的に減少させることができることが分かる。
【0046】
ここで
図7を参照すると、本発明の一実施例による、ADCの出力信号における位相異常を軽減する方法が図示されている。ステップS701において、ADCによって出力された符号語が受信される。そして、ステップS702において、符号語におけるビットの論理値に基づいて、符号語によるADC出力と入力の間の推定された干渉レベルについての情報が取得される。ここで、上述したような、様々なアプローチが可能である。例えば、情報は、単に符号語のハミングウェイトとすることができ、または、重み付けされた数字の合計とすることができ、また、1つの符号語から次の符号語へのビット遷移のような要因を考慮することができる。
【0047】
そして、ステップS703において、取得された情報に基づいてIおよびQ調整が取得される。例えば、
図5を参照して上述したように、基準信号を用いてハミングウェイト信号を相関させることができる。最後に、ステップS704において、取得された調整がADCの出力信号から取得されたIおよびQ値に適用されて、ADCにおけるデジタル・アナログ干渉によって生じる位相異常を軽減する。
【0048】
本発明が位相角の測定に関して説明されたが、当業者は、本発明の実施例が、一般に、ADCにおけるデジタル・アナログ干渉によって生じる位相異常の作用を軽減することが望ましい、任意のデジタル信号処理のアプリケーションにおける使用を見出し得ることを理解する。
【0049】
本発明のある実施例を上述したが、当業者は添付の特許請求の範囲で規定される発明の範囲から逸脱することなく、多くの変形および変更が可能であることを理解する。
【符号の説明】
【0050】
110、316−1、416−1、516−1 アナログ・デジタル・コンバータ
112 デジタル信号プロセッサ
114 デジタル・アナログ・コンバータ
116 DSP較正器
300 漏洩経路
420 符号語分析モジュール
422 I/Q調整モジュール
424 相関器
520 ハミングウェイト計算モジュール
522 第2相関器
522−1 相関部
522−2 ビット・シフト部
524 第1相関器
524−1 相関部
524−2 減算部
526 基準信号生成器