(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
様々な分野で背もたれが倒れる椅子が存在している。
例えば、美容室などでは、顧客が座った椅子の後方に洗面台が配置されている。椅子の背もたれを倒して顧客の頭を洗面台に位置させた後に、顧客の頭をシャンプーで洗浄する。
ところで、洗面台の位置を、背もたれを倒した際に顧客の頭がちょうど一致するように設定すると、椅子と洗面台の距離が近すぎてしまい、洗浄以外のときに理容師・美容師が顧客と洗面台との間に立って顧客を施術することができないといった問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1に示す椅子は、洗面台と椅子との間隔を保って美容師が施術可能なスペースを確保した場合に、背もたれを倒す動作と座部が後方に移動する動作を同時に行って、顧客の頭を洗面台に近づけるように構成している。
【0004】
また、航空機用の椅子として特許文献2に示すものがある。
この椅子は、背もたれを倒したときに、座部と足載せを前方に移動させ、背もたれ、座部、足載せを実質的に水平面となるように構成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、眼科においては、患者が座る椅子の背もれを倒し、医師は上向きになった患者の頭の後ろに回り込んで診察や治療を行う。このとき、椅子と椅子後方の壁面との間隔が狭いと、背もたれを倒した際に医師が入り込むスペースがなくなってしまう。
通常の椅子を用いた場合、背もたれを倒すと患者の頭部は、背もたれを倒す前よりも後方に位置するようになるため、椅子と椅子後方の壁面との間のスペースを予め多くするように椅子を設置することが必要である。
しかしながら、診察室の間取り等の問題から、椅子と壁面との間のスペースを狭くとらざるを得ないケースもあるので、椅子の背もたれを倒したとき、患者の頭部が椅子後方の壁面に近づきすぎないようにできる椅子が望まれている。
【0007】
上述した特許文献1の椅子は、背もたれを倒すことで頭部を後方に移動させる構成であるため、眼科で要望されている動作とは逆の動作になってしまう。
また、特許文献2の椅子は、背もたれを倒すと座部や足載せが前方へ移動し、頭部の位置も後方にずれないので、動作としては眼科で要望されている動作を実行できる構成である。
しかし、特許文献2の椅子では床への取付構造が複雑であり、またフルフラットになる構成なので、部品点数が多いという課題がある。
【0008】
そこで本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、背もたれを倒したときに、頭部の位置が大きく後方に移動しないような椅子を、簡単な構成で部品点数がなるべく少なくなる構造で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる椅子によれば、人が座る部位である座部と、座部を前後方向にスライド自在に保持し、床面に対して固定される基部と、座部に対して回動可能となるように、座部に対してヒンジ部を介して取り付けられ、且つ基部に対して座部とともに前後方向に移動可能となるように、基部の両側面に設けられたガイドピンを移動可能となるように嵌入しているガイド溝が両側面に形成された背もたれと、座部の前端部に第2ヒンジ部を介して、回動可能に取り付けられた足載せと、一端部が足載せに第3ヒンジ部を介して回動可能に取り付けられ、他端部が背もたれの下端部に第4ヒンジ部を介して回動可能に取り付けられ、足載せと背もたれとを連結する連結棒と、を具備
し、各前記ガイド溝は、後方側に向けて凸となる曲線状に形成され、前記ヒンジ部は、座部の両側面の後端部寄りの位置から座面よりも上方に突出した突出片と、背もたれの下端部よりも上方且つ前方側位置との間で回動可能に設けられていることを特徴としている。
この構成による作用は次の通りである。座部を前方に移動させると、背もたれはヒンジ部を軸線として後方に回動する。背もたれは、基部のガイドピンが挿入されたガイド部に沿って倒れていくので、座部の前方への移動とともに、背もたれ自身も前方に移動していく。また、連結棒も前方に移動するので、足載せを第2ヒンジ部を中心に回動させることで足載せの下端部が上昇する。このようにして、座部を前方に移動させると、背もたれと座部と足載せとが前方に移動するので、背もたれを倒したときに頭部の位置が大きく後方に移動しないようにすることができる。
また、この構成によれば、背もたれが倒れる速度をガイド溝が直線の場合と比較して遅くすることができる。具体的には、ガイド溝が背もたれの上下方向にそって直線状であると、背もたれの倒れる速度が、徐々に早くなってしまい、椅子に座っている人が不快になる恐れがある。しかし、後方側に凸となる曲線状のガイド溝の場合、常に一定速度で倒れるので座っている人を不快にさせずに倒すことができる。
また、この構成によれば、背もたれを倒したとき、背もたれと座部との間隔を開けないようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、背もたれを倒したときに、頭部の位置が大きく後方に移動しないような椅子を、簡単な構成で部品点数を減らして実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態にかかる椅子について図面に基づいて説明する。
図1は、椅子の構成を示す斜視図であって、骨組部分のみを表示し、背もたれのクッション部分と、座部のクッション部分は省略している。また、座部は透明として座部の下方がわかるように、透明な部材で表示している。
図2は、座部を不透明とし、また脚部12を省略している。
図3は、
図2から座部を外したところを示している。
図4は組み立て分解図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の椅子30は、床面10に対して脚部12によって固定されている。脚部12は、基部31の下面に固定されている。基部31は、人が座る座部32を前後方向にスライド自在に保持している。
【0016】
座部32は、ほぼ平面状の座板34と、座板34の左右両端部近傍の下面において下方に向けて突出する側板36a,36bとを有している。
両側板36a,36bのそれぞれの内側には、基部31との間で前後方向にスライド可能となるような構成が設けられている。具体的には、基部31の左右両側面にはガイドローラ38が、各側面において複数個設けられており、両側板36a,36bのそれぞれの内側には、ガイドローラ38を挟み込んで転動させることができるローラガイド40a,40bが設けられている。このため、座部32は、ガイドローラ38によりガイドされて基部31に対して前後方向にスライドすることができる。
【0017】
なお、本実施形態では、座部32は前方側が後方側よりも上方に位置するように傾斜して設けられている。そして、座部32の前方への移動も前方側の方が上方に位置するように設けられている。
すなわち、
図4に示すように、基部31の左右両側面のガイドローラ38はそれぞれ2つずつ設けられており、2つのガイドローラのうち前方に位置するガイドローラが後方に位置するガイドローラよりも上方に位置している。すなわち、2つのガイドローラ38を挟み込んだ各ローラガイド40a,40bは前方が上方する方向に傾斜している。
また、ローラガイド40a,40bを取り付けている両側板36a,36b及び座板34も2つのガイドローラ38の傾斜角度に合わせて前方側が上方に位置するように傾斜して設けられている。
【0018】
また、座部32と基部31との間には、座部32を前後方向に移動させるための直動装置42が設けられている。直動装置42は、例えばリニアアクチュエータなどを採用することができる。
リニアアクチュエータ42は、軸線が前後方向に沿って延びるガイド部43と、ガイド部43に沿って移動可能な可動部45と、可動部45をガイド部43に沿って移動させる制御部46を備えている。
【0019】
制御部46はステッピングモータの回転運動を直線運動に変換して可動部45を駆動することができる。
可動部45は、座部32の下面に固定され、ガイド部43と制御部46は基部31に固定されている。このため、制御部46の制御によって、可動部45がガイド部43に沿って移動することにより、座部32は基部31に対して自動的に移動可能となる。
【0020】
なお、直動装置としては、リニアアクチュエータに限られるものではなく、油圧シリンダー等を採用してもよい。
【0021】
また、背もたれ48は、背板(図示せず)と、背板の左右両側を支える背柱50a,50bを備えている。本明細書中では背もたれ48の背板は省略して図示している。背柱50a,50bは、それぞれ前後方向から見ると幅薄の板状の部材である。
背柱50a,50bには、基部31のガイドローラ51を移動可能となるように嵌入しているガイド溝52が形成されている。
両ガイドローラ51は、基部31の両側面の後端部の上方側において、回転軸が左右方向に向き、外側に向けて配置されている。
【0022】
背柱50a,50bの各ガイド溝52は、それぞれの上端部と下端部が、背柱50a,50bの前方側に位置し、中間部分が背柱50a,50bの後方側に位置するように曲線で形成されている。言い換えると、各ガイド溝52は、後方側に向けて凸となる曲線状に形成されている。
各ガイド溝52をこのような曲線状に形成することにより、背もたれ48が倒れる速度をガイド溝が直線の場合と比較して遅くすることができる。
すなわち、背もたれ48の倒れ始めと、倒れ終わりの時には、ガイド溝52が背柱50a,50bの長手方向ではなく幅方向への移動量が大きくなるため、常に一定速度で倒れるので座っている人を不快にさせずに倒すことができる。
【0023】
また、各背柱50a,50bは、座部32に対してヒンジ部55を介して連結されている。
ヒンジ部55は、座部32の側板36a,36bに設けられている。座部32の各側板36a,36bの後方側には、上方に突出した突出片56が形成されており、背柱50a,50bの下端部より上方側には前方に突出した突出片57が形成されている。
この座部32の側板36a,36bの突出片56と、背柱50a,50bの突出片57とがヒンジ部55によって連結される。
【0024】
このように、背もたれ48と座部32とを連結するヒンジ部55を、背もたれ48の下端部と座部の後端部ではなく、少なくとも背もたれ48の下端部よりも上方位置でヒンジ部55を設けて背もたれ48と座部32とを回動させるようにしたので、背もたれ48を倒して座部が前方に移動した際に、座部の後端部と背もたれ48の下端部との間隔が空いてしまうことを防止することができる。
【0025】
次に、座部32の前方側の構成について説明する。
座部32の前方側には、座部32の前端部と第2ヒンジ部58を介して座部32に対して回動可能に取り付けられた足載せ60が設けられている。
足載せ60は、座っている状態の人のふくらはぎ部分に位置するレッグレスト62と、座っている状態の人の足を載せるフットレスト64とを有している。
レッグレスト62とフットレスト64は、第4ヒンジ部66によって回動可能に取り付けられている。具体的には、レッグレスト62の下端部とフットレスト64とは互いに回動可能となるように第4ヒンジ部66によって取り付けられている。
【0026】
足載せ60のレッグレスト62は、背もたれ48が起立している状態のときは、座っている人のふくらはぎの背面側に位置しているが特に人体を支持することもない。背もたれ48が寝た状態で座部32が前方に移動したとき、レッグレスト62は座部32とともに水平となるように回動して人のふくらはぎ下面に当接し下肢を支える。
なお、本実施形態におけるレッグレスト62は、左右両側の側板と、両側板を連結する2枚の連結板とから構成されているが、特にこのような構成に限定するものではない。
【0027】
足載せ60のフットレスト64は、背もたれ48が起立している状態のときは、座っている人の足裏に当接して下肢を支え、背もたれ48が寝た状態で座部32が前方に移動したとき、座部32とともに、ほぼ水平となるように回動して人のかかとに当接して下肢を支える。
【0028】
また、足載せ60は、背もたれ48と連動する構成となっている。
すなわち、足載せ60は、各背柱50a,50bの下端部との間で架け渡された連結棒65によって連結されており、背もたれ48の傾斜動に伴って足載せ60も第2ヒンジ部58を中心に回動して傾斜動する。
【0029】
連結棒65の後端部は、各背柱50a、50bの下端部に第3ヒンジ部66によって回動可能に取り付けられている。
また、連結棒65の前端部は、足載せ60のレッグレスト62の上下方向の中途部付近で第3ヒンジ部68によって回動可能に取り付けられている。
【0030】
次に、
図5及び
図6に基づいて本実施形態の椅子の動作について説明する。
図5の状態は、椅子30の通常の状態であって、椅子に座っている人の上半身は起きている。
この状態から、上記の直動装置42を駆動させて座部32を前方へ移動させる。すると、ヒンジ部55を介して座部32と接続されている背もたれ48が、座部32とともに前方へ移動する。背もたれ48が前方へ移動するとき、背もたれ48は、ヒンジ部55を中心にして鉛直面内で回動する。そして、背もたれ48の背柱50a,50bに形成されているガイド溝52内で、基部31に設けられているガイドローラ51が転動する。このようにして、背もたれ48は、ガイド溝52に沿って基部31に対して水平となる方向に回動する。
【0031】
せもたれが水平方向に傾いていくと、背もたれ48の背柱50a,50bの下端部に取り付けられている連結棒65が前方に移動し、連結棒65によって足載せ60が前方に押される。足載せ60が連結棒65によって前方へ押されると、レッグレスト62が第2ヒンジ部58を中心にして鉛直面内で前方に向けて回動する。
また、レッグレスト62の下端部に取り付けられているフットレスト64は、レッグレスト62が起立しているときに水平面よりも先端部が下方に傾かないようほぼ水平に位置するように規制され、レッグレスト62が水平に近づいたときにもほぼ水平に位置するように規制されている。
【0032】
図6は、背もたれ48が倒れた状態を示している。
このとき、背もたれ48、座部32、レッグレスト62、フットレスト64はそれぞれほぼ水平に近くなり、フルフラット状態に近い状態となっている。
このときの背もたれ48の上端部と、基部31のガイドローラ51との距離はL2であり、
図5の背もたれ48が起きている状態のときのガイドローラ51との距離L1よりも短い距離となっている。すなわち、本発明の椅子では、背もたれ48が倒れつつ座部の前方への移動とともに前方へ移動するので、背もたれ48を倒した際に椅子に座った人の頭部を後方に移動させないようにすることができる。本実施形態では、座部と背もたれの前方への移動によって、背もたれが起立しているときよりも人の頭部が前方に移動できる(L1>L2)。
【0033】
なお、本実施形態では、直動装置を使って座部を前方に移動させる例について説明した。しかしながら、座部を前方に移動させるために何らかの駆動手段を設けることは必須ではなく、手動で座部を移動させるようにしてもよい。