(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186622
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】超音波発音体およびパラメトリックスピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20170821BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20170821BHJP
H04R 17/10 20060101ALI20170821BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R17/00 330K
H04R17/00 331
H04R17/10 330B
H04R17/00 332Z
H04R1/40
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-217758(P2012-217758)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-72739(P2014-72739A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 綾太
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 信之
【審査官】
武田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−296698(JP,A)
【文献】
特開2006−165923(JP,A)
【文献】
実開昭54−021531(JP,U)
【文献】
特開2004−112212(JP,A)
【文献】
特開昭60−167597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 1/40
H04R 17/00
H04R 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により超音波を発生させるパラメトリックスピーカ用の超音波発音体であって、
板状の圧電素子および前記圧電素子が一方の主面に接着された振動板により形成される圧電振動子と、
前記振動板の他方の主面に設けられ、前記振動板の振動により超音波を発生させる共振子と、を備え、
前記圧電振動子の振動を主とする1次共振の周波数と前記共振子の振動を主とする2次共振の周波数との差が、搬送する音声信号の最大周波数を超え、
前記音声信号の搬送波として1次共振のみを用いることを特徴とする超音波発音体。
【請求項2】
前記共振子は、平底を有する円錐筒形状に形成され、前記平底により前記1次共振の周波数と前記2次共振の周波数との差が、前記1次共振を搬送波とする音声信号の最大周波数を超えていることを特徴とする請求項1記載の超音波発音体。
【請求項3】
配線パターンが設けられた平板状の基板と、
前記基板上に設けられた支持部材と、
前記支持部材により支持された請求項1または請求項2記載の超音波発音体と、を備え、
前記超音波発音体が複数設けられ、前記超音波発音体を連続駆動することで、超音波が伝播する際の非線形特性により可聴音を出現させることを特徴とするパラメトリックスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を発生させる超音波発音体およびこれを用いたパラメトリックスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波発音体は、振動板と圧電素子を貼り合わせた圧電振動子を構成に含む。圧電素子に圧電振動子固有の共振周波数付近の交流電圧を印加すると圧電振動子が振動し、超音波を発する。その共振周波数は20kHzを超えた超音波帯域に含まれる。
【0003】
さらに圧電振動子に、円錐筒状の共振子を取り付けることで、発生する超音波の音圧を増大させ、その超音波に前方への指向性を持たせることができる。超音波発音体の固定は、圧電振動子の屈曲振動において動かない節部をシリコン接着剤などで接着し、極力振動を妨げないようにしている。なお、超音波発音体は超音波センサと同様な構造を有するが、超音波センサは超音波の送信、受信を行ない、超音波発音体は超音波センサの送信のみを行なう点で両者は相違している。
【0004】
パラメトリックスピーカは、このような超音波発音体を複数個並べて構成されている(例えば特許文献1、2参照)。パラメトリックスピーカの各々の超音波発音体が発した超音波は、空気中で重なり合い、ある音圧以上に達すると可聴音へ復調される。また、超音波が重なり合った中心部の位置のみで可聴音が生じるため、パラメトリックスピーカは、鋭い指向性を持ったスピーカとして機能する。特に、共振子については、素材としてマグネシウムあるいはマグネシウム合金を使用することにより共振子の剛性を高めつつ軽量化し、広帯域の超音波を送信する際の共振子の耐久性を向上させたものが特許文献3等に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60‐167597号公報
【特許文献2】特開昭62‐296698号公報
【特許文献3】特開2007−88886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6は、従来の超音波発音体についての駆動周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフである。超音波発音体の共振には、圧電振動子が主となる1次共振と共振子が主となる2次共振とがある。
図6は、超音波発音体に最大20kHzの幅を有する音声信号を入力した場合を示している。
【0007】
通常、超音波発音体を駆動する際は、圧電振動子の共振である1次共振の周波数の交流電圧を印加する。2次共振で駆動させた場合には、共振子が強く振動するため、共振子が取れるなど破損しやすくなる。
【0008】
一定の超音波を発する場合は、超音波発音体の1次共振の周波数で駆動するため2次共振で駆動することはない。しかし、パラメトリックスピーカのように変調する場合は、1次共振±音声信号の周波数範囲で超音波発音体を駆動することになるため、
図6のように2次共振が1次共振から音声信号の周波数以内にあると2次共振の周波数で駆動することになる。2次共振での駆動は、上記の通り好ましくない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、2次共振の励起により生じる強すぎる共振子の振動を防止できる超音波発音体およびパラメトリックスピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の超音波発音体は、電圧の印加により超音波を発生させるパラメトリックスピーカ用の超音波発音体であって、板状の圧電素子および前記圧電素子が一方の主面に接着された振動板により形成される圧電振動子と、前記振動板の他方の主面に設けられ、前記振動板の振動により超音波を発生させる共振子と、を備え、前記圧電振動子の振動を主とする1次共振の周波数と前記共振子の振動を主とする2次共振の周波数との差が前記1次共振を搬送波とする音声信号の最大周波数を超えていることを特徴としている。これにより、1次共振を搬送波にして1次共振±音声信号で超音波発音体を駆動したとき、2次共振の励起により生じる強すぎる共振子の振動を防止でき、共振子が取れるなどの破損を防止できる。
【0011】
(2)また、本発明の超音波発音体は、前記共振子が、平底を有する円錐筒形状に形成され、前記平底により前記1次共振の周波数と前記2次共振の周波数との差が前記1次共振を搬送波とする音声信号の最大周波数を超えていることを特徴としている。このように円錐筒形状の共振子に平底を形成することで2次共振の周波数を大きい側にシフトさせることができる。
【0012】
(3)また、本発明のパラメトリックスピーカは、配線パターンが設けられた平板状の基板と、前記基板上に設けられた支持部材と、前記支持部材により支持された上記の超音波発音体と、を備え、前記超音波発音体が複数設けられ、前記超音波発音体を連続駆動することで、超音波が伝播する際の非線形特性により可聴音を出現させることを特徴としている。これにより、安定的に駆動できるパラメトリックスピーカを実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1次共振を搬送波にして1次共振±音声信号で超音波発音体を駆動したとき、2次共振が励起されなくなり、強すぎる共振子の振動により共振子が取れるなどの破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のパラメトリックスピーカを示す正面図である。
【
図2】本発明の超音波発音体の構成を示す側面図である。
【
図3】本発明の超音波発音体についての駆動周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフである。
【
図4】(a)、(b)いずれも本発明の超音波発音体の動作の一場面を示す側面図である。
【
図5】パラメトリックスピーカの電気的構成を示すブロック図である。
【
図6】従来の超音波発音体についての駆動周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
(パラメトリックスピーカの構成)
図1は、それぞれパラメトリックスピーカ100を示す正面図である。パラメトリックスピーカ100は、強力な音圧で変調された超音波を発生させ、空気中を超音波が伝播する際の非線形特性により、可聴音を出現させる。このようにして方向や距離を特定し指向性を与えて音響情報を伝えることを可能にする。
【0017】
図1に示すように、パラメトリックスピーカ100は、複数の超音波発音体110が基板120上に設けられて構成されている。超音波発音体110は、変調信号に基づいて超音波を発生させる。そして、超音波発音体110を連続駆動することで、超音波が伝播する際の非線形特性により可聴音を出現させる。基板120は、配線パターンが設けられ、平板状に形成されている。なお、
図1では、外観構成を示し、電気的構成は省略している。
【0018】
(超音波発音体の構成)
図2は、超音波発音体110の構成を示す側面図である。超音波発音体110は、パラメトリックスピーカ100に用いられ、超音波を発生させる。超音波発音体110は、パラメトリックスピーカ100用に変調した電圧を印加して駆動される。
【0019】
超音波発音体110は、電圧の印加により変調超音波信号を発生させる。超音波発音体110は、圧電素子111、振動板112、リード線113a、113b、共振子114により構成されている。圧電素子111は、圧電材料を用いて、板状に形成され、厚み方向への電圧の印加により伸縮する。圧電素子111は、振動板112の一方の主面に接着されて設置されている。圧電素子111は、振動板112の他方の主面が振動面となっており、振動面を介し、超音波を発生させることができる。
【0020】
共振子114は、円錐筒形状に形成されており、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されている。なお、円錐筒形状には、パラボラ状または漏斗状が含まれる。共振子114は、振動板112の他方の主面に設けられ、振動板112の振動に共振して超音波を発生させる。圧電素子111の両主面には、それぞれ電極が形成されており、本体部分の圧電体は厚み方向に分極されている。振動板112は、圧電素子111が一方の主面に接着されている。振動板112は、たとえば、真鍮、SUS304、42アロイまたはアルミニウム等の金属により円板状に形成されている。圧電素子111および振動板112は、圧電振動子115を形成している。
【0021】
圧電振動子115の振動を主とする1次共振の周波数と共振子114の振動を主とする2次共振の周波数との差は音声信号の最大周波数を超えている。これにより、1次共振を搬送波にして1次共振±音声信号で超音波発音体を駆動したとき、2次共振が励起されなくなり、共振子の強い振動により共振子が取れるなどの破損を防止できる。
【0022】
音声信号の最大周波数が10kHzの場合は、1次共振周波数と2次共振周波数の差が10kHzを超えるように超音波発音体110を設計する。また、音声信号の最大周波数が30kHzの場合は、1次共振と2次共振の差が30kHzを超えるように超音波発音体110を設計する。つまり、音声信号の最大周波数で離すべき周波数が決まり、(1次共振周波数+音声信号の最大周波数)<(2次共振周波数)となるように超音波発音体110を設計する。
【0023】
例えば、1次共振周波数と2次共振周波数の差が20kHzを超えるように設計した超音波発音体110を用いれば、1次共振を搬送波にして一般的に可聴音範囲と認識された20Hz〜20kHzの音声信号を乗せて駆動しても2次共振が励起されない。
【0024】
2次共振周波数は、圧電振動子の構造で決まる1次共振周波数と音声信号に応じて決めることができる。逆に共振子の構造で決まる2次共振と音声信号に応じて1次共振周波数を決めることもできる。したがって、圧電振動子および共振子はその調整次第で様々な構成をとりうる。
【0025】
たとえば、共振子114を平底を有する円錐筒形状に形成することで、2次共振の周波数を大きい側にシフトさせて、1次共振の周波数と2次共振の周波数との差を音声信号の最大周波数より大きくすることができる。平底の径を大きくすることで、2次共振の周波数を十分に大きくすることができる(後述の実施例参照)。このように2次共振の周波数は、共振子114の形状で変えることができるが、材質でも変えることができる。なお、形状には、共振子の厚みの大小も含まれる。2次共振の周波数を制御することで、安定的に駆動できる超音波振動子110およびパラメトリックスピーカ100を実現できる。
【0026】
上記のように、圧電振動子115と共振子114のいずれにより1次共振周波数と2次共振周波数との差ができるように設計してもよい。例えば、1次共振周波数が40kHz、音声信号の最大周波数が25kHzだった場合は、2次共振周波数が65kHzを超えるように設計すればよい。また、2次共振周波数が70kHz、音声信号の最大周波数が25kHzだった場合は、1次共振周波数が45kHz未満になるように設計すればよい。
【0027】
図3は、超音波発音体110についての駆動周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフである。2次共振で駆動しないためにも、パラメトリックスピーカ100には、
図3のように1次共振と2次共振の差が変調に用いる音声信号の周波数を超えている超音波発音体を用いることが好ましい。また、超音波発音体110は、1次共振を高くする際には2次共振も高くするなどの対応をとり、1次共振の共振周波数と2次共振の共振周波数との差を設けることが好ましい。
【0028】
(超音波発音体の動作)
図4(a)、(b)は、いずれも本発明の超音波発音体110の動作の一場面を示す側面図である。
図4(a)、(b)に示すように、超音波発音体110は、厚み方向に分極された圧電素子111の両主面の電極に交流電圧を印加することで屈曲振動する。その際には、圧電振動子115の共振周波数を駆動周波数として電圧を印加する。
【0029】
(超音波発音体の作製方法)
超音波発音体110の作製方法を説明する。まず、圧電材料により板状の圧電体を形成し、電極を設けて分極することで、圧電素子111を形成する。圧電素子111を振動板112の一方の主面に接着する。そして、リード線113a、113bを所定箇所の電極または振動板112に接続する。一方で、1次共振の共振周波数と2次共振の共振周波数との差を十分にするように共振子114の形状を設計し、共振子114を作製する。そして、振動板112の他方の主面に共振子114を接着する。このようにして、超音波発音体100を作製することができる。
【0030】
(パラメトリックスピーカの電気的構成)
図5は、パラメトリックスピーカ100の電気的構成を示すブロック図である。
図5に示すように、パラメトリックスピーカ100は、発振器101、変調器102、増幅器105および超音波発音体110を備え、これらを介して超音波を発生させる。発振器101は、超音波帯域の所定の周波数で信号を発振する。発振される周波数は、発振信号が超音波発音体110に伝達されたとき圧電素子111を駆動する駆動周波数であり、パラメトリックスピーカ100の用途に応じてあらかじめ決定されている。
【0031】
変調器102は、音声信号で発振信号をAM変調する。変調は、AM変調に代えて、DSB変調、SSB変調、FM変調であってもよい。増幅器105は、変調された発振信号を増幅し、超音波発音体110に出力する。超音波発音体110は、増幅された発振信号を音波に変換する。
【0032】
上記のように構成されたパラメトリックスピーカ100は、超音波帯域の周波数の信号を発振し、発振信号を所望の音声信号で変調し、変調信号を増幅して、超音波発音体110で音波に変換して放射する。このようにして、指向性の鋭い超音波を放射することができる。たとえば狭い範囲にいる人に選択的に案内を流すことができるため、美術館や水族館、博物館、アミューズメント施設などに利用できる。今後、交通案内などでも利用可能である。
【0033】
(実施例)
次に、上記の構成を有する超音波発音体110を作製し、共振子114の形状と2次共振の周波数との関係を検証した。共振子114を円錐筒形状に形成し、外径、高さ固定で底面の大きさを変えて2次共振の周波数を測定した。以下の表は、共振子114の形状と2次共振の周波数との関係を示している。
【表1】
【0034】
表1が示すように、底面の直径を大きくすることで2次共振の周波数を高くすることができ、1次共振の周波数との差を広くとれることを確認できた。
【符号の説明】
【0035】
100 パラメトリックスピーカ
101 発振器
102 変調器
105 増幅器
110 超音波発音体
111 圧電素子
112 振動板
113a、113b リード線
114 共振子
115 圧電振動子
120 基板