特許第6186671号(P6186671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186671
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】変速機制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20170821BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20170821BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20170821BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20170821BHJP
   F16H 63/46 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F16H61/14 601E
   F16H59/44
   F16H61/02
   F16H61/66
   F16H63/46
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-121502(P2012-121502)
(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公開番号】特開2013-245793(P2013-245793A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】根耒 司
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−021716(JP,A)
【文献】 特開平05−312249(JP,A)
【文献】 特開2011−163398(JP,A)
【文献】 特開2010−209947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
F16H 59/44
F16H 61/02
F16H 61/66
F16H 63/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、
変速比を無段に変化させる無段変速機と、
前記無段変速機と直列に設けられ、少なくとも、低速段用摩擦要素の締結時の低速段と、高速段用摩擦要素の締結時の高速段との二速段を有する副変速機と、
前記エンジンの駆動により前記ロックアップクラッチと前記副変速機に油圧を供給するオイルポンプと、
前記副変速機の変速を行うとともに、前記副変速機の変速方向と逆方向に前記無段変速機を変速させる協調変速を行う変速比制御手段と、
車速の増加に応じて前記ロックアップクラッチの締結力が大きくなるように制御するロックアップクラッチ制御手段と、
を有し、
前記ロックアップクラッチ制御手段は、前記低速段用摩擦要素と前記高速段用摩擦要素との架け換えが開始する前に前記ロックアップクラッチをスタンバイ状態とし、前記低速段摩擦要素と前記高速段摩擦要素との架け換えが終了した後に前記ロックアップクラッチの締結力を大きくすることを特徴とする変速機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、変速比を無段階に変化させる無段変速機と前進2段の副変速機とを有する車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−21716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
副変速機において低速段と高速段との間で変速を行うときには、変速比の変動を無段変速機で吸収するようにしている。つまり、副変速機、無段変速機のともに作動油の油圧を作用させる必要がある。特に車両発進時や再加速時には、副変速機の高速段から低速段への切り替えとともに、トルクコンバータのロックアップクラッチを解放から締結状態への切り替えが行われる。
【0005】
このようなときに、副変速機による変速、無段変速機による変速比変動吸収、ロックアップクラッチの締結が同時に行われると、オイルポンプによる供給油圧に対して要求油圧が過剰となるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、副変速機の低速段用摩擦要素と高速段用摩擦要素との架け換えが開始する前にトルクコンバータのロックアップクラッチをスタンバイ状態とし、低速段摩擦要素と高速段摩擦要素との架け換えが終了した後にロックアップクラッチの締結力を大きくするようにした。
【発明の効果】
【0007】
よって、副変速機による変速、無段変速機による変速比変動吸収、ロックアップクラッチの締結が同時に行われる際に、オイルポンプによる供給油圧に対して要求油圧が過剰となることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の無段変速機構の模式図である。
図2】実施例1の制御ブロック図である。
図3】実施例1の架け換え制御を伴う車両発進時の各要素の状態を示すタイムチャートである。
図4】実施例1のキックダウン要求による車両再加速時の各要素の状態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施例1〕
[無段変速機の構成]
図1は、無段変速機構1の模式図である。無段変速機構1は、エンジン7のエンジン出力軸7aから動力を入力し、エンジン出力軸7aの回転数を変速してドライブシャフト80を介して駆動輪8に伝達している。
無段変速機構1は、トルク増大機能を有する発進要素であるトルクコンバータ2と、変速を行うベルト式無段変速機3と、前進走行段として低速モードおよび高速モード、後退走行段として後退モードとを切り換える副変速機4、左右駆動輪8の差動を可能にする終端機構6を有している。
【0010】
(トルクコンバータの構成)
トルクコンバータ2は、エンジン出力軸7aと一体に回転するポンプインペラ20と、ポンプインペラ20と対向して設けられたタービンランナ21と、ポンプインペラ20とタービンランナ21との間に設けられたステータ22と、締結時にエンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとが一体に回転するようにするロックアップクラッチ23とを有している。
【0011】
ポンプインペラ20は、フロントカバー2aを介してエンジン出力軸7aと接続し、エンジン出力軸7aと一体に回転するようになっている。タービンランナ21は、トルクコンバータ出力軸2bに接続し、トルクコンバータ出力軸2bと一体に回転するようになっている。ステータ22は、変速機ハウジング93に対して一方向の回転のみを許容するワンウェイクラッチ22aを介して変速機ハウジング93に支持されている。
【0012】
ロックアップクラッチ23は、タービンランナ21に対して軸方向に摺動可能に設けられている。ロックアップクラッチ23によって、フロントカバー2a側のロックアップ油室2cとタービンランナ21側のコンバータ油室2dとが隔成されている。
【0013】
ロックアップ油室2cとコンバータ油室2dには、後述するコントロールバルブユニット200によって調圧された作動油が供給される。ロックアップクラッチ23は、コンバータ油室2d内の油圧に対するロックアップ油室2cの差圧(以下、ロックアップ差圧)によって、非ロックアップ状態、ロックアップスタンバイ状態、スリップロックアップ状態、完全ロックアップ状態に制御される。
【0014】
非ロックアップ状態のときには、ロックアップ差圧が負に設定される(以下、非ロックアップ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23にはフロントカバー2aから離れる方向に力が作用する。ロックアップスタンバイ状態のときには、ロックアップ差圧がほぼゼロに設定される(以下、ロックアップスタンバイ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23は、作動油からの力が打ち消された状態となっている。スリップロックアップ状態のときには、ロックアップ差圧が正に設定される(以下、スリップロックアップ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23にはフロントカバー2a側に力が作用し、ロックアップ差圧を制御することでロックアップクラッチ23とフロントカバー2aとの間でスリップした状態を作っている。完全ロックアップ状態のときには、ロックアップ差圧が正に設定される(以下、完全ロックアップ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23にはフロントカバー2a側に力が作用し、ロックアップ差圧を制御することでロックアップクラッチ23とフロントカバー2aとが一体に回転する状態を作っている。
【0015】
ポンプインペラ20には、ポンプインペラ側スプロケット20aが一体に回転するように設けられている。またオイルポンプ5の駆動軸5aにはオイルポンプ側スプロケット5bが一体に回転するように設けられている。ポンプインペラ側スプロケット20aと、オイルポンプ側スプロケット5bとの間にはチェーン5cが掛け渡されている。すなわち、オイルポンプ5はエンジン7によって駆動されることとなる。
【0016】
トルクコンバータ2とベルト式無段変速機3との間には、カウンタギヤ機構90が設けられている。カウンタギヤ機構90は入力側カウンタギヤ91とこの入力側カウンタギヤ91と噛み合う出力側カウンタギヤ92とから構成されている。入力側カウンタギヤ91はトルクコンバータ出力軸2bと一体に回転するように設けられ、出力側カウンタギヤ92は変速機入力軸3aと一体に回転するように設けられている。
【0017】
(ベルト式無段変速機の構成)
ベルト式無段変速機3は、変速機入力軸3aと一体に回転するプライマリプーリ30と、変速機出力軸3bと一体に回転するセカンダリプーリ31と、プライマリプーリ30とセカンダリプーリ31との間に設けられたベルト35とを有している。
プライマリプーリ30は、変速機入力軸3aに対する軸方向の移動が固定されて設けられた固定シーブ30aと、変速機入力軸3aに対する軸方向の移動が可能に設けられた可動シーブ30bとから構成されている。可動シーブ30bの背面にはプライマリ油圧室32が設けられている。このプライマリ油圧室32にはコントロールバルブユニット200を介してオイルポンプ5に連通している。
【0018】
セカンダリプーリ31は、変速機出力軸3bに対する軸方向の移動が固定されて設けられた固定シーブ31aと、変速機出力軸3bに対する軸方向の移動が可能に設けられた可動シーブ31bとから構成されている。可動シーブ31bの背面にはセカンダリ圧力室33が設けられている。このセカンダリ圧力室33には、可動シーブ31bを固定シーブ31a側に付勢するスプリング33aが設けられている。
【0019】
ベルト35は、プライマリプーリ30の固定シーブ30aと可動シーブ30bとによって形成するV字形状のシーブ面30cと、セカンダリプーリ31の固定シーブ31aと可動シーブ31bとによって形成するV字形状のシーブ面31cに掛け渡されている。
プライマリ油圧室32内の圧力が低いときには、プライマリプーリ30の固定シーブ30aと可動シーブ30bとの間は広く、ベルト35はプライマリプーリ30の内周側と接している。またこのとき、セカンダリプーリ31の固定シーブ31aと可動シーブ31bとの間は狭く、ベルト35はプライマリプーリ30の外周側と接している。つまり、ベルト式無段変速機3は、変速機入力軸3aの回転数を変速機出力軸3bに減速して出力している。
【0020】
プライマリ油圧室32内の圧力が高いときには、プライマリプーリ30の固定シーブ30aと可動シーブ30bとの間は狭く、ベルト35はプライマリプーリ30の外周側と接している。またこのとき、セカンダリプーリ31の固定シーブ31aと可動シーブ31bとの間は広く、ベルト35はプライマリプーリ30の内周側と接している。つまり、ベルト式無段変速機3は、変速機入力軸3aの回転数を変速機出力軸3bに増速して出力している。
【0021】
(副変速機の構成)
副変速機4は、遊星歯車機構40と、低速モード時に締結するローブレーキLBと、高速モード時に締結するハイクラッチHCと、後退モード時に締結するリーバースクラッチRCとを有している。
遊星歯車機構40はラビニオ型遊星歯車機構であって、変速機出力軸3bと一体に回転するフロントサンギヤSf、フロントサンギヤSfに噛み合う第一ピニオンP1、第一ピニオンP1と噛み合う第二ピニオンP2、第二ピニオンP2と噛み合うリングギヤR、第二ピニオンP2と噛み合うリアサンギヤSr、第一ピニオンP1、第二ピニオンP2を回動可能に支持するキャリアCから構成されている。キャリアCは、副変速機出力軸4aに連結されている。
【0022】
ローブレーキLBはリアサンギヤSrとケースとの間に設けられ、締結時にはリアサンギヤSrの回転を規制する。ハイクラッチHCはサンギヤSとキャリアCとの間に設けられ、締結時にはサンギヤSとキャリアCとが一体に回転するようにしている。リバースブレーキRBはリングギヤRとケースとの間に設けられ、締結時にはリングギヤRの回転を規制する。
【0023】
(終端機構の構成)
副変速機4と駆動輪8との間には、終端機構6が設けられている。
終端機構6は、副変速機出力軸4aと一体に回転するドライブピニオン60と、ドライブピニオン60と噛み合うリングギヤ61と、リングギヤ61とともに回転するディファレンシャルケース62と、ディファレンシャルケース62に回動可能に支持されたディファレンシャルピニオン63と、左駆動輪8lに接続する左輪ドライブシャフト80lと一体に回転する左輪サイドギヤ64lと、右駆動輪8rに接続する右輪ドライブシャフト80rと一体に回転する右輪サイドギヤ64rとから構成されている。
【0024】
ドライブピニオン60とリングギヤ61との間で副変速機出力軸4aの回転が減速されている。ディファレンシャルピニオン63と左輪サイドギヤ64lおよび右輪サイドギヤ64rとはそれぞれ噛み合い、左輪サイドギヤ64lと右輪サイドギヤ64rとの間の作動を可能にしている。
ドライブピニオン60には隣接してパーキングギヤ65が設けられ、パーキングブレーキ作動時には、ドライブピニオン60とパーキングギヤ65とが噛み合いドライブピニオン60の回転を規制する。
【0025】
[制御部の構成]
図2は無段変速機構1を制御する電子制御部および油圧制御部の制御ブロック図である。
電子制御部としては、無段変速機コントローラ100を有している。無段変速機コントローラ100には、アクセルペダル開度センサ101からアクセルペダル開度開度情報と、車速センサ102から車速情報と、プライマリ回転数センサ103からプライマリプーリ30の回転数情報と、セカンダリ回転数センサ104からセカンダリプーリ31の回転数情報と、油圧センサ105から無段変速機構1内の作動油温情報と、インヒビタスイッチ106からドライバにより選択された変速レンジ位置情報と、ブレーキスイッチ107からブレーキペダル操作情報とを入力する。
【0026】
(無段変速機制御)
無段変速機コントローラ100は、副変速機4の変速制御を行う。すなわち、車速とアクセルペダル開度による運転点に応じて低速モードであるか高速モードであるかを判断し、低速モードであるときにはローブレーキLBを締結し、高速モードであるときにはハイクラッチHCを締結するように制御する。
【0027】
ローブレーキLBとハイクラッチHCの架け換えは車両走行中に行われるため、変速ショックを抑制するために、ローブレーキLBからハイクラッチHCの架け換え時には、ローブレーキLBの締結圧を抜きつつ、ハイクラッチHCの締結圧を上昇させる。同様に、ハイクラッチHCからローブレーキLBの架け換え時には、ハイクラッチHCの締結圧を抜きつつ、ローブレーキLBの締結圧を上昇させる。
【0028】
またドライバにより選択された後退レンジが選択されたときには後退モードと判断し、リバースブレーキRBを締結するように制御する。
無段変速機コントローラ100は、ライン圧制御を行うと共にベルト式無段変速機3の変速比制御を行う。すなわち、アクセルペダル開度等に応じた目標ライン圧を得るライン圧制御を行うとともに、車速とアクセルペダル開度による運転点より目標セカンダリ回転数を決め、目標セカンダリ回転数を得る変速比制御指令を出力する。
【0029】
また副変速機4による変速時には、ベルト式無段変速機3と副変速機4との全体の変速比が一定になるように協調変速を行う。つまり、副変速機4が低速段から高速段へ変速するときには、ベルト式無段変速機3は低速段に変速する。また、副変速機4が高速段から低速段へ変速するときには、ベルト式無段変速機3は高速段に変速する。これにより、副変速機4の変速時の変速ショックを抑制するようにしている。
【0030】
無段変速機コントローラ100は、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ23を非ロックアップ状態、ロックアップスタンバイ状態、スリップロックアップ状態、完全ロックアップ状態に制御するロックアップ制御を行う。すなわち、ブレーキペダル踏み込み時における車速減速中、または車両停車中には非ロックアップ状態に制御される。また副変速機のローブレーキLBとハイクラッチHCの架け換え時には、ロックアップスタンバイ状態に制御される。副変速機のローブレーキLBとハイクラッチHCの架け換えが終了すると、車速が完全ロックアップ条件を満たすまではスリップロックアップ状態に制御される。車速が完全ロックアップ条件を満たすと完全ロックアップ状態に制御される。
【0031】
油圧制御部の構成としては、コントロールバルブユニット200を有している。コントロールバルブユニット200は、無段変速機コントローラ100からの指令に従ってオイルポンプ5から供給される作動油の油圧を調圧して各装置に供給する。
コントロールバルブユニット200は、トルクコンバータ2のロックアップ油圧制御を行う。すなわち、無段変速機コントローラ100からの非ロックアップ制御指令時には、トルクコンバータ2のロックアップ油室2cとコンバータ油室2dにコンバータ油圧を供給する。コンバータ油室2dにはオリフィスによりロックアップ油室2cに供給される作動油よりも若干低圧の作動油が供給されている。これにより、コンバータ油室2d内の油圧がロックアップ油室2c内の油圧よりも低くなって、ロックアップクラッチ23がフロントカバー2aから離れる。無段変速機コントローラ100からのロックアップ制御指令時には、トルクコンバータ2のコンバータ油室2dにコンバータ油圧を供給し、ロックアップ油室2cはドレインと連通する。
【0032】
コントロールバルブユニット200は、ベルト式無段変速機3の変速比油圧制御を行う。すなわち、無段変速機コントローラ100からの変速比制御指令に応じ、プライマリ油圧室32へプライマリ圧を導き、ベルト式無段変速機3により目標変速比を得る。
コントロールバルブユニット200は、副変速機4の変速油圧制御を行う。すなわち、無段変速機コントローラ100からの低速モード指令時には、副変速機4のローブレーキLBに対しローブレーキ圧を導く。無段変速機コントローラ100からの高速モード指令時には、副変速機4のハイクラッチHCに対しハイクラッチ圧を導く。無段変速機コントローラ100からの後退モード指令時には、副変速機4のリバースブレーキRBに対しリバースブレーキ圧を導く。また、低速モード選択時に無段変速機コントローラ100から高速モードへの変速指令が出されると、ローブレーキLBのローブレーキ圧を抜きながら、ハイクラッチHCへハイクラッチ圧を供給する架け換え変速を行う。高速モード選択時に無段変速機コントローラ100から低速モードへの変速指令が出されると、ハイクラッチHCのハイクラッチ圧を抜きながら、ローブレーキLBへローブレーキ圧を供給する架け換え変速を行う。
【0033】
ローブレーキLBとハイクラッチHCとの架け換えの状態は架け換え状態フラグによって示される。架け換え状態フラグは、準備フェーズ、トルクフェーズ、イナーシャフェーズ、終了フェーズの4つの状態を示す。準備フェーズとは、締結される摩擦要素のガタ詰めを行うフェーズである。トルクフェーズとは、締結される摩擦要素が実容量を持ち始める時点から実ギヤ比の変動が開始するまでのフェーズである。イナーシャフェーズとは、実ギヤ比が変速前のギヤ比を外れた時点(=トルクフェーズ終了時点)から実ギヤ比が変速後のギヤ比になるまでをフェーズである。終了フェーズとは、締結される摩擦要素を完全締結するとともに、解放される摩擦要素を完全解放するフェーズである。
【0034】
(ロックアップクラッチ制御)
ロックアップクラッチ23の制御について下記に詳述する。
〈車両停止時〉
車両停止時にはトルクコンバータ2のロックアップクラッチ23を解放し、非ロックアップ状態に制御する。これにより、ポンプインペラ20とタービンランナ21との作動を可能にしている。
【0035】
〈通常車両発進時〉
車両停止状態から発進するときのロックアップクラッチ23の制御について説明する。ここで説明するロックアップクラッチ23の制御は、副変速機4のハイクラッチHCからローブレーキLBへの架け換えが生じないとき、つまりローブレーキLBが締結された状態での車両発進時について説明する。
【0036】
ブレーキペダルの踏み込みが解除されブレーキスイッチ107がオフになると、ロックアップスタンバイ制御を行う。アクセルペダルが踏み込まれ、車速が高くなるほどロックアップクラッチ23の締結力が高くなるように制御し、スリップロックアップ制御を行う。スリップロックアップ制御を行うことにより、負荷を徐々に増大させてエンジン回転数を低下させるとともにベルト式無段変速機3側の回転数を上昇させる。これにより早期にエンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとの回転を同期させて完全ロックアップ制御に移行できるようにする。よって、トルクコンバータ2によるトルク増大作用を得つつも、エンジン7の燃費の向上させることができる。エンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとの回転が同期すると完全ロックアップ制御を行う。
【0037】
〈架け換え制御を伴う車両発進時〉
車両停止状態から発進するときのロックアップクラッチ23の制御について説明する。ここで説明するロックアップクラッチ23の制御は、副変速機4のハイクラッチHCからローブレーキLBへの架け換えが生じるとき、つまりハイクラッチHCが締結された状態での車両発進時について説明する。
【0038】
ブレーキペダルの踏み込みが解除されブレーキスイッチ107がオフになると、ロックアップスタンバイ制御を行う。前述の通常車両発進時には、アクセルペダルが踏み込まれるとスリップロックアップ制御を行っていた。一方、発進時に副変速機4のハイクラッチHCからローブレーキLBへの架け換え制御が伴うときには、架け換え制御が終了するまでロックアップスタンバイ制御を維持する。架け換え制御が終了すると、通常発進時と同様にスリップロックアップ制御および完全ロックアップ制御を行う。
【0039】
〈キックダウン制御時〉
キックダウン制御時のロックアップクラッチ23の制御について説明する。車両減速中にブレーキペダルの踏み込みが解除されてブレーキスイッチ107がオフになると、ロックアップスタンバイ制御を行う。キックダウン制御時には副変速機4のハイクラッチHCからローブレーキLBへの架け換え制御が行われる。この場合、アクセルペダルが踏み込まれたとしても架け換え制御が終了するまではスリップロックアップ制御を継続して、ロックアップ制御を維持する。架け換え制御が終了すると、スリップロックアップ制御および完全ロックアップ制御を行う。
【0040】
[作用]
(架け換え制御時のベルト式無段変速機の変速変動吸収作用)
副変速機4による変速時には変速ショックを抑制するために、解放する側の摩擦要素の締結圧を抜きつつ、締結する側の摩擦要素の締結圧を上昇させている(架け換え制御)。しかし、有段変速であるため変速ショックは完全には抑えることができない。そこでベルト式無段変速機3を副変速機4の変速方向と逆方向に変速させる協調変速を行い、変速比の変動を吸収するようにして変速ショックを抑制する。つまり、副変速機4の架け換え制御時には、副変速機4とベルト式無段変速機3の両方に作動油の油圧を作用させる必要がある。
【0041】
(架け換え制御時のスリップロックアップ制御禁止の作用)
車両発進時や、車両減速からの再加速時にはトルクコンバータ2のロックアップクラッチ23は非ロックアップ制御からスリップロックアップ制御に移行する。車両発進時や、車両減速からの再加速時に副変速機4の架け換え制御が行われると、副変速機4による変速、ベルト式無段変速機3による変速比変動吸入、ロックアップクラッチ23によるスリップロック制御を同時に行うこととなる。しかし、これらを同時に行おうとするとオイルポンプ5による供給油圧に対して要求油圧が過剰となり、例えば副変速機4の変速速度が遅くなり乗員に加速のもたつき感を与えるおそれや、ベルト式無段変速機3による変速比変動吸収が十分に行われず変速変動ショックを乗員に与え、乗り心地の悪化等を引き起こすおそれがあった。
【0042】
そこで実施例1では、副変速機4による架け換え制御が終了するまではロックアップクラッチ23のスリップロックアップ制御を禁止するようにした。言い換えると、副変速機4の架け換え制御が終了した後にロックアップクラッチ23のスリップロックアップ制御を行うようにした。これにより、副変速機4による架け換え制御時には、副変速機4の変速とベルト式無段変速機3による変速比変動吸収のみが行われることとなり、オイルポンプ5による供給油圧に対する要求油圧を抑制することができる。
【0043】
図3は副変速機4の架け換え制御を伴う車両発進時の各要素の状態を示すタイムチャートである。
時間t1以前においては、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキスイッチ107がオンとなっている。このとき副変速機4は、ハイクラッチHCが締結され、ローブレーキLBが解放された状態となっている。
時間t1において、車両が一旦停止し、ブレーキペダルの踏み込みが解除されてブレーキスイッチがオフになる。このとき、ロックアップクラッチ23は、非ロックアップ制御からロックアップスタンバイ制御に切り替えられ、ロックアップ差圧は負から略ゼロに設定される。
【0044】
時間t2において、アクセルペダルが踏み込まれてアクセルペダル開度が増加する。このとき、副変速機4のローブレーキLBが締結しない程度に締結圧を高めガタ詰めを行うとともに、ハイクラッチHCの締結圧を抜き始める。このとき架け換え状態フラグは、準備フェーズに設定される。車速が増加するがロックアップクラッチ23は、ロックアップスタンバイ制御を継続する。
時間t3において、副変速機4のローブレーキLBの締結圧が徐々に上昇し始め実容量を持ち始める。このとき架け換え状態フラグは、トルクフェーズに設定される。
【0045】
時間t4において、副変速機4の実ギヤ比が変速前のギヤ比を外れる(トルクフェーズの終了)。このとき架け換え状態フラグはイナーシャフェーズに設定される。ベルト式無段変速機3は、副変速機4の変速に対して逆方向に変速し、ベルト式無段変速機3と副変速機4との全体の変速比が架け換え制御中も一定となるように制御している。
【0046】
時間t5において、副変速機4の実ギヤ比が変速後のギヤ比となる(イナーシャフェーズの終了)。このとき架け換え状態フラグは終了フェーズに設定される。イナーシャフェーズが終了すると、ローブレーキLBを完全締結するとともに、ハイクラッチHCを完全解放する。
【0047】
時間t6において、ローブレーキLBの完全締結とハイクラッチHCの完全解放が終了する(終了フェーズ終了)。このとき架け換え状態フラグには何も設定されず、架け換え制御が行われていないことを示す。そのため、ロックアップクラッチ23をスリップロックアップ制御に切り換える。
【0048】
図4はキックダウン時の車両発進時の各要素の状態を示すタイムチャートである。
時間t11以前においては、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキスイッチ107がオンとなっている。このとき副変速機4は、ハイクラッチHCが締結され、ローブレーキLBが解放された状態となっている。
時間t11において、車両が停止する前にブレーキペダルの踏み込みが解除されてブレーキスイッチがオフになる。このとき、ロックアップクラッチ23は、非ロックアップ制御からロックアップスタンバイ制御に切り替えられ、ロックアップ差圧は負から略ゼロに設定される。
【0049】
時間t12において、アクセルペダルが踏み込まれてアクセルペダル開度が増加する。このとき、副変速機4のローブレーキLBが締結しない程度に締結圧を高めガタ詰めを行うとともに、ハイクラッチHCの締結圧を抜き始める。このとき架け換え状態フラグは、準備フェーズに設定される。車速が増加するがロックアップクラッチ23は、ロックアップスタンバイ制御を継続する。
時間t13において、副変速機4のローブレーキLBの締結圧が徐々に上昇し始め実容量を持ち始める。このとき架け換え状態フラグは、トルクフェーズに設定される。
【0050】
時間t14において、副変速機4の実ギヤ比が変速前のギヤ比を外れる(トルクフェーズの終了)。このとき架け換え状態フラグはイナーシャフェーズに設定される。ベルト式無段変速機3は、副変速機4の変速に対して逆方向に変速し、ベルト式無段変速機3と副変速機4との全体の変速比が架け換え制御中も一定となるように制御している。
時間t15において、副変速機4の実ギヤ比が変速後のギヤ比となる(イナーシャフェーズの終了)。このとき架け換え状態フラグは終了フェーズに設定される。イナーシャフェーズが終了すると、ローブレーキLBを完全締結するとともに、ハイクラッチHCを完全解放する。
時間t16において、ローブレーキLBの完全締結とハイクラッチHCの完全解放が終了する(終了フェーズ終了)。このとき架け換え状態フラグには何も設定されず、架け換え制御が行われていないことを示す。そのため、ロックアップクラッチ23をスリップロックアップ制御に切り換える。
【0051】
[効果]
エンジン7と、ロックアップクラッチ23を有するトルクコンバータ2と、変速比を無段に変化させるベルト式無段変速機3(無段変速機)と、ベルト式無段変速機3と直列に設けられ、ローブレーキLB(低速段用摩擦要素)の締結時の低速段と、ハイクラッチHC(高速段摩擦要素)の締結時の高速段との二速段を有する副変速機4と、エンジン7の駆動によりロックアップクラッチ23と副変速機4に油圧を供給するオイルポンプ5と、副変速機4の変速を行うとともに、副変速機4の変速方向と逆方向にベルト式無段変速機3を変速させ、車両走行時は車速の増加に応じてロックアップクラッチ23の締結力が大きくなるように制御する無段変速機コントローラ100(変速比制御手段、ロックアップクラッチ制御手段)と、を有し、無段変速機コントローラ100は、ローブレーキLBとハイクラッチHCとの架け換え時にイナーシャフェーズおよびトルクフェーズが終了した後にロックアップクラッチ23の締結力を大きくするようにした。
【0052】
よって、要求油圧が大きくなる副変速機4による架け換え制御時には、ロックアップクラッチ23のスリップロックアップ制御を行わず、副変速機4の変速制御とベルト式無段変速機3による変速比変動吸収制御を優先して行うことが可能となる。そのため、オイルポンプ5による供給油圧に対する要求油圧を抑制することができ、副変速機4の変速速度の遅れによる加速のもたつき感や、ベルト式無段変速機3の変速比変動吸収不足による変速変動ショックなどを抑制することができる。
【0053】
〔他の実施例〕
以上、本願発明を実施例1に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、副変速機4のフロントサンギヤSfはベルト式無段変速機3の変速機出力軸3bと一体に回転するように設けられているが、変速機出力軸3bとフロントサンギヤSfとの間に他のギヤが介在していても良く、つまり同動力伝達経路としてベルト式無段変速機3と副変速機4とが直列に設けられていればよい。
【0054】
また、ベルト式無段変速機3に変えて、トロイダル式の無段変速機であっても良い。また、副変速機4として前進2段、後進1段のものに変えて、前進3段以上のものとしても良い。
【0055】
また副変速機4の遊星歯車機構40をラビニオ型遊星歯車機構としたが、通常の遊星歯車機構を用いたものでも良いし、遊星歯車機構に限らず、複数の歯車列により構成するものであっても良い。また遊星歯車機構40の各要素と摩擦要素との接続の組み合わせは、他のものであっても良い。
【0056】
副変速機4は、遊星歯車機構40と、低速モード時に締結するローブレーキLBと、高速モード時に締結するハイクラッチHCと、後退モード時に締結するリーバースクラッチRCとを有している。
【0057】
遊星歯車機構40はラビニオ型遊星歯車機構であって、変速機出力軸3bと一体に回転するフロントサンギヤSf、フロントサンギヤSfに噛み合う第一ピニオンP1、第一ピニオンP1と噛み合う第二ピニオンP2、第二ピニオンP2と噛み合うリングギヤR、第二ピニオンP2と噛み合うリアサンギヤSr、第一ピニオンP1、第二ピニオンP2を回動可能に支持するキャリアCから構成されている。キャリアCは、副変速機出力軸4aに連結されている。
【0058】
なお、実施例1は、ハイクラッチHCからローブレーキLBへの架け換える場合を具体的に記載したが、ローブレーキLBからハイクラッチHCへの架け換える場合についても同様に実施できる。
【符号の説明】
【0059】
2 トルクコンバータ
3 ベルト式無段変速機(無段変速機)
4 副変速機
5 オイルポンプ
7 エンジン
23 ロックアップクラッチ
100 無段変速機コントローラ(変速比制御手段、ロックアップクラッチ制御手段)
HC ハイクラッチ(高速段用摩擦要素)
LB ローブレーキ(低速段用摩擦要素)
図1
図2
図3
図4