特許第6186675号(P6186675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186675
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ガラス樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20170821BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B32B17/10
   C03C27/12 K
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-151069(P2012-151069)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-12373(P2014-12373A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義徳
(72)【発明者】
【氏名】野田 隆行
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−043696(JP,A)
【文献】 特開2012−025152(JP,A)
【文献】 実開昭56−143040(JP,U)
【文献】 特開平09−211220(JP,A)
【文献】 特開平06−115981(JP,A)
【文献】 特開昭61−095007(JP,A)
【文献】 特開昭59−164654(JP,A)
【文献】 特開2010−180090(JP,A)
【文献】 KWAK et al.,Preparation of Linear Low Density Polyethylene/Poly(ethylene-co-vinyl acetate) Blend Films with Various Transparencies,Polymers and Polymer Composites,2009年,Vol.17, No.9,pp.575-580
【文献】 松田景子 et al.,太陽電池封止部材の劣化の総合解析,The TRC News,東レリサーチセンター,2011年 1月,第112号,第28頁−第30頁,インターネット<URL:http://www.toray-research.co.jp/new_bunseki/pdf/TRC112(28-30).pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
C03C 27/00 − 29/00
C09J 1/00 − 5/00
C09J 9/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスシートで構成される層と、樹脂層で構成される層と、前記ガラスシートと前記樹脂層とを接着する接着層とを含み、少なくとも3層以上の積層構造を有するガラス樹脂積層体であって、
両最外層の前記ガラスシートと、前記両最外層のガラスシート間に介装された1層の前記樹脂層と、前記両最外層のガラスシートと前記樹脂層とを接着する2層の前記接着層とで構成される5層構造を有し、
前記接着層の全ての層の厚みを加えた状態での分光透過率は、少なくとも410nm〜700nmの波長域において90%以上であり、
前記接着層の厚みは、50〜800μmであり、
前記ガラスシートの厚みは、前記樹脂層の厚みより小さいことを特徴とするガラス樹脂積層体。
【請求項2】
前記樹脂層は、透明であることを特徴とする請求項1に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項3】
前記ガラスシートは、無アルカリガラスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス樹脂積層体。
【請求項4】
前記樹脂層が、ポリカーボネート材あるいはアクリル材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス樹脂積層体。
【請求項5】
前記ガラスシートの厚みは、100〜300μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス樹脂積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や車両、額縁、展示ケース、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイや、太陽電池、リチウムイオン電池、タッチパネル、電子ペーパー等のデバイスのガラス基板、デジタルサイネージやそれに使用される導光板、及び有機EL照明等のデバイスのカバーガラスや医薬品パッケージなどに使用されるガラス材に関し、より詳しくは、耐候性に優れ、軽量かつ視認性の良いガラス材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板は、耐候性、耐薬品性、耐擦傷性に優れ、透明で採光性に優れることから、一般建築や高層ビル等の窓材、屋根からの明かり採り、額縁や展示ケース、自動車、電車等の乗り物等の窓材に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ガラスは脆性材料であり、物理的衝撃に弱く容易に破損するという問題がある。ガラス板に飛来物や高速物が打突すると容易に破損し、また、熱衝撃でも容易に破損することが知られている。
【0004】
この問題を解決するために、ガラス板に透明樹脂材料を積層した積層体について、多数提案されている。透明樹脂材料は、透明で採光性に優れる点においては、無機材料であるガラスと共通するが、ガラスよりも物理衝撃に強いという利点を持つ反面、ガラスよりも耐薬品性、耐候性、耐擦傷性に劣り、表面の質感がガラスに及ばず高級感の演出に乏しいという欠点も持つ。例えば、下記特許文献1では、ガラス/ポリビニルブチラール/ポリカーボネート/ポリビニルブチラール/ガラスを順次に積層して構成された合わせガラス(ガラス樹脂積層体)が提案されている。特許文献1では、物理衝撃に弱いガラスを透明樹脂材料によって支持することで、ガラス板の破損、飛散を防止するとともに、耐候性及び耐擦傷性に優れるガラス板で透明樹脂材料を挟みこむことで、透明樹脂材料が外部環境に暴露することを防止しており、ガラス板と透明樹脂材料の夫々の短所を、夫々の長所が補完している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のガラス積層体を正面から観察した場合については、無色透明であるが、斜め方向(角度をつけた方向)から観察した場合、僅かに黄色に着色されて見えることがあった。加えて、特許文献1に記載のガラス積層体の端部からエッジライト等の光源により光を当てて液晶ディスプレイ用のバックライトや、広告板や案内板等の導光板としてガラス積層体を使用する場合に、エッジライトから離れるにつれて、黄色を呈して知覚されることがあった。
【0007】
一方、樹脂材料は、ガラスと比較して、色のバリエーションに富み、無色で高透明なものから、透明性着色品、不透明な着色品等様々な材料が製品化され各所で販売、使用されている。これらの樹脂材料は、単に透明性を持った窓だけでなく、着色品については、装飾品のカバーやケースなどとしても活用されている。この場合についても、前述の通り、樹脂材料本来の色味とは異なり、僅かに黄色を呈するという問題がある。
【0008】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、黄色を呈することを防止し、樹脂材料本来の色特性を維持しつつ、耐擦傷性・耐環境性などの樹脂シートの欠点が表層のガラスシートで補われた積層体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、透明接着層の可視光線透過率が90%を超えている場合であっても、可視光波長域の短波長側端部(380nm〜450nm)や長波長側端部(650nm〜780nm)での透過率が90%未満と低目になることにより、ガラス樹脂積層体が色味を帯びて観察されることを知見した。透明接着剤においては特に短波長側の透過率が低い傾向にあり、この影響によりガラス樹脂積層体が黄色を帯びて観察されることを知見し、本発明に至った。
【0010】
請求項1に係る発明は、ガラスシートで構成される層と、樹脂層で構成される層と、前記ガラスシートと前記樹脂層とを接着する接着層とを含み、少なくとも3層以上の積層構造を有するガラス樹脂積層体であって、前記接着層は、少なくとも430nm〜680nmの波長域における分光透過率が90%以上であることを特徴とするガラス樹脂積層体に関する。ここでの分光透過率とは各波長での平行光線透過率と拡散光線透過率の和を意味する。また、接着層が、少なくとも430nm〜680nmの波長域における分光透過率が90%以上であるとは、接着層の厚みが変化する場合において、その厚みにおける分光透過率を意味する。接着層が2層以上存在する場合については、全ての層の厚みを加えた状態での分光透過率が90%以上であることを意味する。
【0011】
請求項2に係る発明は、両最外層の前記ガラスシートと、前記両最外層のガラスシート間に介装された1層の前記樹脂層と、前記両最外層のガラスシートと前記樹脂層とを接着する2層の前記接着層とで構成される5層構造を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス樹脂積層体に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記樹脂層は、透明であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス樹脂積層体に関する。ここで、樹脂層が透明であるとは、可視光線透過率が90%以上であることを意味する。樹脂層の厚みが変化する場合において、その厚みにおける可視光線透過率を意味し、樹脂層が2層以上存在する場合については、全ての樹脂層の厚みを加えた状態での可視光線透過率が90%以上であることを意味する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記接着層の厚みは、50〜800μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス樹脂積層体に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記ガラスシートは、無アルカリガラスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス樹脂積層体に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、前記ガラスシートは、オーバーフローダウンドロー法で作製されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス樹脂積層体に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、前記樹脂層が、ポリカーボネート材あるいはアクリル材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガラス樹脂積層体に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、前記ガラスシートの厚みは、100〜300μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガラス樹脂積層体に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、ガラスシートで構成される層と、樹脂層で構成される層と、前記ガラスシートと前記樹脂層とを接着する接着層とを含み、少なくとも3層以上の積層構造を有するガラス樹脂積層体であって、前記接着層は、少なくとも430nm〜680nmの波長域における分光透過率が90%以上であることから、ガラス樹脂積層体が黄色を呈することを防止することができ、樹脂層本来の色合いを損ねることが無く、樹脂層の色特性を十分に発揮させることができる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、両最外層の前記ガラスシートと、前記両最外層のガラスシート間に介装された1層の前記樹脂層と、前記両最外層のガラスシートと前記樹脂層とを接着する2層の前記接着層とで構成される5層構造を有することから、耐候性及び耐擦傷性に優れるガラスシートで樹脂層を挟みこむことで、耐候性や耐擦傷性に劣る樹脂層が外部環境に暴露することを防止することができる。また、手触りや質感に優れるガラス層を最外層とすることができる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、前記樹脂層は、透明であることから、無色で高透明なガラス樹脂積層体とすることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、前記接着層の厚みは、50〜800μmであることから、ガラス樹脂積層体が黄色を呈することを防止しつつ、ガラスシートと樹脂層との熱膨張の差を接着層によって吸収することができ、ガラスシートと樹脂層とが熱膨張によって剥離することを防止することができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、前記ガラスシートは、無アルカリガラスであることから、ガラスシートの耐候性、耐薬品性が向上するため、より長期使用に適したガラス樹脂積層体とすることができる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、前記ガラスシートは、オーバーフローダウンドロー法で作製されていることから、表面品位が優れたガラスシートを大量かつ安価に作製することができる。オーバーフローダウンドロー法により作製されたガラスシートは、研磨や研削を行う必要がない。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、前記樹脂層が、ポリカーボネート材あるいはアクリル材であることから透明性に優れ、特にアクリル材を用いた場合には導光特性に優れたガラス樹脂積層体とすることができる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、前記ガラスシートの厚みは、100〜300μmであることから、軽量化されたガラス樹脂積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係るガラス樹脂積層体の断面図であって、(a)は3層構造からなるガラス樹脂積層体の図であり、(b)は5層構造からなるガラス樹脂積層体の図である。
図2】ガラスシートの製造装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るガラス樹脂積層体の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
本発明に係るガラス樹脂積層体(1)は、図1(a)に示す通り、ガラスシート(2)と樹脂層(3)とが、接着層(4)で接着されている。
【0029】
ガラスシート(2)としては、ケイ酸塩ガラスが用いられ、好ましくはシリカガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラスが用いられ、最も好ましくは無アルカリガラスが用いられる。ガラスは一般的に耐候性に優れるが、ガラスシート(2)にアルカリ成分が含有されている場合には、長期間に亘って外部環境に曝された状況で使用を続けると、表面において陽イオンが脱落し、いわゆるソーダ吹きの現象が生じ、構造的に粗となるおそれがあり、ガラスシート(2)の透光性が悪化するおそれがある。尚、ここで無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が1000ppm以下のガラスのことである。本発明でのアルカリ成分の重量比は、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下である。また、ガラスシート(2)として化学強化ガラスや物理強化ガラスを使用することもできる。
【0030】
ガラスシート(2)の厚みは、10μm〜1000μmが好ましく、50μm〜500μmがより好ましく、100μm〜300μmが最も好ましい。ガラスシートの厚みが大きいほどガラス樹脂積層体の強度が上がる。一方、ガラスシートの厚みが薄いほど、ガラス樹脂積層体の厚みにおける重量を軽減することができる。ガラスシート(2)の厚みが、樹脂層(3)の厚みより小さいことが好ましい。これにより、ガラス樹脂積層体(1)中において、ガラスシート(2)が占める割合が減少するため、ガラス樹脂積層体(1)の軽量化を図ることができる。また、ガラスシート(2)として化学強化ガラスを使用する場合においては、その厚みは、300μm〜1000μmであることが好ましい。
【0031】
ガラスシート(2)の密度は、低いことが好ましい。これにより、ガラスシート(2)の軽量化を図ることができ、ひいてはガラス樹脂積層体(1)の軽量化を図ることができる。具体的には、ガラスシート(2)の密度が2.6g/cm以下であることが好ましく、2.5g/cm以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明に使用されるガラスシート(2)は、図2に示す通り、オーバーフローダウンドロー法によって成形されていることが好ましい。これにより、表面品位が優れたガラスシート(2)を大量かつ安価に作製することができる。オーバーフローダウンドロー法は、成形時にガラスシート(2)の両面が、成形部材と接触しない成形法であり、得られたガラスシート(2)の両面(透光面)は火づくり面となっており、研磨しなくても高い表面品位を得ることができる。これにより、正確かつ精密に、接着層(4)を介してガラスシート(2)と樹脂層(3)とを積層させることが可能となる。
【0033】
成形装置(5)の内部には、断面楔状の外表面形状を有する成形体(51)が配設されており、図示しない溶融窯で溶融されたガラス(溶融ガラス)を成形体(51)に供給することで、当該溶融ガラスが成形体(51)の頂部から溢れ出るようになっている。そして、溢れ出た溶融ガラスは、成形体(51)の断面楔状を呈する両側面を伝って下端で合流することで、溶融ガラスからガラスリボン(G)の成形が開始されるようになっている。成形体(51)下端で合流した直後のガラスリボン(G)は、冷却ローラ(52)によって幅方向の収縮が規制されながら下方へ引き伸ばされて所定の厚みまで薄くなる。次に、前記所定厚みに達したガラスリボン(G)をアニーラーローラ(53)で送りだすことにより、徐冷炉(アニーラー)で徐々に冷却し、ガラスリボン(G)の熱歪を除き、徐冷されたガラスリボン(G)を室温程度の温度にまで十分に冷却するようになっている。徐冷炉を通過したガラスリボン(G)は、成形装置(5)下方に存在する図示しない切断装置によって所定寸法に切り出され、ガラスシート(2)が成形される。
【0034】
樹脂層(3)は、有色や無色、透明や非透明等特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、アクリル、ポリカーボネート等を使用することができる。特に、透明性に優れることから、アクリル、ポリカーボネートを使用することが好ましい。また、意匠性が求められる用途に対しては、種々の色彩から選択が可能なアクリルを使用することが好ましい。
【0035】
樹脂層(3)の厚みは、使用するガラスシート(2)の厚み、及び、ガラス樹脂積層体(1)の目的とする厚み等から、適宜設定、選択することができる。建築物の窓等にガラス樹脂積層体(1)が使用される場合には、ガラス樹脂積層体(1)が撓まないことが好ましいため、透明樹脂層(3)がガラスシート(2)を支持可能な程度の厚みを有することが好ましい。
【0036】
樹脂層(3)は、凹面や凸面等の曲面形状に成形されていても良い。この場合、ガラスシート(2)は、樹脂層(3)の曲面形状に合わせて曲げ成形されていてもよく、形状が曲面形状に固定されたガラスシート(2)により、樹脂層(3)の形状が拘束されるため、ガラスシート(2)により樹脂層(3)が補強される効果が顕著となる。また、ガラスシート(2)として、厚み10μm〜300μmのものを使用する場合には、樹脂層(3)の曲面に追随してガラスシート(2)が変形するため、ガラスシート(2)を曲げ成形することなくガラス樹脂積層体(1)を作製することができる。特に樹脂層(3)が凹面の曲面形状に成形されている場合において、ガラスシート(2)を凹面に成形された樹脂層(3)の曲面に追随させることでガラスシート(2)の表面に圧縮応力が形成され、ガラス樹脂積層体(1)全体として、衝撃吸収性に優れたものが得られる。
【0037】
接着層(4)は、ガラスシート(2)と樹脂層(3)とを接着する。接着層(4)は、少なくとも430nm〜680nmの波長域における分光透過率が90%以上であることを要する。これにより、樹脂層(3)本来の色合いを損ねることが無く、樹脂層の色特性を十分に発揮させることができる。接着層(4)の450nm以下といった可視光短波長域における分光透過率が90%未満であると、用途によっては黄色を呈した状態でガラス樹脂積層体(1)が観察されることがあり、好ましくない。接着層(4)は、430nm〜680nmの波長域における分光透過率が、92%以上であることがより好ましく、94%以上であることが最も好ましい。
【0038】
接着層(4)の厚みは、25μm〜1000μmが好ましく、50μm〜800μmがより好ましく、50μm〜500μmがさらに好ましい。接着層(4)の厚みが大きいほど、樹脂層(3)とガラスシート(2)との熱膨張差による伸縮の差を吸収することができるが、430nm〜680nmの波長域における分光透過率が劣る。一方、接着層(4)の厚みが小さいほど、430nm〜680nmの波長域における分光透過率が向上するが、樹脂層(3)とガラスシート(2)との熱膨張差による収縮の差を吸収し難くなる。従って、樹脂層(3)の厚みは、100〜500μmであることが、最も好ましい。尚、本発明において、接着層(4)の厚みが大きくなったとしても、430nm〜680nmの波長域における分光透過率は、90%を下回ることはない。
【0039】
接着層(4)の材質については、波長430nm〜680nmにおける分光透過率が90%以上を満たす限り、特には限定されず、両面粘着シート、熱可塑性接着シート、熱架橋性接着シート、エネルギー硬化性の液体接着剤等を使用することができ、例えば、光学透明粘着シート、EVA、TPU、PVB、アイオノプラスト樹脂、アクリル系熱可塑性接着シート、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、常温硬化型接着剤等を使用して接着してもよい。接着剤を使用する場合は、接着後に透明状態を呈する接着剤を使用することが好ましい。また、接着層(4)に、紫外線遮蔽性(紫外線吸収)があれば、樹脂層(3)が紫外線により劣化することを防止することができる。
【0040】
また、接着層(4)は410nm〜700nmの波長域における分光透過率が90%〜94%以上であることがより好ましく、さらには380nm〜780nmの波長域で分光透過率が90%〜94%以上あれば視覚的にほぼ透明であり最も好ましい
【0041】
接着層(4)は、曇り度(ヘーズ)が2%以下であることが好ましい。これにより、樹脂層(3)としてアクリルやポリカーボネート等の透明度の高い材料を使用した場合に、透明度の高いガラス樹脂積層体(1)を得ることができる。接着層(4)は、曇り度(ヘーズ)が1%以下であることがより好ましく、0.5以下%であることが更に好ましい。
【0042】
図1(b)に示す通り、本発明に係るガラス樹脂積層体(1)は、ガラスシート/接着層/樹脂層/接着層/ガラスシートからなる5層構造であることが好ましい。これにより、耐候性及び耐擦傷性に優れるガラスシート(2)で樹脂層(3)を挟みこむことで、耐候性や耐殺傷性に劣る樹脂層(3)が外部環境に暴露することを防止することができる。また、手触りや質感に優れるガラスシート(2)を最外層とすることができる。
【0043】
樹脂層(3)の厚みは、ガラスシート(21)(22)の厚みを足した厚み以上であることが好ましく、ガラスシート(21)(22)の厚みの3倍以上であることがより好ましい。これにより、ガラス樹脂積層体(1)の中で透明樹脂層(3)が占める割合が増加するため、ガラス樹脂積層体(1)全体の重量をさらに軽減することができ、より効果的にガラス樹脂積層体(1)の軽量化を図ることができる。ガラスシート(21)(22)の厚みが異なる場合、透明樹脂層(3)の厚みは、最も厚みの大きいガラスシートの厚みの3倍以上であることが好ましい。透明樹脂層(3)の厚みは、ガラスシート(21)(22)の厚みの10倍以上がより好ましく、20倍以上であることが最も好ましい。
【0044】
ガラスシート(21)と(22)は、同一の種類のガラス材質を使用してもよいし、異なった種類のガラス材質を使用してもよい。例えば、ガラス樹脂積層体(1)を、建築用の窓等に使用する場合に、外部環境に暴露される側のガラスシート(21)に、耐候性により優れる無アルカリガラスを使用し、室内等の内部環境側のガラスシート(22)にはソーダライムガラス等を使用することもできる。
また、接着層(4)と同様に可視光線に対してより透明なガラスシートが求められ、少なくとも430nm〜680nmの波長域における分光透過率が90%以上であることが好ましい。これにより、樹脂層(3)本来の色合いを損ねることが無く、樹脂層の色特性を十分に発揮させることができる。
【0045】
ガラスシート(21)(22)の厚みは、同一の厚みでもよく、異なった厚みでもよい。例えば、ガラス樹脂積層体(1)を、建築用の窓等に使用する場合に、外部環境に暴露される側のガラスシート(21)の厚みを厚めに設定(例えば100μm)し、室内等の内部環境側のガラスシート(22)の厚みを薄めに設定(例えば50μm)してもよい。
【0046】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、3層構造又は5層構造のガラス樹脂積層体を説明したが、7層構造以上のガラス樹脂積層体としてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明のガラス樹脂積層体を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)縦300mm、横300mm、厚み100μmの矩形状のガラスシートを1枚用意した。ガラスシートは、日本電気硝子株式会社製の無アルカリガラスを使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシートを、未研磨の状態でそのまま使用した。樹脂層として、縦300mm、横300mm、厚み1mmの矩形状の乳白色半透明のポリカーボネート板(タキロン社製)を用意した。樹脂層の片面に、接着層として熱可塑性シート(EVA)150μmを積層させた後、ガラスシートを積層することで、3層構造のガラス樹脂積層体を作製した。尚、接着層の波長410nm〜700nmでの分光透過率は、各波長で90%以上であった。また、接着層は紫外線吸収剤が添加されており、紫外線遮蔽性能を持っている。得られたガラス樹脂積層体を斜め45°方向から観察したところ、ポリカーボネート板の乳白色の半透明性がそのまま再現されており、黄色を呈していなかった。また、得られたガラス樹脂積層体のガラス面側に対してキセノンウェザーメーターにより耐候性試験を1000時間実施したところ、ポリカーボネートは劣化をしなかった。本実施例は、照明カバーとして好適に使用することができる。
【0049】
(実施例2)縦600mm、横600mm、厚み700μmの矩形状のガラスシートを2枚用意した。ガラスシートは、日本電気硝子株式会社製の無アルカリガラスを使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシートを、未研磨の状態でそのまま使用した。樹脂層として、縦600mm、横600mm、厚み6mmの矩形状の白色不透明のアクリル板(三菱レイヨン社製)を用意した。樹脂層の両面に、接着層として熱可塑性シート(EVA)400μmを積層させた後、ガラスシート2枚で樹脂層を挟着することで、5層構造のガラス樹脂積層体を作製した。尚、接着層の波長430nm〜680nmでの分光透過率は、各波長で90%以上であった。得られたガラス樹脂積層体を斜め45°方向から観察したところ、アクリル板の白色がそのまま再現されており、黄色を呈していなかった。本実施例は、アクリルの白色を再現することができ、ガラスシートでアクリルが保護されていることにより耐擦傷性に優れ、アクリル自体に紫外線耐久性があることから、陳列棚として好適に使用することができる。
【0050】
(実施例3)縦500mm、横500mm、厚み200μmの矩形状のガラスシートを2枚用意した。ガラスシートは、日本電気硝子株式会社製の無アルカリガラスを使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシートを、未研磨の状態でそのまま使用した。樹脂層として、縦500mm、横500mm、厚み2mmの矩形状の無色透明のアクリル板(三菱レイヨン社製)を用意した。樹脂層の両面に、接着層としてアクリル系光学透明両面粘着シート200μmを積層させた後、ガラスシート2枚で樹脂層を挟着することで、5層構造のガラス樹脂積層体を作製した。尚、接着層の波長420nm〜780nmでの分光透過率は、各波長で91%以上であった。得られたガラス樹脂積層体を斜め45°方向から観察したところ、アクリル板の透明性がそのまま再現されており、黄色を呈していなかった。アクリル自体に紫外線耐久性があることから、高透明窓として好適に使用することができる。
【0051】
(実施例4)縦600mm、横600mm、厚み100μmの矩形状のガラスシートを2枚用意した。ガラスシートは、日本電気硝子株式会社製の無アルカリガラスを使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシートを、未研磨の状態でそのまま使用した。樹脂層として、縦600mm、横600mm、厚み4mm、R3000mmのシリンドリカル形状の無色透明のアクリル板(三菱レイヨン社製)を用意した。樹脂層の両面に、接着層としてアクリル系光学透明両面粘着シート350μmを積層させた後、ガラスシート2枚を樹脂層の曲面に沿わせるように配置し樹脂層を挟着することで、5層構造のガラス樹脂積層体を作製した。尚、接着層の波長400nm〜780nmでの分光透過率は、各波長で92%以上であった。得られたガラス樹脂積層体を斜め45°方向から観察したところ、アクリル板の透明性がそのまま再現されており、黄色を呈していなかった。アクリル板とガラスシートと接着層とが高透明であることから、曲面を含む展示ケースとして好適に使用することができる。
【0052】
(実施例5)縦600mm、横600mm、厚み500μmの矩形状のガラスシートを2枚用意した。ガラスシートは、日本電気硝子株式会社製のソーダガラスを使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシートを、R1000mmのシリンドリカル形状に曲げ成形を行った。樹脂層として、縦600mm、横600mm、厚み6mm、R2000mmのシリンドリカル形状の無色透明のポリカーボネート板(タキロン社製)を用意した。樹脂層の両面に、接着層として熱可塑性シート(TPU)400μmを積層させた後、ガラスシート2枚で樹脂層を挟着することで、5層構造のガラス樹脂積層体を作製した。尚、接着層の波長430nm〜700nmでの分光透過率は、各波長で90%以上であった。また、接着層は紫外線吸収剤が添加されており、紫外線遮蔽性能を持っている。得られたガラス樹脂積層体を斜め45°方向から観察したところ、ポリカーボネート板の透明性がそのまま再現されており、黄色を呈していなかった。また、得られたガラス樹脂積層体に対してキセノンウェザーメーターにより耐候性試験を1000時間実施したところ、ポリカーボネートは劣化をしなかった。本実施例は、耐衝撃性のある安全窓として好適に使用することができる。
【0053】
(比較例1)縦500mm、横500mm、厚み200μmの矩形状のガラスシートを2枚用意した。ガラスシートは、日本電気硝子株式会社製の無アルカリガラスを使用した。オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシートを、未研磨の状態でそのまま使用した。樹脂層として、縦500mm、横500mm、厚み6mmの矩形状の無色透明のアクリル板(三菱レイヨン社製)を用意した。樹脂層の両面に、接着層として熱可塑性シート(TPU)400μmを積層させた後、ガラスシート2枚で樹脂層を挟着することで、5層構造のガラス樹脂積層体を作製した。尚、接着層の波長430nm〜680nmでの分光透過率は、各波長域で90%未満であり、最高値で88%であった。得られたガラス樹脂積層体を斜め45°方向から観察したところ、黄色を呈していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、一般建築や高層ビル等の窓材、屋根からの明かり採り、農業用温室の被覆材、自動車、電車等の乗り物等の窓材、電子デバイスの基板やカバーガラス、タッチパネル、面状に発光させる広告板や案内板等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ガラス樹脂積層体
2 ガラスシート
3 樹脂層
4 接着層
図1
図2