(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、様々な製品の筐体部品等を生産する主要な手段の一つに、モールド中に樹脂材料等を充填、硬化することで成形品を高生産、高精度に製造する射出成形技術がある。
【0003】
また、近年の携帯機器に代表される電子機器の高機能、高性能化の急速な進展に伴う信号処理の高速化、大容量化により、機器の動作に伴って発生するノイズや電磁干渉が機器の誤動作等の原因となっており、深刻な課題となっている。そのため、上記のような筐体を製造する場合においても、筐体部品における電磁波障害への対策の重要性が増している。
【0004】
例えば、電子機器のノイズ抑制に関し、筐体内側に蒸着めっき等のシールド層を付加したり、または金属キャップ等を用いて部品を保護する方法が一般的に用いられている。しかしながら、筐体内側への蒸着めっきを用いる場合、製造プロセスが増加するだけでなく、めっき剥がれによってシールド効果が低減する問題がある。また、金属キャップを使用する場合はシールド効果は十分であるが、部品点数が増加するばかりでなく、携帯機器の重要な要素である機器の薄型化や軽量化が困難になるという問題がある。
【0005】
さらに、筐体の製造においては、携帯機器などの筐体の外観を向上することによって、製品価値の向上を図る取り組みも積極的に行なわれている。
【0006】
成形品の表面の外観を加飾する方法として、一般に成形品の表面に塗装を行う方法や、金型の表面に微細加工を施すシボ加工などが用いられている。しかしながら、塗装を行う方法では、外観と耐久性を確保するために多層構造の塗装を行うこととすると、製造工程が増加し、それに伴って生産歩留が低下するという問題がある。また、シボ加工を行う場合は、通常の製造工程で生産可能であるが、着色ができないため材料色をそのまま外観に用いなければならないという問題がある。
【0007】
そこで、このような問題を解決するための技術の一例が、特許文献1に記載されている。
【0008】
特許文献1に記載の樹脂製筐体は、表面に加飾面を有し、裏面に導電性パターン層を有する加飾シートと樹脂成形体とからなる電磁シールド機能を有する構成である。このような構成とすることにより、電磁波のシールド効果が十分で、表面に装飾性を有する樹脂製筐体を得ることができる、としている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体の構成を示す断面図である。本実施形態の加飾フィルム100は、複数の金属薄片111が近接して配置している金属層110と、樹脂の表面に加飾が施された加飾層120とを有する。加飾フィルム100を筐体101上に形成することにより、加飾フィルムを備えた筐体が形成される。また、加飾フィルム100と筐体101とは、接着層130によって接着することができる。
【0017】
金属層110は複数の金属薄片111を有する。金属薄片111の材質は特に限定されるものではなく、Cu、Ni、Al等の金属あるいは、これらを含んだ合金を用いることができる。金属層110の厚さは5〜10μm程度が好ましいが、加飾フィルム100の製造性や電子機器のシールド性を考慮し、適した厚さを選択することができる。
【0018】
金属層110における複数の金属薄片111の形状および配置は、
図2に示すような形状および配置とすることができる。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る加飾フィルム100の金属層110における複数の金属薄片111の配置形状図である。
図2中、(a)は長方形、(b)は正方形、(c)はハニカム形状、(d)は三角形、(e)は渦巻き状の形状とした金属薄片111の配置構成をそれぞれ示す。なお、
図2中に示した金属薄片111の形状は例示であり、曲面を密に被覆できる形状であれば、上述した形状に限定されない。
【0019】
金属薄片111の寸法は、長方形、正方形、ハニカム形状、三角形の場合は、最も長い部分で2〜5mm程度、渦巻き状の場合は、線幅が0.5〜1mm程度が好ましい。なお、金属薄片111の寸法および間隔は、曲面を被覆するときに生じる応力と、シールドすべき電磁ノイズの波長に依存し、金属薄片111の弾性係数に応じて定めることができる。また、渦巻き状の場合は、線幅寸法が応力集中の発生の防止に対して支配的であるため、個々の渦巻き形状の全体の寸法については任意の寸法とすることができる。
【0020】
また、複数の金属薄片111の配列は、長方形や正方形の場合、例えば、縦方向に金属薄片111の寸法の半分(半ピッチ)をずらして形成することとしてもよい。
図2(b)に示した正方形について、半ピッチずらして配列したものを
図2(f)に示す。なお、金属薄片111は、応力緩和の観点から略同一形状かつ略同一間隔で規則的に配列していることが好ましい。
【0021】
また、金属薄片111の間隔は、筐体101の曲面に沿って配置する際に隣同士の金属パターンが接触しないことが目安となる。ここで、本実施形態の金属層110の厚さは5〜10μm程度と十分に薄いため、曲面に沿って配置する際の隣同士の金属薄片111の接触は起こりにくい。従って、製造時の加飾フィルム100の変形等で隣同士の金属薄片111が接触しなければ、間隔が狭いことについては問題が無い。一方、間隔が広い場合には、複数の金属薄片111の間隔から電磁ノイズが進入する可能性があるため、対象となる電磁ノイズの波長よりも十分に小さい間隔であることが望ましい。これらの点と、さらにエッチング等による金属パターン形成精度等を考慮すると、金属薄片111の間隔は0.5mm以下であることが好ましい。
【0022】
また、
図3に示すように、筐体の平坦部以外の領域、すなわち、曲面部及び角部に沿う部分に配置された金属層210における金属薄片211大きさは、平坦部に配置された金属薄片211の大きさよりも微細にすることもできる。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体の別の構成を示す断面図である。特に角部では、金属層210が局部的に変化するため、角部に沿って金属層を変形させるためには、金属薄片211の微細化が有効である。微細化の寸法は、金属薄片211の幅が筐体201の角部の曲率半径以下が好ましい。
【0023】
また、筐体の平坦部以外の領域、すなわち、曲面部及び角部に沿う部分に配置される金属層210における金属薄片211の間隔は、平坦部に配置される金属層210における金属薄片211の間隔よりも狭くすることもできる。曲面部及び角部は、成形時に加飾フィルムの変形量が大きく、加飾フィルムが伸ばされやすくなる。そのため、曲面部及び角部近傍の金属薄片211の間隔を平坦部より狭くすることで、成形時の加飾フィルムの伸びの影響による金属薄片211の間隔の広がりを抑えることが可能となり、シールド効果を高めることができる。
【0024】
微細化した金属薄片211が配置された金属薄片微細領域212は、角部にあたる2〜3列の領域をとすればよい。このとき、加飾フィルム200の位置合せ精度を加味し、微細化した金属薄片211の位置が筐体201の角部とずれないようにすることが好ましい。位置合わせの方法として、例えば、加飾フィルム200の筐体と接合する領域以外の部分と、筐体201を成形する金型に位置合せマークを作っておけばよい。位置合せマークは、例えば、十字、L字等でよく、特に限定されない。なお、加飾フィルム200に形成した位置合せマーク周辺部分は、他の層を取り除いて透明にしておくことにより、金型に形成した位置合せマークとの位置合せが容易になる。
【0025】
一方、金属層210の筺体201の平坦部に配置される部分は、金属薄片211を微細化しなくても、筐体201の表面に沿って配置することは容易である。むしろ不要な微細化をすることで、金属薄片211の間隔部分の面積が増えるためにノイズ抑制のためのシールド性能が低下する可能性がある。
【0026】
したがって、筐体201の角部にあたる部分に限定して金属薄片211を微細化することにより、金属層210が筐体201の表面に沿って変形しやすくなることによる歩留まりの向上とノイズ抑制効果の両方を実現することができる。
【0027】
加飾層120は、所望の色、デザインにて、インクを印刷することで形成することができる。加飾層120の厚さは、印刷方法にもよるが、グラビア印刷を用いた場合には、約1μm程度、スクリーン印刷を用いた場合は、5μm〜10μm程度である。
【0028】
また、
図4に示すように、加飾層120上に、コーティング層350を形成して加飾フィルム300としてもよい。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体のさらに別の構成を示す断面図である。
【0029】
コーティング層350は、加飾層120を保護するためのものであり、材質は、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等を用いることが出来る。なお、コーティング層350は、加飾フィルムを用いた筐体の表面の最外層となり、擦傷に対して傷を付きにくくするもの、傷が付いても消えるもの、の2つの方法がある。前者は、傷が付かないようにコーティング層350を高硬度とする方法である。後者は、コーティング層350を高い弾性復元力により変形しても経時的に変形前の状態に復元するようにする方法であり、変形時に傷が付いたように見えても復元時に傷が消えたように見せ、擦傷による外観品質の低下を防ぐものである。
【0030】
筐体101の材料は、一般的な射出成形に使用可能な材料をそのまま利用することができる。例をあげると、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、等を使用することができ、これらの材料を2種類以上混合して使用することも可能である。また、筐体の弾性率を向上させる等の目的で、樹脂中にガラス繊維等のフィラーを添加して使用することもできる。
【0031】
接着層130は、アクリル樹脂やウレタン樹脂を用いることができる。
【0032】
以上述べたように、本実施形態に係る加飾フィルム及びそれを備えた筐体は、金属層110を複数の金属薄片111が近接して配置されている構成としている。そのため、金属層110の柔軟性を高め、筐体101の外形形状に沿って変形しやすい加飾フィルムとすることができる。特に、筐体101の外形形状が曲面形状であっても、金属層110が曲面形状に沿って変形することによって、各金属薄片111間で曲げ応力が分断され、応力集中の発生を防ぐことができる。その結果、金属層のはがれ、変形等を抑制することが可能となり、良好な製造性および成形品外観を得ることができる。
【0033】
したがって、本発明の加飾フィルム及びそれを備えた筐体によれば、製造歩留に優れ、成形品外観が良好な電磁シールド機能を有する加飾フィルム、それを備えた筐体を得ることができる。
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体の構成を示す断面図である。本実施形態の加飾フィルム400は、複数の金属薄片111が近接して配置されている金属層110と、樹脂の表面に加飾が施された加飾層120と、金属層110と加飾層120との間に、樹脂からなる緩衝層440とを有する。加飾フィルム400は、筐体101上に形成され、加飾フィルムを用いた筐体が形成される。また、加飾フィルム400と筐体101とは、接着層130によって接着することができる。第1の実施形態とは、緩衝層440を有する点が異なる。
【0034】
緩衝層440によって、金属層110の複数の金属薄片111の形状が成形品表面の外観に影響しないようにすることができる。これは、加飾フィルムを備えた筐体を射出形成法によって成形する際に、射出された樹脂の圧力で金属薄片111が加飾フィルムの表面側に押され、緩衝層440が無い場合は、金属薄片111が加飾フィルムの表面に浮き出してしまうためである。すなわち、金属薄片111の浮き出しを緩衝層440が変形することにより吸収し、外観不良を防止することが出来る。
【0035】
緩衝層440の材質は、アクリル樹脂やウレタン樹脂を用いることが出来る。
【0036】
緩衝層440の厚さは、金属層110よりも厚い方が好ましく、金属層110が5〜10μmである場合、緩衝層440は10〜20μm程度であることが好ましい。
【0037】
また、緩衝層440は、導電フィラーを含有した導電性膜であり、金属層110と接触して配置している構成とすることもできる。導電性フィラーを添加することで、緩衝層440に導電性を付与することができる。緩衝層440に添加する導電性フィラーの材質は、例えば、Ag、Cu、Al等があげられる。粒子のサイズは1μm〜10μm程度、形状は球形やフレーク状を一例として挙げることができるがこれに限定されない。金属粒子の充填量は40〜70wt%が好ましい。
【0038】
導電性の緩衝層を設けることによって、金属層110の複数の金属薄片111でシールドした電磁ノイズをグランドに確実に放出することができるので、電子機器のノイズによる誤動作を未然に防ぎ、性能を維持することができる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態に係る加飾フィルム及びそれを備えた筐体の製造方法について
図6を用いて説明する。
【0040】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体の製造方法を示す工程図である。加飾フィルムを備えた筐体を形成するための金型510は、固定側の金型512と、可動側の金型511を有する。また、加飾フィルム400を金型510にセッティングするための送り装置520を有する。
【0041】
まず、樹脂の表面に加飾を施すことにより加飾層120を形成し、加飾層120の加飾した表面と反対側の面の上に樹脂からなる緩衝層440を形成し、緩衝層440の上に複数の金属薄片111を近接して配置することにより金属層110を形成する。さらに、金属層110の上に接着層130を塗布することにより、加飾層120と緩衝層440と金属層110と接着層130から成る加飾フィルム400を形成する。次に、加飾フィルム400を、筐体101を形成するための金型510の可動側の金型511の内側に配置する(
図4(a))。その後、可動側の金型511と固定側の金型512を密着させ、可動側の金型511から金型510内に配置された加飾フィルムの接着層側に向けて樹脂530を射出する。このとき、射出された樹脂の圧力により、加飾フィルム400は金型510の形状に沿って変形する(
図4(b))。そして、樹脂530を硬化することにより筐体101を形成するとともに、加飾フィルム400の接着層130と筐体101を接着する。最後に、成形品540を金型510から取り出す(
図4(c))。
【0042】
なお、加飾フィルムは、ベースフィルム(図示せず)に貼り付けられていて、ロール状になっていることが一般的であり、射出成形時に筐体101の表面に加飾フィルム400を接着した後、ベースフィルムのみを筐体101から剥がすことにより、筐体101の表面への加飾フィルム400の貼り付けが完了する。ベースフィルムの材質は、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネートを用いることができ、フィルム厚さは50μm〜100μm程度が望ましい。
【0043】
次に、加飾フィルム400の製造方法を
図5、
図6を参照しながらより詳細に説明する。
【0044】
まず、ベースフィルム上にコーティング層を所定の厚みになるように塗布して、コーティング層(図示せず)を設けてもよい。塗布方法は、スクリーン印刷法を用いることができる。なお、射出成形後にベースフィルムが剥がしやすいようにベースフィルム表面に剥離処理した後にコーティング層を形成することができる。塗布したコーティング層を硬化させるが、その方法はコーティング層の使用材料によって、紫外線硬化や加熱硬化等の方法を利用する。
【0045】
続いて、コーティング層の表面に加飾層120を印刷する。印刷方法は、一般的なスクリーン印刷法やグラビア印刷法を利用できる。
【0046】
続いて、緩和層440を、加飾層120上に所定の厚さになるように、スクリーン印刷法等により塗布する。緩衝層440に導電フィラーを充填する場合には、緩和層440は加熱硬化することが望ましい。なぜなら、紫外線硬化の場合は、導電フィラーの影響で紫外線が届かない箇所が発生し、硬化が不十分になる可能性があるからである。
【0047】
続いて、緩和層440の表面に金属層110を貼り付ける。金属層110は、あらかじめ複数の金属薄片111に加工した後に貼り付けても良いし、一枚の金属薄板を貼り付けた後にエッチング等によって分離し、複数の金属薄片111を形成することとしても良い。また、金属層110を緩和層440の表面に貼り付ける方法として、新たに接着剤(図示せず)を用いても良いし、他の方法として、緩和層440が半硬化状態で金属層110の貼り付けを行ない、貼り付け後に緩和層440を完全硬化することによって、金属層110を貼り付けてもよい。
【0048】
最後に金属層110の表面に接着層130をスクリーン印刷法等により塗布し、ベースフィルムに貼り付いた状態でロール状にすることができるように接着層130を紫外線硬化や加熱硬化等により硬化し、本発明の第2の実施形態に係る加飾フィルム400が完成する。
【0049】
なお、加飾フィルム400と筐体101を位置合せする場合には、以下の方法がある。まず、加飾フィルム400の筐体に接着しない領域に位置合せマークを形成する。次に筐体101を成形する金型510の可動側511あるいは固定側512の一方にも、加飾フィルム400に形成した位置合せマークと対応する位置に、位置合せマークを形成する。そして、両方の位置合せマークが重なったことを、画像認識等により確認することによって、筐体101と加飾フィルム400の良好な位置合せを行なうことができる。
【0050】
以上述べたように、本実施形態に係る加飾フィルム、それを備えた筐体及びその製造方法では、加飾フィルムを構成する金属層110は複数の金属薄片111が近接して配置されている構成としている。それによって、金属層110の柔軟性を高め、筐体101の形状に沿って変形しやすい加飾フィルムとすることができる。さらに、緩衝層440を設けることで、金属薄片111の加飾フィルムへの浮き出しを緩衝層440が変形することにより吸収し、それによって外観不良を防止することができる。
【0051】
したがって、本発明の加飾フィルム、それを備えた筐体及びその製造方法によれば、製造歩留に優れ、成形品外観の良好な電磁シールド機能を有する加飾フィルム、それを備えた筐体及びその製造方法を得ることができる。
【0052】
なお、特許文献2には、射出成形同時加飾により射出成形品と一体的に形成された積層シートが記載されている。この積層シートは、射出形成品側から強誘電体シート、平面アンテナ、磁性体シート、加飾シートの順に積層された構成である。特許文献2によると、このような構成とすることにより、加飾フィルムの表面にアンテナパターンの凹凸が浮き出ることを防止できる、としている。
【0053】
しかしながら、特許文献2に記載された積層シートにおいては、アンテナの受信感度を高めるために電磁波を効率的に通過させる磁性体シートが使用されている。この磁性体シートは、磁性体粒子と絶縁材料を混合してシート化している。この磁性体シートに、電磁シールドによる十分なノイズ抑制効果も持たせようとした場合、磁性体粒子の量を増やす必要がある。そうすると、積層シートの厚さが増大してしまい、加飾した積層シートが製品形状に沿って変形することが困難になる。そのため、筐体の表面形状のデザイン等によって曲面形状や屈曲した形状がある場合、製造歩留が低下するという問題があった。
【0054】
本発明の本実施形態では、金属薄片を含む金属層を備えた構成としているので、上記のような特許文献2の問題をも解決することができる。
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体の構成を示す断面図である。本実施形態の筐体構造は、筐体601上に加飾フィルム600が接着層によって接着されている。加飾フィルム600は、複数の金属薄片が近接して配置されている金属層と、樹脂の表面に加飾が施された加飾層と、金属層と加飾層との間に、樹脂からなる緩衝層とを有する。筐体601は、基板602上に設けられた内蔵アンテナ603を収容することが可能である。
【0055】
第2の実施形態とは、筐体601が内蔵アンテナ603を収容可能であり、内蔵アンテナ603と対向する放射領域に配置した加飾フィルム600は、金属薄片が選択的に除去された金属層を含まない金属除去部605を有する点が異なる。
【0056】
さらに、緩衝層が導電性フィラーを含有した導電性膜である場合には、内蔵アンテナ603と対向する放射領域に配置した加飾フィルム600は、導電フィラーを含まない導電フィラー除去部606を有する構成とすることが好ましい。
【0057】
なお、金属除去部605と導電フィラー除去部606の形成範囲は、内蔵アンテナ603の投影面積と同程度であることが好ましい。
【0058】
さらに内蔵アンテナ603直上の筐体601の内側に、送受信する信号の周波数帯のみが通過可能なノイズフィルター604を配置してもよい。ノイズフィルター604は、一般的に用いられるものが使用可能であり、例えば、エポキシ系の樹脂にフェライト粉などの磁性体粒子を充填させたものを使用することができる。
【0059】
ノイズフィルター604の厚みは特に限定されないが、50μm〜500μm程度のものが一般的である。
【0060】
ノイズフィルター604のサイズは、内蔵アンテナ603の投影面積と同程度であることが目安となるが、金属除去部605と導電フィラー除去部606より大きいことが望ましい。その理由は、ノイズフィルター604が小さい場合には、ノイズフィルター604と金属除去部605の隙間からノイズが進入し、電子機器に悪影響を与える可能性があるためである。
【0061】
ここで、筐体601内側のノイズフィルター配置位置に目印を形成しておくことが望ましい。その理由は、加飾フィルムを用いた筐体を組み立てた後でないと正確なノイズフィルター604の配置位置は特定できないため、配置位置にばらつきが生じやすくなるからである。そこで、あらかじめノイズフィルター604の配置位置の目印を筐体601の内側に形成しておくことで製造時のばらつきを低減することができる。目印の作製方法の一例は、ノイズフィルター配置位置に該当する箇所の金型表面に凹あるいは凸の目印をつけておけばよい。筐体601の内側には金型とは逆、つまり金型が凹ならば、筐体601の内側には凸の目印が形成される。例えば、ノイズフィルターの形状が四角である場合、ノイズフィルター四隅のそれぞれの角が配置される位置に上述した目印を形成し、この目印に合わせて、ノイズフィルター604を配置すればよい。
【0062】
以上述べたように、本実施形態に係る加飾フィルムを備えた筐体においては、複数の金属薄片が近接して配置されている金属層と、加飾層の内側に形成された緩衝層とを有する。そのため、電磁ノイズ抑制効果を得ることができるとともに、射出成形時の成形圧力によって金属層が加飾層の表面に浮き出すことによる筐体外観不良を抑制することができる。さらに、金属層は、複数の金属薄片が近接して配置されている構造であるため、筐体の成形時に筐体601の曲面形状に沿って加飾フィルム600が変形しやすく、筐体の製造歩留まりを向上させることができる。
【0063】
したがって、本発明の加飾フィルムを備えた筐体によれば、製造歩留に優れ、成形品外観が良好な、電磁シートを有する加飾フィルム及びそれを用いた筐体及びそれらの製造方法を得ることができる。
【0064】
さらに、内蔵アンテナ603付近の筐体内側の金属薄片を選択的に除去し、金属除去部605に特定の周波数のみを伝達させるノイズフィルター604を配置した構成とした。それにより、アンテナに送受すべき信号のみを選択的に伝達できるため、電子機器の通信品質を向上させることができる。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
(付記1)
複数の金属薄片が近接して配置している金属層と、
樹脂の表面に加飾が施された加飾層、とを有する
加飾フィルム。
(付記2)
前記金属薄片の間隔は、電磁ノイズの波長よりも小さい
付記1に記載した加飾フィルム。
(付記3)
前記金属薄片は、略同一形状であり、略同一間隔で配列している
付記1または2のいずれか一項に記載した加飾フィルム。
(付記4)
前記金属薄片の形状は、多角形および渦巻形状のうちのいずれかである
付記1から3のいずれか一項に記載した加飾フィルム。
(付記5)
筐体の平坦部以外の領域に配置される前記金属層における前記金属薄片の大きさは、前記筐体の平坦部に配置される前記金属層における前記金属薄片の大きさよりも小さい
付記1から4のいずれか一項に記載した加飾フィルム。
(付記6)
筐体の平坦部以外の領域に配置される前記金属層における前記金属薄片の間隔は、前記筐体の平坦部に配置される前記金属層における前記金属薄片の間隔よりも狭い
付記1から5のいずれか一項に記載した加飾フィルム。
(付記7)
前記金属層と前記加飾層との間に、樹脂からなる緩衝層をさらに有する
付記1から6のいずれか一項に記載した加飾フィルム。
(付記8)
前記緩衝層の厚さは、前記金属層の厚さ以上である
付記7に記載の加飾フィルム。
(付記9)
前記緩衝層は、導電フィラーを含有した導電性膜であり、前記金属層と接触して配置している
付記7または8に記載した加飾フィルム。
(付記10)
付記1から9のいずれか一項に記載した加飾フィルムが、樹脂性の筐体の表面に形成されている
加飾フィルムを備えた筐体。
(付記11)
前記筐体の平坦部以外の領域に配置された前記金属層における前記金属薄片の大きさが、前記平坦部に配置された前記金属層における前記金属薄片の大きさよりも小さい
付記10に記載した加飾フィルムを備えた筐体。
(付記12)
前記筐体は、内蔵アンテナを収容することが可能であり、
前記緩衝層は、導電性フィラーを含有した導電性膜であり、
前記内蔵アンテナと対向する放射領域に配置した前記加飾フィルムは、前記金属層および前記導電フィラーを含まない
付記10または11に記載した加飾フィルムを備えた筐体。
(付記13)
前記放射領域の筐体の内部側に、電磁ノイズを遮断するノイズフィルターを備えている
に付記12に記載した加飾フィルムを備えた筐体。
(付記14)
前記筐体内部の前記ノイズフィルター配置位置に目印を形成している
付記13に記載した筐体。
(付記15)
樹脂の表面に加飾を施すことにより加飾層を形成し、
前記加飾層の上に樹脂からなる緩衝層を形成し、
前記緩衝層の上に複数の金属薄片を近接して配置することにより金属層を形成し、
前記金属層の上に接着層を塗布することにより、
前記加飾層と前記緩衝層と前記金属層と前記接着層から成る加飾フィルムを形成し、
前記加飾フィルムを筐体を形成するための金型内に配置し、
前記金型内に配置された前記加飾フィルムの記接着層に向けて樹脂を射出して前記加飾フィルムを前記金型の形状に沿って変形させ、
前記樹脂を硬化することにより前記筐体を形成するとともに、前記加飾フィルムの前記接着層と前記筐体を接着する
加飾フィルムを備えた筐体の製造方法。