特許第6186695号(P6186695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186695
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   F02D45/00 372Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-232008(P2012-232008)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-84727(P2014-84727A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直樹
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−211684(JP,A)
【文献】 特開2007−211685(JP,A)
【文献】 特開平09−014116(JP,A)
【文献】 特開2004−239131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実機エンジンを模擬したエンジンシミュレーションモデルを用いて各種パラメータを算出し、算出された各種パラメータに基づいて、前記実機エンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差を算出するクランク角偏差算出手段と、
出された前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差に基づいて、前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差が小さくなるように前記エンジンシミュレーションモデルのエンジン回転速度指示値を補正するエンジン回転速度指示値補正手段と
を備え
前記クランク角偏差算出手段は、
前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角の所定角度毎に、前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差を算出し、
前記エンジン回転速度指示値補正手段は、
クランク角を時間に単位変換することにより、算出された前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差に相当する第一の時間を算出し、
前記エンジンシミュレーションモデルの現在のエンジン回転速度指示値に基づいて、前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角が次の所定角度に到達するまでにかかる第二の時間を算出し、
算出された前記第一の時間と算出された前記第二の時間とに基づいて、前記実機エンジンのクランク角と前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角とが同じ値となるように補正した、前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角が次の所定角度に到達するまでにかかる第三の時間を算出し、
算出された前記第三の時間に基づいて、前記エンジンシミュレーションモデルのエンジン回転速度指示値を補正する
ことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジンシミュレーションモデルのエンジン回転速度指示値を補正する補正値が制限値を超えないように制限する補正値制限手段をさらに備える
請求項1に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシミュレーションモデルを用いて各種パラメータを算出し、その算出結果に基づいて実機エンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように内燃機関(エンジン)に対する排出ガス規制は年々厳しくなる傾向にあり、さらに低燃費化への要求も年々高まっている。これらの規制や要求をクリアするためにエンジンバルブの開閉弁タイミングやリフト量を変化させるVVA(Variable Valve Actuation)やマルチ噴射を行うデバイスの開発が行われ、実用化が進められている。これらのデバイスによる改善効果は既に多くの論文等で紹介されているが、当然のことながら制御は従来のディーゼルエンジンと比較して複雑となり、マップを用いた制御とするとそのマップの数は膨大になってしまう。
【0003】
このような問題を解決するためにモデルベース制御の開発が進められている(例えば、特許文献1、2参照)。モデルベース制御とは、リアルタイムと同等以上の計算速度を有するエンジンのシミュレーションモデル(以下、エンジンシミュレーションモデルともいう)を用いて制御コントローラの中で各種パラメータの予測計算を行い、その予測計算結果に基づいて実機エンジンを制御するシステムのことを表す。例えばディーゼルエンジンにおいてNOx(窒素酸化物)をターゲットとして排気再循環バルブの開弁量(EGRバルブ量)を制御対象とした場合、モデルベース制御においては、エンジンシミュレーションモデルを用いて筒内のガス組成を予測し、その予測結果を参照しながら時々刻々の必要なEGRバルブ量を算出するような制御を行う。このようなモデルベース制御を用いることで、その瞬間での制御パラメータが得られると共に、実機エンジンでは計測することが不可能又は困難であるパラメータまで制御対象とすることができるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−239131号公報
【特許文献2】特開2007−211684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モデルベース制御に用いるエンジンシミュレーションモデルは、実機エンジンからの各種パラメータ(センサ計測値等)を入力条件として用いる。しかしながら、過渡運転時のように時々刻々と条件が変化するような運転状態においては、エンジン回転速度変動に伴う計測誤差等が原因で実機エンジンとエンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角に微少ながら乖離が発生してしまうことがある。その結果、実機エンジンとエンジンシミュレーションモデルとの計算タイミングが徐々に乖離していき予測計算結果の精度が低下する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、実機エンジンとエンジンシミュレーションモデルとの計算タイミングの乖離を抑制することにより、モデルベース制御における予測計算結果の精度の低下を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、実機エンジンを模擬したエンジンシミュレーションモデルを用いて各種パラメータを算出し、算出された各種パラメータに基づいて、前記実機エンジンを制御するエンジン制御装置であって、前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差を算出するクランク角偏差算出手段と、算出された前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差に基づいて、前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差が小さくなるように前記エンジンシミュレーションモデルのエンジン回転速度指示値を補正するエンジン回転速度指示値補正手段とを備え、前記クランク角偏差算出手段は、前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角の所定角度毎に、前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差を算出し、前記エンジン回転速度指示値補正手段は、クランク角を時間に単位変換することにより、算出された前記実機エンジンと前記エンジンシミュレーションモデルとの間のクランク角の偏差に相当する第一の時間を算出し、前記エンジンシミュレーションモデルの現在のエンジン回転速度指示値に基づいて、前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角が次の所定角度に到達するまでにかかる第二の時間を算出し、算出された前記第一の時間と算出された前記第二の時間とに基づいて、前記実機エンジンのクランク角と前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角とが同じ値となるように補正した、前記エンジンシミュレーションモデルのクランク角が次の所定角度に到達するまでにかかる第三の時間を算出し、算出された前記第三の時間に基づいて、前記エンジンシミュレーションモデルのエンジン回転速度指示値を補正するエンジン制御装置を提供する
【0008】
前記エンジン制御装置は、前記エンジンシミュレーションモデルのエンジン回転速度指示値を補正する補正値が制限値を超えないように制限する補正値制限手段をさらに備えることが望ましい
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実機エンジンとエンジンシミュレーションモデルとの計算タイミングの乖離を抑制することにより、モデルベース制御における予測計算結果の精度の低下を防止することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置の概略を示す構成図である。
図2】第二ECUによるエンジン回転速度指示値補正の制御フローチャートを示す図である。
図3】第二ECUによるエンジン回転速度指示値補正の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン制御装置10は、エンジンシミュレーションモデル11を用いて各種パラメータの算出(予測計算)を行い、その算出結果(予測計算結果)に基づいて実機エンジン12を制御するモデルベース制御を行うものであり、第一の制御コントローラ(以下、第一ECUという)13と、第二の制御コントローラ(以下、第二ECUという)14とを備える。
【0013】
エンジンシミュレーションモデル11は、実機エンジン12を模擬したエンジンのシミュレーションモデルであり、エンジンシミュレーションソフトを用いて第二ECU14の中に仮想的に構築されている。このエンジンシミュレーションモデル11は、少なくとも、吸排気モデルと、燃焼モデルとを含んでいる。
【0014】
第一ECU13は、実機エンジン12の制御を行うものである。実機エンジン12の制御を行うため、第一ECU13には、実機エンジン12に設けられる、吸気温センサ、水温センサ、車速センサ、アクセル開度センサやクランク角センサ等(図示せず)の各種センサの出力信号が入力される。また、第二ECU14による予測計算結果に基づいて実機エンジン12の制御を行うために、第一ECU13には、第二ECU14からの出力信号(予測計算結果)も入力されるようになっている。
【0015】
第二ECU14は、エンジンシミュレーションモデル11を用いて各種パラメータの算出(予測計算)を行い、その算出結果(予測計算結果)を第一ECU13に入力するものである。エンジンシミュレーションモデル11を用いて各種パラメータの算出(予測計算)を行うため、第二ECU14にも、実機エンジン12に設けられる、吸気温センサ、水温センサ、車速センサ、アクセル開度センサやクランク角センサ等(図示せず)の各種センサの出力信号が入力されるようになっている。
【0016】
また、第二ECU14は、クランク角偏差算出部15と、エンジン回転速度指示値補正部16と、補正値制限部17とを機能要素として含んでいる。なお、本実施形態では、第二ECU14のクランク角偏差算出部15が本発明のクランク角偏差算出手段を構成し、第二ECU14のエンジン回転速度指示値補正部16が本発明のエンジン回転速度指示値補正手段を構成し、第二ECU14の補正値制限部17が本発明の補正値制限手段を構成する。
【0017】
クランク角偏差算出部15は、実機エンジン12のクランク角とエンジンシミュレーションモデル11のクランク角とを比較する。つまり、クランク角偏差算出部15は、実機エンジン12のクランク角とエンジンシミュレーションモデル11のクランク角とから、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差を算出する。
【0018】
エンジン回転速度指示値補正部16は、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間にクランク角の偏差が生じたときに、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差が小さくなり無くなるように、入力条件の一つであるエンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値をその都度補正する(補正エンジン回転速度指示値を算出する)。
【0019】
実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差が正の値の場合(つまり、エンジンシミュレーションモデル11が実機エンジン12に対して遅れている場合)は、エンジン回転速度指示値補正部16は、エンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値を補正して上げることによって、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差が小さくなり無くなるようにする(図3(a)参照)。
【0020】
逆に実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差が負の値の場合(つまり、エンジンシミュレーションモデル11が実機エンジン12に対して先行している場合)は、エンジン回転速度指示値補正部16は、エンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値を補正して下げることによって、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差が小さくなり無くなるようにする(図3(b)参照)。
【0021】
第二ECU14が補正エンジン回転速度指示値を入力値として、エンジンシミュレーションモデル11を用いて各種パラメータの算出(予測計算)を行うが、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差が大きい場合に補正量(エンジン回転速度指示値を補正する補正値)が大きくなってしまう。そのため、エンジン回転速度指示値の補正によってモデルベース制御における予測計算結果の精度が却って悪化してしまう状況も考えられる。このような予測計算結果の精度の悪化を防止するために、補正値制限部17は、一度の補正に用いるエンジン回転速度指示値の補正値に制限をかけている。つまり、補正値制限部17は、エンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値を補正する補正値が予め設定された制限値を超えないように制限する。
【0022】
次に、第二ECU14によるエンジン回転速度指示値補正の一例を説明する。図2に制御フローチャートを示し、図3に概念図を示す。
【0023】
本実施形態においては、エンジンシミュレーションモデル11のクランク角の30deg毎に実機エンジン12のクランク角とエンジンシミュレーションモデル11のクランク角とを比較する例を用いて、第二ECU14によるエンジン回転速度指示値補正の説明を行う。このクランク角を比較する間隔は必ずしも30deg毎である必要はなく、過度に大きくならない範囲で任意にクランク角を比較する間隔を設定することが可能である。
【0024】
まず、ステップS1において、エンジンシミュレーションモデル11のクランク角の30deg毎に実機エンジン12のクランク角からエンジンシミュレーションモデル11のクランク角の減算(引き算)を行うことにより、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差を算出する。
【0025】
次に、ステップS2において、クランク角[deg]から時間[sec]へと単位変換を行うことにより、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差に相当する時間を算出する。クランク角はエンジン回転速度によってその値(時間)が変化するためである。
【0026】
また、ステップS2においては、エンジン回転速度指示値からエンジンシミュレーションモデル11のクランク角の次の30deg到達までにかかる時間を算出しておく。過渡試験においてはクランク角30degの間にもエンジン回転速度が変動してしまうため正確には変動後のエンジン回転速度の値が必要となるが、エンジン回転速度の変動幅は十分小さいものとして扱う。
【0027】
次に、ステップS3において、ステップS2で算出した実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間のクランク角の偏差に相当する時間に基づいて、実機エンジン12のクランク角とエンジンシミュレーションモデル11のクランク角とが同じ値となるように補正した、エンジンシミュレーションモデル11のクランク角の次の30deg到達までにかかる時間を算出する。
【0028】
次に、ステップS4において、ステップS3で補正したエンジンシミュレーションモデル11が次の30deg到達までにかかる時間に基づいて、エンジンシミュレーションモデル11の次の30degまでの補正エンジン回転速度指示値を算出する。
【0029】
そして、ステップS5において、エンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値の補正値が制限値を超えないように制限する。この制限値は、補正無しのエンジン回転速度指示値に対して±25rpm程度であれば問題はないと考えられるが、過度に大きくならない範囲で任意に制限値を設定することが可能である。
【0030】
次に、本実施形態に係るエンジン制御装置10の作用効果を説明する。
【0031】
本実施形態では、実機エンジン12のクランク角とエンジンシミュレーションモデル11のクランク角とを比較し、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との間にクランク角の偏差が生じるとエンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値をその都度補正することにより、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との計算タイミングの乖離を抑制するようにしている。つまり、エンジンシミュレーションモデル11が実機エンジン12に対して遅れている場合は、エンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値を補正して上げることによって、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との計算タイミングの乖離を抑制する。逆にエンジンシミュレーションモデル11が実機エンジン12に対して先行している場合は、エンジンシミュレーションモデル11のエンジン回転速度指示値を補正して下げることによって、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との計算タイミングの乖離を抑制する。このようにすることにより、実機エンジン12とエンジンシミュレーションモデル11との計算タイミングが徐々に乖離していき予測計算結果の精度が低下してしまう状況の発生を抑制することが可能である。
【0032】
また、本実施形態では、一度の補正に用いるエンジン回転速度指示値の補正値に制限をかけているので、エンジン回転速度指示値の補正値が過度に大きくなってしまい、エンジン回転速度指示値の補正によってモデルベース制御における予測計算結果の精度が却って悪化してしまう状況の発生を抑制することが可能である。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0034】
例えば、上述の実施形態では、第一ECU13と第二ECU14とを別体のハードウェアとしているが、第一ECU13と第二ECU14とを一体のハードウェアとしても良い。
【符号の説明】
【0035】
10 エンジン制御装置
11 エンジンシミュレーションモデル
12 実機エンジン
15 クランク角偏差算出部
16 エンジン回転速度指示値補正部
17 補正値制限部
図1
図2
図3