【実施例】
【0041】
(非水電解質A)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸を添加して溶解させた。これを非水電解質Aとする。
【0042】
(非水電解質B)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を非水電解質Bとする。
【0043】
(非水電解質C)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のリチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)を添加して溶解させた。これを非水電解質Cとする。
【0044】
上記非水電解質A〜Cをそれぞれ用いて、次の手順にて非水電解質電池をそれぞれ4個ずつ作製し、それぞれ2個ずつのグループに分け、下記の評価試験A及び評価試験Bに供した。
【0045】
(手順)
反応晶析法を用いてCo、Ni及びMnを含む共沈前駆体を作製し、LiOHと混合して焼成する方法により、正極活物質を作製した。具体的には、 硝酸コバルト、硝酸ニッケル及び硝酸マンガンを、Co:Ni:Mnの原子比が1:1:1の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、大気中110℃で加熱、乾燥して、Co、Ni及びMnを含む共沈前駆体を作製した。前記共沈前駆体に水酸化リチウムを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が102:100である混合粉体を調製した。これをアルミナ製匣鉢に充填し、電気炉を用いて100℃/hで1000℃まで昇温し、1000℃にて、5時間、大気雰囲気下で焼成することにより、組成式LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を作製し、これを正極活物質として用いた。窒素吸着法により測定したBET比表面積は1.0m
2/gであり、レーザ回折散乱法粒子径分布測定装置を用いたD50の値は12.1μmであった。
【0046】
前記正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比93:3:4の割合(固形分換算)で含有し、N−メチルピロリドン(NMP)を溶剤とする正極ペーストを作製し、厚さ15μmの帯状のアルミニウム箔集電体の両面に塗布した。該正極をローラープレス機により加圧成型して正極活物質層を成型した後、150℃で14時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。
【0047】
黒鉛、スチレン−ブタジエン・ゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を質量比97:2:1の割合(固形分換算)で含有し、水を溶剤とする負極ペーストを作製し、厚さ10μmの帯状の銅箔集電体の両面に塗布した。該負極をローラープレス機により加圧成型して負極活物質層を成型した後、25℃(室温)で14時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。
【0048】
実施例に係る電池の模式図を
図2に示す。セパレータはポリエチレン製微多孔膜を用い、前記セパレータ(13)を介して正極a(11)と負極a(12)を積層し、扁平形状に巻回して発電要素(14)を作製した。ここで、正極及び負極は、巻回軸線に沿って互いに離れる方向にずらして巻回されている。即ち、発電要素(14)の軸線方向両端部のうちの一方はセパレータ(13)から正極活物質が塗布されていないアルミニウム箔集電体がはみ出し、発電要素(14)の軸線方向両端部のうちの他方は負極活物質が塗布されていない銅箔集電体がはみ出している。前記アルミニウム箔集電体の、セパレータからはみ出した部分に、アルミニウム製の正極集電板を発電要素に対して厚さ方向にまたがるような位置(15)に配置した後、該アルミニウム箔集電体と溶接した。前記銅箔集電体の、セパレータからはみ出した部分に、銅製の負極集電板を発電要素に対して厚さ方向にまたがるような位置(16)に配置した後、該銅箔集電体と溶接した。このとき、集電板から最も離れた活物質までの距離(17)は、発電要素の幅方向の長さとなり、この距離は10cm以内であった。このようにして作製した正極、負極、セパレータからなる発電要素(14)に正負極集電板を溶接したものをアルミニウム製の角型電槽缶に収納し、正負極端子を取り付けた。この容器内部に非水電解質を注入したのちに封口した。電槽缶の外形寸法は、49.3mm(高さ)×33.7mm(幅)×5.17mm(厚さ)である。このようにして非水電解質電池を組み立てた。
【0049】
<初期充放電工程>
次に、25℃にて、2サイクルの初期充放電工程に供した。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。1サイクル目の充電は、電流0.2CmA、電圧4.35V、8時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流0.2CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。2サイクル目の充電は、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。
【0050】
初期充放電工程後に、2サイクル目の放電容量を「初期放電容量(mAh)」として記録すると共に、それぞれの電池の厚さをノギスで測定して記録した。また、電池の内部抵抗を交流(1kHz)インピーダンスメーターで測定して記録した。このようにして、非水電解質電池を作製した。
【0051】
<評価試験A>
完成した非水電解質二次電池について、50サイクルの充放電サイクル試験を行った。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。充電は、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。ここで、正負極端子間電圧が4.35Vであるとき、正極電位は4.45V(vs.Li/Li
+)であることがわかっている。
【0052】
<評価試験B>
完成した非水電解質二次電池について、50サイクルの充放電サイクル試験を行った。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。充電は、電流1.0CmA、電圧4.20V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。ここで、正負極端子間電圧が4.20Vであるとき、正極電位は4.30V(vs.Li/Li
+)であることがわかっている。
【0053】
上記50サイクルの充放電サイクル試験後、それぞれの電池の厚さをノギスで測定し、充放電サイクル試験前(初期充放電工程後)の測定値に対する増加率(%)を算出した。また、電池の内部抵抗を交流(1kHz)インピーダンスメーターで測定し、充放電サイクル試験前の測定値に対する増加率(%)を算出した。また、50サイクル目の放電容量(mAh)の、前記「初期放電容量(mAh)」に対する割合を「容量維持率(%)」として算出した。以上の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から、次のことがわかる。充電時の正極電位が最大4.30V(vs.Li/Li
+)となる充電条件を採用した「評価試験B」の群について見ると、ホウ酸を添加した非水電解質Aを用いた電池やLiBOBを添加した非水電解質Cを用いた電池は、充放電サイクル試験後の放電容量維持率が98%であり、電池厚さも増加していない。ところが、添加剤無しの非水電解質Bを用いた電池でも同等の性能であり、添加剤の有無や添加剤の種類による性能の差は見られない。これに対して、充電時の正極電位が最大4.45V(vs.Li/Li
+)となる充電条件を採用した「評価試験A」の群について見ると、添加剤無しの非水電解質Bを用いた電池では充放電サイクル試験後の放電容量維持率が55%と低く、電池厚さ増加率が14%に達しているのに対し、ホウ酸を添加した非水電解質Aを用いた電池では、放電容量維持率が98%であり、電池厚さの増加も認められなかった。充放電サイクル後の放電容量維持率を高く保つことができる効果は、LiBOBを添加した非水電解質Cを用いた電池の放電容量維持率が74%であったことと比べても顕著である。
【0056】
以上のことから、充電時の正極電位が4.3V以下となる充電条件が採用される場合には、50サイクルまでの充放電サイクルを行う限りでは解決すべき課題は見出されないこと、本発明は、50サイクルまでの充放電サイクルを行う場合であっても充電時の正極電位が4.4V以上に至る充電条件が採用される場合に特有の課題が解決できるものであることがわかる。
【0057】
(非水電解質D)
非水電解質Aと同じく、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸を添加して溶解させた。これを非水電解質Dとする。
【0058】
(非水電解質E)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%の(化1)で示されるボロキシン環化合物(TiPBx)を添加して溶解させた。これを非水電解質Eとする。
【化1】
【0059】
(非水電解質F)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸トリブチル(TBB)を添加して溶解させた。これを非水電解質Fとする。
【0060】
(非水電解質G)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸トリプロピル(TPB)を添加して溶解させた。これを非水電解質Gとする。
【0061】
(非水電解質H)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸トリス(トリメチルシリル)(TTMSB)を添加して溶解させた。これを非水電解質Hとする。
【0062】
非水電解質として、上記非水電解質D、E、B、F、G、Hをそれぞれ用いたことを除いては、上記実施例と同一の処方で非水電解質電池を組み立て、同一の条件での初期充放電工程に供し、上記評価試験A及び評価試験Bを行った。但し、充放電サイクル試験は最大150サイクルまで行った。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表中、「×」印は、充放電サイクル経過に伴う放電容量の低下が著しいため、150サイクルに達する前に試験を終了させたことを示す。なお、表中「*1」印を付した数値は、200サイクル目での測定結果であることを示す。
【0065】
表2の結果からもわかるように、繰り返し充放電サイクル数が150サイクルまでの結果についてみれば、PF
6-アニオンを含有する非水電解質にホウ酸を添加してなる非水電解質を用いることにより、他のホウ素化合物を用いた場合と比べても、4.4V(vs.Li/Li
+)以上の正極電位に至る充電がなされる二次電池の充放電サイクル性能が良好な非水電解質二次電池を提供することができる。
【0066】
次に、非水電解質として、上記非水電解質D、Bをそれぞれ用いた非水電解質電池についての上記評価試験Bに係る充放電サイクル試験、即ち、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li
+)である充放電サイクル試験をさらに継続した。その結果、ホウ酸を添加していない非水電解質Bを用いた非水電解質電池は、400サイクルに達する前に放電容量の著しい低下がみられた。これに対し、ホウ酸を添加した非水電解質Dを用いた非水電解質電池は、800サイクルに至ってもなお93%の容量維持率を示した。繰り返し充放電サイクルに伴う放電容量の推移を
図1に示す。この長期充放電サイクル試験の結果から、ホウ酸を添加してなる非水電解質を用いることによって充放電サイクル性能が良好となる効果は、充電時の正極の最大到達電位が4.4V(vs.Li/Li
+)以上である場合に限られず、奏されることがわかった。
【0067】
次に、ホウ酸の好適な添加量について検討した。上記非水電解質Dに準じ、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒にLiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液に対するホウ酸の添加量を0質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%とした非水電解質をそれぞれ準備し、同様の手順で非水電解質電池を作製し、上記評価試験Aを最大250サイクルまで行った。この結果、初期充放電効率はホウ酸の添加量が0質量%では88.9%、0.1質量%では90.8%、0.2質量%では92.4%、0.5質量%では91.5%、1.0質量%では88.8%、1.5質量%では82.7%であった。充放電サイクル性能は、
図2に示すように、ホウ酸の添加量が0質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.5質量%と増えるにしたがって向上し、0.5〜1.0質量%のとき最も良好であり、1.5質量%では再び低下した。以上の結果から、ホウ酸の添加量は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。また、1.5質量%以下が好ましい。
【0068】
[非水電解質の分析]
上記の、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒にLiPF
6を1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液に対してホウ酸を0.2質量%添加した非水電解質(試料1)、同じく0.5質量%添加した非水電解質(試料2)及びこれを用いて作製し上記初期充放電を終了した段階の非水電解質電池を解体して発電要素から遠心分離により取り出した非水電解質(試料3)、並びに、同じく1.5質量%添加した非水電解質(試料4)及びこれを用いて作製し上記初期充放電を終了した段階の非水電解質電池を解体して発電要素から遠心分離により取り出した非水電解質(試料5)について、イオンクロマトグラフィー分析を行った。その結果、PF
6−の濃度は、試料2及び試料3では0.9mol/l、試料4及び試料5では0.6mol/lであった。また、ホウ酸の濃度は、試料2及び試料3では0.01mol/l(0.05質量%)、試料4では0.05mol/l(0.25質量%)、試料5では0.03mol/l(0.15質量%)であった。試料1からはホウ酸は検出されなかった。
【0069】
上記イオンクロマトグラフィー分析において、PF
6−の定量に用いたカラム及び検出器は次の通りである。
日本ダイオネクス社製IonPac AS16(4×250mm)+プレカラムAG16
溶離液:35mmol/lKOH水溶液
液量:1.0ml/ml
検出器:電気伝導度
【0070】
上記イオンクロマトグラフィー分析において、ホウ酸の定量に用いたカラム及び検出器は次の通りであり、検出限界値は0.001mol/lである。なお、分析にあたっては、試料を水で希釈して測定に供しているから、カラムが検出するイオン種はBO
33−である。
日本ダイオネクス社製IonPac ICE−AS1(9×250mm)
溶離液:1.0mol/lオクタンスルホン酸+2%2−プロパノール水溶液
液量:0.8ml/ml
検出器:電気伝導度
【0071】
以上の結果から、電解液に添加したホウ酸は一部が他の化合物に変化していることが示唆される。また、非水溶媒に1.0mol/lのLiPF
6を溶解させた電解液に対してホウ酸を0.5質量%以上添加された非水電解質は、0.01mol/l以上のホウ酸と、0.9mol/l以下のLiPF
6を含有していることがわかる。また、これを用いて作製した非水電解質電池が備える非水電解質についても同様に含有していることがわかる。
【0072】
前記正極ペーストに、正極活物質に対して1質量%のホウ酸を添加した。この正極ペーストを用い、ホウ酸を添加していない「非水電解質B」を用いたことを除いては上記参考例と同様の処方により非水電解質電池を作製し、評価試験Bを実施した。その結果、ホウ酸を添加した全ての参考例に比べて、種々の温度条件下における放電容量の低下及び内部抵抗の増加がみられ、有利な効果は何ら認められなかった。また、ホウ酸を添加した正極ペーストは、混練後、ほんの数時間放置するだけで活物質が凝集してしまい、生じた凝集体により塗工時に塗りむらが生じ、生産性が大きく劣るものであった。また、評価試験実施後の電池を解体して非水電解質を取り出してイオンクロマトグラフィー分析を行ったところ、ホウ酸は検出されなかった。上記処方によって正極ペーストから電池内に取り込まれたホウ酸の量は、仮に同量が非水電解質に添加されて注液されるとすると、1.2質量%のホウ酸を添加した電解液を用いた場合に相当する。このことから、ホウ酸を正極ペーストに添加した場合は、非水電解質の製造工程中に別の化合物に変化し、非水電解質中にホウ酸として含有されることはなく、また、本発明の効果も奏さないことがわかった。