(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186732
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】応力発光材料用組成物の製造方法、その製造方法によって得られる応力発光材料用組成物、及びその組成物から製造した応力発光材料
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20170821BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20170821BHJP
C09K 11/63 20060101ALI20170821BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
C09K11/08 A
C09K11/64CPM
C09K11/63CPK
C09K11/62CPJ
C09K11/08 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-14810(P2013-14810)
(22)【出願日】2013年1月29日
(65)【公開番号】特開2014-145040(P2014-145040A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健治
(72)【発明者】
【氏名】中尾 日六士
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵太
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−021578(JP,A)
【文献】
特開2009−286927(JP,A)
【文献】
特開2006−312718(JP,A)
【文献】
特開2006−312719(JP,A)
【文献】
特開2004−155885(JP,A)
【文献】
特開2006−143993(JP,A)
【文献】
特開2008−013607(JP,A)
【文献】
特開平02−107693(JP,A)
【文献】
特開平11−263971(JP,A)
【文献】
特開2007−145902(JP,A)
【文献】
特開2003−055653(JP,A)
【文献】
特開2003−055654(JP,A)
【文献】
特開2001−004753(JP,A)
【文献】
特開2005−120117(JP,A)
【文献】
特開2013−163811(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0050847(US,A1)
【文献】
特開2002−220587(JP,A)
【文献】
特開2000−331612(JP,A)
【文献】
特開2007−161835(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102260499(CN,A)
【文献】
韓国特許第10−2011−0131117(KR,B1)
【文献】
欧州特許出願公開第01900790(EP,A1)
【文献】
国際公開第2006/109659(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0061202(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01900791(EP,A1)
【文献】
国際公開第2006/109704(WO,A1)
【文献】
特開2011−246662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C09K 11/62
C09K 11/63
C09K 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナボールを粉砕媒体とする粉砕媒体撹拌型粉砕機を備えた反応容器中に、水及び/又は有機溶媒と、アルカリ土類金属化合物と、希土類化合物と、第13族元素化合物を供給する工程(1)と、
該反応容器中で、粉砕媒体撹拌型粉砕機の粉砕媒体に与える相対遠心加速度をG(m/sec2)として、G≧5の条件で原料混合物の混合処理を行い、スラリーを得る工程(2)と
を含む応力発光材料用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー中の全粒子の粒度分布から算出されるD50が2.3μm以下、D90が3.7μm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕媒体撹拌型粉砕機が、遊星ミル、ビーズミル、及び振動ミルからなる群から選択されるいずれか1種である
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属化合物が、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物のうち少なくとも一種である
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記希土類化合物が、セリウム化合物、ネオジム化合物、ユーロピウム化合物、ジスプロシウム化合物、ホルミウム化合物、及びエルビウム化合物のうち少なくとも一種である
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第13族元素化合物が、ホウ素化合物、アルミニウム化合物、ガリウム化合物、インジウム化合物、及びタリウム化合物のうち少なくとも一種である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた組成物を焼成する工程を含む
応力発光材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光材料用組成物の製造方法、その製造方法によって得られる応力発光材料用組成物、及びその組成物から製造した応力発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質が外部からの刺激を与えられることによって、室温付近で可視光を発する発光材料が知られている。これまで発光材料としては、紫外線、電子線、X線、放射線、電界、化学反応等の刺激によって発光するものが知られている。これに対し、摩擦、剪断力、衝撃力、振動等の機械的作用を加えて内部に応力を生じさせることにより発光させる材料、すなわち応力発光材料もこれまでにいくつか提案されている。このような応力発光材料は、センサなどとして各種電子部品等に応用されることが期待されている。そのような応力発光材料の一例として、例えば特許文献1及び2にはアルミン酸塩を母体とした材料が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3511083号公報
【特許文献2】特許第5007971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の応力発光材料は、発光輝度が不十分な場合があり、その応用分野が限られている、という問題があった。またこれまで報告されている応力発光材料は、実験室レベルなどの小規模での検討が主であり、社会において広く利用されるためには工業的な規模で生産する必要があった。
【0005】
例えば、先行技術(例えば上記特許文献1又は2)の開示内容に基づいて実際に従来品を工業的レベルで製造すると、得られた応力発光材料の輝度が不十分な場合があり品質が安定せず、実用に耐えうるものではなかった。従って安定的な品質を有する高輝度の応力発光材料、及びそのような応力発光材料を効率良く製造できる大量生産に適した方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情を鑑み、本発明者らは、新規な応力発光材料用組成物の製造方法の開発を目的として検討した結果、本発明に至った。即ち本発明の第一の態様は、
粉砕媒体撹拌型粉砕機を備えた反応容器中に、水及び/又は有機溶媒と、アルカリ土類金属化合物と、希土類化合物と、第13族元素化合物を供給する工程(1)と、
該反応容器中で、原料混合物の混合処理を行い、スラリーを得る工程(2)と
を含む応力発光材料用組成物の製造方法に関する。
【0007】
本発明の第二の態様は上記製造方法によって得られる応力発光材料用組成物に関する。
【0008】
本発明の第三の態様は、上記組成物から製造した応力発光材料に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、従来品と比べて発光輝度の高い応力発光材料を製造するのに適した組成物を工業的規模で得ることができる方法である。得られた応力発光材料用組成物から製造される応力発光材料は十分な発光輝度を有しており、また工業的規模での製造に関わらず品質のばらつきが少なく安定していることから、様々な用途への展開が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1−1で得られる応力発光材料用組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図2】実施例1−2で得られる応力発光材料用組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図3】実施例1−3で得られる応力発光材料用組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図4】実施例1−4で得られる応力発光材料用組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【
図5】比較例1で得られる応力発光材料用組成物の粒子径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<応力発光材料用組成物の製造方法>
まず本発明の第一の態様である、応力発光材料用組成物の製造方法について説明する。上記製造方法は、粉砕媒体撹拌型粉砕機を備えた反応容器中に、水及び/又は有機溶媒と、アルカリ土類金属化合物と、希土類化合物と、第13族元素化合物を供給する工程(1)と、該反応容器中で、原料混合物の混合処理を行い、スラリーを得る工程(2)とを含む方法である。
【0012】
まず工程(1)について説明する。上記アルカリ土類金属化合物としては、特に限定されないが、Be、Mg、Ca、Sr、及びBaから選択される1種以上の金属の化合物が挙げられる。その化合物としては、例えば上記金属の炭酸塩、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。なかでもカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)から選択される少なくとも1つの金属の化合物が好ましく、取り扱いが容易な点で特に炭酸ストロンチウムが好ましい。
【0013】
希土類化合物の例としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等から選択される1種以上の金属の化合物が挙げられる。その化合物としては、例えば上記金属の炭酸塩、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。なかでもセリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びエルビウム(Er)から選択される少なくとも1つの金属の化合物が好ましく、さらにそのなかでもユーロピウム(Eu)の化合物が好ましく、取り扱いが容易な点で特に酸化ユーロピウムが好ましい。これはEuが材料の発光中心として強く作用する元素だからである。
【0014】
第13族元素化合物の例としては、特に限定されないが、B、Al、Ga、In、Tl等から選択される1種以上の元素の化合物が挙げられる。その化合物としては、例えば酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。なかでもアルミニウム(Al)の化合物が好ましく、取り扱いが容易な点で特に酸化アルミニウムが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法においては、分散媒として水及び/又は有機溶媒を用いる。上記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類といった水溶性有機溶媒が挙げられる。また本発明の効果を損なわない範囲で他の分散媒を含んでいてもよい。
【0016】
原料混合物には、さらに、粒子の分散性を高めるための分散剤を添加してもよい。分散剤の例としては、特に限定されないが、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤が用いられる。アニオン系界面活性剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられ、ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
原料混合物には、さらに、応力発光特性を向上させる目的でドーパントを添加してもよい。ドーパントはアルカリ土類金属サイトに対して添加するものと第13族元素サイトに添加するものがある。
【0018】
アルカリ土類金属サイトに対してドープする元素としてはCa、Sr、Ba等の同族金属やCe、Pr、Nd、Eu,Dy、Ho、Er等の希土類元素を使用することができる。これらはイオン半径や価数の異なる元素で置換することにより格子欠陥が形成され、結晶構造がより歪みやすくなる結果、応力発光能が向上するため好ましい。
【0019】
また第13族元素サイトに対してドープする元素としてはB、Al、Ga、In、Tl等の同族元素を使用することができる。これらは前段記載と同様な理由から好ましい。
【0020】
原料混合物には、さらに、粒子の結晶性を高めるためにフラックス成分を添加しても良い。上記フラックス成分としては、特に限定されないが、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等の化合物が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
工程(1)の後、工程(2)において粉砕媒体撹拌型粉砕機を備えた反応容器中で原料混合物の混合処理を行い、スラリーを得る。この混合処理によって、原料の粉砕、混合、及び分散媒中への分散が同時に行われる。
【0022】
ここで、粉砕媒体撹拌型粉砕機とは、粉砕容器内に粉砕媒体を投入し、被粉砕物とともに、粉砕容器を揺動、回転(自転又は公転)させて撹拌するか、粉砕媒体を撹拌部で直接撹拌して、粉砕を行う粉砕機をいう。
【0023】
粉砕媒体撹拌型粉砕機の例としては、特に限定されないが、遊星ミル、ビーズミル、及び振動ミルからなる群から選択されるいずれか1種であるのが好ましい。なかでも、自転、公転を伴う遊星ミルが特に好ましい。
【0024】
上記粉砕媒体としては、特に限定されないが、アルミナボール、ジルコニアボール、窒化珪素ボール、窒化炭素ボール、ガラスビーズ、ナイロン被覆鉄芯ボール等が挙げられ、直径10mm以下のものが主に使用される。なかでもアルミナボールが好ましい。これは原料混合物成分元素として第13族元素が含まれているため、同族の元素で構成される材質のボールからその成分が混入したとしても不純物として作用する影響が小さいためである。
【0025】
目的に応じた大きさの粉砕媒体を使用することで、粉砕容器中で原料混合物が粉砕媒体と共に強力に撹拌されて、効率的に粉砕、混合、及び分散媒中への分散を行うことができる。
【0026】
特に限定されないが、本発明においては、上記工程(2)を、上記粉砕媒体撹拌型粉砕機の粉砕媒体に与える相対遠心加速度をG(m/sec
2)として、G≧5の条件で行うのが好ましい。G<5のような低速回転条件では、原料の分散や粉砕が十分でなく、得られる発光体の発光輝度が不十分である。Gの上限は特に限定はなく、粉砕媒体撹拌型粉砕機の能力や仕様に基づいて当業者が通常の運転条件範囲で適宜設定することができる。
【0027】
ここで「遠心加速度」とは、ある物体を回転半径r、回転角速度ωで回転した場合に発生するrω
2で表される物理量を意味する。一般的に、遠心加速度の単位としては地球の重力加速度との比で表した「相対遠心加速度」を用いる。例として、ある物体が回転軸を中心にN回転しているとすると、ω=2πN/60(rad/s)、地球の重力加速度=9.81(m/s
2)相対遠心加速度Gは以下の数式(1)で表すことができる。
【0029】
さらに自転・公転を伴う遊星ミルの場合には、相対遠心加速度Gは以下の数式(2)によって求めることができる。
【0031】
式中、rsは公転半径(m)を、rpは容器半径(m)を、iwは自転・公転比を、ωは公転回転数(rpm)をそれぞれ意味する。
【0032】
工程(2)を経ると結果的にスラリーが得られる。得られたスラリーから、必要に応じてろ過や乾燥により分散媒を除去した後、得られた固形分を必要に応じて粉砕することにより乾燥体として最終生成物を得てもよい。
【0033】
特に限定されないが、工程(2)で得られるスラリー中では、全粒子の粒度分布から算出されるD50が2.3μm以下、D90が3.7μm以下であるのが好ましい。
【0034】
D50、D90はそれぞれ累積50%粒子径(平均粒子径)、累積90%粒子径、すなわち粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が50%、90%を占めるときの粒子径を意味する。D50、D90は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0035】
D50は、特に1.4μm以下が好ましく、D90は、特に2.5μm以下が好ましい。またD50、D90の下限は特に限定されないが、現実的には、通常D50、D90共に0.1μm以上の値をとる。
【0036】
本願明細書において、「スラリー中の全粒子の粒度分布から算出されるD50(又はD90)」とはスラリー中に存在する全ての粒子、例えば原料のアルカリ土類金属化合物、希土類化合物、第13族元素化合物、及びこれらの反応物や複合体等をすべて含む粒子を区別せずに測定した粒度分布から算出されるD50(又はD90)の値を意味する。
【0037】
<応力発光材料用組成物及び応力発光材料>
本発明は、上述のようにして得られた応力発光材料用組成物にも関する。応力発光材料用組成物は分散媒を含んだスラリー状、又は分散媒を含まない乾燥体のいずれの形態でも良い。
【0038】
またその応力発光材料用組成物から製造した応力発光材料にも関する。応力発光材料の製造方法は特に限定されないが、例えば得られた応力発光材料用組成物を、焼成(例えば1000℃以上)で焼成し、必要に応じて粉砕・整粒等を行なうことで、応力発光材料を製造することができる。
【0039】
本発明の応力発光材料の発光強度は、励起源となる機械的な作用力の性質に依存するが、一般的には、加える機械的な作用力が大きいほど発光強度が強くなる。したがって、発光特性を測定することによって、材料に加えられた機械的な作用力を知ることができる。これによって、材料にかかる応力状態を無接触で検出できるようになり、応力状態を可視化することも可能であるため、応力検出器、その他広い分野での応用が期待できる。
【0040】
本発明の応力発光材料は、様々な環境下において、物理的かつ化学的に安定であり、そして、機械的な外力を加えて変形させることによって、格子欠陥又は格子欠陥と発光中心のキャリアが励起されて、基底に戻る場合に発光する。このような本発明の応力発光材料は、様々な環境下においても適用することができ、例えば空気中をはじめ、真空中、還元又は酸化雰囲気中においてはもちろん、水、無機溶液、有機溶液などの各種溶液環境下においても、機械的な外力によって発光する。したがって、様々な環境下での応力検知に有効である。
【0041】
本発明の応力発光材料は、他の無機材料又は有機材料との複合材料とし、これに機械的外力を加えて、それを変形させることによっても発光させることができる。例えば、本発明の応力発光材料を樹脂やプラスチックなどの有機材料に任意の割合で混合又は埋め込んで複合材料を形成し、この複合材料に機械的な外力を加えると、該発光材料が、機械的な変形によって発光する。
【0042】
さらに、他の材料の表面に、本発明の応力発光材料を塗布することができる。該発光材料が塗布された材料に機械的な外力を加えると、材料表面の発光材料層が変形によって発光する。このような方法を用いれば、少ない発光材料の量でも大面積の発光が得られる。
【実施例】
【0043】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げる。ただし本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0044】
実施例・比較例における条件の決定方法、及び各種物性の測定方法を以下に示す。
【0045】
<D50、D90>
下記実施例、比較例において得られたスラリー状の応力発光材料用組成物のD50、D90の測定は、次のような方法で行った。ポリプロピレン製カップ(150mL)にヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(0.025重量%濃度)約40mLを測り取り、スラリー試料を適宜加え(マイクロスプーン2杯程度)、超音波ホモジナイザー(US−600 日本精機製作所製)で1分間分散させることにより、懸濁液を調製した。この懸濁液の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置マイクロトラックMT3000(日機装社製)にて測定した。
【0046】
<比表面積(SSA)>
下記実施例、比較例において得られた応力発光材料粉末の比表面積測定は、次のような方法で行った。粉末試料1.0gを230℃で20分間の脱気処理し、その後Mountech社製のMacsorbHM1220にて測定した。
【0047】
<応力発光向上度>
下記実施例、比較例において得られた応力発光材料粉末の応力発光能の評価は、次のような方法で行った。
円形状ペレットを作成するために透明プラスチックセルに、粉末とエポキシ系樹脂を重量比で1:1となるように加えて混合し、40℃にて硬化させた。硬化させてできた円形ペレットをハンドプレス機(理研精機社製)によって0.6MPaの荷重をかけ、その際の発光をフォトダイオード(ネオアーク社製、シリコンセンサー式レーザーパワーメーター)により検出した。比較例1の、従来品の応力発光材料の輝度を100とした場合の各試料の輝度の割合を応力発光向上度として算出した。
【0048】
実施例1(応力発光材料用組成物ならびに応力発光材料の製造方法)
炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製SW−K、23.466g)、酸化ユーロピウム(信越化学社製、0.311g)、酸化アルミニウム(岩谷化学社製、RA−40、17.933g)、を秤量し、水(200mL)中に入れてスラリー化後、3mm径アルミナボール(ニッカトー社製、SSA−999W、190g)を粉砕メディアとして使用し、遊星ボールミルを用いて分散・粉砕・混合することによりスラリー状の応力発光材料用組成物を得た。粉砕混合時間の異なる試料を4水準作成し(実施例1−1〜1−4)、スラリーの粒度分布を測定した。測定はヘキサメタリン酸ナトリウムを分散剤として使用し、レーザー回折・散乱式粒度分布計マイクロトラックMT3000により行った。得られた混合スラリーは130℃にて蒸発乾燥し、得られた固形物を乳鉢で解砕して粉末状の応力発光材料組成物を得た。次いで、その応力発光材料組成物をアルミナ製坩堝に20g充填して、還元雰囲気(2%水素含有窒素)中で200℃/時で1200℃まで昇温し、そのまま4時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。
【0049】
こうして得られた焼成物を、遊星ボールミルを用いてアルコール溶媒中で粉砕して整粒し、濾過・乾燥して目的の応力発光材料を粉末として得た。
【0050】
比較例1
炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製SW−K、23.466g)、酸化ユーロピウム(信越化学社製、0.311g)、酸化アルミニウム(岩谷化学社製 RA−40、17.933g)、を秤量し、水(200mL)中に入れてスラリー化後、マグネチックスターラーで8時間撹拌することにより比較対象のスラリー状応力発光材料用組成物を得た。得られた混合スラリーは130℃にて蒸発乾燥させて得られた固形物を乳鉢で解砕して粉末状の組成物を得た。次いで、その組成物をアルミナ製坩堝に20g充填して、還元雰囲気(2%水素含有窒素)中で200℃/時で1200℃まで昇温し、そのまま4時間保持後、200℃/時で室温まで降温した。こうして得られた焼成物を、遊星ボールミルを用いてアルコール中で粉砕して整粒し、濾過・乾燥して目的の応力発光材料粉末を得た。
【0051】
実施例、比較例で得られた応力発光材料用組成物(スラリー)、及びそれから得られる発光体の評価結果を表1に示す。本発明の実施例1−1〜1−4における、粉砕混合中の相対遠心加速度G(m/sec
2)は下記数式(2):
【0052】
【数3】
により算出した。式中、rs=0.125(m)、rp=0.375(m)、iw=2.17、ω=250(rpm)であった。また比較例1の攪拌機の相対遠心加速度Gは実質的に0であった。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から分かるように、応力発光材料用組成物(スラリー)のD50、D90は比較例1のものに比べて顕著に小さく、また応力発光材料の比表面積(SSA)は大きいことから、実施例1−1〜1−4においては、応力発光材料用組成物、応力発光材料ともに比較例に比べて粒子径が小さいことが分かる。また、応力発光向上度は、比較例1に比べて実施例1−1〜1−4では顕著に向上していることが分かった。このように本発明の応力発光材料用組成物及び応力発光材料は実用に耐えうる十分な発光特性を有していることが分かった。