特許第6186789号(P6186789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186789
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】車両用自動変速機の自動変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20170821BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F16D11/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-62491(P2013-62491)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-185750(P2014-185750A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 靖久
(72)【発明者】
【氏名】森 匡輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 啓介
(72)【発明者】
【氏名】甲村 雅彦
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−96190(JP,A)
【文献】 特開2009−156465(JP,A)
【文献】 特開2010−101459(JP,A)
【文献】 特開平11−82710(JP,A)
【文献】 特開2002−144924(JP,A)
【文献】 特開平11−105585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
F16H 59/00− 61/12
F16H 61/16− 61/24
F16H 61/66− 61/70
F16H 63/40− 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の入力シャフトおよび出力シャフトの一方に回転連結され軸線回りに回転可能に軸承された回転軸と、
前記回転軸に回転可能に支承され前記入力シャフトおよび出力シャフトの他方に回転連結されたクラッチリングと、
前記回転軸に前記クラッチリングと隣接して固定されたクラッチハブと、
前記クラッチハブと前記軸線方向に移動可能に嵌合されたスリーブと、
前記クラッチリングの前記スリーブ側に突出して設けられ前記スリーブの軸動に応じて前記スリーブと係脱可能に噛合するドグクラッチ部と、
前記スリーブを前記軸線方向に移動させて前記ドグクラッチ部に押付可能とした軸動装置と、
前記軸動装置を作動させ前記スリーブと前記ドグクラッチ部との係脱を制御する制御部と、を備えた車両用自動変速機の自動変速装置であって、
前記スリーブは、低歯より歯丈が高く形成された複数の高歯を有し、
前記ドグクラッチ部は、前記高歯と対応する位置で前記軸線方向に延在して形成されるとともに外径が前記高歯の内径より大きく前記低歯の内径より小さく前記高歯と同数枚のクラッチ前歯と、前記クラッチ前歯から所定量後退した位置から前記軸線方向に延在して形成されるとともに前記前歯間に複数形成されたクラッチ後歯と、相隣り合う前記クラッ
チ前歯と前記後歯間に形成され、前記スリーブと係合可能なクラッチ歯溝とを有し、
前記制御部は、前記スリーブが前記クラッチ後歯の端面に到達後、前記スリーブの往復動に基づき、前記軸動装置による前記クラッチ後歯への前記スリーブの押付力を低減する押付力低減制御を実行する押付力低減制御部と、前記押付力低減制御の実行後、所定のリトライ条件にて、前記スリーブの押付力を再付加するリトライ制御を実行するリトライ制御部とを有する車両用自動変速機の自動変速装置。
【請求項2】
前記スリーブの往復動は前記スリーブの前記軸線方向への移動量を検出するストロークセンサの出力の変化にて検出する請求項1に記載の車両用自動変速機の自動変速装置。
【請求項3】
前記スリーブの回転数を検出する第1回転数センサを有し、前記リトライ制御部は、シフトアップの場合には前記スリーブの回転数の減速勾配が閾値を超えたことを前記リトライ条件とする請求項1または請求項2に記載の車両用自動変速機の自動変速装置。
【請求項4】
前記スリーブの回転数を検出する第1回転数センサと前記クラッチリングの回転数を検出する第2回転数センサとを有し、前記リトライ制御部は、前記スリーブと前記クラッチリングとの回転数差が閾値以下となったことを前記リトライ条件とする請求項1または請求項2に記載の車両用自動変速機の自動変速装置。
【請求項5】
前記リトライ制御部は、前記ストロークセンサの出力の増減の回数が、前記クラッチ歯溝数マイナス2以上を前記リトライ条件とする求項2に記載の車両用自動変速機の自動変速装置。
【請求項6】
前記スリーブの押付力の低減は、荷重をゼロとした請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の車両用自動変速機の自動変速装置。
【請求項7】
前記スリーブの押付力の低減は、前記スリーブが前記クラッチ後歯の端面に押し付けられる状態を維持可能なまでに低減した請求項5に記載の車両用自動変速機の自動変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドグクラッチを用いた車両用自動変速機の自動変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制御装置(ECU)によって駆動モータを作動させ、自動変速機のギヤ段を自動で切替える自動変速装置がある。例えば、下記に示す特許文献1が開示する技術では、ギヤ段変速時には、ECUが、自動変速装置の駆動モータを作動させ、駆動モータに連結され入力軸に回転連結されるスリーブを入力軸の軸線方向に所定のトルクで移動させる。そして、スリーブが有する凸側ダボを、入力軸に遊転可能に支承されるギヤが有する、凹側ダボに係合させてスリーブとギヤとを一体回転可能とする。これにより、ギヤと回転連結される出力軸に回転駆動力が伝達される。このとき、スリーブとギヤとを回転連結する際には、シンクロナイザ機構を使用していない。このため、スリーブとギヤとは、常時、良好に係合するとは限らない。つまり、スリーブの凸側ダボが、ギヤの凹側ダボに係合され
ず、凸側ダボの先端が凹側ダボと凹側ダボとの間の凸部平面に当接し、スリーブとギヤとが相対滑りを生じながら、または同期して回転する虞がある。このとき、特許文献1に示す従来技術では、その対策として、駆動モータを作動させた後、まず駆動モータの回転角、即ちスリーブの作動ストロークを検出している。そして、検出した作動ストロークが、スリーブが完全にギヤに係合した時の所定ストロークに達し得ない場合には、スリーブとギヤとは係合していないと判定し、再突入制御(リトライ制御)を行なうようにしている。再突入制御とは、駆動モータによるスリーブの移動トルクを一時的に減じ、スリーブとギヤとの間に相対回転を生じさせ、その後、再度所定トルクを加えて凹側ダボへの再突入を試みる制御である。そして、凸側ダボと凹側ダボとが同位相となった瞬間に、再度スリーブに所定トルクを加えて移動させ、凸側ダボを凹側ダボへ突入させるものである。これによって、スリーブとギヤとを係合させ一体回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3709955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される自動変速装置では、スリーブとギヤとは係合していない場合即ちスリーブのストロークが完全にギヤに係合した時の所定ストロークに達し得ない場合の判定は、タイマにて所定の予定時間を経過したどうかにて判断しているため、その所定の予定時間は、スリーブが正常にその所定ストロークを得るに必要とした時間以上に設定せざるを得ないものである。その結果、スリーブがギヤとは係合していないことの判定を行うには時間を要することとなって、トータルでの変速時間が長くなる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スリーブがギヤとは係合していないことの判定を前述した所定の予定時間の経過を待つことなくスリーブのストロークの挙動にて行う様にして変速時間の短縮を図ることができる車両用自動変速機の自動変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、自動変速機の入力シャフトおよび出力シャフトの一方に回転連結され軸線回りに回転可能に軸承された回転軸と、前記回転軸に回転可能に支承され前記入力シャフトおよび出力シャフトの他方に回転連結されたクラッチリングと、前記回転軸に前記クラッチリングと隣接して固定されたクラッチハブと、 前記クラッチハブと前記軸線方向に移動可能に嵌合されたスリーブと、前記クラッチリングの前記スリーブ側に突出して設けられ前記スリーブの軸動に応じて前記スリーブと係脱可能に噛合するドグクラッチ部と、前記スリーブを前記軸線方向に移動させて前記ドグクラッチ部に押付可能とした軸動装置と、前記軸動装置を作動させ前記スリーブと前記ドグクラッチ部との係脱を制御する制御部と、を備えた車両用自動変速機の自動変速装置であって、前記スリーブは、低歯より歯丈が高く形成された複数の高歯を有し、前記ドグクラッチ部は、前記高歯と対応する位置で前記軸線方向に延在して形成されるとともに外径が前記高歯の内径より大きく前記低歯の内径より小さく前記高歯と同数枚のクラッチ前歯と、前記クラッチ前歯から所定量後退した位置から前記軸線方向に延在して形成されるとともに前記クラッチ前歯間に複数形成されたクラッチ後歯と、相隣り合う前記クラッチ前歯と前記クラッチ後歯間に形成され、前記スリーブと係合可能なクラッチ歯溝とを有し、前記制御部は、前記スリーブが前記クラッチ後歯の端面に到達後、前記スリーブの往復動に基づき、前記軸動装置による前記クラッチ後歯への前記スリーブの押付力を低減する押付力低減制御を実行する押付力低減制御部と、前記押付力低減制御の実行後、所定のリトライ条件にて、前記スリーブの押付力を再付加するリトライ制御を実行するリトライ制御部とを有することを要旨とする。
【0007】
上記課題を解決するため、請求項2に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、請求項1に記載の車両用自動変速機の自動変速装置において、前記スリーブの往復動は前記スリーブの前記軸線方向への移動量を検出するストロークセンサの出力の変化にて検出することを要旨とする。
【0008】
上記課題を解決するため、請求項3に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、請求項1または請求項2に記載の車両用自動変速機の自動変速装置において、前記スリーブの回転数を検出する第1回転数センサを有し、前記リトライ制御部は、シフトアップの場合には前記スリーブの回転数の減速勾配が閾値を超えたことを前記リトライ条件とすることを要旨とする。
【0009】
上記課題を解決するため、請求項4に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、請求項1または請求項2に記載の車両用自動変速機の自動変速装置において、前記スリーブの回転数を検出する第1回転数センサと前記クラッチリングの回転数を検出する第2回転数センサとを有し、前記リトライ制御部は、前記スリーブと前記クラッチリングとの回転数差が閾値以下となったことを前記リトライ条件とすることを要旨とする。
【0010】
上記課題を解決するため、請求項5に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、求項2に記載の車両用自動変速機の自動変速装置において、前記リトライ制御部は、前記ストロークセンサの出力の増減の回数が、前記クラッチ歯溝の総溝数マイナス2以上を前記リトライ条件とすることを要旨とする。
【0011】
上記課題を解決するため、請求項6に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の車両用自動変速機の自動変速装置において、前記スリーブの押付力の低減は、荷重をゼロとしたことを要旨とする。
【0012】
上記課題を解決するため、請求項7に係る車両用自動変速機の自動変速装置は、請求項5に記載の車両用自動変速機の自動変速装置において、前記スリーブの押付力の低減は、前記スリーブが前記クラッチ後歯の端面に押し付けられる状態を維持可能な荷重への低減としたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、スリーブがギヤ即ちクラッチ歯溝とは係合していないことの判定即ちスリーブの押付力を低減する判定を、スリーブがクラッチ後歯の端面に到達後、スリーブに往復動が生じたことにて判定するので、即ちスリーブの移動に伴う挙動にて事前にスリーブがクラッチ歯溝に係合できないことを判定できるので、その判定を行うためにスリーブの移動量が完全にクラッチ歯溝に係合した時の所定の移動量に達し得るに必要とする所定の予定時間の経過を待つこともなくなるため、変速時間の短縮を図ることができる。なお、スリーブのクラッチ歯溝への飛び込み開始位置のばらつきにより、スリーブがクラッチ歯溝に係合できずにスリーブがクラッチ後歯の端面に接触した場合には、緩やかにスリーブの回転数が減少し、スリーブはクラッチ後歯の端面に押し付けられながら周方向に移動し、クラッチ歯溝を通過する際に、クラッチ歯溝に入りかけるが弾かれて戻る即ちスリーブが往復動する挙動が生じる。このスリーブがクラッチ後歯の端面に到達後におけるスリーブの往復動を検出し、スリーブがクラッチ歯溝に係合できないことを事前に判定できるものである。なお、このスリーブがクラッチ後歯の端面に到達後におけるスリーブの往復動の最初の発生にて判断することにより、スリーブがクラッチ歯溝に係合できないことをより早く事前に判断することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、スリーブの往復動はスリーブの軸線方向への移動量を検出するストロークセンサの出力の変化にて検出するので、このストロークセンサは、軸動装置の作動を制御に用いられるストロークセンサを利用可能であり、構成の簡素化ができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、リトライ制御部はスリーブの押付力を再付加するリトライ条件を、シフトアップの場合にはスリーブの回転数の減速勾配が閾値を超えることとしているので、スリーブの回転数は十分減速されて、クラッチ歯溝の位相に合い易い状態で、スリーブは押付力を再付加されるので、スリーブはクラッチ歯溝に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、リトライ制御部はスリーブの押付力を再付加するリトライ条件を、スリーブとクラッチリングとの回転数差が閾値以下としているので、スリーブの回転数はクラッチリング即ちクラッチ歯溝の回転数に近づいて、クラッチリングに設けられたクラッチ歯溝の位相に一致し易い状態で、スリーブは押付力を再付加されるので、スリーブはクラッチ歯溝に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、リトライ制御部はスリーブの押付力を再付加するリトライ条件を、ストロークセンサの出力の増減の回数がクラッチ歯溝数マイナス2以上としているので、スリーブが押付力を再付加されるのは、スリーブはクラッチ歯溝を少なくとも1個分残した位相にあり、次には、スリーブの高歯の側面がクラッチ前歯の側面に当たることとなって、スリーブの高歯はそのクラッチ歯溝に対面した所謂スリーブはクラッチ歯溝の位相に一致し易い状態であるから、スリーブはクラッチ歯溝に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、スリーブの押付力の低減は、荷重をゼロとしたので、
スリーブは、減速されることなく、速やかにスリーブの高歯の側面はクラッチ前歯の側面に当たり、スリーブの高歯はそのクラッチ歯溝に対面することとなって、スリーブはクラッチ歯溝の位相に合い易い状態で、スリーブは押付力を再付加されるので、スリーブはクラッチ歯溝に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、前記スリーブの押付力の低減は、前記スリーブが前記クラッチ後歯の端面に押し付けられる状態を維持可能な荷重への低減としたので、スリーブの押付力の低減後も、スリーブとクラッチ歯溝との位相をスリーブの挙動にてストロークセンサで直接検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明を適用し得る車両の構成を示す概略図である。
図2】本発明を適用し得る自動変速機を示す説明図である。
図3】本発明に係る自動変速装置のドグクラッチ部分の分解斜視図である。
図4】リトライ制御に係る作動のタイムチャート図である。
図5】スリーブがクラッチ歯溝に一旦入りかけて戻される状態を説明する模式図である。
図6】スリーブがクラッチ前歯の側面に当たった状態を説明する模式図である。
図7】スリーブはクラッチ歯溝底部に到達した状態を説明する模式図である。
図8】スリーブがクラッチ歯溝を通過する状態を説明する模式図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る作動のフローチャート図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る作動のフローチャート図である。
図11】本発明の第3実施形態に係る作動のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る、ドグクラッチを備えた自動変速装置を有する自動変速機を車両に適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、その車両の構成を示す概要図である。車両Mは、図1に示すように、エンジン11、クラッチ12、自動変速機13、ディファレンシャル装置14、駆動輪(左右前輪)Wfl,Wfrを含んで構成されている。エンジン11は、燃料の燃焼によって駆動力を発生させるものである。エンジン11の駆動力は、クラッチ12、自動変速機13、およびディファレンシャル装置14を介して駆動輪Wfl,Wfrに伝達されるように構成されている。このように、車両Mは、いわゆるFF車両である。なお、FF車両は一例であって、これに限るものではない。例えば、前輪駆動車でもよいし、4輪駆動車でもよい。
【0024】
クラッチ12は、制御部33の指令に応じて自動で断接されるように構成されている。図2に示すように、自動変速機13は、ドグクラッチの機構を備えた自動変速装置10を組み込んで、例えば前進5段、後進1段を自動的に選択するものである。ただし、図2では、前進2段分の変速段のみを記載してある。ディファレンシャル装置14は、ファイナルギヤおよびディファレンシャルギヤの両方を含んで構成されており、自動変速機13と一体的に形成されている(詳細は図示しない)。
【0025】
自動変速機13は、図2に示すように、ケーシング21、入力シャフト22、出力シャフト28および自動変速装置10を含んで構成されている。また、本実施形態においては、入力シャフト22は本発明に係る回転軸でもある。
【0026】
ケーシング21は、ほぼ有底円筒状に形成された本体21a、本体21aの底壁である第1壁21b、および本体21a内を左右方向に区画する第2壁21cを含んで構成されている。
【0027】
入力シャフト22は、ケーシング21に回転自在に支承されている。すなわち、入力シャフト22の一端(左端)が軸受21b1を介して第1壁21bに軸承され、入力シャフト22の他端(右端)側が軸受21c1を介して第2壁21cに軸承されている。入力シャフト22の他端は、クラッチ12を介してエンジン11の図略の出力軸に回転連結されている(図1参照)。よって、エンジン11の出力はクラッチ12が接続されているときに入力シャフト22に入力される。また、クラッチ12が遮断されると、入力シャフト22はフリー回転可能な状態となる。
【0028】
出力シャフト28は、ケーシング21に回転自在に支承されている。すなわち、出力シャフト28の一端(左端)が軸受21b2を介して第1壁21bに軸承され、出力シャフト28の他端(右端)が軸受21c2を介して第2壁21cに軸承されている。出力シャフト28には、第1出力ギヤ28a、第2出力ギヤ28bおよび第3出力ギヤ28cがスプライン嵌合等で固定されている。
【0029】
第1出力ギヤ28aは、後述する第1クラッチリング23と噛合するものであり、外周面には第1クラッチリング23と噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。第2出力ギヤ28bは、後述する第2クラッチリング24と噛合するものであり、外周面には第2クラッチリング24と噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。第3出力ギヤ28cは、ディファレンシャル装置14のクラッチリング(図示略)と噛合するものであり、外周面には、当該クラッチリングと噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。このように、出力シャフト28は、ディファレンシャル装置14を介して、駆動輪Wfl,Wfrに回転連結されている。
【0030】
これにより、車両走行時には、駆動輪Wfl,Wfrの回転が、ディファレンシャル装置14、第3出力ギヤ28c、出力シャフト28、第1出力ギヤ28aおよび第2出力ギヤ28bを介して、第1クラッチリング23および第2クラッチリング24を強制回転させている。このときの、第1クラッチリング23の回転数Nc1は、第2回転数センサ32によって検出された出力シャフト28の回転数Noに、第1出力ギヤ28aと第1クラッチリング23との間で形成されるギヤ比を乗じて演算される。
【0031】
また、第2クラッチリング24の回転数Nc2は、第2回転数センサ32によって検出された出力シャフト28の回転数Noに、第2出力ギヤ28bと第2クラッチリング24との間で形成されるギヤ比を乗じて演算される。
【0032】
よって、エンジン11の駆動力は、断接可能なクラッチ12が接続状態にされると、入力シャフト22から入力し、出力シャフト28に伝達され、最終的に第3出力ギヤ28c、ディファレンシャル装置14を介して、駆動輪Wfl,Wfrに出力される。
【0033】
自動変速装置10は、図2および図3に示すように、クラッチハブ25と、上述した第1クラッチリング23および第2クラッチリング24(いずれも本発明のクラッチリングに該当する)と、スリーブ26と、軸動装置27と、ストロークセンサ29と、第1回転数センサ31および第2回転数センサ32と、第1クラッチリング23が有する第1ドグクラッチ部23aおよび第2クラッチリング24が有する第2ドグクラッチ部24aと、制御部33(ECU)と、を備えている。
【0034】
クラッチハブ25は、回転軸である入力シャフト22に、軸線回りに一体回転可能にスプライン嵌合等で固定されている。図3に示すように、クラッチハブ25の外周面には、スリーブ26の内周面に形成されているスプライン26aに、入力シャフト22の軸線方向に摺動可能に係合するスプライン25aが形成されている。スプライン25aは、複数(例えば2つ)の溝25a1が残りの溝より深く形成されている。複数の溝25a1は、後述するスリーブ26の複数の高歯26a1に対応するものである。
【0035】
第1クラッチリング23および第2クラッチリング24は、回転軸である入力シャフト22に遊転(回転)可能に支承されている。第1クラッチリング23および第2クラッチリング24は、クラッチハブ25の両側でクラッチハブ25と隣接して配置されている。そして、第1クラッチリング23の外周面には、出力シャフト28に固定される第1出力ギヤ28aと噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。第2クラッチリング24の外周面には、出力シャフト28に固定される第2出力ギヤ28bと噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。このようにして、第1クラッチリング23および第2クラッチリング24は、出力シャフト28と回転連結されている。
【0036】
第1クラッチリング23のクラッチハブ25側の側面には、スリーブ26に形成されているスプライン26aに係合する第1ドグクラッチ部23a(本発明のドグクラッチ部に該当する)が形成されている。また、第2クラッチリング24のクラッチハブ25側(スリーブ26側)の側面には、スリーブ26のスプライン26aに係合する第2ドグクラッチ部24a(本発明のドグクラッチ部に該当する)が形成されている。
【0037】
なお、第1クラッチリング23の第1ドグクラッチ部23aは、第2クラッチリング24の第2ドグクラッチ部24aと同一構成であるため、図3には第1クラッチリング23、クラッチハブ25およびスリーブ26を示して以下詳細に説明する。
【0038】
図3に示すように、第1ドグクラッチ部23aには、リング状の凸部23a1と、凸部23a1の外周において180度隔てて配置された2枚のクラッチ前歯23b1と、凸部23a1の外周において2枚のクラッチ前歯23b1の間に5枚ずつ等角度間隔で配置されたクラッチ後歯23c1とが形成されている。クラッチ前歯23b1およびクラッチ後歯23c1は、凸部23a1の外周に一定幅のクラッチ歯溝23d1を空けて形成されている。従って、2枚のクラッチ前歯23b1間には、図3に示す如く、手前側の角度180度内に6個のクラッチ歯溝23d1が設けられ、又、その奥側の角度180度内にも6個のクラッチ歯溝23d1が形成されている。
【0039】
凸部23a1は、外径がスリーブ26に形成されているスプライン26aの高歯26a1の内径より小さくなるように形成されている。クラッチ前歯23b1は、外径がスプライン26aの高歯26a1の内径より大きく、スプライン26aの低歯26b1の内径より小さくなるように形成されている。クラッチ後歯23c1は、スプライン26aのスプライン歯溝26c1と噛合可能に形成されている。すなわち、クラッチ前歯23b1は、低歯26b1とは噛み合わず、高歯26a1と噛み合い可能に形成されている。クラッチ後歯23c1は、高歯26a1および低歯26b1と噛み合い可能に形成されている。
【0040】
クラッチ前歯23b1は、高歯26a1と同数枚(本例では、2枚)形成されている。スリーブ26の回転速度と第1入力ギヤ23の回転速度に大きな差が生じていても、2枚の高歯26a1が2枚のクラッチ前歯23b1間に容易に入り込めるように、クラッチ前歯23b1は少歯とされている。そして、クラッチ前歯23b1は、高歯26a1と対応する位置で凸部23a1の前端面23a2からドグクラッチ部23aの後端位置Peまで軸線方向に延在して形成されている。クラッチ後歯23c1は、凸部23a1の前端面23a2から所定の距離を後退した位置からドグクラッチ部23aの後端位置Peまで軸線方向に延在して形成されている。
【0041】
クラッチ前歯23b1の高歯26a1と対向する前端部には、高歯26a1と当接可能な端面23b4が形成され、さらに当該端面23b4の円周方向両側からドグクラッチ部23aの後端位置Pe側に向かって傾斜する傾斜面23b2が形成されている。クラッチ前歯23b1の端面23b4は、凸部23a1の前端面23a2と面一もしくは平行な平面状に形成されている。スリーブ26の高歯26a1および低歯26b1と対向するクラッチ後歯23c1の前端部には、高歯26a1および低歯26b1と当接可能な端面23c2が形成されている。クラッチ前歯23b1の傾斜面23b2がクラッチ前歯23b1の側面23b3と交差する位置は、クラッチ後歯23c1の端面23c2より凸部23a1の前端面23a2側となるように、クラッチ前歯23b1の傾斜面23b2は形成されている。なお、クラッチ前歯23b1の前端部の端面23b4と両傾斜面23b2の交差部は、一般的な丸み面取り(R形状)に形成されている。又、クラッチ後歯23c1は、図3に示す如く、端面23c2と、側面23c3と、端面23c2と側面23c3間に形成された傾斜面23c4を有する。
【0042】
図3に示すように、スリーブ26は、クラッチハブ25と一体回転するとともにクラッチハブ25に対して軸線方向に摺動可能であり、リング状に形成されたものである。スリーブ26の内周面には、クラッチハブ25の外周面に形成されているスプライン25aに軸線方向に摺動可能に係合するスプライン26aが形成されている。スプライン26aは、複数(例えば2つ)の高歯26a1が残りの低歯26b1より歯丈が高く形成されている。高歯26a1および低歯26b1における第1クラッチリング23側の前端面26a2、26b2の両端角部は、クラッチ前歯23b1やクラッチ後歯23c1と当接したときに衝撃で破損しないように、一般的な45度面取り(C形状)に形成されている。スリーブ26は側面26a3を有する。また、スリーブ26の外周面には、周方向に沿って外周溝26dが形成されている。外周溝26dには、フォーク27aの先端円弧部が周方向に沿って摺動可能に係合する。
【0043】
図2に示すように、軸動装置27は、スリーブ26を軸線方向に沿って往復動させるものであり、スリーブ26を第1クラッチリング23または第2クラッチリング24に押圧させている際に、第1クラッチリング23または第2クラッチリング24から反力が加わった場合に、スリーブ26がその反力によって移動することを許容するように構成されている。
【0044】
軸動装置27は、フォーク27a、フォークシャフト27bおよび駆動装置(アクチュエータ)27cを含んで構成されている。フォーク27aの先端部は、スリーブ26の外周溝26dの外周形状にあわせて形成されている。フォーク27aの基端部は、フォークシャフト27bに固定されている。フォークシャフト27bは、ケーシング21に軸線方向に沿って摺動自在に支承されている。すなわち、フォークシャフト27bの一端(左端)が軸受21b3を介して第1壁21bに支承され、フォークシャフト27bの他端(右端)側が軸受21c3を介して第2壁21cに支承されている。フォークシャフト27bの他端部は、駆動装置27cを貫通して配設されている。
【0045】
駆動装置27cは、リニアモータを駆動源とするリニア駆動装置であり、リニアモータとしては、特開2008−259413号公報に記載されているものを採用すればよい。すなわち、リニア駆動装置27cは、複数のコイル(図示略)が軸線方向に沿って並設されて円筒状のコア(図示略)が形成され、その貫通穴を貫通しているフォークシャフト27bに複数のN極磁石とS極磁石(図示略)を交互に並設することで構成されている。各コイルへの通電を制御することで、フォークシャフト27bを往復動させることも、任意の位置に位置決め固定させることも可能である。駆動装置27cは、図2の破線に示すように、制御部33に電気接続され、制御部33からの指令によって作動される。
【0046】
なお、本実施形態では、駆動装置としてリニア駆動装置を採用したが、これに限るものではない。例えば、スリーブ26を、第1クラッチリング23または第2クラッチリング24に所定の荷重で押圧している際に、第1クラッチリング23または第2クラッチリング24から反力が加わった場合、スリーブ26がその反力によって移動することを許容するように構成されているものであれば、他の駆動装置であるソレノイド式駆動装置や油圧
式駆動装置でもよい。また、回転駆動するモータの動きを直線方向の動きに変換する駆動装置でもよい。
【0047】
図2に示すように、ストロークセンサ29は、フォークシャフト27bの近傍に配置され、フォークシャフト27bの移動量、即ちスリーブ26の軸線方向の移動量Sdを検出する。ストロークセンサ29は、制御部33に接続され、検出データを制御部33に送信している(図2破線参照)。ストロークセンサ29の構造は、どのようなものでもよい。
【0048】
図2に示すように、第1回転数センサ31は、入力シャフト22の近傍に配置され、入力シャフト22の回転数、つまり回転軸即ちスリーブ26の回転数Nsを検出する。第1回転数センサ31は、制御部33に接続され、検出データを制御部33に送信している(図2破線参照)。第2回転数センサ32は、図2に示すように、出力シャフト28の近傍に配置され、出力シャフト28の回転数Noを検出する。第2回転数センサ32は、制御部33に接続され、検出データを制御部33に送信している(図2破線参照)。なお、第1回転数センサ31および第2回転数センサ32はどのような構造のものでもよい。
【0049】
制御部33(ECU)は、軸動装置27が有する駆動装置27cに指令信号を送信してフォークシャフト27bを作動させる。これにより、フォークシャフト27bに連結されるフォーク27aを介して、スリーブ26を軸線方向に往復動させ、スリーブ26のスプライン26aとドグクラッチ部23aとの係脱を制御する。
【0050】
また、制御部33は、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後、スリーブ26の往復動に基づき、軸動装置27によるクラッチ後歯23c1へのスリーブ26の押付力を低減する押付力低減制御を実行する押付力低減制御部33aと、押付力低減制御の実行後、所定のリトライ条件にて、スリーブの押付力を再付加するリトライ制御を実行するリトライ制御部33bを備え、リトライ制御(再突入制御)を実行する。なお、以降においては、第1クラッチリング23と記載し説明する部分の作用等は、全て第2クラッチリング24にも同様に適用できるので、第1クラッチリング23のみについて説明を行ない、第2クラッチリング24についての説明は省略する。
【0051】
まず、上述したリトライ制御(再突入制御)について説明する。リトライ制御の説明にあたっては、例えば、始めに第2クラッチリング24および第2出力ギヤ28bによって形成されていたギヤ段から、第1クラッチリング23と第1出力ギヤ28aとによって形成される増速側のギヤ段に切替える場合について説明する。
【0052】
このとき、制御部33は、ギヤ段の切替えのため、まず、クラッチ12を遮断する。次に、制御部33は、軸動装置27を作動させ、フォークシャフト27bを、軸線方向で第1クラッチリング23側に作動させる。これによって、第2クラッチリング24と第2出力ギヤ28bとによって形成されていたギヤ段が切断される。
【0053】
次に、制御部33は、第1クラッチリング23と第1出力ギヤ28aとによって形成されるギヤ段を形成する。このため、制御部33は、軸動装置27を作動させ、フォークシャフト27bおよびフォーク27aに連結されるスリーブ26を、クラッチリング23側に付勢するスリーブ押付力Fとして第1荷重F1を付加する(参照図4、時間t1)。なお、この所定の荷重F1は、予め任意に設定された値である。この第1荷重F1にて、スリーブ26は、第1クラッチリング23側へ変位し、スリーブ26の高歯26a1は、クラッチ前歯23b1の端面23b4との当接を介して又は直接にクラッチ前歯23b1間に入り、そして、スリーブ26はクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達する(参照図4、時間t2、図5)。
【0054】
なお、スリーブ26のクラッチ歯溝23d1への飛び込み開始位置のばらつきにより、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できずにスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に接触した場合には、緩やかにスリーブ26の回転数Nsが減少し、スリーブ26はクラッチ後歯23c1の端面23c2に押し付けられながら周方向に移動しする。そして、スリーブ26は、クラッチ歯溝23d1を通過する際に、クラッチ歯溝23d1に入りかけるが弾かれて戻る即ちスリーブ26が往復動する挙動が生じ、スリーブ26の軸線方向の移動量Sdも同様に往復動(参照図4、時間t2−t3間)し、このスリーブ26の往復動をストロークセンサ29にて検出できる。
【0055】
このスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後におけるスリーブ26が往復動(クラッチ歯溝23d1の通過)を検出し、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できないことを事前に判定できるものである。なお、図5に示す如く、このスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後におけるスリーブ26の往復動の最初の発生(クラッチ歯溝23d1通過1回目)にて判断することにより、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できないことをより早く事前に判断することができる。
【0056】
スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できない状態とは、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に接触したままお互いの回転数NsとNc1との差が微小であるため、クラッチ後歯23c1の端面23c2を周方向に通過し、スリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相が一致し易い状態となるスリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接する状態(参照図6)までに時間がかかりすぎる状態が含まれることが判明している。
【0057】
このような場合に、スリーブ26と第1クラッチリング23のクラッチ歯溝23d1とが正常な係合状態即ち噛合状態とするために、スリーブ押付力Fを低減し、そのスリーブ押付力Fを低減後に、スリーブ押付力Fを再び付加するのがリトライ制御(再突入制御)である。
【0058】
スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後、スリーブ26の往復動が生じた場合、押付力低減制御部33aは,スリーブ26の押付力Fを第1荷重F1より低い第2荷重F2へと低減する押付力低減制御を開始する(参照 図4、時間t3)。この第2荷重F2はスリーブ26がクラッチ後歯23c1に押し付けられる状態を維持可能な値とすることができる。なお、第2荷重F2はゼロとして、スリーブ26の位置を保持するようにしてもよい。
【0059】
スリーブ押付力Fを第2荷重F2への低減により、スリーブ26とクラッチ後歯23c1の端面23c2とによる歯同士の摩擦力が減り、スリーブ26回転数Nsは、第1クラッチリング23の回転数Nc1との差が保たれ易くなるため、スリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相が一致し易い状態となるスリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接する状態(参照図4、時間t4、図6)となるまでに要する時間を短縮できる。
【0060】
リトライ制御部33bは、スリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相が一致し易い状態となる所定のリトライ条件にて、スリーブ押付力Fとして第1荷重F1を再付加するするリトライ制御を開始する(参照図4、時間t5)。なお、このリトライ条件は、スリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接するに向けての挙動に基づいてを設定できる。
【0061】
具体的には、リトライ条件には、以下の3種類を挙げることができる。1番目のリトライ条件は、スリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接する(参照図4、時間t4、図7図8)ことにより、スリーブ26の回転数Nsの減速勾配ΔNsが急激となり、所定の減速勾配閾値ΔNs1を超えた場合である。
【0062】
又、2番目のリトライ条件は、スリーブ26の高歯26a1の側面26a1がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接することにより、スリーブ26の回転数Nsが下がり、スリーブ26の回転数Nsと第1クラッチリング23の回転数Nc1との回転数差Ndが所定の回転数差閾値Nd1より小さくなった場合である。
【0063】
又、3番目のリトライ条件は、2つのクラッチ前歯23b1間におけるクラッチ歯溝23d1をスリーブ26の高歯26a1にての通過回数がそのクラッチ歯溝の総溝数マイナス2を超えた場合である(参照図8)。即ち、図3に示す第1クラッチリング23は、2個のクラッチ前歯23b1を有し、そのクラッチ前歯23b1、23b1間には5個のクラッチ後歯23c1を有する構成であるため、クラッチ歯溝23d1を6個有する。従って、図8に示す如く、クラッチ前歯23b1間に進入したスリーブ26の高歯26a1が、クラッチ歯溝6個の内、クラッチ歯溝数マイナス2なる4個を通過した場合、即ち通過回数が4回目を超えた場合では、次には、スリーブ26の高歯26a1の側面26a3はクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接する即ちスリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相が一致し易い状態である。なお、スリーブ26のクラッチ歯溝23d1の通過も、その通過の際に、スリーブ26の移動量Sdに往復動が生じるため、ストロークセンサ29にて検出できる。
【0064】
リトライ制御部33bによるリトライ制御が実行されたことに伴い、位相が一致し易い状態にされたスリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相が一致(参照図4、時間t6)し、そして、スリーブ26は、クラッチ歯溝23d1の底部に到達し、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1と係合即ちリトライ制御による正常な噛合状態になる(参照図4、時間t7、図7)。
【0065】
次に、自動変速機13が有する自動変速装置10の作動に関し、第2クラッチリング24および第2出力ギヤ28bによって形成されていたギヤ段から、第1クラッチリング23と第1出力ギヤ28aとによって形成される増速側のギヤ段に切替える場合について以下、説明する。このとき、クラッチ12はギヤ段の切替えのため、制御部33にて遮断された状態にあり、また、第2クラッチリング24と係合していたスリーブ26の回転数Nsは、第1クラッチリング23の回転数Nc1よりも大きい状態にある。
【0066】
この様な状態にある自動変速機13において、第1クラッチリング23と第1出力ギヤ28aとによって形成される増速側のギヤ段に切替える自動変速装置10の第1実施形態の作動を図9のフローチャートに基づき説明する。ステップS11では、制御部33の指令にて通過歯溝カウンタをゼロにリセットする。ステップ12では、制御部33の指令にて、軸動装置27の作動により、スリーブ押付力Fとして第1荷重F1が付加されて、スリーブ26が、軸線方向に沿って、第1クラッチリング23側に移動開始する。このとき、スリーブ26が、第1クラッチリング23側に移動されると、スリーブ26の高歯26a1が、第1クラッチリング23の2つのクラッチ前歯23b1の間に進入する。
【0067】
ステップS13では、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達したかの判定がされる。なお、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達したかの判定は、ストロークセンサ29にて検出されるスリーブ26の移動量Sdにて判定できる。スリーブ26の移動量Sdが、スリーブ26をクラッチ後歯23c1の端面23c2へ到達させるに必要な分移動していなければ、スリーブ26のストロークSdはクラッチ後歯23c1の端面23c2への到達に至る途中であるので、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2へ到達するまで、ステップ13が繰り返し処理される。
【0068】
そして、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2へ到達すると、ステップS14に進む。ステップS14では、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1の底部に到達したかを判定する。スリーブ26がクラッチ歯溝23d1の底部に到達かは、ストロークセンサ29にて検出されるスリーブ26の移動量Sdにて判定できる。そして、ステップS14で、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1の底部に到達した判定された場合は、スリーブ26の高歯26a1および低歯26b1がクラッチ歯溝23d1に係合した状態であり、スリーブ26と第1クラッチ23とは完全に噛合して同期回転する。
【0069】
この様に、ステップS14にてスリーブ26がクラッチ歯溝23d1の底部に到達した判定された後は、ステップS15で、制御部33の指令にて、軸動装置27の作動にてスリーブ押付力Fは荷重ゼロに低減されて、スリーブ26の位置を保持するようにして、シフト動作は完了する。
【0070】
しかし、このように良好にスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2へ到達後、良好にスリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合し、即ちスリーブ26の高歯26a1および低歯26b1が、クラッチ歯溝23d1と完全に噛み合い、シフト動作が短時間で完了する場合ばかりではない。スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2へ到達後、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1の底部に到達していなければ、ステップS16(押付力低減制御部33a)に進み、スリーブ26の移動量Sdに増減が発生したかを判断する。
【0071】
このスリーブ26の移動量Sdの増減は、図5に示した様に、スリーブ26はクラッチ後歯23c1の端面23c2にスリーブ押付力Fの第1荷重F1にて押し付けられながら周方向に移動し、クラッチ歯溝23d1を通過する際に、クラッチ歯溝23d1に入りかけるが弾かれて戻る即ちスリーブ26に往復動の挙動が生じ、スリーブ26の移動量Sdも同様に増減し、クラッチ歯溝23d1の各1個通過する毎にスリーブ26の移動量Sdも1個の増減が生じる。スリーブ16の移動量Sdに増減が発生したと判定した場合には、ステップ17(押付力低減制御部33a)にて通過歯溝カウンタに1を加算する。
【0072】
次いで、ステップS18(リトライ制御移行判定部33a)にて、歯溝通過カウンタの値が1であるかを判定する。ステップS18にて、歯溝通過カウンタの値が1と判定された場合には、ステップS19(押付力低減制御部33a)にて、スリーブ押付力Fを第2荷重F2なる荷重ゼロに低減する。
【0073】
スリーブ押付力Fを第2荷重F2への低減により、スリーブ26とクラッチ後歯23c1の端面23c1とによる歯同士の摩擦力が減り、スリーブ26の回転数Nsは、第1クラッチリング23の回転数Nc1との差が保たれ易くなるため、スリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相が一致し易い状態となるスリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接する等にて、スリーブ26の回転数Nsの減速勾配ΔNsが急激に下がることなる。
【0074】
なお、ステップS16にてスリーブ16の移動量Sdに増減が発生していないと判定された場合及びステップS18にて歯溝通過カウンタの値が1と判定されていない場合には、既にスリーブ26は、スリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接している又はスリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合している可能性があるので、ステップ20に移動する。
【0075】
次いで、ステップ20(リトライ制御部33b)では、スリーブ押付力Fとして第1荷重F1を再付加(参照図4、時間t5)するリトライ条件であるスリーブ26の回転数Nsの減速勾配ΔNsが所定の減速勾配閾値ΔNs1を超えたかを判定する。
【0076】
スリーブ26の回転数Nsの減速勾配ΔNsが所定の減速勾配閾値ΔNs1を超えていれば、ステップS21(リトライ制御部33b)に進む。なお、ステップS20にて、スリーブ26の回転数Nsの減速勾配ΔNsが所定の減速勾配閾値ΔNs1を超えていないと判定された場合には、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合している可能性があるので、ステップS14に戻る。
【0077】
ステップS21(リトライ制御部33b)では、スリーブ26には、スリーブ押付力Fとして第1荷重F1を再付加されて、前述のステップS14へ戻る。
【0078】
次に、第1クラッチリング23と第1出力ギヤ28aとによって形成される増速側のギヤ段に切替える自動変速装置10の第2実施形態の作動を図10のフローチャートに基づき説明する。第2実施形態のけるステップS31〜ステップS41は、第1実施形態のステップS11〜ステップS21とは、ステップS20とステップS40のリトライ制御部33bの部分に関する内容が相違するのみであり、その余の部分は同一であるため、相違する部分についてのみ、以下説明する。
【0079】
ステップ40(リトライ制御部33b)では、スリーブ押付力Fとして第1荷重F1を再付加(参照図4、時間t5)するリトライ条件であるスリーブ26の回転数Nsと第1クラッチリング23の回転数Nc1との回転数差Ndが所定の回転数差閾値Nd1より小さくなったかを判定する。回転数差Ndが所定の回転数差閾値Nd1より小さくなれば、ステップS41(リトライ制御部33b)に進む。
【0080】
なお、ステップS40にて、回転数差Ndが所定の回転数差閾値Nd1より小さくないと判定された場合には、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1へ向けて移動の最中である可能性があるので、ステップS34に戻る。
【0081】
次に、第1クラッチリング23と第1出力ギヤ28aとによって形成される増速側のギヤ段に切替える自動変速装置10の第3実施形態の作動を図11のフローチャートに基づき説明する。第3実施形態のステップS51〜ステップS61は、第1実施形態のステップS11〜ステップS21とは、ステップS19、S20とステップS59、S60の押付力低減制御部33a、リトライ制御部33bの部分に関する内容が相違するのみであり、その余の部分は同一であるため、相違する部分についてのみ、以下説明する。
【0082】
ステップS59(押付力低減制御部33a)では、スリーブ押付力Fが第2荷重F2に低減され、この第2荷重F2はゼロではなく、スリーブ26がクラッチ後歯23c1に押し付けられる状態を維持可能な値としている。この様に第2荷重F2をゼロにしない理由は、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1内に一旦入りかかるがしかしクラッチ歯溝23d1外へ弾き飛ばされる即ちクラッチ歯溝23d1を通過することに伴うスリーブ26の移動量Sdの往復動を確保し、その検出を容易化するためである。
【0083】
次に、ステップS60(リトライ制御部33b)では、スリーブ押付力Fとして第1荷重F1を再付加するタイミングを設定するリトライ条件である、2つのクラッチ前歯23b1間におけるクラッチ歯溝23d1をスリーブ26の高歯26a1にての通過回数がそのクラッチ歯溝23d1の総溝数マイナス2を超えたかを判定する。2つのクラッチ前歯23b1間におけるクラッチ歯溝23d1をスリーブ26の高歯26a1にての通過回数がそのクラッチ歯溝の総溝数マイナス2を超えれば、ステップS61(リトライ制御部33b)に進む。
【0084】
なお、ステップS60にて、2つのクラッチ前歯23b1間におけるクラッチ歯溝23d1をスリーブ26の高歯26a1にての通過回数がそのクラッチ歯溝の総溝数マイナス2を超えないと判定された場合には、既に、スリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当接している又はスリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合している、あるいはスリーブ26はクラッチ歯溝23d1へ向けて移動の最中である可能性があるので、ステップS54に戻る。
【0085】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、自動変速機13の入力シャフト22および出力シャフト28の一方に回転連結され軸線回りに回転可能に軸承された回転軸と、回転軸に回転可能に支承され入力シャフト22および出力シャフト28の他方に回転連結されたクラッチリング23、24と、回転軸にクラッチリング23,24と隣接して固定されたクラッチハブ25と、クラッチハブ25と軸線方向に移動可能に嵌合されたスリーブ26と、クラッチリング23、24のスリーブ26側に突出して設けられスリーブ26の軸動に応じてスリーブ26と係脱可能に噛合するドグクラッチ部23a、24aと、スリーブ26を軸線方向に移動させてドグクラッチ部23a、24aに押付可能とした軸動装置27と、軸動装置27を作動させスリーブ26とドグクラッチ部23a、24aとの係脱を制御する制御部33と、を備えた車両用自動変速機の自動変速装置10であって、スプライン26aは、低歯26b1より歯丈が高く形成された複数の高歯26a1を有し、ドグクラッチ部23a、24aは、高歯26a1と対応する位置で軸線方向に延在して形成されるとともに外径が高歯26a1の内径より大きく低歯26b1の内径より小さく高歯26a1と同数枚のクラッチ前歯23b1と、クラッチ前歯23b1から所定量後退した位置から軸線方向に延在して形成されるとともにクラッチ前歯23b1,23b1間に複数形成されたクラッチ後歯23c1と、相隣り合うクラッチ前歯23b1とクラッチ後歯23c1間に形成され、スプライン26a1と係合可能なクラッチ歯溝23d1とを有し、制御部33は、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後、スリーブ26の往復動に基づき、軸動装置27によるクラッチ後歯23c1へのスリーブ26の押付力Fを低減する押付力低減制御を実行する押付力低減制御部33aと、押付力低減制御の実行後、所定のリトライ条件にて、スリーブ26の押付力Fを再付加するリトライ制御を実行するリトライ制御部33bとを有する構成であるので、スリーブ26がギヤ即ちクラッチ歯溝23d1とは係合していないことの判定即ちスリーブ26の押付力Fを低減する判定を、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後、スリーブ26に往復動が生じたことにて判定するので、即ちスリーブ26の移動に伴う挙動にて事前にスリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できないことを判定できるので、その判定を行うためにスリーブ26の移動量Sdが完全にクラッチ歯溝23d1に係合した時の所定の移動量に達し得るに必要とする所定の予定時間の経過を待つこともなくなるため、変速時間の短縮を図ることができる。なお、スリーブ26のクラッチ歯溝23d1への飛び込み開始位置のばらつきにより、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できずにスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に接触した場合には、緩やかにスリーブ26の回転数Nsが減少し、スリーブ26はクラッチ後歯23c1の端面23c2に押し付けられながら周方向に移動し、クラッチ歯溝23d1を通過する際に、クラッチ歯溝23d1に入りかけるが弾かれて戻る即ちスリーブ26が往復動する挙動が生じる。このスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後におけるスリーブ26の往復動を検出し、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できないことを事前に判定できるものである。なお、このスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に到達後におけるスリーブ26の往復動の最初の発生にて判断することにより、スリーブ26がクラッチ歯溝23d1に係合できないことをより早く事前に判断することができる。
【0086】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、スリーブ26の往復動はスリーブ26の軸線方向への移動量Sdを検出するストロークセンサ29の出力の変化にて検出する構成であるので、このストロークセンサ29は、軸動装置27の作動を制御に用いられるストロークセンサを利用可能であり、構成の簡素化ができる。
【0087】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、スリーブ26の回転数を検出する第1回転数センサ31を有し、リトライ制御部33bは、スリーブ26の回転数Nsの減速勾配ΔNsが閾値ΔNs1を超えたことを再付加条件とする構成であるので、スリーブ26の回転数Nsは十分減速されて、クラッチ歯溝23d1の位相に合い易い状態で、スリーブ26は押付力Fを再付加されるので、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0088】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、スリーブ26の回転数を検出する第1回転数センサ31とクラッチリング23の回転数を検出する第2回転数センサ32とを有し、リトライ制御部33bは、スリーブ26とクラッチリング23との回転数差Ndが閾値Nd1となったことをリトライ条件とする構成であるので、スリーブ26の回転数Nsはクラッチリング23即ちクラッチ歯溝23d1の回転数Nc1に近づいて、クラッチリング23に設けられたクラッチ歯溝23d1の位相に一致し易い状態で、スリーブ26は押付力Fを再付加されるので、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0089】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、リトライ制御部33bは、ストロークセンサ29の出力の増減の回数が、前記クラッチ歯溝23d1の総溝数マイナス2を超えたことをリトライ条件とする構成であるので、スリーブ26が押付力Fを再付加されるのは、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1を少なくとも1個分残した位相にあり、次には、スリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯の23b1の側面23b3に当たることとなって、スリーブ26の高歯26a1はそのクラッチ歯溝23d1に対面した所謂スリーブ26はクラッチ歯溝23d1の位相に一致し易い状態であるから、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0090】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、スリーブ26の押付力Fの低減は、荷重をゼロとした構成であるので、スリーブ26は、減速されることなく、速やかにスリーブ26の高歯26a1の側面26a3はクラッチ前歯23b1の側面23b3に当たり、スリーブ26の高歯26a1はそのクラッチ歯溝23d1に対面することとなって、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1の位相に合い易い状態で、スリーブ26は押付力Fを再付加されるので、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0091】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、スリーブ26の押付力Fの低減は、スリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2に押し付けられる状態を維持可能な荷重への低減とした構成であるので、スリーブ26の押付力Fの低減後も、スリーブ26とクラッチ歯溝23d1との位相をスリーブ26の挙動にてストロークセンサ29で直接検出することができる。
【0092】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用自動変速機の自動変速装置10によれば、スリーブ26の回転数を検出する第1回転数センサ31とクラッチリング23の回転数を検出する第2回転数センサ32とを有し、リトライ制御部33bは、スリーブ26とクラッチリング23との回転数差Ndに基づきスリーブ26がクラッチ後歯23c1の端面23c2を通過する時間を演算し、その時間を遅延させることをリトライ条件に追加する構成であるので、スリーブ26が押付力Fを再付加されるのはスリーブ26の高歯26a1の側面26a3がクラッチ前歯23b1の側面23b3に当たり、スリーブ26の高歯26a1はそのクラッチ歯溝23d1に対面した所謂スリーブ26はクラッチ歯溝23d1の位相に一致し易い状態であるから、スリーブ26はクラッチ歯溝23d1に係合し易く、リトライ制御を効果的に行なうことができる。
【0093】
さらに、自動変速機は上記実施形態において説明した態様のものには限らない。例えば手動変速機(MT)の変速制御を自動化したAMT(オートメーテッド マニュアル トランスミッション)や、2つのクラッチを備えるDCT(デュアル クラッチ トランスミッション)にも適用できる。AMTについては、例えば、入力軸、出力軸、およびカウンタシャフトを有したものが一般的に知られているが、例えば、カウンタシャフト(副軸)を回転軸として本発明を適用すればよい。また、DCTについても、AMTと同様、2本のカウンタシャフト(副軸)を回転軸として本発明を適用すればよい。これらによっても、同様の効果が得られる。
【0094】
なお、複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の特徴部分を適宜組合せることが可能であることは、明らかである。
【符号の説明】
【0095】
10:自動変速装置
13:自動変速機
22:入力シャフト
26:スリーブ
23:第1クラッチリング
23a:第1ドグクラッチ部
23a1:クラッチ前歯
23c1:クラッチ後歯
23d1:クラッチ歯溝
24:第2クラッチリング
24a:第2ドグクラッチ部
25:クラッチハブ
26:スリーブ
26a1:高歯
26b1:低歯
27:軸動装置
28:出力シャフト
29:ストロークセンサ
31:第1回転数センサ
32:第2回転数センサ
33:制御部
33a:押付力低減制御部
33b:リトライ制御部
図1
図2
図3
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図5
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図9
図10
図11