特許第6186821号(P6186821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186821
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】水系分散剤、および水系分散体組成物
(51)【国際特許分類】
   B01F 17/46 20060101AFI20170821BHJP
   C08G 65/26 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B01F17/46
   C08G65/26
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-82548(P2013-82548)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-205088(P2014-205088A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】松井 龍也
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−148093(JP,A)
【文献】 特開2012−001685(JP,A)
【文献】 特開平02−144141(JP,A)
【文献】 特開2000−107583(JP,A)
【文献】 特開2003−124159(JP,A)
【文献】 特公昭44−009050(JP,B1)
【文献】 特開平04−198103(JP,A)
【文献】 特開昭56−057747(JP,A)
【文献】 特開平07−008277(JP,A)
【文献】 特開2014−147926(JP,A)
【文献】 特開平09−176544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00− 17/56
B01D 19/00− 19/04
C02F 5/00− 5/14
C11D 1/00− 17/08
C04B 24/00− 24/42
B22F 9/00− 9/30
C09C 1/00− 3/12
C09D 1/00−201/10
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/16
C10L 1/00− 1/32
C10L 10/00− 10/18
C07C 217/02−217/08
C08G 65/00− 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示され、分子量が1,000〜5,000であるポリエーテル系化合物であることを特徴とする水系分散剤。
【化1】
(ただしAOはオキシエチレン基であり、aはAOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数で、3〜25であり、AOはオキシプロピレン基であり、bはAOで示されるオキシプロピレン基の平均付加モル数で、1〜10であり、aとbは5≦a+b≦30、および1≦a/b≦5の条件を満たし、Rは水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基であり、nは1〜4である。)
【請求項2】
請求項1記載の水系分散剤を含有することを特徴とする水系分散体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機あるいは無機粉体等の分散体を水中に分散させることができる水系分散剤、およびこの水系分散剤を含有する水系分散体組成物に関する。更に詳しくは、粒径の小さい分散体を高濃度で水中に分散させることができるとともに、優れた再分散性を付与することができる水系分散剤、およびこの水系分散剤を含有する水系分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機あるいは無機粉体等の分散体を水中に分散させた水系分散体組成物は、種々の産業分野に利用されている。有機粉体としては例えば有機顔料が挙げられ、有機顔料を含有する水系分散体組成物は、塗料、印刷インキ、インクジェット用インキ、カラーフィルター用レジスト、筆記具インキ等に利用されている。また無機粉体としては例えばセラミックスや金属粉体が挙げられ、セラミックス粉体を含有する水系分散体組成物は、積層セラミックコンデンサの誘電体層、半導体基板、センサー、液晶表示素子等といった電子部品の他に、研磨材や耐火材等に利用されており、金属粉体を含有する水系分散体組成物は、塗料、導電ペーストや導電性インクといった電極を形成する電子材料として幅広く利用されている。
【0003】
水系分散体組成物を調製する際、有機あるいは無機粉体は単独では分散性が不十分な場合が多いことから、水系分散体組成物の流動性や貯蔵安定性の向上を目的として、一般的に分散剤が使用されている。分散剤としては、各種界面活性剤のような低分子量分散剤、または窒素原子を1〜5個有するアミノ化合物にプロピレンオキシドとエチレンオキシドを付加させた高分子量分散剤(例えば、特許文献1を参照)が提案されている。
【0004】
近年、電子部品用途において、小型化、低消費電力、高効率化、高容量化といった製品特性の向上が望まれており、これら要求を満たすべく、原料であるセラミックスや金属粉体等の分散体の粒径の微細化や水系分散体組成物中の分散体の高濃度化が求められている。
【0005】
しかしながら、分散体の微細化や高濃度化要求に伴って、従来の分散剤では分散が不十分な場合が発生し、分散体の凝集に伴う水系分散体組成物の増粘や分散体の沈降といった問題が生じている。これら問題が生じた水系分散体組成物では、生産性、加工特性、ハンドリング性の低下を招くだけでなく、最終製品の品質低下にもつながるという問題が生じる。そのため、分散剤には、分散体を高濃度に含有し、かつ低粘度の水系分散体組成物を得ることができるとともに、分散体が沈降しても容易に再分散させることのできる性能が要求されている。
【0006】
分散体の微細化に伴う分散体の初期分散性および再分散性の低下を解決すべく、特許文献2では、ポリアミン化合物にプロピレンオキシドとエチレンオキシドを特定の比率で付加させた高分子量分散剤が提案されている。また、特許文献3では、アルキレンオキサイドを付加したポリアミン化合物とラムザンガムを配合した分散剤が提案されている。しかし、これらの分散剤は、微細化された分散体を高濃度に含有する水系分散体組成物に対する効果が十分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−62538号公報
【特許文献2】特開昭58−80391号公報
【特許文献3】特開平2−144141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、詳しくは、有機あるいは無機粉体等の分散体、特に粒径の小さい分散体を高濃度で水中に分散させることができるとともに、優れた再分散性を付与することができる水系分散剤、およびこの水系分散剤を含有する水系分散体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、所定の分子量を有する特定構造のポリエーテル系化合物が上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、式(1)で示され、分子量が1,000〜5,000であるポリエーテル系化合物であることを特徴とする水系分散剤、およびこの水系分散剤を含有する水系分散体組成物である。
【0011】
【化1】
(ただしAOはオキシエチレン基であり、aはAOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数で、3〜25であり、AOはオキシプロピレン基であり、bはAOで示されるオキシプロピレン基の平均付加モル数で、1〜10であり、aとbは5≦a+b≦30、および1≦a/b≦5の条件を満たし、Rは水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基であり、nは1〜4である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機あるいは無機粉体等の粒径の小さい分散体を高濃度で水中に分散させることができるとともに、優れた再分散性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の水系分散剤および水系分散体組成物の実施形態について順次説明する。
【0014】
〔水系分散剤〕
本発明の水系分散剤は、下記の式(1)で示されるポリエーテル系化合物である。なお、式(1)で示されるポリエーテル系化合物を以下では単にポリエーテル系化合物とも言う。
【0015】
【化2】
【0016】
上記式(1)において、nは1〜4である。
ポリエーテル系化合物中の窒素原子は、分散体に対して吸着部位として作用する。nが4を越えると、分散剤が分散体間にまたがって吸着する橋架け凝集が生じることにより、分散体の凝集が促進され、初期分散性および再分散性が低下するおそれがある。
【0017】
OおよびAOは、ポリオキシアルキレン基であり、分散体に吸着した際、立体反発部位とし作用することで粉体を良好に分散させるとともに、水への溶解性を高めることができる。
Oは炭素数2のオキシエチレン基であり、AOは炭素数3のオキシプロピレン基である。aはオキシエチレン基の平均付加モル数を表し、bはオキシプロピレン基の平均付加モル数を表し、aは3〜25、bは1〜10である。aおよびbは、初期分散性、再分散性および水への溶解性の観点から、好ましくはaが3〜20、bが1〜8であり、さらに好ましくはaが5〜15、bが2〜5である。
【0018】
Oで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数aと、AOで示されるオキシプロピレン基の平均付加モル数bとは、5≦a+b≦30、および1≦a/b≦5の条件を満たす。
【0019】
a+bは、窒素原子に結合した活性水素1当量あたりのポリエーテル鎖長を意味しており、5≦a+b≦30を満たす。a+bが5未満では十分な立体反発効果が得られ難くなり、また30を超えるとポリエーテル鎖の絡み合いが生じ易くなるため、初期分散性が低下するおそれがある。a+bは、分散安定性、および初期分散性の観点から、好ましくは5≦a+b≦25であり、更に好ましくは10≦a+b≦25である。
【0020】
a/bは、ポリエーテル系化合物におけるポリエーテル鎖の親水性の強いAOと親油性の強いAOのバランスを表す。a/bが1未満では親油性が高すぎるため、水への溶解性の低下に伴うポリエーテル鎖の収縮が生じ、立体反発効果が低下することによって、初期分散性が低下するおそれがある。a/bが5より大きいと、AOの比率が低くなるため、ポリエーテル末端に付加しているAOによるポリエーテル鎖の拡がりが低下することにより、十分な立体反発効果が得られなくなるおそれがある。a/bは、初期分散性の観点から、好ましくは2≦a/b≦5であり、さらに好ましくは2≦a/b≦4である。
【0021】
Rは水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基である。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの飽和炭化水素基、アリル基、メタリル基などの不飽和炭化水素基が挙げられる。好ましくは水素原子または炭素数1〜4の飽和炭化水素基であり、更に好ましくは水素原子またはメチル基である。Rで示される炭化水素基の炭素数が4を超えると製造が困難となるおそれがある。
ポリエーテル系化合物中の複数のRは全てが同じ炭化水素基であっても良く、あるいは2種以上の異なる炭化水素基であっても良い。
【0022】
ポリエーテル系化合物の分子量は1,000〜5,000である。分子量が1,000未満では、初期分散性が低下するおそれがあるだけでなく、十分な再分散性が得られなくなるおそれもある。また分子量が5,000を超えると、初期分散性が低下するおそれがある。分子量は、初期分散性および再分散性の観点から、好ましくは2,000〜4,000である。
なお、本発明において分子量とは、アミン価より算出した分子量である。
【0023】
式(1)中のRが水素原子であるポリエーテル系化合物は、窒素数が2〜5のポリエチレンポリアミンに、アルキレンオキサイドを付加させることによって製造することができる。
アルキレンオキサイドの付加反応は、触媒を使用しても良く、場合によっては触媒を使用しなくても良い。アルキレンオキサイドの付加反応に使用する触媒としては、アルカリ触媒が挙げられ、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、アルコラート、トリエチルアミンなどのアルキルアミン類、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類を用いることができる。また、上記のアルカリ触媒の他に、三ふっ化ほう素や四塩化錫などのルイス酸触媒を用いることができる。触媒の使用量は、付加反応終了後の質量に対して、0.01〜5.0質量%が一般的である。
アルキレンオキサイドの付加反応は、例えばアルゴン、窒素ガスの不活性ガス雰囲気下、50〜200℃、0.02〜1.0MPaで、原料の窒素原子を有する化合物に対し、必要に応じて触媒の存在下、アルキレンオキサイドを連続して加圧添加して行なうことができる。
【0024】
式(1)中のRが炭素数1〜4の炭化水素基であるポリエーテル系化合物は、アルキレンオキサイドの付加反応後、必要に応じてアルカリ触媒存在下、炭素数1〜4のアルキルハライドやアルケニルハライド等を反応させ、アルキルエーテル化またはアルケニルエーテル化することによって製造することができる。
アルキルハライドの例としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル等が挙げられ、アルケニルハライドの例としては、塩化アリル、塩化メタリル等が挙げられる。このときのアルカリ触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、アルコラート等を使用することができる。
アルキルハライドまたはアルケニルハライドの仕込量は、反応する水酸基に対して、100〜400モル%であり、アルカリ触媒量は、反応する水酸基に対して、100〜500モル%である。また、反応温度は60〜180℃で行うのが一般的である。
【0025】
本発明の水系分散剤は、無機酸や有機酸にて中和されていても良い。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸系、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、ポリカルボン酸系共重合体等の多価カルボン酸系、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシ酸系、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸系が挙げられ、これら無機酸や有機酸から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
〔水系分散体組成物〕
本発明の水系分散体組成物は、本発明の水系分散剤、分散体、および水を含有する。
水系分散剤の含有量は、水系分散体組成物中、0.05〜20質量%である。含有量が0.05質量%未満だと十分な初期分散性および再分散性が得られないおそれがあり、含有量が20重量%を超えても含有量に見合う効果が得られないおそれがある。水系分散剤の含有量は、初期分散性または再分散性の観点から、好ましくは0.1〜15質量%であり、更に好ましくは0.5〜10質量%である。
【0027】
本発明の水系分散体組成物に含まれる分散体としては、有機あるいは無機粉体が挙げられる。
有機粉体としては、例えば、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾロン系、ペニレン系、フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系等の有機顔料が挙げられる。
無機粉体としては、例えば、鉄、アルミニウム、クロム、ニッケル、コバルト、亜鉛、タングステン、インジウム、錫、パラジウム、ジルコニウム、チタン、銅、銀、金、白金などの金属粉体、およびそれらの合金粉体、複合粉体、混合粉体が挙げられる。その他、カオリン、クレー、タルク、マイカ、ベントナイト、ドロマイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、ケイ酸アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、チタン酸バリウム、カーボンブラック、黒鉛、ロックウール、グラスウール、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ(シングルウォールナノチューブ、ダブルウォールナノチューブ、マルチウォールナノチューブ)等が挙げられる。
【0028】
分散体として、平均粒子径の小さい分散体、例えば平均粒子径が0.05〜1μm、さらには0.1〜0.8μmの分散体を用いることによって、良好な分散性を発揮することができる。なお、分散体の平均粒子径はマイクロトラック法によって測定することができる。
【0029】
分散体の含有量は、水系分散体組成物中、通常、10〜95質量%であり、特に、65〜90質量%、さらには70〜85質量%のような高濃度系でより良好な分散性を発揮することができる。
【0030】
水の含有量は、水系分散体組成物中、通常、4〜85質量%であり、特に、5〜30質量%でより良好な分散性を発揮することができる。
【0031】
本発明の水系分散体組成物には、その目的が損なわれない範囲で、他の界面活性剤、バインダ、可塑剤、消泡剤などの各種添加剤を配合させることができる。
【0032】
本発明の水系分散体組成物は、公知の水系分散体組成物の製造方法に準じて製造することができる。例えば、分散剤を溶解した水溶液中に分散体を添加した後、室温下にて攪拌、混合する方法や、分散体に水および分散剤を添加した後、室温下にて攪拌、混合する方法等が挙げられる。
攪拌、混合、あるいは分散するための分散機としては、公知の分散機を使用することができる。例えば、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ジェットミル、ホモジナイザー、自転公転型ミキサー等が挙げられる。また、超音波発生浴中において分散処理を行うこともできる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
合成例1
攪拌機、圧力計、温度計、安全弁、ガス吹き込み管、排気管、冷却用コイル、および蒸気ジャケットを装備したステンレス製の5リットル耐圧容器に、ジエチレントリアミン(関東化学株式会社製、1モルあたり窒素原子に結合した活性水素:5当量)103gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した。攪拌下、80℃まで昇温後、80〜100℃、0.05〜0.5MPa(ゲージ圧)の条件で、別に用意した耐圧容器からエチレンオキサイド220g(窒素原子に結合した活性水素1当量あたり1モルに相当)を、ガス吹き込み管を通して、窒素ガスにより加圧添加した。
添加終了後、同条件で内圧が一定となるまで反応させた。40℃まで冷却後、水酸化カリウムを7.2g添加し、系内を窒素ガスで置換した。攪拌下、100℃まで昇温後、100〜120℃、0.05〜0.5MPaの条件でエチレンオキサイド2,420g(窒素原子に結合した活性水素1当量あたり11モルに相当)を、ガス吹き込み管を通して、窒素ガスにより加圧添加した。
添加終了後、同条件で内圧が一定となるまで反応させた。次に、攪拌下、100〜120℃、0.05〜0.5MPaの条件で、プロピレンオキサイド870g(窒素原子に結合した活性水素1当量あたり3モルに相当)を、ガス吹き込み管を通して、窒素ガスにより加圧添加した
添加終了後、同条件で内圧が一定となるまで反応させた。30℃まで冷却後、耐圧容器から反応物を5リットルのナスフラスコに取り出した。これに吸着剤(商品名:キョーワード700、協和化学工業株式会社製)18gを加え、窒素ガス雰囲気下、90〜100℃、0.05MPa以下で処理し、生じた塩と吸着剤をろ別し、ポリエーテル系化合物を得た。得られたポリエーテル系化合物のアミン価は46.6であり、アミン価から求められる分子量は3,610であった。
【0035】
なお、アミン価の測定方法は下記のとおりである。
試料をビーカーに秤量し、これに中性エタノール(エチルアルコール(99.5V/V%)を使用直前にブロムクレゾールグリーン指示薬を用いてN/2塩酸標準液で中和したもの)を加えて溶解させる。次にブロムクレゾールグリーン指示薬を数滴加え、N/2塩酸標準液で滴定し、液の緑色が黄色に変わったときを終点とした。アミン価は下記の式より算出した。
アミン価=(28.05×F×A)/W
ただし、A:N/2塩酸標準液使用量、F:N/2塩酸標準液のファクター、W:試料採取量(g)
【0036】
また、合成例1におけるジエチレントリアミンを他の化合物に適宜変更し、合成例1に準じて操作を行なうことによって、表1の合成例2〜4および表2のポリエーテル系化合物5〜6を合成した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【化3】
【0040】
【化4】
【0041】
[実施例1〜2、比較例1〜4]
合成例1〜6の化合物を分散剤として用いて、下記のとおり、それぞれ3種類の水系分散体組成物を調製した。
50mLスクリュー管に、炭化珪素粉体(平均粒径:0.6μm、および平均粒径:15μm、マイクロトラック法により測定)5.0g、イオン交換水をそれぞれ1.10g、2.54g、0.83g、分散剤をそれぞれ0.15g、0.15g、および0.05gを秤量し(分散体濃度:80質量%、65質量%および85質量%)、自転公転型ミキサーで5分間攪拌して、無機粉体を含有するスラリー状の水系分散体組成物を得た。
合成例1〜2の化合物を用いて得られた水系分散体組成物を実施例1〜2とし、合成例3〜6の化合物を用いて得られた水系分散体組成物を比較例1〜4とした。
【0042】
[分散試験]
実施例1〜2および比較例1〜4の水系分散体組成物を用いて、分散試験を行なった。
各水系分散体組成物について、動的粘弾性装置(Paar Physica MCR−300、Anton Paar社製)を用いて、温度20℃、せん断速度が0.1〜100(1/s)に対するせん断粘度を測定し、せん断速度が1(1/s)の時のせん断粘度を表3に示した。
また、室温で1週間静置した各水系分散体組成物を自転公転型ミキサーで5分間再攪拌し、各水系分散体組成物のせん断粘度を同一の条件で測定して、せん断速度が1(1/s)の時のせん断粘度を併せて表3に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
(炭化珪素の平均粒径:0.6μm、分散体濃度:80質量%、分散剤濃度:3質量%の場合)
本発明に係る合成例1〜2の化合物を添加した実施例1〜2の水系分散体組成物は、いずれも製造直後において良好な分散性を示しており、1週後においても経時的な粘度変化はほとんど見られなかった。
一方、a/bが本発明の規定範囲よりも小さい、合成例3の化合物を添加した比較例1の水系分散体組成物は、経時的な粘度変化を起こし、また製造直後からせん断粘度が実施例と比較して高く、分散性は劣っていた。
a/bが本発明の規定範囲よりも大きい、合成例4の化合物を添加した比較例2の水系分散体組成物は、経時的な粘度変化は小さいものの、製造直後からせん断粘度が実施例と比較して高く、分散性は劣っていた。
本発明に係る式(1)で示されるポリエーテル系化合物におけるオキシアルキレン基の付加形態が逆になった構造の合成例5、6の化合物を添加した比較例3、4の水系分散体組成物は、経時的な粘度変化を起こし、また製造直後からせん断粘度が実施例と比較して極めて高く、分散性がはるかに劣っていた。
【0045】
(炭化珪素の平均粒径:0.6μm、分散体濃度:65質量%、分散剤濃度:3質量%の場合)
本発明に係る合成例1〜2の化合物を添加した実施例1〜2の水系分散体組成物は、いずれも製造直後において良好な分散性を示しており、1週後においても経時的な粘度変化はほとんど見られなかった。
a/bが本発明の規定範囲より小さい、合成例3の化合物を添加した比較例1の水系分散体組成物は、経時的な粘度変化は小さいものの、製造直後からせん断粘度は実施例と比較して高く、分散性は劣っていた。
a/bが本発明の規定範囲より大きい、合成例4の化合物を添加した比較例2の水系分散体組成物は、経時的な粘度変化はほとんど起こしていないものの、製造直後からせん断粘度は実施例と比較して高かった。但し、分散体濃度:80質量%の場合との比較では、実施例1、2と比較例2との粘度の差が小さくなっている。
本発明に係る式(1)で示されるポリエーテル系化合物におけるオキシアルキレン基の付加形態が逆になった構造の合成例5、6の化合物を添加した比較3、4の水系分散体組成物は、経時的な粘度変化はほとんど起こしていなかったものの、製造直後からせん断粘度が実施例と比較して高く、分散性は劣っていた。
【0046】
(炭化珪素の平均粒径:15μm、分散体濃度:85質量%、分散剤濃度:1質量%の場合)
本発明に係る合成例1〜2の化合物を添加した実施例1〜2の水系分散体組成物は、いずれも製造直後において良好な分散性を示しており、1週後においても経時的な粘度変化はほとんど見られなかった。
a/bが本発明の規定範囲より小さい、合成例3の化合物を添加した比較例1の水系分散体組成物、a/bが本発明の規定範囲より大きい合成例4の化合物を添加した比較例2の水系分散体組成物、および本発明に係る式(1)で示されるポリエーテル系化合物におけるオキシアルキレン基の付加形態が逆になった構造の合成例5、6の化合物を添加した比較例3、4の水系分散体組成物は、いずれも実施例1〜2と同様に、良好な分散性を示しており、1週後においても経時的な粘度変化はほとんど見られなかった。
【0047】
上記の実施例と比較例の結果から、本発明の分散剤が、平均粒径の小さい分散体で、かつ分散体濃度が65質量%以上の高濃度のときに、効果を顕著に発揮しやすいことがわかる。