【実施例】
【0025】
[実施例]
図1は本発明の実施例におけるタンパク質回収方法のフローを示す。
本実施例では、難消化性タンパク質であるプロラミンを効率良く得るため、高難消化性タンパク質米であるLGCソフト(品種名)の玄米を使用することとし、前記玄米を90%精米した後に製粉機で米粉にした。そして、前記米粉を原料とし、以下の各工程を経てプロラミンを抽出・回収した。
【0026】
(1)タンパク質溶解工程
前記米粉500gに対しイオン交換水2000mLを加え、強アルカリ(NaOH)水溶液を使い水素イオン濃度指数をpH12.5に調整した。次いで、アルコール(エタノール)3000mLを加え、40℃の恒温庫内で2時間攪拌した。その後、3080×gの遠心力で5分間遠心分離を行い、上清を回収した。
【0027】
(2)タンパク質分離工程
前記上清に強酸(硫酸)を滴下して中和しpH3に調整した。その後、3080×gの遠心力で5分間遠心分離を行い、プロラミンを含む上清と、プロラミン以外のエタノールに不溶なタンパク質を含む沈殿物とを分離回収した。
【0028】
(3)プロラミン回収工程
減圧濃縮機(湯浴40℃、圧力90hPa)を使い、前記プロラミンを含む上清からエタノールを留去した後、3080×gの遠心力で5分間遠心分離を行い、沈殿物を回収した。そして、前記沈殿物にエタノール50mLを加え、ボルテックスミキサーで混合した後、3080×gの遠心力で5分間遠心分離を行い、沈殿物を回収した(洗浄、脱脂の準備)。その後、前記沈殿物にn−ヘキサン50mLを加え、ボルテックスミキサーで混合した後、3080×gの遠心力で5分間遠心分離を行い、沈殿物を回収した(脱脂)。さらに、前記沈殿物にエタノール50mLを加え、ボルテックスミキサーで混合した後、3080×gの遠心力で5分間遠心分離を行い、沈殿物を回収した(洗浄、乾燥準備)。そして、前記沈殿物を室温で一晩(約16時間)予備乾燥し、前記予備乾燥した固形物を微粉末化して40℃で24時間乾燥することで抽出物を得た。
【0029】
[比較例1]
図2は比較例1におけるタンパク質回収方法のフローを示す。比較例1は、上記特許文献1に記載された方法に基づくものである。
比較例1では、実施例と同じ米粉を原料とし、該米粉にn−ヘキサンを加えて脱脂を行い、水とNaOHを加えてpH12.5に調整し、4時間撹拌した。その後、遠心分離を行い、上清に硫酸を滴下して中和しpH3に調整し、さらに遠心分離を行い、沈殿物を回収した。そして、前記沈殿物を実施例と同様に乾燥することで抽出物を得た。
【0030】
[比較例2]
図3は比較例2におけるタンパク質回収方法のフローを示す。比較例2は、上記特許文献2に記載された方法に基づくものである。
比較例2では、実施例と同じ米粉を原料とし、該米粉にn−ヘキサンを加えて脱脂した後、脱イオン蒸留水(ddH2O)を加えて4時間揺らし、その後、遠心分離を行い、沈殿物を回収した。
次に、前記沈殿物にddH2Oを加え、前記作業を繰り返した後の沈殿物にNaClを加え、4時間揺らし、その後、遠心分離を行い、沈殿物を回収した。
次に、前記沈殿物にNaClを加え、前記作業を繰り返した後の沈殿物にNaOHを加え、30分間揺らし、その後、遠心分離を行い、沈殿物を回収した。
【0031】
次に、前記沈殿物にNaOHを加え、前記作業を繰り返した後の沈殿物にエタノールを加え、4時間揺らし、その後、遠心分離を行い、沈殿物を回収した。
そして、前記沈殿物にエタノールを加え、前記作業を繰り返し、該作業の2回の上清を混合した抽出液から、実施例と同様のプロラミン回収工程を経て抽出物を得た。
【0032】
[比較例3]
図4は比較例3におけるタンパク質回収方法のフローを示す。
比較例3では、比較例1において得られた抽出物にエタノールを加えた後、遠心分離を行い、回収した上清から、
図4に示すプロラミン回収工程を経て抽出物を得た。
【0033】
[比較例4]
図5は比較例4におけるタンパク質回収方法のフローを示す。
比較例4では、比較例2において脱脂した後の原料米粉に直接エタノールを加え、遠心分離を行い、沈殿物を回収した。
そして、前記沈殿物にエタノールを加えることで、前記作業を繰り返し、該作業の2回の上清を混合した抽出液から、実施例と同様のプロラミン回収工程を経て抽出物を得た。
【0034】
図6は、実施例及び比較例1〜4における原料及び抽出物の分析結果を示す。
原料の各成分量は、原料100g中に含まれる質量(g)であり、抽出物の各成分量は、原料100g当たりの抽出物中に含まれる質量(g)である。
また、プロラミンの純度は、抽出物におけるプロラミンの質量割合(%)であり、プロラミンの回収率は、原料に含まれるプロラミンに対する抽出物に含まれるプロラミンの質量割合(%)である。
ここで、実施例及び比較例1〜4により得られるプロラミンは13kDaプロラミンである。
【0035】
図6に示されるように、比較例1により得られたプロラミンは、回収率は高いものの純度が低いことが分かる。また、比較例2により得られたプロラミンは、回収率が著しく低く、純度も期待したほど高くないことが分かる。
【0036】
他方、比較例3及び4により得られたプロラミンは、純度はある程度高いものの、比較例3では回収率が低く、比較例4では回収率が著しく低いことが分かる。
【0037】
これに対し、実施例により得られたプロラミンは、純度が91.0%と最も高く、回収率も46.8%と高い。
したがって、本実施例は、高純度のプロラミンを効率よく回収する方法として優れていることが分かる。
【0038】
そして、
図6に示す実施例と比較例1〜4の分析結果の比較から、原料米粉にNaOHとエタノールを加えてタンパク質を溶解させることが、米に含まれるプロラミンを高純度かつ高収率で回収することを可能とすることを見出すことができる。
【0039】
なお、上記実施例では、米粉にNaOHを加えた後にエタノールを加えたが、NaOHとエタノールを同時に加えた場合、エタノールを加えた後にNaOHを加えた場合、及び硫酸で中和する前の上清にエタノールを加えた場合でも、米に含まれるプロラミンを高純度かつ高収率で回収することができる。
【0040】
また、上記実施例は、プロラミンが60〜90%エタノール(アルコール)に溶解する性質を利用するものであり、プロラミン回収工程において、前記プロラミンを含む上清からエタノールを留去して該エタノールの濃度を下げることでプロラミンの沈殿物を回収することとしたが、前記上清に大量の水を加えてエタノールの濃度を低下させたり、エタノールを加えて濃度を90%以上に上昇させたりすることでプロラミンの沈殿物を回収することもできる。
【0041】
さらに、上記実施例におけるプロラミン回収工程は、エタノール濃度の調整に代えて、塩析により前記プロラミンを含む上清からプロラミンの沈殿物を回収することとしてもよい。
【0042】
上記実施例では、前記タンパク質分離工程で回収される上清からプロラミンを抽出・回収したが、前記タンパク質分離工程で回収される沈殿物からプロラミン以外のタンパク質を回収することもできる。