特許第6186875号(P6186875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6186875酸素バリア性樹脂組成物ならびにこれらを用いた積層体および成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186875
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】酸素バリア性樹脂組成物ならびにこれらを用いた積層体および成型体
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20170821BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08F8/00
   C08L9/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-104621(P2013-104621)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-224202(P2014-224202A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆欣
(72)【発明者】
【氏名】鍵本 康太
(72)【発明者】
【氏名】新見 健一
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−194949(JP,A)
【文献】 特開2005−319457(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145550(WO,A1)
【文献】 特開平09−132616(JP,A)
【文献】 特開2006−181778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 − 8/50
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有する樹脂としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する組成物(A)と、酸素とを反応させてなる、酸素バリア性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物(A)にエネルギー線を照射した後に酸素と反応させてなる、請求項1に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに遷移金属触媒を含有する、請求項1又は2に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに光開始剤を含有する、請求項1〜の何れか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
【請求項5】
前記炭素−炭素二重結合を有する樹脂が5〜99.9wt%含まれる、請求項1〜の何れか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物を含む、酸素バリア性積層体。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物を含む、酸素バリア性成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期的に優れたガスバリア性を保持する事ができ、且つ優れた酸素吸収性能を有する事ができる酸素吸収性樹脂組成物ならびにこれらを用いた積層体および成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品、電子製品に代表される、酸素の影響を受けて変質あるいは劣化し易い各種物品の酸化を防止し長期に保存する目的で、これらを収納した密封容器内の酸素を除去する脱酸素剤が使用されている。近年は、より取扱いが容易で適用範囲が広く誤食の可能性が極めて小さいフィルム状の脱酸素剤(酸素吸収性フィルム)に関して、酸素吸収性樹脂組成物やフィルム構成について多くの提案がなされている(特許文献1、2)。
【0003】
脱酸素剤を用いる場合、長期的に無酸素状態を保持するために、ガスバリア性に優れた密封容器を使用する必要がある。同様に、酸素吸収性フィルムを有する密封容器を使用する場合も、密封容器にはガスバリア性を付与する必要がある。ガスバリア性に優れた容器材料としては、ポリ塩化ビニリデン樹脂(以下、「PVDC」とも表記する)をコートしたフィルムや、シリカやアルミナなどの無機化合物又はアルミニウムを可撓性プラスチックフィルムの表面に蒸着したフィルムなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−194949号公報
【特許文献2】国際公開第2010/134137号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バリア性を有するプラスチック包装材料として使用されているPVDCコートフィルムはハロゲン原子を含有しているため、環境保全の観点から非ハロゲン系ガスバリア性フィルムが求められている。また、シリカやアルミナなどの無機化合物を可撓性プラスチックフィルムの表面に蒸着したフィルムは、フィルムの成型加工時や該フィルムを用いた密封容器の流通段階で、屈曲や伸長によりガスバリア層にクラックやピンホールが発生し、ガスバリア性が著しく低下する場合があった。さらに、ポリプロピレンなどの可撓性プラスチックフィルムの表面にアルミニウムを蒸着したフィルムが、特に遮光性が必要な内容物用途を中心に広く使用されているが、このフィルムについてもシリカやアルミナなどの無機蒸着フィルムと同様の問題が発生する場合があった。
【0006】
本発明は上記課題を解決し、クラックやピンホールの発生が抑制された酸素バリア性樹脂組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)が酸素を吸収し、該樹脂組成物(A)と酸素とが反応した後に、優れた酸素バリア性を示すことを見出し、本発明に到達するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下<1>〜<10>を提供する。
<1> 炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)と、酸素とを反応させてなる、酸素バリア性樹脂組成物。
<2> 前記樹脂組成物(A)にエネルギー線を照射した後に酸素と反応させてなる、上記<1>に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
<3> さらに遷移金属触媒を含有する、上記<1>又は<2>に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
<4> さらに光開始剤を含有する、上記<1>〜<3>の何れか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
<5> 前記炭素−炭素二重結合を有する樹脂が、ポリブタジエン(X)、ポリイソプレン(Y)及び下記一般式(1)の構成単位を有する樹脂(Z)
【化1】

(式中、R〜Rは、同一又は異なって、−H、−CH、−CHR、−CHR、−CR、−OR、−COOR、−SiR、−O−SiR、−COCl又はハロゲン原子を表し、Rは直鎖状又は環状のアルキル基、アルケン基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケン基又はアリール基を表す。)
からなる群より選択される少なくとも1種以上である、上記<1>〜<4>の何れか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
<6> 前記樹脂(Z)が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及び/又はスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である、上記<1>〜<5>の何れか一項に記載のに記載の酸素バリア性樹脂組成物。
<7> 前記炭素−炭素二重結合を有する樹脂が5〜99.9wt%含まれる、上記<1>〜<6>の何れか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物。
<8> 上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物を含む、酸素バリア性積層体。
<9> 上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の酸素バリア性樹脂組成物を含む、酸素バリア性成型体。
<10>
酸素と反応することにより酸素バリア性を発現する、炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、酸素バリア性樹脂組成物を密封容器の少なくとも一部に用いることで、密封容器外部からの酸素の侵入を抑える事が可能となり、酸素バリア性に優れた密封容器を実現することが出来る。また、この密封容器では、屈曲や伸長によるクラックやピンホールの発生が抑制されている為、優れたガスバリア性を長期間維持することが出来る。さらに、炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)が密封容器内の酸素と反応する為、密封容器内の酸素濃度を低下させることができる。その上、本発明の好ましい一態様によれば、炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)と、シリカやアルミナなどの無機化合物を可撓性プラスチックフィルムの表面に蒸着したフィルムとを併用することで、該フィルムにクラックやピンホールが発生した場合でも、密封容器内に侵入した酸素を吸収し、かつ、クラックやピンホールが発生した部分にガスバリア性を付与することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0011】
[酸素バリア性樹脂組成物]
本実施形態の酸素バリア性樹脂組成物は、炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)と、酸素とを反応させてなるものである。
【0012】
<炭素−炭素二重結合を有する樹脂>
炭素−炭素二重結合を有する樹脂は特に限定されないが、酸素バリア性能からポリブタジエン(X)、ポリイソプレン(Y)、前記樹脂(Z)が好ましい。これらの樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0013】
ポリブタジエン(X)としては、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエンが挙げられ、ポリイソプレン(Y)としては、1,2−ポリイソプレン、1,4−ポリイソプレン、3,4−ポリイソプレンが挙げられ、酸素との反応性と酸素と反応した際の副生物抑制の観点から、1,2−ポリブタジエンが特に好ましい。
【0014】
樹脂(Z)は、炭素−炭素二重結合及び上記一般式(1)の構成単位を有する。炭素−炭素二重結合は樹脂の主鎖にあっても側鎖にあっても良い。具体的には、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンゴムスチレンイソプレンゴムが挙げられる。これらのうち、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体が好ましく、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が特に好ましい。
【0015】
樹脂組成物(A)は、炭素−炭素二重結合を有する樹脂以外の樹脂を含有することが出来る。易酸化性熱可塑性樹脂としては、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物が挙げられる。第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物として、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0016】
<その他の樹脂>
樹脂組成物(A)には、他の配合成分の分散性を向上させるため、あるいは酸素透過性を上げ酸素との反応速度を速くするために、さらに別種の熱可塑性樹脂を配合しても良い。配合する熱可塑性樹脂は特に限定されないが、樹脂との相溶性が高いものやフィルム化した際の酸素透過度が高いものが好ましい。特に、ポリエチレンが好ましい。
【0017】
熱可塑性樹脂の配合量としては、炭素−炭素二重結合を有する樹脂100質量部に対して1〜1000質量部が好ましく、2〜500質量部が好ましく、5〜200質量部が特に好ましい。上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、酸素との反応速度をより高めることができる。
【0018】
本発明の酸素バリア性樹脂組成物における樹脂組成物(A)の含有率は5wt%以上が好ましく10wt%以上が特に好ましい。上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、酸化後のバリアをより高めることができる。
【0019】
炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)と酸素とを反応させる方法は特に限定されない。樹脂組成物(A)を有する密封容器を作製した後、容器内の酸素と反応させることもできるし、樹脂組成物(A)を開放系で酸素と反応させた後に、密封容器を作製しても良い。
【0020】
本実施形態の酸素バリア性樹脂組成物が酸素バリア性を発現する機構は明らかではないが、例えば炭素−炭素二重結合を有する樹脂として1,2−ポリブタジエンを用いた場合、式(2)に示すような架橋反応が進行することで、酸素バリア性を発現することが推測される。
【化2】
【0021】
<遷移金属触媒>
本実施形態において、樹脂組成物(A)に遷移金属触媒を含有させることで、炭素−炭素二重結合を有する樹脂と酸素との反応を促進させることが出来る。遷移金属触媒は炭素−炭素二重結合を有する樹脂の酸化反応の触媒として機能し得るものであれば、公知のものから適宜選択して用いることができ、特に限定されない。
【0022】
上記遷移金属触媒の具体例としては、例えば、遷移金属の有機酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩、亜燐酸塩、次亜燐酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。ここで、遷移金属触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が好ましい。また、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタノイック酸、ラウリン酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸が挙げられるが、これらに限定されない。遷移金属触媒は、これらの遷移金属と有機酸とを組み合わせたものが好ましく、遷移金属がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル又は銅であり、有機酸がオクチル酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、又はステアリン酸である組み合わせがより好ましい。特に,遷移金属がコバルト、有機酸がオクチル酸又はネオデカン酸である組み合わせが特に好ましい。なお、遷移金属触媒は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
<担体物質>
ここで、樹脂組成物(A)は、必要に応じて、さらに担体物質を含有していてもよい。また、遷移金属触媒を担体物質に担持或いは含浸させることで、遷移金属触媒が担体物質に担持或いは含浸された担持体(以下、「遷移金属触媒担持体」ともいう。)とすることができる。このように遷移金属触媒を担体物質に担持或いは含浸させることにより、酸素との接触面積を大きくし、酸素との反応速度を増加させることができ、また、取り扱いを簡便にすることができる。担体物質の種類は、特に限定されないが、シリカ、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム類などを用いることができる。特に、触媒調製時及び調製後の大きさが0.1〜200μmの凝集体が、取扱い性が良いため好ましい。特に、樹脂中に分散した際に10〜100nmである担体が、樹脂に配合した際に透明な樹脂組成物を与えるため好ましい。このような担体物質として、合成シリカが例示される。遷移金属触媒の配合割合は、酸素との反応速度、物理強度及び経済性から、樹脂組成物(A)100質量部に対し遷移金属量として0.001〜10質量部が好ましく、0.01〜1質量部が特に好ましい。
【0024】
<エネルギー線>
樹脂組成物(A)にエネルギー線を照射することで、炭素−炭素二重結合を有する樹脂と酸素との反応を促進させることが出来る。エネルギー線としては、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等を用いることができる。これらエネルギーの照射により、易酸化性熱可塑性樹脂の炭素−水素結合や炭素−炭素結合を切断してラジカルを生成させることにより、酸素との反応を促進させることができる。また、熱、高周波、超音波等のエネルギーを与えることにより酸素との反応を促進させることもできる。
【0025】
<光開始剤>
樹脂組成物(A)に光開始剤を配合することで、炭素−炭素二重結合を有する樹脂と酸素との反応を促進させることが出来る。光開始剤は、紫外線照射または紫外線照射により励起された増感剤から移動したエネルギーによって励起され、易酸化性樹脂または反応促進材の酸化反応を開始させる起点となる物質である。本発明においては、水素引き抜き型または分子内開裂型の開始剤を用いる。水素引き抜き型の開始剤では、励起された開始剤分子が樹脂から水素を引き抜いて活性なラジカルを生じ、酸化反応を開始させる。また、分子内開裂型の開始剤では、励起された開始剤分子がα―開裂してラジカルを生じ、樹脂の二重結合部に付加して新たなラジカルを生じる。このラジカルがさらに樹脂から水素を引き抜いて活性なラジカルを生じ酸化反応が進行する。水素引き抜き型開始剤の代表例としては、ベンゾフェノン類、チアジン類、金属ポルフィリン類、アントラキノン類、キサントン類、チオキサントン類、フルオレノン類、ベンゾキノン類等があげられる。好ましくは、フルオレノン類、チオキサントン類、アントラキノン類である。分子内開裂型開始剤の代表例としては、α―ヒドロキシケトン類(イルガキュア127、イルガキュア184、イルガキュア2959等)、ベンジルケタール類(イルガキュア651等)、アシルホスフィンオキサイド類(ダロキュアTPO、イルガキュア819等)、オキシムエステル類(イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02等)があげられ、α―ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキサイド類が好ましい。光開始剤の配合割合は、酸素吸収性樹脂組成物の総量に対して、0〜1質量%が好ましく、0〜0.1質量%がより好ましく、0〜0.01質量%が更に好ましく、0質量%が最も好ましい。光開始剤の配合割合が上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、酸素吸収速度を維持しつつ、光開始剤が外部へ移行する可能性をより低くすることが出来る。
【0026】
<その他の添加剤>
また、上記の樹脂組成物(A)は、乾燥剤、吸着剤、抗菌剤、着色剤から選んだ一種以上の添加剤と混合することにより、さらに乾燥機能などの他の機能を併せ持つ組成物にすることができる。また、酸素バリア性組成物の層と、乾燥剤、吸着剤、抗菌剤、着色剤から選んだ一種以上の添加剤を含有する層を含む多層体とすることもできる。
【0027】
樹脂組成物(A)は、炭素−炭素二重結合を有する樹脂を2種以上用いたり、上記の遷移金属触媒、担体物質、光開始剤、及びその他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1種以上を含有させる場合、用いる樹脂の溶融温度以上で混合することによって、製造できる。また、樹脂組成物(A)は粉末状遷移金属触媒あるいは遷移金属触媒単体を高濃度に含有する樹脂組成物(マスターバッチ)と樹脂組成物(A)とを溶融温度以上で混合することによっても製造できる。
【0028】
[酸素バリア性積層体・成型体]
さらに、本発明の酸素バリア性樹脂組成物は、そのまま、または適当な包装材料と積層することにより、あるいは炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)を適当な包装材料と積層した後に酸素と反応させることにより、酸素バリア性材料として密封容器の一部もしくは全部に用いることができる。例えば、本発明の酸素バリア性樹脂組成物を有する層の一方の側に酸素透過性が高く、かつ熱融着性を兼ね備えた熱可塑性樹脂を、包装される内容物側とする隔離層(最内層)として積層し、他方の側に酸素透過性が低い樹脂、金属または金属酸化物をガスバリア層(最外層)として積層して、フィルム状またはシート状の酸素バリア性積層体とすることができる。さらに、本発明の酸素バリア性樹脂組成物をそのまま、あるいは上記のような多層構成において成形品とする事により、高いバリア性を有する脱酸素性包装材料として様々な形の成形品とする事ができる。成型方法としては射出成型、ブロー成形、真空・加圧成型等により作成する事ができる。上記の説明において、酸素バリア性樹脂組成物に代えて炭素−炭素二重結合を有する樹脂を含有する樹脂組成物(A)を用い、積層体や成型体を作製した後に酸素と反応させることにより、積層体や成型体を作製する事も出来る。
【0029】
本発明の酸素バリア性積層体には、さらに臭気吸収層(c)を設けることが出来る。積層順序は何ら限定されないが、酸素バリア性能及び臭気抑制の観点から、隔離層(a)、酸素バリア性樹脂組成物を有する層(b)、臭気吸収層(c)、酸素バリア層(d)の順に積層した多層体が好ましい。
【0030】
[隔離層(a)]
隔離層(a)は酸素バリア性樹脂組成物を有する層(b)と収納物とを隔離する役割を果たすと共に、シーラントとしての役割を果たす。また、酸素バリア性樹脂組成物を有する層(b)を構成する酸素バリア性樹脂組成物に含有される易酸化性熱可塑性樹脂による速やかな酸素吸収を妨げないように、効率的な酸素透過を行う役割を果たす。
【0031】
本発明の隔離層(a)は、23℃、相対湿度60%の条件下で測定したときの酸素透過度が1000mL/(m・day・atm)以上であり、好ましくは3000mL/(m・day・atm)以上であり、5000mL/(m・day・atm)以上であるとより好ましい。
【0032】
隔離層(a)に用いられる熱可塑性樹脂の代表例としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の各種イオン架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体等の合成ゴム系樹脂及びその水添樹脂、軟質ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、シリコーン樹脂及びポリシロキサンと他の樹脂との共重合体等が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0033】
隔離層(a)の厚さは薄くなると酸素吸収性多層体が酸素を吸収する速度が速くなるため、1〜100μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、酸素バリア性積層体の酸素吸収速度を高めることが出来るとともに、包装材料としての柔軟性を維持できるため好ましい。
【0034】
本発明の酸素バリア性積層体においては、隔離層(a)を、酸性ガス吸収剤及び熱可塑性樹脂を含有する酸性ガス吸収性樹脂組成物(e)からなる酸性ガス吸収性隔離層(a-e)とすることが好ましい。隔離層(a)を酸性ガス吸収性隔離層(a-e)とすることによって、酸素吸収反応により副生する酸性ガスを吸収でき、これに起因する臭気の抑制が可能となる。
【0035】
本発明で用いられる酸性ガス吸収剤は、主にカルボン酸類由来の臭気成分を化学的及び/または物理的に固定する化合物である。本発明において用いられる酸性ガス吸収剤は塩基性化合物が好ましい。
【0036】
塩基性化合物としては、周期表1族及び2族の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物等が好ましく、2族金属の水酸化物、酸化物が特に好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が好ましく、酸化マグネシウムが特に好ましい。また、塩基性の有機化合物も使用可能であり、その代表は窒素上に非共有電子対を持つアミン化合物である。
【0037】
酸性ガス吸収剤の配合割合は、酸性ガス吸収性樹脂組成物(e)に含有される熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましく、1〜5質量部が特に好ましい。上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、発生する酸性ガスを十分に吸収することが出来ると共に酸性ガス吸収性隔離層(a-e)の酸素透過度をより高くすることができるため好ましい。
【0038】
酸性ガス吸収性隔離層(a-e)を構成する酸性ガス吸収性樹脂組成物(e)は、例えば熱可塑性樹脂と粉末状酸性ガス吸収剤を該樹脂の溶融温度以上で混合することによって製造できる。
【0039】
[臭気吸収層(c)]
本発明の酸素吸収性多層体を構成する臭気吸収層(c)は、熱可塑性樹脂及び臭気吸収剤を含有する臭気吸収性樹脂組成物からなる。
【0040】
臭気吸収層(c)の厚みは、それぞれ1〜300μmが好ましく、1〜200μmがより好ましい。上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、臭気性成分の吸収量がより大きく出来ると共に、包装材料としての柔軟性を維持できるため好ましい。
【0041】
本発明で用いられる臭気吸収剤は、主にアルデヒド類由来の臭気性成分を化学的及び/または物理的に固定する物質である。臭気吸収剤としては、アミン化合物や物理吸着剤を用いることが出来る。この際、これらを単独でまたは組み合わせて用いて臭気吸収剤としてもよいし、その他の物質と組み合わせて用いて臭気吸収剤としてもよい。また、上記の機能を有する市販の消臭剤も臭気吸収剤として用いることが出来る。
【0042】
アミン化合物の配合割合は、臭気吸収性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。
【0043】
アミン化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物、ヒドラジン誘導体、グアニジン誘導体、尿素誘導体等が挙げられる。臭気吸収性能の観点から、芳香族アミン、ヒドラジン誘導体、グアニジン誘導体または尿素誘導体が好ましく、中でも、4−アミノ安息香酸及びその塩、4−アミノベンゼンスルホン酸及びその塩、硫酸アミノグアニジンが特に好ましい。
【0044】
本発明の臭気吸収剤には物理吸着剤も好ましく用いられる。物理吸着剤としては、活性炭、活性白土、酸性白土、天然ゼオライト、合成ゼオライト、ベントナイト、セピオライト、シリカゲル、シリカ−マグネシア等が挙げられる。特に好ましく合成ゼオライト、シリカゲルを用いることができる。なお、本発明でいう物理吸着剤とは易酸化性熱可塑性樹脂、遷移金属触媒及び光開始剤はこれに含まれない。
【0045】
本発明において用いられる合成ゼオライトとは、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等の合成原料や、石炭灰、シラス等の天然原料から工業的に合成され、天然ゼオライトに比べ純度が高く、平均粒子径の小さなゼオライトを意味する。合成ゼオライトには親水性タイプや疎水性タイプが存在し何れも用いることが出来る。特に、疎水性の合成ゼオライトが好ましい。
【0046】
本発明において用いられるシリカゲルとは、一般式SiO・nHOで示され、ケイ酸ゾルの一次粒子が三次元的に凝集する事によって形成された細孔を有する多孔質二酸化ケイ素である。
【0047】
またシリカゲルは、乾燥剤としての機能も有しているため、本発明の臭気吸収樹脂組成物は臭気吸収能のみならず、水分吸収能も具備する。
【0048】
本発明において用いられる物理吸着剤は、粒子径が0.1〜50μm、比表面積が100m/g以上のものが、物理吸着剤を樹脂組成物に配合した際に透明な樹脂組成物を与え、かつ高い臭気吸収能を有する樹脂組成物が得られるため望ましい。
【0049】
また、アミン化合物を担体に担持させて臭気吸収剤としてもよく、この態様で用いることにより、担体へのアルデヒド類の物理吸着が期待できるため、より好ましい。担体の種類は、特に限定されないが、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム、多孔質シリカ類、活性白土などを用いることができ、中でもケイ酸カルシウム、多孔質シリカ類、活性白土が好ましい。担体に担持させるヒドラジン誘導体、尿素誘導体またはグアニジン誘導体の量は、0.001〜30mmol/(g−担体)が好ましく、0.01〜10mmol/(g−担体)が特に好ましい。
【0050】
臭気吸収層(c)を構成する臭気吸収性樹脂組成物は、例えば熱可塑性樹脂と臭気吸収剤を含有する樹脂組成物を各樹脂の溶融温度以上で混合することによって、製造できる。あるいは、熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物と粉末状臭気吸収剤を樹脂組成物の溶融する温度以上で混合すること等によっても製造できる。また、臭気吸収性樹脂組成物は臭気吸収剤を高濃度に含有する樹脂組成物(マスターバッチ)と熱可塑性樹脂を溶融温度以上で混合することによっても製造できる。
【0051】
[酸素バリア層(d)]
酸素バリア層(d)を構成する酸素バリア性物質とは、酸素透過度100cc/(m・24h・atm)以下の物質を意味する。代表例としてシリカもしくはアルミナを、ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性樹脂に蒸着した各種蒸着フィルム、ポリアミドMXD6、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン等を含有する層が挙げられる。酸素バリア層(d)の厚さは1〜300μmが好ましく、1〜100μmがより好ましい。上記の好ましい範囲内の場合、そうでない場合に比べて、十分な酸素バリア効果が得られると共に、包装材料としてより好適な柔軟性を有するため好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例と比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。尚、以下の酸素バリア性樹脂組成物及び酸素バリア性積層体に関する実施例及び比較例においては、下記に示す評価方法により、酸素バリア性樹脂組成物及び酸素バリア性積層体の酸素吸収量測定、酸化前後における酸素透過度の測定を行った。
【0053】
以下の実施例及び比較例においては、下記の各種マスターバッチを使用して酸素バリア性樹脂組成物及び酸素バリア性積層体を作製した。
【0054】
(樹脂組成物(A)層マスターバッチ)
オクチル酸コバルト溶液(オクチル酸コバルト:溶媒=1:1質量比、Co含有量:8質量%)と合成ケイ酸カルシウム粉末(平均粒子径2μm)とを質量比2:1で混合し、粉末状物を得た。該粉末状物と直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(以下「LLDPE」と表記する)とを、質量比2:8で2軸混練押出機を用いて170℃で溶融混練することにより、樹脂組成物(A)層マスターバッチ(OA−MB、Co含有量1質量%)を作製した。
【0055】
(臭気吸収層マスターバッチ)
アミン化合物である硫酸アミノグアニジン(以下、「AGS」と表記する。)の水溶液をシリカ粉末(平均粒子径4μm)に含浸させ、乾燥させることによりAGS担持体(AGS担持量1.1mmol/(g−担体))を得た。次いで、LLDPE、該AGS担持体を、質量比85:15で2軸混練押出機を用いて170℃で溶融混練することにより、臭気吸収層マスターバッチ(OD−MB)を作製した。
【0056】
(隔離層マスターバッチ)
LLDPEと水酸化カルシウム(食品添加物グレード、平均粒子径5μm)とを、質量比85:15で2軸混練押出機を用いて170℃で溶融混練することにより、酸性ガス吸収剤マスターバッチ(CA−MB)を作製した。
【0057】
[実施例1]
(樹脂組成物(A)単層フィルムの作成)
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(以下、「RB」と表記する。)、OA−MB、及び光開始剤9−フルオレノン(以下、「FL」と表記する。)を170℃で溶融混練して、樹脂組成物(A1)を作製した。混合比は、樹脂組成物(A1)の組成比が、RB70質量部、LLDPE24質量部、Co原子0.1質量部、FL0.2質量部となるようにした。作製した樹脂組成物(A1)を加熱プレス機で160℃にて圧延し、50mm×60mmの大きさに切り出し、厚さ80μmの樹脂組成物(A1)の単層フィルム(A1)を作製した。
【0058】
(樹脂組成物(A)単層フィルムの酸素吸収量測定)
単層フィルム(A1)に1kW高圧水銀灯を光源とする照度9.8mW/cmの紫外光を90秒間(照射量880mJ/cm)照射した後に、該単層フィルムを、シリカ蒸着ポリエチレンテレフタレートを酸素バリア層とする袋(以下、酸素バリア袋)に空気240mLと共に封入し密封して、該袋を25℃、60%RHの条件下に放置した。1日後、2日後、及び14日後に袋内酸素濃度を測定し、組成物1g当たりの酸素吸収量を算出した。結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
(酸素バリア性単層フィルムの作製)
単層フィルム(A1)に1kW高圧水銀灯を光源とする照度9.8mW/cmの紫外光を90秒間(照射量880mJ/cm)照射し、40℃で大気下に30日間放置することで、単層フィルム(A1)と酸素とを反応させた酸素バリア性単層フィルムを作製した。
【0060】
(酸素透過度測定)
単層フィルム(A1)と、酸素バリア性単層フィルムを用い、25℃、60%RHにおける酸素透過度測定を実施した。結果を表2に示す。なお、酸素透過度の測定は、酸素透過度測定装置(MOCON社製、商品名:OX-TRAN 2/21)を使用して行った。
[実施例2]
(樹脂組成物(A)を有する3層フィルムの作製)
臭気吸収層用樹脂としてLLDPEと上記OD−MBの混合樹脂を用い、樹脂組成物(A2)層用樹脂としてRB及びスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」と表記する。)と上記OA−MBの混合樹脂を用い、酸性ガス吸収層用樹脂としてLLDPEと上記CA−MBの混合樹脂を用いた。各層の組成比は、各層中の組成比が下記になるようにした。
臭気吸収層:
LLDPE97質量部、AGS担持体3質量部
樹脂組成物(A2)層:
RB60質量部、SIS10質量部、LLDPE24質量部、Co原子0.3質量部
隔離層 :
LLDPE98質量部、消石灰1.5質量部
【0061】
各層を構成する樹脂を、臭気吸収層/樹脂組成物(A2)層/隔離層の順序で、各層の厚さが20μm/20μm/10μmとなるようにTダイより共押出して製膜し、臭気吸収層側にコロナ放電処理を行い、3層フィルムを得た。
【0062】
(樹脂組成物(A)層を有する5層フィルムの作製)
作製した3層フィルムの臭気吸収層側に、延伸ナイロンフィルム(厚さ15μm)とシリカ蒸着PETフィルム(厚さ12μm)をこの順序でドライラミネーションによって貼り合わせ、40℃で4日間エージングすることで、樹脂組成物(A)層を有する5層フィルムを得た。
【0063】
(酸素バリア性多層体の作製)
該5層フィルムに1kW高圧水銀灯を光源とする照度9.8mW/cmの紫外光を90秒間(照射量880mJ/cm)照射し、25℃下で0.1mL/cmの酸素を吸収させることで、該5層フィルムと酸素とを反応させた酸素バリア性多層体を作製した。
【0064】
得られた5層フィルム及び酸素バリア性多層体の酸素透過度を実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例3]
シリカ蒸着PETフィルムの代わりに、PVDCコートOPフィルム(厚さ20μm)を用いたこと以外は、実施例2と同様に5層フィルム及び酸素バリア性多層体を作製し、両者の酸素透過度を測定した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1〜3から明らかなように、本発明の酸素バリア性樹脂組成物は、酸素吸収に伴い、優れた酸素バリア性を発現する事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の酸素バリア性樹脂組成物及び酸素バリア性積層体、成形体は、密封容器の全体もしくは一部に使用することができる。本発明の酸素バリア性樹脂組成物の用途に制限はなく、食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品、電子製品などの保存及び品質保持の分野において実用性の高い脱酸素、バリア性能を発揮する。