特許第6186879号(P6186879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186879
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】薄膜磁性素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/08 20060101AFI20170821BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01L43/08 Z
   H01L29/82 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-106260(P2013-106260)
(22)【出願日】2013年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-229660(P2014-229660A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中田 勝之
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 邦恭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正人
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−034283(JP,A)
【文献】 特開2002−100005(JP,A)
【文献】 特開平06−130088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/08
H01L 29/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性スペーサー層を介して磁化固定層と磁化自由層を備えた磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜の積層方向に前記磁気抵抗効果膜を介して配設された一対の電極と、前記磁気抵抗効果膜とは離間し、且つ前記磁気抵抗効果膜を挟んで対向して配設された一対の第1軟磁性層と、前記磁気抵抗効果膜に対して前記第1軟磁性層よりも離間させ、且つ前記積層方向にその一部を前記第1軟磁性層と対向して配設された第2軟磁性層と、前記第2軟磁性層の周囲に巻回形成されたコイルとを有し、前記第1軟磁性層後端領域断面積をS1r、前記第2軟磁性層先端領域断面積をS2fとしたときに、S2f>S1rの関係を満たし、且つ前記第1軟磁性層先端幅をW1f、前記第1軟磁性層後端幅をW1rとしたときに、W1r>W1fの関係を満たし、前記第2軟磁性層先端幅をW2fとしたときに、W1r>W2fの関係を満たしていることを特徴とする薄膜磁性素子。
【請求項2】
第1軟磁性層中間幅をW1mとしたときに、前記第2軟磁性層先端幅W2fとの関係が、W1m>W2fの関係を満たしていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁性素子。
【請求項3】
非磁性スペーサー層を介して磁化固定層と磁化自由層を備えた磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜の積層方向に前記磁気抵抗効果膜を介して配設された一対の電極と、前記磁気抵抗効果膜とは離間し、且つ前記磁気抵抗効果膜を挟んで対向して配設された一対の第1軟磁性層と、前記磁気抵抗効果膜に対して前記第1軟磁性層よりも離間させ、且つ前記積層方向にその一部を前記第1軟磁性層と対向して配設された第2軟磁性層と、前記第2軟磁性層の周囲に巻回形成されたコイルとを有し、前記第1軟磁性層後端領域断面積をS1r、前記第2軟磁性層先端領域断面積をS2fとしたときに、S2f>S1rの関係を満たし、且つ前記第1軟磁性層先端幅をW1f、前記第1軟磁性層後端幅をW1rとしたときに、W1r>W1fの関係を満たし、第1軟磁性層中間幅をW1mとしたときに、前記第2軟磁性層先端幅W2fとの関係が、W1m>W2fの関係を満たしていることを特徴とする薄膜磁性素子。
【請求項4】
前記第1軟磁性層の飽和磁束密度は、前記第2軟磁性層の飽和磁束密度より大きいことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の薄膜磁性素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無配線信号伝達、通信用新機能素子などに応用される薄膜磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子の電荷を応用したエレクトロニクスの分野に対して、電子の電荷とスピンを同時に利用するスピントロニクスの分野が、近年、注目されている(非特許文献1)。スピントロニクスは、巨大磁気抵抗(GMR)効果やトンネル磁気抵抗(TMR)効果に代表される磁気抵抗効果素子の急速な発達により、ハードディスクドライブ(HDD)や磁気抵抗メモリ(MRAM)といった形態で、産業に大きく貢献している。
【0003】
磁気抵抗効果素子では、スピンが伝送・輸送されることで、他の強磁性体のスピンを回転させるエネルギー(スピントランスファートルク)になることが知られている。このスピントランスファートルクを利用すると、ある一定のエネルギーにおいて、スピンの発振・共鳴現象が生じる。これらの現象を利用した、高周波の発振、検波、ミキサー、フィルターといったデバイスとしての産業利用が提案されてきている(特許文献1)。磁気抵抗効果素子の高周波特性は、印加磁界およびスピントランスファートルクによって制御されることが知られている(非特許文献2)。
【0004】
磁気抵抗効果素子の高周波特性を利用する素子(以下、薄膜磁性素子)には次のような応用が考えられる。例えば、携帯端末の高機能化として検討されているマルチバンド化やアクティブチューニングには1GHz以上の高周波領域で利用可能な低損失の可変型整合回路の実現が必須であるが、前記整合回路にバリキャップダイオードを用いた場合、1GHz以上の高周波領域ではQ値低下、動作電圧増大を引き起こしてしまう。これに対して、本発明者らは、前記整合回路に薄膜磁性素子を用いれば、Q値、動作電圧の観点でバリキャップダイオードを凌ぐ可能性があることを見出し、開発を進めている。薄膜磁性素子の高周波特性は前述した通り印加磁界で制御可能だが、産業利用を考えた場合、印加磁界を広範囲且つ可変に制御可能な磁界印加機構を含んだ素子構造が必要である。
【0005】
印加磁界を可変制御する磁界印加機構を含んだ素子構造の一例として、電流制御によるコイル磁界とバイアス硬磁性層によるバイアス磁界との合成磁界を磁気抵抗効果膜に印加する構造が提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、磁気抵抗効果膜を挟むように形成された一対の軟磁性層の形状を詳細に規定することで、磁気抵抗効果膜に印加する磁界を強くする構造が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4551972号
【特許文献2】特開2006−303097号公報
【特許文献3】特開2004−354181号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature、Vol.438、No.7066、 pp.339-342、17 November 2005
【非特許文献2】まぐね、Vol.2、No.6、2007、pp282−290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術では以下のような課題がある。
【0010】
特許文献2に記載の構造では、電流制御によるコイル磁界は、バイアス硬磁性層によるバイアス磁界が環境温度の履歴等でずれてしまった場合に、そのずれ量を補正するための目的として機能する。具体的には、コイルから発生した磁束を導磁路層により磁気抵抗効果膜近傍まで誘導して、導磁路層から磁気抵抗効果膜に磁界を印加する構造となっている。このように導磁路層を磁気抵抗効果膜近傍に配設する場合、導磁路層膜厚は磁気抵抗効果膜のパターンサイズに起因するという制約をうける。例えば、磁気抵抗効果膜のパターンサイズが100nm×100nmの場合を考える。導磁路層を例えばリフトオフ法により形成する場合、まず、パターン化された磁気抵抗効果膜上にフォトレジストのピラーを立てる必要がある。この場合、磁気抵抗効果膜のパターンサイズが100nmなので、フォトレジストの幅も100nm程度となる。この場合、アスペクト比の観点から、フォトレジストの膜厚は最大200nm程度となる。この後、導磁路層を成膜してリフトオフするのだが、安定してリフトオフするための導磁路層膜厚は最大30nm程度に制限される。導磁路層膜厚が30nm程度に規定されると、コイルから発生した磁束が導磁路層内で伝搬する過程で磁束が大きく減衰してしまい、磁気抵抗効果膜近傍での導磁路層内の磁束は少なくなってしまう。その結果、導磁路層から磁気抵抗効果膜に印加される磁界は弱くなる。前記磁界は、バイアス磁界が環境温度の履歴等でずれてしまった場合に、そのずれ量を補正するための目的としては十分であるので、磁気抵抗効果膜に一定の磁界を印加することが可能となる。よって、特許文献2記載の構造は、磁気抵抗効果膜を一定周波数で制御するには適した構造であるが、磁気抵抗効果膜を幅広い周波数で制御するためには、コイル入力電流を大きくしなければならない、という課題がある。
【0011】
特許文献3に記載の構造では、磁気抵抗効果膜を挟むように形成された一対の軟磁性層の形状を詳細に規定することで、外部磁界の100倍から10000倍の磁界を磁気抵抗効果膜に印加している。しかしながら、磁界発生源は自動車の車軸、ロータリーエンコーダーなどの外部磁界であり、磁界発生源と一対の軟磁性層との位置、寸法についての具体的な関係性は明記されていない。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、従来技術では困難であった、コイル入力電流を小さくしつつ、使用できる周波数帯域を広げることが可能な薄膜磁性素子を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく本発明に係る薄膜磁性素子は、非磁性スペーサー層を介して磁化固定層と磁化自由層を備えた磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜の積層方向に前記磁気抵抗効果膜を介して配設された一対の電極と、前記磁気抵抗効果膜とは離間し、且つ前記磁気抵抗効果膜を挟んで対向して配設された一対の第1軟磁性層と、前記磁気抵抗効果膜に対して前記第1軟磁性層よりも離間させ、且つ前記積層方向にその一部を前記第1軟磁性層と対向して配設された第2軟磁性層と、前記第2軟磁性層の周囲に巻回形成されたコイルとを有し、前記第1軟磁性層後端領域断面積をS1r、前記第2軟磁性層先端領域断面積をS2fとしたときに、S2f>S1rの関係を満たし、且つ前記第1軟磁性層先端幅をW1f、前記第1軟磁性層後端幅をW1rとしたときに、W1r>W1fの関係を満たしていることを特徴とする。
【0014】
前記目的を達成する前記薄膜磁性素子において、前記第2軟磁性層先端幅をW2fとしたときに、W1r>W2fの関係を満たしていることを特徴とする。
【0015】
前記目的を達成する前記薄膜磁性素子において、第1軟磁性層中間幅をW1mとしたときに、前記第2軟磁性層先端幅W2fとの関係が、W1m>W2fの関係を満たしていることを特徴とする。
【0016】
前記目的を達成する前記薄膜磁性素子において、前記第1軟磁性層の飽和磁束密度は、前記第2軟磁性層の飽和磁束密度より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る薄膜磁性素子によれば、第2軟磁性層を磁気抵抗効果膜から十分離間した位置に配設可能となるので、第2軟磁性層の断面積を第1軟磁性層の断面積と比較して十分大きくすることが可能となる。よって、コイル入力電流を低く設定しても第2軟磁性層に磁束を多く誘導することができる。さらに、第1軟磁性層後端領域幅を第2軟磁性層先端領域幅より大きくすることで、第2軟磁性層先端領域から放出された磁束を漏れなく第1軟磁性層後端領域へ伝達させることが可能となる。伝達された磁束は第1軟磁性層先端領域にて集中させることが可能なので、第1軟磁性層先端領域から磁気抵抗効果膜に強い磁界を印加することが可能となる。よって、本発明に係る薄膜磁性素子は、コイル入力電流を低く設定しても、幅広い周波数帯域で使用することができる。これにより、例えばGPS信号(1.5GHz帯)とWLAN信号(2.4GHz帯)を一つの素子で受信可能な新規デバイスを創出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態の一例に係る薄膜磁性素子の平面図である。
図2図1のA−A線に沿った断面図である。
図3図2に記載の絶縁層の各部位を詳細に示した図である。
図4図1のB−B線に沿った断面図である。
図5図1のC−C線に沿った断面図である。
図6図1に記載の磁気抵抗効果膜の詳細積層構成を示す図である。
図7】第1軟磁性層の平面図である。
図8】第2軟磁性層先端領域の平面図である。
図9図1の破線囲み部の平面図である。
図10】S2f/S1rと、コイル入力電流を3mAにしたときの周波数シフト量との関係を示す図である。
図11】W1r/W2fと、コイル入力電流を3mAにしたときの周波数シフト量との関係を示す図である。
図12】W1m/W2fと、コイル入力電流を3mAにしたときの周波数シフト量との関係を示す図である。
図13】W1m/W2fが1より小さい場合の第1軟磁性層と第2軟磁性層先端領域を示す平面図である。
図14】W1m/W2fが1より大きい場合の第1軟磁性層と第2軟磁性層先端領域を示す平面図である。
図15】第1軟磁性層に種々の材料を適用したときのコイル入力電流と周波数シフト量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
まず、図1図6を参照して、本発明の実施の形態に係る薄膜磁性素子の構成について説明する。図1は前記薄膜磁性素子の平面図である。図2図1のA−A線に沿った断面図である。図3図2記載の絶縁層の各部位を詳細に示した図である。図4図1のB−B線に沿った断面図である。図5図1のC−C線に沿った断面図である。図6図1に記載の磁気抵抗効果膜3の詳細積層構成を示す図である。尚、図1では、本発明を理解するうえで重要ではない部分は一部省略している。
【0021】
図1では、磁気抵抗効果膜3、磁気抵抗効果膜3を挟んで対向して配設された一対の第1軟磁性層4、磁気抵抗効果膜3に対して第1軟磁性層4よりも離間させ、且つ磁気抵抗効果膜3の積層面に対して積層方向にその一部を第1軟磁性層4と対向して配設された第2軟磁性層6と、第2軟磁性層6の周囲に巻回形成されたコイル7が配設されている。
【0022】
図2では、基板1上に、下部電極層2、磁気抵抗効果膜3、上部電極層5がこの順に配設されている。前記磁気抵抗効果膜3のX方向両側には、第1軟磁性層4が配設されている。前記上部電極5のX方向両側には、第2軟磁性層6が配設されている。また、各層の層間には絶縁層8が配設されている。
【0023】
図3では、図2に記載の絶縁層8の各部位を詳細に示している。基板1側から絶縁層81、絶縁層83、絶縁層84、絶縁層85、絶縁層86が配設されている。
【0024】
図4では、基板1上に、絶縁層81、絶縁層82、コイル71および絶縁層85、第2軟磁性層6、絶縁層86、コイル73がこの順に配設されている。
【0025】
図5では、基板1上に、絶縁層81、絶縁層82、コイル71、絶縁層85、コイル72、第2軟磁性層6、絶縁層86、コイル73が配設されている。
【0026】
図6には、磁気抵抗効果膜3の詳細積層構成を示す。バッファー層31、反強磁性層32、磁化固定層33、非磁性スペーサー層34、磁化自由層35、キャップ層36がこの順に配設されている。
【0027】
次に、各層の説明を行う。
【0028】
基板1として平滑面を有するシリコン基板を準備する。このシリコン基板は、外径150mmで、厚みが2mm程度であり、市販品として購入することができる。基板1は、例えばアルティック(Al・TiC)、ガラス(SiOx)、又はカーボン(C)などの材料により構成されてもよい。また、基板1として基板表面があらかじめ熱酸化されたシリコン基板またはガラス基板を用いることもできる。また、図示しないが、基板1表面に絶縁層を形成してもよい。前記絶縁層は、後述する下部電極層2から電流が基板1に流れ込むことにより、基板1と下部電極層2との間にキャパシタ成分が発生し、高周波の伝送損失が生じることを防ぐように機能する。前記絶縁層としては、例えばスパッタ法、IBD(イオンビームデポジション)法等により酸化アルミニウム(Al)又は酸化ケイ素(SiO)などの非磁性絶縁材料により構成される。その厚さは、0.05〜10μm程度とすることが好ましい。
【0029】
下部電極層2は、後述する上部電極層5と一対の電極として役目を備えている。つまり、電流を素子に対して、素子を構成する各層の面と交差する方向、例えば、素子を構成する各層の面に対して垂直な方向(積層方向)に流すための一対の電極としての機能を有している。
【0030】
このような下部電極層2、上部電極層5としては、例えばスパッタ法、IBD法等によりTa、Cu、Au、AuCu、Ru、もしくは前記材料のいずれか2つ以上の膜で構成される。下部電極層2および上部電極層5の膜厚は、0.05μm〜5μm程度とすることが好ましい。薄膜磁性素子では、伝送損失の低減のため、電極層の形状が重要となる。この実施形態では、下部電極層2および上部電極層5を、周知のフォトレジストパターニング、イオンビームエッチング等により、前記素子の上から見た形状を、コプレーナーウェブガイド(CPW)型の形状に規定する。
【0031】
磁気抵抗効果膜3は、バッファー層31、反強磁性層32、磁化固定層33、非磁性スペーサー層34、磁化自由層35、キャップ層36で形成される。各層は、例えばスパッタ成膜装置を用いて成膜する。スパッタ成膜装置としては、各々8つのターゲットを有する2つの物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)チャンバと、酸化チャンバとを有する装置が好ましく、例えばアネルバ社製のC-7100等が利用可能である。複数のPVDチャンバのうちの少なくとも一つは同時スパッタリングが可能であることが好ましい。スパッタ成膜は、例えば、アルゴンスパッタガスを用いて金属または合金からなるターゲットをスパッタして、超高真空下で基板上に成膜することにより行う。このとき、ガスの流量は30〜300sccm、基板とターゲット間の印加電力は50〜500W、真空度は5.0×10−6Pa以下であることが好ましい。
【0032】
バッファー層31は、下部電極層2の結晶性を遮断することと、反強磁性層32の配向・粒径を制御するための層であり、特に、反強磁性層32と磁化固定層33との交換結合を良好にするために設けられている。
【0033】
バッファー層31は、例えばTaとNiCrとの膜や、TaとRuとの膜が好ましい。バッファー層31の膜厚は、例えば2〜6nm程度とすることが好ましい。
【0034】
反強磁性層32は、磁化固定層33との交換結合により、磁化固定層33に一方向磁気異方性を付与することを目的とした層である。
【0035】
反強磁性層32は、例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ni、Cu、Ir、CrおよびFeのグループの中から選ばれた少なくとも1種からなる元素と、Mnとを含む反強磁性材料から構成される。Mnの含有量は35〜95at%とすることが好ましい。反強磁性材料の中には、熱処理しなくても反強磁性を示して強磁性材料との間で交換結合を誘起する非熱処理系反強磁性材料と、熱処理により反強磁性を示すようになる熱処理系反強磁性材料とがある。本発明においては、前記いずれのタイプを用いても良い。非熱処理系反強磁性材料としては、RuRhMn、FeMn、IrMn等が例示できる。熱処理系反強磁性材料としては、PtMn、NiMn、PtRhMn等が例示できる。尚、非熱処理系反強磁性材料においても交換結合の方向をそろえるために、通常、熱処理を行っている。反強磁性層32の膜厚は、4〜30nm程度とすることが好ましい。
【0036】
尚、磁化固定層33の磁化方向を固定するための層として、前記反強磁性層に代えてCoPt等の硬磁性材料からなる硬磁性層を設けるようにしても良い。
【0037】
さらに、図6には、反強磁性層32をボトム側(下部電極層2側)に形成した実施の形態が示されているが、反強磁性層32をトップ側(キャップ層36側)に形成して、磁化自由層35と磁化固定層33の位置を入れ替えた実施の形態とすることもできる。
【0038】
磁化固定層33は、ピンニング作用を果たす反強磁性層32の上に形成されている。好適な形態として磁化固定層33は、反強磁性層32側から、図示しないアウター層、非磁性中間層、およびインナー層が順次積層された構成、すなわちシンセティックピンド層を構成している。
【0039】
アウター層およびインナー層は、例えば、CoやFeを含む強磁性材料からなる強磁性層を有して構成される。アウター層とインナー層は、反強磁性的に結合し、互いの磁化の方向が逆方向になるように固定されている。
【0040】
アウター層およびインナー層は、例えば、CoFe合金、組成の異なるCoFe合金の積層構造、およびCoFeB合金とCoFe合金との積層構造とすることが好ましい。アウター層の膜厚は1〜7nm、インナー層の膜厚は2〜10nm程度とすることが好ましい。インナー層には、ホイスラー合金を含んでいても良い。
【0041】
非磁性中間層は、例えば、Ru、Rh、Ir、Re、Cr、Zr、Cuのグループから選ばれた少なくとも1種を含む非磁性材料から構成される。非磁性中間層の膜厚は、例えば0.35nm〜1.0nm程度とされる。非磁性中間層は、インナー層の磁化とアウター層の磁化とを互いに逆方向に固定するために設けられている。「磁化が互いに逆方向」というのは、これらの2つの磁化が互いに180°異なる場合のみに狭く限定解釈されることなく、180°±20°異なる場合をも含む広い概念である。
【0042】
非磁性スペーサー層34は、磁化固定層33の磁化と磁化自由層35の磁化を相互作用させて磁気抵抗効果を得るための層である。
【0043】
非磁性スペーサー層34としては、絶縁体、半導体、導体が挙げられる。
【0044】
非磁性スペーサー層34として絶縁体を適用する場合、Alや酸化マグネシウム(MgO)が挙げられる。MgOは、単結晶MgOx(001)が好ましく、非磁性スペーサー層34と磁化自由層35との間にはコヒーレントトンネル効果が期待できるように調整することで高い磁気抵抗変化率が得られることでより好ましい。絶縁体の膜厚は、0.5〜2.0nm程度とすることが好ましい。
【0045】
非磁性スペーサー層34として半導体を適用する場合、磁化固定層33側から第1の非磁性金属層、半導体酸化物層、第2の非磁性金属層が順次積層された構成が好ましい。第1の非磁性金属層としては、例えばCu、Znが挙げられる。第1の非磁性金属層の膜厚は0.1〜1.2nm程度とすることが好ましい。半導体酸化物層としては、例えば酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化ガリウム(GaOもしくはGa)が挙げられる。半導体酸化物層の膜厚は1.0nm〜4.0nm程度とすることが好ましい。第2の非磁性金属層としては、Zn、ZnとGaとの合金、ZnとGaOとの膜、Cu、CuとGaと合金が挙げられる。第2の非磁性金属層の膜厚は0.1nm〜1.2nm程度とすることが好ましい。
【0046】
非磁性スペーサー層34として導体を適用する場合、Cu、Agが挙げられる。導体の膜厚は1〜4nm程度とすることが好ましい。
【0047】
磁化自由層35は、外部磁界もしくはスピン偏極電子によって磁化の向きが変化する層である。
【0048】
磁化自由層35は、膜面内方向に磁化容易軸を有する材料を選定する場合、例えば、CoFe、CoFeB、CoFeSi、CoMnGe、CoMnSi、CoMnAl等からなる厚さ1〜10nm程度の膜により構成される。前記膜に、磁歪調整層として例えばNiFe等からなる厚さ1〜9nm程度の軟磁性膜を付加してもよい。
【0049】
磁化自由層35は、膜面法線方向に磁化容易軸を有する材料を選定する場合、例えば、Co、Co/非磁性層積層膜、CoCr系合金、Co多層膜、CoCrPt系合金、FePt系合金、希土類を含むSmCo系合金、TbFeCo合金、ホイスラー合金により構成される。
【0050】
また、磁化自由層35の積層構造と非磁性スペーサー層34との間に、高スピン分極材料を挿入しても良い。これによって、高い磁気抵抗変化率を得ることが可能となる。
【0051】
高スピン分極材料としては、CoFe合金、CoFeB合金が挙げられる。CoFe合金、CoFeB合金、いずれの膜厚も0.2nm以上1nm以下とすることが好ましい。
【0052】
また、磁化自由層35の成膜時に膜面垂直方向に一定磁界を印加することにより誘導磁気異方性を導入しても良い。
【0053】
キャップ層36は、酸化・エッチングなどから磁化自由層35を保護する目的の層である。例えば、Ru、Ta、RuとTaの積層膜とすることが好ましく、膜厚は2〜10nm程度とすることが好ましい。
【0054】
キャップ層36成膜後、磁化固定層33の磁化固着のためのアニールを行う。アニールは、真空度1.0×10−3Pa以下のもと、温度は250〜300℃、時間は1〜5時間、印加磁界は3〜10kOeで行うことが好ましい。
【0055】
アニール後、周知のフォトレジストパターニング、イオンビームエッチング等を行い、磁気抵抗効果膜3の上から見た形状を、円形、楕円形、長方形などにパターニングする。寸法は、100nm以下とすることが好ましい。
【0056】
第1軟磁性層4は、後述する第2軟磁性層6から放出される磁束を取り込み、磁束を集中させて所望の磁界に設定して、前記磁界を磁気抵抗効果膜に印加するための層である。第1軟磁性層4は、磁気抵抗効果膜3にできるだけ近づけるように配設することが好ましい。
【0057】
第1軟磁性層4の材料としては、例えばスパッタ法、IBD法等により軟磁気特性に優れた軟磁性材料を用いることが好ましい。このような軟磁性材料としては、NiFe、CoNiFe、NiFeX(X=Ta,Nb,Mo)等のNiFe合金や、FeCo合金、CoZrNb、CoAl−O、Fe−SiO、CoFeB等がある。より好ましくは、第1軟磁性層4の材料の飽和磁束密度は、後述する第2軟磁性層6の材料の飽和磁束密度より大きくすることが好ましい。さらに、第1軟磁性層4の膜厚は、5nm〜30nm程度とすることが好ましい。
【0058】
第2軟磁性層6は、後述するコイル7から発生した磁束を第1軟磁性層4に誘導するための層である。第2軟磁性層6は、磁気抵抗効果膜3に対して第1軟磁性層4よりも離間させ、且つ磁気抵抗効果膜3の積層面に対して積層方向にその一部を第1軟磁性層4と対向して配設させることが好ましい。第2軟磁性層6をこのように配設することで、製法上の制約が緩和され、第2軟磁性層6の断面積を第1軟磁性層4の断面積より大きくすることができる。
【0059】
第2軟磁性層6の材料としては、例えばスパッタ法、IBD法、フレームめっき法等により軟磁気特性に優れた軟磁性材料で構成されることが好ましい。このような軟磁性材料としては、NiFe、NiFeCo、NiFeX(X=Ta,Nb,Mo)等のNiFe合金や、FeCo合金、CoZrNb、CoAl−O、Fe−SiO、CoFeB等がある。第2軟磁性層6の膜厚は、0.1μm〜10μm程度とすることが好ましい。
【0060】
コイル7は、コイル71、コイル72、コイル73から構成され、電流を印加することで磁束が発生する磁束発生源としての層である。
【0061】
コイル71、コイル72、コイル73は、例えば、スパッタ法、IBD法、フレームめっき法等によりAu、Cu、AuCuなどの高導電性材料で形成される。また、コイル71、コイル72、コイル73は導電性が確保できれば必ずしも同じ材料である必要はない。さらに、コイル72については、第2軟磁性層6と同じ材料で構成してもよい。この場合、コイル72を第2軟磁性層6と同時に作製することができるので、作製プロセスの簡略化が可能である。コイル71、コイル72、コイル73の膜厚は0.1〜10μm程度とすることが好ましい。また、コイル7は、第2軟磁性層6を中心として巻回する構造(スパイラル構造)を有している。なお、コイル7の巻回数(ターン数)は任意に設定可能である。
【0062】
絶縁層8は、絶縁層81、絶縁層82、絶縁層83、絶縁層84、絶縁層85、絶縁層86から構成され、上述した任意の層間同士の電気的絶縁をとるための層である。
【0063】
絶縁層8としては、例えばスパッタ法、IBD法、塗布法等により、例えばAl、SiO、加熱時に流動性を示すフォトレジストやスピンオングラス(SOG;Spin On Glass )などの非磁性絶縁材料で構成される。また、絶縁層8としては、前述した非磁性絶縁材料を複数使用してもよい。絶縁層8の膜厚は0.005〜10μm程度とすることが好ましい。さらに、絶縁層8成膜後に、膜の平坦性を上げるために化学機械研磨(CMP)法等による平坦化処理を行ってもよい。
【0064】
各層のパターニングは、周知のフォトレジストパターニング、イオンビームエッチング、リフトオフ法等により行われる。
【0065】
ここで、第1軟磁性層4、第2軟磁性層6で規定している寸法について、図7図8図9を使って説明する。
【0066】
図7には、第1軟磁性層4の平面図を示す。第1軟磁性層後端領域断面積S1rとは、図7のD−D線に沿った断面部の面積のことである。また、第1軟磁性層後端幅W1rとは、D−D線に沿ったY方向長さのことである。
【0067】
図8には、第2軟磁性層6の先端領域近傍の平面図を示す。第2軟磁性層先端領域61とは、第2軟磁性層先端部62からX方向5μm第2軟磁性層側に入った領域内のことである。第2軟磁性層先端領域断面積S2fとは、第2軟磁性層先端領域61の断面部の面積の中で最大を示す面積のことである。また、第2軟磁性層先端幅W2fとはE−E線に沿ったY方向長さのことである。
【0068】
図9には、図1の破線囲み部の平面図を示す。第1軟磁性層4は第1軟磁性層先端領域41と第1軟磁性層後端領域42に分かれる。第1軟磁性層中間幅W1mとは、E−E線に沿った第1軟磁性層後端領域42のY方向長さのことである。W1mはW1rと等しい場合も有り得る。第1軟磁性層後端領域42には、そのY方向長さが第1軟磁性層先端領域41に向かっていくに伴い狭くなる領域を設け、この領域のX方向長さをL1m、X方向に対する角度をθとする。角度θは10°〜80°程度とすることが好ましい。また、第1軟磁性層後端領域42のX方向長さからL1mを減した長さをL1rとする。L1rは0の場合も有り得る。また、第1軟磁性層先端幅W1fとは第1軟磁性層先端領域41のY方向長さのことである。
【0069】
本発明では、S2fをS1rより大きくすることが好ましい。これにより、第2軟磁性層先端領域61から放出される磁束を多くすることができる。さらに、S2fがS1rより大きいことで、第2軟磁性層先端領域61から放出される磁束を第1軟磁性層後端領域42で集中させることができるので、第1軟磁性層後端領域42での磁束密度を上げることができる。尚且つ、W1rをW1fより大きくすることが好ましい。これにより、第1軟磁性層先端領域41での磁束密度を上げることができる。
【0070】
さらに、W1rをW2fより大きくすることが好ましい。これにより、第2軟磁性層先端領域61から放出された磁束が第1軟磁性層後端領域42に伝搬する際の磁束伝搬損失を抑制することができる。
【0071】
さらに、W1mをW2fより大きくすることが好ましい。これにより、第2軟磁性層先端領域61から放出された磁束が第1軟磁性層後端領域42に伝搬する際の磁束伝搬損失を抑制することができる。
【0072】
以上の手法で作製した薄膜磁性素子に対して、コイル7に任意の電流を流しながらスピントルクダイオード出力の測定を実施した。以下に、スピントルクダイオード出力について説明する。
【0073】
磁気抵抗効果膜3に対して高い周波数の交流電流を流した場合に、磁化自由層35に流れる交流電流の周波数と磁化の向きに戻ろうとするスピン歳差運動の振動数とが一致したときに、強い共振が発生する(スピントルク強磁性共鳴)。また、磁気抵抗効果膜3に静磁界を印加し、かつこの静磁界の方向を磁化固定層33の磁化の方向に対して層内で所定角度傾けた状態では、磁気抵抗効果膜3は、RF電流(スピン歳差運動の振動数(共振周波数)と一致する周波数のRF電流)が注入されたときに、注入されたRF電流の振幅の2乗に比例する直流電圧をその両端に発生させる2乗検波出力をスピントルクダイオード出力と呼称する。
【0074】
スピントルクダイオード出力の測定は次の手順で行う。まず、コイル7に任意の電流を流す。すると、コイルからは電流量に応じた磁束が発生する。コイル7から発生した磁束は、第2軟磁性層6中を伝搬して、第2軟磁性層先端領域61から放出される。第2軟磁性層先端領域61から放出された磁束は、絶縁層85、絶縁層84を介して第1軟磁性層4に伝搬される。第1軟磁性層4に伝搬された磁束は、第1軟磁性層後端領域42から第1軟磁性層先端領域41へ向かって密度が集中する。その結果、第1軟磁性層先端領域41では所望の磁束密度となり、第1軟磁性層先端領域41から所望の磁界が磁気抵抗効果膜3に印加される。ここで、図1の+X方向に磁界を印加するようにコイル7に電流を流したときの電流量を正の値とした。前記磁界を印加した状態で、下部電極層2と上部電極層5間に0.1mWの電力を印加して、スピントルクダイオード出力を測定する。すると、スピントルクダイオード出力の最大値を示した際の周波数(以降、ピーク周波数と呼ぶ)を求めることができる。磁界印加状態でのピーク周波数と無磁場状態でのピーク周波数の差を周波数シフト量とする。本発明では、コイル7に入力する電流(以降、コイル入力電流と呼ぶ)を小さくしつつ、周波数シフト量を大きくするための最適な構造を提案する。
【0075】
次に、実施例を挙げて本発明の実施の形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
[実施例1]
はじめに、基板1として、基板外径が6インチ、基板厚みが2mm、基板表面に熱酸化膜(1μm)が予め配設されたシリコン基板を用意した。
【0077】
次に、下部電極層2としてスパッタ法にてCu(90nm)を成膜した。その後、フォトレジストパターニング、イオンビームエッチングにより下部電極層2をCPW形状にパターニングした。続いて、スパッタ成膜、リフトオフ法により、絶縁層81としてAl(90nm)を形成した。
【0078】
次に、磁気抵抗効果膜3をスパッタ法により成膜した。磁気抵抗効果膜3は、バッファー層31をTa(1nm) /Ru(1nm)、反強磁性層32をIrMn(7nm)、磁化固定層33をCo70Fe30(3nm) /Ru(0.8nm) /Co65Fe35(3.5nm)、非磁性スペーサー層34をMgO(1nm)、磁化自由層35をCo30Fe70(2nm) /Ni81Fe19(4nm)、キャップ層36をRu(1nm) /Ta(2nm) /Ru(2nm)とした。成膜後、磁化固定層の磁化固着のための真空磁場中での熱処理を実施した。本熱処理の条件は、真空度を5×10−4Pa、印加磁界を膜面平行方向に10kOe、温度を250度、処理時間を3時間とした。アニール後、フォトレジストパターニング、イオンビームエッチングを行い、前記素子の上から見た形状を、95nm×95nmの正方形にパターニングした。続いて、IBD法、リフトオフ法により絶縁層82を形成した。絶縁層82はAl(28nm)とした。
【0079】
次に、フォトレジストパターニング、イオンビームエッチング、IBD法、リフトオフ法により絶縁層83、第1軟磁性層4、絶縁層84をこの順に形成した。絶縁層83および絶縁層84はいずれもAl(5.5nm)として、第1軟磁性層4は飽和磁束密度0.9TのNi82Fe18(17nm)とした。これにより、第1軟磁性層4を、下部電極層2、磁気抵抗効果膜3、上部電極層5および第2軟磁性層6から電気的に絶縁させるようにした。さらに、第1軟磁性層4については寸法を規定し、W1fを0.1μm、W1rを12.0μm、L1mを5.5μm、L1rを4.0μm、θ=47°とした。
【0080】
次に、フォトレジストパターニング、スパッタ法およびリフトオフ法により上部電極層5およびコイル71を形成した。上部電極層5およびコイル71はAuCu(200nm)とした。
【0081】
次に、スパッタ法、CMP法により絶縁層85を形成した。絶縁層85はAlとして、CMP後にコイル71の上層に200nm残るように形成した。
【0082】
次に、フォトレジストパターニング、フレームめっき法により第2軟磁性層6およびコイル72を形成した。第2軟磁性層6およびコイル72は飽和磁束密度0.9TのNi82Fe18(1μm)とした。
【0083】
次に、スパッタ法、CMP法により絶縁層86を形成した。絶縁層86はAlとして、CMP後に第2軟磁性層6の上層に200nm残るように形成した。
【0084】
次に、フォトレジストパターニング、スパッタ法、リフトオフ法によりコイル73を形成した。コイル73はAuCu(200nm)とした。この段階で、コイル71、コイル72およびコイル73は電気的に接続され、コイル7が完成することになる。
【0085】
最後に、周知の技術により下部電極層2および上部電極層5に外部機器を配線するためのパターニングを行った。
【0086】
この構造で、コイル7に電流量3mAの電流を流して磁気抵抗効果膜3に磁界を印加しながら、S2f/S1rを変化させたときの周波数シフト量を測定した。その結果を図10に示す。
【0087】
図10に示す通り、本実施例では、S2f/S1rが1以下では、周波数シフト量が0.01GHz以下となり周波数シフトはほとんど見られなかった。これは、S2f/S1rが1以下では、第2軟磁性層先端領域61での磁束密度より、第1軟磁性層後端領域42の磁束密度が小さくなるので、磁気抵抗効果膜3に印加される磁界が弱くなるためであると考えられる。一方、S2f/S1rを1より大きくすることで、周波数シフト量が大きくなることが確認された。これは、S2f/S1rが1より大きい場合、第2軟磁性層先端領域61での磁束密度より、第1軟磁性層後端領域42の磁束密度が大きくなるので、磁気抵抗効果膜3に印加される磁界が強くなるためであると考えられる。例えば、S2f/S1rが2以上の場合、周波数シフト量が0.1GHz以上になることが確認された。また、S2f/S1rが11以上の場合、周波数シフト量が1GHz以上になることが確認された。
【0088】
[比較例1]
実施例1において、W1fをW1rと同じ12.0μmとして、S2f/S1rを変化させたときの周波数シフト量を測定した。その結果、図示しないがS2f/S1rの値によらず、周波数シフト量は0.01GHz以下となった。これは、W1f=W1rとしたことで、第1軟磁性層先端領域41での磁束の集中効果が弱くなり、磁気抵抗効果膜3に印加される磁界が弱くなったためと考えられる。
【0089】
[実施例2]
実施例1において、S2f/S1rを50および12として、W1r/W2fを変化させたときの周波数シフト量を測定した。その結果を図11に示す。
【0090】
図11に示す通り、本実施例では、W1r/W2fを1より大きくすることで、周波数シフト量が最大となることが確認された。これは、W1r/W2fを1より大きくすることで、第2軟磁性層先端領域61から放出された磁束が第1軟磁性層後端領域42に伝搬する際の磁束伝搬損失を抑制することができるからである。
【0091】
[実施例3]
実施例1において、S2f/S1rを50および12、W1r/W2fを1.2として、W1m/W2fを変化させたときの周波数シフト量を測定した。その結果を図12に示す。
【0092】
図12に示す通り、本実施例では、W1m/W2fを1より大きくすることで、周波数シフト量が最大となることが確認された。これについて詳細に説明する。
【0093】
W1m/W2fが1より小さい場合、第1軟磁性層4と第2軟磁性層先端部領域61との位置関係は図13の通りとなる。この場合、第2軟磁性層先端領域61から放出される磁束が第1軟磁性層後端領域42に伝搬する際の磁束伝搬損失が大きくなる。そのため、第1軟磁性層先端領域41から磁気抵抗効果膜3に印加される磁界が弱くなり、周波数シフト量が小さくなる。
【0094】
一方、W1m/W2fが1より大きい場合、第1軟磁性層4と第2軟磁性層先端領域61との位置関係は図14の通りとなる。この場合、第2軟磁性層先端領域61から放出される磁束が第1軟磁性層後端領域42に伝搬する際の磁束伝搬損失は抑制される。よって、W1m/W2fが1より小さい場合と比較すると、周波数シフト量を大きくすることができる。
【0095】
[実施例4]
実施例1において、S2f/S1を50として、第1軟磁性層4を第2軟磁性層6と同じ飽和磁束密度0.9TのNi82Fe18としたときと、第1軟磁性層4を第2軟磁性層6より飽和磁束密度が高い1.2TのNi75Fe25、1.8TのCo65Ni20Fe15、2.0TのFe70Co30にしたときのコイル入力電流と周波数シフト量との関係を図15に示す。
【0096】
図15に示した通り、本実施例では、第1軟磁性層4がNi82Fe18の場合、コイル入力電流が5mAまでは周波数シフト量はコイル入力電流に比例して大きくなるが、コイル入力電流が5mA以上になると、周波数シフト量が3.3GHz程度で飽和する。また、第1軟磁性層4がNi75Fe25の場合、コイル入力電流が8mAまでは周波数シフト量はコイル入力電流に比例して大きくなるが、コイル入力電流が8mA以上になると、周波数シフト量が4.5GHz程度で飽和してしまう。一方、第1軟磁性層4がCo65Ni20Fe15およびFe70Co30の場合、コイル入力電流が10mAまでは周波数シフト量はコイル入力電流に比例して大きくなる。これらの現象は次のように考えられる。
【0097】
第1軟磁性層4がNi82Fe18の場合、コイル入力電流が5mA以上になると、第1軟磁性層先端領域41での磁束密度は飽和に達するため、コイル入力電流を上げて磁束を増やしたとしても、軟磁性層先端領域41での磁束密度は上がらなくなる。そのため、第1軟磁性層先端領域41から発生する磁界はコイル入力電流を上げても変化しなくなり、周波数シフト量も変化しなくなる。同様に、第1軟磁性層4がNi75Fe25の場合、コイル入力電流が8mA以上になると、第1軟磁性層先端領域41での磁束密度は飽和に達するため、コイル入力電流を上げて磁束を増やしたとしても、軟磁性層先端領域41での磁束密度は上がらなくなる。そのため、第1軟磁性層先端領域41から発生する磁界はコイル入力電流を上げても変化しなくなり、周波数シフト量も変化しなくなる。一方、第1軟磁性層4をCo65Ni20Fe15およびFe70Co30にした場合、少なくともコイル入力電流が10mAまでは第1軟磁性層先端領域41での磁束密度は飽和に達しないため、コイル入力電流に比例して周波数シフト量が大きくなる。
【0098】
以上、本発明をその好適な実施の形態を参照して具体的に示し説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。
【0099】
例えば、本実施例では磁化固定層33が下部電極層2側、磁化自由層35が上部電極層5側に配設されるボトム型スピンバルブ積層構造を用いたが、磁化固定層33が上部電極層5側、磁化自由層35が下部電極層2側に配設されるトップ型スピンバルブ構造でも良い。
【0100】
例えば、本実施例では第2軟磁性層6を第1軟磁性層4に対して積層方向上方に配設したが、積層方向下方でもよい。
【0101】
また、本発明の産業上の利用可能性として、局部発振器、無線通信用送受信器、高周波アシスト記録用素子(MAMR)、整合回路、周波数可変型アンテナ装置などが挙げられる。
【符号の説明】
【0102】
1 基板
2 下部電極層
3 磁気抵抗効果膜
31 バッファー層
32 反強磁性層
33 磁化固定層
34 非磁性スペーサー層
35 磁化自由層
36 キャップ層
4 第1軟磁性層
41 第1軟磁性層先端領域
42 第1軟磁性層後端領域
5 上部電極層
6 第2軟磁性層
61 第2軟磁性層先端領域
62 第2軟磁性層先端部
7、71、72、73 コイル
8、81、82、83、84、85、86 絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15