特許第6186886号(P6186886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6186886-転がり軸受 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186886
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20170821BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16C19/06
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-112073(P2013-112073)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231861(P2014-231861A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 彰
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−086954(JP,A)
【文献】 特開2004−084813(JP,A)
【文献】 特開2007−303661(JP,A)
【文献】 特開2004−043718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを有し、前記外輪が回転輪として使用される転がり軸受であって、
前記保持器は冠形保持器で、軸方向片側が開口されたポケットを有し、
前記内輪と前記外輪との間を軸方向両端で塞ぐ非接触型密封装置と、
前記内輪、前記外輪、前記転動体および前記非接触型密封装置で囲まれた空間に配置されたグリースとを備え、
前記グリースは、輪外周面の前記非接触型密封装置近傍に位置し、前記内輪外周面の軸方向両端に、前記保持器の前記開口側よりも前記開口の反対側を少量にして配置されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記グリースの体積は前記空間体積の25%以上30体積%以下であることを特徴とする請求項1の転がり軸受。
【請求項3】
前記グリースは、25℃における混和ちょう度が220以上250以下のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
軸受回転開始前の状態で、前記グリースは前記内輪外周面の前記非接触型密封装置近傍に位置することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリースを転がり軸受の一部の内部空間のみに充填する転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細な粉塵が存在する環境下で使用される転がり軸受は、微細な粉塵が転がり軸受の内部に侵入すると、玉の転動面や内輪、外輪の軌道面等を含む転走面を損傷させ、軸受の機能を低下させるおそれがある。また、軸受の内部に充填されている潤滑用のグリースに粉塵や摩耗粉が混入すると、グリースが劣化する原因となる。転動面の損傷やグリースの劣化が進むと、異常音が発生し、焼付が発生してしまうおそれもある。
【0003】
軸受の防塵性を向上する為に、例えば特許文献1では、シールド板を採用する軸受において、内輪の外周面に溝を設け、遠心力を利用することでグリースを溝内に蓄積させ、シールド板と内輪の間の隙間を塞ぐ提案があった。また、この発明は内輪回転による遠心力を利用する発明であるので、冷却ファンモータなどのような内輪回転の軸受に特定したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、複写機やプリンター等の事務機やATMに使用される軸受は低トルク・低コスト要求が強く、事務機の紙送り機構(フィーダー)に使用される転がり軸受に防塵性能が要求される。防塵性能を向上するために、通常、軸受にゴム製の接触シールを使用する。
【0006】
しかしながら、接触シールを使うと、接触による軸受の回転トルクが大きくなってしまうので、紙や紙幣が撚れたりして紙詰まり等を発生させてしまう。また、紙や紙幣から発生する粉塵等が軸受内に入ってしまうと回転不良等の不具合が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題を解決する為に、
(1)内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを有し、前記外輪が回転輪として使用される転がり軸受であって、前記保持器は冠形保持器で、軸方向片側が開口されたポケットを有し、前記内輪と前記外輪との間を軸方向両端で塞ぐ非接触型密封装置と、前記内輪、前記外輪、前記転動体および前記非接触型密封装置で囲まれた空間に配置されたグリースとを備え、前記グリースは、輪外周面の前記非接触型密封装置近傍に位置し、前記内輪外周面の軸方向両端に、前記保持器の前記開口側よりも前記開口の反対側を少量にして配置されていることを特徴とする転がり軸受を提供している。
)グリースの体積は前記空間体積の25%以上30体積%以下であることを特徴とする。
)グリースは、25℃における混和ちょう度が220以上250以下のものであることを特徴とする。
)軸受回転開始前の状態で、グリースは内輪外周面の非接触型密封装置近傍に位置することを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、半固体状のグリースので、運転開始前にグリースの位置がほぼ変更せず、シールド板を開けると、シールド板の近傍に充填したことを確認できる。
更に、上述()の25℃における混和ちょう度が220以上250以下(即ちNLGIちょう度番号N.3に相当するもの)のグリースを利用すれば、従来品のちょう度(NLGIちょう度番号No.2)のグリースより硬く、潤滑性能を発揮できるとともに防塵性能がより高く、好ましい。
また、グリースを軸受の軸方向両端に充填する際に、保持器4開口部側の塗布体積は、総体積の50〜60%程度であり、保持器4開口部の反対側の塗布体積は、総体積の40〜50%程度とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転がり軸受は、グリースを非接触型密封装置の近傍に充填させることで、密封装置と内輪外周面の間の隙間を塞ぐことができ、外部の粉塵が軸受内部に侵入することを抑制できる。更に、グリースは回転しない内輪側に位置するので、軸受の外輪回転による軸受外部へのグリース飛散は発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
図2図1のA−A断面に対応する図である。
図3】第2の実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
図4図3のA−A断面に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、この発明の第1実施形態に相当する玉軸受を示す断面図である。図2図1のA−A断面に対応する図である。この玉軸受は、内輪1と、外輪2と、玉3と、保持器4と、シールド板50と、グリース6で構成されている。この玉軸受の寸法は、外径12〜22mm、内径5〜8mm、幅3.5〜7mm、玉の直径1.2〜4mmである。内輪1の外周面11の軸方向中央部に、玉3の転動溝12が形成されている。外輪2の内周面21の軸方向中央部に、玉3の転動溝22が形成されている。外輪2の内周面21の軸方向両端部に、シールド板50の取り付け溝23が形成されている。保持器4は合成樹脂製の冠形保持器で、軸方向片側が開口されたポケット41を有する。
【0011】
シールド板50は金属製で、シールド板50の内周縁部が、内輪1の外周面11と所定隙間で近接する近接部501となっている。シールド板50の外周縁部が、外輪2の内周面21に形成された取り付け溝23に固定される固定部52となっている。
【0012】
図1に示すように、グリース6は、内輪1と外輪2と玉3とシールド板50で囲まれた空間(軸受空間)のうち、保持器4の開口側であって、内輪1の外周面(非回転輪)11のシールド板50近傍に塗布されている。保持器4の開口部とは反対側の空間にも同様に塗布されている。
【0013】
図2に示すように、グリース6は、内輪1の外周面11に塗布され、外輪1の内周面21には塗布されていない。グリース6の塗布は、シールド板50を取り付ける前に、軸方向の端部から、例えば複数の穴の開いたノズルを使用して、内輪1の外周面11の周方向全体に渡って、複数の球状のグリース6が隙間なく配置されるように行う。これにより、グリースは周方向に数珠状に配置される。この塗布方法では、従来のグリース封入装置が利用できるため、新たな設備が不要であり、生産コストの上昇を招かない。グリース6の混和ちょう度は230であり、軸方向両端に塗布するグリース6の総体積は軸受空間の26体積%である。また、軸受に予圧をかける際に、軸受の内部隙間が小さくなる傾向があるので、グリースが保持器のポケット41背面に付けてしまう可能性がある。この場合、軸受の回転上昇の原因となるので、予め保持器4の開口部反対側に比較的少量のグリースを塗布することが好ましい。保持器4開口部側の一端の塗布体積は、総体積の60%程度であり、保持器4開口部の反対側の塗布体積は、総体積の40%程度とする。
【0014】
本実施形態の玉軸受は、グリース6をシールド板50寄りに塗布することで、シールド板50と、内輪1の外周面11の間の隙間を塞ぐことができ、外部からの粉塵侵入が抑制される。
【0015】
また、本実施形態の玉軸受は、軸受空間が狭いミニアチュア玉軸受であり、内部隙間がJIS規格に準拠するMC3(5〜10μm)のものであるが、内輪2(非回転輪)の外周面11に塗布される為、回転による遠心力からの影響を受けず、グリースが潰されにくい。また、グリース6がシールド板50の近傍に塗布されていることで、予圧を付与して内外輪に軸方向のずれが生じた場合でも、グリース6が玉3に接触しにくい状態となる。よって、玉軸受に予圧を付与した状態でもグリース6が潰されにくい。したがって、この実施形態の玉軸受によれば、予圧を付与した状態でも、内外輪の軌道溝12,13にグリース6の入る量が低減されるため、回転トルクの上昇が抑制される。
【0016】
[第2実施形態]
図3は、この発明の第2実施形態の玉軸受を示す断面図である。図4図3のA−A断面に対応する図である。この玉軸受は、以下の点で第1実施形態の玉軸受と異なるが、それ以外の点は第1実施形態の玉軸受と同じである。
【0017】
玉軸受の内部隙間は、JIS規格に準拠するMC2(3〜8μm)隙間を採用している。本実施形態では、内輪1の外周面11に円環状のグリース6が配置されている。そして、円環状のグリース6の外周面が内輪1の外周面11に接触している。軸方向両端のグリース6の塗布総体積は軸受空間の29体積%であり、両端夫々の塗布体積は、総体積の50%程度とする。
【0018】
グリース6の塗布は、シールド板50を取り付ける前に、保持器4の開口側から、例えば1個の穴の開いたノズルを使用し、ノズルまたは玉軸受の内輪1を回転させながら内輪1の外周面11の周方向全体に渡って、ノズルからグリースを吐出させることで行う。これにより、グリース6を、内輪1の外周面11の周方向全体に渡って切れ目なく円環状に塗布する。これにより、グリースは、周方向に円環状に配置される。
【0019】
したがって、この実施形態の玉軸受によれば、第1実施形態の玉軸受と同様に、グリース6をシールド板50寄りに塗布することで、シールド板50と、内輪1の外周面11の間の隙間を塞ぐことができ、外部からの粉塵侵入が抑制される。また、予圧を付与した状態でも、グリース6に含まれる増ちょう剤が内外輪の軌道溝12,13に入る量が低減されるため、回転トルクの上昇が抑制される。
【符号の説明】
【0020】
1 内輪
11 内輪の外周面
12 転動溝
2 外輪
21 外輪の内周面
22 転動溝
23 シールド板の取り付け溝
3 玉
4 保持器
41 ポケット
5 シールド板
6 グリース
図1
図2
図3
図4