特許第6186953号(P6186953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186953
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】内燃機関のバルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-138598(P2013-138598)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-10585(P2015-10585A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120178
【弁理士】
【氏名又は名称】三田 康成
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健児
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勝博
(72)【発明者】
【氏名】三橋 英雄
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 健
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203830(JP,A)
【文献】 特開2013−019353(JP,A)
【文献】 特開2001−152888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34−1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の部材の回転位相差に応じて内燃機関のバルブタイミングを変化させるとともに、所定の中間ロック位置で前記2個の部材の一方から他方へとロックピンを貫入させることでバルブタイミングを中間ロック位置でロックするロックピンを備えたバルブタイミング可変機構を備える内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
外部からの中間ロック解除要求の入力に応じて、前記2個の部材の一方から他方へと貫入したロックピンを引き抜く中間ロック解除指令を前記バルブタイミング可変機構に出力し、
中間ロック解除指令の出力後、前記2個の部材の回転位相差が所定の目標回転位相差となるように前記バルブタイミング可変機構を制御し、
前記2個の部材の実回転位相差を検出し、
前記2個の部材の回転位相差が所定の目標回転位相差となるように前記バルブタイミング可変機構を制御した後、前記実回転位相差と前記目標回転位相差との差異が所定値以下とならない場合に、中間ロック解除が完了していないと判定する、よう構成されるとともに、
前記目標回転位相差は、前記実回転位相差が前記目標回転位相差と異なることを判定可能な回転位相差の最小のずれに相当する前記中間ロック位置からの回転位相差角に設定される、ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記目標回転位相差は、前記中間ロック位置から遅角側にずれた位置に設定される、請求項1の内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記2個の部材並びに前記ロックピンは内燃機関の吸気弁のバルブタイミングを制御する部材であり、前記中間ロック解除が完了していない場合には、排気弁のバルブタイミングの操作を禁止するようにさらに構成される、請求項1または2の内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
前記2個の部材の回転位相差が所定の目標回転位相差となるように前記バルブタイミング可変機構を制御した後、所定時間が経過しても前記実回転位相差と前記目標回転位相差との差異が所定値以上ある場合に、中間ロック解除が完了していないと判定するようさらに構成される、請求項1から3のいずれかの内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の吸気弁または排気弁の開閉タイミングを変化させるバルブタイミング制御装置に関し、さらに詳しくは所定のロック位置からのロックピンの解放操作の判定に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気弁や排気弁の開閉タイミングをトルク要求などに応じて変化させるバルブタイミング可変機構は、例えば内燃機関のクランクシャフト側の回転部材とカムシャフト側の回転部材との回転位相差を、油圧アクチュエータを用いて所定の範囲で変化させるように構成されている。
【0003】
内燃機関の運転を停止する際は、これらの2個の回転部材の回転位相差はロックピンにより中間ロック位置にロックされる。ロックピンは中間ロック位置において2個の部材の一方から他方へと貫入することで、2個の回転部材の回転位相差、言い換えれば相対回転位置、を中間ロック位置にロックする。
【0004】
内燃機関の始動時には、まず、ロックピンの引き抜きによる中間ロックの解除が行なわれ、その後に、2個の回転部材の要求回転位相差が実現するようにバルブタイミング可変機構が制御される。特許文献1の従来技術は、2個の回転部材の実回転位相差を検出し、実回転位相差が要求回転位相差へと収束しない場合に、中間ロック解除が正しく行なわれていないと判定している。特許文献1は、さらに、要求回転位相差への制御開始から、中間ロック解除の判定に至る待機時間を、油圧アクチュエータを駆動する油圧回路の動特性に基づき設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−019353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
要求回転位相差がロックの行なわれる中間ロック位置から離れている場合には、ロックピンの解放操作後に油圧アクチュエータが2個の部材を要求回転位相差へと駆動するのに要する時間が長くなる。言い換えれば、ロックピンの解放操作から相当の時間が経過しないと、ロックピンの解放操作が完了したかどうかを判定することができない。
【0007】
一方、ロックピンの解放指令の出力と同時に。ロックピンの解放を前提とした各種のオープンループ操作が行なわれることがある。その場合に、ロックピンの解放操作から相当の時間が経過した後にロックピンの解放が完了していないと判定されると、その時点ではオープンループ操作が相当に進行しており、結果として誤操作に近い状況が出現することになる。
【0008】
この発明は、従来技術に内在する以上の問題点を解決すべくなされたもので、ロックピンの解放完了の判定所要時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、この発明は、2個の部材の回転位相差に応じて内燃機関のバルブタイミングを変化させるとともに、所定の中間ロック位置で2個の部材の一方から他方へとロックピンを貫入させることでバルブタイミングを中間ロック位置でロックするロックピンを備えたバルブタイミング可変機構を備える内燃機関のバルブタイミング制御装置に適用される。バルブタイミング制御装置は次のように構成される。
【0010】
すなわち、バルブタイミング制御装置は、外部からの中間ロック解除要求の入力に応じて、2個の部材の一方から他方へと貫入したロックピンを引き抜く中間ロック解除指令をバルブタイミング可変機構に出力する。中間ロック解除指令の出力後、2個の部材の回転位相差が所定の目標回転位相差となるようにバルブタイミング可変機構を制御する。2個の部材の実回転位相差を検出し、2個の部材の回転位相差が所定の目標回転位相差となるようにバルブタイミング可変機構を制御した後も、実回転位相差と目標回転位相差との差異が所定値以下とならない場合に、中間ロック解除が完了していないと判定する。この判定に用いる目標回転位相差を、実回転位相差が目標回転位相差と異なることを判定可能な回転位相差の最小のずれに相当する中間ロック位置からの回転位相差角に設定する。
【発明の効果】
【0011】
中間ロック解除指令後の目標回転位相差を、回転位相差が目標回転位相差と異なることを判定可能な回転位相差の最小のずれに相当するロック位置からの回転位相差に設定することで、中間ロック解除が完了したがどうかの判定を最短時間で行なうことができる。その結果、仮に中間ロック解除が完了していないと判定された場合でも、中間ロック解除指令の出力と同時に開始される。中間ロック解除を前提としたオープンループ操作がもたらす影響を最小限に留めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施形態による内燃機関のバルブタイミング制御装置の概略構成図である。
図2】この発明の実施形態によるコントローラが実行する中間ロック解除ルーチンを説明するフローチャートの一部である。
図3】この発明の実施形態によるコントローラが実行する中間ロック解除ルーチンを説明するフローチャートの残りの一部である。
図4】中間ロック解除ルーチンの実行により、所定時間内に中間ロックが解除された場合の制御結果を示すタイミングチャートである。
図5】中間ロック解除ルーチンの実行により、所定時間内に中間ロックが解除されなかった場合の制御結果を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照すると、この発明の実施形態による内燃機関1のバルブタイミング制御装置2は、内燃機関1のバルブタイミングを変化させるバルブタイミング可変機構3を備える。
【0014】
内燃機関1はクランクシャフトに同期して回転する吸気カムシャフトに固定されたカムにより吸気弁と排気弁を開閉する。また、クランクシャフトに同期して回転する排気カムシャフトに固定されたカムにより排気弁を開閉する。バルブタイミング可変機構3は吸気弁と排気弁の各々について、2個の回転部材であるクランクシャフトとカムシャフトの回転位相差、言い換えれば相対回転位置を、油圧アクチュエータを用いて変化させることで、バルブタイミングを予め設定された最進角位置と最遅角位置の間で変化させる。
【0015】
バルブタイミング可変機構3はバルブタイミングを最進角位置と最遅角位置の間に設定された中間ロック位置にロックする機能を有する。これはクランクシャフトとカムシャフトの一方から他方へとロックピンを貫入させることで行なわれる。クランクシャフトとカムシャフトの一方から他方へとロックピンが貫入することで、クランクシャフトとカムシャフトの回転位相差は中間ロック位置で機械的にロックされる。ロックピンのロック操作はコントローラ4からの指令信号に応動するアクチュエータによって行なわれる。
【0016】
ロック操作を行なうのは、例えば内燃機関1の運転を停止する場合である。内燃機関1の運転が停止していると、バルブタイミング可変機構3への油圧供給も停止する。そのため、確実に所定のバルブタイミングのもとで内燃機関1を再始動できるように、内燃機関1の停止に先立って、コントローラ4からバルブタイミング可変機構3にロック指令信号が出力され、アクチュエータがロックピンをロック位置に駆動することでバルブタイミングを中間ロック位置にロックする。
【0017】
内燃機関1の始動は、したがって、常にバルブタイミングを中間ロック位置に固定した中間ロック状態で行なわれる。始動後の内燃機関1は、運転条件に応じてバルブタイミングを変化させる。バルブタイミングを変化させるには、まずロックピンを引き抜いて、中間ロック位置でのロック状態を解除する必要がある。この操作は、コントローラ4からバルブタイミング可変機構3に解除指令信号を出力することで行なわれる。
【0018】
以上のようなロック機構を備えたバルブタイミング可変機構3は、例えば前記特許文献1により公知の機構であるので、その構造についての詳しい説明を省略する。
【0019】
ところで、内燃機関1の始動後に、バルブタイミングの中間ロック位置へのロック、すなわち中間ロック、を解除する際は、内燃機関1の運転制御に関わる、例えば燃料噴射制御のような他のパラメータについても、並行して制御指令が出力される。これらの制御指令は、中間ロックが解除され、バルブタイミングが新たな目標バルブタイミングへと制御されることを前提に出力される。
【0020】
バルブタイミング可変機構3への解除指令信号の入力に対してアクチュエータがロックピンをロック位置から引き抜く操作がスムーズに行なわれず、中間ロックが解除されない状態が続くと、バルブタイミングと内燃機関1の運転制御に関する他のパラメータとの整合性が失われ、内燃機関1の運転性能や排気塑性に好ましくない影響を及ぼす。
【0021】
そこで、バルブタイミング制御装置2はロックピンのロック位置からの引き抜きが完了したかどうかを判定する機能を備えている。そのために、バルブタイミング制御装置2はクランクシャフトとカムシャフトの実回転位相差を検出する回転位相差検出センサ5を備える。コントローラ4は中間ロック解除指令信号を出力した後に目標バルブタイミングをバルブタイミング可変機構3に出力する。
【0022】
ロックピンをロック位置から引き抜き、油圧制御によりクランクシャフトとカムシャフトの回転位相差を目標バルブタイミング相当の回転位相差へと変化させるには時間を要する。そこで、コントローラ4は解除指令信号と新たな目標バルブタイミングの出力から、一定時間待機した後に、回転位相差検出センサ5が検出するクランクシャフトとカムシャフトの実回転位相差と、目標バルブタイミング相当の回転位相差とを比較し、これらのずれに基づき、ロック解除が適正に行なわれたかどうかを判定する。
【0023】
待機時間は、ロックピンをロック位置から引き抜くロック解除操作の所要時間と、中間ロック位置から目標バルブタイミング相当位置へと回転位相差を変化させるのに要する時間との合計時間に基づき決定される。前者は一定であるが、後者は目標バルブタイミング相当位置と中間ロック位置との角度距離に依存する。すなわち、目標バルブタイミング相当位置の中間ロック位置からの角度距離が大きいほど、目標バルブタイミングを実現するための油圧制御に要する時間も長くなる。
【0024】
前述のように、目標バルブタイミングの出力と並行してエンジン運転制御に関する他のパラメータの変更が行なわれることを考慮すると、待機時間は短い方が好ましい。一方、目標バルブタイミングは最進角位置から最遅角位置まで設定可能である。したがって、ロック解除の判定に確実を期すには、待機時間を中間ロック位置からの最大角度距離となる最進角位置または最遅角位置を基準に設定する必要がある。
【0025】
しかしながら、その結果、待機時間が長くなることは避けられない。
【0026】
この実施形態によるバルブタイミング制御装置2は、ロックピンのロック解除を指示する解除指令信号の出力直後に出力される目標バルブタイミングを中間ロック位置の近傍であって、かつ実回転位相差との差異を判定可能な最小の回転位相差相当値に設定する。この設定により、待機時間を可能な限り短縮することができる。なお、目標バルブタイミングの達成を確認した後に、コントローラ4はバルブタイミングを内燃機関1の運転状態に基づく新たな目標バルブタイミングへと制御する。
【0027】
以上の制御を実現するために、コントローラ4は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/O インタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラを複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0028】
次に図2図3を参照して、以上の制御を実現するためにコントローラ4が実行する中間ロック解除ルーチンを説明する。このルーチンは、内燃機関1の運転中に例えば10ミリ秒の一定間隔で繰り返し実行される。ここでは、中間ロックの解除の対象は内燃機関1の吸気弁である。
【0029】
図2を参照すると、ステップS1でコントローラ4は中間ロック固着フラグfAが0であるかどうかを判定する。中間ロック固着フラグfAは、ロックピンの引き抜きが適正に行なわれなかった場合に1に設定されるフラグである。中間ロック固着フラグfAの初期値は0である。
【0030】
ステップS1の判定か肯定的な場合は、コントローラ4はS2−S4の処理を行ない、ステップS1の判定か否定的な場合は、コントローラ4は図3のステップS24−S26の処理を行なう。
【0031】
ステップS2でコントローラ4は、中間ロック解除要求フラグfBが0であるかどうかを判定する。中間ロック解除要求フラグfBは中間ロックの解除が要求されている場合に1に設定されるフラグである。中間ロック解除要求フラグfBは内燃機関1の始動によりバルブタイミング可変機構3の操作に必要な油圧の供給が可能になった時点で出力される。中間ロック解除要求フラグfBの初期値は0である。
【0032】
ステップS2の判定が肯定的な場合、すなわち中間ロック解除の要求が存在しない場合は、コントローラ4はステップS3の処理を行なう。ステップS2の判定が否定的な場合、すなわち中間ロック解除の要求が存在する場合は、コントローラ4はステップS5の処理を行なう。
【0033】
ステップS3で、コントローラ4は目標吸気VTC変換角tVTCiを中間ロック位相差角であるAに設定する。ここで、VTCはバルブタイミングコントロールの略称である。目標吸気VTC変換角tVTCiは、目標バルブタイミングに相当するクランクシャフトとカムシャフトの回転位相差を表す値である。コントローラ4はまた、ステップS3で中間ロック解除フラグfCを0にリセットする。中間ロック解除フラグfCは中間ロックの解除が確認された場合に1に設定されるフラグである。中間ロック解除フラグfCの初期値は0である。
【0034】
次のステッフS4でコントローラ4は、吸気VTCの中間ロックが解除されていないので、排気VTCの操作を禁止する。なお、このバルブタイミング制御装置2は吸気VTCの制御とともに排気VTCの制御も実行する。ステッフS4の処理の後、コントローラ4はルーチンを終了する。
【0035】
一方、ステップS5で、コントローラ4は、前回のルーチン実行時に中間ロック解除要求フラグfBが0であったか否かを判定する。ここでは、前回のルーチン実行時の中間ロック解除要求フラグをfBzで表している。判定が肯定的な場合は、コントローラ4はステップS6−S9の処理を行なう。判定が否定的な場合は、コントローラ4は図3のステップS10の処理を行なう。
【0036】
ステップS6でコントローラ4は、中間ロック解除動作の実行継続時間を計測するタイマTimerを0にリセットする。
【0037】
ステップS7でコントローラ4は、ロックピンを引き抜く中間ロック解除指令信号を出力する。
【0038】
ステップS8でコントローラ4は、目標吸気VTC変換角tVTCiを、中間ロック位置相差角Aの近傍であって中間ロック位相差角Aより遅角側の回転位相差角Bに設定する。回転位相差角Bは、中間ロックが確実に解除されたことを判定可能な最小距離だけ中間ロック位相差角Aから離れた回転位相差角に設定される。中間ロックが確実に解除されたことを判定可能かどうかは、回転位相差検出センサ5の分解能と検出誤差に依存する。回転位相差角Bの値はしたがってこれらの要素を考慮して決定される。
【0039】
ここで、解除指令信号の出力の直後に目標吸気VTC変換角tVTCiを中間ロック位置位相差角Aと異なる回転位相差角Bに設定する理由を説明する。
【0040】
中間ロック解除指令信号の入力に応じてバルブタイミング可変機構3では油圧アクチュエータに油圧が供給され、油圧アクチュエータがロックピンをバネに抗して貫入孔から引き抜こうとする。直後に目標吸気VTC変換角tVTCiが回転位相差角Bに設定されると、バルブタイミング可変機構3は実目標吸気VTC変換角rVTCiを回転位相差角Bに近づけようとすることで、ロックピンに横断方向の力を及ぼす。この横断方向の力はロックピンが貫入している貫入孔の壁面とロックピンとの摩擦抵抗を増大させる。一方、カムシャフトはカムがバルブに連なるロッカアームを乗り越える際に大きな反力を受ける。この反力は摩擦抵抗を減少させる。結果として、ロックピンの摩擦抵抗は増減を繰り返し、油圧アクチュエータによるロックピンの引き抜きは摩擦抵抗が減じる都度、段階的に行なわれる。
【0041】
単純にロックピンの引き抜きやすさを考慮するのであれば、目標吸気VTC変換角tVTCiを中間ロック位置位相差角Aに維持してロックピンを引き抜くことが望ましい。しかしながら、その場合には、目標吸気VTC変換角tVTCiを回転位相差角Bへと制御するタイミングが遅くなり、結果として、中間ロック解除の判定にも遅れが生じることになる。解除指令信号の出力直後に目標吸気VTC変換角tVTCiを回転位相差角Bに設定することで中間ロック解除の判定を早期に行なうことが可能となる。
【0042】
さて、ステップS8の処理の後、コントローラ4はステップS9で、排気VTCの操作を禁止した後ルーチンを終了する。
【0043】
図3を参照すると、ステップS10で、コントローラ4は、中間ロック解除フラグfCが0であるかどうかを判定する。判定が肯定的な場合、すなわち中間ロックが解除されていない場合は、コントローラ4はステップS11の処理を行なう。一方、ステップS10の判定が否定的な場合、すなわち中間ロックが解除されている場合は、コントローラ4はステップS22とS23の処理を行なう。
【0044】
ステップS11でコントローラ4は、タイマTimerが所定時間Tthに達していないかどうかを判定する。所定時間Tthは、中間ロック位置にロックピンが固着しているかどうかを判定するために必要なしきい値である。所定時間Tthはあらかじめ次のように設定される。
【0045】
ロックピンを引き抜きが完了すると、バルブタイミング可変機構3による吸気VTCのバルブタイミング、すなわちクランクシャフトとカムシャフトの回転位相差の変更が可能になる。これにより、回転位相差検出センサ5が検出するクランクシャフトとカムシャフトの実回転位相差が目標値の回転位相差角Bに接近する。このプロセスについて、実回転位相差が回転位相差角Bに実質的に等しくなるまでの時間を実験またはシミュレーションに基づき若干の余裕を見て決定した値が所定時間Tthである。
【0046】
このバルブタイミング制御装置2においては、回転位相差角Bを中間ロック位置位相差角Aの近傍であって中間ロック位相差角Aより遅角側の値に設定している。回転位相差角Bは、中間ロック位相差角Aに対して中間ロックが確実に解除されたことを判定可能な最小角度だけしか離れていないので、最大進角位置あるいは最小進角位置と比較して、中間ロック位置Aに極めて近い位置にある。そのため、中間ロック位置位相差角Aから回転位相差角Bへの回転位相差の制御は短時間で行なうことができ、所定時間Tthを小さな値に設定することが可能である。
【0047】
ステップS11の判定が肯定的な場合は、コントローラ4はステップS12の処理を行なう。判定が否定的な場合は、コントローラ4はステップS19の処理を行なう。
【0048】
ステップS12でコントローラ4は、ロックピンを引き抜く解除指令信号の出力を継続する。ステップS13でコントローラ4は、目標吸気VTC変換角tVTCiを回転位相差角Bに維持する。
【0049】
次のステップS14でコントローラ4は、目標吸気VTC変換角tVTCiである回転位相差角Bと、回転位相差検出センサ5が検出した実吸気VTC変換角rVTCiとの差の絶対値が、しきい値Cを超えているどうかを判定する。ここで、実吸気VTC変換角rVTCiはクランクシャフトとカムシャフトの実回転位相差を表す値である。
【0050】
判定が肯定的な場合に、コントローラ4はステップS15でタイマTimerの前回値TimerzにインクリメントΔTを加えることでタイマ値を更新する。
【0051】
次のステップS16でコントローラ4は、排気VTCの操作を禁止した後ルーチンを終了する。
【0052】
一方、ステップS14の判定が否定的な場合は、回転位相差角Bと、回転位相差検出センサ5が検出した実吸気VTC変換角rVTCiとの差の絶対値がしきい値C以下であることを意味する。その場合にコントローラ4は、ステップS17で中間ロック解除フラグfCを、中間ロック解除完了を意味する1にセットする。次のステップS18で、排気VTCの操作を許可した後、コントローラ4はルーチンを終了する。
【0053】
ステップS11に戻ると、タイマTimerが所定時間Tthに達するとステップS11の判定は否定的に転じる。この場合には、コントローラ4はステップS19−S21の処理を行なう。
【0054】
ステップS19でコントローラ4は、目標吸気VTC変換角tVTCiを吸気VTC変換角VTCi0に設定する。吸気VTC変換角VTCi0は通常運転時の内燃機関1のバルブタイミングに相当し、内燃機関1の運転状態に応じて変化する値である。ここで、目標吸気VTC変換角tVTCiを吸気VTC変換角VTCi0に設定するのは次の理由による。
【0055】
ステップS19が実行されるのは、中間ロック解除が所定時間Tth以内に完了しなかった場合であり、ロックピンの貫入孔からの引き抜きに失敗したことを意味する。この場合に、目標吸気VTC変換角tVTCiを中間ロック解除時の回転位相差角Bから吸気VTC変換角VTCi0に変更することで、ロックピンに作用する荷重が変化し、結果としてロックピンの引き抜きに成功する可能性があるからである。
【0056】
次のステップS20でコントローラ4は中間ロック固着フラグfAを、固着を表す1にセットする。
【0057】
次のステップS21で、排気VTCの操作を禁止した後、コントローラ4はルーチンを終了する。ステップS19−S21の処理が、中間ロック解除に失敗した場合の処理に相当する。
【0058】
ステップS10に戻ると、中間ロック解除フラグfCが0でない場合、すなわち、中間ロック解除が確認された場合は、コントローラ4はステップS22とS23の処理を行なう。
【0059】
ステップS22でコントローラ4は、目標吸気VTC変換角tVTCiを吸気VTC変換角VTCi0に設定する。
【0060】
次のステップS23で、排気VTCの操作を禁止した後、コントローラ4はルーチンを終了する。
【0061】
ステップS1に戻ると、中間ロック固着フラグfAが0でない場合、すなわち、中間ロック解除に失敗したと判定された場合、コントローラ4はステップS24−S26の処理を行なう。この処理は、ステップS19−S21の処理が行なわれた後のルーチン実行において実行される。
【0062】
ステップS24でコントローラ4は車両の室内に設けた警告灯に点灯する。これにより車両のドライバに内燃機関1の整備が必要であることを知らせる。
【0063】
次のステップS25で、コントローラ4は目標吸気VTC変換角tVTCiを吸気VTC変換角VTCi0に維持する。
【0064】
次のステップS26で、排気VTCの操作禁止を継続した後、コントローラ4はルーチンを終了する。
【0065】
以上の中間ロック解除ルーチンにおいて、ステップS3とS4が、中間ロック解除要求が発せられる前の処理に相当する。ステップS6−S9が、中間ロック解除要求が発せられた直後の処理に相当する。ステップS12−S16が、中間ロック解除操作に相当する。ステップS17−S18が中間ロック解除確認直後の処理に相当する。ステップS22とS23が、中間ロック解除を確認した場合の次回以降のルーチン実行時の処理に相当する。ステップS19−S21が、中間ロック解除に失敗したと判定した直後の処理に相当する。ステップS24−S26が、中間ロック解除に失敗したと判定した場合の次回目以降のルーチン実行時の処理に相当する。
【0066】
図4図5を参照して、中間ロック解除ルーチンの実行結果を説明する。
【0067】
図4は、所定時間Tth内に中間ロック解除が完了する場合の状況を示す。図5は、所定時間Tth内に中間ロック解除が完了せず、中間ロック解除に失敗したと判定される場合の状況を示す。
【0068】
図4を参照すると、内燃機関1の始動後、時刻t1に中間ロック解除要求が入力され、中間ロック解除要求フラグfBが要求なしを示す0から要求有りを示す1に転じる。その結果、ステップS6−S9の処理が行なわれ、ロックピンの解除指令信号が出力されるとともに、タイマTimerのカウントが開始される。また、目標吸気VTC変換角tVTCiがそれまでの中間ロック位置位相差角Aから、中間ロック位置相差角Aの近傍であって中間ロック位相差角Aより遅角側の位相差角Bに変更される。また、排気VTCの操作禁止が維持される。
【0069】
次回以降のルーチン実行においては、ステップS12とS13とS16でこの状態が維持される。一方、ステップS11でタイマTimerが所定時間Tthに達したかどうか、ステップS14で回転位相差角Bと実吸気VTC変換角rVTCiとの差の絶対値が、しきい値Cを超えているどうかを判定する。
【0070】
ロックピンの引き抜きが完了すると、実吸気VTC変換角rVTCiは、図の吸気VTCの破線に示すように、目標値の回転位相差角Bに急速に追随する。その結果、時刻t2にステップS14で回転位相差角Bと実吸気VTC変換角rVTCiとの差の絶対値が、しきい値C以下となる。これにより、中間ロック解除が完了したと判定され、ステップS17で中間ロック解除判定フラグfCが1にセットされる。また、ステップS18で排気VTC操作が許可され、さらに次回のルーチン実行において、ステップS22で目標吸気VTC変換角tVTCiが吸気VTC変換角VTCi0に設定される。
【0071】
この処理の結果、時刻t2以降は、吸気VTCと排気VTCがともに内燃機関1の運転状態に応じたバルブタイミングとなるように操作される。
【0072】
図5を参照すると、時刻t1に中間ロック解除要求フラグfBが0から1に転じるまでの状況は図4のタイミングチャートと同じである。時刻t1以降も、図4のタイミングチャートと同様に、ステップS12とS13とS16で中間ロック解除操作が行なわれる。しかしながら、ロックピンの引き抜きが適正に行なわれないため、実吸気VTC変換角rVTCiは、図の吸気VTCの破線に示されるように、中間ロック位置相差角Aから変化しない。
【0073】
時刻t3にタイマTimerが所定時間Tthに達すると、ステップS11の判定が否定的に転じ、ステップS22で、目標吸気VTC変換角tVTCiが吸気VTC変換角VTCi0に設定され、ステップS20で中間ロック固着フラグfAが固着を表す1にセットされる。さらに、ステップS21で目標吸気VTC変換角tVTCiが吸気VTC変換角VTCi0に維持され、ステップS26で排気VTCの操作禁止が維持される。
【0074】
以上のように、このバルブタイミング制御装置2は、中間ロック解除操作における目標回転位相差である目標吸気VTC変換角tVTCiを、実回転位相差が目標回転位相差との差異が所定値以上であることを判定可能な回転位相差の最小のずれに相当する、中間ロック位置からの回転位相差角Bに設定している。
【0075】
そのため、中間ロック解除の確認に要する時間が短縮され、中間ロック解除指令から短時間で中間ロック解除が適正に行なわれたかどうかを判定することができる。中間ロック解除指令と並行して内燃機関1の運転制御に関する他のパラメータの変更が出力される場合でも、中間ロック解除が完了したかどうかを短時間で判定できるため、中間ロック解除に失敗した場合でも、中間ロック解除を前提としたパラメータの変更を早期に解消することが可能となり、中間ロック解除を前提としたパラメータの変更の影響を最小限に留めることができる。
【0076】
また、中間ロック解除に失敗したと判定した場合、このバルブタイミング制御装置2は、目標回転位相差である目標吸気VTC変換角tVTCiを内燃機関1の運転状態に基づく目標値VTCi0に設定している。この設定により、中間ロック解除に失敗したと判定した場合でも、目標吸気VTC変換角tVTCiの値が変わることで、ロックピンに加わる荷重が変化し、ロックピンの引き抜きに成功する可能性を高めることができる。
【0077】
このバルブタイミング制御装置2は、吸気弁を開閉する2個の部材の実回転位相差と目標回転位相差との差異が所定値以下にならない限り、排気弁のバルブタイミングの操作を禁止している。つまり、中間ロック解除が確認されない限り、排気弁のバルブタイミングの操作は禁止される。したがって、吸気弁のバルブタイミング操作が不可能な状態で、排気弁のバルブタイミングのみが操作されることで生じる制御の不整合を防止することができる。
【0078】
さらに、このバルブタイミング制御装置2においては、中間ロック解除の判定に与える時間を回転位相差角Bに基づき設定された所定時間Tthに制限している。これにより中間ロック解除の確認を短時間で行なうことが可能となる。
【0079】
以上のように、この発明を特定の実施形態を通じて説明して来たが、この発明は上記の実施形態に限定されるものではない。当業者にとっては、特許請求の範囲で上記の実施形態にさまざまな修正あるいは変更を加えることが可能である。
【0080】
例えば、上記の実施形態では吸気弁のバルブタイミングを固定する中間ロックの解除の判定にこの発明を適用しているが、排気弁のバルブタイミンクを固定する中間ロックの解除の判定にこの発明を適用することも可能である。
【0081】
また、このバルブタイミング制御装置2においては、中間ロック固着フラグfAが1に設定された後にロックピンの引き抜きが完了することもあり得る。したがって、コントローラ4は、所定時間Tthが経過して中間ロックの解除に失敗したと判定した後も、実回転位相差の検出と、実回転位相差と目標回転位相差の差異の判定を継続して行なっても良い。そして、これらの差異の絶対値が所定値C以下となったら、中間ロック固着フラグfAを0にリセットする。
【符号の説明】
【0082】
1 内燃機関
2 バルブタイミング制御装置
3 バルブタイミング可変機構
4 コントローラ
5 回転位相差検出センサ
図1
図2
図3
図4
図5