(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種の保護監視制御システムは、動作信頼性を確保するためにMUやIEDを冗長化し、異常発生時でも正常な装置により各種機能を維持するか、予備の待機系に切り替えることで継続運転を可能にしている。
例えば、特許文献1には、1台のMUに対してIEDを二重化し、一方のIEDからの同期信号である1PPS(1 Pulse Per Second)信号が異常になった場合に、他方のIEDからの1PPS信号に切り替え、サンプリング周期を他方のIEDからの1PPS信号の周期に同期させることで保護を継続するようにした保護リレーが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、母線に接続されたフィーダの電流を第1,第2の変流器により検出し、これらの電流検出値と、前記フィーダに接続された計器用変圧器による電圧検出値とを2台の保護IEDによりそれぞれ収集する二重保護IEDが記載されている。この従来技術では、一方のIEDが電圧擾乱を検出して他方のIEDが電圧擾乱を検出していない場合には、他方のIEDに接続された計器用変圧器の二次回路の故障と判定する。
更に、WAMSにおいても、高度な電力品質診断や制御データへの活用等の観点から、リアルタイム性と継続性が必要なシステムではIED等を二重化した冗長化構成が採用されている。
【0004】
ここで、
図7は、MU及びIEDを冗長化した保護監視制御システムの概略構成図である。
図7において、10は系統電源に接続された受電変圧器、20は受電変圧器10の二次側に接続された母線、21,22,23は三相のフィーダ、LD
1,LD
2,LD
3はフィーダ21,22,23にそれぞれ接続された負荷である。
フィーダ21,22,23には計器用VT31
M,31
S,32
M,32
S,33
M,33
Sを介してMU(マスタ端末:M端末)41
M,42
M,43
M及びMU(スレーブ端末:S端末)41
S,42
S,43
Sがそれぞれ接続されており、フィーダ21,22,23ごとに、冗長化された各2台のMUによってフィーダ21,22,23の電圧(交流瞬時値または波高値)を収集可能である。ここで、各MUはフィーダ21,22,23を流れる電流も収集しているが、便宜上、これらの図示は省略する。
【0005】
MU(M端末)41
M,42
M,43
M及びMU(S端末)41
S,42
S,43
Sは、光ファイバー等の通信回線であるプロセスバス50に接続され、このプロセスバス50には、遠方にある変電所の保護制御室等に設置されたIED(マスタ:M)71
M,72
M,73
M及びIED(スレーブ:S)71
S,72
S,73
Sがそれぞれ接続されている。
各MUは、フィーダからサンプリングした電圧及び電流のアナログデータをディジタルデータに変換し、プロセスバス50を介してSV(Sampled Valued)通信サービス等により所定のIEDに送信する。各IEDは、受信した電圧及び電流に基づいてリレー演算、系統状態の解析等を行い、所定の保護監視制御を行っている。
なお、
図8は、
図7における一相分のフィーダ、例えばフィーダ21に対応するMU及びIED等を抜き出して示した図である。
【0006】
ここで、プロセスバス50を介して送受信されるデータには、全てのMU及びIEDの時刻同期、サンプリング同期を行うために高精度な時刻情報を付加する必要がある。
図7のシステムでは、基準時間源としてのタイムマスタ60を設け、例えばIEEE1588規格に対応した時刻同期機能を全てのMU及びIEDに実装している。ここで、IEEE1588規格は、周知のように、地理的に分散され、かつ通信技術によって相互に接続されたデバイスのための時刻同期化プロトコルである。
【0007】
図7,
図8では、プロセスバス50を介してタイムマスタ60とMU及びIEDとの間で時刻情報を交換し、各ローカルクロックを同期化する時刻同期化プロトコルとしてIEEE1588規格が用いられており、このIEEE1588規格については、非特許文献1や特許文献3に説明されている。
これらの文献によれば、IEEE1588規格はナノ秒単位での時刻同期が可能なプロトコルであり、基準時間源と端末との間で高精度な時刻情報を交換することで、ローカルクロックと基準時間との間の伝送遅延と相対的な時間差である時刻ずれを検出することが可能である。
【0008】
図9は、IEEE1588規格による通信動作の概略的な説明図であり、特許文献3に記載されているものと実質的に同一である。
図7,
図8のタイムマスタ60に対して、同一ネットワーク内に設置された各IED(IED(M)及びIED(S))や各MU(MU(M端末)及びMU(S端末))がスレーブ端末(
図9では、全てをまとめて60
Sと表記する)となり、タイムマスタ60の時刻を基準として各IEDや各MUが高精度に時刻同期し、MU同士については1[μs](マイクロ秒)以内の精度で時刻同期が可能である。
【0009】
図9において、タイムマスタ60は、スレーブ端末60
Sに対して同期制御するためのパケットa
1(Sync)を送信する。引き続き、タイムマスタ60はスレーブ端末60
Sに対して上記信号a
1(Sync)を送出した時刻データt
1を、次のパケットa
2(Follow Up)に含めて送信する。一方、スレーブ端末60
Sは、最初のパケットa
1(Sync)を受信した時刻t
2を確認し、次のパケットa
2(Follow Up)内の送信時刻データt
1を取り出す。
次に、スレーブ端末60
Sはタイムマスタ60に対して同期制御するために、パケットa
3(Delay Request)を送信する。この際に、スレーブ端末60
Sは送信した時刻t
3を取得する。次に、タイムマスタ60は、パケットa
3(Delay Request)を受信した時刻t
4を、次のパケットa
4(通常、Delay Requestと称する)に乗せてスレーブ端末60
Sへ送信する。
【0010】
これらの一連の動作により、スレーブ端末60
Sは時刻データt
1〜t
4を取得することができ、これらの時刻データを用いて数式1、数式2の演算を行うことにより、タイムマスタ60とスレーブ端末60
Sとの間のサンプリング時刻のずれを補正する。
[数式1]
t
dx={(t
1−t
2)+(t
4−t
3)}/2
[数式2]
t
off=(t
3−t
1)−t
dx
すなわち、数式1、数式2より、t
offを0に近づける制御を行うことにより、全てのスレーブ端末60
Sはタイムマスタ60に対してサンプリング時刻が同一となるように制御することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図7,
図8に示した保護監視制御システムでは、プロセスバス50上にIED及びMUをそれぞれ完全2重化または2系列化した構成を採用している。この場合、複数台(図示例では2台)のMUによりサンプリングされたアナログデータをディジタルデータに変換した後、プロセスバス50を介して1台のIEDへSV通信サービス等により伝送し、IEDが受信データから健全なデータを選択して保護制御を行う方式が一般的である。
【0014】
このため、プロセスバス50上には、MU(M端末)及びMU(S端末)のそれぞれによってA/D変換されたデータがSV通信される。そして、MU(M端末)に異常が発生した場合には、待機系のデータとしてMU(S端末)によるデータがMU(M端末)によるデータに代わって利用されることになる。
しかし、これによると、プロセスバス50上には常時、待機系のデータも送出されるためトラフィックが2倍発生することになり、同一のプロセスバス50上に接続されるIEDやMUの接続数及びデータ量が、用途によっては制限される場合が生じる。
【0015】
また、複数台のMUによりA/D変換されたデータが1台のIEDに伝送されてIEDがこれらのデータを用いるプロセスバス対応の保護監視制御システムの場合、複数台のMUにおいて同期したタイミングでA/D変換されたデータが必要であり、各MUまたはIEDにGPS(Global Positioning System)等の高精度の時刻同期機能が実装されない場合は、IEDから各MUへ同一のサンプリング同期信号(以下、単に「同期信号」ともいう)を送ることで、複数台のMUによるA/D変換のタイミングを同期させている。
このように、IEDから複数台のMUへ同期信号を分配する場合、IEDを2系列化した構成では、一方のIEDに異常が発生した場合に他方の正常なIEDへ切り替えることにより、異常となったIEDからの同期信号を正常なIEDからの同期信号に切り替えて保護監視制御を継続させることになるが、同期信号の送信元が一方のIEDから他のIEDへ切り替わった場合には、切替前後の同期信号の周期は不連続となる。
【0016】
更に、IEDとMUとの時刻同期及びA/D変換のサンプリングの同期信号には、1PPS信号がよく用いられており、この1PPS信号がない場合は、MUの内部クロックによるサンプリング周期に従ってA/D変換が行われている。
IEDからMUに1PPS信号が送信される場合、1台のIEDから1PPS信号を複数台のMUへ分配することにより、各MUが同一のタイミングでA/D変換を行うことができるが、何らかの原因で1PPS信号が一時停止した場合は、A/D変換のサンプリング周期が各MUの内部クロックによって決定されることになり、保護監視制御は継続可能であっても、1PPS信号が復帰した直後のサンプリング周期は一時的に不連続となる可能性がある。
【0017】
つまり、これらの場合、MUは不連続なサンプリング周期に従ってデータをA/D変換することになるので、IEDはこのディジタルデータを保護演算や監視制御に用いることができない。従って、IEDは演算に必要な時間分のディジタルデータを再蓄積することが必要であり、その間、保護監視制御の停止や遅れが発生する。
【0018】
そこで、本発明は、プロセスバス上のトラフィックを減少させてIEDやMUの接続数及びデータ量を最大限増加させることを主な解決課題とし、更に、MUによるサンプリング周期の連続性を保って保護機能、監視制御機能の停止や遅れを防止するようにした保護監視制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、同一の電力系統の電気量を収集するために冗長化されたマスタ端末及びスレーブ端末からなる複数台のMUと、
前記MUにより収集され、かつプロセスバスを介して受信した前記電気量のディジタルデータに基づいて電力系統を監視し、所定の保護制御を行うIEDと、
前記プロセスバスに接続されて前記MUによる前記電気量のサンプリング周期を同期させるタイムマスタと、を備えた保護監視制御システムにおいて、
各MUは、
前記電力系統の電圧の零クロス時刻をそれぞれ検出する第1の手段と、
前記第1の手段により検出した零クロス時刻を、前記プロセスバスを介して他のMUに送信する第2の手段と、
前記第1の手段により自己が検出した零クロス時刻、及び、前記第2の手段により他のMUから送信されて自己が受信した零クロス時刻を用いて、自己が健全状態にある
か否か、及び、他のMUが健全状態にあるか否かを認識する第3の手段と、
前記第3の手段により
、自己が健全状態にあると認識し、かつ、自己が前記マスタ端末である時または自己が前記スレーブ端末であって他のMUが健全状態ではない
と認識した時に、前記プロセスバスを介して前記電気量のディジタルデータを前記IEDに送信する第4の手段と、
を備えたものである。
【0020】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した保護監視制御システムにおいて、前記第3の手段が、自己が検出した零クロス時刻と他のMUから送信されて自己が受信した零クロス時刻との差に基づいて、自己が健全状態にあることを認識するものである。
【0021】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載した保護監視制御システムにおいて、前記第3の手段が、自己が検出した今回の零クロス時刻と前回の零クロス時刻との差に基づいて、自己が健全状態にあることを認識するものである。
【0022】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載した保護監視制御システムにおいて、前記第3の手段は、自己が検出した今回の零クロスの時刻と前回の零クロス時刻との差と、他のMUから送信されて自己が受信した今回の零クロスの時刻と前回の零クロス時刻との差と、の時間差が所定値未満である場合に、自己が健全状態にあることを認識し、かつ、前記時間差が所定値以上である場合に、自己が収集した電力系統の電圧に擾乱が発生していることを検出して擾乱検出情報を他のMU及び前記IEDに送信するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、各MUがタイムマスタの時刻同期化機能を利用して検出した系統電圧の零クロス時刻を、GOOSE等により相互に通信することにより自己が健全状態か否かを判定すると共に、健全状態にあるマスタ端末としてのMUのみから、あるいは、マスタ端末から切り替えられたスレーブ端末としてのMUのみから、電気量のディジタルデータをプロセスバス経由でIEDへ送信する。
このため、プロセスバス上の通信データを従来よりも少なくしてトラフィックを低減し、同一のプロセスバス上に接続可能なIEDやMUの接続数及びデータ量の制約を少なくしてシステムの適用範囲を拡げることができる。
また、各MUによる電気量のA/D変換動作を、IEEE1588規格等を用いたタイムマスタによる時刻同期化機能によって高精度に同期させることにより、例えばMUがマスタ端末とスレーブ端末との間で切り替わった際や1PPS信号の一時停止・復帰が発生した場合でもサンプリング周期の連続性を保つことができ、保護監視制御の停止や遅れを防止して信頼性の高いシステムを構築することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
この実施形態は、1台のIEDに対して2台のMUにより冗長化した保護監視制御システムを基本構成としており、一方のMUをマスタ端末(M端末)、他方のMUをスレーブ端末(S端末)として運用するものである。
【0026】
図1は、この実施形態におけるMU400の機能ブロック図であり、M端末、S端末の何れも構成は同一である。
図1において、母線20に接続された三相のフィーダ21,22,23の系統電圧V
1,V
2,V
3は、それぞれ計器用VT31,32,33を介してMU400に入力される。411,421,431はアナログデータの系統電圧V
1,V
2,V
3をディジタルデータに変換するA/D変換手段、412,422,432はアナログフィルタである。
アナログフィルタ412,422,432の出力は、高調波を除去するディジタルフィルタ413,423,433を介して正弦波抽出手段414,424,434に入力され、系統電圧V
1,V
2,V
3の基本波成分としての正弦波が抽出される。
【0027】
正弦波抽出手段414,424,434により抽出された各正弦波は、零クロス検出及びθ演算手段415,425,435に入力され、各正弦波の零クロス時刻及び位相角θがそれぞれ検出される。検出された各正弦波の零クロス時刻情報418,428,438は、他方のMU(S端末またはM端末)及びIEDに送信される。
また、零クロス検出及びθ演算手段415,425,435の出力は理論正弦波演算手段416,426,436に入力され、系統電圧V
1,V
2,V
3の理論正弦波がそれぞれ演算される。これらの理論正弦波は、前述の正弦波抽出手段414,424,434により抽出された正弦波と共に擾乱判定手段417,427,437に入力されており、これらの擾乱判定手段417,427,437によって理論正弦波と抽出正弦波とをそれぞれ比較することで系統電圧V
1,V
2,V
3の擾乱が判定され、擾乱検出情報460として他方のMU(S端末またはM端末)及びIEDに送信されるようになっている。
【0028】
一方、
図7と同様に、時刻同期化プロトコルとしてIEEE1588規格を用いたタイムマスタ60からの時刻情報が、プロセスバス(図示せず)を介してMU400に入力され、時刻同期情報450として記憶される。この時刻同期情報450は1[μs]以内の精度で管理されており、1PPS生成手段451は時刻同期情報450に基づいて1PPS信号を生成し、前記A/D変換手段411,421,431、零クロス検出及びθ演算手段415,425,435に送出する。A/D変換手段411,421,431は、1PPS信号を同期信号として系統電圧V
1,V
2,V
3をサンプリングし、A/D変換を行う。
このようにMU400の内部で生成した1PPS信号を用いてサンプリング同期を行う方法は、前述した特許文献1に、GPSを利用した1PPS信号によるサンプリング同期方法として記載されているように一般的であり、A/D変換手段411,421,431は1[μs]以内の精度で同期したタイミングによりA/D変換を実行可能である。
【0029】
次に、
図2は、
図1のように構成された一方のMU(M端末)400
Mと他方のMU(S端末)400
Sが三相の系統電圧V
n(n=1,2,3)の瞬時値の零クロス時刻情報を1/2周期ごとに取得するタイミングの説明図である。MU(M端末)400
MとMU(S端末)400
Sとの間では、それぞれが検出した零クロスの最新時刻t
M1,t
S1をプロセスバス50経由でGOOSE(Generic Object Oriented Substation Event)等の通信プロトコルにより交換し、これによって計器用VTの二次回路の状態や系統電圧の状態を把握する。
【0030】
ここで、GOOSEは、IEC61850規格”Communication networks and systems in substations”によって規定された通信プロトコルであり、プロセスバス上のMU間の通信を少量のトラフィックで高速に実現可能である。なお、GOOSEについては、前述した特許文献2に2台の保護IED間の通信に用いることが記載されているほか、例えば特開2012−165636号公報には、プロセスバス及び変電所母線における通信プロトコルとして利用可能であることが記載されている。
【0031】
図2において、MU(M端末)400
MとMU(S端末)400
Sとが電力系統の同一地点に設置されて冗長化されている場合、計器用VTとMU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sとの間に故障が発生していない条件では、電力系統の基本波周波数の1/2周期ごとの各相電圧波形の零クロス時刻は、MU(M端末)400
MとMU(S端末)400
Sとの差が1[μs]以内の同一時刻になる。
すなわち、MU(M端末)400
MとMU(S端末)400
Sとが交換する各相電圧波形の零クロス時刻の差を求めると、例えば
図2の最新の零クロス時刻については数式3のΔt
MS1[μs]になると共に、前回の零クロス時刻については数式4のΔt
MS2[μs]となり、何れも1[μs]以下の値になる。
[数式3]
Δt
MS1[μs]=t
M1[μs]−t
S1[μs]
[数式4]
Δt
MS2[μs]=t
M2[μs]−t
S2[μs]
【0032】
また、MU(M端末)400
Mにおける各相電圧の今回零クロス時刻と前回零クロス時刻との差は数式5となり、MU(S端末)400
Sにおける各相電圧の今回零クロス時刻と前回零クロス時刻との差は数式6となる。
[数式5]
Δt
M[μs]=t
M1[μs]−t
M2[μs]
[数式6]
Δt
S[μs]=t
S1[μs]−t
S2[μs]
【0033】
更に、計器用VTとMU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sとの間に故障が発生していない場合、または、電力系統側の事故による擾乱が発生してない場合、数式5のΔt
M及び数式6のΔt
Sは基本波周波数の1/2周期[μs]に等しく、IEEE1588時刻情報の同期精度を勘案すると、数式7、数式8に示すように、基本波周波数の1/2周期とΔt
M及びΔt
Sとの差は、1[μs]以内となる。
[数式7]
|1/2周期[μs]−Δt
M[μs]|≦1[μs]
[数式8]
|1/2周期[μs]−Δt
S[μs]|≦1[μs]
【0034】
後述するように、数式3に示したt
M1とt
S1との時刻差Δt
MS1、または数式5,数式6に示したΔt
MとΔt
Sとの差が設定値未満であれば、サンプリング周期にズレがなく、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sが健全側にある(計器用VTの二次回路やMU自体に異常がない)と判断することができる。また、数式7,数式8においてΔt
MまたはΔt
Sのうち1/2周期に近い方のMUが健全側にあると判断することができる。
このようにして、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sはどちらが健全状態にあるかを判断することができるので、健全状態にあるMUのみが稼働系MUとなり、プロセスバス50を介して、A/D変換後のデータをSV通信にてIEDへ送信する。
【0035】
図3は、MU(M端末)400
M側の処理を示すフローチャートである。
なお、MU(S端末)400
S側も同じフローであり、以下の説明におけるMU(M端末)400
MをMU(S端末)400
Sに読み替えたフローとなる。この実施形態では、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sの双方のフローを実行することでMUの冗長化を実現している。
【0036】
図3において、MU(M端末)400
Mでは、系統電圧V
1,V
2,V
3をサンプリングし、そのA/D変換データより、正弦波の1/2周期ごとの零クロス検出を行う(ステップS1,S2)。零クロスが検出されたら(S2 YES)、その最新時刻t
M1を記憶し、同時に高速のGOOSE通信にて、IEDと相手方MUであるMU(S端末)400
Sとに送信する(S3)。また、このとき、前回の零クロス時刻t
M2との時間差(Δt
M=t
M1−t
M2)を算出し、記憶する(S4)。なお、ステップS2において零クロスが検出されない場合(S2 NO)は、ステップS5にジャンプする。
【0037】
次に、相手方MUであるMU(S端末)400
Sから送信されてくる零クロスの最新時刻t
S1を受信して記憶し、前回受信して記憶されている零クロス時刻t
S2との時間差(Δt
S=t
S1−t
S2)を算出し、記憶する(S5 YES,S6)。
ここで、t
M1とt
S1との時刻差またはΔt
MとΔt
Sとの差が設定値(例えば2[μs]〜20[μs])未満であれば(S7 NO)、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sのサンプリング周期にズレがなく、両MU共に健全状態であってサンプリング同期確立中と判断する(S9)。
【0038】
なお、サンプリング周期のズレを判断するための設定値については、計器用VTの二次回路から各MUのA/D変換手段までの計測精度及び制御目的や運用に合わせて設定すれば良い。
上述した例で、設定値を2[μs]〜20[μs]としたのは、以下の理由に基づく。すなわち、各MUの時刻同期精度がIEEE1588による±1[μs]であることを考慮すると、MU(M端末)400
MとMU(S端末)400
Sとの間の相対時刻差は2[μs]となるので、これを設定値の下限値とする。また、設定値の上限値は、制御目的及びサンプリング周波数に応じて設定することになるが、計器用VTの二次回路の計測誤差や制御上の影響を考慮して、サンプリング周波数が4800[Hz]の場合には1サンプリング周期が208[μs]であるため、その約10%(20[μs])を上限値とする。
【0039】
図3に戻って、既にサンプリング同期確立中であった場合(S8 YES)は、以前の状態を維持するが、新たにサンプリング同期確立へ移行する場合(S8 NO,S9)は、基本周波数の1/2周期とΔt
Mとの差の絶対値であるΔt
M0と、同じく1/2周期とΔt
Sとの差の絶対値であるΔt
S0とを比較する(S10,S11)。ここで、Δt
M0とΔt
S0とを比較することにより、Δt
MとΔt
Sとのどちらが1/2周期に近いかを検出できるので、その結果により1/2周期に近い側のMUの方が健全であって他方のMUよりも安定性が高いと判断し、SV出力Enable設定(S12)及びSV送信処理を実行し(S16)、またはSV出力Disable(停止)設定を行う(S13)。
なお、Δt
M及びΔt
Sのうち1/2周期に近い側のMUを安定性が高いと判断して優先させるのは、IEEE1588の情報を元にサンプリング周期の微調整(補正)を繰り返してサンプリング時刻を同期させる過程において、サンプリング同期の確立直後は補正量が大きいことを考慮したものである。
【0040】
また、単相における系統電圧(例えばV
1のみ)の場合は、基本周波数の1/2周期ごとに、例えば基本周波数50[Hz]の系統では、10[ms]ごとに零クロス時刻を検出し、判定することになる。これに対し、三相系統では、
図4に示すように、各相電圧V
1,V
2,V
3の零クロス時刻を検出することになるため、基本周波数の1周期に対して1/6周期ごとに判定処理を実行することになる。これにより、基本周波数50[Hz]の系統では、3.3[ms]という早い周期にて判定することを意味しており、計器用VTとMUとの間に故障が発生した場合に健全側のMU出力へ高速に切り替えることを可能としている。
【0041】
次に、各MUの間にサンプリング時刻の同期ずれがある場合でもMUの冗長化を維持するための処理について説明する。
IEEE1588規格を用いたサンプリング時刻の同期化処理において、システム起動時やタイムマスタ60側に起因する時刻同期ずれが生じている状況、あるいは系統電圧に擾乱が発生している場合には、時刻同期=サンプリング同期を前提にした本実施形態によると計器用VTとMUとの間の故障判別に対する品質が問題になるため、この時刻同期ずれも考慮しておく必要がある。
すなわち、
図3のステップS7において、Δt
MとΔt
Sとの差が20[μs]以上になる場合(ステップS7 YES)は、何れかのMUが同期から外れて時刻同期ずれになっていると判断できるので、ステップS14以降の処理に移行して信頼性を確保することが必要である。
【0042】
以下、ステップS14以降の処理について説明する。
図1により説明したように、この実施形態におけるMU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sは、電圧擾乱を検出する機能を備えている。そして、例えば一方のMUが電圧擾乱を検出した場合、他方のMUに対して三相のうち何れの相で擾乱が検出されたかをGOOSE通信等により通知することが可能である。
IEDを冗長化したシステムにおける電圧擾乱検出時の処理については、前述した特許文献2に開示されているが、ここでは、MUを冗長化したシステムにおいて電圧擾乱を検出した時の処理について説明する。
【0043】
電力系統の事故により電圧擾乱が発生したときの電圧データは、冗長化された全てのMUによりサンプリングされる。例えば、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sが電力系統の同一地点に設置されている場合、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sは系統電圧の擾乱を同時に検出することになる。故障が計器用VTの二次回路で生じたとき、すなわち、計器用VTとその二次側に接続されたMUとの間で何らかの機器故障が生じたとき、故障が生じた側のMUのみが電圧擾乱を検出するが、他のMUは検出しない。従って、一方のMUによる擾乱検出の有無に応じて他方のMUによる擾乱検出の有無を判断することにより、どちらのMUに対応する計器用VTの二次回路で故障が発生したかを検出して健全側のMUを判定し、SV出力のEnable/Disable設定を行なうことができる。
【0044】
図5は、
図3におけるステップS15の内容を詳細に示したフローチャートであり、
図3のステップS7,S14に続く処理を示している。なお、ステップS15に先立って、サンプリング同期確立中のフラグをオフにしておく(S14)。
図5において、例えば、MU(M端末)400
Mが電圧の擾乱検出の有無を判断する(ステップS151)。ここで、MUによる電圧擾乱検出動作は
図6に示すとおりである。
すなわち、例えば
図1の零クロス検出及びθ演算手段415が正弦波(基本波成分)から零クロス点を検出し、その零クロス点の基準点からの経過時間より位相角θを算出すると共に、理論正弦波演算手段416が、
図6の上段に示す理論正弦波を演算する。そして、数式9の擾乱判定式に示すように、正弦波(基本波成分)が、理論正弦波に相当する(定格電圧×sin「θ値」)を中心として設定閾値(±10%)の範囲を逸脱する値になったか否かにより電圧擾乱を判定する。
[数式9]
擾乱判定値=定格電圧×sin「θ値」×設定閾値(±10%)
【0045】
図5において、MU(M端末)400
Mが擾乱を検出した場合、検出しない場合のそれぞれについて、MU(S端末)400
Sが擾乱を検出したか否かを判断する(S151,S152,S153)。そして、MU(M端末)400
M及びMU(S端末)400
Sが両方とも擾乱を検出した場合(S152 YES)、検出しない場合(S153 NO)の何れについても、各MUに対応する計器用VTの二次回路は正常である(両MUは健全側にある)と判断し、MUの現在の出力設定状態を切り替えずに維持する(S154)。なお、両MU端末が未出力の場合には、MU(M端末)400
Mを優先してSV出力させるように設定する。
また、MU(S端末)400
Sのみが擾乱を検出しない場合(S152 NO)には、MU(
S端末)
400Sの方が健全であると判断してMU(
S端末)
400Sから優先してSV出力させるように設定し(S155)、MU(S端末)400
Sのみが擾乱を検出した場合(S153YES)には、MU(
M端末)
400Mの方が健全であると判断してMU(
M端末)
400Mから優先してSV出力させるように設定する(S156)。
【0046】
このように、各MUは、
図1に示した擾乱検出情報460をGOOSE等により他のMUへ送受信するため、この擾乱検出情報460により、相手方のMUにおける電圧擾乱の検出状態を知ることができる。この擾乱検出情報460は三相のうち何れの相で発生したのかを示す情報を含んでいるので、故障部位の詳細な判定(相判定)も可能である。