特許第6186980号(P6186980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6186980
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】止水材打設用器具
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/10 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   F16L55/10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-152691(P2013-152691)
(22)【出願日】2013年7月23日
(65)【公開番号】特開2015-21611(P2015-21611A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】川畑 英輝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昂史
【審査官】 柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−108956(JP,A)
【文献】 特開2013−113602(JP,A)
【文献】 特開平07−233894(JP,A)
【文献】 特開2002−333091(JP,A)
【文献】 特開2012−241808(JP,A)
【文献】 特開2008−075333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/10
F16L 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管に形成された横穴から止水材打設ホースを介して前記管の内部に止水材を打設するための止水材打設用器具であって、
前記横穴に対して前記止水材打設ホースを進退させるホースガイド部と、
前記横穴に係合し、前記止水材打設ホースが進退する進退方向における移動を規制する係合固定部と、を有する、ことを特徴とする止水材打設用器具。
【請求項2】
前記管の外部で前記横穴の周りを囲い、前記管の内部から前記横穴を介してオーバーフローさせた前記止水材で前記横穴の蓋を形成する箱型筐体部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の止水材打設用器具。
【請求項3】
管に形成された横穴から止水材打設ホースを介して前記管の内部に止水材を打設するための止水材打設用器具であって、
前記横穴に対して前記止水材打設ホースを進退させるホースガイド部と、
前記管の外部で前記横穴の周りを囲い、前記管の内部から前記横穴を介してオーバーフローさせた前記止水材で前記横穴の蓋を形成する箱型筐体部と、を有する、ことを特徴とする止水材打設用器具。
【請求項4】
前記止水材打設ホースは、前記管の内部と、前記管の外部であって前記箱型筐体部の内部との間で進退する、ことを特徴とする請求項2または3に記載の止水材打設用器具。
【請求項5】
前記箱型筐体部は、前記管の外部の形状に応じた形状を有する管接触部を備える、ことを特徴とする請求項4に記載の止水材打設用器具。
【請求項6】
前記箱型筐体部は、その内外を連通させる水抜き部を有する、ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の止水材打設用器具。
【請求項7】
前記止水材打設ホースには、フランジが設けられており、
前記ホースガイド部は、前記フランジよりも小さな径のガイド穴を備えて前記止水材打設ホースが退くときに前記フランジと接触可能な板ガイド部を有する、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の止水材打設用器具。
【請求項8】
管に形成された横穴から止水材打設ホースを介して前記管の内部に止水材を打設するための止水材打設用器具であって、
前記横穴に対して前記止水材打設ホースを進退させるホースガイド部を有し、
前記止水材打設ホースには、フランジが設けられており、
前記ホースガイド部は、前記フランジよりも小さな径のガイド穴を備えて前記止水材打設ホースが退くときに前記フランジと接触可能な板ガイド部を有する、ことを特徴とする止水材打設用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水材打設用器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器やその中の核燃料が損傷または溶融する過酷事故が生じた際、これらを補修したり、除去したりする作業が必要となる。このような状態のとき、原子炉格納容器の内部は極めて高い放射線量となっている。つまり、原子炉圧力容器や原子炉格納容器へ接近する作業は容易でない。このため、原子炉格納容器を冠水させ、放射線量を低減させた上で作業を行うことが想定される。
【0003】
下記特許文献1には、原子炉格納容器の冠水方法が開示されている。この方法では、原子炉格納容器を冠水させる手法の一つとして、原子炉圧力容器を収納するドライウェルと、内部にプールが形成されるサプレッションチェンバと、の間を接続する全てのベント管に止水材を打設し、その全てのベント管を閉塞することで水漏れを防止する手法(ベント管閉塞工程)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−108956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベント管は、内径が約2m前後の大口径の鋼管からなる。このような大口径の管を止水材で閉塞する場合、閉塞したい管に止水材打設のための横穴を開け、その横穴に止水材打設ホースを挿入し、その止水材打設ホースを保持して止水材を打設し、止水材打設完了後、管に開けた横穴の閉止を行うこととなる。
ところで、大口径の管の内部に止水材を打設する高さが高いと、落下時の衝撃で止水材の成分が分離し、上手く固まらず、止水材として機能しなくなる場合がある。しかしながら、高放射線量環境下にあるベント管では、作業者が近接して止水材打設の作業を行うことができない、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、作業員が近接できない環境下であっても、閉塞したい管を止水材で適切に閉塞することができる止水材打設用器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、管に形成された横穴から止水材打設ホースを介して前記管の内部に止水材を打設するための止水材打設用器具であって、前記横穴に対して前記止水材打設ホースを進退させるホースガイド部を有する、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、止水材打設用器具にホースガイド部を設け、管に形成された横穴に対して止水材打設ホースを進退させる。このように、本発明では、止水材打設用器具によって作業員が近接できない環境下で止水材打設ホースを保持し、止水材の打設高さを調整できるため、落下時の衝撃で止水材の成分が分離することなく、閉塞したい管を止水材で適切に閉塞することができる。
【0008】
また、本発明においては、前記横穴に係合し、前記止水材打設ホースが進退する進退方向における移動を規制する係合固定部を有する、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、止水材打設用器具に係合固定部を設け、横穴に係合させ、止水材打設ホースが進退する進退方向における移動を規制する。このように、本発明では、止水材打設用器具を横穴に係合させて相対的な位置決めをすることで、ホースガイド部による止水材打設ホースのガイドを適切に行うことができ、また、止水材を打設する際に受ける反力による止水材打設用器具の外れを防止することができる。
【0009】
また、本発明においては、前記管の外部で前記横穴の周りを囲い、前記管の内部から前記横穴を介してオーバーフローさせた前記止水材で前記横穴の蓋を形成する箱型筐体部を有する、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、止水材打設用器具に箱型筐体部を設け、管の外部で横穴の周りを囲い、横穴を介してオーバーフローさせた止水材で該横穴の蓋を形成する。このように、本発明では、止水材打設完了後に別途横穴の閉塞を行うことなく、止水材打設ホースが挿入される横穴の閉塞を行うことができる。
【0010】
また、本発明においては、前記止水材打設ホースは、前記管の内部と、前記管の外部であって前記箱型筐体部の内部との間で進退する、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、止水材打設ホースを管の内部に進入させることで、止水材の成分を分離させることなく、管の内部に止水材を打設することができる。また、本発明では、止水材打設ホースを管の外部であって箱型筐体部の内部に退避させることで、箱型筐体部の内部に止水材を充填させ易くすることができ、横穴を閉塞する蓋を確実に形成することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記箱型筐体部は、前記管の外部の形状に応じた形状を有する管接触部を備える、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、箱型筐体部の管接触部が管の外部の形状に沿って密に接触できるため、箱型筐体部と管との隙間からの止水材の漏れを防止し、箱型筐体部に止水材を充填させて、横穴を閉塞する蓋を確実に形成することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記箱型筐体部は、その内外を連通させる水抜き部を備える、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、箱型筐体部に水抜き部を設けることで、箱型筐体部の内部から水を排水しつつ箱型筐体部に止水材を充填させて、横穴を閉塞する蓋を確実に形成することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記止水材打設ホースには、フランジが設けられており、前記ホースガイド部は、前記フランジよりも小さな径のガイド穴を備えて前記止水材打設ホースが退くときに前記フランジと接触可能な板ガイド部を有する、という構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、止水材打設ホースに設けられたフランジがホースガイド部に設けられた板ガイド部に接触すると、板ガイド部に設けられたガイド穴が閉塞されるため、ガイド穴からの止水材の漏れを防止し、箱型筐体部に止水材を充填させて、横穴を閉塞する蓋を確実に形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作業員が近接できない環境下であっても、閉塞したい管を止水材で適切に閉塞することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態における沸騰水型原子炉の概略構成を示す縦断面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3】本発明の実施形態における止水材打設用器具の構成を示す縦断面図である。
図4】本発明の実施形態における止水材打設用器具の外観を示す斜視図である。
図5】本発明の実施形態におけるホースガイド部の構成を示す平面図である。
図6】本発明の実施形態における止水材打設用器具を用いたベント管閉塞工程における作業を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態における止水材打設用器具を用いたベント管閉塞工程における作業を説明するための図である。
図8】本発明の一別実施形態における係合固定部の構成を示す縦断面図である。
図9】本発明の一別実施形態における係合固定部の構成を示す縦断面図である。
図10】本発明の一別実施形態における係合固定部の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の説明においては、本発明を沸騰水型原子炉の1つであるMARK−I型の原子炉格納容器を冠水させる方法に適用した例について説明する。
【0017】
先ず、MARK−I型の沸騰水型原子炉1について説明する。図1は、本発明の実施形態における沸騰水型原子炉1の概略構成を示す縦断面図である。また、図2は、図1のA−A断面図である。なお、図2においては、後述の原子炉建屋2は省略されている。図1に示すように、沸騰水型原子炉1は、原子炉建屋2と、原子炉格納容器3と、ベントヘッダ4と、ダウンカマ5と、支持部6と、原子炉圧力容器7と、不図示の炉心を備えている。
【0018】
原子炉建屋2は、原子炉格納容器3と、ベントヘッダ4と、ダウンカマ5と、支持部6と、原子炉圧力容器7と、不図示の炉心とを収納する建屋であり、鉄筋コンクリートにより形成されている。この原子炉建屋2の下部には、後述する原子炉格納容器3のサプレッションチェンバ3bを設置するためのトーラス室2aが設けられている。なお、図示していないが、原子炉建屋2には、他に非常用炉心冷却系ポンプ、浄化設備、燃料プール、機器仮置きプール、非常用ガス処理系設備等が収納されている。
【0019】
原子炉格納容器3は、原子炉圧力容器を収容するドライウェル3aと、ドライウェル3aの周囲に設けられるサプレッションチェンバ3bと、ドライウェル3aとサプレッションチェンバ3bとを接続するベント管3cとから構成されている。
【0020】
ドライウェル3aは、丸底フラスコ形状とされた鋼鉄製の容器であり、原子炉建屋2の内壁内に設置されている。サプレッションチェンバ3bは、断面形状が図1に示すように円形であり、平面視形状が図2に示すように多角形の環状形状とされた鋼鉄製の容器である。なお、過酷事故によりサプレッションチェンバ3bに破損が生じていなければ、このサプレッションチェンバ3bの内部には水が貯留されてプールが形成されている。ベント管3cは、ドライウェル3aとサプレッションチェンバ3bとの間に設けられており、ドライウェル3aに蒸気が漏れ出したときに蒸気をサプレッションチェンバ3bに導く鋼鉄製の管である。このベント管3cは、図2に示すように、8本設けられている。各ベント管3cは、等間隔で配列されている。
【0021】
ベントヘッダ4は、サプレッションチェンバ3bの内部にサプレッションチェンバ3bと同心円状に配置される環状の管である。このベントヘッダ4は、全てのベント管3cの先端に接続されている。
【0022】
ダウンカマ5は、ベント管3cに接続されたベントヘッダ4に取り付けられている。このダウンカマ5は、逆U字形状の管部材であり、下方に向く両端に開口5aが設けられ、頂部がベントヘッダ4と接続されている。なお、サプレッションチェンバ3bの内部にプールが形成されている場合には、このプールの水面下にダウンカマ5の開口5aが配置される。このダウンカマ5を介して、サプレッションチェンバ3bの内部空間とベント管3cとが接続されている。このようなダウンカマ5は、図2に示すように、ベントヘッダ4に沿って等間隔で複数設けられている。
【0023】
支持部6は、ドライウェル3aの底部に設けられた鉄筋コンクリート部材であり、原子炉圧力容器7を支持する。原子炉圧力容器7は、支持部6上に固定されてドライウェル3aの内部に配置されている。この原子炉圧力容器7は、鋼鉄製の容器であり、内部に炉心を収納している。不図示の炉心は、核燃料や制御棒によって構成されており、原子炉圧力容器7の内部で支持されている。
【0024】
次に、上記構成の原子炉格納容器3の冠水方法に用いる止水材打設用器具10の構成について図3図5を参照して説明する。
なお、本実施形態で採用する原子炉格納容器3の冠水方法は、全てのベント管3c(管)に止水材を打設し、その全てのベント管3cを閉塞することで、水漏れを防止し、原子炉格納容器3を冠水させる方法である。
【0025】
図3は、本発明の実施形態における止水材打設用器具10の構成を示す縦断面図である。また、図4は、本発明の実施形態における止水材打設用器具10の外観を示す斜視図である。また、図5は、本発明の実施形態におけるホースガイド部20の構成を示す平面図である。
図3に示すように、止水材打設用器具10は、ベント管3cに形成された横穴3c1から止水材打設ホース11を介してベント管3cの内部に止水材Cを打設するためのものである。
【0026】
止水材Cとしては、例えば、可塑性のグラウト材が好ましく、具体的には、コンクリート等の一定時間経過後に固化するものや、高分子ゲルや水ガラス等からなるものを用いることができる。本実施形態では、止水材Cとして、可塑性のグラウト材を採用している。
止水材打設ホース11は、所定の剛性と可撓性を有する多層構造のホースである。この止水材打設ホース11のノズル先端部には、フランジ12が設けられている。このフランジ12は、例えば、ナット等の自在に装着できるものであっても良い。
【0027】
止水材打設用器具10は、ホースガイド部20を有する。ホースガイド部20は、横穴3c1に対して止水材打設ホース11を進退自在に保持するものである。ホースガイド部20は、止水材打設ホース11をガイドする複数のガイドローラー21を有する。ガイドローラー21は、フリーローラーであり、止水材打設ホース11が通るガイド筒22の内部に設けられている。
【0028】
ガイドローラー21は、図5に示すように、止水材打設ホース11の周りに複数配置されている。本実施形態のガイドローラー21は、平面視で止水材打設ホース11を四方向からガイドするようになっている。また、本実施形態のガイドローラー21は、止水材打設ホース11の周面形状に応じた溝が形成された周面21aを有している。このガイドローラー21は、図3に示すように、ガイド筒22の内部に複数段(本実施形態では3段)で設けられている。
【0029】
ガイドローラー21の最下段の下側には、板ガイド部23が設けられている。板ガイド部23は、ガイド筒22の内部に設けられ、止水材打設ホース11のフランジ12よりも小さな径のガイド穴23aを有している。ガイド穴23aの径は、止水材打設ホース11のホース部分が所定のクリアランスを保持して挿通できるように設定されている。板ガイド部23は、止水材打設ホース11を進退自在にガイドすると共に、止水材打設ホース11が上方に退くときにフランジ12と接触可能な構成となっている。
【0030】
止水材打設用器具10は、係合固定部30を有する。係合固定部30は、横穴3c1に係合し、止水材打設ホース11が進退する進退方向における移動を規制するものである。係合固定部30は、ベント管3cの内部に進入し、横穴3c1の縁に係合するフック31を有する。フック31は、ガイド筒22の下端部(一端部)の周面に回動自在に設けられている。本実施形態のフック31は、ガイド筒22の周方向において等間隔で4つ設けられている。
【0031】
フック31は、ガイド筒22に沿って畳まれた状態(図3において2点鎖線で示す)から、ガイド筒22の外側に展開した状態(図3において実線で示す)へと回動可能な構成となっている。係合固定部30は、フック31を後述する箱型筐体部40の外側から操作する操作部32を有する。操作部32は、ロッド33と、可動リング34と、バネ部材35と、を有する。ロッド33は、後述する箱型筐体部40の内外を連通して設けられ、フック31と可動リング34との間を接続するものである。
【0032】
可動リング34は、箱型筐体部40の外側でガイド筒22の周面に沿って軸方向に移動可能な構成となっている。可動リング34が、第1の位置(図3において2点鎖線で示す)に位置するとき、それぞれのフック31が畳まれ、また、第2の位置(図3において実線で示す)に位置するとき、それぞれのフック31が展開するようになっている。バネ部材35は、可動リング34を第1の位置から第2の位置に向かって付勢するものである。バネ部材35は、可動リング34と箱型筐体部40との間に配置されている。
【0033】
ガイド筒22の上端部(他端部)の周面には、ロボットアームが止水材打設用器具10を把持するためのチャック溝24が設けられている。ロボットアームが止水材打設用器具10を把持したとき、そのロボットアームによって可動リング34が押し下げられ、フック31が畳まれるようになっている。また、ロボットアームが止水材打設用器具10を離したとき、バネ部材35によって可動リング34が押し上げられ、フック31が展開するようになっている。
【0034】
止水材打設用器具10は、箱型筐体部40を有する。箱型筐体部40は、ベント管3cの外部で横穴3c1の周りを囲い、ベント管3cの内部から横穴3c1を介してオーバーフローさせた止水材Cで横穴3c1の蓋を形成するためのものである。箱型筐体部40は、横穴3c1よりも大きく形成された略有底円筒形状を呈している(図4参照)。箱型筐体部40の中心部には、ガイド筒22が挿通され、止水材打設ホース11が通るようになっている。
【0035】
止水材打設ホース11は、ベント管3cの内部だけでなく、箱型筐体部40の内部にも止水材Cを充填させるため、ベント管3cの内部(図3において2点鎖線で示す)と、ベント管3cの外部であって箱型筐体部40の内部(図3において実線で示す)との間で進退できるようになっている。なお、ガイド筒22には貫通穴22aが設けられており、止水材Cは、この貫通穴22aを通って箱型筐体部40の隅々まで充填される。
【0036】
箱型筐体部40は、ベント管3cの外部に接触する管接触部41を有する。管接触部41は、図4に示すように、ベント管3cの外部の形状に応じた形状を有する。すなわち、ベント管3cの外部の形状は所定の曲率を有しており、管接触部41は、その曲率に対応したカーブ形状を有している。また、管接触部41は、可撓性を有するガスケット42を有する。このため、ベント管3cの外部に多少の凹凸があっても、ガスケット42が柔軟に変形することで、管接触部41がベント管3cに密に接触できるようになる。
【0037】
箱型筐体部40は、水抜き部43を有する。水抜き部43は、図3に示すように、管状になっており、箱型筐体部40の内外を連通させるものである。水抜き部43は、ベント管3cに水が溜まっている場合に、その水が箱型筐体部40の止水材Cの充填を阻害するのを防止するものである。この水抜き部43は、止水材打設用器具10が斜めに延びるベント管3cに取り付けられたときに、最も高くなる箱型筐体部40の角隅部40aにおいて、内外を連通させるようになっている。
【0038】
続いて、上記構成の止水材打設用器具10を用いた原子炉格納容器3の冠水方法(ベント管閉塞工程)について図6及び図7を参照して説明する。
図6及び図7は、本発明の実施形態における止水材打設用器具10を用いたベント管閉塞工程における作業を説明するための図である。ベント管閉塞工程では、図6(a)、図6(b)、図7(a)、図7(b)の順に作業が行われる。なお、ベント管閉塞工程を開始する時点では、原子炉圧力容器7に対する冷却水の供給が継続されており、原子炉圧力容器7から漏れ出した冷却水がベント管3cを介してサプレッションチェンバ3bに流れ出ているものとする(図6及び図7中矢印で示す)。
【0039】
先ず、図6(a)に示すように、原子炉建屋2の内部に設けられると共にトーラス室2aの上階に位置する部屋(以下、上階室2bと称する)にロボットアーム100を設置する。次に、ロボットアーム100にウォータージェット等の穴あけ手段101を装着し、遠隔操作によりベント管3cに横穴3c1と横穴3c2を形成する。横穴3c2は、ベントヘッダ4の接続位置に対応する位置に形成する。横穴3c1は、横穴3c2よりも上流側に形成する。なお、ロボットアーム100の遠隔操作は、例えばトーラス室2aやサプレッションチェンバ3b内に設置した不図示のカメラを用いて行う。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、ベント管3cに形成された横穴3c2から内部にインフラタブルシール102を導入する。インフラタブルシール102は、止水材Cがベントヘッダ4を介して流れ出ることを防止するためのものである。インフラタブルシール102は、袋状のものであり、内部に充填材を注入することで膨らませることができる。充填材は、上階室2bからロボットアーム100によってガイドしてきたホース103を介してインフラタブルシール102に注入する。
【0041】
次に、図7(a)に示すように、ベント管3cに形成された横穴3c1に止水材打設用器具10を設置する。止水材打設用器具10は、図3に示すように、横穴3c1に係合する係合固定部30を有する。ロボットアーム100が止水材打設用器具10を把持しているとき、可動リング34が押し下げられており、フック31は、畳まれた状態で横穴3c1に進入する。ロボットアーム100によって、管接触部41がベント管3cの外部の形状に密着するように向きを調整したら、止水材打設用器具10を離す。
【0042】
ロボットアーム100が止水材打設用器具10から離れると、バネ部材35によって可動リング34が押し上げられ、フック31が展開する。フック31は、横穴3c1の縁に係合し、ベント管3cが厚み方向で挟み込まれることで、止水材打設用器具10の設置が完了する。このように、ベント管3cを厚み方向で挟み込む構造を採用することで、止水材打設用器具10の止水材打設ホース11の進退方向における移動を規制し、ガタを無くすことができる。なお、止水材打設用器具10を設置したら、次のベント管3cにおいて作業をするためにロボットアーム100を撤去しても良い。
【0043】
次に、図7(b)に示すように、ベント管3cに形成された横穴3c1から止水材打設ホース11を介してベント管3cの内部に止水材Cを打設する。ベント管3cは、内径が約2m前後の大口径の鋼管からなるため、ベント管3cのトップからボトムに止水材Cを落下させると、その落下の衝撃で止水材Cの成分(例えばコンクリートの場合、砂利等)が分離し、上手く固まらなくなる場合がある。このため、本実施形態では、図3に示すように、止水材打設用器具10にホースガイド部20を設け、ベント管3cに形成された横穴3c1に対して止水材打設ホース11を進退可能とさせている。
【0044】
具体的に、上階室2b等から止水材打設ホース11を繰り出し、ベント管3cの内部に進入させることにより、ベント管3cのボトムまでの距離を短くし、止水材Cの落下の衝撃を緩和することができる。このように、本実施形態では、作業員が近接できない環境下で止水材打設ホース11を止水材打設用器具10に保持させ、ホースガイド部20によって止水材Cの打設高さを調整することで、落下時の衝撃で止水材Cの成分を分離させることなく、ベント管3cを止水材Cで適切に閉塞することができる。
【0045】
また、本実施形態では、止水材打設用器具10に係合固定部30を設け、横穴3c1に係合させ、止水材打設ホース11が進退する進退方向における移動を規制している。このように、止水材打設用器具10を横穴3c1に係合させて相対的な位置決めをすることで、ホースガイド部20による止水材打設ホース11のガイドを適切に行うことができ、また、止水材Cを打設する際に受ける反力による止水材打設用器具10の外れを防止することができる。
【0046】
止水材打設ホース11をベント管3cの内部に進入させ、止水材Cの打設をある程度行ったら、止水材打設ホース11を徐々に引き上げていく。そして、図3に示すように、止水材打設ホース11をベント管3cの外部であって箱型筐体部40の内部まで退避させる。本実施形態では、止水材打設完了後に別途に横穴3c1の閉塞を行うことなく、止水材打設ホース11が挿入される横穴3c1の閉塞を行うべく、ベント管3cの外部で横穴3c1の周りを箱型筐体部40で囲い、ベント管3cの内部から横穴3c1を介してオーバーフローさせた止水材Cで横穴3c1の蓋を形成するようにしている。
【0047】
止水材打設ホース11には、フランジ12が設けられており、ホースガイド部20は、フランジ12よりも小さな径のガイド穴23aを備える板ガイド部23を有する。この構成によれば、止水材打設ホース11が退くと、フランジ12が板ガイド部23に接触し、板ガイド部23に設けられたガイド穴23aが閉塞される。また、箱型筐体部40は、ベント管3cの外部の形状に応じた形状を有する管接触部41を備えている。この構成によれば、管接触部41がベント管3cの外部の形状に沿って密に接触できる。したがって、箱型筐体部40とベント管3cとの隙間や、ガイド穴23aからの止水材Cの漏れを防止し、箱型筐体部40に止水材Cを充填させて、横穴3c1を閉塞する蓋を確実に形成することができる。
【0048】
ベント管3cに冷却水が流れ出ている場合、箱型筐体部40の内部に冷却水が溜まる。本実施形態では、箱型筐体部40に水抜き部43を設けることで、箱型筐体部40の内部から冷却水を排水しつつ箱型筐体部40に止水材Cを充填させることができる。水抜き部43は、図7(b)に示すように、斜めに延びるベント管3cに取り付けられたときに、最も高くなる箱型筐体部40の角隅部40a(図3参照)に配置されているため、箱型筐体部40の内部に溜まった冷却水を最後まで排水することができる。
以上のように、止水材打設用器具10を用いることで、作業員が近接できない環境下であっても、ベント管3cを止水材Cで適切に閉塞することができる。
【0049】
このように、上述の本実施形態によれば、ベント管3cに形成された横穴3c1から止水材打設ホース11を介してベント管3cの内部に止水材Cを打設するための止水材打設用器具10であって、横穴3c1に対して止水材打設ホース11を進退させるホースガイド部20を有する、という構成を採用することによって、作業員が近接できない環境下であっても、止水材Cの打設高さを調整できるため、落下時の衝撃で止水材Cの成分を分離させることなく、ベント管3cを止水材Cで適切に閉塞することができる。
【0050】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0051】
例えば、本発明は、以下の図8図10に示す形態を採用し得る。なお、以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0052】
図8は、本発明の一別実施形態における係合固定部30aの構成を示す縦断面図である。
図8に示すように、係合固定部30aは、横穴3c1に対する位置合わせのための芯出し部50を有する。芯出し部50は、三角形のガイド片であり、ガイド筒22の下端部の周面に複数設けられている。この芯出し部50が横穴3c1に係合することで、ガイド筒22(ホースガイド部20)の芯出しが行われる。この構成によれば、横穴3c1の加工精度が高くなくても、止水材打設用器具10を容易に設置することができる。
【0053】
図9は、本発明の一別実施形態における係合固定部30bの構成を示す縦断面図である。
図9に示すように、係合固定部30bは、嵌め込み型のフック52を有する。フック52は、ガイド筒22の下端部の周面に回動自在に設けられている。フック52は、先端部に返し52aがついた略レの字形状を有している。このフック52は、バネ部材53によって先端部が開く方向に付勢されている。この構成によれば、構造が比較的シンプルとなるため、動作の確実性を高め、製造コストを低減することができる。
【0054】
図10は、本発明の一別実施形態における係合固定部30cの構成を示す縦断面図である。
図10に示すように、係合固定部30cは、玉フック54を有する。玉フック54は、ワイヤー55で吊られている。この玉フック54は、ガイド筒22の下端部の周りに配置されており、ワイヤー55を引っ張ることで、横穴3c1に楔として挟み込まれるようになっている。この構成によれば、垂直方向だけでなく、水平方向のガタも低減することができる。
【0055】
また、例えば、上記実施形態では、ガイド筒22に貫通穴22aを形成して、止水材Cを箱型筐体部40の内部に充填させる構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、ガイド筒22の下端部を櫛歯状や棒状にして、その隙間から止水材Cを充填させる構成を採用してもよい。
【0056】
また、例えば、上記実施形態では、本発明を沸騰水型原子炉の1つであるMARK−I型の原子炉格納容器を冠水させる方法に適用した例について説明したが、本発明はベント管だけでなく、他の閉塞したい管の止水材の打設の際にも用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
3c…ベント管(管)、3c1…横穴、10…止水材打設用器具、11…止水材打設ホース、12…フランジ、20…ホースガイド部、23…板ガイド部、23a…ガイド穴、30…係合固定部、40…箱型筐体部、41…管接触部、43…水抜き部、C…止水材
図1
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図8
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図10