【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の構成を、「全体システム構成」「EV待機制御の詳細構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1はFFハイブリッド車両の全体システムを示す。以下、
図1に基づいて、FFハイブリッド車両の全体システム構成を説明する。
【0012】
FFハイブリッド車両の駆動系としては、
図1に示すように、スタータモータ1と、横置きエンジン2と、第1クラッチ3(略称「CL1」)と、モータ/ジェネレータ4と、第2クラッチ5(略称「CL2」)と、ベルト式無段変速機6(略称「CVT」)と、を備えている。ベルト式無段変速機6の出力軸は、終減速ギヤトレイン7と差動ギヤ8と左右のドライブシャフト9R,9Lを介し、左右の前輪10R,10Lに駆動連結される。なお、左右の後輪11R,11Lは、従動輪としている。
【0013】
前記スタータモータ1は、横置きエンジン2のクランク軸に設けられたエンジン始動用ギヤに噛み合うギヤを持ち、エンジン始動時にクランク軸を回転駆動するクランキングモータである。
【0014】
前記横置きエンジン2は、クランク軸方向を車幅方向としてフロントルームに配置したエンジンであり、電動ウォータポンプ12と、横置きエンジン2の逆転を検知するクランク軸回転センサ13と、を有する。
【0015】
前記第1クラッチ3は、横置きエンジン2とモータ/ジェネレータ4との間に介装された油圧作動によるノーマルオープンの乾式多板摩擦クラッチであり、第1クラッチ油圧により完全締結/スリップ締結/開放が制御される。
【0016】
前記モータ/ジェネレータ4は、第1クラッチ3を介して横置きエンジン2に連結された三相交流の永久磁石型同期モータである。このモータ/ジェネレータ4は、後述する強電バッテリ21を電源とし、ステータコイルには、力行時に直流を三相交流に変換し、回生時に三相交流を直流に変換するインバータ26が、ACハーネス27を介して接続される。
【0017】
前記第2クラッチ5は、モータ/ジェネレータ4と駆動輪である左右の前輪10R,10Lとの間に介装された油圧作動による湿式の多板摩擦クラッチであり、第2クラッチ油圧により完全締結/スリップ締結/開放が制御される。実施例1の第2クラッチ5は、遊星ギヤによるベルト式無段変速機6の前後進切替機構に設けられた前進クラッチ5aと後退ブレーキ5bを流用している。つまり、前進走行時には、前進クラッチ5aが第2クラッチ5とされ、後退走行時には、後退ブレーキ5bが第2クラッチ5とされる。
【0018】
前記ベルト式無段変速機6は、プライマリ油室とセカンダリ油室への変速油圧によりベルトの巻き付き径を変えることで無段階の変速比を得る変速機である。このベルト式無段変速機6には、メインオイルポンプ14(メカ駆動)と、サブオイルポンプ15(モータ駆動)と、メインオイルポンプ14からのポンプ吐出圧を調圧することで生成したライン圧PLを元圧として第1,第2クラッチ油圧及び変速油圧を作り出す図外のコントロールバルブユニットと、を有する。なお、メインオイルポンプ14は、モータ/ジェネレータ4のモータ軸(=変速機入力軸)により回転駆動される。サブオイルポンプ15は、主に潤滑冷却用油を作り出す補助ポンプとして用いられる。
【0019】
前記第1クラッチ3とモータ/ジェネレータ4と第2クラッチ5により1モータ・2クラッチの駆動システムが構成され、この駆動システムによる主な駆動態様として、「EVモード」と「HEVモード」を有する。「EVモード」は、第1クラッチ3を開放し、第2クラッチ5を締結してモータ/ジェネレータ4のみを駆動源に有する電気自動車モードであり、「EVモード」による走行を「EV走行」という。「HEVモード」は、両クラッチ3,5を締結して横置きエンジン2とモータ/ジェネレータ4を駆動源に有するハイブリッド車モードであり、「HEVモード」による走行を「HEV走行」という。
【0020】
なお、
図1の回生協調ブレーキユニット16は、ブレーキ操作時、原則として回生動作を行うことに伴い、トータル制動トルクをコントロールするデバイスである。この回生協調ブレーキユニット16には、ブレーキペダルと、横置きエンジン2の吸気負圧を用いる負圧ブースタと、マスタシリンダと、を備える。そして、ブレーキ操作時、ペダル操作量に基づく要求制動力から回生制動力を差し引いた分を液圧制動力で分担するというように、回生分/液圧分の協調制御を行う。
【0021】
FFハイブリッド車両の電源システムとしては、
図1に示すように、モータ/ジェネレータ電源としての強電バッテリ21と、12V系負荷電源としての12Vバッテリ22と、を備えている。
【0022】
前記強電バッテリ21は、モータ/ジェネレータ4の電源として搭載された二次電池であり、例えば、多数のセルにより構成したセルモジュールを、バッテリパックケース内に設定したリチウムイオンバッテリが用いられる。この強電バッテリ21には、強電の供給/遮断/分配を行うリレー回路を集約させたジャンクションボックスが内蔵され、さらに、バッテリ冷却機能を持つ冷却ファンユニット24と、バッテリ充電容量(バッテリSOC)やバッテリ温度を監視するリチウムバッテリコントローラ86と、が付設される。
【0023】
前記強電バッテリ21とモータ/ジェネレータ4は、DCハーネス25とインバータ26とACハーネス27を介して接続される。インバータ26には、力行/回生制御を行うモータコントローラ83が付設される。つまり、インバータ26は、強電バッテリ21の放電によりモータ/ジェネレータ4を駆動する力行時、DCハーネス25からの直流をACハーネス27への三相交流に変換する。また、モータ/ジェネレータ4での発電により強電バッテリ21を充電する回生時、ACハーネス27からの三相交流をDCハーネス25への直流に変換する。
【0024】
前記12Vバッテリ22は、補機類である12V系負荷の電源として搭載された二次電池であり、例えば、エンジン車等で搭載されている鉛バッテリが用いられる。強電バッテリ21と12Vバッテリ22は、DC分岐ハーネス25aとDC/DCコンバータ37とバッテリハーネス38を介して接続される。DC/DCコンバータ37は、強電バッテリ21からの数百ボルト電圧を12Vに変換するものであり、このDC/DCコンバータ37を、ハイブリッドコントロールモジュール81により制御することで、12Vバッテリ22の充電量を管理する構成としている。
【0025】
FFハイブリッド車両の制御システムとしては、
図1に示すように、車両全体の消費エネルギーを適切に管理する機能を担う統合制御手段として、ハイブリッドコントロールモジュール81(略称:「HCM」)を備えている。このハイブリッドコントロールモジュール81に接続される制御手段として、エンジンコントロールモジュール82(略称:「ECM」)と、モータコントローラ83(略称:「MC」)と、CVTコントロールユニット84(略称:「CVTCU」)と、リチウムバッテリコントローラ86(略称:「LBC」)と、を有する。ハイブリッドコントロールモジュール81を含むこれらの制御手段は、CAN通信線90(CANは「Controller Area Network」の略称)により双方向情報交換可能に接続される。
【0026】
前記ハイブリッドコントロールモジュール81は、各制御手段、イグニッションスイッチ91、アクセル開度センサ92、車速センサ93等からの入力情報に基づき、様々な制御を行う。エンジンコントロールモジュール82は、横置きエンジン2の燃料噴射制御や点火制御や燃料カット制御等を行う。モータコントローラ83は、インバータ26によるモータジェネレータ4の力行制御や回生制御等を行う。CVTコントロールユニット84は、第1クラッチ3の締結油圧制御、第2クラッチ5の締結油圧制御、ベルト式無段変速機6の変速油圧制御等を行う。リチウムバッテリコントローラ86は、強電バッテリ21のバッテリSOCやバッテリ温度等を管理する。
【0027】
[EV待機制御の詳細構成]
図2は、実施例1のハイブリッドコントロールモジュール81にて実行されるEV待機制御処理の流れを示す(EV待機制御手段)。以下、EV待機制御処理構成をあらわす
図2の各ステップについて説明する。
【0028】
ステップS1では、イグニッションスイッチ91からのON信号により開始する起動シーケンスを実行し、ステップS2へ進む。
この起動シーケンスとしては、イグニッションONから順に、起動判定・強電リレー接続・起動前準備が行われる。
【0029】
ステップS2では、ステップS1での起動シーケンスに続き、レディフラグがoffからonに切り替わったか否かを判断する。YES(Ready-on)の場合はステップS3へ進み、NO(Ready-off)の場合はステップS1へ戻る。
【0030】
ステップS3では、ステップS2でのReady-onであるとの判断、或いは、ステップS4でのモータ回転数が安定していないとの判断に続き、メカオイルポンプ14のオイルポンプエア抜き制御が行われ、ステップS4へと進む。
ここで、オイルポンプエア抜き制御は、強電リレー接続が完了すると、目標モータ回転数までのモータ回転数の上昇指令を出力し、モータ/ジェネレータ4によりメカオイルポンプ14を回転駆動することで行われる。
【0031】
ステップS4では、ステップS3でのオイルポンプエア抜き制御に続き、モータ回転数が安定しているか否かを判断する。YES(モータ回転数安定)の場合はステップS5へ進み、NO(モータ回転数不安定)の場合はステップS3へ戻る。
ここで、モータ回転数の安定は、モータ/ジェネレータ4の回転数が、目標モータ回転数に到達し、かつ、目標モータ回転数を所定時間維持していることで判断する。
【0032】
ステップS5では、ステップS4でのモータ回転数安定であるとの判断に続き、EV待機プリチャージ制御を開始し、ステップS6へ進む。
【0033】
ステップS6では、ステップS5でのEV待機プリチャージ制御開始、或いは、ステップS9,S11,S13の処理に続き、EV待機プリチャージ制御を開始した時点から起動されるタイマをカウントアップし、ステップS7へ進む。
【0034】
ステップS7では、ステップS6でのタイマカウントアップに続き、EV待機プリチャージ中に上昇変化するモータトルクが発生していないか否かを判断する。YES(モータトルク発生無し)の場合はステップS8へ進み、NO(モータトルク発生有り)の場合はステップS13へ進む。
【0035】
ステップS8では、ステップS7でのモータトルク発生無しとの判断に続き、タイマ値が所定時間Δt以内であるか否かを判断する。YES(タイマ値≦Δt)の場合はステップS9へ進み、NO(タイマ値>Δt)の場合はステップS10へ進む。
【0036】
ステップS9では、ステップS8でのタイマ値≦Δtであるとの判断に続き、EV待機プリチャージのうち、高さ(大)の第1プリチャージ指示油圧を出力し、ステップS6へ戻る。
ここで、第1プリチャージ指示油圧を出力する所定時間Δtと、第1プリチャージ指示油圧の高さは、第1クラッチ3のピストン室へ油を充填するのに要する時間と指示油圧の高さを予め実験し、複数の実験データに基づいて、最適時間と最適指示油圧に決める。
【0037】
ステップS10では、ステップS8でのタイマ値>Δtであるとの判断に続き、EV待機プリチャージのうち、高さ(小)の第2プリチャージ指示油圧を出力し、ステップS11へ進む。
【0038】
ステップS11では、ステップS10での第2プリチャージ指示油圧出力に続き、タイマが満了したか否かを判断する。YES(タイマ満了)の場合はステップS13へ進み、NO(タイマ満了前)の場合はステップS12へ進む。
ここで、満了するタイマ時間は、予め設定されたEV待機プリチャージ時間とされる。よって、EV待機プリチャージ時間から所定時間Δtを差し引いた時間が、第2プリチャージ指示油圧の出力時間となる。
【0039】
ステップS12では、ステップS11でのタイマ満了前であるとの判断に続き、EV待機プリチャージ中は、モータ/ジェネレータ4の回転数を目標モータ回転数に維持しながらのオイルポンプエア抜き制御を継続し、ステップS6へ戻る。
【0040】
ステップS13では、ステップS11でのタイマ満了であるとの判断に続き、第1クラッチ3にEV待機油圧指示を出力し、エンドへ進む。
ここで、EV待機油圧指示は、トルク0点油圧の学習値から所定圧αだけオフセットさせたEV待機油圧の印加を継続する油圧指示とする(
図3参照)。そして、第1クラッチ3をEV待機油圧の状態とし、エンジン始動要求の出力に待機しておく。
【0041】
次に、作用を説明する。
実施例1のFFハイブリッド車両の制御装置における作用を、[EV待機油圧制御動作]、[EV待機油圧制御作用]に分けて説明する。
【0042】
[EV待機油圧制御処理動作]
実施例1のFFハイブリッド車両は、
図3に示すように、第1クラッチ3として油圧作動によるノーマルオープンの乾式多板摩擦クラッチを用いている。この第1クラッチ3の場合、複数の摩擦締結面を持っていることで、各プレートのフェーシング摩耗が進行すると、締結容量(トルク)を発生するピストンストローク位置が、摩耗前のストローク位置から大きく変動して長くなる。このため、摩耗した状態においては、
図3のクラッチのピストン位置を操作する領域に示すように、油圧を印加してからトルクの0点油圧に達するまで、言い換えると、トルク0点のピストンストローク位置に到達するまでに時間を要する。したがって、エンジン始動要求に基づき第1クラッチ3をスリップ締結して横置きエンジン2のクランキングを行う際、油圧印加の開始からエンジンクランキングが開始されるまでにエンジン始動ラグが生じる。
【0043】
これに対し、
図3の油圧−トルク特性に示すように、第1クラッチ3のフェーシング摩耗に応じてピストンストローク位置をトルク0点に対し所定油圧αだけオフセットする。そして、
図3の油圧−ピストンストローク特性に示すように、EV待機時のピストンストローク位置にクラッチピストンを待機させ、エンジン始動時間の短縮を狙ったものが実施例1のEV待機油圧制御である。なお、この“クラッチピストンを待機させること”を、通称、EV待機と呼ぶ。以下、
図2に基づき、EV待機油圧制御処理の流れを説明する。
【0044】
イグニッションオン後、起動シーケンスを経過してレディフラグがoffからonに切り替わると、
図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む。そして、ステップS4にてモータ回転数不安定と判断されている間、ステップS3→ステップS4へと進む流れが繰り返され、ステップS3では、モータ/ジェネレータ4によりメカオイルポンプ14を回転駆動することで、メカオイルポンプ14のオイルポンプエア抜き制御が行われる。
【0045】
ステップS4にてモータ回転数安定と判断されると、ステップS4からステップS5へと進み、EV待機プリチャージ制御が開始される。そして、ステップS5からステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む流れが繰り返される。ステップS9では、EV待機プリチャージ制御開始から所定時間Δtまでの間、EV待機プリチャージのうち、高さ(大)の第1プリチャージ指示油圧が出力される。そして、EV待機プリチャージ制御開始から所定時間Δtを超えると、ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS10→ステップS11→ステップS12へと進む流れが繰り返される。ステップS10では、所定時間Δtを経過してからタイマ満了になるまで、EV待機プリチャージのうち、高さ(小)の第2プリチャージ指示油圧が出力される。ステップS11にてタイマ満了と判断されるまでのEV待機プリチャージ中は、ステップS12にて、モータ/ジェネレータ4の回転数を目標モータ回転数に維持しながらのオイルポンプエア抜き制御が継続される。さらに、ステップS11にてタイマ満了と判断されると、ステップS11からステップS13へと進み、第1クラッチ3にEV待機油圧指示が出力される。
【0046】
一方、ステップS7にて、EV待機プリチャージ中に上昇変化するモータトルクの発生有りと判断されると、ステップS7からステップS13へと進み、第1クラッチ3にEV待機油圧指示が出力される。ステップS13では、トルク0点油圧の学習値から所定圧αだけオフセットさせたEV待機油圧の印加を継続するEV待機油圧指示とされ、第1クラッチ3をEV待機油圧の状態とし、エンジン始動要求の出力に待機しておく。
【0047】
次に、
図4に基づき、EV待機油圧制御動作の流れを説明する。
時刻t1は、イグニッションスイッチ91をONとするタイミングであり、時刻t2は、起動シーケンスにて起動判定を介して強電リレー接続が完了した時点である。時刻t2においては、目標車両状態がEVのニュートラル状態とされ、モータ/ジェネレータ4に回転数を上げるモータ駆動指示が出され、
図4の矢印Aに示すように、目標CL1状態をEV待機状態とするEV待機フラグがセットされる。なお、
図4の矢印Bに示すように、時刻t1から時刻t2までの間は、EV待機圧にセットすることなく、第1クラッチ3の油圧はドレーン油圧状態とされる。
【0048】
時刻t3は、モータ/ジェネレータ4の回転数が、目標モータ回転数に到達するタイミングであり、時刻t4は、
図4の矢印Cに示すように、時刻t2にてオイルポンプエア抜き制御が開始されてから所定時間経過したタイミングである。なお、時刻t2と時刻t3の間のタイミングで、
図4の矢印Dに示すように、CVT調圧完了フラグが、CVT調圧完了フラグ=1とされる。時刻t5は、モータ回転数が安定していることが判定され、EV待機プリチャージ制御を開始するタイミングである。ここで、
図4の矢印Eで示す時刻t2〜時刻t5は、CL1指示油圧を0(完全ドレン)とするプリチャージディレー時間であり、このプリチャージディレー時間を確保することで外乱を排除している。
【0049】
時刻t5〜時刻t6は、第1プリチャージ指示油圧の出力期間であり、時刻t6〜時刻t7は、第2プリチャージ指示油圧の出力期間である。
図4の矢印Fで示す時刻t5〜時刻t7のプリチャージ期間は、油温軸つきタイマ閾値以上、又は、モータトルクの上昇検知(
図4の矢印G)の何れかの条件が成立することで終了し、時刻t7以降は、
図4の矢印Hに示すように、EV待機圧にセットされる。なお、時刻t7にてEV待機完了判定がONとされ、時刻t7より遅れたタイミングにてモータ回転数が戻しタイマにより、目標モータ回転数からアイドル回転数まで低下させられる。
【0050】
時刻t8は、エンジン始動要求の出力タイミングであり、エンジン始動要求が出力されると、CL1指示油圧が、EV待機圧からプリチャージ油圧まで一時的に高められ、時刻t9からエンジンクランキングを開始する。
【0051】
[EV待機油圧制御作用]
上記動作により行われるEV待機油圧制御による特徴的なEV待機油圧制御作用について説明する。
【0052】
実施例1では、高圧の第1プリチャージ指示油圧から低圧の第2プリチャージ指示油圧へと変化する指示油圧特性によるプリチャージ圧を、第1クラッチ3のピストンに印加するEV待機プリチャージ制御を行う構成を採用した。
すなわち、EV待機は、第1クラッチ3のピストンストローク位置を所定位置にセットすることなので、素早くセットしたいが、このEV待機状態はエンジン始動シーンではないので、第1クラッチ3のクラッチ容量は発生させたくない。
これに対し、第1クラッチ油圧のプリチャージを行うことで、車両起動後にEV待機指示油圧の出力を継続する場合に比べ、素早くEV待機状態にセットできる。そして、プリチャージの際に、第2プリチャージ指示油圧より高圧の第1プリチャージ指示油圧と、第1プリチャージ指示油圧より低圧の第2プリチャージ指示油圧と、による指示油圧特性にてプリチャージ圧を与えている。このため、第1プリチャージ指示油圧により短時間にて応答良くピストン室に油を充填できるし、第2プリチャージ指示油圧により第1クラッチ3のクラッチ容量が発生する直前のストローク域に収束させることができる。
この結果、第1クラッチ3をクラッチ容量が発生する直前のストローク位置に素早く待機させておくで、車両起動後のエンジン始動時間の短縮を図ることができる。
【0053】
実施例1では、第1クラッチ3として、ノーマルオープンによる乾式多板摩擦クラッチを用いた。
すなわち、上記のように、乾式多板摩擦クラッチの場合、複数の摩擦締結面を持っていることで、摩耗影響が大きく、摩耗が進行すると、エンジン始動時、油圧印加の開始からエンジンクランキングが開始されるまでにエンジン始動ラグが生じる。
これに対し、ノーマルオープンによる乾式多板摩擦クラッチを用いた第1クラッチ3に、EV待機プリチャージ制御を導入することで、摩耗が進行してもエンジン始動ラグの発生を防止することができる。
【0054】
実施例1では、第1プリチャージ圧と第2プリチャージ圧のピストン印加時間を予め定めたタイマ時間により与える。そして、このタイマ管理によるEV待機プリチャージ制御中にモータ/ジェネレータ4のモータトルクの上昇変化が検知されると、EV待機プリチャージ制御を強制終了する構成を採用した。
すなわち、回転数制御されているモータ/ジェネレータ4のモータトルクの上昇変化が検知されるということは、第1クラッチ3がクラッチ容量を発生し、クラッチ容量によるモータ負荷にてモータトルクが上昇変化したことを意味する。
したがって、タイマ管理によりEV待機プリチャージ制御を簡単にしながら、EV待機プリチャージ制御による第1クラッチ3の容量発生を最小限に抑えることができる。
【0055】
実施例1では、モータ/ジェネレータ4の強電リレーが接続されると、モータ/ジェネレータ4への回転数指示によりオイルポンプエア抜き制御を開始し、モータ回転数の安定条件が成立すると、EV待機プリチャージ制御を開始する。そして、EV待機プリチャージ制御中は、オイルポンプエア抜き制御を継続する構成を採用した。
すなわち、第1クラッチ3への油圧は、モータ/ジェネレータ4により駆動されるメカオイルポンプ14を油圧源として生成されるが、車両起動時、メカオイルポンプ14の作動油には空気泡を含む。このため、エア抜きをすることなく、EV待機プリチャージ制御を開始しても、所望の油圧や油量の発生が望めない。
これに対し、EV待機プリチャージ制御の開始前から終了するまでの間、オイルポンプエア抜き制御を継続することで、メカオイルポンプ14の作動油から確実に空気泡が排除され、EV待機プリチャージ制御にて所望の油圧や油量を発生することができる。
【0056】
実施例1では、EV待機プリチャージ制御が終了すると、第1クラッチ3に対しEV待機油圧指示を出力する構成を採用した。
すなわち、EV待機プリチャージ制御が終了すると、第1クラッチ3のピストン室に作動油が充填されるし、クラッチプレートの隙間も詰められる。この状態になると直ちにEV待機油圧指示を出力することで、第1クラッチ3は、トルク0点油圧の学習値から所定圧αだけオフセットさせたEV待機油圧の状態とされる。
したがって、第1クラッチ3が素早くEV待機油圧の状態とされ、エンジン始動要求の出力に待機しておくことができる。
【0057】
次に、効果を説明する。
実施例1のFFハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0058】
(1) 駆動系に、エンジン(横置きエンジン2)と、第1クラッチ3と、モータ(モータ/ジェネレータ4)と、駆動輪(左右前輪10L,10R)と、を備え、
前記モータ(モータ/ジェネレータ4)を駆動源とするEVモードでエンジン始動要求があると、前記モータ(モータ/ジェネレータ4)をエンジンスタータとし、油圧作動による前記第1クラッチ3を介して前記エンジン(横置きエンジン2)をクランキングするハイブリッド車両の制御装置において、
車両起動後のEVモード中、前記第1クラッチ3のピストンストローク位置を、クラッチ容量が発生する直前のストローク位置に待機させておくEV待機制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81)を設け、
前記EV待機制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81)は、第1プリチャージ指示油圧から第1プリチャージ指示油圧より低圧の第2プリチャージ指示油圧へと変化する指示油圧特性によるプリチャージ圧を、前記第1クラッチ3のピストンに印加するEV待機プリチャージ制御を行う(
図2)。
このため、クラッチ容量が発生する直前のストローク位置に第1クラッチ3を素早く待機させるEV待機により、車両起動後のエンジン始動時間の短縮を図ることができる。
【0059】
(2) 前記第1クラッチ3は、ノーマルオープンによる乾式多板摩擦クラッチである(
図1)。
このため、(1)の効果に加え、ノーマルオープンによる乾式多板摩擦クラッチを用いた第1クラッチ3に、EV待機プリチャージ制御を導入することで、摩耗が進行してもエンジン始動ラグの発生を防止することができる。
【0060】
(3) 前記EV待機制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81)は、前記第1プリチャージ圧と前記第2プリチャージ圧のピストン印加時間を予め定めたタイマ時間により与え、このタイマ管理によるEV待機プリチャージ制御中に前記モータ(モータ/ジェネレータ4)のモータトルクの上昇変化が検知されると、EV待機プリチャージ制御を強制終了する(
図2)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、タイマ管理によりEV待機プリチャージ制御を簡単にしながら、EV待機プリチャージ制御による第1クラッチ3の容量発生を最小限に抑えることができる。
【0061】
(4) 前記第1クラッチ3への油圧は、前記モータ(モータ/ジェネレータ4)により駆動されるメカオイルポンプ14を油圧源として生成され、
前記EV待機制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81)は、前記モータ(モータ/ジェネレータ4)の強電リレーが接続されると、前記モータ(モータ/ジェネレータ4)への回転数指示によりオイルポンプエア抜き制御を開始し、モータ回転数の安定条件が成立すると、EV待機プリチャージ制御を開始し、EV待機プリチャージ制御中は、オイルポンプエア抜き制御を継続する(
図1,2)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、メカオイルポンプ14の作動油から確実に空気泡が排除され、EV待機プリチャージ制御にて所望の油圧や油量を発生することができる。
【0062】
(5) 前記EV待機制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81)は、EV待機プリチャージ制御が終了すると、前記第1クラッチ3に対しEV待機油圧指示を出力する(
図2)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、第1クラッチ3が素早くEV待機油圧の状態とされ、エンジン始動要求の出力に待機しておくことができる。
【0063】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0064】
実施例1では、EV待機制御手段として、高い第1プリチャージ指示油圧と低い第2プリチャージ指示油圧による2段階指示油圧特性によるプリチャージ圧を、第1クラッチ3のピストンに印加するEV待機プリチャージ制御の例を示した。しかし、EV待機制御手段としては、高い第1プリチャージ指示油圧と、斜めに低下する第2プリチャージ指示油圧による指示油圧特性によるプリチャージ圧を、第1クラッチのピストンに印加するEV待機プリチャージ制御とする例としても良い。
【0065】
実施例1では、第1クラッチ3として、油圧作動によるノーマルオープンによる乾式多板摩擦クラッチの例を示した。しかし、第1クラッチとしては、油圧作動によるノーマルクローズによる乾式摩擦クラッチの例としても良い。
【0066】
実施例1では、本発明の制御装置をFFハイブリッド車両に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、FFハイブリッド車両に限らず、FRハイブリッド車両や4WDハイブリッド車両に対しても適用することができる。要するに、駆動系に、エンジンと、第1クラッチと、モータと、駆動輪と、を備えたハイブリッド車両であれば適用することができる。