特許第6187074号(P6187074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187074ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187074
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20170821BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170821BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20170821BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20170821BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/04
   C08L9/06
   C08L71/00 Z
   B60C1/00 A
   B60C1/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-191542(P2013-191542)
(22)【出願日】2013年9月17日
(65)【公開番号】特開2015-59129(P2015-59129A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】桐野 美昭
(72)【発明者】
【氏名】田邊 祐介
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/093695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
B60C 1/00
C08K 3/04
C08L 9/06
C08L 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラック5〜100質量部および/または無機充填剤5〜100質量部と、ポリアミドポリエーテルエラストマー1〜40質量部と、液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴム0.3〜27質量部と、を配合してなり、
前記ポリアミドポリエーテルエラストマーと液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとの配合量の比が、前者:後者(質量比)として、3:1〜3:2の範囲内にある
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドポリエーテルエラストマーの配合量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、5〜20質量部であることを特徴とする請求項に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のゴム組成物をサイドトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、高い硬度を有することから優れた操縦安定性を付与し、かつ破断伸びおよび破断強度を向上させたゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤには優れた操縦安定性が求められるため、トレッド部を構成するタイヤ用ゴム組成物は、ゴム硬度を高くすることが行われている。
しかし、ゴム硬度を高くすると破断伸びが低下してしまうという問題点がある。硬度を高く維持しながら、同時に破断伸びを向上させることは相反する性能を両立させることであり、困難とされてきた。実際に、フェノール樹脂と硬化剤を使用することでゴムを硬くし、補強性を高めることが通常行われているが、ゴムを硬くするほど破断伸びや破断強度が低下してしまうという欠点がある。
【0003】
なお、ゴムの硬度を高め、かつ低発熱性を付与することを目的とし、ゴム組成物にポリエーテルポリアミドエラストマーを配合する技術が知られている(例えば下記特許文献1参照)。しかしながら特許文献1には、ポリエーテルポリアミドエラストマーと液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとをゴム組成物に配合し、硬度、破断伸びおよび破断強度を共に向上させるという技術思想は何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5141731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い硬度を有することから優れた操縦安定性を付与し、かつ破断伸びおよび破断強度を向上させたゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムにカーボンブラックおよび/または無機充填剤の特定量、ポリアミドポリエーテルエラストマーの特定量および液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
1.ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラック5〜100質量部および/または無機充填剤5〜100質量部と、ポリアミドポリエーテルエラストマー1〜40質量部と、液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴム0.3〜27質量部と、を配合してなることを特徴とするゴム組成物。
2.前記ポリアミドポリエーテルエラストマーと液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとの配合量の比が、前者:後者(質量比)として、3:1〜3:2の範囲内にあることを特徴とする前記1に記載のゴム組成物。
3.前記ポリアミドポリエーテルエラストマーの配合量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、5〜20質量部であることを特徴とする前記1または2に記載のゴム組成物。
4.前記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ。
5.前記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物をサイドトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジエン系ゴムにカーボンブラックおよび/または無機充填剤の特定量、ポリアミドポリエーテルエラストマーの特定量および液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの特定量を配合することにより、高い硬度を有することから優れた操縦安定性を付与し、かつ破断伸びおよび破断強度を向上させたゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】

(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴム成分は、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらのジエン系ゴムの中でも、本発明の効果の点からジエン系ゴムはSBR、BRが好ましい。
なお、前記ジエン系ゴムは、通常50万以上の重量平均分子量を有し、下記で説明する液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとは区別される。
【0010】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、特に限定されるものではなく、通常ゴム組成物に配合されるものを使用することができるが、例えば、窒素吸着比表面積(NSA)が30〜200m/g、好ましくは50〜150m/gであるのがよい。なお、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。
【0011】
(無機充填剤)
本発明で使用される無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。中でも好ましくはシリカである。
また、本発明で使用されるシリカは、特に限定されるものではなく、通常ゴム組成物に配合されるものを使用することができ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、表面処理シリカ等のシリカが挙げられる。シリカのBET比表面積(JIS K6430付属書Eに準拠して測定)は、本発明の効果の点から、例えば50〜300m/g、好ましくは150〜250m/gであるのがよい。
【0012】
(ポリアミドポリエーテルエラストマー)
本発明で使用されるポリアミドポリエーテルエラストマーは、公知のエラストマーであり、例えば国際公開WO2007/145324号パンフレットにその製造方法を含め詳細に開示されている。該ポリアミドポリエーテルエラストマーは、ポリアミドからなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントを有し、本発明の効果の点からとくに好ましいポリアミドポリエーテルエラストマーは、ナイロン12からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントとを有するものであり、重量平均分子量が10000〜200000のものである。このようなポリアミドポリエーテルエラストマーは市販されているものを利用でき、例えば宇部興産(株)製UBESTAXPA P9040X1が挙げられる。
【0013】
(液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴム)
本発明で使用される液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(液状SBR)は、例えば重量平均分子量が1000〜100000、好ましくは2000〜80000のものを使用することができる。なお、本発明で言う重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析されるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0014】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラック5〜100質量部および/または無機充填剤5〜100質量部と、ポリアミドポリエーテルエラストマー1〜40質量部と、液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴム0.3〜27質量部と、を配合してなることを特徴とする。
前記カーボンブラックおよび/または無機充填剤の配合量が5質量部未満であると、補強性が低下し、所望の物性を得られないので好ましくなく、逆に100質量部を超えると、分散が悪化し物性低下を引き起こす。
前記ポリアミドポリエーテルエラストマーの配合量が0.5質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に40質量部を超えると、ロール巻きつきを起こす等加工性が悪化する。
前記液状SBRの配合量が0.3質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に27質量部を超えると、硬度が悪化する。
【0015】
さらに好ましい前記カーボンブラックおよび/または無機充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、20〜90質量部である。
さらに好ましい前記ポリアミドポリエーテルエラストマーの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5〜20質量部である。
さらに好ましい前記液状SBRの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、1.7〜13.4質量部である。
【0016】
ここで、本発明においては、前記ポリアミドポリエーテルエラストマーと液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとの配合量の比が、前者:後者(質量比)として、3:1〜3:2の範囲内にあることが、本発明の効果が向上するという観点から好ましい。
【0017】
本発明のゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0018】
本発明のゴム組成物の用途としては、ベルトコンベアー、ホース、タイヤ等が挙げられるが、とくにタイヤ用途が好ましく、とりわけキャップトレッド用やサイドトレッド用として好適に使用される。
【0019】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0021】
実施例1〜13および比較例1〜13
サンプルの調製
表1〜3に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を噛み合い式ミキサーで約5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。その後もう一度噛み合い式ミキサーで2分30秒間リミルを行った。続いて、該組成物をオープンロールで、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片または未加硫ゴム組成物について以下に示す試験法で物性を測定した。
【0022】
硬度(20℃):JIS 6253に準拠して、20℃で測定した。結果は、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど硬度が高く、操縦安定性に優れることを示す。
引張試験:JIS K 6251に準拠して、室温にて引張試験を実施し、破断強度(TB)および破断伸び(EB)を測定した。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど強度が高いことを示す。
加工性(ロール巻きつき):前記のサンプルの調製において、噛み合い式ミキサーで約5分間混練した後、ミキサー外に放出させたときのロールへの巻きつき性を目視で確認した。評価は以下の通りである。
○:巻きつきが一切見られず、スムーズに放出される。
△:ミキサーを動かしたままラム上下を何度か繰り返せば放出される。
×:ミキサーを停止させ、手で引っ張り出さないと放出されない。
結果を表1〜3に併せて示す。なお、実施例3、6、9は参考例である。
【0023】

【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
*1:E−SBR(日本ゼオン(株)製乳化重合SBR、Nipol 1502)
*2:BR(日本ゼオン(株)製Nipol BR 1220)
*3:ポリアミドポリエーテルエラストマー(宇部興産(株)製UBESTAXPA P9040X1)
*4:液状SBR(サートマー社製RICON100、重量平均分子量=5000)
*5:シリカ(東ソー・シリカ(株)製Nipsil AQ、BET比表面積=200m/g)
*6:カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN339M、NSA=81m/g)
*7:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*8:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸)
*9:老化防止剤(住友化学(株)製アンチゲン6C)
*10:シランカップリング剤(エボニック・デグサ社製Si69)
*11:オイル(昭和シェル石油(株)製エクストラクト4号S)
*12:硫黄(軽井沢精錬所社製油処理硫黄)
*13:含硫黄加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーCM−P0)
*14:加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーD−G)
【0027】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜13で調製されたゴム組成物は、ジエン系ゴムにカーボンブラックおよび/または無機充填剤の特定量、ポリアミドポリエーテルエラストマーの特定量および液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムの特定量を配合しているので、従来の代表的な比較例1に対し、硬度が上昇し、優れた操縦安定性を提供している。また破断伸びおよび破断強度も向上している。とくに、ポリアミドポリエーテルエラストマーと液状スチレン−ブタジエン共重合体ゴムとの配合量の比が、前者:後者(質量比)として、3:1〜3:2の範囲内にある実施例1、2、4、5、7、8、10、11、12、13は、硬度を維持しつつ、破断伸びおよび破断強度が大幅に向上している。
一方、表2〜3において、実施例1(再掲)と比較例2および3を比較すると、実施例1は、液状SBRを配合していない比較例2に対し、破断伸びおよび破断強度の向上が確認できる。また実施例1は、ポリアミドポリエーテルエラストマーを配合していない比較例3に対し、硬度、破断伸びおよび破断強度のいずれも向上していることが確認できる。
また、実施例4(再掲)と比較例4および5を比較すると、実施例4は、液状SBRを配合していない比較例4に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、破断強度も改善されていることが確認できる。また実施例4は、ポリアミドポリエーテルエラストマーを配合していない比較例5に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、硬度および破断強度も改善されていることが確認できる。
また、実施例7(再掲)と比較例6および7を比較すると、実施例7は、液状SBRを配合していない比較例6に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、破断強度も改善されていることが確認できる。また実施例7は、ポリアミドポリエーテルエラストマーを配合していない比較例7に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、硬度および破断強度も改善されていることが確認できる。
また、実施例10(再掲)と比較例8および9を比較すると、実施例10は、液状SBRを配合していない比較例8に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、破断強度も改善されていることが確認できる。また実施例10は、ポリアミドポリエーテルエラストマーを配合していない比較例9に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、硬度および破断強度も改善されていることが確認できる。
また、実施例12(再掲)と比較例10および11を比較すると、実施例12は、液状SBRを配合していない比較例10に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、破断強度も改善されていることが確認できる。また実施例12は、ポリアミドポリエーテルエラストマーを配合していない比較例11に対し、破断伸びが大幅に向上しているとともに、硬度および破断強度も改善されていることが確認できる。
なお、比較例12は、ポリアミドポリエーテルエラストマーの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、加工性が悪化し、成形が困難となった。
比較例13は、液状SBRを使用せず、単にE−SBRの配合量を多くした例であるので、破断伸びの大幅な向上が確認されなかった。