特許第6187075号(P6187075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187075
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】輸液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/14 20060101AFI20170821BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20170821BHJP
   A61M 5/168 20060101ALI20170821BHJP
   G01F 1/20 20060101ALI20170821BHJP
   G01F 1/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61M5/14 520
   A61M5/142 520
   A61M5/168 510
   G01F1/20 G
   G01F1/00 Q
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-192119(P2013-192119)
(22)【出願日】2013年9月17日
(65)【公開番号】特開2015-58059(P2015-58059A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 良一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀典
【審査官】 佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−068778(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/018716(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/14
A61M 5/142
A61M 5/168
G01F 1/00
G01F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液チューブを押圧して当該輸液チューブ内の輸液を送液するポンプ機構と、前記ポンプ機構の輸液送り方向の上流側に配置された点滴筒内を滴下する液滴を検出する滴下センサとを備え、設定流量に応じて前記ポンプ機構の駆動を制御する流量制御、及び、前記滴下センサの出力に基づいて送液の流量を判定する流量判定の実行が可能な輸液ポンプにおいて、
前記ポンプ機構の制御モードとして、前記滴下センサの出力に基づく流量判定の精度を保証できる通常使用流量域よりも大きな流量で送液を行う高流量モードの設定が可能であり、
前記高流量モードが設定された場合、その高流量モード設定時において、前記滴下センサの出力から得られる単位時間当たりの滴下数から換算される算出流量が許容流量範囲内である場合は流量が正常であると判定する一方、前記算出流量が前記許容流量範囲から外れている場合は流量異常であると判定する低精度判定モードを実行し、その低精度判定モードでの流量判定である旨を報知するように構成されており、
前記許容流量範囲は、前記高流量モード設定時に設定される高流量域における設定流量において液滴の全てがつながる場合の単位時間当たりの滴下数と液滴が全くつながらない場合の単位時間当たりの滴下数とに基づいて設定されていることを特徴とする輸液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の薬液を体内に注入する場合などに用いる輸液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
輸液ポンプとしては、フィンガ式(ペリスタルティック式)の輸液ポンプがある。フィンガ式輸液ポンプは、例えば、フィンガとチューブ押え板との間に、輸液バッグに接続された輸液チューブを配置した状態で、フィンガを輸液チューブに対して進退駆動させ、フィンガにて輸液チューブを押圧することにより輸液を送り出す方式の輸液ポンプである。
【0003】
フィンガ式輸液ポンプとしては、フィンガで輸液チューブを完全に圧閉する方式(フルプレス方式)の輸液ポンプがある。また、フィンガで輸液チューブを完全に圧閉しない中間圧閉方式(半閉塞方式)の輸液ポンプが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この半閉塞方式の輸液ポンプは、例えば、輸液チューブを完全につぶさずに送液を行う送液フィンガ、及び、この送液フィンガの輸液送り方向の上流側と下流側にそれぞれ配置され、輸液チューブの完全圧閉と開放とを行う閉塞フィンガなどを備えている。
【0004】
このような輸液ポンプにあっては、例えば、輸液チューブに接続された点滴筒を輸液ポンプの輸液送り方向の上流側に配置するとともに、点滴筒内を滴下する液滴を検出する滴下センサを設け、その滴下センサの出力に基づいて点滴筒内を滴下する液滴の滴下数や滴下時間間隔などを計測して実際の輸液の流量(mL/h)を算出している(例えば、特許文献3参照)。そして、このようにして算出した実際の流量と設定流量とを比較して流量異常などを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3595136号公報
【特許文献2】特開昭55−005485号公報
【特許文献3】特開2002−336350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、輸液ポンプでは、1サイクルの送液で点滴筒内に複数滴(例えば2滴)の液滴が滴下するように設定される場合がある。このような設定の輸液ポンプでは、送液の流量が高流量になると、送液の1サイクルにおいて点滴筒内を滴下する液滴がつながってしまう場合がある(例えば本来2滴の滴下が1滴の滴下となる場合がある)。こうした状況になると、滴下センサの出力に基づいて算出される流量に誤差が生じる場合があるため、滴下センサの出力に基づく流量判定(流量異常判定)の精度を保証できなくなる。また、看護師等のユーザは点滴筒内を滴下する液滴を見て流量を確認しているが、液滴がつながってしまうと、流量を目視にて確認することが難しくなる。
【0007】
このため、従来では、点滴筒内を滴下する液滴がつながる可能性がない流量(滴下センサの出力に基づく流量算出の精度を保証できる流量)を上限値としている。しかしながら、輸液ポンプの使用に際しては、そのような上限値を超える流量での送液が要求される場合もあり、こうした高流量での輸液が可能な輸液ポンプの提供が望まれている。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高流量での輸液が必要な場合には、それに対応することが可能な輸液ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、輸液チューブを押圧して当該輸液チューブ内の輸液を送液するポンプ機構と、前記ポンプ機構の輸液送り方向の上流側に配置された点滴筒内を滴下する液滴を検出する滴下センサとを備え、設定流量に応じて前記ポンプ機構の駆動を制御する流量制御、及び、前記滴下センサの出力に基づいて送液の流量を判定する流量判定の実行が可能な輸液ポンプを前提としている。このような輸液ポンプにおいて、前記ポンプ機構の制御モードとして、前記滴下センサの出力に基づく流量判定の精度を保証できる通常使用流量域よりも大きな流量で送液を行う高流量モードの設定が可能としている。そして、前記高流量モードが設定された場合、その高流量モード設定時において、前記滴下センサの出力から得られる単位時間当たりの滴下数から換算される算出流量が許容流量範囲内である場合は流量が正常であると判定する一方、前記算出流量が前記許容流量範囲から外れている場合は流量異常であると判定する低精度判定モードを実行し、その低精度判定モードでの流量判定である旨を報知するように構成されており、前記許容流量範囲は、前記高流量モード設定時に設定される高流量域における設定流量において液滴の全てがつながる場合の単位時間当たりの滴下数と液滴が全くつながらない場合の単位時間当たりの滴下数とに基づいて設定されていることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、滴下センサの出力に基づく流量判定の精度を保証できる流量よりも大きな流量で送液を行う高流量モードの設定が可能であるので、高流量での輸液が必要な場合には、それに対応することができる。しかも、高流量モードが設定された場合には、低精度ではあるものの、滴下センサの出力に基づく流量異常判定を実行することが可能になる。また、高流量モード設定時において低精度判定モードでの流量判定での流量判定を行っている旨を報知するようにしているので、高流量モード設定時には、流量判定について通常時とは異なる処理が行われていることを看護師等のユーザに知らせることができる。
【0011】
なお、本発明において、高流量モードが設定された場合、流量を目視にて確認することが難しいことを報知(表示)するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の輸液ポンプによれば、滴下センサの出力に基づく流量判定の精度を保証できる流量よりも大きな流量で送液を行う高流量モードの設定が可能であるので、高流量での輸液が必要な場合には、それに対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用する輸液ポンプの一例を示す外観斜視図である。
図2図1の輸液ポンプの正面図である。
図3図1の輸液ポンプを扉を開いた状態で示す概略構成図である。
図4】ポンプ機構の構成を示す部分断面側面図である。
図5】ポンプ機構の駆動部の構成を模式的に示す図である。
図6】輸液ポンプの制御系の構成を示すブロック図である。
図7図4に示すポンプ機構の動作説明図である。
図8図4に示すポンプ機構の動作説明図である。
図9図4に示すポンプ機構の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の輸液ポンプの一例について図1図6を参照して説明する。
【0016】
この例の輸液ポンプ1は、半閉塞方式の輸液ポンプであって、ポンプ本体11と、このポンプ本体11の前面側(チューブ取付位置)を閉鎖する扉12とを備えている。扉12はヒンジ13,13を介してポンプ本体11に揺動自在(回転自在)に支持されており、ポンプ本体11の前面側を完全に閉鎖する位置から、完全開放位置(例えば、180°開く位置)までの間において揺動可能となっている。
【0017】
ポンプ本体11及び扉12には、扉12を閉めたときに、その閉塞状態を保持するための扉ロック機構14が設けられている。扉ロック機構14は、扉12側に配置のドアロックレバー14a、及び、ポンプ本体11側に配置のフック14bなどによって構成されており、扉12を閉鎖した状態でドアロックレバー14aを回動操作してフック14bに引っ掛けることによって扉12を閉鎖状態にロックすることができる。
【0018】
ポンプ本体11の前面壁110にはチューブ装着ガイド(ガイド溝)111が設けられている。チューブ装着ガイド111は、輸液送り方向の上流側から順に、上流側ガイド部111a、この上流側ガイド部111aから矩形状に拡大したポンプフィンガ部111b、及び、下流側ガイド部111cを備えている。ポンプフィンガ部111bには、後述するポンプ機構2の送液部20の送液フィンガ21・・21の先端部、及び、バルブ部30A,30Bの閉塞フィンガ31,31の先端部が臨んでいる。
【0019】
チューブ装着ガイド111の上流側ガイド部111aは横方向に湾曲した形状(曲り形状)に形成されており、その先端部が輸液チューブ入口1aとなっている。また、ポンプフィンガ部111bの下流側の下流側ガイド部111cは上下方向に直線状に延びる形状に形成されている。この下流側ガイド部111cの下端部が輸液チューブ出口1bとなっている。下流側ガイド部111cには、ポンプ本体11に装着された輸液チューブT内に混入した気泡を検出する気泡センサ(例えば、超音波センサ)71が配置されている。
【0020】
上流側ガイド部111aの溝幅及び下流側ガイド部111cの溝幅は、それぞれ、薬液バッグに接続される輸液チューブ(例えば、ポリ塩化ビニルやポリブタジエン製)Tの外径(直径)に対応する大きさとなっており、これら上流側ガイド部111a及び下流側ガイド部111cに輸液チューブTを嵌め込むことによって、輸液ポンプ1に輸液チューブTを装着することができる。
【0021】
上流側ガイド部111aにはチューブクランプ112が設けられている。チューブクランプ112は、輸液ポンプ1へのチューブ装着時に、輸液チューブTを一時的に保持する部材であり、チューブ装着後に扉12を閉じた際に自動的にクランプが解除されるようになっている。なお、チューブクランプ112の近傍には、クランプレバー(図示せず)が設けられており、輸液チューブTの装着の際に、そのクランプレバーを操作することによりチューブクランプ112を開放状態にすることができる。
【0022】
一方、扉12の内面側には、輸液チューブTの下流側の閉鎖を検知する閉塞センサ72が設けられている。また、扉12の内面側には送液部押え板24が設けられている。送液部押え板24は、後述する送液部20の送液フィンガ21・・21に対応する位置に設けられている。送液部押え板24は、扉12を閉じた状態で、最後退位置にある状態の送液フィンガ21の先端面21aに対して、輸液チューブTの外径(直径)に対応する間隔をあけて対向するようになっている(図4図7等参照)。
【0023】
また、扉12の内面側にはバルブ部押え板34,34が設けられている。バルブ部押え板34,34は、それぞれ、後述する上流側のバルブ部30A及び下流側のバルブ部30Bの各閉塞フィンガ31,31に対応する位置に設けられている。これらバルブ部押え板34,34は、扉12を閉じた状態で、最後退位置にある状態の閉塞フィンガ31,31の突部31a,31aの先端に対して、輸液チューブTの外径(直径)に対応する間隔をあけて対向するようになっている(図4図7等参照)。
【0024】
なお、送液部押え板24及びバルブ部押え板34,34の裏面側(扉12側)にはそれぞれ圧縮コイルばね等の弾性部材(図示せず)が配置されており、輸液チューブTが、送液部20の送液フィンガ21・・21、上流側及び下流側のバルブ部30A,30Bの閉塞フィンガ31,31によって押圧される際に、輸液チューブTが各フィンガ21,31から受ける負荷が大きすぎる場合は、扉12側へ後退するようなっている。これにより輸液チューブTが各フィンガ21,31から受ける過負荷を軽減することができ、輸液チューブTの寿命を延ばすことができる。
【0025】
そして、扉12の前面には、各種情報を表示する液晶表示部3の液晶パネル3a、及び、後述するスイッチ類が配列された操作部4が配置されている。さらに、扉12の上部中央に当該輸液ポンプ1の動作状態を知らせるインジケータ5が配置されている。
【0026】
以上の構成の輸液ポンプ1に輸液チューブTをセットする際には、扉12を開き、薬液バッグに接続された輸液チューブTを、[上流側ガイド部111a]→[ポンプフィンガ部111b]→[下流側ガイド部111c]の順に配置して当該輸液ポンプ1に輸液チューブTを装着する。このようなチューブ装着が終了した後に、扉12を閉め、扉ロック機構14によって扉12を閉鎖状態にロックすることにより、輸液チューブTのセッティングを完了する。なお、この例では、上述したように、扉12を閉塞した状態では、上流側ガイド部111aのチューブクランプ112は開放される。また、輸液完了後などにおいて、扉12を開いたときには、チューブクランプ112によって輸液チューブTが閉塞され、輸液の自由落下であるフリーフローが防止される。
【0027】
ここで、本実施形態の輸液ポンプ1に適用される輸液セットは、薬液を収容する輸液バッグ、点滴液の流量を目視にて確認するための点滴筒100(図3参照)、これら輸液バッグと点滴筒100とをつなぐ上流側の輸液チューブT、上記点滴筒100に接続される下流側の輸液チューブT、この下流側の輸液チューブTの途中に設けられたローラクランプ、及び、輸液チューブTの先端部に接続される注射針(静脈針)などによって構成されている。このような輸液セットの上記点滴筒100とローラクランプとの間の輸液チューブTがポンプ本体11に上記した要領で装着され、点滴筒100が輸液ポンプ1の輸液送り方向の上流側に配置される(図3参照)。
【0028】
そして、本実施形態の輸液ポンプ1は、図3に示すように、上記点滴筒100内を滴下する液滴を検出する滴下センサ8を備えている。滴下センサ8は、赤外線等の光を出力する発光部8aと、その発光部8aの出力光を受光する受光部8bとを備えている。滴下センサ8は、クランプ(図示せず)等によって点滴筒100に着脱自在に装着され、その装着状態で発光部8aの光軸が液滴の滴下位置に一致するとともに、発光部8aと受光部8bとが点滴筒100を挟んで対向するようになっている。そして、その発光部8aからの光を受光部8bが受光した場合(発光部8aからの光が液滴により遮られずに通過した場合)は、受光部8bは例えばオフ信号を出力し、一方、発光部8aからの光が液滴で遮られた場合は受光部8bはオン信号を出力するように構成されている。この滴下センサ8(受光部8b)の出力信号は後述する制御部300に入力される。
【0029】
−ポンプ機構−
次に、ポンプ機構2の具体的な構成例について図3図5を参照して説明する。図4において、各フィンガについては切断しないで表記している。
【0030】
ポンプ機構2は、上流側のバルブ部30A、送液部20、下流側のバルブ部30B、送液部押え板24、バルブ部押え板34,34、及び、駆動部200などを備えている。駆動部200は、後述するように、送液部20の3つの送液フィンガ21・・21、上流側のバルブ部30A及び下流側のバルブ部30Bの閉塞フィンガ31,31の各フィンガをそれぞれ個別に進退移動(前進移動または後退移動)する。
【0031】
<送液部>
送液部20は、3つの送液フィンガ21・・21を備えている。これら3つの送液フィンガ21・・21のうち、輸液送り方向の上流側のものを第1送液フィンガ21、中流部のものを第2送液フィンガ21、下流側のものを第3送液フィンガ21と言う場合もある。なお、本実施形態において、第1送液フィンガ21と、第2送液フィンガ21と、第3送液フィンガ21とは同じ構成であるので、以下の説明では、1つの送液フィンガ21(第1送液フィンガ21)の構成についてのみ、図3図5を参照して説明する。
【0032】
送液フィンガ21は、断面矩形の部材であって、上記ポンプ本体11の前後方向(ポンプ本体11に装着した輸液チューブTの長手方向と直交するX方向(ポンプ本体11の前面壁110と直交する方向))に沿って配置されている。送液フィンガ21は、ガイド部材50(図4参照)にスライド自在に支持されており、上記ポンプ本体11の前後方向(X方向)に進退移動が可能となっている。ガイド部材50はポンプ本体11に支持固定されている。
【0033】
送液フィンガ21は、後述する駆動部200によって進退移動(前進移動または後退移動)され、送液フィンガ21が最後退位置にあるときには、図4及び図7(A)等に示すように、送液フィンガ21の先端面21aが上記ポンプ本体11に装着された輸液チューブT(真円状態)の外周面に接触する位置(輸液チューブTの外周面に対応する位置)に配置される。また、この状態(最後退位置にある状態)から、送液フィンガ21が前進移動すると、その前進移動過程で輸液チューブTが押圧される。ここで、この例の輸液ポンプ1は半閉塞方式であるので、送液フィンガ21が最前進位置にある状態のときに、図8に示すように、輸液チューブTが完全に閉塞されないように駆動部200による送液フィンガ21の進退移動のストロークが設定されている。
【0034】
<バルブ部>
次に、上流側のバルブ部30A及び下流側のバルブ部30Bについて図3図5を参照して説明する。これら上流側のバルブ部30Aと下流側バルブ部30Bとは同じ構成であるので、以下の説明では、一方のバルブ部(上流側のバルブ部30A)についてのみ説明する。
【0035】
バルブ部30A(30B)は、閉塞フィンガ31を備えている。閉塞フィンガ31は、断面矩形の部材であって、上記した送液フィンガ21と同様に、ポンプ本体11の前後方向(ポンプ本体11に装着した輸液チューブTの長手方向と直交するX方向(ポンプ本体11の前面壁110と直交する方向))に沿って配置されている。また、閉塞フィンガ31の先端部分には突部31aが設けられている。閉塞フィンガ31は、ガイド部材50(送液部20の送液フィンガ21と同じガイド部材50)にスライド自在に支持されており、上記ポンプ本体11の前後方向(X方向)に進退移動が可能となっている。
【0036】
閉塞フィンガ31は、後述する駆動部200によって進退移動(前進移動または後退移動)され、閉塞フィンガ31が最後退位置にあるときには、図4及び図7等に示すように、閉塞フィンガ31の突部31aの先端が上記ポンプ本体11に装着された輸液チューブT(真円状態)の外周面に接触する位置(輸液チューブTの外周面に対応する位置)に配置される。また、この状態(最後退位置にある状態)から、閉塞フィンガ31が前進移動すると、その前進移動過程で輸液チューブTが押圧される。ここで、バルブ部30A(30B)においては輸液チューブTを完全圧閉するので、閉塞フィンガ31が最前進位置にある状態のときに、図7(B)等に示すように輸液チューブTが完全に閉塞されるように駆動部200による閉塞フィンガ31の進退移動のストロークが設定されている。
【0037】
<駆動部>
駆動部200は、図5に示すように、送液部20の送液フィンガ21・・21を個別に進退駆動するためのカム221a,221b,221c、上流側及び下流側のバルブ部30A,30Bの閉塞フィンガ31,31をそれぞれ個別に進退駆動するためのカム231a,231b、カム軸201、及び、ステッピングモータ202などを備えており、各カム221a,221b,221c,231a,231bはカム軸201に一体回転可能に取り付けられている。カム軸201は、ポンプ本体11の上下方向(フィンガ21・・21,31,31の配列方向)に沿って配置されている。
【0038】
カム軸201の上端部にはタイミングプーリ(従動プーリ)203が一体回転可能に取り付けられている。また、ステッピングモータ202の回転軸202aにはタイミングプーリ(駆動プーリ)204が一体回転可能に設けられている。これらカム軸201のタイミングプーリ203とステッピングモータ202側のタイミングプーリ204との間にタイミングベルト205が巻き掛けられており、ステッピングモータ202の駆動によりカム軸201が回転するようになっている。
【0039】
そして、本実施形態では、上記したステッピングモータ202の駆動(カム軸201の回転)により、送液部20の送液フィンガ21・・21、上流側及び下流側のバルブ部30A,30Bの閉塞フィンガ31,31の各フィンガが、それぞれ、図7図9に示すような動作で進退駆動するように、カム221a,221b,221c,231a,231bのカム形状が設定されている。
【0040】
以上のステッピングモータ202の駆動は制御部300によって制御される。これらステッピングモータ202及び制御部300等には、輸液ポンプ1に内蔵の電池または商用電源からの電力が供給されるようになっている。
【0041】
なお、駆動部200としては、電動モータと回転−並進機構(例えばラックアンドピニオン)とを組み合わせた機構を適用してもよいし、ソレノイドを駆動源とするものを適用してもよい。
【0042】
−液晶表示部・操作部−
液晶表示部3は、液晶パネル3a及びその駆動ドライバ(図示せず)などによって構成されており、その液晶パネル3aが扉12の前面に配置されている。液晶パネル3aの画面上には、積算量[mL]、輸液の予定量[mL]、流量[mL/h]などの動作情報、警報情報(メッセージ等)、及び、ユーザが各種設定を行うためのユーザ設定画面などが表示される。
【0043】
操作部4は、図2に示すように、輸液を開始する開始スイッチ41、輸液動作や警報の停止を行う停止スイッチ42、輸液準備の際に使用する早送りスイッチ43、表示切替スイッチ44、数値設定アップスイッチ45、数値設定ダウンスイッチ46、積算量リセットスイッチ47、及び、点滴針サイズ選択スイッチ48などを備えている。
【0044】
表示切替スイッチ44は、数値等を入力する項目(例えば、流量、予定量、予定時間、高流量モードなど)への表示の切り替えを行うためのスイッチである。
【0045】
数値設定アップスイッチ45、数値設定ダウンスイッチ46は、流量、予定量、予定時間などの数値を増加または減少させるスイッチであって、それぞれ、右側の1桁目の数値設定用スイッチ、中央の2桁目の数値設定用スイッチ、及び、左側の3桁目の数値設定用スイッチの合計3つのスイッチで構成されている。
【0046】
−制御部−
次に、制御部300について説明する。
【0047】
制御部300は、マイクロコンピュータ等を主体として構成されており、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性RAM、I/Oインターフェース、及び、これらの機能部を互いに接続するバスラインなど備えている。
【0048】
制御部300には、図6に示すように、操作部4、気泡センサ71、閉塞センサ72、、電源スイッチ7(例えばポンプ本体11の裏面に配置)などが接続されており、また、上記した滴下センサ8が接続される。それら操作部4のスイッチ類やセンサからの信号が制御部300に入力される。また、制御部300には、液晶表示部3、インジケータ5、音発生部6、及び、上記ポンプ機構2の駆動用のステッピングモータ202などが接続されている。
【0049】
そして、制御部300は、操作部4のスイッチ類の操作にて設定された輸液の流量の設定値(設定流量)に応じて、ポンプ機構2のステッピングモータ202の回転速度を制御することにより流量を可変に調整する。この例では、流量を1mL/h〜1200mL/hの範囲内において、[1mL/h]単位で設定することができる。この流量制御については後述する。また、制御部300は、滴下センサ8の出力に基づいて流量異常判定処理を実行する。この流量異常判定処理についても後述する。
【0050】
−ポンプ機構の動作説明−
次に、ポンプ機構2の動作について図7図9を参照して説明する。なお、図7図9において、各フィンガについては切断しないで表記している。
【0051】
[S1]まず、図7(A)は、輸液チューブTをポンプ本体11に装着し、扉12を閉じた状態(初期状態)を示す図である。この初期状態では、下流側のバルブ部30Bの閉塞フィンガ31のみが最前進位置にあり、その閉塞フィンガ31の突部31aにて輸液チューブTが完全に閉塞されている。
【0052】
[S2]図7(A)の状態から、上流側のバルブ部30Aの閉塞フィンガ31が前進移動し、その閉塞フィンガ31が最前進位置にまで移動した状態で、送液部20の上流側の輸液チューブTが完全に閉塞される(図7(B))。
【0053】
[S3]図7(B)の状態から、下流側のバルブ部30Bの閉塞フィンガ31が最前進位置から後退移動し、その閉塞フィンガ31が最後退位置にまで移動した状態で、送液部20の上流側の輸液チューブTが完全に開放される(図7(C))。
【0054】
[S4]図7(C)に示す状態から、送液部20の第1送液フィンガ21が前進して輸液チューブTを押圧する(図8(A))。この第1送液フィンガ21による輸液チューブTの押圧によって、輸液チューブT内の輸液が下流側に送り出される。このような第1送液フィンガ21の前進移動に続いて第2送液フィンガ21と第3送液フィンガ21とが順次前進移動し(図8(B)〜図8(C))、その各送液フィンガ21,21による輸液チューブTの押圧によって輸液チューブT内の輸液が更に下流側に送り出される。このように、この例では、3つの送液フィンガ21・・21の蠕動運動によって輸液チューブT内の輸液が送液される。ここで、この例の輸液ポンプ1は半閉塞方式であるので、送液部20の各送液フィンガ21が最前進位置に到達しても、図8(A)〜図8(C)に示すように、輸液チューブTは完全におしつぶされない。
【0055】
[S5]図8(C)の状態から、下流側のバルブ部30Bの閉塞フィンガ31が前進移動し、その閉塞フィンガ31が最前進位置に移動した状態で送液部20の下流側の輸液チューブTが完全に閉塞される(図9)。
【0056】
[S6]図9の状態から、上流側のバルブ部30Aの閉塞フィンガ31、及び、送液部20の3つの送液フィンガ21・・21が最後退位置に移動し、これら閉塞フィンガ31及び送液フィンガ21・・21の最後退位置への移動過程で輸液が吸引されて、図7(A)に示す初期状態に戻る。この図9の状態(吸込開始)から図7(B)の状態(吸込停止)までの期間が送液の吸込期間であり、図7(C)の状態(吐出開始)から図8(A)〜図8(C)の動作を経て図9の状態(吐出停止)に至るまでの期間が送液の吐出期間である。
【0057】
以上の動作で送液の1サイクルが完了し、このようなサイクルを順次繰り返していくことにより、輸液チューブT内の輸液を下流側に連続して送り出すことができる。そして、その送液流量は、上記送液サイクルの周期を制御することによって可変に調整することができる。
【0058】
−特徴部分−
次に、本実施形態の特徴部分について説明する。
【0059】
まず、輸液セットの点滴筒としては、1mL当たりの滴下数が20滴の点滴筒と、1mL当たりの滴下数が60滴の点滴筒とがあり、本実施形態では20滴の点滴筒100を有する輸液バッグを用いる場合について説明する。
【0060】
また、本実施形態の輸液ポンプ1では、上記した送液の1サイクルで0.1cc(0.1mL)の送液を行えるように設定されており、その1サイクルの送液で上記20滴の点滴筒100から2滴の液滴が滴下するように設定されている(0.05cc/1滴)。
【0061】
このような設定の輸液ポンプ1(半閉塞方式の輸液ポンプ)にあっては、送液の流量が例えば600mL/hを超える高流量になると、送液の1サイクルにおいて点滴筒100内を滴下する液滴がつながってしまい、本来2滴の滴下が1滴の滴下となる可能性が高くなる。また、流量によっては液滴がつながる状態と液滴がつながらない状態とが混在する可能性もある。そして、このような液滴のつながりが発生すると、滴下センサ8の出力に基づいて算出される流量に誤差が生じる場合がある。すなわち、送液の1サイクルにおいて点滴筒100内を滴下する液滴がつながってしまうと、上記した点滴筒100内を滴下する液滴の滴下数の計数値や、液滴の滴下時間間隔に誤差が含まれるため、流量を正確に算出することができない。また、看護師等のユーザは点滴筒内を滴下する液滴を見て流量を確認しているが、上述の如く液滴のつながりが発生すると、流量を目視にて確認することが難しくなる。
【0062】
このような点を考慮して、従来では、点滴筒100内を滴下する液滴がつながる可能性がない流量であって、滴下センサ8の出力に基づく流量算出の精度を保証できる流量(例えば600mL/h)以下の流量域を通常の使用範囲(以下、通常使用流量域ともいう)としている。しかしながら、輸液ポンプの使用に際しては、そのような通常使用流量域を超える流量での送液が要求される場合もある。
【0063】
そこで、本実施形態では、ポンプ機構2の駆動モードとして、通常使用流量域を超える高流量域(601mL/h以上の高流量域)において送液を行う高流量モードの設定が可能な構成とするとともに、その高流量での輸液を実現するにあたり妨げとなるような問題点を解消することで、高流量での輸液が必要である場合には、それに対応できるようにしている。その高流量モードでの制御・処理については後述する。
【0064】
以下、制御部300が実行する制御・処理などについて以下に説明する。
【0065】
<通常使用流量域での制御・処理>
まず、600mL/h以下の通常使用流量域での制御・処理について説明する。
【0066】
(a1)通常使用流量域では、操作部4のスイッチ類の操作により1mL/hから600mL/hまでの流量を設定することができる。制御部300は、その操作部4の操作にて設定された設定流量に応じた駆動パルス(設定流量に応じたデューティ比の駆動パルス)をポンプ機構2のステッピングモータ202に供給して、ステッピングモータ202の回転速度を制御することにより、ポンプ機構2の送液流量を上記設定流量に制御する。
【0067】
(a2)通常使用流量域でポンプ機構2が停止状態であるときに、液滴の滴下を検出した場合(滴下センサ8のからのON信号(液滴検出信号)を制御部300が受信した場合)、制御部300は、フリーフローの発生を示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、フリーフローが発生していることを看護師等のユーザに知らせる。
【0068】
(a3)通常使用流量域である場合には、制御部300は滴下センサ8の出力に基づいて流量を算出して流量異常を判定する。具体的には、制御部300は、滴下センサ8の出力信号に基づいて、点滴筒100内を滴下する液滴の単位時間当たり(例えば1分当たり)の滴下数を計数(ON信号をカウント)し、その滴数計数値から送液の流量(mL/h)を算出(換算)する。例えば、点滴筒100として1mL当たりの滴下数が20滴の点滴筒を使用する場合、1滴当たりの液滴の容積は0.05mLであるので、1分当たりの滴下数(滴数計数値)がna滴である場合、その滴数計数値naを用いて流量(mL/h)を、演算式[流量=0.05(mL/1滴)×na(滴/min)×60]から算出する。
【0069】
そして、制御部300は、通常使用流量域での輸液中において、上記した滴下センサ8の出力に基づく流量の算出処理を逐次実行し、その算出流量(実際の流量)と上記設定流量(1mL/hから600mL/hまでの設定流量)とを用い、設定流量と算出流量との差(流量差)を算出する。その算出した流量差が所定の許容範囲(流量が正常とみなせる範囲)内である場合は流量が正常であると判定する。一方、上記流量差が許容範囲から外れている場合は流量異常であると判定する。流量異常と判定した場合には、制御部300は、その流量異常を示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、流量異常であることを看護師等のユーザに知らせる。
【0070】
このように、通常使用流量(例えば600mL/h以下の流量域)では、滴下センサ8の出力に基づいて厳密な流量異常判定を行うことができる。
【0071】
(a4)通常使用流量域でポンプ機構2が駆動状態であるときに、液滴の滴下を一定期間検出しない場合(滴下センサ8からON信号(液滴検出信号)が一定期間出力されない場合)、制御部300は、空液状態であることを示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、空液の状態であることを看護師等のユーザに知らせる。なお、上記空液を判定する一定期間(時間)については、実験・計算などにより経験的に求めた値を設定する。
【0072】
<高流量モード設定処理>
本実施形態では、上記したように、通常は600mL/h以下の通常使用流量域において送液を行うようになっているが、高流量での輸液が必要である場合に高流量モードを設定することができる。
【0073】
その高流量モードの設定は、例えば、操作部4の表示切替スイッチ44を操作して、液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に“高流量モード設定”の項を表示し、この表示状態で開始スイッチ41を押すという操作により、高流量モードを設定することができる。なお、通常使用流量の送液モードに戻す場合、表示切替スイッチ44の操作により、液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に“高流量モード解除”の項を表示し、この表示状態で開始スイッチ41を押すことにより、高流量モードを解除して通常使用流量の送液モードに戻すことができる。
【0074】
以下、高流量モードでの制御・処理の2つの例について説明する。
【0075】
<高流量モードでの制御・処理(1)>
上記した操作により、高流量モードが設定されている場合、制御部300は以下の制御・処理を行う。
【0076】
(b11)高流量モードが設定されている場合、操作部4のスイッチ類の操作により、601mL/hから1200mL/hまでの流量を設定することが可能である。制御部300は、その操作部4の操作により設定された設定流量に応じた駆動パルス(設定流量に応じたデューティ比の駆動パルス)をポンプ機構2のステッピングモータ202に供給して、ステッピングモータ202の回転速度を制御することによりポンプ機構2の送液流量を設定流量に制御する。
【0077】
(b12)高流量モード設定時でポンプ機構2が停止状態であるときに、液滴の滴下を検出した場合(滴下センサ8のからのON信号(液滴検出信号)を制御部300が受信した場合)、制御部300は、フリーフローの発生を示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、フリーフローが発生していることを看護師等のユーザに知らせる。
【0078】
(b13)高流量モードが設定されている場合、滴下センサ8の出力に基づく流量異常判定を非実行とするとともに、液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に、「流量の目視確認が難しいこと」、及び、「滴下センサ8の出力に基づく流量異常判定を行わないこと」を示すメッセージを表示して、看護師等のユーザに注意を促す。なお、高流量モードが設定されている場合、「滴下センサ8の出力に基づく流量異常判定を行わないこと」をランプの点灯(点滅)等により表示するようにしてもよい。
【0079】
(b14)高流量モード設定時でポンプ機構2が駆動状態であるときに、液滴の滴下を一定期間検出しない場合(滴下センサ8からON信号(液滴検出信号)が一定期間出力されない場合)、制御部300は、空液状態であることを示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、空液の状態であることを看護師等のユーザに知らせる。なお、上記空液を判定する一定期間(時間)については、実験・計算などにより経験的に求めた値を設定する。
【0080】
(効果)
以上説明したように、この例によれば、滴下センサ8の出力に基づく流量異常判定の精度を保証できる通常使用流量域よりも大きな流量(601mL/h以上の流量)で送液を行う高流量モードの設定が可能であるので、高流量での輸液が必要な場合には、それに対応することができる。しかも、高流量モードが設定された場合、滴下センサ8の出力に基づく流量判定を行わないようにしているので、上記した「液滴がつながること」に起因する流量判定の精度低下の問題を解消することができる。
【0081】
また、高流量モードが設定された場合、「流量の目視確認が難しいこと」、及び、「滴下センサ8の出力に基づく流量異常判定を行わないこと」を示すメッセージを表示するので、看護師等のユーザに注意を促すことができる。
【0082】
<高流量モードでの制御・処理(2)>
制御部300が実行する高流量モードでの制御・処理の他の例について説明する。
【0083】
(b21)高流量モードが設定されている場合、操作部4のスイッチ類の操作により、601mL/hから1200mL/hまでの流量を設定することが可能である。制御部300は、その操作部4の操作により設定された設定流量に応じた駆動パルス(設定流量に応じたデューティ比の駆動パルス)をポンプ機構2のステッピングモータ202に供給して、ステッピングモータ202の回転速度を制御することによりポンプ機構2の送液流量を設定流量に制御する。
【0084】
(b22)高流量モード設定時でポンプ機構2が停止状態であるときに、液滴の滴下を検出した場合(滴下センサ8のからのON信号(液滴検出信号)を制御部300が受信した場合)、制御部300は、フリーフローの発生を示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、フリーフローが発生していることを看護師等のユーザに知らせる。
【0085】
(b23)高流量モードが設定されている場合、滴下センサ8の出力に基づく流量異常判定を通常使用流量域での判定精度よりも低い精度(上記した厳密な流量判定よりも低い判定精度)で行う。その低精度判定モードでの処理について具体的に説明する。
【0086】
まず、600mL/hを超える高流量モードでは、点滴筒100内を滴下する液滴が全くつながらない場合と、液滴の全てがつながる場合とが含まれる可能性があるので、滴下センサ8の出力から換算される流量は[液滴の全てがつながる場合]から[液滴が全くつながらない場合]までの範囲の値となる可能性がある。そこで、この例では、[液滴の全てがつながる場合]〜[液滴が全くつながらない場合]の範囲の流量を基に許容流量範囲を設定して(異常判定の幅を広くして)流量異常判定を行う。その流量異常判定(低精度判定モードでの流量判定)の一例について説明する。
【0087】
まず、本実施形態では、点滴筒100として1mL当たりの滴下数が20滴の点滴筒を使用しており、1滴当たりの液滴の容積は0.05mLであるので、例えば、設定流量を800mL/hの高流量とした場合、液滴の全てがつながる場合の1時間(h)当たりの滴下数(点滴筒100内を滴下する液滴の滴数)は8000滴となり、液滴が全くつながらない場合の1時間(h)当たり滴下数は16000滴となるので、滴下センサ8にて1時間で検出される滴下数は8000滴〜16000滴の範囲の値となる可能性がある。ここで、本実施形態では、1分(min)当たりの滴下数(滴数計数値)を用いて流量を算出するようにしているので、上記滴下数を1分当たりの滴下数に換算すると、その滴下数は[133滴/min(8000/60)]〜[267滴/min(16000/60)]の範囲の値となる。
【0088】
そして、本実施形態では、上述の如く、1滴当たりの液滴の容積を0.05mLとして流量換算を行っているので、上記滴下数の範囲を流量に換算すると、6.65mL/min〜13.35mL/min(400mL/h〜800mL/h)の範囲となる。この範囲内の流動変動(設定流量が800mL/hのときの流量変動)であれば、その流量変動は液滴のつながりの有無に起因するものであり、上記した厳密な流量異常判定に比べて低い精度ではあるものの、この流動範囲を用いて低精度の流量異常判定を行うことは可能であると考えることができる。そこで、この例では、上記流量範囲(6.5mL/min〜13.35mL/min)に余裕をもたせた流量範囲3mL/min〜20mL/minを、許容流量範囲として流量異常判定を行う。
【0089】
具体的には、制御部300は、滴下センサ8の出力から算出(1滴を0.05mLとして換算)した算出流量が上記許容流量範囲内である場合は流量が正常であると判定する。一方、算出流量が上記許容流量範囲から外れている場合は流量異常であると判定する。流量異常と判定した場合には、その流量異常(高流量モードでの流量異常)を示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、流量異常であることを看護師等のユーザに知らせる。
【0090】
さらに、制御部300は、高流量モードが設定されている場合のみに上記した低精度判定モードでの流量異常判定を実行するとともに、その低精度判定モードでの流量異常判定を行っていること示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示して、看護師等のユーザに注意を促す。
【0091】
なお、以上の流量異常判定処理では、1例として設定流量が800mL/hである場合について説明したが、実際には、高流量域(601mL/h〜1200mL/h)における各設定流量(例えば10mLごとの設定流量)について、上記した800mL/hの場合と同様な処理により、許容流量範囲を予め計算等により算出して、その各設定流量毎の許容流量範囲を制御部300のROM内などに記憶しておく。
【0092】
(b24)高流量モード設定時でポンプ機構2が駆動状態であるときに、液滴の滴下を一定期間検出しない場合(滴下センサ8からON信号(液滴検出信号)が一定期間出力されない場合)、制御部300は、空液状態であることを示すメッセージ等を液晶表示部3の液晶パネル3aの画面上に表示したり、また、音発生部6を駆動してブザー音を発生したりして、空液の状態であることを看護師等のユーザに知らせる。なお、上記空液を判定する一定期間(時間)については、実験・計算などにより経験的に求めた値を設定する。
【0093】
(効果)
この例によれば、高流量モード設定時において、低精度ではあるものの滴下センサの出力に基づく流量異常判定を実行することが可能になる。これにより、高流量モード設定時において、例えば、実際の流量が設定流量から大幅にずれているか否かを判定することが可能になる。また、高流量モード設定時において、低精度判定モードでの流量判定を行っている旨を報知するようにしているので、看護師等のユーザに注意を促すことができる。
【0094】
−他の実施形態−
以上の実施形態では、600mL/hを閾値として通常使用流量域と高流量域とを切り分けているが、その閾値については、ポンプ機構2の設定状態などに応じて適宜の値を設定するようにしてもよい。
【0095】
以上の実施形態では、単位時間当たり(1分当たり)の液滴の滴下数を計数して流量を算出しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、滴下センサ8の出力から計数される液滴の計数値が所定値に達するのに要する時間を計測して流量を算出するようにしてもよい。また、滴下センサ8の出力から点滴筒100内を滴下する液滴の滴下時間間隔を求めて流量を算出するようにしてもよい。
【0096】
以上の実施形態では、点滴筒100として1mL当たりの滴下数が20滴の点滴筒を使用する場合の例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、点滴筒100として1mL当たりの滴下数が60滴の点滴筒を使用する場合にも適用することができる。
【0097】
以上の実施形態では、1サイクルの送液で点滴筒100から2滴の液滴が滴下するようにしているが、その1サイクルでの滴下数は3滴以上であってもよい。
【0098】
以上の実施形態では、送液部20に設ける送液フィンガ21の数を3つとしているが、本発明はこれに限られることなく、送液部20に設ける送液フィンガ21の数は、2つまたは4つ以上であってもよい。
【0099】
以上の実施形態では、送液部20の複数(3つ)の送液フィンガ21・・21を間隔をあけて配置しているが、送液フィンガ21・・21を互いに近接した状態で配置してもよい。また、上流側及び下流側のバルブ部30A,30Bの閉塞フィンガ31,31についても、送液部20の送液フィンガ21に近接した状態で配置してもよい。
【0100】
以上の実施形態では、半閉塞方式の輸液ポンプ1に、本発明を適用した例を示しているが、本発明はこれに限られることなく、送液部20の送液フィンガ21によって輸液チューブTを完全に閉塞するフルプレス方式の輸液ポンプにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、医療用の薬液を体内に注入する場合などに用いる輸液ポンプに利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 輸液ポンプ
11 ポンプ本体
12 扉
2 ポンプ機構
20 送液部
21 送液フィンガ
30A 上流側のバルブ部
30B 下流側のバルブ部
31 閉塞フィンガ
3 液晶表示部
3a 液晶パネル
4 操作部
8 滴下センサ
100 点滴筒
200 駆動部
300 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9