(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性積層体とは、酸素や水蒸気などのガスを透過させない性質(ガスバリア性)を備えている積層体である。このため、ガスバリア性積層体で遮蔽された部位に保持された部材は、外部のガスに起因する劣化/変質などを抑制することが出来る。近年、このようなガスバリア性積層体は、様々な分野で活用されている。
【0003】
例えば、食品などの包装に用いられる包装材料として活用されている。食品などの包装用途では、内容物の変質を防止することが求められている。具体的には、タンパク質や油脂等の酸化や変質を抑制し、更に風味や鮮度を保持できることが求められる。このため、好適にガスバリア性積層体が用いられる。
【0004】
例えば、医薬品などの包装に用いられる包装材料として活用されている。医薬品などの包装用途では、内容物の変質を防止することが求められている。具体的には、無菌状態を保持し、内容物の有効成分の変質を抑制し、その効能を保持できることが求められている。このため、好適にガスバリア性積層体が用いられる。
【0005】
例えば、半導体ウェハなどの電子部品や精密部品の包装に用いられる包装材料として活用されている。精密部品は、外部のガスに暴露されると、外部のガスが異物として働き不良品となる恐れがあることから、外部のガスを遮蔽することが求められている。このため、好適にガスバリア性積層体が用いられる。
【0006】
例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの部材として活用されている。フラットパネルディスプレイの用途では、画素素子など内部部材の劣化を防止することが求められている。このため、好適にガスバリア性積層体が用いられる。
【0007】
例えば、太陽電池におけるバックシートやフロントシートとして活用されている。太陽電池用途では、紫外線や湿気などから内部機構の劣化を防止することが求められる。このため、好適にガスバリア性積層体が用いられる。
【0008】
また、包装部材として用いる場合、透明性も兼ね備えることが好ましい。包装材料が透明性を有することで、包装の外から内容物の形状や内容物の色などが目視で確認することができ、それにより、内容物の取り違い防止や、損傷の有無、内容物の変質の有無が開封前に把握することが出来る。
【0009】
以上、ガスバリア性積層体は、種々の広範な用途に対応できるように、ガスバリア性、透明性、耐湿性、耐候性、耐久性、などの特性を高度なレベルで兼ね備えていることが求められる。
【0010】
従来、ガスバリア性積層体として、フィルム基材上にガスバリア性物質を蒸着したガスバリア性積層体が知られている。ガスバリア性物質の蒸着膜は、ガスバリア性を有するほか、極めて薄いことから透明性も良好である。
【0011】
例えば、フィルム基材に、一酸化ケイ素やSi/SiO
2混合材料を蒸着したシリカ系蒸着フィルムが提案されている。
【0012】
例えば、フィルム基材に、金属アルミニウムを蒸発させ酸素と反応させて蒸着したアルミナ反応蒸着フィルムが提案されている。
【0013】
また、シリカ系蒸着フィルムやアルミナ反応蒸着フィルムは、ガスバリア性が温度や水分の影響を受けやすいことから、耐熱性、耐水性、耐湿性、を向上させたガスバリア性積層体が提案されている。
【0014】
例えば、ガスバリア性、耐熱性、耐水性、耐湿性、等を向上させるため、基材上に設けた蒸着膜の上に、さらに、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子と、テトラエトキシシラン等のアルコキシシラン又はその加水分解物とを含有するコーティング液を塗工し、加熱乾燥させてガスバリア性被膜を設けることが提案されている(特許文献1および特許文献2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、具体的に本発明のガスバリア性積層体について説明を行う。ただし、本発明の具体的な構成は下記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、それらは本発明に含まれる。
【0023】
図1に、本発明のガスバリア性積層体の一例について概略断面図を示す。ガスバリア性積層体10は、樹脂基材11の片面に、蒸着層12、オーバーコート層13が順次積層した構成の積層体である。
【0024】
(樹脂基材)
樹脂基材は、ガスバリア性積層体の基体となる部位である。
【0025】
樹脂基材は、一般的に使用されている種々のシート状の基材(フィルム状のものを含む)のなかから適宜選択し、用いてよい。例えば、(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、(2)ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、(3)ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが挙げられる。
【0026】
また、樹脂基材には、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤が含有していてもよい。
【0027】
また、樹脂基材の厚みは、特に制限がなく、仕様などに応じて適宜決定してよい。実用上、樹脂基材の厚みは、6μm以上200μm以下程度、好ましくは12μm以上125μm以下程度、より好ましくは12μm以上50μm以下程度が望ましい。ただし、本発明のガスバリア性積層体において、樹脂基材の厚みは上記範囲に限定されるものではない。
【0028】
また、樹脂基材は、樹脂基材表面に表面処理を施してもよい。表面処理を行うことにより、他の層(蒸着層、アンカーコート層、など)を積層するにあたり、他の層との密着性を高めることが出来る。ここで、表面処理として、例えば、(1)コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの物理的処理、(2)酸やアルカリによる薬液処理などの化学的処理、などを用いてもよい。
【0029】
(蒸着層)
蒸着層は、ガスバリア性を付与するため、蒸着材料を蒸着させることにより、樹脂基材より上層に形成する。
【0030】
蒸着層に用いる蒸着材料は、公知のガスバリア性蒸着膜を構成する無機材料から適宜選択して用いてよい。例えば、Si、Al、Zn、Sn、Fe、Mn等の金属、これらの金属の1種以上を含む無機化合物などが挙げられる。該無機化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等が挙げられる。これらの中でも、金属及び金属酸化物から選ばれる少なくとも1種が好ましい。具体的には、例えば、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素等のケイ素酸化物(SiO
x)、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、などが挙げられる。
【0031】
また、蒸着層は、金属ケイ素と二酸化ケイ素とを含有する蒸着材料を用いて真空蒸着により形成することが特に好ましい。上述のとおりに形成された蒸着層は、透明性や、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性に特に優れる。蒸着材料中、金属ケイ素と二酸化ケイ素の含有量の比率は、ケイ素と酸素との元素比O/Siが1.0以上1.8以下になる比率で含有することが好ましく、O/Siが1.2以上1.7以下になる比率で含有することがより好ましい。O/Siが1.0以上であると、透明性が良好で、O/Siが1.8以下であると、バリア性が良好である。ただし、本発明のガスバリア性積層体において、金属ケイ素と二酸化ケイ素とを含有する蒸着材料を用いる場合の含有量の比率は上記範囲に限定されるものではない。
【0032】
また、金属ケイ素と二酸化ケイ素とを含有する蒸着材料は、さらに、Al、Zn、Sn、Fe、Mn、からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の金属(以下、特定金属と呼称する)またはそれらの酸化物を含有していてもよい。これにより、金属ケイ素と二酸化ケイ素との混合物を蒸着材料として用いた場合よりも、膜密度が高い蒸着層を形成でき、高いガスバリア性が発現する。
【0033】
また、金属ケイ素と二酸化ケイ素と特定金属またはそれらの酸化物とを含有させた蒸着材料を用いる場合、蒸着材料中における特定金属又はその酸化物の含有量は、金属ケイ素と二酸化ケイ素の合計100質量%に対して1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上40質量%以下がより好ましく、5質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。1質量%以上であれば、膜密度の向上効果が充分に得られる。50質量%を超えると、相対的に金属ケイ素及び二酸化ケイ素の含有量が少なくなるため、蒸着層の透明性、耐湿熱環境下におけるバリア性等が低下するおそれがある。また、特定金属又はその酸化物以外の残部は、金属ケイ素及び二酸化ケイ素からなることが好ましい。つまり、前記特定金属又はその酸化物と、金属ケイ素と、二酸化ケイ素との合計が100質量%であることが好ましい。
【0034】
上述のように、金属ケイ素と二酸化ケイ素とを含有する蒸着材料を真空蒸着させると、ケイ素酸化物(SiO
x)を含有する無機材料からなる蒸着層が形成される。また、金属ケイ素と、二酸化ケイ素と、特定金属又はその酸化物を含有する蒸着材料を真空蒸着すると、ケイ素酸化物と、特定金属又はその酸化物を含有する無機材料からなる蒸着層が形成される。形成された蒸着層を構成する元素の種類と存在比は、X線光電子分光分析装置(ESCA)により測定できる。
【0035】
蒸着材料に、金属ケイ素と二酸化ケイ素とを含有する蒸着材料を用いた場合、蒸着層におけるケイ素酸化物の含有量は、蒸着層を構成する全元素中のSi元素の存在比として、15atm%以上が好ましく、25atm%以上がより好ましい。25atm%以上であれば、透明性、バリア性等に優れる。
【0036】
蒸着材料に、金属ケイ素と二酸化ケイ素と特定金属またはそれらの酸化物とを含有させた蒸着材料を用いる場合、蒸着層における特定金属又はその酸化物の含有量は、蒸着層を構成する全元素中の特定金属元素の存在比として、1atm%以上20atm%以下が好ましく、3atm%以上15atm%以下がより好ましく、3atm%以上10atm%以下がさらに好ましい。1atm%以上であれば、高いガスバリア性が発現する。20atm%を超えると、相対的にケイ素酸化物の含有量が少なくなるため、蒸着層の透明性、耐湿熱環境下におけるバリア性等が低下するおそれがある。特定金属元素の存在比が1atm%以上20atm%以下の蒸着層は、例えば、金属ケイ素と二酸化ケイ素の合計100質量%に対して特定金属又はその酸化物を1質量%以上50質量%以下の割合で配合した蒸着材料を用いることで形成できる。
【0037】
蒸着層の形成方法には、公知の蒸着方法から適宜選択し用いてよい。例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法等の化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、ALD:Atomic Layer Deposition法、などを用いてよい。特に、EB:electron beam加熱方式の真空蒸着法は高い成膜速度が得ることが出来、本発明のガスバリア性積層体の蒸着層の形成方法として好ましい。
【0038】
また、蒸着を行うにあたり、反応蒸着法を用いてもよい。反応蒸着法は、蒸着材料を蒸着させる際に、蒸発した粒子と雰囲気中に導入したガスなどと反応させて蒸着させる方法である。導入するガスとしては、例えば、酸素ガス、アルゴンガス、などが挙げられる。酸素ガスなどとの反応蒸着を行うことにより、蒸着材料中の金属成分が酸化され、蒸着層の透明性を向上させることができる。また、反応蒸着法を用いる場合、ガスを導入する際は、成膜室の圧力が2×10
−1Pa以下にすることが望ましい。成膜室の圧力が2×10
−1Paよりも大きくなってしまうと、蒸着層がきれいに積層されず、水蒸気バリア性が低下してしまうおそれがある。
【0039】
また、蒸着層の膜厚は、5nm以上300nm以下が好ましく、10nm以上150nm以下がより好ましい。5nm以上であると充分なバリア性が発現し、300nm以下であると、後工程などでクラックの発生やそれによるバリア性の低下が生じにくい。ただし、本発明のガスバリア性積層体において、蒸着層の膜厚は上記範囲に限定されるものではない。
【0040】
(オーバーコート層)
オーバーコート層は、蒸着層上に形成する。オーバーコート層を蒸着層に積層することで、蒸着層単層では発現できない優れたガスバリア性を得ることができる。また、オーバーコート層は、緻密で脆い蒸着層を保護する機能も有しており、擦れや屈曲によるクラックの発生を抑制できる。
【0041】
オーバーコート層は、塗布液を調整し、蒸着層上に塗布液を塗布し、塗布液を加熱乾燥することにより形成する。
【0042】
本発明のガスバリア性積層体において、オーバーコート層形成用の塗布液は、下記一般式(a)で表される有機ケイ素化合物及びその加水分解物からなる群から選ばれた少なくとも1種(A)を含有する。
R
1O−(CH
2CH
2O)
m−(CH
2)
n−Si(OR)
3……(a)
[但し、R
1は H、CH
3、または−(CH
2)
n−Si(OR)
3、Rはアルキル基であり、m、nは1〜3の整数である。]
【0043】
Si−OR構造を有する有機ケイ素化合物は、加水分解反応により、ケイ素原子に結合したOR基がOH基(水酸基)となり、OH基の脱水縮合によりシロキサン結合を形成する。有機ケイ素化合物として、式(a)で表されるものを用いることで、緻密で強固なネットワーク重合被膜を形成することができる。また、分子内に(CH
2)
nを有することで、靭性、柔軟性を併せ持つ有機無機複合膜が形成される。このため、耐熱性、耐水性、耐湿性、などに優れたオーバーコート層を得ることが出来る。
【0044】
また、本発明のオーバーコート層形成用の塗布液によれば、従来のガスバリア性積層体と異なり、水溶性高分子を使用せずに、あるいは、従来よりも水溶性高分子の含有量を減らし少量とした組成で、有機無機複合膜を形成することが出来る。このため、得られた有機無機複合膜は、水溶性高分子に起因する耐水性や耐湿性の低下の影響を抑制できると考えられる。
【0045】
式(a)中、Rのアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。式(a)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば、CH
3O−(CH
2CH
2O)
3−(CH
2)
3−Si(OCH
3)
3:エチレンオキサイド含有プロプレントリメトキシラン、(CH
30)
3−Si−CH
2CH
2CH
2−O−CH
2CH
2−0−CH
2CH
2CH
2−Si(OCH
3)
3:ビストリメトキシシリルプロピレンオキシエチレン、などが挙げられる。式(a)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物としては、式中の3つあるいは6つのORのうち、少なくとも1つがOHとなったものが挙げられる。該加水分解物は公知の方法により調製できる。たとえば、有機ケイ素化合物をメタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールに溶解し、その溶液に、塩酸等の酸の水溶液を添加し、加水分解反応させることにより調製できる。
【0046】
(A)成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。塗布液における(A)成分の配合量は、ガスバリア性、耐久性、後加工適性等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、総固形分に対し、1質量%以上100質量%以下程度が好ましく、3質量%以上90質量%以下程度がより好ましい。1質量%以上であると、ガスバリア性、湿熱耐久性が良好である。90質量%以下であると、より耐久性が良好である。
【0047】
また、塗布液は、さらに、下記一般式(b
1)で表される有機ケイ素化合物、下記一般式(b
2)で表される有機ケイ素化合物、及び、それらの加水分解物、からなる群から選ばれた少なくとも1種(B)を含有することが好ましい。
Si(OR
2)
4……(b
1)
R
3−Si(OR
2)
3……(b
2)
[但し、R
2はアルキル基であり、R
3はエポキシ基及びNCO基のいずれか一方を有する有機基である。]
【0048】
(B)成分は、(A)成分の補助成分として機能する。(B)成分をさらに含有することにより、バリア性、特に湿熱耐性が向上する。上記のうち、式(b
1)で表される有機ケイ素化合物及びその加水分解物は、特に、バリア性の点で好ましい。式(b
2)で表される有機ケイ素化合物及びその加水分解物は、特に、湿熱耐性の点で好ましい。(B)成分は、上記の中でも、式(b
2)で表される有機ケイ素化合物及びその加水分解物から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0049】
式(b
1)中、R
2のアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。式(b
1)で表される有機ケイ素化合物としては、例えばテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシランなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。式(b
1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物としては、式中の4つのOR
1のうち、少なくとも1つがOHとなったものが挙げられる。
【0050】
式(b
2)中、R
2のアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。R
3のアルキル基としては、例えば、下記一般式(α)で表される基が挙げられる。
X−(CH
2)
m− ……(α)
[但し、Xはグリシドキシ基又はNCO基であり、mは1〜8の整数である。]
【0051】
式(b
2)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するもの、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのNCO基(イソシアネート基)を有するものなどが挙げられる。式(b
2)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物としては、式中の3つのOR
2のうち、少なくとも1つがOHとなったものが挙げられる。
【0052】
式(b
1)又は式(b
2)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物は公知の方法により調製できる。たとえば、有機ケイ素化合物をメタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールに溶解し、その溶液に、塩酸等の酸の水溶液を添加し、加水分解反応させることにより調製できる。
【0053】
(B)成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。塗布液における(B)成分の配合量は、(A)成分との総和が総固形分に対して1質量%以上100質量%以下となる量が好ましい。また、塗布液における(B)成分と(A)成分との比率(B)/(A)は、質量比で1/100以上100/1以下が好ましく、1/10以上10/1以下がより好ましい。1/100以上であると、(B)成分を配合する効果が充分に得られる。10/1を超えると、相対的に(A)成分の割合が低くなるため、可とう性、バリア性等が低下するおそれがある。
【0054】
また、塗布液は、さらに、OH基を2個以上有するアクリルポリオール(C)を含有することが好ましい。(C)成分は、前記式(a)、(b
1)又は(b
2)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物の重合により形成される重合体と相溶性を有している。有機ケイ素化合物((A)成分、(B)成分)に加えて、(C)成分を添加することで、当該塗布液を塗布、加熱乾燥した際に均質な有機無機複合体が形成される。均質な有機無機複合膜を得られることから、(1)蒸着層を好適に形成することが出来、蒸着層との相互作用によるガスバリア性の向上効果がさらに高まる、(2)高温高湿雰囲気下や熱水雰囲気下におけるオーバーコート層の膨潤劣化が抑制される、などの効果を奏する。よって、過酷環境下におかれる用途であっても、長期に渡って優れたガスバリア性を発揮するガスバリア性積層体を提供できる。
【0055】
(C)成分としては、OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物、OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物などが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸誘導体」には、(メタ)アクリル酸の構造の一部を変化させたもの(例えば(メタ)アクリル酸エステル)のほか、(メタ)アクリル酸自体も包含されるものとする。OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0056】
OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、OH基を有さない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーが好ましい。OH基を有さない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、環構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー等が挙げられる。アルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸などが挙げられる。環構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えばベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その他のモノマーとして、(メタ)アクリル酸誘導体モノマー以外のモノマーを用いてもよい。該モノマーとしては、例えばスチレンモノマー、シクロヘキシルマレイミドモノマー、フェニルマレイミドモノマーなどが挙げられる。上記(メタ)アクリル酸誘導体モノマー以外のモノマーはOH基を有していてもよい。
【0057】
(C)成分は、OH基価が50[mgKOH/g]以上250[mgKOH/g]以下であることが好ましい。前記一般式(a)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物や、一般式(b
1)又は一般式(b
2)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物は、OH基含有量の多い重合体を形成する。(C)成分のOH基価が上記の範囲内であると、該重合体との相溶性に優れている。ここで、OH基価[mgKOH/g]とは、アクリルポリオール中のOH基量の指標であり、アクリルポリオール1g中の水酸基をアセチル化するために必要な水酸化カリウムのmg数を示す。
【0058】
(C)成分の重量平均分子量は特に規定しないが、3000以上200000以下が好ましく、5000以上100000以下がより好ましく、5000以上40000以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ポリスチレンを基準として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定される重量平均分子量とする。
【0059】
(C)成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。塗布液における(C)成分の配合量は、総固形分に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がより好ましい。5質量%以上であると、(C)成分を配合する効果が充分に得られる。50質量%を超えるとバリア性低下のおそれがある。
【0060】
また、塗布液は、さらに、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するイソシアネート化合物(D)を含有することが好ましい。(D)成分は、前記式(a)、(b
1)又は(b
2)で表される有機ケイ素化合物の加水分解により形成されるSi−OH基と反応してウレタン結合を形成する。これにより、高温高湿下での長期保管での耐性がさらに向上する。有機ケイ素化合物((A)成分、(B)成分)に加えて、(D)成分を添加することで、当該塗布液を塗布、加熱乾燥した際に均質な有機無機複合体が形成される。均質な有機無機複合膜を得られることから、(1)蒸着層を好適に形成することが出来、蒸着層との相互作用によるガスバリア性の向上効果がさらに高まる、(2)高温高湿雰囲気下や熱水雰囲気下におけるオーバーコート層の膨潤劣化が抑制される、などの効果を奏する。よって、過酷環境下におかれる用途であっても、長期に渡って優れたガスバリア性を発揮するガスバリア性積層体を提供できる。
【0061】
(D)成分としては、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するものであればよく、例えばモノマー系イソシアネートとして、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)などの脂肪族系イソシアネート、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族系イソシアネートなどが挙げられる。また、これらのモノマー系イソシアネートの重合体又は誘導体も使用可能である。該重合体又は誘導体としては、例えば、3量体のヌレート型、1,1,1−トリメチロールプロパンなどと反応させたアダクト型、ビウレットと反応させたビウレット型などが挙げられる。
【0062】
(D)成分としては、上記のモノマー系イソシアネート、その重合体、誘導体等のなかから任意に選択してよく、1種を単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。塗布液における(D)成分の配合量は、総固形分に対し、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。5質量%以上であると、(D)成分を配合する効果が充分に得られる。50質量%を超えると、バリア性低下のおそれがある。
【0063】
また、塗液は、(C)成分及び(D)成分の両方を含有することが好ましい。(C)成分及び(D)成分の両方を併用した場合、(C)成分のOH基と(D)成分のNCO基が反応してウレタン結合を形成する。そのため、シロキサン結合以外にウレタン結合による複合架橋体構造が形成され、優れたガスバリア性の向上効果が得られる。
【0064】
オーバーコート層を形成する塗布液は、(A)成分と、任意成分((B)、(C)、(D)成分)と、溶媒と、を混合することにより調製する。溶媒としては、配合成分を溶解し得るものであればよく、例えば水、アルコール、トルエン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの溶媒は1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。(A)成分、(B)成分については、加水分解物を配合する場合は、予め加水分解処理して得られた加水分解液をそのまま使用してもよい。また、任意成分である、(B)、(C)、(D)は、1種を添加してもよいし、複数種を組み合わせて添加してもよいし、全種を添加してもよい。
【0065】
塗布液の塗布方法は、通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等の周知の方法を用いることができる。乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など、熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法において、加熱温度は、60℃以上200℃以下程度の範囲内が好ましく、100℃以上150℃以下程度の範囲内がより好ましい。60℃以上であると、所望のバリア性が発現され良好である。150℃以下であると、蒸着短時間であれば、基材の変形や蒸着膜にクラックが発生することなく好適である。
【0066】
オーバーコート層の膜厚は、0.1μm以上2μm以下程度が好ましく、0.2μm以上1.0μm以下程度がより好ましい。0.1μm以上であると安定してバリア性が発現され、1μm以下であると、印刷や他のフィルムの積層や曲げ加工などの後加工適性に優れる。ただし、本発明のガスバリア性積層体において、オーバーコート層の膜厚は上記範囲に限定されるものではない。
【0067】
また、本発明のガスバリア性積層体は、板状でもよく、フィルム状でもよい。例えばロールでの巻き取り加工等によりフィルム状に成形されたものでもよい。
【0068】
(アンカーコート層)
また、本発明のガスバリア性積層体は、前記樹脂基材と前記蒸着層との間に、さらに、アンカーコート層と、を備えてもよい。アンカーコート層を設けることにより、樹脂基材と蒸着層との密着性を高め、各層の間での剥離発生を抑制することが出来る。
【0069】
図2に、アンカーコート層を積層した本発明のガスバリア性積層体の一例について、概略断面図を示す。ガスバリア性積層体20は、樹脂基材11の片面に、アンカーコート層24、蒸着層12、オーバーコート層13が順次積層した構成の積層体である。
【0070】
アンカーコート層は、アンカーコート剤を調整し、樹脂基材上にアンカーコート剤を塗布し、塗布された該アンカーコート剤を加熱乾燥することにより形成する。
【0071】
アンカーコート剤は、OH基を2個以上有するアクリルポリオール(1)と、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するイソシアネート化合物(2)と、を含有することが好ましい。
【0072】
アクリルポリオール(1)としては、OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物、OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物などが挙げられる。OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。OH基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、OH基を有さない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーが好ましい。OH基を有さない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、環構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー等が挙げられる。アルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸などが挙げられる。環構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えばベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その他のモノマーとして、(メタ)アクリル酸誘導体モノマー以外のモノマーを用いてもよい。該モノマーとしては、例えばスチレンモノマー、シクロヘキシルマレイミドモノマー、フェニルマレイミドモノマーなどが挙げられる。上記(メタ)アクリル酸誘導体モノマー以外のモノマーはOH基を有していてもよい。
【0073】
また、アクリルポリオール(1)のOH基価が50[mgKOH/g]以上250[mgKOH/g]以下であることが好ましい。OH基価[mgKOH/g]とは、アクリルポリオール中のOH基量の指標であり、アクリルポリオール1g中の水酸基をアセチル化するために必要な水酸化カリウムのmg数を示す。OH基価が[50mgKOH/g]未満であると、イソシアネート化合物(2)との反応量が少なく、アンカーコート層による樹脂基材と蒸着層との密着性の向上効果が充分に発現しないおそれがある。一方、OH基価が[250mgKOH/g]よりも大きいと、イソシアネート化合物(2)との反応量が多くなり過ぎて、アンカーコート層の膜収縮が大きくなるおそれがある。膜収縮が大きいと、その上に蒸着層がきれいに積層されず、充分なガスバリア性を示さないおそれがある。
【0074】
アクリルポリオール(1)の重量平均分子量は特に規定しないが、3000以上200000以下が好ましく、5000以上100000以下がより好ましく、5000以上40000以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ポリスチレンを基準として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された重量平均分子量とする。また、アクリルポリオール(1)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0075】
イソシアネート化合物(2)としては、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するものであればよい。例えば、モノマー系イソシアネートとして、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)などの脂肪族系イソシアネート、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族系イソシアネートなどを用いてもよい。また、これらのモノマー系イソシアネートの重合体又は誘導体も用いてもよい。該重合体又は誘導体としては、例えば、3量体のヌレート型、1,1,1−トリメチロールプロパンなどと反応させたアダクト型、ビウレットと反応させたビウレット型などが挙げられる。イソシアネート化合物(2)としては、上記のモノマー系イソシアネート、その重合体、誘導体等のなかから任意に選択してよく、1種を単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0076】
また、アンカーコート剤において、アクリルポリオール(1)のOH基に対するイソシアネート化合物(2)のNCO基の当量比(NCO/OH)が0.3以上2.5以下であることが好ましく、0.5以上2.0以下であることがより好ましい。NCO/OHが0.3以上であると基材との密着性が向上し、2.0以下であると湿熱耐性試験後の密着性が向上する。アンカーコート剤におけるアクリルポリオール(1)とイソシアネート化合物(2)の配合量は、当量比に基づき配合されるのが好ましく、概ねアクリルポリオール(1)の100質量部に対し、イソシアネート化合物(2)が10質量部以上90質量部以下程度であることが好ましく、20質量部以上80質量部以下程度であることがより好ましい。
【0077】
また、アンカーコート剤は、樹脂基材と蒸着層との密着性をより高めるために、さらに、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するもの、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するもの、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を有するもの、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を有するものなどが挙げられる。また、シランカップリング剤としては1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0078】
アンカーコート剤は、アクリルポリオール(1)とイソシアネート化合物(2)と任意成分(シランカップリング剤等)と溶媒と混合することにより調製できる。溶媒としては、アクリルポリオール(1)とイソシアネート化合物(2)を溶解し得るものであればよく、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、アセトンなどが挙げられる。これらの溶媒は1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0079】
アンカーコート剤の塗布方法は、通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等の周知の方法を用いることができる。乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など、熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法において、加熱温度は、特に限定されないが、60℃以上140℃以下程度の範囲内が好ましく、残留溶剤がない程度でかつ巻き取り加工しても塗工面が裏面にくっついてしまういわゆるブロッキング現象がないような条件を適宜選択でき、必要に応じて40℃以上60℃以下程度の範囲内でエージング処理を行っても良い。
【0080】
アンカーコート層の膜厚は、0.02μm以上1.0μm以下が好ましく、0.04μm以上0.5μm以下がより好ましい。0.02μm以上であると、樹脂基材と蒸着層との密着性が充分に良好となる。0.5μmよりも厚いと内部応力の影響が大きくなり、蒸着層12がきれいに積層されず、ガスバリア性の発現が不充分となるおそれがある。
【0081】
(ラミネート樹脂層)
また、本発明のガスバリア性積層体は、さらに、接着層を介してラミネート樹脂層を積層し、最表面をラミネート樹脂層としてもよい。最表面にラミネート樹脂層を設けることにより、用途に応じた機能・特性を付与し、実用性を高めることができる。ここで、ラミネート樹脂層は、片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0082】
図3に、ラミネート樹脂層を両面に備えた本発明のガスバリア性積層体の一例について、概略断面図で示す。ガスバリア性積層体30は、樹脂基材11の一方の面に、アンカーコート層24、蒸着層12、オーバーコート層13、接着層31、ラミネート樹脂層32が順次積層し、樹脂基材11の他方の面に、接着層33、ラミネート樹脂層34が順次積層した構成の積層体である。
【0083】
ラミネート樹脂層の材料は、所望する機能・特性などに応じて、適宜公知の材料から選択し、用いてよい。
【0084】
例えば、ラミネート樹脂層に、ヒートシール性のある樹脂で構成されるシーラントフィルムを用いることで、ガスバリア性積層体を、袋状包装体などを形成する際の接着部に利用することができる。シーラントフィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びそれらの金属架橋物等が挙げられる。シーラントフィルムの厚さは、目的に応じて決められるが、一般的には15μm以上200μm以下の範囲である。なお、ラミネート樹脂層を両面に積層する場合、いずれか一方にシーラントフィルムを用い、他方にシーラントフィルム以外の樹脂フィルムを用いた構成としてもよい。
【0085】
例えば、ラミネート樹脂層に、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムを用いることで、本発明のガスバリア性積層体を、液晶表示素子や、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネルで使用する透明伝導シートなどの封止材として利用することもできる。
【0086】
ラミネート樹脂層の形成は、選択したラミネート樹脂層の材料に応じて、適宜公知の接着方法を用いて行ってよい。例えば、接着剤を用いたドライラミネート、熱接着性樹脂を用いた押出成形、などのラミネート方法を用いてもよい。接着剤を用いたドライラミネートの場合、接着剤が接着層を形成する構成となる。また、熱接着性樹脂を用いた押出成形の場合、熱接着性樹脂が接着層を形成する構成となる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は実施例で示した様態に限定されるものではない。なお、オーバーコート層形成用の塗布液およびアンカーコート剤における有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量を示す「固形分」は、加水分解した有機ケイ素化合物が重合し、成膜される塗膜重量に換算した量とする。
【0088】
<実施例1>
まず、樹脂基材上に蒸着層を形成した。
樹脂基材には、片面がコロナ処理された厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工、P60)を用いた。また、真空蒸着機を使用して、前記樹脂基材のコロナ処理面に、直接、元素比O/Siが1.5になるように金属ケイ素粉末及び二酸化ケイ素粉末を混合した蒸着材料(A)を蒸着し、樹脂基材上に蒸着層を形成した。このとき、形成された蒸着層(SiO
x蒸着膜)は厚さ50nmであった。
【0089】
次に、オーバーコート層形成用の塗布液を調整した。
塗布液は、エチレンオキサイド含有トリメトキシシラン(CH
3O−(CH
2CH
2O)
3−(CH
2)
3−Si(OCH
3)
3))の加水分解溶液(0.001Nの塩酸を用いて水としてエチレンオキサイド含有トリメトキシシランの4倍モル当量加えたもの)を、イソプロピルアルコール(IPA)にて希釈して固形分5質量%の溶液としたもの、とした。
【0090】
次に、蒸着層上に塗布液を塗布し、加熱乾燥し、オーバーコート層を形成した。
塗布液の塗工には、バーコートを用いた。また、加熱乾燥の条件は、120℃−2分間とした。このとき、形成されたオーバーコート層の乾燥膜厚は、膜厚0.5μmであった。
【0091】
以上より、樹脂基材/蒸着層/オーバーコート層がこの順で積層された本発明のガスバリア性積層体を製造した。実施例1のガスバリア性積層体において、各層の膜厚は、樹脂基材:12μm/蒸着層:50nm/オーバーコート層:0.5μm、であった。
【0092】
<実施例2>
まず、アンカーコート剤を調整した。
アンカーコート剤は、OH基価が178mgKOH/gになるように、モノマーとして、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とメチルメタクリレート(MMA)を共重合させてアクリルポリオール(重量平均分子量約1万)を調整し、該アクリルポリオールを主剤とし、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を、主剤のOH基量に対して0.5当量となるように配合した固形分5質量%のメチルエチルケトン溶液とした。
【0093】
次に、樹脂基材上にアンカーコート剤を塗布し、アンカーコート層を形成した。
樹脂基材には、片面がコロナ処理された厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工、P60)を用いた。また、グラビアコート機を用いて、アンカーコート剤を前記樹脂基材のコロナ処理面に塗工し、50℃の恒温室に48時間保管(エージング処理)し、アンカーコート層を形成した。このとき、アンカーコート層の乾燥膜厚は、0.15μmであった。
【0094】
次に、アンカーコート層上に蒸着層を形成した。
真空蒸着機を使用して、元素比O/Siが1.5になるように金属ケイ素粉末及び二酸化ケイ素粉末を混合した材料にさらに金属錫粉末を20質量%混合した蒸着材料(B)を蒸着し、厚さ50nmの蒸着層(SiOx−Sn複合蒸着膜)を形成した。
【0095】
次に、オーバーコート層形成用の塗布液を調整した。
塗布液は、エチレンオキサイド含有トリメトキシシラン(CH
3O−(CH
2CH
2O)
3−(CH
2)
3−Si(OCH
3)
3))の加水分解溶液(0.001Nの塩酸を用いて水としてエチレンオキサイド含有トリメトキシシランの4倍モル当量加えたもの)と、グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを、ビストリメトキシシリルエタン:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=80:20(モル比)となるように混合し、IPAにて希釈して固形分5質量%の溶液としたもの、とした。
【0096】
次に、蒸着層上に塗布液を塗布し、加熱乾燥し、オーバーコート層を形成した。
塗布液の塗工には、バーコートを用いた。また、加熱乾燥の条件は、120℃−2分間とした。このとき、形成されたオーバーコート層の乾燥膜厚は、膜厚0.5μmであった。
【0097】
以上より、樹脂基材/アンカーコート層/蒸着層/オーバーコート層がこの順で積層された本発明のガスバリア性積層体を製造した。実施例2のガスバリア性積層体において、各層の膜厚は、樹脂基材:12μm/アンカーコート層:0.15μm/蒸着層:50nm/オーバーコート層:0.5μm、であった。また、蒸着膜中の元素比をX線光電子分光分析装置(日本電子製、型式JPS−90MXV)にて測定を行ったところ、Si、Sn、Oの元素が検出され、各々、Si:30.4atm%、Sn:5.2atm%、O:63.4atm%であった。
【0098】
<実施例3>
実施例2と同様に本発明のガスバリア性積層体を製造した。ただし、オーバーコート層形成用の塗布液は以下に示す実施例3塗布液の組成とした。
【0099】
(実施例3塗布液)
まず、ビストリメトキシシリルプロピレンオキシエチレン((CH
30)
3−Si−CH
2CH
2CH
2−O−CH
2CH
2−0−CH
2CH
2CH
2−Si(OCH
3)
3)の加水分解溶液(0.001Nの塩酸を用いて水として4倍モル当量加えたもの)と、グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、を、ビストリメトキシシリルヘキサン:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=80:20(モル比)となるように混合し、IPAにて希釈して固形分5質量%の溶液(実施例3溶液A)を調製した。
【0100】
次に、実施例3溶液Aと、実施例2でアンカーコート剤として調製した固形分5質量%のメチルエチルケトン溶液(アクリルポリオールとイソシアネート系化合物の混合液)と、を、オーバーコート層中の固形分比が90:10になるように混合し、実施例3塗布液を調整した。
【0101】
以上より、樹脂基材/アンカーコート層/蒸着層/オーバーコート層がこの順で積層された本発明のガスバリア性積層体を製造した。実施例3のガスバリア性積層体において、各層の膜厚は、樹脂基材:12μm/アンカーコート層:0.15μm/蒸着層:50nm/オーバーコート層:0.5μm、であった。
【0102】
<比較例1>
実施例1と同様にガスバリア性積層体を製造した。ただし、オーバーコート層形成用塗布液の組成を水溶性高分子であるポリビニルアルコールを含む下記に示す比較例1塗布液の組成とし、オーバーコート層形成用塗布液塗工後の乾燥条件を120℃−1分間とした。
【0103】
(比較例1塗布液)
テトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解溶液(0.01Nの塩酸を用いて水としてテトラエトキシシランの5倍モル当量加えたもの)と、ポリビニルアルコール(PVA)の水溶液と、を、TEOSのSiO
2換算量とPVAとの質量比が50:50となるように混合して固形分5質量%の溶液を調製した。
【0104】
以上より、樹脂基材/蒸着層/オーバーコート層がこの順で積層されたガスバリア性積層体を製造した。
【0105】
<比較例2>
実施例2と同様にガスバリア性積層体を製造した。ただし、オーバーコート層形成用塗布液の組成を実施例2で用いたアンカーコート剤と同じ組成とし、オーバーコート層形成用塗布液塗工後の乾燥条件を120℃−1分間とした。
【0106】
以上より、樹脂基材/アンカーコート層/蒸着層/オーバーコート層がこの順で積層された本発明のガスバリア性積層体を製造した。なお、比較例2では、アンカーコート層とオーバーコート層とは同組成の材料よりなる。
【0107】
<検査測定>
実施例1〜3および比較例1〜2で得られたガスバリア性積層体について、水蒸気透過度(WVTR)の測定を行った。ここで、水蒸気透過度(WVTR)の測定は、(1)オーバーコート層を積層する前と、(2)製造直後(初期)と、(3)加速劣化試験(85℃85%RHで500時間の保存試験)後と、の3回行った。なお、水蒸気透過度の測定では、モダンコントロール社製の水蒸気透過度計(MOCON PERMATRAN−W 3/31)を用いて、40℃−90%RH雰囲気下での水蒸気透過度〔g/m
2・day〕を測定した。測定結果を以下に示す。
【0108】
実施例1:オーバーコート層を積層する前(樹脂基材/蒸着層)のWVTRは1.2〔g/m
2・day〕、初期のWVTRは0.3〔g/m
2・day〕、加速劣化試験後のWVTRは0.5〔g/m
2・day〕
実施例2:オーバーコート層を積層する前(樹脂基材/アンカーコート層/蒸着層)のWVTRは0.5〔g/m
2・day〕、初期のWVTRは0.1〔g/m
2・day〕、加速劣化試験後のWVTRは0.2〔g/m
2・day〕
実施例3:オーバーコート層を積層する前(樹脂基材/アンカーコート層/蒸着層)のWVTRは0.5〔g/m
2・day〕、初期のWVTRは0.1〔g/m
2・day〕、加速劣化試験後のWVTRは0.2〔g/m
2・day〕
比較例1:オーバーコート層を積層する前(樹脂基材/蒸着層)のWVTR1.5〔g/m
2・day〕、初期のWVTRは0.3〔g/m
2・day〕、加速劣化試験のWVTRは1.8〔g/m
2・day〕
比較例2:オーバーコート層を積層する前(樹脂基材/アンカーコート層/蒸着層)のWVTRは0.7〔g/m
2・day〕、初期のWVTRは0.6〔g/m
2・day〕であり、加速劣化試験後のWVTRは7.8〔g/m
2・day〕
【0109】
実施例1〜3および比較例1〜2で得た積層体の層構成(使用材料)と水蒸気透過度(WVTR)の測定結果を表1にまとめて示す。なお、表1中の略号はそれぞれ以下のものを示す。
AC層:アンカーコート層。
OC層:オーバーコート層。
AOH/NCO:実施例2で調製したアンカーコート剤。
a−1:エチレンオキサイド含有トリメトキシシランの加水分解物。
a−2:ビストリメトキシシリルプロピレンオキシエチレンの加水分解物。
b1−1:TEOSの加水分解物。
b2−1:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
PVA:ポリビニルアルコール。
【0110】
【表1】
【0111】
<評価>
実施例1〜3に示す本発明のガスバリア性積層体のガスバリア性は、WVTRの初期値が低く、優れたガスバリア性を有していた。また、加速劣化試験後も、WVTRの値が初期値からそれほど増加していなかった。一方、比較例1〜2に示すガスバリア性積層体のガスバリア性は、加速劣化試験後、WVTRの値が初期値に比べて6倍以上増加しており、WVTRが1.0〔g/m
2・day〕より大きい値を示した。
【0112】
以上より、本発明のガスバリア性積層体は、加速劣化試験(85℃85%RHで500時間の保存試験)後であってもガスバリア性を維持すること(具体的には、WVTRが1.0〔g/m
2・day〕以下程度)が出来、過酷環境下であってもガスバリア性を維持することが確認された。このため、ボイルやレトルト殺菌のような処理を行う包装材料用途、屋外での長時間の使用が想定される太陽電池用途、などの過酷環境下であっても好適に用いることが出来ることが確認された。