特許第6187152号(P6187152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187152
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ラーメン構造物設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20170821BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20170821BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20170821BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   E04B1/20 A
   E04B1/20 Z
   E04G21/02 103Z
   E01D1/00 C
   E01D21/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-223109(P2013-223109)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-86511(P2015-86511A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】富井 孝喜
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−096147(JP,A)
【文献】 特開2011−001251(JP,A)
【文献】 特開2012−002763(JP,A)
【文献】 特開2012−216235(JP,A)
【文献】 特開2002−004219(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/067306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E01D 1/00
E01D 21/00
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造体と前記構造体の間に架設されたコンクリート部材とからなるラーメン構造物の設計方法であって、
前記コンクリート部材での乾燥収縮量に基づき、前記乾燥収縮量を抑制するための、前記コンクリート部材への膨張材の添加量を計算する添加量計算工程と、
前記コンクリート部材と結合する前記構造体について、前記膨張材の添加による乾燥収縮量の抑制量に応じて低減させた断面力を計算し、当該低減させた断面力に基づいて前記構造体に関する配筋計算を行う配筋計算工程と、
を備えることを特徴とするラーメン構造物設計方法。
【請求項2】
前記添加量計算工程は、
前記コンクリート部材と同仕様の試験用コンクリートに対する、複数パターンの添加量での膨張材添加を行い、各パターンの添加量での前記試験用コンクリートの膨張量を測定した試験結果に基づいて、前記コンクリート部材における膨張材添加量と膨張量との関係を算定する工程と、
前記乾燥収縮量を抑制する前記コンクリート部材の膨張量を、前記関係に適用して、前記膨張材の添加量を計算する工程と、
からなることを特徴とする請求項1に記載のラーメン構造物設計方法。
【請求項3】
前記添加量計算工程において、
前記計算した膨張材の添加量が、膨張材添加の施工品質に関して定めた基準範囲内に含まれ、なおかつ、前記各パターンでの試験用コンクリートに対して行われた圧縮強度試験の結果が、前記コンクリート部材として必要な材料強度を満たすか、の各条件について判定する工程と、
前記判定の結果、前記各条件が満たされていると判定した場合に、前記計算した膨張材の添加量を設計値として決定する工程と、
を更に含むことを特徴とする請求項2に記載のラーメン構造物設計方法。
【請求項4】
複数の構造体と前記構造体の間に架設されたコンクリート部材とからなるラーメン構造物の設計方法であって、
前記ラーメン構造物のうち既に施工された構造体に関して、現在以降の所定条件下で生じる断面力を算定し、当該算定した断面力が所定基準を越える場合、当該構造体と結合する未施工のコンクリート部材に関して、前記断面力を抑制するための、前記コンクリート部材への膨張材の添加量を計算する添加量計算工程を備えることを特徴とするラーメン構造物設計方法。
【請求項5】
前記添加量計算工程は、
前記コンクリート部材と同仕様の試験用コンクリートに対する、複数パターンの添加量での膨張材添加を行い、各パターンの添加量での前記試験用コンクリートの膨張量を測定した試験結果に基づいて、前記コンクリート部材における膨張材添加量と膨張量との関係を算定する工程と、
前記乾燥収縮量に応じた前記断面力を抑制する前記コンクリート部材の膨張量を、前記関係に適用して、前記膨張材の添加量を計算する工程と、
からなることを特徴とする請求項4に記載のラーメン構造物設計方法。
【請求項6】
前記添加量計算工程において、
前記計算した膨張材の添加量が、膨張材添加の施工品質に関して定めた基準範囲内に含まれ、なおかつ、前記各パターンでの試験用コンクリートに対して行われた圧縮強度試験の結果が、前記コンクリート部材として必要な材料強度を満たすか、の各条件について判定する工程と、
前記判定の結果、前記各条件が満たされていると判定した場合に、前記計算した膨張材の添加量を設計値として決定する工程と、
を更に含むことを特徴とする請求項5に記載のラーメン構造物設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラーメン構造物設計方法に関するものであり、具体的には、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造を設計可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
打設後のコンクリートにおいては、時間経過と共に内部におけるセメントペーストの乾燥が進み、乾燥収縮を生じることになる。こうした乾燥収縮の発生は、当該コンクリートにおけるひび割れや、更にはそのひび割れに伴う機能低下の原因となるため、従来より各種の抑制技術が提案されてきた。すなわち、コンクリートやモルタル等の自己収縮及び乾燥収縮について、少なくとも収縮に起因するひび割れ発生を十分に防止可能な程度に低減し、しかも、コンクリートやモルタル等における他の性状に過度の影響を及ぼさないような比較的少量の配合で上述のひび割れ発生を防止可能なセメント配合用収縮抑制剤に関する技術(特許文献1参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−299989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上述した乾燥収縮は、該当箇所におけるひび割れ等の影響のみならず、その発生箇所と結合した構造体に引張応力や曲げ応力を及ぼす現象でもある。この曲げ応力による影響は、各部が剛結合するラーメン構造物において特に強く作用する。そのため、ラーメン構造物の設計に際しては、乾燥収縮による曲げ応力に耐えるべく、所定部位における配筋量の増加など適宜な補強措置を詳細に検討する必要があった。
【0005】
しかしながら、そうした補強措置の検討は、上述の乾燥収縮を抑制した場合の状況を踏まえずに行われている。すなわち、乾燥収縮抑制の措置を採用するにも関わらず、上述の曲げ応力がそのまま作用する前提で設計を行い、結果として、曲げ応力が作用する該当部位の設計配筋量が必要量より過大である設計結果しか得られないことになる。従って、適切な設計配筋量を決定した場合と比べ、配筋作業の繁雑化やコスト増大を招く事態となっていた。また、配筋やコンクリート打設が既に完了した状態の部位に関して、上述した曲げ応力等の各種負荷が当初の想定以上にかかることが判明した場合、該当部位外周を鋼板で被覆する等の追加的な補強措置が必要となり、作業効率やコストが更に悪化する恐れがあった。
【0006】
そこで本発明は、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造を設計可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するラーメン構造物設計方法は、複数の構造体と前記構造体の間に架設されたコンクリート部材とからなるラーメン構造物の設計方法であって、前記コンクリート部材での乾燥収縮量に基づき、前記乾燥収縮量を抑制するための、前記コンクリート部材への膨張材の添加量を計算する添加量計算工程と、前記コンクリート部材と結合する構造体について、前記膨張材の添加による乾燥収縮量の抑制量に応じて低減させた断面力を計算し、当該低減させた断面力に基づいて前記構造体に関する配筋計算を行う配筋計算工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これによれば、例えばラーメン構造物の水平部材(例:橋梁の橋桁部や橋脚桁材)に関する乾燥収縮抑制による効果、すなわち、当該水平部材と結合する鉛直部材(例:橋梁の橋脚部や基礎部)での不静定力緩和の効果を加味した上で、鉛直部材での配筋量を適切に抑制した構造を設計できる。従って、配筋工程での施工性や経済性が良好となるラーメン構造を設計可能となる。つまり、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造の設計が可能となる。
また、上述のラーメン構造物設計方法において、前記添加量計算工程は、前記コンクリート部材と同仕様の試験用コンクリートに対する、複数パターンの添加量での膨張材添加を行い、各パターンの添加量での前記試験用コンクリートの膨張量を測定した試験結果に基づいて、前記コンクリート部材における膨張材添加量と膨張量との関係を算定する工程と、前記乾燥収縮量を抑制する前記コンクリート部材の膨張量を、前記関係に適用して、前記膨張材の添加量を計算する工程と、からなるとしてもよい。なお、膨張材添加時の試験用コンクリートは、完全硬化前のコンクリートであり、主として生コンクリートが該当する。一方、膨張量を測定する際の試験用コンクリートは、例えば材齢7日のコンクリートが該当する。
【0009】
これによれば、膨張材の添加量に関して、添加対象となるコンクリート部材と膨張材の各特性に精度良く対応した値を求めることが可能となり、ひいては、コンクリートの乾燥収縮による影響を精度良く回避し、施工性や経済性が更に良好となる構造の設計が可能となる。
【0010】
また、上述のラーメン構造物設計方法の、前記添加量計算工程において、前記計算した膨張材の添加量が、膨張材添加の施工品質に関して定めた基準範囲内に含まれ、なおかつ、前記各パターンでの試験用コンクリートに対して行われた圧縮強度試験の結果が、前記コンクリート部材として必要な材料強度を満たすか、の各条件について判定する工程と、前記判定の結果、前記各条件が満たされていると判定した場合に、前記計算した膨張材の添加量を設計値として決定する工程と、を更に含むとしてもよい。
【0011】
これによれば、膨張材の添加量に関して、コンクリート部材への膨張材添加時の施工精度(添加先のコンクリートにおける均等分散性や膨張量の制御精度など)、および膨張材添加後の部材強度共に良好な状態を達成出来る値を求めることが可能となり、ひいては、コンクリートの乾燥収縮による影響を、膨張材の施工精度や膨張材添加後の部材強度も踏まえつつ精度良く回避し、施工性や経済性が更に良好となる構造の設計が可能となる。
【0012】
また、本発明のラーメン構造物設計方法は、複数の構造体と前記構造体の間に架設されたコンクリート部材とからなるラーメン構造物の設計方法であって、ラーメン構造物のうち既に施工された構造体に関して、現在以降の所定条件下で生じる断面力を算定し、当該算定した断面力が所定基準を越える場合、当該構造体と結合する未施工のコンクリート部材に関して、前記断面力を抑制するための、前記コンクリート部材への膨張材の添加量を計算する添加量計算工程を備えることを特徴とする。
【0013】
これによれば、ラーメン構造物のうち、配筋やコンクリート打設が既に完了した状態の構造体(例:橋梁の橋脚部や基礎部)に関して、上述した曲げ応力等の各種負荷が当初の想定以上にかかることが判明した場合であっても、該当構造体に作用する断面力を抑制すべく、上述の構造体と結合する水平部材(例:橋梁の橋桁部や橋脚桁材)に添加すべき膨張材の添加量を決定可能となる。従って、上述の構造体外周を鋼板で被覆する等の追加的な補強措置は不要となり、作業効率やコストの悪化を回避出来る。つまり、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造の設計が可能となる。
また、上述のラーメン構造物設計方法において、前記添加量計算工程は、前記コンクリート部材と同仕様の試験用コンクリートに対する、複数パターンの添加量での膨張材添加を行い、各パターンの添加量での前記試験用コンクリートの膨張量を測定した試験結果に基づいて、前記コンクリート部材における膨張材添加量と膨張量との関係を算定する工程と、前記乾燥収縮量に応じた前記断面力を抑制する前記コンクリート部材の膨張量を、前記関係に適用して、前記膨張材の添加量を計算する工程と、からなるとしてもよい。
【0014】
これによれば、膨張材の添加量に関して、添加対象となるコンクリート部材と膨張材の各特性に精度良く対応した値を求めることが可能となり、ひいては、コンクリートの乾燥収縮による影響を精度良く回避し、施工性や経済性が更に良好となる構造の設計が可能となる。
【0015】
また、上述のラーメン構造物設計方法の、前記添加量計算工程において、前記計算した膨張材の添加量が、膨張材添加の施工品質に関して定めた基準範囲内に含まれ、なおかつ、前記各パターンでの試験用コンクリートに対して行われた圧縮強度試験の結果が、前記コンクリート部材として必要な材料強度を満たすか、の各条件について判定する工程と、前記判定の結果、前記各条件が満たされていると判定した場合に、前記計算した膨張材の添加量を設計値として決定する工程と、を更に含むとしてもよい。
【0016】
これによれば、膨張材の添加量に関して、コンクリート部材への膨張材添加時の施工精度(添加先のコンクリートにおける均等分散性や膨張量の制御精度など)、および膨張材添加後の部材強度共に良好な状態を達成出来る値を求めることが可能となり、ひいては、コンクリートの乾燥収縮による影響を、膨張材の施工精度や膨張材添加後の部材強度も踏まえつつ精度良く回避し、施工性や経済性が更に良好となる構造の設計が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造の設計が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態におけるラーメン構造物設計方法の工程例を示す図である。
図2】第1実施形態のラーメン構造物設計方法を適用するラーメン構造物の例を示す正面図である。
図3】第1実施形態のラーメン構造物設計方法を適用するラーメン構造物の例を示す側面図である。
図4】第1実施形態のラーメン構造物設計方法を適用するラーメン構造物の例を示す平面図である。
図5】第1実施形態における膨張材添加量と膨張量との対応関係の例を示す図である。
図6】第2実施形態におけるラーメン構造物設計方法の工程例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
−−−第1実施形態−−−
以下に本発明の第1実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は第1実施形態におけるラーメン構造物設計方法の工程例を示す図である。また、図2図4は第1実施形態のラーメン構造物設計方法を適用するラーメン構造物100の例を示す、正面図、側面図、および平面図である。
【0020】
当該第1実施形態では、ラーメン構造物設計方法を適用するラーメン構造物の一例として、橋梁100を示すものとする。橋梁100は、図2〜4で示すように、橋脚10および当該橋脚10の各間をつなぐ桁材20および主桁21、床版22などの上部工30と、橋脚10の応力を地盤1に伝達する基礎40とから主に構成されている。橋脚10の径間長すなわち桁材20の長さに応じて、桁材20に生じる乾燥収縮の量も増大する。桁材20におけるこうした乾燥収縮は、桁材20が剛結合される橋脚10等に大きな曲げ応力を及ぼすことになる。
【0021】
そこで当該第1実施形態におけるラーメン構造物設計方法においては、まず、形状寸法や使用部材の材料強度など、橋梁100に関する基本設計を実行(s100)した後、橋梁100における桁材20での乾燥収縮量を決定する(s101)。この乾燥収縮量の決定は、橋梁に関する示方書中より、橋梁100の施工形態等に応じた適宜な乾燥収縮量の規定値を選択するものとする。例えば、道路橋示方書(公益法人日本道路協会)によれば、施工中と施工後とで構造系に変化が無い場合の施工形態に関して、コンクリートの乾燥収縮度を“150×10−6”とする規定がある。
【0022】
続いて、上述のように特定した乾燥収縮度に基づいて、これを抑制するための桁材20における目標膨張量を決定する(s102)。膨張材により桁材20が膨張して乾燥収縮を打ち消す量が、目標膨張量である。この目標膨張量の決定は、コンクリート標準示方書(土木学会)が示す、収縮補償用コンクリートに関する膨張率の標準範囲内で、例えば目標膨張量が最大限満たされる値を選択するものとする。コンクリート標準示方書の規定によれば、収縮補償用コンクリートに関する膨張率の標準範囲は“150×10−6〜250×10−6”と規定されており、上述のステップs101で特定した乾燥収縮度“150×10−6”をそのまま採用することが出来る。
【0023】
次に、桁材20と同仕様(骨材やセメント、水等の各成分構成や混和剤など)の試験用コンクリートに対する、複数パターンの添加量での膨張材添加を行い、各パターンの添加量での試験用コンクリートの膨張量を測定した試験結果に基づいて、桁材20における膨張材添加量と膨張量との関係を算定する(s103)。なお、膨張材添加時の試験用コンクリートは、完全硬化前のコンクリートであり、主として生コンクリートが該当する。一方、膨張量を測定する際の試験用コンクリートは、例えば材齢7日のコンクリートが該当する。
【0024】
当該第1実施形態においては、試験用コンクリートに対し、10kg/m、12kg/m、15kg/mの3種類の添加量での膨張材添加を行い、各添加量での試験用コンクリートの膨張量について、1日、2日、7日、および14日の各材齢にて測定を行った。その測定結果は図5のグラフ500における測定値501〜512が示す通りである。当該グラフ500によれば、いずれの材齢であっても、膨張材添加量が増えるに従い、なだらかに膨張量が増加し、ある添加量以降は膨張量の増加が止まる傾向が明らかである。また、同じ膨張材添加量であっても、材齢が遅い時点ほど膨張量は大きい傾向が分かる。
【0025】
当該ステップs103において、上述の膨張材添加量と膨張量との関係を算定するに当たっては、コンクリート標準示方書の規定を踏まえて材齢7日の測定値507〜509を参照し、各測定値507〜509を線分で結ぶ数式を所定アルゴリズムで算定する。ここで得た数式は、膨張材添加量と膨張量の対応関係を規定した数式である。
【0026】
続いて、ステップs103で得た数式に、ステップs102で決定した目標膨張量を入力し、当該目標膨張量を得るための、桁材20のコンクリート中への膨張材添加量を計算する(s104)。図5のグラフ500の例であれば、目標膨張量は“150×10−6”を入力すると、膨張材の添加量を“8kg/m”と算定出来ることになる。なお、算定した膨張材の添加量が、膨張材メーカーが規定する添加量最小値を下回った場合、メーカー指定の最小値を採用すればよい。
【0027】
続いてステップs105においては、上述のステップs104で計算した膨張材の添加量を、膨張材添加の施工品質に関して定めた基準範囲と照合する。この基準範囲としては、膨張材メーカーが規定している10kg/mから、コンクリート標準示方書やメーカー技術資料において標準とされている20kg/mまでの間を想定する。なお、膨張材の添加量を10kg/mより少なくすると、添加対象のコンクリート中で膨張材の不均一性が生じ、場所により膨張度合いにばらつきが生じる恐れがあり、好適ではない。また、膨張材の添加量を20kg/mより多くすると、添加対象のコンクリートにおいて強度低下を生じる恐れがあり、好適ではない。
【0028】
また当該ステップs105において、上述のステップs103で示した各添加量での試験用コンクリートに対する、圧縮強度試験を適宜行って、この試験結果を、桁材20として必要な材料強度の値と比較する。桁材20として必要な材料強度についてはステップs100で決定済みである。当該ステップs105の処理の結果、ステップs104で計算した膨張材の添加量が基準範囲内に含まれ、なおかつ、各添加量での試験用コンクリートの圧縮強度が必要な材料強度を満たしていた場合(s106:OK)、ステップs104で計算していた膨張材の添加量を設計値として決定する(s107)。他方、ステップs104で計算した膨張材の添加量が基準範囲内に含まれず、又は、各添加量での試験用コンクリートの圧縮強度が必要な材料強度を満たしていなかった場合(s106:NG)、工程をステップs102に戻し、目標膨張量の決定から再実行する。
【0029】
設計値として決定した添加量分の膨張材を、桁材20のコンクリートに添加すれば、桁材20での必要な材料強度を達成しつつ、膨張材による乾燥収縮量の抑制量に応じて、桁材20と剛結合する橋脚10における断面力は低減されることになる。
【0030】
なお、上述した桁材20のコンクリートへの膨張材添加により、桁材20における乾燥収縮が完全に抑制されるとの前提がある場合、上述の工程のうちステップs101〜s107と並行して、桁材20と剛結合する橋脚10に関する配筋計算工程(s120)を実行するものとする。
【0031】
この場合、まず、上述のステップs100で決定した基本設計に基づいて、橋脚10における自重や外部から作用する土水圧等の各種荷重、地震力、および温度変化量など、上述した乾燥収縮に由来する曲げ応力以外の各種負荷を決定する(s121)。なぜなら、桁材20における乾燥収縮は完全に抑制され、乾燥収縮による悪影響は橋脚10に及ばないためである。なお、このステップs121における負荷の決定工程は既存の設計技術を採用すればよい。
【0032】
次に、ステップs121で決定した各種負荷が橋脚10に作用した際に生じる断面力を算定し(s122)、該当断面力に基づいて、橋脚10が該当断面力に抗しうる配筋量を計算する(s123)。断面力の算定および配筋量の算定の各手法は既存技術を採用すればよい。こうして、桁材20に関する乾燥収縮抑制による効果、すなわち、当該桁材20と結合する橋脚10での不静定力緩和の効果を加味した上で、橋脚10での配筋量を適切に抑制した構造を設計できる。従って、配筋工程での施工性や経済性が良好となるラーメン構造を設計可能となる。
【0033】
なお、上述した桁材20のコンクリートへの膨張材添加により、桁材20における乾燥収縮が完全に抑制されるとの前提が無い場合、上述のステップs106の判定で、ステップs104で計算した膨張材の添加量が基準範囲内に含まれ、なおかつ、各添加量での試験用コンクリートの圧縮強度が必要な材料強度を満たしていると判定できた場合に、当該添加量での膨張材添加により抑制される、橋脚10への曲げ応力の値を算定し、当該曲げ応力の算定値を、上述のステップs121において決定する負荷に含めるものとする。以降の工程は上述のステップs122〜s123と同様である。
【0034】
−−−第2実施形態−−−
続いて、第1実施形態とは異なり、配筋やコンクリート打設が既に完了した状態の橋脚10に関して、上述した曲げ応力等の各種負荷が当初の想定以上にかかることが判明した状況に対応する第2実施形態について説明する。この場合、橋脚10として打設されたコンクリートは既に硬化が始まっており、配筋のやり直しは出来ない状態となっている。なお、当該第2実施形態においても、ラーメン構造物設計方法の適用対象とするラーメン構造物は橋梁100であるとする。図6は第2実施形態におけるラーメン構造物設計方法の工程例を示す図である。
【0035】
そこでまず、橋脚10に関して判明した、当初想定以上の負荷に基づいて、橋脚10に生じる断面力を算定する(s200)。このように負荷が当初想定以上となる事態とは、想定される温度条件の変化や各種仕様変更による桁材20での乾燥収縮量の増大といった事態の他、例えば、橋梁100を通行する車両数が当初の想定より大幅に増加した、或いは、橋梁100を通行する車両のうち大型車両の割合が当初の想定より大幅に増加した、といった事態も想定できる。こうした走行車両等による負荷も、上述の乾燥収縮によるものと同様、橋脚10に対する曲げ応力として作用する成分は含まれている。
【0036】
続いて、上述のステップs200で算定した断面力を所定基準に照合し、その断面力が所定基準を超えていなかった場合(s201:OK)、負荷が当初の想定より増加したが、構造上の問題は生じないと決定して以後の処理を終了する。なお、断面力を照合する所定基準とは、橋脚10が当初設計で備えるとした耐力などが該当する。
【0037】
他方、上述のステップs200で算定した断面力を所定基準に照合した結果、断面力が所定基準を超えていた場合(s201:NG)、当該橋脚10と結合する未施工の桁材20に関して、橋脚10に作用する断面力を抑制するための、桁材20への膨張材の添加量を計算する(s201)。例えば、所定基準を超えた分の断面力を相殺する力を橋脚10に作用させる、桁材20における膨張量を生じる膨張材の添加量を計算する。
【0038】
なお、当該第2実施形態におけるラーメン構造物設計方法においても、第1実施形態におけるステップs103〜s107の工程は同様に実行するものとする。
【0039】
これによれば、ラーメン構造物のうち、配筋やコンクリート打設が既に完了した状態の構造体(例:橋梁の橋脚部や基礎部)に関して、上述した曲げ応力等の各種負荷が当初の想定以上にかかることが判明した場合であっても、該当構造体に作用する断面力を抑制すべく、上述の構造体と結合する水平部材(例:橋梁の橋桁部)へ添加すべき膨張材の添加量を決定可能となる。従って、上述の構造体外周を鋼板で被覆する等の追加的な補強措置は不要となり、作業効率やコストの悪化を回避出来る。つまり、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造の設計が可能となる。
【0040】
本実施形態によれば、コンクリートの乾燥収縮による影響を回避し、施工性や経済性が良好となる構造の設計が可能となる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 地盤
10 橋脚
20 桁材
21 主桁
22 床版
30 上部工
40 基礎
100 橋梁(ラーメン構造物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6