(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂が、スルホン酸基含有単量体単位、カルボキシル基含有単量体単位およびリン酸基含有単量体単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学素子の正極用複合粒子。
前記粒子状結着樹脂が、炭素数6〜15の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、α,β−不飽和ニトリル単量体単位およびカルボン酸基含有単量体単位を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学素子の正極用複合粒子。
導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂と、粒子状結着樹脂とを含有する水系スラリー組成物を、乾燥造粒して複合粒子を得る工程を備え、
前記スラリー組成物中、前記酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の含有量が、前記Ni含有正極活物質100質量部当たり1〜10質量部であり、前記酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂における酸性官能基含有単量体単位の含有割合が、10質量%以上60質量%以下である、電気化学素子の正極用複合粒子の製造方法。
前記酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂が、アンモニア及び分子量が1000以下のアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種でアンモニウム塩とされている、請求項11に記載の電気化学素子の正極用複合粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(正極用複合粒子)
本発明の正極用複合粒子は、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子の正極を形成する際に用いるものである。そして、本発明の正極用複合粒子は、導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂と、粒子状結着樹脂とを含有しており、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の含有量が、Ni含有正極活物質100質量部当たり1〜10質量部である。
なお、本発明の正極用複合粒子は、後に詳細に説明するように、導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂と、粒子状結着樹脂とを含むスラリー組成物を用いて製造される。
【0025】
以下、本発明の電気化学素子の正極用複合粒子(以下、適宜「複合粒子」と表記する)中の各成分について説明する。
【0026】
<導電材>
本発明の複合粒子に用いる導電材としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンブラック、グラファイト等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などが挙げられ、アセチレンブラックが特に好ましい。複合粒子が導電材を含むことにより、Ni含有正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、これにより、本発明の複合粒子を用いて得られる正極を使用した電気化学素子の電気的特性(例えば、低温出力特性)及びその他の特性を向上させることができる。
【0027】
導電材は、粒子状の形状を有することが好ましく、その粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。導電材の粒子径を1nm以上とすることにより、導電材の分散性を良好な状態に保つことができる。導電材の粒子径を500nm以下とすることにより、比表面積を所望の大きな値とすることができ、それにより導電材の効果(Ni含有正極活物質同士の電気的接触の向上)を良好に発現することができ、結果的に抵抗を所望以下の小さい値とすることができる。なお、導電材粒子の平均粒子径としては、50%体積平均粒径を用いる。
【0028】
本発明の複合粒子中の導電材の含有量は、特に限定されないが、後述するNi含有正極活物質100質量部当たり、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、特に好ましくは3質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。導電材の含有量を上記の範囲とすることで、本発明の複合粒子を用いて得られる正極を使用した電気化学素子の高容量と高いレート特性とを両立することができる。
【0029】
<Ni含有正極活物質>
本発明の複合粒子においては、正極活物質として、Niを含有する正極活物質を使用する。Ni含有正極活物質としては、遷移金属としてNiを含有する活物質であれば特に限定されないが、例えば、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物、Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体が挙げられる。これらの中でも、本発明の複合粒子を用いて得られる正極を使用した電気化学素子の容量向上、及び、レート特性向上の観点からは、Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体が好ましい。
【0030】
ここで、上記Ni含有正極活物質中には、活物質の製造時に使用される炭酸リチウムなどの水溶性の腐食物質が残存している。そして、この腐食物質は、Ni含有正極活物質の周囲に水分が存在する場合、該水中に溶出する。そのため、上記Ni含有正極活物質は、導電材と被覆樹脂とを含む被覆材料で被覆されていることが好ましい。このようにNi含有正極活物質が導電材と被覆樹脂とを含む被覆材料で被覆されている(以下、被覆材料で被覆された正極活物質を、適宜「被覆正極活物質」と表記する)ことで、Ni含有正極活物質中に残存する炭酸リチウム等の腐食物質の溶出を防ぐことができる。そして、その結果、本発明の複合粒子を用いて正極を製造した際に、集電体が複合粒子中の腐食物質により腐食されるのを抑制することができる。また、被覆材料に導電材を配合することにより、本発明の複合粒子を用いて得た正極の電気的特性を確保することができる。なお、被覆正極活物質を用いる場合、複合粒子中に配合される導電材は、一部を被覆材料中に配合するが、全量を被覆材料中に配合してもよい。
以下に、被覆樹脂、被覆材料に含まれる導電材、被覆正極活物質の性状及びその製造方法について説明する。
【0031】
―被覆樹脂―
被覆樹脂としては、水系媒体に溶解せず、Ni含有正極活物質中からの腐食物質の溶出を抑制できるものが使用可能であるが、具体的にはSP値(溶解度パラーメーター)が、好ましくは9.5(cal/cm
3)
1/2以上、より好ましくは10(cal/cm
3)
1/2以上であり、好ましくは13(cal/cm
3)
1/2以下、より好ましくは12(cal/cm
3)
1/2以下である。被覆樹脂のSP値を9.5(cal/cm
3)
1/2以上とした場合、被覆樹脂は、電気化学素子に通常用いられる電解液(有機電解液)と接触した際には溶解せずに膨潤する。そのため、被覆正極活物質を用いた複合粒子を使用して得た正極を電気化学素子に用いても、電解液中で被覆樹脂が十分に膨潤するため、イオンの移動が妨げられ難く、内部抵抗を小さく抑えることができ、レート特性を良好なものとすることができる。また被覆樹脂のSP値を13(cal/cm
3)
1/2以下とすることにより、被覆樹脂が水系媒体に溶解せず、複合粒子の製造の際等に、Ni含有正極活物質中からの腐食物質の溶出を抑制することができる。そのため、集電体の腐食を十分に防止できる。
【0032】
ここで、上記SP値(溶解度パラーメーター)は、E.H.Immergut編“Polymer Handbook”VII Solubility Parament Values,pp519−559(John Wiley&Sons社、第3版1989年発行)に記載される方法によって求めることができるが、この刊行物に記載のないものについてはSmallが提案した「分子引力定数法」に従って求めることができる。この方法は、化合物分子を構成する官能基(原子団)の特性値、すなわち、分子引力定数(G)の統計、分子量(M)、比重(d)とから次式に従ってSP値(δ)を求める方法である。
δ=ΣG/V=dΣG/M(V;比容、M;分子量、d;比重)
なお、2種類以上の被覆樹脂を組み合わせてNi含有正極活物質の粒子の表面を被覆する場合には、被覆樹脂全体としてのSP値は、個々の被覆樹脂のSP値と混合モル比とから計算で求めることができる。具体的には、個々の被覆樹脂のSP値についてモル比によって重み付けした加重平均として、被覆樹脂全体としてのSP値を算出する。
【0033】
なお、被覆樹脂が電気化学素子の電解液に溶解すると、溶解した被覆樹脂が原因となって電気化学素子の内部抵抗が大きくなる可能性がある。また、被覆樹脂が電気化学素子の電解液に溶解すると、電気化学素子において正極の集電体の腐食が進行する可能性もある。このため、被覆樹脂の電解液に対する膨潤性は、ソックスレー抽出機を用いて測定したゲル分率が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。なお、被覆樹脂のゲル分率は、通常、被覆樹脂1.0gと電解液100mlとをソックスレー抽出器で6時間還流し、抽出された被覆樹脂の質量を元の被覆樹脂の質量(即ち、1.0g)で割ることにより算出されるゲル分率(電解液ソックスレー抽出残留ゲル分率)により評価を行う。
【0034】
なお、二次電池の電解液の溶媒には、誘電率が高く電解質を溶媒和しやすい高誘電率溶媒(例えばエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート)に、電解液の粘度を下げてイオンの伝導度を上げるための低粘度溶媒(例えば、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等)を混合したものが一般に用いられており、できる限り電解液の導電率を高めるべく溶媒の種類や配合比が選択されている。例えば、代表的な電解液の溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(EC/DEC)や、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(EC/EMC)が用いられている。
【0035】
また、被覆樹脂は、被覆正極活物質を水系媒体に分散可能とするものであることが好ましい。複合粒子の製造工程において、被覆正極活物質を含むスラリー組成物を用いて複合粒子を造粒する際に、スラリー組成物中で被覆正極活物質を水系媒体に良好に分散させることができ、スラリー組成物の取り扱い性が良好となるからである。
【0036】
更に、被覆樹脂は、酸性基を有することが好ましい。また、これにより、被覆樹脂の酸価が、0mgKOH/gより大きく、また、好ましくは60mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、特に好ましくは30mgKOH/g以下となっていることが望ましい。さらに、被覆樹脂の塩基価が、通常5mgHCl/g以下、好ましくは1mgHCl/g以下、さらに好ましくは0であることが好ましい。被覆樹脂の酸価を大きくすることにより、Ni含有正極活物質中の腐食物質の水系媒体への溶出をより確実に防止して、集電体の腐食を更に安定して防ぐことができる。また、酸価を60mgKOH/g以下とすることにより、スラリー組成物の安定性を向上させることができる。前記の酸性基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、モノエステルリン酸基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられる。
【0037】
好適な被覆樹脂の例を挙げると、水に分散可能であるアクリル重合体が挙げられる。本明細書において、アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体を意味する。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。そして、本明細書において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0038】
上記アクリル重合体の製造に使用可能な(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;などが挙げられる。これらの中でも、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、エチルアクリレート及びブチルアクリレートがより好ましい。なお、これらは1種類だけを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
被覆樹脂として用いるアクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を50質量%以上とすることにより、アクリル重合体を柔軟にして、電気化学素子用正極とした際のクラックの発生を防止できる。また、90質量%以下とすることにより、電気化学素子の高温保存特性及び低温出力特性を良好にできる。なお、本明細書において、「単量体単位の含有割合」は、重合体の生成に使用する全単量体の質量を合計した全質量中、所定の単量体が占める割合により表現するものとする。
【0040】
また、酸価を上述した範囲にするために、被覆樹脂として用いるアクリル重合体は、酸性基含有単量体単位を含むことが好ましい。被覆樹脂として用いるアクリル重合体中に含まれる酸性基含有単量体としては、例えば、カルボン酸基含有単量体、水酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、リン酸基含有単量体、モノエステルリン酸基含有単量体、及びポリオキシアルキレン基含有単量体などが挙げられる。
【0041】
上記アクリル重合体の製造に使用可能なカルボン酸基含有単量体としては、例えば、モノカルボン酸及びその誘導体、並びに、ジカルボン酸、その酸無水物及びこれらの誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、例えば、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、例えば、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸などが挙げられ、更に、例えばマレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルなども挙げられる。
【0042】
上記アクリル重合体の製造に使用可能なスルホン酸基含有単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。なお、(メタ)アクリルスルホン酸とは、アクリルスルホン酸及び/又はメタクリルスルホン酸を意味する。
【0043】
上記アクリル重合体の製造に使用可能なリン酸基含有単量体又はモノエステルリン酸基含有単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味する。
【0044】
上記アクリル重合体の製造に使用可能なポリオキシアルキレン基含有単量体としては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)等のポリ(アルキレンオキシド)などが挙げられる。
【0045】
これらの酸性基含有単量体の中でも、カルボン酸基含有単量体が好ましい。中でも、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸基を1つ有する炭素数5以下のモノカルボン酸、並びに、例えばマレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸基を2つ有する炭素数5以下のジカルボン酸が好ましい。これらの中でも、アクリル重合体の保存安定性を向上させるため、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。なお、上記酸性基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
被覆樹脂として用いるアクリル重合体における、酸性基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下である。酸性基含有単量体単位の含有割合を1質量%以上にすることにより、アクリル重合体の酸価を好適な範囲に収めて集電体の腐食を効果的に抑制することができ、本発明の電気化学素子のレート特性を向上させることができる。さらに、アクリル重合体の強度を高めて、スラリー組成物の安定性を高めることができる。また、酸性基含有単量体単位の含有割合を5質量%以下とすることにより、アクリル重合体の柔軟性を向上させて、スラリー組成物の製造安定性及び保存安定性を良好にできる。
【0047】
さらに、被覆樹脂として用いるアクリル重合体は、アクリル重合体の結着性及び機械的強度の向上のため、α,β−不飽和ニトリル単量体単位を含むことが好ましい。α,β−不飽和ニトリル単量体としては、結着性及び機械的強度の向上という観点から、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
被覆樹脂として用いるアクリル重合体における、α,β−不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。α,β−不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を10質量%以上とすることにより、アクリル重合体の機械強度が良好となり、また、被覆樹脂と活物質との密着性が良好となる。また、50質量%以下とすることにより、アクリル重合体の柔軟性が良好となり、被覆正極活物質を用いた複合粒子を使用して得た正極の割れを防止できる。
【0049】
また、被覆樹脂として用いるアクリル重合体は、上記以外に他の単量体単位を含んでいてもよい。このような他の単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記被覆樹脂として好適に用いられるアクリル重合体の製造方法は特に限定されず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。また、重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。また、重合開始剤としては、公知の重合開始剤、例えば、特開2012−184201号公報に記載のものを用いることができる。
【0051】
被覆樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−10℃以上、特に好ましくは0℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、特に好ましくは70℃以下である。被覆樹脂のガラス転移温度を−30℃以上とすることにより、ブロッキング性を低くして被覆正極活物質の分散性を高めることができる。また、100℃以下とすることにより、アクリル重合体を柔軟にして、被覆正極活物質を用いた複合粒子を使用して得た正極におけるクラックの発生を防止できる。
【0052】
被覆正極活物質における被覆樹脂の量は、Ni含有正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、特に好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは4質量部以下である。Ni含有正極活物質100質量部当たりの被覆樹脂の量を0.1質量部以上とすることで、後述する被覆率を十分なものとすることができる。また、Ni含有正極活物質100質量部当たりの被覆樹脂の量を10質量部以下とすることにより、被覆樹脂が電解液に溶解する量を少なくすることができ、それにより、電解液の粘度の過度の上昇を抑制することができると共に、リチウムイオンの流れの不所望な抑制を防ぐことができる。
【0053】
−被覆材料に含まれる導電材−
被覆材料に含まれる導電材は、上述した導電材と同様のものを使用することができる。被覆材料中の導電材の含有量は、特に限定されないが、Ni正極含有物質100質量部当たり、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。被覆材料中の導電材の含有量を上記の範囲とすることで、被覆正極活物質を用いた複合粒子を使用して得られる電気化学素子の高容量化と高いレート特性とを両立することができる。
なお、本発明の効果を著しく損なわない限り、被覆材料は、被覆樹脂及び導電材以外の成分を含んでいてもよい。
【0054】
―被覆正極活物質の性状―
被覆正極活物質における被覆材料の層(被覆材料層)の厚みは、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。被覆材料層の厚みを0.2μm以上とすることにより、集電体の腐食を安定して抑制することができる。また、2μm以下とすることにより、被覆材料層による抵抗を小さくして、被覆正極活物質を用いた複合粒子を使用して得られる電気化学素子の出力特性を高くすることができる。
【0055】
なお、被覆材料層の厚みは、被覆材料層の質量を正極活物質の粒子の表面積で割って単位表面積当たりの被覆材料の質量を算出し、この単位表面積当たりの被覆材料の質量を当該被覆材料の密度で割ることにより、求めることができる。ここで、前記の算出方法では、被覆材料層が正極活物質の粒子の表面全体を覆っていると仮定して被覆材料層の厚みを求めているが、被覆材料層は必ずしも正極活物質の表面全体を覆うものではない。したがって、前記の算出方法で求められる値は現実の被覆材料層の厚みを直接的に表すものではないが、前記の算出方法で求められる被覆材料層の厚みの値は、被覆材料層を形成することによる作用を評価する上で意義のある値である。
【0056】
被覆材料は、必ずしもNi含有正極活物質の表面全体を覆っていなくてもよいが、Ni含有正極活物質の表面のより広い部分を覆うことが好ましい。具体的には、被覆材料による正極活物質の被覆率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。なお、被覆率は実施例の項において記載する手法により測定することができる。
【0057】
―被覆正極活物質の製造方法―
Ni含有正極活物質粒子を被覆材料で被覆して被覆正極活物質を製造する方法としては、例えば、流動造粒法、噴霧造粒法、凝固剤析出法、pH析出法などが挙げられる。なかでも、良好な乾燥効率の観点から、噴霧造粒法が好ましい。以下、噴霧造粒法について説明する。
【0058】
噴霧造粒法は、Ni含有正極活物質と、被覆材料と、水系媒体とを含むスラリー組成物を噴霧乾燥して被覆正極活物質を得る方法である。具体的な手順としては、Ni含有正極活物質粒子と、被覆材料と、水系媒体とを含むスラリー組成物を用意し、このスラリー組成物を噴霧して乾燥させることにより、被覆正極活物質を造粒する。
【0059】
水系媒体としては、通常は水を用いる。また、このスラリー組成物において、水系媒体の使用量は、スラリー組成物の固形分濃度が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下となる範囲である。水系媒体の量を前記の範囲に納めることにより、スラリー組成物において被覆材料を均一に分散させることができる。
【0060】
Ni含有正極活物質、被覆材料及び水系媒体の混合手段としては、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどの混合機が挙げられる。また、混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。なお、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記スラリー組成物は、Ni含有正極活物質、被覆材料及び水系媒体以外の成分を含んでいてもよい。
【0061】
上記のスラリー組成物を、噴霧乾燥機を用いて噴霧することにより、噴霧されたスラリー組成物の液滴が乾燥塔内部で乾燥する。これにより、液滴に含まれるNi含有正極活物質粒子及び被覆材料を含む被覆正極活物質の粒子を得ることができる。噴霧されるスラリー組成物の温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。
【0062】
さらに、噴霧造粒法では、得られた被覆正極活物質を転動造粒してもよいし、得られた被覆正極活物質に加熱処理を施してもよい。転動造粒としては、例えば特開2008−251965号公報に記載の回転ざら方式、回転円筒方式、回転頭切り円錐方式などの方式があり、被覆正極活物質を転動させるときの温度は、水系媒体を除去する観点から、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下である。また、加熱処理は、被覆正極活物質の表面を硬化させるために行うものであり、加熱処理温度は、通常80℃〜300℃である。
【0063】
<酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂>
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂(以下適宜、「酸性官能基含有水溶性樹脂」と表記する)は、Ni含有正極活物質から溶出したアルカリ性の腐食物質を酸性官能基により中和することが可能な樹脂である。ここで、「酸性官能基含有水溶性樹脂」は、例えばpH9の水系媒体中に10質量%以上の濃度で溶解する樹脂であり、好ましくは、pH5〜9の水系媒体中に10質量%以上の濃度で溶解する樹脂である。そして、本発明の複合粒子では、酸性官能基含有水溶性樹脂は、複合粒子中に、Ni含有正極活物質100質量部に対し、1質量部以上、10質量部以下の割合で含有される必要がある。なお、酸性官能基含有水溶性樹脂の含有量は、Ni含有正極活物質100質量部当たり、好ましくは5質量部以下である。酸性基含有水溶性樹脂の含有量をこのような範囲内とすることで、Ni含有正極活物質から溶出したアルカリ性の腐食物質を中和し、集電体の腐食を抑制することができる。また、本発明の複合粒子を用いて得られる正極を使用した電気化学素子のレート特性、低温出力特性などの電気的特性を優れたものとすることができる。
【0064】
ここで、酸性官能基含有水溶性樹脂は、酸性官能基含有単量体、及び必要に応じて他の任意の単量体を含む単量体組成物を付加重合することによって調製しうる。酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能な酸性官能基含有単量体の例としては、リン酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、及び、カルボキシル基含有単量体を挙げることができる。リン酸基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位およびカルボキシル基含有単量体単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含む水溶性樹脂を使用すれば、集電体の腐食を十分に抑制することができる。
【0065】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能なリン酸基含有単量体は、リン酸基、及び他の単量体と共重合しうる重合性の基を有する単量体である。このリン酸基含有単量体としては、−O−P(=O)(−OR
1)−OR
2基を有する単量体(R
1及びR
2は、独立して、水素原子、又は任意の有機基である。)、又はこの塩を挙げることができる。R
1及びR
2としての有機基の具体例としては、オクチル基等の脂肪族基、フェニル基等の芳香族基等が挙げられる。
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能なリン酸基含有単量体としては、例えば、リン酸基及びアリロキシ基を含む化合物、及びリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。リン酸基及びアリロキシ基を含む化合物としては、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸を挙げることができる。リン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジメチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノイソプロピル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジイソプロピル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノn−ブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジn−ブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノブトキシエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブトキシエチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、モノ(2−エチルヘキシル)−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートなどが挙げられる。
【0066】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能なスルホン酸基含有単量体は、スルホン酸基、及び他の単量体と共重合しうる重合性の基を有する単量体である。スルホン酸基含有単量体の例を挙げると、スルホン酸基及び重合性の基以外に官能基をもたないスルホン酸基含有単量体またはその塩、スルホン酸基及び重合性の基に加えてアミド基を含有する単量体またはその塩、並びに、スルホン酸基及び重合性の基に加えて水酸基を含有する単量体またはその塩などが挙げられる。
【0067】
スルホン酸基及び重合性の基以外に官能基をもたないスルホン酸基含有単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルメタクリレートなどが挙げられる。また、その塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。スルホン酸基及び重合性の基に加えてアミド基を含有する単量体としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)などが挙げられる。また、その塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。スルホン酸基及び重合性の基に加えて水酸基を含有する単量体としては、例えば、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)などが挙げられる。また、その塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。これらの中でも、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)及びその塩が好ましい。
【0068】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能なカルボキシル基含有単量体は、カルボキシル基及び重合可能な基を有する単量体とすることができる。カルボキシル基含有単量体の例としては、具体的には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を挙げることができる。
【0069】
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体の例としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、及びβ−ジアミノアクリル酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;並びにマレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。得られる酸性官能基含有水溶性樹脂の水系溶媒に対する分散性をより高めることができるからである。
【0070】
これら酸性官能基含有単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。したがって、本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂は、酸性官能基含有単量体単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0071】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂における酸性官能基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。酸性官能基含有単量体単位の含有割合を5質量%以上とすることによりNi含有正極活物質との静電反発力を発揮して良好な分散性を得ることができる。一方、酸性官能基含有単量体単位の含有割合を60質量%以下とすることにより、複合粒子を用いて正極を形成した際に官能基と電解液との過度の接触を避けることができ、耐久性を向上させることができる。
【0072】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂は、酸性官能基含有単量体単位に加えて、他の単量体単位を含むことができる。かかる他の単量体単位の例としては、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位、反応性界面活性剤単量体単位、フッ素を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が挙げられる。これらの中でも、特にフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むこと(即ち、酸性官能基含有水溶性樹脂がフッ素系水溶性樹脂であること)が好ましい。なお、本明細書において、単に「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」という場合は、「フッ素を含有しない(メタ)アクリル酸単量体単位」をさすものとする。
【0073】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能なフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、下記の式(I)で表される単量体が挙げられる。
【0075】
前記の式(I)において、R
3は、水素原子またはメチル基を表す。
前記の式(I)において、R
4は、フッ素原子を含有する炭化水素基を表す。炭化水素基の炭素数は、通常、1以上18以下である。また、R
4が含有するフッ素原子の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。
【0076】
式(I)で表されるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、(メタ)アクリル酸フッ化アルキル、(メタ)アクリル酸フッ化アリール、及び(メタ)アクリル酸フッ化アラルキルが挙げられる。なかでも(メタ)アクリル酸フッ化アルキルが好ましい。このような単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸β−(パーフルオロオクチル)エチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、(メタ)アクリル酸1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル、(メタ)アクリル酸1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2、2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステルが挙げられ、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を1質量%以上とすることにより、酸性官能基含有水溶性樹脂に、電解液に対する反発力を与えることができ、膨潤性を適切な範囲内とすることができる。一方、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の比率を20質量%以下とすることにより、酸性官能基含有水溶性樹脂に、電解液に対する濡れ性を与えることができ、低温出力特性を向上させることができる。さらに、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の比率を前記範囲内で適宜調節することにより、所望のガラス転移温度及び分子量分布を有する酸性官能基含有水溶性樹脂を得ることができる。
【0078】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能な架橋性単量体としては、重合した際に架橋構造を形成しうる単量体を用いることができる。架橋性単量体の例としては、1分子あたり2以上の反応性基を有する単量体を挙げることができる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0079】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0080】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0081】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンが挙げられる。
【0082】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
【0083】
2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンが挙げられる。
【0084】
これらの中でも、乾燥時に架橋するためスラリー組成物の粘度増加を抑制すると共に、複合粒子を用いて製造した正極の強度を向上する観点から、架橋性単量体としては、特に、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、及び、グリシジルメタクリレートを好ましく用いることができる。
【0085】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂における架橋性単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。架橋性単量体単位の含有割合を前記範囲内とすることにより、酸性官能基含有水溶性樹脂の膨潤度を抑制し、正極の耐久性を高めることができる。さらに、架橋性単量体単位の含有割合を前記範囲内で適宜調節することにより、所望のガラス転移温度及び分子量分布を有する酸性官能基含有水溶性樹脂を得ることができる。
【0086】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能な反応性界面活性剤単量体は、他の単量体と共重合しうる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(親水性基及び疎水性基)を有する単量体である。反応性界面活性剤単量体の重合により得られる反応性界面活性剤単量体単位は、水溶性重合体の分子の一部を構成し、且つ界面活性作用を奏しうるため、酸性官能基含有水溶性樹脂の製造時の安定性が高くなる。
【0087】
好適な反応性界面活性剤単量体の例としては、下記の式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0089】
式(II)において、R
5は2価の結合基を表す。R
5の例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基が挙げられる。式(II)において、R
6は親水性基を表す。R
6の例としては、−SO
3NH
4が挙げられる。式(II)において、nは1以上100以下の整数である。反応性界面活性剤単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0090】
好適な反応性界面活性剤単量体の別の例としては、エチレンオキシドに基づく重合単位及びブチレンオキシドに基づく重合単位を有し、さらに末端に、末端二重結合を有するアルケニル基及び−SO
3NH
4を有する化合物(例えば、商品名「ラテムルPD−104」及び「ラテムルPD−105」、花王株式会社製)を挙げることができる。
【0091】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂における反応性界面活性剤単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。反応性界面活性剤単量体単位の比率を0.1質量%以上とすることにより、複合粒子の製造の際、スラリー組成物中で酸性官能基含有水溶性樹脂の分散性を向上させることができる。一方、反応性界面活性剤単量体単位の比率を5質量%以下とすることにより、正極の耐久性を向上させることができる。
【0092】
上記酸性官能基含有水溶性樹脂の製造に使用可能なフッ素を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を30質量%以上とすることにより、複合粒子の集電体への密着性を高くすることができ、90質量%以下とすることにより他の単量体の含有割合とのバランスをとりつつ、酸性官能基含有水溶性樹脂の水溶性が低下するのを抑制することができる。
【0094】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂が含みうる上記以外の単量体単位としては、下記の単量体に由来する単量体単位が挙げられる。即ち、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド等のアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類単量体;並びにN−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体の1以上を重合した際に得られる単量体単位が挙げられる。酸性官能基含有水溶性樹脂におけるこれらの単位の含有割合は、好ましくは0質量%〜10質量%、より好ましくは0質量%〜5質量%である。
【0095】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂は、任意の製造方法で製造することができる。例えば、酸性官能基含有単量体を含み且つ必要に応じて他の任意の単位を与える単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で付加重合して製造することができる。重合反応に用いる水系溶媒としては、既知の水系溶媒、例えば、特開2011−204573号公報に記載のものを用いることができるが、これらの中でも水が好ましい。
【0096】
上記のような水系溶媒中での付加重合反応により、水系溶媒に酸性官能基含有水溶性樹脂が溶解した水溶液が得られる。こうして得られた水溶液から酸性官能基含有水溶性樹脂を取り出してもよいが、水系溶媒に溶解した状態の酸性官能基含有水溶性樹脂を用いて、導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有水溶性樹脂と、下記の粒子状結着樹脂とを含む後述のスラリー組成物を製造し、そのスラリー組成物を用いて本発明の複合粒子を製造しうる。
【0097】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、特に好ましくは70℃以下である。ガラス転移温度を30℃以上とすることにより、複合粒子を用いて得られる正極の耐久性を向上させることができる。ガラス転移温度を80℃以下とすることにより、複合粒子と集電体との密着性を向上させることができる。
【0098】
本発明に用いる酸性官能基含有水溶性樹脂の数平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上、特に好ましくは2000以上であり、好ましくは100000以下、より好ましくは80000以下、特に好ましくは60000以下である。数平均分子量をこの範囲とすることにより、酸性官能基含有水溶性樹脂の水溶性を高くすることができると共に、複合粒子を用いて製造した正極の耐久性を向上することができるからである。
酸性官能基含有水溶性樹脂の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を使用し、ジメチルホルムアミドの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めればよい。
【0099】
なお、酸性官能基含有水溶性樹脂のガラス転移温度、数平均分子量は様々な単量体を組み合わせることや、公知の分子量調整剤を用いることで、調整することができる。
【0100】
<粒子状結着樹脂>
本発明の複合粒子は、粒子状結着樹脂を含む。
粒子状結着樹脂は、本発明の複合粒子を用いて集電体上に形成される正極活物質層において、当該正極活物質層に含まれる成分が正極活物質層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、正極活物質層における粒子状結着樹脂は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも粒状の形状を維持し、正極活物質同士を結着させ、正極活物質が集電体から脱落するのを防ぐ。本発明の複合粒子中に粒子状結着樹脂を含むことにより、該複合粒子を用いて形成した正極は、電解液内において、空孔を有しながら且つ正極活物質が均一に粒子状結着樹脂で結着された構造を得ることができる。従って、該正極を用いた電気化学素子は、諸性能を良好に保つことができる。
本発明では、粒子状結着樹脂として、水系媒体に分散しうる粒子状結着樹脂を用いることが好ましい。なお、粒子状結着樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
粒子状結着樹脂の好ましい例としては、ジエン重合体、アクリル重合体、フッ素重合体、シリコン重合体などが挙げられる。中でも、耐酸化性に優れることから、アクリル重合体が好ましい。
【0102】
粒子状結着樹脂として用いられるアクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。その中でも、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含み、そして酸性官能基含有単量体単位及びα,β−不飽和ニトリル単量体単位の少なくとも何れか一方を含む重合体が好ましく、炭素数6〜15の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、α,β−不飽和ニトリル単量体単位およびカルボン酸基含有単量体単位を含む重合体がより好ましい。
【0103】
上記アクリル重合体の製造に使用可能な(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、被覆樹脂の項において例示したのと同様のものが挙げられる。その中でも、複合粒子を用いて正極とした際に電解液中に溶出せずに電解液に対して適度に膨潤することにより良好なイオン伝導性を示し、また電池寿命を長くできることから、炭素数が、6以上のものが好ましく、7以上のものがより好ましく、また、15以下のものが好ましく、13以下のものがより好ましい。中でも、2−エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
粒子状結着樹脂として用いられるアクリル重合体における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の単量体単位の含有割合を50質量%以上にすることにより、粒子状結着樹脂の柔軟性を高くし、複合粒子を用いて得た正極を割れ難くできる。また、95質量%以下にすることにより、粒子状結着樹脂としての機械強度と結着性とを向上させることができる。
【0105】
上記アクリル重合体の製造に使用可能な酸性官能基含有単量体としては、例えば、被覆樹脂の項において例示したカルボン酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、リン酸基含有単量体が挙げられる。その中でも、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、イタコン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、リン酸エチレンメタクリレートが好ましい。さらには、アクリル重合体の保存安定性を高くできるという観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、イタコン酸が特に好ましい。
また、アクリル重合体の製造に用いる酸性官能基含有単量体としては、二塩基酸単量体を使用することが好ましい。すなわち、アクリル重合体は、二塩基酸単量体単位を含むことが好ましい。アクリル重合体が二塩基酸単量体単位を含むことで重合体の保存安定性が更に高まり、また、イオン伝導性が向上すると共に電池寿命が長くなる。二塩基酸単量体としては、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられ、中でもイタコン酸が好ましい。
なお、二塩基酸単量体単位は、アクリル重合体以外の重合体よりなる粒子状結着樹脂においても、上述した良好なイオン伝導性を与え、また電池寿命を長くできる。加えて、該粒子状結着樹脂は、保存安定性、機械的強度および結着性に優れるという効果を発揮する。すなわち、粒子状結着樹脂は、二塩基酸単量体単位を含むことが好ましい。
ここで、これら酸性官能基含有単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
粒子状結着樹脂として用いられるアクリル重合体における、酸性官能基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下である。酸性官能基含有単量体単位の含有割合を1質量%以上にすることにより、粒子状結着樹脂としての結着性を高めて電気化学素子のレート特性を改善できる。また、5質量%以下にすることにより、アクリル重合体の製造安定性及び保存安定性を良好にできる。
【0107】
α,β−不飽和ニトリル単量体としては、機械的強度及び結着性向上のため、例えばアクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
粒子状結着樹脂として用いられるアクリル重合体における、α,β−不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。α,β−不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を3質量%以上とすることにより、粒子状結着樹脂としての機械強度を向上させて、被覆正極活物質と集電体又は被覆正極活物質同士の密着性を高めることができる。また、40質量%以下とすることにより、粒子状結着樹脂の柔軟性を高くし、複合粒子を用いて得た正極を割れ難くできる。
【0109】
また、粒子状結着樹脂として用いられるアクリル重合体は、架橋性単量体単位を含んでいてもよい。架橋性単量体としては、例えば、酸性官能基含有水溶性樹脂の項において例示したのと同様のものが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
粒子状結着樹脂として用いられるアクリル重合体における、架橋性単量体単位の含有割合は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。架橋性単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、アクリル重合体は電解液に対して適度な膨潤性を示し、複合粒子を用いて得た正極を使用した電気化学素子のレート特性及びサイクル特性をより向上させることができる。
【0111】
さらに、アクリル重合体は、上述したもの以外の単量体由来の単量体単位を含んでいてもよい。このような単量体の例を挙げると、被覆樹脂の項において例示したのと同様のものが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
粒子状結着樹脂の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。また、重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。また、重合開始剤としては、既知の重合開始剤、例えば、特開2012−184201号公報に記載のものを用いることができる。
【0113】
粒子状結着樹脂は、通常、水系媒体中に粒子状で分散した分散液の状態で製造され、電気化学素子の正極用複合粒子を製造するためのスラリー組成物においても同様に水系媒体中に粒子状で分散した状態で含まれる。水系媒体中に粒子状で分散している場合、粒子状結着樹脂の粒子の50%体積平均粒径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、さらに好ましくは70nm以上であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは185nm以下、さらに好ましくは160nm以下である。粒子状結着樹脂の粒子の体積平均粒径を50nm以上にすることによりスラリー組成物の安定性を高めることができる。また、200nm以下とすることにより、粒子状結着樹脂の結着性を高めることができる。
【0114】
粒子状結着樹脂は、通常、上記分散液のままで保存及び運搬される。このような分散液の固形分濃度は、通常15質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、通常70質量%以下、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。分散液の固形分濃度がこの範囲であると、スラリー組成物を製造する際における作業性が良好である。
【0115】
また、粒子状結着樹脂を含む上記分散液のpHは、好ましくは5以上、より好ましくは7以上であり、好ましくは13以下、より好ましくは11以下である。分散液のpHを上記範囲に収めることにより、粒子状結着樹脂の安定性が向上する。
【0116】
粒子状結着樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−45℃以上、特に好ましくは−40℃以上であり、好ましくは25℃以下、より好ましくは15℃以下、特に好ましくは5℃以下である。粒子状結着樹脂のガラス転移温度を前記の範囲に収めることにより、複合粒子を用いて製造した正極の強度及び柔軟性を向上させて、高い低温出力特性を実現できる。なお、粒子状結着樹脂のガラス転移温度は、例えば、各単量体単位を構成するための単量体の組み合わせなどを変化させることにより、調整可能である。
【0117】
本発明の複合粒子中、粒子状結着樹脂の含有量は、Ni含有正極活物質粒子100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。粒子状結着樹脂の含有量をNi含有正極活物質粒子100質量部当たり0.1質量部以上とすることにより、正極活物質同士や、複合粒子と集電体との結着性を高め、レート特性を高くすることができる。また、5質量部以下とすることにより、複合粒子を用いて得た正極を電気化学素子に適用した際に、粒子状結着樹脂によりイオンの移動が阻害されることを防止でき、電池の内部抵抗を小さくできる。
【0118】
<その他の成分>
本発明の電気化学素子の正極用複合粒子は、上記成分の他に、例えば、補強材、分散剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらその他の成分は、公知のものを使用することができ、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを使用することができる。
【0119】
これらその他の成分の中でも、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを使用し、複合粒子の製造に用いるスラリー組成物の粘度を調整することが好ましい。本発明の複合粒子において、カルボキシメチルセルロースの含有量は、Ni含有正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。カルボキシメチルセルロースの含有量を上記の範囲とすることで、製造工程においてスラリー組成物の粘度を十分に安定化させることができる。
なお、カルボキシメチルセルロースは、水溶性の樹脂ではあるが、β−グルコースが縮合重合してなるセルロースの誘導体であるので、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂には該当しない。
【0120】
―正極用複合粒子の性状―
本発明の電気化学素子の正極用複合粒子の平均粒子径は、好ましくは30μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。正極用複合粒子の平均粒子径を30μm以上とすることにより、複合粒子の比表面積が大きくなりすぎることによる電解液の分解を防ぎ、200μm以下とすることにより、正極の製造に用いた際に単位容積あたりの複合粒子の充填率が向上し、十分な電池容量を得ることが出来る。なお、複合粒子の平均粒子径としては、50%体積平均粒径を用いる。
【0121】
そして、本発明の正極用複合粒子は、一つの粒子内に、Ni含有正極活物質及び導電材が粒子状結着樹脂を介して結合され、且つ、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂が、Ni含有正極活物質、導電材及び粒子状結着樹脂の間又は周囲に存在する構造を有する。また、Ni含有正極活物質が被覆材料で被覆されている場合には、被覆正極活物質同士、或いは、被覆正極活物質と被覆正極活物質の被覆材料層に含まれない導電材とが粒子状結着樹脂を介して結合され、且つ、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂が、被覆正極活物質、導電材及び粒子状結着樹脂の間又は周囲に存在する構造を有する。
そのため、正極用複合粒子では、導電材が連続構造を形成し、それに伴う導電パスを形成することにより抵抗を引き下げることができる。また、Ni含有正極活物質からアルカリ性の腐食物質が溶出しても、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の酸性基由来のプロトン(H
+)により腐食物質を中和することができる。更に、被覆正極活物質を用いている場合には、被覆材料層によりNi含有正極活物質からの腐食物質の溶出自体を抑制することができる。
【0122】
(正極用複合粒子の製造方法)
次に、本発明の電気化学素子の正極用複合粒子の製造方法について説明する。本発明の正極用複合粒子の製造方法は、導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂と、粒子状結着樹脂とを含有するスラリー組成物を、乾燥造粒する工程を含み、ここで、スラリー組成物中には、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂が、Ni含有正極活物質100質量部当たり1〜10質量部の割合で含まれている必要がある。
【0123】
<スラリー組成物>
本発明の製造方法において、スラリー組成物は、上述した本発明の複合粒子と同様に、導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂と、粒子状結着樹脂とを含有する。そして、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の含有量は、Ni含有正極活物質100質量部当たり、1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは5質量部以下である。酸性官能基含有水溶性樹脂の含有量をこのような範囲内とすることで、本発明の製造方法により得られる複合粒子を用いて得られる正極を使用した正極において集電体の腐食を抑制することができると共に、該正極を使用した電気化学素子のレート特性、低温出力特性を優れたものとすることができる。
【0124】
本発明の製造方法において、スラリー組成物を得るのに用いる媒体としては、水系媒体を用い、通常は水を用いる。また、このスラリー組成物において、水系媒体の使用量は、スラリー組成物の固形分濃度が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下となる範囲である。水系媒体の量を前記の範囲に納めることにより、スラリー組成物において各成分を均一に分散させることができる。
【0125】
また、本発明の製造方法において、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂は、アンモニア及び分子量が1000以下のアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種(以下、適宜、「低分子化合物X」と称する)でアンモニウム塩とされていることが好ましい。このように、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の酸性基の一部又は全部がアンモニウム塩を形成していることで、アルカリ性条件下でスラリー組成物を調整しても、水に対する水溶性樹脂の溶解度が高まり、水溶性樹脂のスラリー組成物中での均一な分散が可能となる。
なお、酸性官能基と結合したこれらの低分子化合物Xは、後述する乾燥造粒の際に脱離するため、得られる複合粒子中においては、酸性官能基は、アンモニウム塩形成前の状態に戻る。
【0126】
上記アミン化合物の分子量は1000以下であるが、乾燥造粒の際に気化を容易とするため、200以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましい。また、アミン化合物の分子量は、31以上である。上記分子量が1000以下のアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロノネン等の3級アミン;などが挙げられる。
【0127】
低分子化合物Xとしては、上記アンモニア及び分子量が1000以下のアミン化合物の中でも、アンモニアが特に好ましい。アンモニアは、乾燥造粒の際の気化が容易であると共に、アミンの塩などを使用した場合と異なり、気化した際に金属元素などの不純物が複合粒子中に残留しないからである。
【0128】
上記スラリー組成物中、上記低分子化合物Xの配合量は、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂100質量部当たり、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは、0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。低分子化合物Xの量が酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂100質量部当たり0.01質量部以上であることによって、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂の水への溶解度を十分なものにすることができ、50質量部以下であることによって、乾燥造粒の際に、低分子化合物Xを安定的に気化させることができる。
【0129】
本発明の製造方法において、上記スラリー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述したその他の成分を含んでもよい。
【0130】
上記スラリー組成物のpHは、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、好ましくは11以下である。pHが上記範囲にあるときに、スラリー組成物の分散安定性が向上し、本発明の効果が顕著に奏される。一方、pHが7未満の場合は、被覆正極活物質の分散が不安定となり、スラリー組成物中に凝集物が発生する可能性がある。
【0131】
上記スラリー組成物の各成分を混合することにより、スラリー組成物を得ることができる。混合手段の例としては、被覆正極活物質の製造方法の項において示した混合機が挙げられる。また、混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0132】
<乾燥造粒する工程>
上記のように調製したスラリー組成物を乾燥造粒することにより、上述した本発明の正極用複合粒子を得ることができる。乾燥造粒の方法としては特に限定されないが、噴霧造粒法、流動層造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出造粒法、破砕型造粒法、流動層多機能型造粒法、溶融造粒法などが挙げられ、これらの中でも、良好な乾燥効率の観点から噴霧造粒法が好ましい。
【0133】
噴霧造粒は、例えば、被覆正極活物質の製造方法の項において述べた噴霧造粒法において、Ni含有正極活物質と、被覆材料と、水系媒体とを含むスラリー組成物に代えて、上記の、導電材と、Ni含有正極活物質と、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂と、粒子状結着樹脂とを含有するスラリー組成物を用いることにより行うことができる。
【0134】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子の正極用複合粒子を成形して得られる正極活物質層と、集電体とを有する正極を備えることを特徴とする。このような電気化学素子は、集電体が腐食し難く、また、レート特性、出力特性などの電気的特性に優れる。
【0135】
ここで、以下では、本発明の電気化学素子の一例としてのリチウムイオン二次電池の構成について説明する。このリチウムイオン二次電池は、通常、上記正極に加え、負極、電解液、セパレーターを備える。以下、上記各構成について説明する。
【0136】
<正極>
上記のように、本発明に従うリチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質層と、集電体とを有する。
【0137】
―正極活物質層―
正極を構成する正極活物質層は、本発明の複合粒子を成形することに得ることができる。通常、複合粒子は、加圧成形法により成形する。加圧成形法は、本発明の複合粒子に圧力を加えることで、複合粒子の再配列、変形により緻密化を行い、正極活物質層を成形する方法である。加圧成形法は、簡略な設備で行うことができる。
【0138】
加圧成形法としては、例えば、本発明の複合粒子をスクリューフィーダー等の供給装置で加圧成形装置に供給し、集電体上または基材上に正極活物質層を成形する方法や、本発明の複合粒子を集電体上または基材上に散布し、次いで加圧装置で成形する方法、本発明の複合粒子を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。かかる加圧は、例えば、金型プレス、ロール加圧等により行うことができ、ロール加圧により行うことが、製造効率上特に好ましい。
【0139】
正極の製造においては、生産性に優れることから、本発明の複合粒子をスクリューフィーダー等の供給装置でロール式加圧成形装置に供給し、集電体上または基材上に正極活物質層を成形する方法が好ましい。この方法において、集電体や後述する基材を二次電池正極用複合粒子の供給と同時にロールに送り込むことによって、集電体上または基材上に直接正極活物質層を積層し、正極活物質層付集電体や正極活物質層付基材を得ることができる。成形時におけるロールの温度は、好ましくは25℃以上、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは70℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、特に好ましくは120℃以下である。また、成形時におけるロールのプレス線圧は、好ましくは10kN/m以上、より好ましくは200kN/m、特に好ましくは300kN/m以上であり、好ましくは1000kN/m以下、より好ましくは900kN/m以下、特に好ましくは600kN/m以下である。成形時におけるロールの温度やプレス線圧が上記範囲内であると、集電体上または基材上に正極活物質層を均一に貼り合わせることができ、強度に優れる正極を得ることができる。
【0140】
正極の製造においては、正極活物質層は、基材上に形成されてもよいが、集電体上に直接形成されることが好ましい。集電体上に正極活物質層を形成することで、より均一で密着性の高い正極活物質層を形成できる。その結果、電池の内部抵抗を低減し、充放電サイクル特性を向上できる。なお、正極活物質層を基材上に形成した場合には、基材上に形成された正極活物質層は、その後、集電体上に転写されて、正極が形成される。
【0141】
正極の製造に使用される基材は、正極活物質層を支持し、正極活物質層を集電体に貼り合わせるために使用するものである。基材は、正極活物質層に接する面が、粗面化されていてもよい。基材を構成する材料としては、例えば特開2010−171366号公報に記載のものを使用することができる。
【0142】
また、正極の製造においては、成形した正極活物質層の厚みのばらつきを無くし、正極活物質層の密度を上げて高容量化をはかるために、更に後加圧を行い、正極活物質層と集電体とを一体化させる工程を有することが好ましい。後加圧の方法は、熱プレス法が一般的である。熱プレス法としては、具体的には、バッチ式熱プレス、連続式熱ロールプレスなどが挙げられ、生産性が高められる連続式熱ロールプレスが好ましい。
【0143】
また、正極活物質層が基材上に形成されている場合には、集電体と、正極活物質層と基材との複合体とを、正極活物質層が集電体と基材とに挟まれるように積層し、熱プレスして貼り付けて、正極活物質層と集電体とを一体化させ、その後、基材を剥離することが好ましい。正極活物質層から基材を剥離する方法は、特に制限されないが、たとえば正極活物質層を集電体に貼付後、正極活物質層が貼り付けられた集電体と、基材とを別々のロールに捲回することで、容易に基材を剥離することができる。かくして正極活物質層と集電体とが一体化する。
【0144】
また、正極活物質層を形成した集電体のもう一方の面に、正極活物質層を形成した基材を熱プレスで貼り合わせて、その後、基材を剥離することで、集電体の両面に正極活物質層を形成した電極を製造することもできる。
【0145】
正極活物質層の厚さは、特に限定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常150μm以下、好ましくは100μm以下である。正極活物質層の厚みを前記の範囲に収めることにより、レート特性及びエネルギー密度の両方を良好にできる。
【0146】
−集電体−
正極を構成する集電体としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体を用いる。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてもよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。集電体は一般に電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられ、特にアルミニウム及びアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
【0147】
アルミニウム合金としては、例えば、鉄、マグネシウム、亜鉛、マンガン及びケイ素よりなる群から選択される1種類以上の元素と、アルミニウムとの合金が挙げられる。
【0148】
集電体の形状は、特に制限されないが、厚み0.001mm〜0.5mmのシート状のものが好ましい。
また、集電体は、正極活物質層の接着強度を高めるため、予め粗面化処理が施されていてもよい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、例えば、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
【0149】
<負極>
本発明に従う二次電池の負極としては、電気化学素子に通常用いられる各種の負極を用いることができる。例えば、電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合、金属リチウムの薄板を用いることができる。又は例えば、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層(「負極合材層」と称されることもある。)とを備えるものを用いることができる。
【0150】
負極の集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いる。中でも、高い電気導電性を有し、かつ電気化学的に安定であるという観点より、銅が特に好ましい。
【0151】
負極活物質層は、負極活物質及び粒子状結着樹脂(バインダー)を含む層である。
負極活物質、粒子状結着樹脂としては、それぞれ公知のものを用いることができ、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものが挙げられる。粒子状結着樹脂は正極において用いる粒子状結着樹脂と同様のものを用いてもよい。また、負極活物質層には、必要に応じて、負極活物質及び粒子状結着樹脂以外の成分が含まれていてもよい。
【0152】
負極は、例えば、負極活物質、結着樹脂、及び、水系媒体を含む負極用スラリー組成物を用意し、その負極用スラリー組成物の層を集電体に形成し、その層を乾燥させて製造してもよいし、負極用スラリー組成物を乾燥造粒することにより複合粒子とし、該複合粒子を用いて、上述した正極の正極活物質層と同様にして負極活物質層を形成することにより製造してもよい。
【0153】
<電解液>
本発明に従う二次電池の電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。
支持電解質としては、電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。解離度の高い支持電解質を用いるほど、リチウムイオンの伝導度が高くすることができる。なお、支持電解質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0154】
有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものを用いる。本発明に従う二次電池において、正極活物質層中のNi含有正極活物質が被覆材料で被覆されている場合は、被覆材料中の被覆樹脂が電解液に膨潤しうるようにするため、電解液の有機溶媒は適切なSP値を有するものを用いることが好ましい。有機溶媒の具体的なSP値は、被覆樹脂の種類に応じて一様ではないが、好ましくは7.0(cal/cm
3)
1/2以上、より好ましくは7.5(cal/cm
3)
1/2以上、特に好ましくは8.0((cal/cm
3)
1/2以上であり、好ましくは16.0(cal/cm
3)
1/2以下、より好ましくは15.0(cal/cm
3)
1/2以下、特に好ましくは12.0(cal/cm
3)
1/2以下である。
【0155】
好適な有機溶媒としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、比誘電率が高く、安定な電位領域が広いという観点より、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類が好ましい。なお、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0156】
また、電解液には、添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート系化合物が挙げられる。
【0157】
また、電解質としては、上記した電解液に代えて、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル等のポリマー電解質;前記のポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質;LiI、Li3N等の無機固体電解質などを用いてもよい。
【0158】
<セパレーター>
セパレーターとしては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くし、体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0159】
<二次電池の製造方法>
本発明に従う二次電池は、例えば、上述した正極と、負極とを、セパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造してもよい。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0160】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。被覆材料による被覆率の測定方法、集電体腐食性の評価方法、二次電池のレート特性の評価方法、二次電池の低温出力特性の評価方法はそれぞれ以下のものを使用した。
【0161】
[被覆材料による被覆率の測定方法]
被覆正極活物質をエポキシ樹脂に分散させ、エポキシ樹脂を硬化させた。その後、−80℃の温度に冷却してミクロトームで切断して、薄片を作製した。薄片に対して0.5質量%濃度の四酸化ルテニウム水溶液の蒸気を約5分間吹き付け、被覆ポリマーの層を染色し、切断面をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察した。観察は倍率2000〜6000倍において行い、28μm×35μmの範囲に5個〜20個の被覆正極活物質の断面が観察できるように調整し、その中から100個を選び出して被覆の状態を観察した。この際、観察された画像を目視観察し、断面長の80%以上を被覆されている被覆正極活物質をランクA、50%〜79%を被覆されている被覆正極活物質をランクBとし、被覆率(%)=(ランクA個数)+0.5×(ランクB個数)によって被覆率を求めた。
【0162】
[集電体腐食性の評価方法]
二次電池用正極から、正極活物質を含む正極活物質層を水中にて超音波により剥離し、集電体の剥離面をX線光電子分光法(XPS)によって分析した。得られた酸素1s軌道のスペクトルをピーク分離し、酸化アルミニウムに起因するピーク及び水酸化アルミニウムに起因するピークに分離し、強度比から(水酸化アルミニウムに起因するピーク面積)×100/(酸素1s軌道に起因するピーク面積)を算出する。これを、集電体腐食性の評価基準とし、以下の基準で評価した。この値が高い程、腐食が大きく水酸化アルミニウムの生成が多いことを表す。
A:40%未満
B:40%以上50%未満
C:50%以上60%未満
D:60%以上70%未満
E:70%以上
【0163】
[レート特性の評価方法]
実施例および比較例で製造したラミネート型セルを用いて、25℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルと、25℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、2.0Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルとを、それぞれ行った。0.1Cにおける電池容量に対する2.0Cにおける放電容量の割合を百分率で算出して充放電レート特性とした。
なお、0.1Cにおける電池容量は、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電したときの放電容量のことをいい、2.0Cにおける放電容量は、2.0Cの定電流で3.0Vまで放電したときの放電容量のことをいう。
充放電レート特性を、下記の基準で評価した。充放電レート特性(本明細書において、「レート特性」という)の値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
A:充放電レート特性が80%以上
B:充放電レート特性が75%以上80%未満
C:充放電レート特性が70%以上75%未満
D:充放電レート特性が70%未満
【0164】
[低温出力特性の評価方法]
実施例および比較例で作製したラミネート型セルを用い、25℃で0.1Cの定電流で充電深度(SOC)50%まで充電し、電圧V0を測定した。その後、−10℃で1.0Cの定電流で10秒間放電し、電圧V1を測定した。これらの測定結果から、電圧降下ΔV=V0−V1を算出した。
算出された電圧降下ΔVを、下記の基準で評価した。電圧降下ΔVの値が小さいほど、低温出力特性に優れることを示す。
A:電圧降下ΔVが100mV以上120mV未満
B:電圧降下ΔVが120mV以上140mV未満
C:電圧降下ΔVが140mV以上160mV未満
D:電圧降下ΔVが160mV以上
【0165】
酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂1〜3、被覆樹脂1〜3、粒子状結着樹脂1,2は、以下のように製造した。
【0166】
[酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂1の製造]
撹拌機、還流冷却管及び温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、酸性官能基含有単量体としてメタクリル酸を32.5部、架橋性単量体としてエチレンジメタクリレートを0.8部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを7.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてブチルアクリレートを58.0部、反応性界面活性剤単量体としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王社製「ラテムルPD−104」)を固形分相当で1.2部、t−ドデシルメルカプタンを0.6部、イオン交換水を150部、及び重合開始剤として過硫酸カリウムを0.5部加え、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止し、酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む混合物を得た。
上記酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む混合物に、10%アンモニア水を添加(アンモニアの量が、酸性官能基含有水溶性樹脂1の100部当たり1.5部)して、pH8に調整し、酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を得た。
【0167】
[酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂2の製造]
撹拌機、還流冷却管及び温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、酸性官能基含有単量体としてジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートを20部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2,2,2−トリフルオロメチルメタクリレートを2.5部、メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてブチルアクリレートを77.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1.0部、イオン交換水を150部、及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を加え、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、酸性官能基含有水溶性樹脂2を含む混合物を得た
上記酸性官能基含有水溶性樹脂2を含む混合物に、10%アンモニア水を添加(アンモニアの量が、酸性官能基含有水溶性樹脂2の100部当たり1.5部)して、pH8に調整し、酸性官能基含有水溶性樹脂2を含む水溶液を得た。
【0168】
[酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂3の製造]
撹拌機、還流冷却管及び温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、脱塩水を予め仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム水溶液0.2部を添加した。
また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器に、酸性官能基含有単量体としてメタクリル酸を30部及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を2.5部と、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてエチルアクリレート35部及びブチルアクリレート32.5部と、乳化剤として濃度30%のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムを固形分相当0.115部と、イオン交換水50部と、炭酸水素ナトリウム0.4部とからなる混合物とを仕込み、十分攪拌してエマルジョン水溶液を調製した。
得られたエマルジョン水溶液を、前記のセパラブルフラスコに4時間に亘って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に2時間反応を実施した後、重合転化率が99%になった時点で冷却し反応を停止して、酸性官能基含有水溶性樹脂3を含む混合物を得た。
上記酸性官能基含有水溶性樹脂3を含む混合物に、10%アンモニア水を添加(アンモニアの量が、酸性官能基含有水溶性樹脂3の100部当たり1.5部)して、pH8に調整し、酸性官能基含有水溶性樹脂3を含む水溶液を得た。
【0169】
[粒子状結着樹脂1の製造]
撹拌機、還流冷却管及び温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、イオン交換水を130部加え、更に重合開始剤として過硫酸アンモニウムを0.8部、イオン交換水を10部加え、80℃に加温した。
また別の撹拌機付き容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2−エチルヘキシルアクリレートを76部、α,β−不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリルを20部、酸性官能基含有単量体としてイタコン酸を4.0部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2.0部、イオン交換水を377部加え、十分に攪拌してエマルションを調製した。
上記で得られたエマルションを、前記セパラブルフラスコに3時間かけて連続的に添加した。更に2時間反応した後、冷却して反応を停止した。ここに10%アンモニア水を添加してpH7.5に調整し、粒子状結着樹脂1の水分散液を得た。重合転化率は98%であった。なお、この粒子状結着樹脂1の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は76質量%であり、α,β−不飽和ニトリル単量体の含有割合は20質量%であり、酸性基含有単量体の含有割合は4.0質量%であった。また、得られた粒子状結着樹脂1のガラス転移温度は−30℃、体積平均粒径は150nmであった。
【0170】
[粒子状結着樹脂2の製造]
2−エチルヘキシルアクリレートを78部とし、イタコン酸4.0部をメタクリル酸2.0部に代えた以外は、粒子状結着樹脂1と同様に粒子状結着樹脂2の水分散液を得た。重合転化率は98%であった。なお、この粒子状結着樹脂2の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は78質量%であり、α,β−不飽和ニトリル単量体の含有割合は20質量%であり、酸性基含有単量体の含有割合は2.0質量%であった。また、得られた粒子状結着樹脂2のガラス転移温度は−40℃、体積平均粒径は200nmであった。
【0171】
[被覆樹脂1の製造]
撹拌機、還流冷却管及び温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、イオン交換水を250部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムを2部加え、十分に撹拌した後、70℃に加温し、過硫酸カリウム水溶液を固形分相当で0.2部添加した。
また別の撹拌機付き容器に、イオン交換水を50部、炭酸水素ナトリウムを0.4部、乳化剤として濃度30%のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムを固形分相当で0.12部、酸性基含有単量体としてメタクリル酸を3.0部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてエチルアクリレートを47部及びブチルアクリレートを20部、α,β−不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリルを30部入れ、十分に撹拌してエマルションを調製した。
上記で得られたエマルションを、前記セパラブルフラスコに4時間かけて連続的に添加した後、80℃に加温して更に2時間反応を実施した。冷却して反応を停止し、被覆樹脂1の水分散液を得た。重合転化率は99%であった。なお、この被覆樹脂1の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は67質量%であり、α,β−不飽和ニトリル単量体の含有割合は30質量%であり、酸性基含有単量体の含有割合は3.0質量%であった。また、被覆樹脂1のガラス転移温度は7℃であり、SP値は11.45(cal/cm
3)
1/2であった。
【0172】
[被覆樹脂2の製造]
エチルアクリレートを32部、ブチルアクリレートを54部、メタクリル酸を4部、アクリロニトリルを10部とした以外は、被覆樹脂1の製造と同様にして、被覆樹脂2の水分散液を得た。重合転化率は99%であった。なお、この被覆樹脂2の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は86質量%であり、α,β−不飽和ニトリル単量体の含有割合は10質量%であり、酸性基含有単量体の含有割合は4.0質量%であった。また、被覆樹脂2のガラス転移温度は−26℃であり、SP値は10.57(cal/cm
3)
1/2であった。
【0173】
[被覆樹脂3の製造]
エチルアクリレートを46部、ブチルアクリレートを10部、メタクリル酸を4部、アクリロニトリルを40部とした以外は、被覆樹脂1の製造と同様にして、被覆樹脂3の水分散液を得た。重合転化率は99%であった。なお、この被覆樹脂3の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は56質量%であり、α,β−不飽和ニトリル単量体の含有割合は40質量%であり、酸性基含有単量体の含有割合は4.0質量%であった。被覆樹脂3のガラス転移温度は27℃であり、SP値は11.91(cal/cm
3)
1/2であった。
【0174】
[実施例1]
以下の手順で、実施例1の複合粒子、及び、二次電池を製造した。
【0175】
(a)被覆正極活物質の製造
上記で得られた被覆樹脂1の水分散液の濃度を調整し、28%水分散液とした。
ホモミキサーに、Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体正極活物質を100部、前記被覆樹脂1の28%水分散液を固形分相当で2部、アセチレンブラック(電気化学工業社製「HS−100」)を2部加え、イオン交換水で全固形分濃度が20%となるように調製して撹拌混合し、スラリー組成物を得た。
上記スラリー組成物を、スプレー乾燥機(大川原化工機社製「OC−16」)に供給し、回転円盤方式のアトマイザー(直径65mm)を用いて回転数25000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、被覆正極活物質1を得た。体積平均粒径は8.5μm、被覆率は84%であった。
【0176】
(b)複合粒子の製造
上記で得られた粒子状結着樹脂1の水分散液の濃度を調整し、40%水分散液とした。
プラネタリーミキサーに、前記被覆正極活物質1を104部、アセチレンブラック(電気化学工業社製「HS−100」)を3部、前記酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を固形分相当で2部、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬社製「BSH−6」)を固形分相当で1部、前記粒子状結着樹脂1の40%水分散液を固形分相当で2部加え、イオン交換水で全固形分濃度が20%となるように調製して撹拌混合し、複合粒子用のスラリー組成物を得た。
上記複合粒子用のスラリー組成物を、スプレー乾燥機(大川原化工機社製「OC−16」)に供給し、回転円盤方式のアトマイザー(直径65mm)を用いて回転数25000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口温度90℃の条件で噴霧乾燥し、複合粒子1を得た。体積平均粒径は65μmであった。
【0177】
(c)正極の製造
上記で得られた複合粒子1を、定量フィーダ(ニッカ社製「ニッカスプレーK−V」)を用いてロールプレス機(ヒラノ技研工業社製「押し切り粗面熱ロール」)のプレス用ロール(ロール温度100℃、プレス線圧500kN/m)に供給した。プレス用ロール間に、厚さ20μmのアルミニウム箔を挿入し、定量フィーダから供給された上記二次電池正極用の複合粒子1をアルミニウム箔(集電体)上に付着させ、成形速度1.5m/分で加圧成形し、正極活物質を有する正極を得た(表1中、この正極の製法をαと表記する)。
【0178】
(d)負極用のスラリー組成物の製造
ディスパー付きプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積4m
2/gの人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)を100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬社製「BSH−12」)を固形分相当で1部加え、イオン交換水で全固形分濃度が52%になるよう調整して撹拌混合し、混合液を得た。
上記混合液に、スチレン−ブタジエン共重合体(ガラス転移点温度が−15℃)を含む40%水分散液を固形分相当量で1部加え、イオン交換水で全固形分濃度が50%となるように調整して混合した。これを減圧下で脱泡処理し、負極用のスラリー組成物を得た。
【0179】
(e)負極の製造
上記で得られた負極用のスラリー組成物を、コンマコーターを用いて厚さ20μmの銅箔の上に乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理し、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、負極活物質層を有する負極を得た。
【0180】
(f)セパレーターの用意
単層のポリプロピレン製セパレーター(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。
【0181】
(g)リチウムイオン二次電池の製造
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極活物質層の面上に、上記で得られた正方形のセパレーターを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレーター上に、負極活物質層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。更に、ビニレンカーボネートを2.0%含有する、濃度1.0MのLiPF
6溶液を充填した。このLiPF
6溶液の溶媒はエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7(体積比))である。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃でヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、ラミネート型のリチウムイオン二次電池(ラミネート型セル)を製造した。
このラミネート型セルを用いてレート特性、低温出力特性を評価した。
【0182】
[実施例2]
Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体正極活物質に代えてCo−Ni−Mnリチウム酸化物を使用した以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径63μm、被覆正極活物質の被覆率80%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0183】
[実施例3]
被覆正極活物質の製造の際に加える被覆材料中の導電材として、アセチレンブラックに代えてケッチェンブラック(LION社製「EC600JD」)を使用した以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径63μm、被覆正極活物質の被覆率82%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0184】
[実施例4]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液に代えて、酸性官能基含有水溶性樹脂2を含む水溶液を使用した以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径67μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0185】
[実施例5]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液に代えて、酸性官能基含有水溶性樹脂3を含む水溶液を使用した以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径70μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0186】
[実施例6]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を固形分相当で4部とし、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を添加しない以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径66μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0187】
[実施例7]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を固形分相当で2.5部とし、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を固形分相当で0.5部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径65μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0188】
[実施例8]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を固形分相当で1部とし、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を固形分相当で2部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径70μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0189】
[実施例9]
粒子状結着樹脂1の40%水分散液を粒子状結着樹脂2の40%水分散液とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径65μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0190】
[実施例10]
Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体正極活物質を被覆材料で被覆せず、複合粒子用のスラリー組成物に加えるアセチレンブラックの量を5部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径62μm、正極活物質の被覆率0%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0191】
[実施例11]
被覆樹脂1の水分散液に代えて被覆樹脂2の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径63μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0192】
[実施例12]
被覆樹脂1の水分散液に代えて被覆樹脂3の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径62μm、被覆正極活物質の被覆率85%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0193】
[実施例13]
アセチレンブラックの配合量を2.5部(うち1部を被覆材料中に配合)とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径67μm、被覆正極活物質の被覆率82%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0194】
[比較例1]
複合粒子中に導電材を添加しない以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径63μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0195】
[比較例2]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を使用せず、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を固形分相当で3部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径71μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0196】
[比較例3]
酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を固形分相当で12部とし、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を使用しない以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径65μm、被覆正極活物質の被覆率84%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0197】
[比較例4]
実施例1において得られた複合粒子用のスラリー組成物を、複合粒子化することなく、コンマコーターを用いて厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の上に乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し乾燥させた。この乾燥は、アルミニウム箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理し、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、正極活物質層を有する正極を得た(表1中、この正極の製法をβとする)。その後の工程は、実施例1と同様にして、ラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0198】
[比較例5]
Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体正極活物質を被覆材料で被覆せず、複合粒子用のスラリー組成物に加えるアセチレンブラックの量を5部とし、酸性官能基含有水溶性樹脂1を含む水溶液を使用せず、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液を固形分相当で3部とした以外は、実施例1と同様に複合粒子(体積平均粒径64μm、正極活物質の被覆率0%)を製造し、そしてラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0199】
【表1】
【0200】
なお、表1中、アセチレンブラック及びケッチェンブラックの括弧中の数値は被覆材量中に配合した量、括弧外の数値は、複合粒子用スラリー調製時に配合した量を表す。
【0201】
表1の結果から明らかなように、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を所定の割合で含む複合粒子を用いた実施例1〜13は、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を含まない複合粒子を用いた比較例2に比して、集電体の腐食が抑制されており、レート特性、低温出力特性について優れていた。また、実施例1〜13は、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂をNi含有正極活物質100質量部当たり12質量部含む複合粒子を用いた比較例3に比してレート特性、低温出力特性について優れていた。
【0202】
比較例1は、集電体の腐食は抑制されているものの、導電材を含んでいないため正極の電導性が著しく劣っており、実施例1〜13と比較してレート特性、低温出力特性について大幅に劣っていた。
更に、比較例4は、複合粒子化せず、スラリー組成物を集電体上に塗布し乾燥して正極活物質層を形成させているため、集電体が著しく腐食し、また、実施例1〜13と比較してレート特性、出力特性について大幅に劣っていた。
また、比較例5は、酸性官能基含有単量体単位を含む水溶性樹脂を含まず、更にNi含有正極活物質を被覆材料で被覆していないため、集電体が著しく腐食し、また、実施例1〜13と比較してレート特性、出力特性について大幅に劣っていた。