特許第6187178号(P6187178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187178
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】コラーゲン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20170821BHJP
   A61K 36/49 20060101ALI20170821BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20170821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61K8/9789
   A61K36/49
   A61Q19/08
   A61P43/00 105
   A61Q19/00
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-234765(P2013-234765)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2014-141453(P2014-141453A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-286046(P2012-286046)
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】河原塚 悠
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 幸二
(72)【発明者】
【氏名】林 伸二
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−352634(JP,A)
【文献】 特開2001−278783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K36/00−36/05
A61K36/07−36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Science Direct
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栗(Castanea crenata)皮の抽出物を有効成分として含有するコラーゲン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栗皮の抽出物を有効成分として含有するコラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、体内に最も多く存在するタンパク質であり、特に、人体が有する全コラーゲン量の40%が皮膚に、20%が骨や軟骨に存在している。またコラーゲンを産生する主な細胞としては、皮膚に存在する線維芽細胞、軟骨に存在する軟骨細胞、骨を形成する骨芽細胞などが挙げられる。コラーゲンの中でも、皮膚や骨に多く存在するI型コラーゲンは、線維芽細胞によって前駆体のI型プロコラーゲンが生合成され、細胞外へ分泌された後、酵素によってI型プロコラーゲンの両末端が切断され、コラーゲン線維として重合することで生成する。
しかし加齢や紫外線によって、このI型コラーゲンを産生する線維芽細胞の機能が低下すると、コラーゲン量が減少する。このコラーゲン量の減少は、皮膚のシワ、肌のたるみ、肌のキメ、骨や軟骨の骨粗鬆症、歯周炎、角膜障害の原因の一つとなっている。
【0003】
コラーゲン産生促進効果があると言われている代表的な成分として、L−アスコルビン酸(非特許文献1)やレチノール(非特許文献2)が挙げられる。
しかしながら、これらの成分は酸化や分解され易いという問題がある。そのため、安定性に優れたコラーゲン産生促進剤の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−175734号公報
【特許文献2】特開平7−196526号公報
【特許文献3】特開2012−171909号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Archives of Dermatology, 1987, Vol. 123, No. 12, p.1684-1686
【非特許文献2】Journal of Investigative Dermatology, 1990, Vol. 94, No.5, p.717-723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来のものに比べて安定性に優れたコラーゲン産生促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、コラーゲン産生促進作用について、様々な植物抽出物を用いて鋭意研究を重ねてきた。その結果、栗 (Castanea crenata) 皮の抽出物が低濃度からコラーゲン産生促進作用を有すること、すなわちコラーゲン産生促進剤となり得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、栗(Castanea crenata)皮の抽出物を有効成分として含有するコラーゲン産生促進剤である。
【0009】
なお、栗の抽出物としては、栗葉の抽出物が抗ヒスタミン作用(特許文献1)や抗コラーゲナーゼ作用(特許文献2)を有することが知られており、また栗皮の抽出物が抗糖化作用 (特許文献3)を有することが知られているが、栗皮の抽出物がコラーゲン産生促進作用を有することは未だ報告されていない。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコラーゲン産生促進剤は、L−アスコルビン酸等の従来のコラーゲン産生促進剤よりも安定性に優れる。また、栗の中でも食用となる部位は果実のみであり、他の部位は通常、廃棄されるので、本発明は栗皮の有効活用に資する効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
まず本発明に用いられる栗について説明する。
栗(Castanea crenata)はブナ科クリ属の落葉高木樹であり、栗の果実は炭水化物、ビタミン、ミネラルが多く含まれている。また世界の栗の種類は、主に、ヨーロッパ栗、アメリカ栗、中国栗、日本栗に大きく分けられており、栗は古くから世界各地で貴重な食物として使用され、安全性の高い植物であるといえる。
【0012】
〔栗皮の抽出物〕
本発明に用いられる栗皮は、ブナ科クリ属の栗(Castanea crenata)の皮であれば、栽培種、野生種など特に限定はされないが、日本栗が好ましい。また栗皮は、栗の果実の皮であり、渋皮、鬼皮、またはそれら両方をいう。栗皮の抽出物は、栗皮をそのまま、もしくは乾燥や破砕処理を行った後、各種溶媒にて抽出したものであり、抽出液そのもの、もしくはその希釈物や濃縮物をいう。
【0013】
抽出に用いられる溶媒としては、炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、ハロゲン化炭化水素、水溶性のアルコール類および水などが挙げられる。中でも好ましくは、水、低級アルコールおよび多価アルコールから選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒であり、更に好ましくは、水、エタノールおよび1,3−ブチレングリコールから選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒である。
【0014】
抽出方法は常法に従い、栗皮をそのまま、もしくは乾燥させたり、破砕処理を行った後、1種または2種以上の溶媒に1時間以上浸漬し、ろ過することで、目的の抽出物を得ることができる。抽出は、常圧、加圧、または減圧下で、室温、加熱、または冷却下で行うことができる。さらに、二酸化炭素などを利用した超臨界抽出法や亜臨界抽出法、水蒸気蒸留などの蒸留を用いて抽出する方法、栗皮を圧搾して抽出する方法、還流抽出法なども利用することができる。
得られた抽出液は、溶媒留去により濃縮したり、カラムクロマトグラフィーや溶媒分画等の処理により精製しても良い。中でも好ましくは、栗皮をそのまま破砕処理した後、室温条件で、水、エタノールおよび1,3−ブチレングリコールから選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒を用いて得られた抽出液であり、さらに好ましくは、水および1,3−ブチレングリコールの混合溶媒を用いて得られた抽出液である。
【0015】
〔コラーゲン産生促進剤〕
本発明のコラーゲン産生促進剤は、上記の栗皮の抽出物を有効成分として含有するものであり、医薬品、医薬部外品、食品、化粧品類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、パック、オイル、軟膏、スプレー、貼付剤など)として利用することができる。
【0016】
本発明のコラーゲン産生促進剤を皮膚外用剤、例えば化粧水に用いる場合、栗皮の抽出物の含有量は、乾燥固形分として、皮膚外用剤全量に対して、0.001〜1質量%であり、好ましくは0.005〜0.1質量%である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0018】
(実施例1:栗皮の抽出物の調製)
栗の渋皮および鬼皮20g(総量)を乾燥させ破砕した後、400gの50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液を加え、室温下で7日間抽出し、栗の渋皮および鬼皮をろ過することで栗皮の抽出物を得た。この栗皮の抽出物中の抽出溶媒(50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液)を除いた固形分の含有量は、1.0質量%であった。
【0019】
(比較例1:栗葉の抽出物の調製)
栗の葉20gを乾燥させ破砕した後、400gの50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液を加え、室温下で7日間抽出し、栗の葉をろ過することで栗葉の抽出物を得た。この栗葉の抽出物中の抽出溶媒(50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液)を除いた固形分の含有量は、0.9質量%であった。
【0020】
(比較例2:栗のいがの抽出物の調製)
栗のいが20gを乾燥させ破砕した後、400gの50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液を加え、室温下で7日間抽出し、栗のいがをろ過することで栗のいがの抽出物を得た。この栗のいがの抽出物中の抽出溶媒(50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液)を除いた固形分の含有量は、0.8質量%であった。
【0021】
〔コラーゲン産生促進試験:I型コラーゲンアッセイ〕
実施例1、比較例1、2の各抽出物、アスコルビン酸(シグマ社製、比較例3)を50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液で適宜希釈し、試験溶液とした。
ヒト皮膚線維芽細胞を96ウェルプレートに1. 0×10cells/100μL/wellになるように播種した。播種培地はダルベッコ変法イーグル培地(Dalbecco’s Modified Eagle Medium, DMEM 和光純薬社製)に牛胎児血清(Biowest 社製)を終濃度10%になるように添加し、さらに終濃度100U/mLのペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO社製)を使用した。
37℃、5%CO下で24時間培養後、培地を除去し各濃度の試料を含む無血清培地(DMEM)に置換し、48時間培養した。培養終了後に、培養上清を播種し、別の96ウェルプレートで100倍希釈(10倍×10倍の2段階希釈) した。
次に、この調製した試薬を用いて、宝酒造社製キットMK−101でI型コラーゲン生合成能を測定した。すなわち、ELISA法でヒト皮膚線維芽細胞が産出するI型プロコラーゲンC末端ペプチド(PIP:Procollagen typeI carboxyterminal propeptide)量を測定し、コラーゲン産生率を算出した。
その結果を表1に示す。なお、表1における有効分とは、乾燥残留物のことである。
【0022】
【表1】
【0023】
上記コラーゲン産生促進試験では、栗の使用部位におけるコラーゲン産生促進効果を比較するため、栗皮、葉、いがを用いて試験を行なった。また比較例3では、陽性対照として、コラーゲン産生促進作用を有することが既知であるアスコルビン酸を用いた。実施例1、比較例1、2の結果から、栗の使用部位により抽出される成分が異なることが示された。すなわち、実施例1の栗皮の抽出物は、コラーゲン産生促進作用を有しており、しかも濃度依存的にコラーゲン産生率が向上した。一方、比較例1の栗葉抽出物、および比較例2の栗いが抽出物は、コラーゲン産生促進作用を示さなかった。
【0024】
〔安定性試験〕
栗皮(実施例1)、葉(比較例1)、いが(比較例2)の各抽出物、アスコルビン酸(シグマ社製)を、50体積%1,3−ブチレングリコール水溶液を用いて、10,000μg/mLに希釈し、試験溶液とした。この試験溶液を透明ガラス容器に密封して、0℃、25℃、40℃でそれぞれ3ヶ月間保存し、その外観を観察して、下に示す2段階で評価した。
○:安定性良好(いずれの温度においても外観の変化がない。)
×:安定性不良(いずれかの温度において澱(おり)、沈殿を生じるまたは分離する。もしくは変色が著しい。)
結果を表2に示す。なお、表2における有効分とは、乾燥残留物のことである。
【0025】
【表2】
【0026】
上記の安定性試験において、栗皮、葉、いがの各抽出物は、良好な安定性を示した。一方、アスコルビン酸では、澱が確認されたことから、安定性が低いことが分かる。
したがって、栗皮抽出物を有効成分として含有する本発明のコラーゲン産生促進剤は、従来のコラーゲン産生促進剤であるアスコルビン酸よりも、安定性に優れていることが分かる。
【0027】
(実施例2、3および比較例4、5、6:官能評価)
実施例1で得られた栗皮の抽出物、比較例1で得られた栗葉の抽出物、比較例2で得られた栗のいがの抽出物をそれぞれ用いて、表3に示す化粧水(皮膚外用剤)を調製し、下記4項目についてそれぞれの評価基準により評価と判定を行った。結果を表3に示す。
【0028】
〔評価項目および評価基準〕
(1)シワ改善
20名の女性(35才〜60才)をパネラーとし、皮膚外用剤を1日2回、4週間使用した後の肌の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:シワが明らかに少なくなったと感じた場合
1点:シワがやや少なくなったと感じた場合。
0点:シワ改善効果が見られないと感じた場合。
【0029】
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点が1人もいない(非常に優れたシワ改善効果を有する皮膚外用剤)
○:30点以上かつ0点が1人まで(優れたシワ改善効果を有する皮膚外用剤)
△:15点以上かつ0点が2人まで(わずかにシワ改善効果を有する皮膚外用剤)
×:15点未満または0点が3人以上(シワ改善効果を有しない皮膚外用剤)
【0030】
(2)肌の張り
20名の女性(35才〜60才)をパネラーとし、皮膚外用剤を1日2回、4週間使用した後の肌の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:肌の張りが明らかに出てきたと感じた場合。
1点:肌の張りがやや出てきたと感じた場合。
0点:肌に張りを与える効果が見られないと感じた場合。
【0031】
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点が1人もいない(肌に張りを与える効果が非常に優れた皮膚外用剤)
○:30点以上かつ0点が1人まで(肌に張りを与える効果が優れた皮膚外用剤)
△:15点以上かつ0点が2人まで(肌に張りを与える効果をわずかに有する皮膚外用剤)
×:15点未満または0点が3人以上(肌に張りを与える効果を有しない皮膚外用剤)
【0032】
(3)肌のキメ
20名の女性(35才〜60才)をパネラーとし、皮膚外用剤を1日2回、4週間使用した後の肌の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:肌のキメが明らかに整い、肌が明らかに若々しくなったと感じた場合。
1点:肌のキメがやや整い、肌がやや若々しくなったと感じた場合。
0点:肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果が見られないと感じた場合。
【0033】
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点が1人もいない(肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果が非常に優れた皮膚外用剤)
○:30点以上かつ0点を評価したパネラーが1人まで(肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果が優れた皮膚外用剤)
△:15点以上かつ0点を評価したパネラーが2人まで(肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果をわずかに有する皮膚外用剤)
×:15点未満または0点を評価したパネラーが3人以上(肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果を有しない皮膚外用剤)
【0034】
(4)化粧ノリ
20名の女性(35才〜60才)をパネラーとし、皮膚外用剤を1日2回、4週間使用した後の肌の状態について下記のように官能評価を行った。
2点:化粧のノリが良いと感じた場合。
1点:化粧のノリがやや良いと感じた場合。
0点:化粧のノリが良くないと感じた場合。
【0035】
さらに、20名の評価を加算し、合計点を下記の基準で判定した。
◎:35点以上かつ0点が1人もいない(化粧のノリが非常に良い皮膚化粧料)
○:30点以上かつ0点を評価したパネラーが1人まで(化粧のノリが良い皮膚化粧料)
△:15点以上かつ0点を評価したパネラーが2人まで(化粧のノリがやや良い皮膚化粧料)
×:15点未満または0点を評価したパネラーが3 人以上(化粧のノリがあまり良くない皮膚化粧料)
【0036】
【表3】
【0037】
実施例2および3の結果から、本発明のコラーゲン産生促進剤の有効成分である栗皮の抽出物を含有する化粧水が、シワ改善効果、肌に張りを与える効果、肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果、および化粧のノリを向上させる効果を有することが分かる。
また、栗葉の抽出物(比較例5)や栗のいがの抽出物(比較例6)を含有する化粧水に対して、実施例3の化粧水は、上記の効果がより優れることも分かる。
すなわち、本発明のコラーゲン産生促進剤を含有する皮膚外用剤(化粧水)は、シワ改善効果、肌に張りを与える効果、肌のキメを整えて若々しい肌に導く効果、および化粧のノリを向上させる効果に非常に優れることが分かる。