特許第6187188号(P6187188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187188
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電池シミュレータ
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20170821BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20170821BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H02J7/00 Q
   H02J7/00 302C
   H01M10/48 P
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-243516(P2013-243516)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-102434(P2015-102434A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507307651
【氏名又は名称】榊原 和征
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【弁理士】
【氏名又は名称】田下 明人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 和征
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真一
(72)【発明者】
【氏名】磯部 成久
【審査官】 名取 乾治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−48921(JP,A)
【文献】 特開平4−80677(JP,A)
【文献】 特開2010−153050(JP,A)
【文献】 特開平10−144355(JP,A)
【文献】 米国特許第5428560(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池駆動される機器の電源として用いられる実電池ユニットの電気特性を模擬する電池シミュレータであって、
前記実電池ユニットが有する複数個の実電池セルのうちの一部である少なくとも1個の実電池セルと共通する電気特性を有する少なくとも1個の基準電池セルと、
前記少なくとも1個の基準電池セルに蓄積される電気エネルギーとは別の電気エネルギーを用いて前記少なくとも1個の基準電池セルに対して電力の出力および/または入力を行なう第1模擬電源部と、
前記少なくとも1個の基準電池セルに蓄積される電気エネルギーとは別の電気エネルギーを用いて前記機器に対して電力の出力および/または入力を行なう第2模擬電源部と、
前記少なくとも1個の基準電池セルの電圧を検出し、その電圧検出値に基づいて前記第2模擬電源部を制御し、前記第2模擬電源部と前記機器との間に流れる電流を検出し、その電流検出値に基づいて前記第1模擬電源部を制御する制御部とを含み、
前記第2模擬電源部が前記機器へ電力を出力する場合には、前記第1模擬電源部は前記少なくとも1個の基準電池セルから電力を入力し、
一方、前記第2模擬電源部が前記機器から電力を入力する場合には、前記第1模擬電源部は前記少なくとも1個の基準電池セルへ電力を出力するように作動する電池シミュレータ。
【請求項2】
請求項1の電池シミュレータであって、
前記基準電池セルの電力は、前記第1模擬電源部のみに加わる。
【請求項3】
請求項1の電池シミュレータであって、
前記第1模擬電源部、及び、前記基準電池セルからの電力は、前記第2模擬電源部側に出力/入力されない。
【請求項4】
請求項2又は請求項3の電池シミュレータであって、
前記基準電池セルと、前記第2模擬電源部とは電力的に隔絶されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池駆動機器の電源として用いられる実電池ユニットを模擬する電池シミュレータに関するものであり、特に、その実電池ユニットが、電池セルが複数接続されて成る電池セル群を有する場合に好適な電池シミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池によって駆動される電池駆動機器として、ノートパソコンや電動工具、電気自動車などが既に存在する。
【0003】
二次電池で駆動する電気機器、すなわち、例えば、ノートパソコンや電動工具は、電池技術、特にリチウムイオン電池技術の進歩と共にその性能が飛躍的に向上した。近年、内燃機関を用いず、電動モータの電池駆動によって走行性能を実用レベルまで近づけた電気自動車が市場に投入され始めているが、これも、そのリチウムイオン電池技術の進歩の延長線上に他ならない。
【0004】
電気自動車を駆動する電池駆動システムは、主に、複数の電池セルが接続されて成る電池ユニットから供給される電力で動く電動モータと、それら電池ユニットと電動モータとの間に介在するインバータ等の制御回路(充電回路を含む)とによって構成される。電気自動車に求められる駆動性能を実現するための電気エネルギー量は、従来のノートパソコンや電動工具とは比較にならないほど多い。
【0005】
ノートパソコンや電動工具等のような電気機器に用いられる電池ユニットについては、例えば、小型リチウムイオン電池を機器1台あたり10セル程度用いた電池ユニットが市場に普及している。これに対し、電気自動車に用いられる電池ユニットについては、前記小型リチウムイオン電池の10倍以上の容量を有する大型リチウムイオン電池を用いた場合、自動車1台あたり少なくとも100セル程度の個数が必要になるか、または、前記小型リチウムイオン電池をそのまま用いた場合、少なくとも1000セル以上の個数が必要
になる。
【0006】
電気自動車の開発段階において、それの電池駆動システムの評価を行う際、前述のように、自動車1台あたりの電池ユニットに必要な電池セルが多数である上に、開発する電池ユニット、電動モータ、および、制御回路のそれぞれの仕様の組み合わせは複数に及ぶ。その上、それらの評価条件などが多岐に渡ると、開発段階で必要となる電池ユニットの数は増え、また、それに必要な電池セルの個数は膨大になる。
【0007】
さらに、それら多数の電池セルを実際に使用できるように、複数の電池セルを接続して各電池ユニットを製作し、さらに、各電池ユニットの状態を各種試験条件に合わせる負担も極めて大きい。
【0008】
このような開発負担を軽減することを目的とした従来の電池シミュレータが特許文献1
に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4634536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、特許文献1に開示されている技術によって、電池駆動機器の電源として用いられる実電池ユニットの電気特性を模擬する電池シミュレータであって、実電池ユニットの製作や評価にかかる作業負担およびコスト負担を低減させつつ、実電池ユニットの特性の再現性を高めることに成功した。
【0011】
しかしながら、電池駆動機器には、急峻に大電流が立ち上がったり電流が高速で脈動したりする電動モータを含む電動工具や、また、高速で放電電流のオン・オフを繰り返したり、高速で放電状態と充電状態とを選択的に切り替えることを繰り返す電池駆動システムを含む電気自動車などが存在する。
【0012】
実電池ユニットに流れる電流が前述のように高速で過渡的に変化すると、その実電池ユニットが出力する電圧もその電流に応じて高速で過渡的に変化する。例えば、放電電流が大きくなるほど実電池ユニットの電圧は実電池ユニットが有する実電池セルの特性に応じて降下し、充電電流が大きくなるほど実電池ユニットの電圧は実電池ユニットが有する実電池セルの特性に応じて上昇する。また、電流の変化する速度が速ければ、実電池ユニットの電圧も実電池ユニットが有する実電池セルの特性に応じた速度で変化する。すなわち、電池シミュレータはその実電池ユニットが高速で変化する過渡状態の再現性を高めることまで求められる。
【0013】
特許文献1では、電池駆動される機器の電源として用いられる実電池ユニットの電気特性を模擬する電池シミュレータであって、前記実電池ユニットが有する複数個の実電池セルのうちの一部である少なくとも1個の実電池セルと共通する電気特性を有する少なくとも1個の基準電池セルと、その少なくとも1個の基準電池セルに直列接続され、前記少なくとも1個の基準電池セルに蓄積される電気エネルギーとは別の電気エネルギーを用いて作動する第1模擬電源部と、前記少なくとも1個の基準電池セルの電圧を検出し、その電圧検出値に基づいて前記第1模擬電源部を制御する制御部とを含む電池シミュレータが開示されている。
【0014】
特許文献1に開示されている電池シミュレータでは、その基準電池セルと第1模擬電源部とが直列に接続されているため、制御部、第1模擬電源部、および、基準電圧セルの全てのグランドレベルを統一することができない。したがって、各々のグランドレベルを補正するためのグランドレベル補正回路が必要となるが、その場合、その回路に起因するノイズの増加、および、各部位の間で送受信される信号の応答性の低下が生じる。その結果、低速で変化する過渡状態の再現性は得られても、高速で変化する過渡状態の再現性は十分に満足できない。
【0015】
以上の事情を背景にして、本発明の目的は、実電池ユニットの製作や評価にかかる作業負担およびコスト負担を低減させつつ、実電池ユニットの特性と実質同等の電気特性を、高速で変化する過渡状態まで再現可能な電池シミュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
その課題を解決するために、本発明の一側面によれば、
電池駆動される機器の電源として用いられる実電池ユニットの電気特性を模擬する電池シミュレータであって、
前記実電池ユニットが有する複数個の実電池セルのうちの一部である少なくとも1個の実電池セルと共通する電気特性を有する少なくとも1個の基準電池セルと、
前記少なくとも1個の基準電池セルに蓄積される電気エネルギーとは別の電気エネルギーを用いて前記少なくとも1個の基準電池セルに対して電力の出力および/または入力を行なう第1模擬電源部と、
前記少なくとも1個の基準電池セルに蓄積される電気エネルギーとは別の電気エネルギーを用いて前記機器に対して電力の出力および/または入力を行なう第2模擬電源部と、
前記少なくとも1個の基準電池セルの電圧を検出し、その電圧検出値に基づいて前記第2模擬電源部を制御し、前記第2模擬電源部と前記機器との間に流れる電流を検出し、その電流検出値に基づいて前記第1模擬電源部を制御する制御部とを含み、
前記第2模擬電源部が前記機器へ電力を出力する場合には、前記第1模擬電源部は前記少なくとも1個の基準電池セルから電力を入力し、
一方、前記第2模擬電源部が前記機器から電力を入力する場合には、前記第1模擬電源部は前記少なくとも1個の基準電池セルへ電力を出力するように作動する電池シミュレータが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実電池ユニットの製作や評価にかかる作業負担およびコスト負担を低減させつつ、実電池ユニットの諸特性と実質同等の電気特性を低速の過渡変化から高速の過渡変化までを精度良く再現することができる。その結果、前述の電池駆動機器のうちの電池駆動システム(例えば、電動モータ等の負荷装置、充電装置、また、放電や充電を複合的に行うシステムなど)の評価精度を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に従う電池シミュレータを示す機能ブロック図である。
図2図1に示す電池シミュレータの作動原理を説明するための模式図である。
図3図1に示す電池シミュレータの制御の流れを概念的に表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のさらに具体的な実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に従う電池シミュレータ100を示す機能ブロック図である。電池シミュレータ100は、少なくとも1個の電池セルを用いて、任意個数の直列、並列に接続された電池セル群の特性をシミュレーションできるようにするものである。
【0021】
図1に示すように、電池シミュレータ100においては、1個の電池セル110(前項における「少なくとも1個の基準電池セル」の一例)と第1電源部101(前項における「第1模擬電源部」の一例)が接続され、また、第2電源部102(前項における「第2模擬電源部」の一例)と端子103が接続される。
【0022】
この端子103には、電池シミュレータ100によって模擬される実電池ユニット113(図2(b)に示すように、仕様を共通にする複数個の電池セルが直並列接続された電池セル群を含む)を電源とする電池駆動機器200が接続される。電池セル110は、実電池ユニット113における複数個の電池セルのうちの一つと同じであり、電圧V1を出力する。
【0023】
電池駆動機器200の一例は、電気自動車の一部であり、電動モータと、その電動モータを駆動・制御するインバータとが互いに共同して、前述の電池駆動システムを構成するものである。なお、本発明における電池駆動機器とは、前述の電池駆動システムに限らず、インバータ回路やコンバータ回路のような単独の回路、電池を充電する機能に特化した充電回路、また、電動モータや電球のような単独の負荷など、各々が単独で構成されて駆動するものから複合的に構成されて駆動するものまで広く包含する。
【0024】
電池セル110は、電池シミュレータ100に対して着脱可能であり、また、リチウムイオン電池に代表されるように、電圧の入出力が可能な二次電池を、種類の如何を問わず、広く包含する。電池セル110は、電圧V1を出力する。これに対し、第1電源部101および第2電源部102はいずれも、電池セル110に蓄えられた電気エネルギーを主電源として用いて作動するのではなく、その電気エネルギーとは別の電気エネルギーを出力する商用電源300(別の電池電源でも可)を主電源として用いて作動する。第2電源部102は、電圧Voutを出力する。
【0025】
第1電源部101は、外部からの電流指示信号(前項における「第2模擬電源部と機器との間に流れる電流を検出し、その電流検出値に基づいて第1模擬電源部を制御する」ための信号の一例)に応じた電流が流れる可変電源部として作用する。第1電源部101の電圧は、電池セル110の電圧と実質同等である。これに対し、第2電源部102は、外部からの電圧指示信号(前項における「少なくとも1個の基準電池セルの電圧を検出し、その電圧検出値に基づいて前記第2模擬電源部を制御する」ための信号の一例)に応じた電圧を出力する可変電源部として作用する。第2電源部102に流れる電流は、電池駆動機器200に流れる電流と実質同等である。
【0026】
第1電源部101と第2電源部102は、電流・電圧ともに両極性の印加が可能であり、電気エネルギーを吐き出す状態と、電気エネルギーを吸い込む状態とに選択的に切り換わる。具体的には、第2電源部102は、第2電源部102から電池駆動機器200に向かう方向へ電流を流す際には、商用電源300の交流電圧を入力し、その交流電圧を直流電圧に変換し、さらに、その直流電圧を調整し、電圧指示信号に応じた直流電圧となるように出力を行う。また、第2電源部102は、電池駆動機器200から第2電源部102に向かう方向へ電流を流す際には、電池駆動機器200から流れ込んだ電流を消費する負荷装置として作用し、その際の負荷電流に応じた電圧、すなわち、第2電源部102の電圧を電圧指示信号に応じた直流電圧となるように調整して消費を行なう。
【0027】
一方、第1電源部101は、電池セル110から第1電源部101に向かう方向へ電流を流す際には、電池セル110から流れ込んだ電流を消費する負荷装置として作用し、その際の負荷電流、すなわち、第1電源部101の電流を電流指示信号に応じた直流電流となるように調整して消費を行う。また、第1電源部101は、第1電源部101から電池セル110に向かう方向へ電流を流す際には、商用電源300の交流電圧を入力し、その交流電圧を直流電圧に変換し、さらに、直流電流を調整し、電流指示信号に応じた直流電流となるように出力を行う。
【0028】
第1電源部101と第2電源部102の一例は、バイポーラ電源装置である。バイポーラ電源装置の従来例が、特開平6−335176号公報および特開2009−142109号公報に開示されており、それらは、全体的に、引用によって本明細書に合体させられる。なお、バイポーラ電源装置を用いず、直流電流を消費する機能に特化した直流負荷装置と直流電流を出力する機能に特化した直流電源装置をそれぞれ組み合わせて構成しても良い。
【0029】
例えば、第1電源部101と第2電源部102それぞれを、バイポーラ電源装置を用いず直流負荷装置と直流電源装置を組み合わせてバイポーラ電源装置と実質同じ作用となるように構成しても良い。また例えば、電池駆動機器200が実電池ユニット113から電力を受給して駆動する負荷装置としての機能のみを果たす場合には、第1電源部101を直流負荷装置、および、第2電源部102を直流電源装置の機能に特化して構成しても良い。一方、電池駆動機器200が実電池ユニット113へ電力を供給する充電装置としての機能のみを果たす場合には、第1電源部101を直流電源装置、および、第2電源部102を直流負荷装置の機能に特化しても良い。
【0030】
制御部104は、電池セル110の電圧を検知するための電圧信号が入力される電圧検知部105と、端子103を介して流れる電流を検知するための電流信号が入力される電流検知部106と、第1電源部101へ所定の出力電流値を指示するための電流指示信号を出力する第1出力指示部107と、第2電源部102へ所定の出力電圧値を指示するための電圧指示信号を出力する第2出力指示部108とを有する。
【0031】
なお、本実施形態においては、第1電源部101につき、電流が直接的に制御されるが、同じ目標電流を実現するように電圧を直接的に制御し、それにより、電流を間接的に制御してもよい。
【0032】
この制御部104は、電圧検知部105に入力された電圧信号に基づいて電池セル110の電圧を検知し、さらに、電流検知部106に入力された電流信号に基づき、端子103に流れる電流、すなわち、第2電源部102と電池駆動機器200との間に流れる電流を検知し、それらの検知結果に基づき、電流指示信号および電圧指示信号を生成する。
【0033】
さらに、制御部104は、それら生成された電流指示信号および電圧指示信号をそれぞれ第1電源部101および第2電源部102に出力することによって、それら第1電源部101および第2電源部102を用いて所定の制御を行い、その結果、端子103から模擬電圧Voutを電池駆動機器200に出力する。このことは、後に図2および図3を参照して詳述する。
電池シミュレータ100において、電池セル110の電力は、第1電源部101のみに加わる。第1電源部101、及び、電池セル110からの電力は、第2電源部102側に出力/入力されない。即ち、電池セル110と第2電源部102とは電力的に隔絶されている。
【0034】
特許文献1に開示される従来技術においては、電池駆動機器に対して電力の入出力を行なうための模擬電源部は実電池ユニットが有する少なくとも1個の実電池セルと直列に接続され、また、実電池ユニットが有する少なくとも1個の実電池セルに対して電力の入出力を行なうための模擬電源部はその実電池セルと並列に接続されている。
【0035】
したがって、当該従来技術においては、電池駆動機器に対して電力の入出力を行なうための模擬電源部が直流電源装置として作用する際には、実電池ユニットが有する少なくとも1個の実電池セルに対して電力の入出力を行なうための模擬電源部も同じく直流電源装置として作用し、また、電池駆動機器に対して電力の入出力を行なうための模擬電源部が直流負荷装置として作用する際には、実電池ユニットが有する少なくとも1個の実電池セルに対して電力の入出力を行なうための模擬電源部も同じく直流負荷装置として作用する。すなわち、双方の模擬電源部に流れる電源側から見た電流の方向(電気エネルギーを吐き出す方向または電気エネルギーを吸い込む方向)は、常に同じ方向になるように作動する。
【0036】
これに対し、本実施形態においては、電池駆動機器200に対して電力の入出力を行なうための第2電源部102に流れる電源側から見た電流の方向(電気エネルギーを吐き出す方向または電気エネルギーを吸い込む方向)と、実電池ユニット113が有する少なくとも1個の電池セル110に対して電力の入出力を行なうための第1電源部101に流れる電源側から見た電流の方向(電気エネルギーを吐き出す方向または電気エネルギーを吸い込む方向)とは、常に逆の方向に作動するように構成する。
【0037】
すなわち、電池駆動機器200に対して第2電源部102が直流電源装置として作用する際には、第1電源部101は直流負荷装置として作用し、また、第2電源部102が直流負荷装置として作用する際には、第1電源部101は直流電源装置として作用するように構成される。これによって、制御部104、第1電源部101、第2電源部102、および、電池セル110の全てのグランドレベルを統一することができる。すなわち、従来技術では必要であった前述のグランドレベル補正回路を削除できる。
【0038】
グランドレベル補正回路を削除できると、制御部104と各部位との間で送受信される信号がグランドレベル補正回路を介することなく伝達されるため、制御部104と各部位との間の応答速度を向上できる。また、グランドレベル補正回路によって生じるノイズを解消できることも応答速度の向上につながる。従来技術においては、電圧や電流を検知するための信号にグランドレベル補正回路に起因するノイズが重畳し、そのノイズが大きいと電池シミュレータとしての再現性が低下するため、それを抑制するためのフィルター回路が必要であったが、そのフィルター回路が信号の応答性を鈍らせる一因にもなっていた。したがって、本実施形態では、そのフィルター回路の削除も可能となり、併せて応答速度を向上でき、実電池ユニットが高速で変化する過渡状態を実現できる。
【0039】
制御部104にはデータ入力部109が接続されており、そのデータ入力部109は、制御部104が第1電源部101および第2電源部102を制御するために必要なデータを制御部104に入力する。
【0040】
ここに、「入力するデータ」は、例えば、次のデータを含む。
(1)電池シミュレータ100に接続される電池セル110における電池セルの直列数(本実施形態においては、「1」である)を表すデータ。
(2)模擬電圧Voutが出力される実電池ユニット113が有する電池セル110の直列数(本実施形態においては、図2(b)に示すように、「100」である)を表すデータ。
(3)互いに隣接する電池セルを電気的に接続するためのリード板111の個数および諸特性(本実施形態においては、図2(b)に示すように、個数は「99」、スポット溶接による接続抵抗やリード板の導電率に伴う抵抗値を総合的に示したものは「R」(後述)である)を表すデータ。
(4)模擬電圧Voutが出力される実電池ユニット113が有する電池セル110の並列数(本実施形態においては、図2(b)に示すように、「3」(100個の電池セルが直列接続されて成る電池セル群の並列数に相当))を表すデータ。
【0041】
これら「入力するデータ」は、電池シミュレータ100から電池駆動機器200へ入出力される模擬電圧、および、電池シミュレータ100に接続される電池セル110に流れる電流が、再現対象とする実電池ユニット113のそれらと実質同じになるように調整して入力すると良い。このことは、後に図2および図3を参照して詳述する。
【0042】
それらデータの入力方法は、電池シミュレータ100が収容されるケースと一体化された操作パネルを用いてユーザが入力する方法、電池シミュレータ100の外部に接続された情報機器、例えば、コンピュータよりユーザが入力する方法などがあるが、それらに限定されない。また、入力されたデータの記憶は、制御部104または前記情報機器のいずれで行っても良い。また、データ入力部109と同じ機能を制御部104において実現することにより、データ入力部109を省略しても良い。
【0043】
第1出力指示部107から第1電源部101、および、第2出力指示部108から第2電源部102への指示方法については、制御部104、第1電源部101、および、第2電源部102との間で、同じ信号についてのそれぞれの意味が互いに関連付けられる限り、その信号の送受信の方式が、有線方式であるか無線方式であるかを問わず、さらに、信号の種類は、アナログ信号であるかデジタル信号であるかを問わない。
【0044】
図1に示す第1電源部101、第2電源部102、および、電池セル110の結線方法は、あくまでも一例である。本明細書の全体を通じて「少なくとも1個の基準電池セルの電圧を検出し、その電圧検出値に基づいて制御する電圧」とは、上述の代表例に示される結線方法によって電圧を増減する状態を包含するように広く解釈することを意図し、「模擬電源部と機器との間に流れる電流を検出し、その電流検出値に基づいて制御する電流」とは、上述の代表例に示される結線方法によって電流を分配または増減する状態を包含するように広く解釈することを意図している。
【0045】
図2は、電池シミュレータ100の作動原理を説明するための模式図である。図2(a)は、電池シミュレータ100に接続される実際の1個の電池セル110が電圧V1を出力する状態を示しているのに対し、図2(b)は、実電池ユニット113の電圧に相当する模擬電圧Voutが端子103から出力される状態を示している。
【0046】
実電池ユニット113は、図2(b)に示すように、実際の100個の電池セルと互いに隣接する電池セルを接続するためのリード板111(合計99個)とが直列接続されて電池セル群112を成し、その電池セル群112を3個並列接続したものに相当する。
【0047】
したがって、電池シミュレータ100によれば、実電池ユニット113、すなわち、実際の合計300個の電池セル110および合計297個のリード板111で構成される実際の電池セル群を用いることなく、実際の1個の電池セル110のみを用いて、実電池ユニット113の特性を再現することが可能となる。その挙動の再現方法については、後に図3を参照して詳述する。
【0048】
図2においては、一例として、電池セル110が直列接続されて成る電池セル群がさらに並列接続される方法を提示しているが、その電池セルの直並列接続の組合せは、電池セル110が並列接続されて成る電池セル群をさらに直列接続する方法など様々である。
【0049】
ここで、図3のフローチャートを参照することにより、本実施形態に従う電池シミュレータ100の制御の流れを詳細に説明する。この制御は、制御部104内においてプロセッサ(図示しない)がメモリ(図示しない)を利用しつつ所定のプログラムを実行することによって行われる。
【0050】
まず、ステップS101において、電池シミュレータ100の制御部104が、電圧検知部105を介して電池セル110の電圧(直列電圧)V1を検知する。
【0051】
次に、ステップS102において、制御部104が、電流検知部106を介して、第2電源部102と電池駆動機器200との間を流れる電流Iを検知する。すなわち、電流Iは、端子103に流れる電流と同じである。
【0052】
続いて、ステップS103において、制御部104は、第2電源部102が出力すべき電圧Voutを
Vout=V1×100+99×R×I/3
として算出する。「V1×100」とは、100個の電池セル110が直列接続された合計電圧を示す。「99×R」とは、互いに隣接する電池セル110の間に介在するリード板111の抵抗値Rが99個直列接続された合計抵抗値を示す。また、「I/3」とは、100個の電池セル110が直列接続されて成る電池セル群が3個並列接続されていることから、実電池ユニット113と電池駆動機器200との間に流れる電流Iに対して、第1電源部101に実際に接続される電池セル110と第1電源部101との間に流れる電流がI/3になることを示す。それぞれの係数は、予めデータ入力部109に入力されている。
【0053】
ここで、電流Iが正である場合は、電池駆動機器200から端子103を介して第2電源部102に向かう方向に電流が流れている状態、すなわち、実電池ユニット113が電池駆動機器200によって充電されている状態に相当し、その実電池ユニット113が有する電池セル110が充電されている状態を示す。一方、電流Iが負である場合は、第2電源部102から端子103を介して電池駆動機器200に向かう方向に電流が流れている状態、すなわち、実電池ユニット113が電池駆動機器200に対して放電している状態に相当し、その実電池ユニット113が有する電池セル110が放電している状態を示す。
【0054】
したがって、電流Iが正である場合、すなわち、実電池ユニット113に向かって充電電流が流れている場合には、電池セル110が電流I/3で充電された時の化学反応等に伴う電池セル電圧の変化に加えて、リード板111の抵抗値Rに電流I/3を乗じた値に相当する電圧上昇が発生する。また、電流Iが負である場合、すなわち、実電池ユニット113から放電電流が流れている場合には、電池セル110が電流I/3で放電された時の化学反応等に伴う電池セル電圧の変化に加えて、リード板111の抵抗値Rに電流I/3を乗じた値に相当する電圧降下が発生する。
【0055】
ステップS104において、制御部104は、第2出力指示部108を介して第2電源部102へ、ステップS103で算出された電圧Voutに相当する電圧を出力することを指示する電圧指示信号を出力する。その結果、第2電源部102は電圧Voutを出力する。これによって、電池シミュレータ100は、実電池ユニット113の内部で、前述の電池セル110における化学反応等に伴う電池セル電圧の変化やリード板111の抵抗値Rに伴う電圧の変化がそれぞれ相応の個数分の変化となって現れる状態を模擬出力できる。
【0056】
本実施形態においては、説明の便宜上、電池シミュレータ100に接続する実際の電池セル110の個数を1個とした上で、その電池セル110が100直列および3並列に接続された状態を模擬して電池シミュレータ100が出力する例が採用されているが、実際に電池シミュレータ100に接続する電池セルの並列数および直列数と模擬出力される実電池ユニット113に内蔵される電池セルの並列数および直列数の組み合わせは様々である。
【0057】
一例として、8個の電池セルが2並列および4直列に接続されて成る電池セル群が第1電源部101に接続され、再現対象とする実電池ユニットに収容される電池セルが4並列および100直列に相当する場合、電圧V1は、前記4個の電池セルが直列接続された電池セル群の電圧として検知され、さらに、100個の電池セルが直列に接続された状態を模擬して第2電源部102が出力する。この例においては、第2電源部102が出力すべき電圧Voutは、V1×25に相当する値として算出され、(ここではリード板の抵抗値の計算は省略する)また、第1電源部101が出力すべき電流I1は、I/2に相当する値として算出される。
【0058】
また、ステップS103における電圧Voutの計算では、電池シミュレータ100が再現対象とする実電池ユニット113が有する電池セルの直列接続数や並列接続数、通電経路に介在するリード板の個数や特性に限らず、さらには、通電経路に介在するFET等の通電遮断素子の個数や特性(例えば、ドレイン・ソース間オン抵抗や寄生ダイオードの順電圧)など、それら構成部品の内容や結線方法などに応じて適宜計算することができる。また、この電圧Voutの計算においては、実電池ユニットが有する諸特性に整合するような実数倍や指数倍などの数式を近似的に適用しても良い。
【0059】
また図示しないが、実電池ユニット113が過放電防止機能や過充電防止機能を有する保護回路をその内部に収容し、それら機能が作用することを模擬的に再現するため、V1が所定値未満(過放電状態に相当)またはV1が所定値以上(過充電状態に相当)となった状態を検出した場合には、第2電源部102を停止、または、制御部104から警告信号を外部へ送信する機能を設けても良い。またさらには、実電池ユニット113が低温使用防止機能および高温使用防止機能を有する保護回路をその内部に収容し、それら機能が作用することを模擬的に再現するため、電池セル110の温度を検出する温度検出部を設け、検出された電池セル110の温度が所定範囲外となった状態を検出した場合には、第2電源部102の出力を停止、または、制御部104から警告信号を外部へ送信する機能を設けても良い。これによって、前述の実際の保護回路を含む実電池ユニットの製作や評価にかかる作業負担およびコスト負担を低減できる。
【0060】
続いて、ステップS105において、制御部104は、第1電源部101が出力すべき電流I1を
I1=I/3
として算出し、ステップS106において、制御部104が、第1出力指示部107を介して第1電源部101へステップS105で算出された電流I1に相当する電流を出力することを指示する電流指示信号を出力する。その結果、第1電源部101が電流I1を出力し、ステップS101へ帰還する。
【0061】
なお、電流Iが正である場合、すなわち、電池駆動機器200から端子103を介して第2電源部102に向かう方向に電流が流れている場合、第2電源部102は、電池駆動機器200から流れ込む電流Iを消費する直流負荷装置として作用し、第1電源部101は、電池セル110を電流I1(I/3に相当)で充電するための直流電源装置として作用する。一方、電流Iが負である場合、すなわち、第2電源部102から端子103を介して電池駆動機器200に向かう方向に電流が流れている場合、第2電源部102は、電池駆動機器200へ電力を供給するために電流Iを放電する直流電源装置として作用し、第1電源部101は、電池セル110から放電される電流I1(I/3に相当)を消費する直流負荷装置として作用する。
【0062】
本実施形態においては、実電池ユニット内に100個の電池セルが直列接続されて成る電池セル群がさらに3並列に接続される構成を例示しているが、例えば、実電池ユニット内に100個の電池セルが直列接続されて成る電池セル群のみ内蔵される場合には、前述のI1はI1=Iとして算出される。また例えば、電流I1の計算においては、実電池ユニットが有する諸特性に整合するような実数倍や指数倍などの数式を近似的に適用しても良い。
【0063】
また図示しないが、実電池ユニット113が過負荷防止機能または過電流防止機能を有する保護回路をその内部に収容し、それら機能が作用することを模擬的に再現するため、IまたはI1が所定値以上になった状態を検出し、第2電源部102を停止、または、制御部104から警告信号を外部へ送信する機能を設けても良い。またさらには、電池駆動機器200が駆動していない無負荷状態において、実電池ユニット113が実際に内部に有する制御回路等の微小な待機電力によって実電池ユニット113に有する電池セル110の残容量が少しずつ減少していく状態を再現するため、第2電源部102の出力が停止状態、すなわち、I=0であっても単純にI1を0と計算せず、I1=I/3+I2というように前述の待機電力に相当する電流値I2を加算して第1電源部101を制御する機能を設けても良い。これによって、前述の実際の回路を含む実電池ユニットの製作や評価にかかる作業負担およびコスト負担を低減できる。
【0064】
端子103から出力された模擬電圧Voutは、例えば、電池シミュレータ100に接続された電気自動車の電池駆動機器200に入力され、その電池駆動機器200は、電池シミュレータ100から入力したVoutに基づき、電動モータの駆動制御を行う。電動モータには、その回転数やトルクなどに応じた負荷電流Iが必要となり、電池シミュレータ100から電池駆動機器200へその負荷電流Iが流れる。また、その電気自動車が制動中は電動モータの発電に伴う回生電流、すなわち、電気駆動機器200から電池シミュレータ100へ充電電流I(回生電流)が流れる。
【0065】
電池シミュレータ100に実際に接続された電池セル110にはI/3が実際に流れ、電池セル110の電圧V1は、そのI/3の電流に応じた電圧変化が生じる。帰還したステップS101ではその電圧V1の変化が検知され、ステップS102以降の処理により、模擬電圧Voutも変化する。その結果、電池シミュレータ100は、図2(b)に示すように、実際の電池セル110を1個だけ用いて、電池セル110が100直列および3並列に接続された実電池ユニット113の充放電中の電圧変化と同等の変化を再現できる。また、電池駆動機器200の電流Iの変化が高速で変化する場合にも模擬電圧Voutの変化を高速で応答し再現することができる。
【0066】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、実電池ユニットや、その実電池ユニットに接続されて駆動する電池駆動機器の仕様の変更や増加、評価条件の変更や増加に関わらず、評価対象である実電池ユニットが有する少なくとも1個の電池セルを用意するだけで良いため、実電池ユニットの製作や評価にかかる作業負担およびコスト負担を低減できる。またさらに、充放電特性やサイクル寿命特性など幅広い評価用途において、実電池ユニットの特性と実質同等の電気特性を低速の過渡変化から高速の過渡変化まで精度良く再現し得る電池シミュレータを実現できる。
【0067】
以上、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の概要]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
100:電池シミュレータ
101:第1電源部
102:第2電源部
103:端子
104:制御部
105:電圧検知部
106:電流検知部
107:第1出力指示部
108:第2出力指示部
109:データ入力部
110:電池セル
111:リード板
112:電池セル群
113:実電池ユニット
200:電池駆動機器
300:商用電源
図1
図2
図3