(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被検物質を含む溶液が注入された分析用チップが、前記凹部の底面が水平又は略水平となるよう設置されて水平又は略水平の方向に旋回回転させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶液の攪拌方法。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶液の攪拌方法により分析用チップに固定化された選択結合性物質に被検物質を結合させ、選択結合性物質に結合した該被検物質を検出する、被検物質の分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、分析用チップとは、被検物質が含まれる溶液(以下「被検物質溶液」ということもある。)を当該チップに注入し、被検物質の存在の有無や、被検物質の量、被検物質の性状等を測定するために用いるチップを指す。具体的には、担体表面に固定化された選択結合性物質と被検物質との反応により、被検物質の量や有無を測定する、バイオチップが挙げられる。より具体的には、核酸を担体表面に固定化したDNAチップ、抗体に代表されるタンパク質を担体表面に固定化したタンパク質チップ、糖鎖を担体表面に固定化した糖鎖チップ、及び細胞を担体表面に固定化した細胞チップ等が挙げられる。
【0021】
本発明で用いられる分析用チップには、被検物質を含む溶液が注入される凹部が形成されている。凹部は、壁面及び底面から構成される空間を形成しており、凹部の底面の表面の全て又は一部に選択結合性物質が固定化される。
【0022】
以下に、本発明で用いられる分析用チップの例を、
図1〜6を用いて説明する。
【0023】
図1には、平板の基板1(例えば、スライドガラス)、貫通孔を有する板材2から構成される分析用チップが例示されている。基板1と貫通孔を有する板材2とが接合されて、凹部の壁面3及び凹部の壁面4とで構成される凹部6(又は凹部の空間)が形成されている。(a)は凹部6が1個の場合、(b)は凹部6を複数個有する場合の一例であり、(c)は各凹部の断面を示している。選択結合性物質は、基板1の表面(上面)の一部に固定化されているが、その固定化表面は、基板1と板材2とが接合されることにより、凹部6の底面3の一部において選択結合性物質の固定化表面5となる。
【0024】
図1に例示するような選択結合性物質が固定化される平板の基板と、凹部を形成するための貫通孔を有する板材とから構成される分析用チップにおいて、当該平板基板及び板材の材質は特に限定されず、例えば、ガラス、セラミック、シリコンなどの無機材料、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーンゴム等の高分子材料を好適に用いることができる。平板基板と板材との接合方法は特に限定されず、接着剤を用いて実質上着脱できない状態で接着されてもよいし、両面テープや樹脂組成物等の接着層を介して着脱可能な状態で接着されてもよい。また、分析用チップ1枚あたりの凹部の数は分析の目的に合わせて設定することができ、1個でも複数個でもよい。
【0025】
図2及び
図3には、
図1に例示する貫通孔を有する板材を用いず、例えば射出成形により、基板1に凹部6を形成した分析用チップを例示している。基板1に形成された凹部6は底面3及び壁面4とで構成される空間を有しており、凹部の底面3の一部が選択結合性物質の固定化表面5となっている。(a)は凹部が1個の場合、(b)は凹部を複数個有する場合の一例であり、(c)は凹部の断面の一例を示している。分析用チップ1枚あたりの凹部の数は、分析目的に合わせて任意の数を選択することができる。
【0026】
図2及び
図3に例示する分析用チップにおいて、基板の材質は、上記
図1に例示する分析用チップにおける基板と同様のものを用いることができる。
【0027】
本発明の溶液の攪拌方法において用いられる分析用チップの凹部の深さは特に限定されないが、0.1〜10mmが好ましく、0.5〜5mmがより好ましい。
図2は凹部6の深さが浅いタイプ、
図3は凹部6の深さが深いタイプの分析用チップの例である。
【0028】
被検物質溶液が注入された分析用チップを旋回回転させる際、
図3のような凹部が深い分析用チップを用いる場合は、分析用チップにカバーをせずにそのまま旋回回転させることも可能である。一方、
図2のような凹部が浅い分析用チップを用いる場合は、凹部の全体を覆うカバーが装着されて被検物質溶液が凹部に密閉されることが好ましい。分析用チップを旋回回転させる条件(遠心加速度、回転数、回転半径)にあわせて、例えば、凹部の深さが5mm以下の場合は、カバーを装着することが好ましい。
【0029】
図4に例示する分析用チップは、凹部6の全体を覆うカバー7が分析用チップに装着されて被検物質溶液が凹部6に密閉される分析用チップの例である。具体的には、
図2又は
図3に示す分析用チップに平板状のカバー7が装着されたものである。(a)は凹部が1個の場合、(b)は凹部を複数個有する場合の一例であり、(c)は凹部の断面を示している。この例では、カバー7には、被検物質溶液を凹部に注入するための注入孔8が備えられている。
【0030】
カバーとしては、樹脂製、ゴム製、ガラス製等の平板や粘着性テープ等のシール材料を用いることができる。カバーに被検物質溶液を凹部に注入するための注入孔を設けることにより、被検物質溶液を凹部に注入した後でカバーを装着することができる。この場合、注入孔は複数個あることが好ましく、例えば凹部当たり2〜4個設けることができる。一方、被検物質溶液の注入後にカバーを装着する場合は、カバーに注入孔を設けても設けなくてもよく、例えば粘着性テープで開放部を塞いで密閉する方法、開放部の形状に合わせたOリングを固定した板材を密着させて密閉する方法、粘土様の物質で開放部に蓋をして密閉する方法などを好適に用いることができる。
【0031】
ハイブリダイゼーション反応の際、被検物質溶液の蒸発を防いだり、反応温度を厳密に一定に保ったりする必要がある場合、分析用チップの凹部の空間を密閉することが好ましく、その場合は分析用チップにカバーを装着して用いることが好ましい。
【0032】
本発明の溶液の攪拌方法において用いられる分析用チップの凹部の底面の形状は、分析用チップを旋回回転させるときに、被検物質溶液で満たされていない凹部に残された空間(又は気泡)が移動しやすい形状であることが好ましい。例えば、
図5に示すように、凹部の底面の形状が六角形(a)、四角形(b)、楕円形(c)である分析用チップを用いることが、凹部に残された空間(又は気泡)9が移動しやすくなるため好ましい。また、凹部の底面の形状が多角形の場合に角がR加工されていること(例えば、
図5の(b))も、被検溶液で満たされていない凹部に残された空間(又は気泡)が移動しやすくなるため好ましい。
【0033】
図6は、カバーを装着した分析用チップに被検物質を含む溶液を注入した際の一態様を示す、分析用チップ凹部付近の断面図である。分析用チップの凹部の空間6に被検物質を含む溶液を注入し、溶液で満たされていない空間(又は気泡)9を形成させ、カバー7を装着した状態を示す。
図6の状態で分析用チップを旋回回転することで被検物質溶液を攪拌し、ハイブリダイゼーション反応を行うことができる。
【0034】
本発明における選択結合性物質とは、被検物質と直接的又は間接的に、選択的に結合し得る各種の物質を意味する。担体の表面に結合しうる選択結合性物質の代表的な例としては、核酸、蛋白質、ペプチド、糖類、脂質を挙げることができる。
【0035】
核酸としては、DNAやRNAが挙げられ、PNA、LNAでも良い。DNAとしては、染色体DNA、ウイルスDNA、細菌、カビ等のDNA、RNAを逆転写したcDNA、それらの一部である断片などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、RNAとしては、メッセンジャーRNA、リボソームRNA、small RNA、micro RNAやそれらの一部である断片などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、化学的に合成されたDNA又はRNA等も含まれる。特定の塩基配列を有する一本鎖核酸は、該塩基配列又はその一部と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸と選択的にハイブリダイズして結合するので、本発明でいう選択結合性物質に該当する。核酸は、生細胞等天然物由来のものであっても良いし、核酸合成装置により合成されたものであっても良い。生細胞からのDNA又はRNAの調製は、公知の方法、例えばDNAの抽出については、Blinらの方法(Blin et al.,Nucleic Acids Res.3:2303(1976))等により、また、RNAの抽出については、Favaloroらの方法(Favaloro et al.,Methods Enzymol.65:718(1980))等により行うことができる。固定化される核酸としては、鎖状若しくは環状のプラスミドDNAや染色体DNA、これらを制限酵素により若しくは化学的に切断したDNA断片、試験管内で酵素等により合成されたDNA、又は化学合成したオリゴヌクレオチド等を用いることもできる。
【0036】
蛋白質としては、抗体及びFabフラグメントやF(ab´)2フラグメントのような、抗体の抗原結合性断片、並びに種々の抗原を挙げることができる。抗体やその抗原結合性断片は、対応する抗原と選択的に結合し、抗原は対応する抗体と選択的に結合するので、「選択結合性物質」に該当する。
【0037】
糖類としては、各種単糖、オリゴ糖、多糖などの糖鎖を挙げることができる。
【0038】
脂質としては、単純脂質の他、複合脂質であっても良い。
【0039】
更に、上記核酸、蛋白質、糖類、脂質以外の抗原性を有する物質を固定化することもできる。また、選択結合性物質として、担体の表面に細胞を固定化してもよい。
【0040】
これらの選択結合性物質のうち特に好ましいものとして、DNA、RNA、蛋白質、ペプチド、糖、糖鎖、脂質を挙げることができる。
【0041】
本発明で用いられる被検物質としては、測定すべき核酸(標的核酸)、例えば、病原菌やウイルス等の遺伝子や、遺伝病の原因遺伝子等並びにその一部分、抗原性を有する各種生体成分、病原菌やウイルス等に対する抗体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の溶液の攪拌方法では、これらの被検物質を含む溶液として、血液、血清、血漿、尿、便、髄液、唾液、各種組織液等の体液や、各種飲食物並びにそれらの希釈物等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。ここで、被検物質を含む溶液の粘度は、遠心加速度を与えて分析チップを旋回回転させるときに、被検物質溶液で満たされていない分析チップの凹部の空間が移動可能であれば特に限定されない。
【0043】
被検物質となる核酸は、血液や細胞から常法により抽出した核酸を標識してもよいし、該核酸を鋳型とし、PCR等の核酸増幅法によって増幅したものであってもよい。後者の場合には、本発明の攪拌方法を行った後の測定感度を大幅に向上させることが可能である。核酸増幅産物を被検物質とする場合には、蛍光物質等で標識したヌクレオシド三リン酸の存在下で増幅を行うことにより、増幅核酸を標識することが可能である。また、被検物質が抗原又は抗体の場合には、被検物質である抗原や抗体を常法により直接標識してもよいし、被検物質である抗原又は抗体を選択結合性物質と結合させた後、担体を洗浄し、該抗原又は抗体と抗原抗体反応する標識した抗体又は抗原を反応させ、担体に結合した標識を測定することもできる。また、増幅されていない核酸を被検物質とする場合は、例えばアルカリホスファターゼにより核酸の5’末端のリン酸基を除去して蛍光物質を標識した被検物質を選択結合性物質と反応させ、結合した標識を測定する方法や、選択結合性物質(捕捉プローブ)により被検物質を捕捉した後、被検物質に蛍光物質等で標識した検出プローブを結合させ、検出プローブの標識を測定する方法(サンドイッチハイブリダイゼーション法)が好適に用いられる。
【0044】
本発明の溶液の攪拌方法においては、上述のような標識、増幅等を施した被検物質を水溶液や適当な緩衝液等に溶解させて被検物質を含む溶液(被検物質溶液)とする。
【0045】
本発明の溶液の攪拌方法では、分析用チップの凹部の空間への被検物質溶液の注入は、凹部の空間の一部を残すように行われ、凹部には被検物質溶液で満たされていない空間が形成される。被検物質溶液で凹部の空間を完全に満たさずに被検物質溶液で満たされていない空間を形成することで、分析用チップの旋回回転によって凹部内で空間が移動し、被検物質溶液を攪拌することができる。分析用チップが旋回回転されるとき、凹部に形成された空間は、凹部内で単一の空間として存在してもよいし、複数の空間に分かれて、すなわち複数の気泡となって存在してもよい。
【0046】
凹部の空間に占める、被検物質溶液で満たされていない空間の割合は、下限が好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、上限が好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。被検物質溶液で満たされていない空間の割合の範囲は、10%以上90%以下が好ましく、15%以上80%以下がより好ましい。さらに好ましくは、20%以上70%以下である。この空間の割合が5%より少ないと、分析用チップの旋回回転の際、凹部の空間における被検物質溶液の移動が不十分となり、実質上被検物質溶液が攪拌されないおそれがあり、また90%より多いと、選択結合性物質が固定化された領域に被検物質を含む溶液が接触する機会が減少して反応の進行低下につながる。また、
図3のような凹部が深い分析用チップを、カバーを装着せずに旋回回転させる場合は、被検物質溶液で満たされていない空間の割合は、例えば30%以上90%以下が好ましく、40%以上80%以下がより好ましい。
【0047】
本発明の溶液の攪拌方法では、被検物質を含む溶液が注入された分析用チップを旋回回転させることで溶液の撹拌を行う。ここで、旋回回転とは、分析用チップ自体が円運動又は楕円運動により回転軸の周囲を回転することを意味する。詳細には、本発明の旋回回転は、分析用チップ上の任意のいずれの点においても、各固有の回転中心を有する同じ半径の円運動がなされるように行う回転様式のことを指す。
図7に、本発明の旋回回転の一例を示す。分析用チップ10上の任意の点A、Bについて、点Aは、OAを中心とした半径rの円軌道上を所定回転数で回転し、点Bも同様に、OBを中心とした半径rの円軌道上を所定回転数で回転する。このとき、分析用チップ10上の任意の点A、Bを結ぶ直線ABは、円運動の任意の軌道において常に平行となる。例えば、
図7において、分析用チップ10が位置P1、位置P2、位置P3、位置P4のいずれに位置する場合でも、直線ABは平行となる。一方、公転回転や自公転回転といった、公転を含む回転様式の場合は、
図8に示すとおり、公転の中心Oから分析用チップ10上の任意の点A、点Bまでの距離(r
a、r
b)がそれぞれ異なる。すなわち、公転を含む回転様式は、分析用チップ上の位置によって円運動の回転半径が異なる回転様式である。
【0048】
分析用チップを旋回回転させる際、分析用チップは、その選択結合性物質が固定化された面が回転面に平行又は略平行になるように設置されることが好ましい。
【0049】
被検物質を含む溶液が注入される凹部を複数有する分析用チップを用いる場合、旋回回転させることにより、各凹部内の溶液を同じ条件で撹拌できることから、各凹部における選択結合性物質と被検物質との反応を同条件で行うことができ、凹部間の反応ばらつきを低減できるため好ましい。一方、分析用チップを公転させながら自身を回転させる自公転方式や、回転中心が分析用チップの外側にある公転方式によって攪拌する場合は、複数の凹部がそれぞれ異なる条件で撹拌されることになり、凹部間の反応ばらつきが発生するおそれがある。
【0050】
分析用チップを旋回回転させる際の回転面の方向は特に限定されず、例えば水平又は略水平方向、水平方向から15度傾いた方向、水平方向から30度傾いた方向、水平方向から45度傾いた方向、水平方向から60度傾いた方向、水平方向から75度傾いた方向、鉛直又は略垂直方向などを用いることができる。好ましい回転面の方向は、水平又は略水平方向である。ここで、略水平方向とは、分析用チップの選択的結合物質が固定化された面に向かって水平に近い方向を意味し、例えば水平面を基準として0度から3度の範囲で傾いた方向が好ましい。また、略垂直方向とは、分析用チップの選択結合性物質が固定化された面に向かって垂直に近い方向を意味し、例えば垂直面を基準として0度から3度の範囲で傾いた方向が好ましい。
【0051】
本発明において、分析用チップの旋回回転は、回転数を一定としても、回転数を変化させてもよく、また旋回回転中に一定時間停止させるなど間歇的に行ってもよい。また、回転方向は特に限定されず、時計回りでも反時計回りでもよく、その組み合わせでもよい。
【0052】
反応時に旋回回転させる時間は、特に限定されず、選択結合性物質と被検物質とが反応するのに十分な範囲で適宜決定することができる。例えば、被検物質が核酸である場合は、選択結合性物質であるプローブ核酸とのハイブリダイゼーション反応に要する時間にあわせて設定することができる。本発明の溶液の攪拌方法では、旋回回転時に1×g以上の遠心加速度を与えることで、被検物質と選択結合性物質との選択的反応を効果的に促進し、被検物質を短時間で検出又は定量することが可能となる特徴を有する。この特徴を活かして、特に検査・診断用途で分析用チップを用いる場合等、迅速な検出又は定量を求められる場合には、旋回回転させる時間は短時間であることが好ましい。例えば、核酸のハイブリダイゼーションの場合、反応時間が3時間以上4時間以内あることが好ましく、2時間以内であることがより好ましく、1時間以内であることがさらに好ましく、0.5時間以内であることが特に好ましい。
【0053】
一般に、遠心加速度とは、回転運動をする系において、物体に加わる遠心力の大きさを加速度の形で表したものであり、回転の中心からの距離の絶対値及び回転運動の角速度の二乗に比例する。本発明における遠心加速度は、遠心力、すなわち相対遠心加速度(Ralative Centrifuge Force;RCF)を指し、以下の式1で算出される。
【0054】
RCF=1118×R×N
2×10
−8 ・・・(式1)
RCF:相対遠心加速度(×g)
R:回転半径(cm)
N:回転数(rpm)。
【0055】
本発明の溶液の攪拌方法では、分析用チップを旋回回転させるときに1×g以上の遠心加速度を与える。遠心加速度の下限は、好ましくは5×g以上、より好ましくは10×g以上である。遠心加速度の上限は特に限定されないが、好ましくは50×g以下、より好ましくは40×g以下であり、さらに好ましくは30×g以下である。遠心加速度の範囲は、好ましくは1×g以上50×g以下であり、より好ましくは5×g以上40×g以下であり、さらに好ましくは10×g以上30×g以下である。
【0056】
本発明の溶液の攪拌方法では、分析用チップを旋回回転させる際の回転数と回転半径を適宜設定することで、目的とする遠心加速度を与えることができる。従って、分析用チップを攪拌させる撹拌装置の仕様にあわせて回転数と回転半径を選択して行うことができる。例えば、回転半径が小さい場合は、回転速度を大きくすることで、大きな遠心加速度を付与できる。
【0057】
回転半径は、回転数との組合せで所望の遠心加速度が得られる値を適宜選択することができる。回転半径の下限は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上である。また、回転半径の上限は、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。回転半径の範囲としては、好ましくは0.1〜20mm、より好ましくは0.2〜10mm、さらに好ましくは0.3〜5mmである。回転半径が20mmより大きくなると、遠心力が支配的になり、被検物質溶液で満たされていない空間が凹部の外周に押し付けられる傾向があり、撹拌効率の低下や、凹部内での攪拌ムラが生じることがある。一方、回転半径が0.1mmより小さいと、回転方向に働く力が支配的になり、被検物質溶液で満たされていない空間が凹部の中心部に留まる傾向があり、撹拌効率の低下や、攪拌ムラが生じることがある。
【0058】
また、旋回回転の回転数は、回転半径との組合せで所望の遠心加速度が得られる値を適宜選択することができるが、好ましくは500rpm以上10000rpm以下、より好ましくは750rpm以上8000rpm以下である。回転半径が小さい方が、反応装置や攪拌装置を小型化でき、本発明の溶液の攪拌方法を具現化する装置をコンパクトに作製できることから、好ましい。
【0059】
また、分析用チップにカバーを装着せずに旋回回転させる場合は、注入された被検物質溶液がこぼれないようにするため、回転半径の小さい攪拌装置が好適に使用される。例えば、回転半径が0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.2mm以上4mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上3mm以下であることが一層好ましい。
【0060】
本発明において使用する分析用チップを攪拌させる撹拌装置は、旋回回転の回転数と回転半径との組合せで1×g以上の遠心加速度を与えることができるものであれば特に限定されない。市販品では、プレートシェーカーを好適に用いることができ、例えば「BioShake5000 elm」、「BioShake 3000−T elm」、「BioShake 3000 elm」(以上、Q Instruments社製)、「モノシェーク」、「テレシェーク」、「テレシェーク1536」(以上、Thermo Scientific製)、「MS3 ベーシック」、「MS3 デジタル」、「VXR basic Vibrax」(登録商標)、「VORTEX 3」(以上、IKA社製)、「マイクロプレートシェーカーN−704」(日伸理化製)、「プレートシェーカーKM−M01」(カジックス製)、「プレートミキサーP−10」(十慈フィールド製)等が挙げられる。自動化装置に組み入れる場合、外部から旋回回転の回転数や駆動時間などを制御できる装置であることが好ましい。
【0061】
本発明において、凹部内側の空間に撹拌子を添加してもよい。撹拌子としては、微粒子(ビーズ)、マイクロロッド等が挙げられ、特に微粒子が好ましい。微粒子やマイクロロッドの形状は、分析用チップの凹部内で移動可能であって被検物質を含む溶液を攪拌することが可能であれば特に限定されない。微粒子の場合、球状以外に、多角形でも良く、またマイクロロッドの場合、円筒形、角柱形など任意の形状とすることができるが、球状のものが好ましい。また、微粒子のサイズも特に限定されないが、例えば球状の微粒子の場合、直径0.1μm以上1000μm以下の範囲とすることができ、撹拌効率を鑑みると、直径50μm以上500μm以下の範囲がより好ましい。マイクロロッドの場合、好ましくは長さ50μm以上5000μm以下、底面直径10μm以上300μm以下の範囲とすることができる。微粒子やマイクロロッドは、撹拌効率などの面から、1種類を選択して用いることもできる他、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
前記微粒子やマイクロロッドの材質も、特に限定されないが、ガラス、セラミック(例えばイットリウム部分安定化ジルコニア)、金属(例えば金、白金、ステンレス)、プラスチック(例えばナイロンやポリスチレン)等を用いることができる。
【0063】
本発明で用いる分析用チップは、凹部に、その上部表面に選択結合性物質を固定化するための凸部を有していてもよい。このような構造を有する分析用チップを被検物質の分析に用いることにより、シグナル検出の際、選択結合性物質が固定化された凸部上面にスキャナーの焦点を合わせることで、検出ノイズを大幅に低減でき、S/N比を高めることができる。また、本発明で用いる分析用チップは、自家蛍光を低減できる材料により製造されていることが好ましく、例えば選択結合性物質が固定化される凸部には少なくともその一部が黒色であることが好ましい。
【0064】
本発明において、シグナルの検出の感度を示す指標としてS/N比(シグナル対ノイズ比)を用いることができる。この場合、S/N=2を検出限界として感度を判断することが好ましい。一般に、S/N比が2〜3となる被検物質濃度又は量が検出限界として採用されており、S/Nが2以上であれば検出限界以上の信頼性のある検出がされたものと判断することができる。(例えば、丹羽誠著、「これならわかる 化学のための統計手法−正しいデータの扱い方−」、2008年、化学同人編、101頁)
本発明の溶液の攪拌方法は、分析用チップに固定化された選択結合性物質と被検物質との選択的反応の進行を従来より促進させることができるため、被検物質を短時間で検出又は定量することを可能とする。例えば、核酸のハイブリダイゼーションにおいて、従来6〜20時間の反応時間を要していた反応時間を、大幅に短縮することができる。従って、例えば、数多くの検体を迅速に分析することが求められる検査・診断領域において分析用チップを用いて分析を行う場合、本発明の溶液の攪拌方法を適用することが好ましい。例えば、インフルエンザ等の感染症や、敗血症の検査・診断に好ましく用いることができる。また、検査センターにおいて莫大な数の検体を処理する場合も、迅速に分析を行うことができるので、コストを削減の点から本発明の適用が好ましい。
【実施例】
【0065】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
参考例1
(1)分析用チップの基板の作製
公知の方法であるLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスを用いて、射出成形用の型を作製し、射出成形法により、後述するような形状を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)製の基板を得た。用いたPMMAの平均分子量は5万であり、PMMA中には1重量%の割合で、カーボンブラック(三菱化学製 #3050B)を含有させて、基板を黒色にした。この黒色基板の分光反射率と分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、基板からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
【0066】
基板としては、外形が縦76mm、横26mm、厚さ1mmであり、基板に縦6.48mm、横6.90mm、深さ0.12mmの凹部を設け、この凹部の中に、直径0.1mm、高さ0.12mmの凸部を576箇所設けた基板(以下「基板A」とする。)を用いた。この基板Aにおいて、凸部上面と平坦部上面との高さの差は、3μm以下であった。また、凸部上面の高さのばらつきは、3μm以下であった。また、凸部のピッチを0.18mmとした。
【0067】
上記基板Aを10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、基板表面にカルボキシル基を生成させた。
【0068】
(2)選択結合性物質の固定化
基板Aに対し、以下の条件で、それぞれ選択結合性物質(プローブDNA)としてオリゴヌクレオチドを固定化した。4種の遺伝子a〜dに対応するオリゴヌクレオチドとして、配列番号1〜4の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチド(オペロン社製DNAマイクロアレイ用オリゴヌクレオチドセット「Homosapiens(Human) AROS V4.0(各60塩基)」)を用いた。この各オリゴヌクレオチドを、純水に0.3nmol/μLの濃度となるよう溶解させて、ストック溶液とした。このストック溶液を基板にスポット(点着)する際は、PBS(8gのNaCl、2.9gのNa
2HPO
4・12H
2O、0.2gのKCl、及び0.2gのKH
2PO
4を合わせて純水に溶かし、1Lにメスアップしたものに、塩酸を加えてpH5.5に調整したもの)で10倍希釈して、プローブDNAの終濃度を0.03nmol/μLとし、かつ、PMMA製基板表面に生成させたカルボキシル基とプローブDNAの末端アミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mLとした。この溶液をアレイヤー(スポッター)(日本レーザー電子製;「Gene Stamp−II」)を用いて、基板Aの凸部上面に遺伝子aに対応する配列番号1の塩基配列で示されるプローブをN=4でスポットしたもの(以下、「分析用チップ1」とする。)、遺伝子b〜dに対応する配列番号2〜4の塩基配列で示されるプローブをそれぞれN=2でスポットしたもの(以下、「分析用チップ2」とする。)を用意した。次いで、スポットした各基板を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートした。最後に純水で基板を洗浄し、スピンドライヤーで遠心して乾燥した。
【0069】
(3)分析用チップ基板へのカバー部材の貼付
選択結合性物質を固定化した上記分析用チップ1、分析用チップ2に対し、次のようにカバー部材を貼付した。カバー部材は、PMMA平板を切削加工により作製した。作製した該カバー部材には、貫通孔及び液面駐止用チャンバーを設けた。そして接着部材として両面テープを用い、カバー部材を縁取るように、かつ厚さ50μmで積層させて貼り付けたのち、当該カバー部材を分析用チップ1、分析用チップ2に貼付した。
【0070】
(4)被検物質の調製
被検物質は、マイクロアレイの被検物質として一般的である、aRNA(antisense RNA)を用いて調製した。市販のヒト培養細胞由来total RNA(CLONTECH社製「Human Reference RNA」)5μgから、Ambion社製aRNA調製キット「MessageAmp II aRNA Amplification Kit」を使用して調製したaRNAを、Cy5(GE Healthcare社)で蛍光標識して、Cy5標識aRNAを得た。
【0071】
(5)選択結合性物質と被検物質とのハイブリダイゼーションのための反応液
以下の実施例、比較例で特に断りのない限り、上記で調製した標識aRNAを、1重量%BSA、5×SSC、0.01重量%サケ精子DNA、0.1重量%SDSを含むハイブリダイゼーション溶液(各濃度はいずれも終濃度)で希釈したものを用いた。
【0072】
実施例1
参考例1に記載のCy5標識aRNA100ngを含む溶液にハイブリダイゼーション溶液を混合して25μLとして、被検物質溶液を調製した。被検物質溶液を分析用チップ1に10μL注入した。凹部内の被検物質溶液で満たされていない空間の容積は約3μLであり、凹部内に占める被検物質溶液で満たされていない空間の割合は約23%であった。以上の分析用チップ1を6セット用意した。各分析チップの注入口をシールして凹部を密閉した状態にして、37℃に温調されたオーブンに設置した攪拌装置「BioShake 5000」(Q Instruments社;最大回転数5000rpm、回転半径0.6mm)にセットし、各分析用チップについて5000rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌して反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約17.7×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置(東レ株式会社;「3D−Gene(登録商標) Scanner」)を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hで閾値(ブランクスポットの平均+2SD)以上のシグナルが検出され、反応が早く進行したことが示された。
【0073】
実施例2
実施例1と同様にして被検物質溶液を分析用チップ1(6セット)に注入した。37℃に温調されたオーブンに設置した攪拌装置「BioShake 5000」にセットし、3000rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌し、反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約6.04×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hで閾値以上のシグナルが検出され、反応が早く進行したことが示された。
【0074】
実施例3
実施例1と同様にして被検物質溶液を分析用チップ1(6セット)に注入した。37℃に温調されたオーブンに設置した攪拌装置「MS3デジタル」(IKA社;最大回転数3000rpm、回転半径2.25mm)にセットし、3000rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌し、反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約22.6×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hで閾値以上のシグナルが検出され、反応が早く進行したことが示された。
【0075】
実施例4
実施例1と同様にして被検物質溶液を分析用チップ1(6セット)に注入した。37℃に温調されたオーブンに設置した攪拌装置「MS3デジタル」にセットし、1000rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌し、反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約2.52×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hで閾値以上のシグナルが検出され、反応が早く進行したことが示された。
【0076】
比較例1
実施例1と同様にして被検物質溶液を分析用チップ1(6セット)に注入した。37℃に温調されたオーブン内に設置した、攪拌装置「BioShake 5000」にセットし、1000rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌し、反応させた。このとき、分析用チップに与えられた遠心加速度は、約0.671×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hでは、閾値以上のシグナルが検出されなかった。閾値以上のシグナルが検出されたのは、反応開始後1h以降であった。
【0077】
比較例2
実施例1と同様にして被検物質溶液を分析用チップ1(6セット)に注入した。37℃に温調されたオーブン内に設置した、攪拌装置「BioShake 5000」にセットし、250rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌し、反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約0.042×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hでは、閾値以上のシグナルが検出されなかった。閾値以上のシグナルが検出されたのは、反応開始後1h以降であった。
【0078】
比較例3
実施例1と同様にして被検物質溶液を分析用チップ1(6セット)に注入した。37℃に温調されたオーブン内に設置した、攪拌装置「MS3デジタル」にセットし、250rpmでそれぞれ0.5h、1h、2h、4h、8h、16h攪拌し、反応させた。このとき、分析用チップに与えられた遠心加速度は、約0.157×gであった。各分析用チップについて、ハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を
図9、
図10、表1に示す。反応開始後0.5hでは、閾値以上のシグナルが検出されなかった。閾値以上のシグナルが検出されたのは、反応開始後1h以降であった。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例5
参考例1に記載のCy5標識aRNA60ngを含む溶液にハイブリダイゼーション溶液を混合して10μLとして、分析用チップ2(2セット)に6.7μL注入した。注入されたCy5標識aRNAの量は40ngであり、実施例1〜4と同量であった。凹部内の被検物質溶液で満たされていない空間の容量は約6.3μLであり、凹部全体に占める被検物質溶液で満たされていない空間の割合は約48%であった。実施例1と同様にして、攪拌装置「BioShake 5000」にセットし、それぞれ5000rpmで1時間反応させた。各分析用チップについて、3種類の遺伝子b〜dに対してハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を表2に示す。1時間の反応時間で、全ての遺伝子のシグナル強度が閾値以上となり有効であった。
【0081】
実施例6
参考例1に記載のCy5標識aRNA60ngを含む溶液にハイブリダイゼーション溶液を混合して15μLとして、分析用チップ2(2セット)に10μL注入した。注入されたCy5標識aRNAの量は40ngであり、実施例1〜4と同量であった。凹部内の被検物質溶液で満たされていない空間の容量は約6.3μLであり、凹部全体に占める被検物質溶液で満たされていない空間の割合は約23%であった。実施例1と同様にして、攪拌装置「BioShake 5000」にセットし、それぞれ5000rpmで1時間反応させた。各分析用チップについて、3種類の遺伝子b〜dに対してハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を表2に示す。1時間の反応時間で、全ての遺伝子のシグナル強度が閾値以上となり有効であった。
【0082】
比較例4
参考例1に記載のCy5標識aRNA60ngを含む溶液にハイブリダイゼーション溶液を混合して20μLとし、分析用チップ2(2セット)に13μL注入して凹部を満たした(凹部全体に占める被検物質溶液で満たされていない空間の割合は0%)。実施例1と同様にして、攪拌装置「BioShake 5000」にセットし、それぞれ5000rpmで1時間反応させた。各分析用チップについて、3種類の遺伝子b〜dに対してハイブリダイズした標識aRNAのシグナル強度を高解像度蛍光検出装置を用いて測定した。その結果を表2に示す。1時間の反応時間で、遺伝子bのシグナル強度は閾値以上となり有効であったものの、実施例5、6よりシグナル強度が弱かった。また、遺伝子c、dのシグナル強度は閾値より低く、無効であった。
【0083】
【表2】
【0084】
参考例2
(1)分析用チップの基板の作製
参考例1と同様の材質で、外形が縦76mm、横26mm、厚さ2.5mmの基板を射出成形で作製した。基板には長辺4.8mm、短辺2.40mm、深さ1.5mmの楕円形の凹部を4箇所設け、各凹部の中に、直径0.1mm、高さ0.12mmの凸部を98箇所設けた基板(以下「基板B」とする。)を用いた。基板Bにおいて、凹部の容積は約13.5μLであった。また、凸部上面と平坦部上面との高さの差、凸部上面の高さのばらつきはともに3μm以下であった。また、凸部のピッチを0.18mmとした。
【0085】
(2)選択結合性物質(捕捉プローブ)の固定化
参考例1と同様の作製方法により、選択結合性物質(捕捉プローブ)として、ヒトパピローマウイルスの型判別の研究で報告された文献(J.Clin.Microbiol,1995.p.901−905)に記載された、配列番号5の塩基配列(被検物質となる16型ヒトパピローマウイルスのL1遺伝子領域の配列の一部と相補的な配列)で示されるオリゴヌクレオチドの5’末端にアミノ基を修飾したものを合成し、基板Bの98箇所の凸部のうちの22箇所にスポットして固定化することで、分析用チップを得た(以下、「分析用チップ3」とする。)。
【0086】
(3)被検物質の調製
被検物質として、ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入したヒトパピローマウイルスのゲノムDNAがクローニングされた組み換えプラスミド(pHPV16(全長16,600塩基対))を、超音波により断片化処理した。1×ハイブリダイゼーション溶液(1重量%ウシ血清アルブミン(BSA)、5×SSC、1重量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、50ng/mLサケ精子DNA溶液、5重量%デキストラン硫酸ナトリウム、30%ホルムアミド)で核酸濃度が0.1amol/μLとなるように希釈し、検体DNA溶液とした。
【0087】
(4)検出プローブ溶液の調製
サンドイッチハイブリダイゼーションに使用する検出プローブとして、MY11(配列番号6;被検物質が捕捉プローブと結合した場合の5´末端の塩基位置を基準として、5´末端側50〜69番目の塩基配列に対する相補的な配列)、GP5(配列番号7;MY11と同様に、5´末端側10〜34番目の塩基配列に対する相補的な配列)、GP6(配列番号8;被検物質が捕捉プローブと結合した場合の3´末端の塩基位置を基準として、3´末端側60〜82番目の塩基配列に対する相補的な配列)、及びMY09(配列番号9;GP6と同様に、3´末端側340〜359番目の塩基配列に対する相補的な配列)の、3’末端及び5’末端にビオチン標識したものをそれぞれ合成した。これらを濃度が100fmolとなるよう滅菌水で希釈し、各検出プローブ溶液を得た。
【0088】
実施例7
参考例2に記載の検体DNA溶液1μLに、参考例2に記載の検出プローブ溶液1μLを加えて混和し、サーマルサイクラーで95℃、5分間加熱した。室温に戻るまで静置後、参考例2に記載の1×ハイブリダイゼーション溶液を8μL加えて混和し、被検物質を含むハイブリダイゼーション溶液とした。全量を分析用チップ3の凹部の1箇所に注入し、開口部をアクリル系粘着剤が塗布されたPET製フィルムでシールした。このとき、凹部内の溶液で満たされていない空間の容積は約3.5μLであり、凹部内に占める溶液で満たされていない空間の割合は約26%であった。サンドイッチハイブリダイゼーション法により、被検物質の検出を行った。32℃に温調されたオーブンに設置した攪拌装置「BioShake 5000」(Q Instruments社)にセットし、3000rpmで2h攪拌し、捕捉プローブと被検物質をハイブリダイゼーション反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約6.04×gであった。反応後、開口部を塞いだシールを剥がし、30℃に加温した洗浄液A(0.5×SSC、1重量%SDS)で5分間洗浄した。乾燥後、染色試薬(ストレプトアビジンフィコエリスリン)を希釈液(100mM MES、1M NaCl、0.05重量%Tween20、2mg/mL BSA)と混合して調製した、50ng/μLストレプトアビジンフィコエリスリン溶液を、凹部に10μL滴下し、35℃で5分間遮光下でインキュベートした。30℃に加温した洗浄液B(6×SSPE、0.01重量%Tween20)で5分間洗浄し、乾燥させた。シグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置(東レ株式会社;「3D−Gene(登録商標) Scanner」)を用いて測定した。選択結合性物質が固定化された凸部(シグナル)及び固定化されていない凸部(ノイズ)の数値をそれぞれ読み取り、シグナル/ノイズ比(S/N比)を算出した結果を表3に示す。S/N=2.80であり、検出限界とするS/N=2を超えていた。
【0089】
実施例8
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を5000rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は16.77×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=2.53であり、検出限界とするS/N=2を超えていた。
【0090】
比較例5
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を1000rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.67×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.56であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0091】
実施例9
撹拌装置として「Mix−EVR」(タイテック社;最大回転数2500rpm、回転半径1mm)を用い、ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を2000rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は4.47×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=2.24であり、検出限界するS/N=2を超えていた。
【0092】
実施例10
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を2500rpmとした以外は、実施例9と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は6.99×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=2.76であり、検出限界とするS/N=2を超えていた。
【0093】
比較例6
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を500rpmとした以外は、実施例9と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.28×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.48であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0094】
実施例11
撹拌装置に「MS3デジタル」(IKA社)を用い、ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を2000rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は10.06×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=3.25であり、一検出限界とするS/N=2を超えていた。
【0095】
実施例12
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を3000rpmとした以外は、実施例10と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は22.64×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=2.72であり、検出限界とするS/N=2を超えていた。
【0096】
比較例7
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を500rpmとした以外は、実施例11と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.63×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.61であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0097】
実施例13
製作した撹拌装置(最大回転数1000rpm、回転半径5mm)を用い、ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を1000rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は5.59×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=2.39であり、検出限界とするS/N=2を超えていた。
【0098】
比較例8
ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を250rpmとした以外は、実施例13と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.35×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.49であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0099】
比較例9
撹拌装置に「マルチシェーカーMMS−210」(東京理化器械社;最大回転数250rpm、回転半径12.5mm)を用い、ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を250rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.87×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.56であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0100】
比較例10
製作した撹拌装置(最大回転数1000rpm、回転半径24mm)を用い、ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を100rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.27×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.39であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0101】
比較例11
製作した撹拌装置(最大回転数1000rpm、回転半径72mm)を用い、ハイブリダイゼーション反応時の撹拌装置の回転数を100rpmとした以外は、実施例7と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は0.80×gであった。S/N比を算出した結果を表3に示す。S/N=1.57であり、検出限界とするS/N=2に満たなかった。
【0102】
【表3】
【0103】
実施例14
参考例2に記載の検体DNA溶液4μLに、参考例2に記載の検出プローブ溶液4μLを加えて混和し、サーマルサイクラーで95℃、5分間加熱した。室温に戻るまで静置後、参考例2に記載の1×ハイブリダイゼーション溶液を32μL加えて混和し、被検物質を含むハイブリダイゼーション溶液とした。分析用チップ3の凹部4箇所(凹部No.#1〜#4)に、それぞれ10μL注入し、開口部をアクリル系粘着剤が塗布されたPET製フィルムでシールした。このとき、凹部内の溶液で満たされていない空間の容積は約3.5μLであり、凹部内に占める溶液で満たされていない空間の割合は約26%であった。サンドイッチハイブリ法により、被検物質の検出を行った。32℃に温調されたオーブンに設置した攪拌装置「MS3デジタル」(IKA社)にセットし、2000rpmで2h攪拌し、捕捉プローブと被検物質をハイブリダイゼーション反応させた。このとき、各分析用チップに与えられた遠心加速度は、約10.1×gであった。反応後、開口部を塞いだシールを剥がし、30℃に加温した洗浄液A(0.5×SSC、1重量%SDS)で5分間洗浄した。乾燥後、染色試薬(ストレプトアビジンフィコエリスリン)を希釈液(100mM MES、1M NaCl、0.05重量%Tween20、2mg/mL BSA)と混合して調製した、50ng/μLストレプトアビジンフィコエリスリン溶液を、凹部に10μL滴下し、35℃で5分間遮光下でインキュベートした。30℃に加温した洗浄液B(6×SSPE、0.01重量%Tween20)で5分間洗浄し、乾燥させた。シグナル強度(蛍光強度)を高解像度蛍光検出装置(東レ株式会社;「3D−Gene(登録商標) Scanner」)を用いて測定した。選択結合性物質が固定化された凸部(シグナル)及び固定化されていない凸部(ノイズ)の数値をそれぞれ読み取り、4箇所の凹部(凹部No.#1〜#4)のシグナル/ノイズ比(S/N比)を算出した結果を表4に示す。それぞれS/N=2.9、2.7、2.8.2.8であり、すべての凹部で検出限界とするS/N=2を超えていた。また、各凹部内における22個の凸部スポットのシグナルのCV値がすべて10%を切る低い値であり、凹部内のシグナルのばらつきも小さかった。さらに、4箇所の凹部全体のシグナル(88個)のCV値も7.5%と低く、凹部間のばらつきも小さいことが示された。
【0104】
比較例12
製作した自公転方式の撹拌装置(公転半径72mm)を用い、公転回転数を350rpmとした以外は、実施例14と同様の操作を行った。このとき、遠心加速度は9.9×gであった。4箇所の凹部(凹部No.#1〜#4)のS/N比を算出した結果を表4に示す。それぞれS/N=1.8、1.9、1.7、1.5であり、すべての凹部で検出限界とするS/N=2に満たなかった。また、各凹部内における22個の凸部スポットのシグナルのCV値は10%前後でばらつきがあり、さらに、4箇所の凹部全体のシグナル(88個)のCV値が15.3%と高く、凹部間のばらつきが大きいことが示された。
【0105】
【表4】