(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パーフルオロアルキレンエーテル構造を主鎖に有するフッ素樹脂が架橋重合された構造を有し、測定周波数10Hzでの動的粘弾性測定における、動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度での貯蔵弾性率E’が10MPa以上1000MPa以下である表面保護膜。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の表面保護膜の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
本実施形態に係る表面保護膜は、パーフルオロアルキレンエーテル構造を主鎖に有するフッ素樹脂が架橋重合された構造を有し、測定周波数10Hzでの動的粘弾性測定における、動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度での貯蔵弾性率E’が10MPa以上1000MPa以下である。
尚、以下においては、動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度での貯蔵弾性率E’を「貯蔵弾性率E’
40」と表記する。
【0029】
近年、様々な分野で、保護膜として微小な傷が時間とともに修復される自己修復材料が注目されている。例えば自己修復材料は、スマートフォンや携帯電話、ポータブルゲームなど携帯端末におけるボディや画面、車のボディや窓ガラス、パソコンの筐体、眼鏡のレンズ、CD,DVD,BD等の光ディスクの記録面、太陽光電池パネルや太陽光を反射させるパネル、画像形成装置における定着部材、中間転写部材、記録媒体搬送部材等に用いられる画像形成装置用の無端ベルトやロール、床、鏡、窓ガラスなどにおける保護膜として実用化されている。尚、これらの用途における保護膜に対しては、指すべり性や防塵性などの観点から、傷の修復性に加えて更に表面の滑り性(離型性)が求められることがある。しかし、傷の修復性と表面滑り性(離型性)とを両立した自己修復材料は、実現することが容易ではなかった。
【0030】
これに対し、本実施形態に係る表面保護膜は、パーフルオロアルキレンエーテル構造を主鎖に有するフッ素樹脂が架橋重合されてなり、且つ前記貯蔵弾性率E’
40が10MPa以上1000MPa以下に制御されている。この構成を備えることにより、傷の修復性と表面滑り性(離型性)との両立が達成された。
【0031】
ここで、樹脂における架橋密度は後述する通り貯蔵弾性率E’から算出される値であり、つまり動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率E’は樹脂における架橋密度の指標となる物性である。
離型性に優れるパーフルオロアルキレンエーテルは、更に柔軟性に優れるとの特性も有しており、一般的には潤滑剤等のオイルとして用いられるものである。この柔軟性に優れたパーフルオロアルキレンエーテル構造を有する主鎖の末端を架橋重合によって固定した構造とすることで、フッ素樹脂において自己修復性が発現されるものと考えられ、且つ架橋密度の指標でもある貯蔵弾性率E’
40を上記範囲に制御することで良好な傷の修復性が発揮されるものと考えられる。
【0032】
−貯蔵弾性率E’
40−
尚、動的粘弾性測定とは、表面保護膜に対して微小な変形を周期的に与えることで膜の粘度および弾性を測定する評価法であり、分子の網目状態等を評価し得る方法として知られる測定法である。動的粘弾性測定により貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”、損失正接tanδが求めるられ、特に損失正接tanδ曲線のピークは動的粘弾性測定における動的ガラス転移温度Tgとして定義される。尚、これらは測定周波数により変化するものであるため、本明細書では10Hzで測定したものと規定する。
上記動的粘弾性測定は、測定装置としてエー・アンド・デイ社製の動的粘弾性測定装置DDV−01FP−Wを用い、長さ40mm、幅4mm、厚み0.5mmの短冊状の表面保護膜サンプルを、引張モード、チャック間距離30mm、昇温速度3℃/min、周波数10Hzの条件で設定温度25℃から250℃まで測定して貯蔵弾性率E’の温度変化を調べ、動的ガラス転移温度Tg(即ち損失正接tanδ曲線のピーク)よりも40K高い温度での貯蔵弾性率E’
40を検出する。
【0033】
尚、算出する貯蔵弾性率E’の温度条件として、動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度を採用したのは、以下の理由による。一般的に架橋性の樹脂の貯蔵弾性率E’は、温度に対して、
図5に示すごとくある温度域で平行域Hを有する。そして、貯蔵弾性率曲線の最大勾配を得る部分の接線と前記平行域Hを延長した線との交点Xでの温度、およびその温度での貯蔵弾性率を用いることで、ゴム状弾性理論から架橋密度を算出し得ることが知られている。但し、樹脂によって前述の平行域Hが、ある特定の温度以上で貯蔵弾性率が一定となるようなきれいな直線として現れない場合があり、その場合、前記交点Xの温度およびその温度での貯蔵弾性率から架橋密度を算出することが困難となる。
一方で、貯蔵弾性率曲線の最大勾配を得る部分の接線と平行域Hを延長した線との交点Xの温度は、動的ガラス転移温度Tg(即ち損失正接tanδ曲線のピーク)よりも40K高い温度と概ね等しいという傾向がある。そして、動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度およびその温度での貯蔵弾性率E’
40から算出される架橋密度も、架橋性樹脂における架橋の状態を表す指標として、好適に用いられる。
以上の理由から本明細書では、算出する貯蔵弾性率E’の温度条件として動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度を採用している。
【0034】
本実施形態に係る表面保護膜は、貯蔵弾性率E’
40が10MPa以上1000MPa以下である。貯蔵弾性率E’
40が上記下限値未満であると、自己修復性が発現されないため優れた傷の修復性が得られず、また優れた表面滑り性も得られない。一方貯蔵弾性率E’
40が上記上限値を超えると、自己修復が困難となる破壊傷が生じやすくなる。
【0035】
尚、貯蔵弾性率E’
40は、更に10MPa以上800MPa以下であることがより好ましく、20MPa以上500MPa以下であることが更に好ましい。
【0036】
表面保護膜における貯蔵弾性率E’
40は、架橋性基の量を調整することで制御し得る。より具体的には、フッ素樹脂の数平均分子量、フッ素樹脂の主鎖の末端を変性する場合における官能性の架橋基の官能基数、架橋剤を添加する場合における架橋剤の官能基数等を調整する方法が挙げられる。
【0037】
−架橋密度−
本実施形態に係る表面保護膜は、下記式(A)から算出される架橋密度nが0.01mol/cm
3以上であることが好ましい。
式(A) n=E’(T)/3RT
(式(A)中、E’(T)は前記貯蔵弾性率E’
40(単位:dyne/cm
2)を、Rは気体定数を、Tは動的ガラス転移温度Tgよりも40K高い温度(単位:K)を、それぞれ表す。)
【0038】
ここで、前記式(A)中においてRで表される気体定数の値は、10
7dyne・cm/K・mol(=8.31J/K・mol)である。この気体定数を用いて架橋密度n(mol/cm
3)を求めるため、式(A)中のE’(T)に代入される前記貯蔵弾性率E’
40の単位は「dyne/cm
2」として計算される。尚、1Pa=9.8dyne/cm
2として算出する。
【0039】
架橋密度nが上記範囲であることにより、優れた自己修復性が発現され、傷の修復性により優れ、また表面滑り性においてもより優れる。
尚、上記架橋密度nは、更に0.02mol/cm
3以上であることがより好ましく、0.1mol/cm
3以上であることが更に好ましい。また、上限値としては特に限定されるものではないが、10mol/cm
3以下であることが好ましく、1mol/cm
3以下であることがより好ましい。
【0040】
表面保護膜における架橋密度nは、架橋性基の量を調整することで制御し得る。より具体的には、フッ素樹脂の数平均分子量、フッ素樹脂の主鎖の末端を変性する場合における官能性の架橋基の官能基数、架橋剤を添加する場合における架橋剤の官能基数等を調整する方法が挙げられる。
【0041】
−自己修復性−
ここで自己修復性とは、応力によってできた歪を応力の除荷時に復元する性質を指す。
尚、自己修復性の指標として、本実施形態に係る表面保護膜においては下記測定方法によって求められる「戻り率(温度100℃での測定値)」が80%以上であることが好ましい。更には、該戻り率が90%以上がより好ましく、100%に近いほど好ましい。
【0042】
・戻り率の測定
測定装置としてフィッシャースコープHM2000(フィッシャー社製)を用い、ポリイミドフィルムに塗布し重合して形成したサンプルの表面保護膜を、スライドガラスに接着剤で固定し、上記測定装置にセットする。サンプル表面保護膜に温度100℃で0.5mNまで15秒間かけて荷重をかけていき0.5mNで5秒間保持する。その際の最大変位を(h1)とする。その後、15秒かけて0.005mNまで除荷していき、0.005mNで1分間保持したときの変位を(h2)として、戻り率〔(h1−h2)/h1〕を計算する。
【0043】
−マルテンス硬度−
本実施形態に係る表面保護膜は、傷の修復性を向上させる観点から、25℃でのマルテンス硬度が5N/mm
2以上200N/mm
2以下であることが好ましく、更には15N/mm
2以上150N/mm
2以下であることがより好ましく、20N/mm
2以上100N/mm
2以下であることが更に好ましい。
【0044】
尚、マルテンス硬度の測定は以下の方法により行われる。
測定装置としてフィッシャースコープHM2000(フィッシャー社製)を用い、ポリイミドフィルムに塗布し重合して形成したサンプルの表面保護膜を、スライドガラスに接着剤で固定し、上記測定装置にセットする。サンプル表面保護膜に温度25℃で0.5mNまで15秒間かけて荷重をかけていき0.5mNで5秒間保持することによって、マルテンス硬度が得られる。
【0045】
〔表面保護膜の組成〕
次いで、本実施形態に係る表面保護膜の組成について説明する。
本実施形態に係る表面保護膜は、パーフルオロアルキレンエーテル構造を主鎖に有するフッ素樹脂を架橋重合することにより形成される。
【0046】
・フッ素樹脂
本実施形態では表面保護膜の材料として、パーフルオロアルキレンエーテル構造を主鎖に有するフッ素樹脂を用いる。
上記パーフルオロアルキレンエーテル構造を有するフッ素樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば下記一般式(1)で表される構造から選択される少なくとも一種の構造を有するフッ素樹脂が挙げられる。
【0048】
(一般式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立にフッ素原子または−CF
3を表す。但し、R
1とR
2の両方がフッ素原子であることはない。n1は1以上5以下の整数を、n2は0以上2以下の整数を表し、n1とn2の総数は5以下である。)
【0049】
一般式(1)におけるn1は、上記の通り1以上5以下の整数であり、更に1以上3以下が好ましい。
n2は0以上2以下の整数であり、更に0以上1以下が好ましい。
n1とn2の総数は5以下であり、更に1以上3以下が好ましい。
【0050】
上記フッ素樹脂においては、上記一般式(1)で表される構造以外の構造(構成単位)を含んでいてもよいが、他の構成単位を含む場合には、全構成単位中における一般式(1)で表される構成単位の質量比が、少なくとも20質量%以上であることが好ましく、更には50質量%以上であることが好ましい。
【0051】
上記一般式(1)で表される構造を有するフッ素樹脂は通常末端に水酸基を有するが、この水酸基を有する末端が官能性の架橋基で変性されていてもよい。
尚、末端変性の架橋基の種類や変性の量を調整することで溶媒への溶解性を制御し得る。そのため、末端変性の架橋基によって溶媒への溶解性を上げることで、製造性に優れた表面保護膜形成用の塗布液が得られる。
【0052】
末端を変性する官能性の架橋基としては、例えばエポキシ基、アクリル基(CH
2=CH−CO−)、メタクリル基(CH
2=C(CH
3)−CO−)、水酸基、アミノ基、エステル基、カルボキシル基、チオール基、トリアルコキシシリル基、またはこれらの基を含む基等が挙げられる。
【0053】
尚、溶媒への溶解性を上げて保護膜の製造性を向上するとの観点からは、上記架橋基の中でもエポキシ基、アクリル基(CH
2=CH−CO−)、メタクリル基(CH
2=C(CH
3)−CO−)が好ましい。
【0054】
また、架橋密度をより高めて傷の修復性をより向上させる観点からは、末端変性した架橋基の官能基数が2以上20以下であることが好ましく、更には2以上10以下であることが好ましい。この観点から、上記架橋基の中でもアクリル基(CH
2=CH−CO−)、メタクリル基(CH
2=C(CH
3)−CO−)、水酸基、またはこれらの基を含む基が好ましい。
【0055】
尚、一般式(1)で示される構造を主鎖に有するフッ素樹脂は、主鎖の末端が下記一般式(1A)または一般式(1B)で示される構造を有することが好ましい。
【0057】
(一般式(1A)および一般式(1B)中、R
1、R
2、n1、n2は前記一般式(1)におけるR
1、R
2、n1、n2と同義である。Xは下記(a)〜(d)の構造で表される基を、Yは前記官能性の架橋基を表す。尚、下記(d)におけるoは1以上の整数を表す。)
【0059】
ここで、一般式(1)で示される構造を主鎖に有するフッ素樹脂の具体例を挙げる。
まず、末端が水酸基であるフッ素樹脂の例としては、例えば、下記構造が挙げられる。
【0061】
上記(1−1)〜(1−8)のフッ素樹脂において、Xは、前記(a)〜(d)の構造で表される基を、nおよびmはそれぞれ独立に1以上の整数を表す。
【0062】
また、末端が官能性の架橋基で変性されたフッ素樹脂の例としては、例えば、下記構造が挙げられる。尚、下記構造においてAは、前記(1−1)〜(1−8)のフッ素樹脂における末端の水酸基を除いた部分を表す。Rは、水素、メチル基、またはトリフルオロメチル基を表す。
【0064】
これらの中でも、上記フッ素樹脂としては、下記構造で表されるフッ素樹脂がより好ましい。
【0067】
上記フッ素樹脂は、貯蔵弾性率E’
40を前記範囲に制御する観点から、数平均分子量が200以上4000未満であることが好ましく、更には400以上3500以下であることがより好ましく、450以上3000以下であることが更に好ましい。
【0068】
尚、フッ素樹脂の数平均分子量は以下の方法により測定される。テトラヒドロフラン溶液を用いて、ゲル浸透クロマトグラフGPC(ポリスチレン換算分子量)で測定する。尚、表面保護膜の状態からの測定方法としては、表面保護膜をテトラヒドロフラン/メタノール/50%水酸化ナトリウム水溶液の混合液中で加熱攪拌した後、反応液を中和、有機溶媒にて抽出し、濃縮した残差を上記方法にてGPC測定する。
【0069】
・架橋剤
本実施形態に係る表面保護膜は、前記フッ素樹脂が架橋剤を介して架橋重合されていてもよい。尚、例えば前記フッ素樹脂として末端がアクリル基で変性されたものを用いる場合には架橋剤を用いずとも架橋重合を行い得る。しかし、特に、フッ素樹脂として末端が水酸基のもの、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基で変性されたもの等を用いる場合には、硬化剤として架橋剤を用いるか、エポキシ基変性フッ素樹脂にアミノ基、水酸基、またはカルボキシル基で変性されたフッ素樹脂を混合して使用する。
【0070】
フッ素樹脂の末端がエポキシ基で変性されている場合に用い得る架橋剤としては、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
フッ素樹脂の末端がアクリル基で変性されている場合に用い得る架橋剤としては、2つ以上アクリル基を含有する架橋剤が好ましい。例えば、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
フッ素樹脂の末端が水酸基、アミノ基、カルボキシル基である場合に用い得る架橋剤としては、2つ以上のエポキシ基を含有する架橋剤が好ましい。例えば、1,5−ヘキサジエンジエポキシド、1,7−オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリグリシジルイソシアヌレート、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ナフタレン等が挙げられる。
【0071】
架橋剤を用いる場合における、前記フッ素樹脂に対する添加量としては、フッ素樹脂の質量に対して、1%から500%となるよう調整することが好ましく、更には5%から200%とすることがより好ましい。
【0072】
・表面保護膜の形成方法(架橋重合の方法)
本実施形態に係る表面保護膜は、少なくとも前記フッ素樹脂を含有する塗布液を基材上に塗布して架橋重合することで形成される。尚、前記フッ素樹脂として、液体のものを用いる場合には、そのまま前記塗布液として使用してもよい。前記フッ素樹脂として、固体、液体に関わらず溶媒に溶解し得るものを用いる場合には、該フッ素樹脂や、硬化剤を要する場合であれば更にその硬化剤(架橋剤)、その他の添加剤等を溶媒に溶解して塗布液を調製し、基材上に塗布して架橋重合することで形成される。
また、前記フッ素樹脂として、固体で溶媒に溶解しないものを用いる場合には、該フッ素樹脂や、硬化剤を要する場合であれば更にその硬化剤(架橋剤)、その他の添加剤等を、溶解し得る温度にまで加熱し、架橋重合することで形成される。
但し、製造性の点からは、溶媒に溶解し得るフッ素樹脂、または室温で液体のフッ素樹脂を用いて、表面保護膜を形成することが好ましい。
【0073】
前記塗布液に用いられる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0074】
前記架橋重合を行う際には、外部からエネルギーを供給してもよく、例えば紫外線を照射する手段、電子線を照射する手段、加熱する手段等によるエネルギーの供給が挙げられる。
【0075】
また、前記架橋重合を行うための重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤の具体例としては、例えばラジカル型として、IRGACURE184、IRGACURE651、IRGACURE123、IRGACURE819、DAROCURE1173、IRGACURE784、IRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02、カチオン型として、IRGACURE250、IRGACURE270(何れもBASF社製)等が挙げられる。
【0076】
−架橋性基量−
尚、上記の方法により得られる本実施形態に係る表面保護膜は、その架橋性基量が0.50mmol/g以上の範囲に調整されることが好ましい。この架橋性基量は更に0.60mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましい。また、その上限値としては、特に限定されるものではないが10mmol/g以下であることが好ましく、5mmol/g下がより好ましい。
【0077】
架橋性基量を制御する方法としては、例えば、フッ素樹脂の数平均分子量、フッ素樹脂の主鎖の末端を変性する場合における官能性の架橋基の官能基数、架橋剤を添加する場合における架橋剤の官能基数等を調整する方法が挙げられる。つまり、フッ素樹脂の数平均分子量が低いほど架橋性基量が高くなり、官能性の架橋基の官能基数や架橋剤の官能基数が大きいほど架橋性基量が高くなる。
また、この他にも紫外線等の外部から供給されるエネルギーの量、重合開始剤を添加する場合におけるその種類や量、硬化時の酸素の影響の低減等によっても制御される。
【0078】
尚、上記架橋性基量は、表面保護膜の重合に用いられる各組成物(前記フッ素樹脂や架橋剤)の量と、該組成物における架橋性基の数と、から計算により算出される。
【0079】
・表面保護膜の物性
本実施形態に係る表面保護膜は、25℃での水の接触角が90°以上であることが好ましく、更には100°以上がより好ましい。
【0080】
尚、上記接触角の測定は、フイルム上に塗布された表面保護膜サンプルを、水を使用し接触角計を用いて、25℃においてθ/2法で行われる。また、後述するヘキサデカンに対する接触角は、前記水をヘキサデカンに変更して測定される。
【0081】
前記表面保護膜の厚さとしては、特に限定されるものではないが1μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上50μm以下がより好ましい。
【0082】
[用途]
上記のようにして得られる、本実施形態に係る表面保護膜は、異物との接触により表面に擦り傷が発生し得る物に対してであれば、特に限定されることなく用い得る。表面に異物が接触し該異物との接触により擦り傷が発生し得る物の例としては、例えば、スマートフォンや携帯電話、ポータブルゲームなど携帯端末におけるボディや画面、車のボディや窓ガラス、パソコンの筐体、眼鏡のレンズ、CD,DVD,BD等の光ディスクの記録面、太陽光電池パネルや太陽光を反射させるパネル、画像形成装置における定着部材、中間転写部材、記録媒体搬送部材等に用いられる画像形成装置用の無端ベルトやロール、床、鏡、窓ガラス等が挙げられる。
【0083】
スマートフォンや携帯電話、ポータブルゲーム機等の携帯端末においては、ボディや画面等に指の先(爪)や操作用のスティックの先端が接触して擦れることにより擦り傷がつくことがあった。
また、窓ガラス、車の窓ガラスやボディ等は、野外環境に曝されるため風によって運ばれる砂、葉、木の枝等との接触や、虫等との接触など、様々な要因により擦り傷がつくことがあった。
また、眼鏡のレンズ等には、表面に細かい粒子(汚れ)が付着していることがあり、その上から乾拭きを行うことで擦り傷がつくことがあった。
また、CD,DVD,BD等の光ディスクの記録面等には、ケースからの出し入れの際に該ケースの角に接触したり、再生装置,記録装置等からの出し入れの際に該装置の角に接触したり、また指の先(爪)が接触することがあり、これらとの擦れにより擦り傷がつくことがあった。
また、太陽光電池パネルや太陽光を反射させるパネルは、野外環境に曝されるため風によって運ばれる砂、葉、木の枝等との接触や、虫等との接触など、様々な要因により擦り傷がつくことがあった。
また、画像形成装置における定着部材、中間転写部材、記録媒体搬送部材等に用いられる画像形成装置用の無端ベルトやロールは、画像形成装置内において紙等の記録媒体と接触したり、その他部材と接触するため、これらとの擦れにより擦り傷がつくことがあった。
また、上記の態様に限らず、表面に異物が接触する物であれば、該異物との擦れによって、表面に擦り傷がつくことがあった。
【0084】
これらの異物と接触する物の表面に、本実施形態に係る表面保護膜を設けることにより、異物との接触により生じた傷が効率的に修復される。
【0085】
[無端ベルト]
本実施形態に係る画像形成装置用無端ベルトは、ベルト状の基材と、前記ベルト状の基材上に設けられた、前述の本実施形態に係る表面保護膜と、を有する。
【0086】
図1は、本実施形態に係る無端ベルトを示す斜視図(一部、断面で表わしている)であり、
図2は、
図1において矢印Aの方向から見た、無端ベルトの端面図である。
図1および
図2に示すように、本実施形態の無端ベルト1は、基材2と、基材2の表面に積層された表面層3と、を有する無端状のベルトである。
尚、上記表面層3としては、前述の本実施形態に係る表面保護膜が適用される。
【0087】
無端ベルト1の用途としては、例えば、画像形成装置内における定着ベルト、中間転写ベルト、記録媒体搬送ベルト等が挙げられる。
【0088】
以下、無端ベルト1を定着ベルトとして用いる場合について説明する。
基材2に用いられる材質としては、耐熱性の材料が好ましく、具体的には、公知の各種プラスチック材料および金属材料のものの中から選択して使用される。
【0089】
プラスチック材料のなかでは一般にエンジニアリングプラスチックと呼ばれるものが適しており、例えばフッソ樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、全芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)などが好ましい。また、この中でも機械的強度、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等に優れる熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂などが好ましい。
【0090】
また、基材2に用いられる金属材料としては、特に制限は無く、各種金属や合金材料が使用され、例えばSUS、ニッケル、銅、アルミ、鉄などが好適に使用される。また、前記耐熱性樹脂や前記金属材料を複数積層してもよい。
【0091】
以下、無端ベルト1を中間転写ベルトまたは記録媒体搬送ベルトとして用いる場合について説明する。
【0092】
基材2に用いる素材としては、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられ、これらの中でもポリイミド系樹脂およびポリアミドイミド系樹脂を用いることがより好ましい。なお、基材は環状(無端状)であればつなぎ目があってもなくてもよく、また基材2の厚さは、通常0.02から0.2mmが好ましい。
【0093】
無端ベルト1を画像形成装置の中間転写ベルトや記録媒体搬送ベルトとして用いる場合、1×10
9Ω/□から1×10
14Ω/□の範囲に表面抵抗率を、1×10
8から1×10
13Ωcmの範囲に体積抵抗率を制御することが好ましい。そのため前記のごとく、基材2や表面層3に、導電剤として、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、グラファイト、アルミニウム、ニッケル、銅合金などの金属または合金、酸化スズ、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、酸化スズ−酸化インジウムまたは酸化スズ−酸化アンチモン複合酸化物などの金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリサルフォン、ポリアセチレンなどの導電性ポリマーなどを添加することが好ましい(ここで、前記ポリマーにおける「導電性」とは体積抵抗率が10
7Ω・cm未満を意味する)。これら導電剤は、単独または2種以上が併用して使用される。
【0094】
ここで、上記表面抵抗率および体積抵抗率は、(株)ダイヤインスツルメント製ハイレスタUPMCP−450型URプローブを用いて、22℃、55%RHの環境下で、JIS−K6911に従い測定される。
【0095】
定着用途の場合において、無端ベルト1は、基材2と表面層3との間に弾性層を含んでもよい。弾性層の材料としては、例えば、各種ゴム材料が用いられる。各種ゴム材料としては、例えば、ウレタンゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)などが挙げられ、特に耐熱性、加工性に優れたシリコーンゴムが好ましい。該シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。
【0096】
電磁誘導方式の定着装置における定着ベルトとして無端ベルト1を用いる場合は、基材2と表面層3との間に、発熱層を設けてもよい。
発熱層に用いられる材料としては、例えば非磁性金属が挙げられ、具体的には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、ベリリュウム、アンチモン、およびこれらの合金(これらを含む合金)等の金属材料が挙げられる。
発熱層の膜厚としては、5から20μmの範囲とすることが好ましく、7から15μmの範囲とすることがより好ましく、8から12μmの範囲とすることが特に好ましい。
【0097】
[ロール]
本実施形態に係る画像形成装置用ロールは、円筒状の基材と、前記円筒状の基材上に設けられた、前述の本実施形態に係る表面保護膜と、を有する。
【0098】
ついで、本実施形態に係るロールについて説明する。本実施形態のロールは、基材と、基材の表面に積層された表面層と、を有する円筒状のロールである。
尚、上記表面層としては、前述の本実施形態に係る表面保護膜が適用される。
【0099】
上記円筒状のロールの用途としては、例えば、画像形成装置内における定着ロール、中間転写ロール、記録媒体搬送ロール等が挙げられる。
【0100】
以下、円筒状ロールを定着ロールとして用いる場合について説明する。
図4に示す定着部材としての定着ロール610としては、その形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、円筒状のコア611上に表面層613を備えてなる。また、
図4に示す通り、コア611と表面層613との間に弾性層612を有していてもよい。
【0101】
円筒状のコア611の材質としては、例えば、アルミニウム(例えば、A−5052材)、SUS、鉄、銅等の金属、合金、セラミックス、FRMなどが挙げられる。本実施形態の定着装置72では外径φ25mm、肉厚0.5mm、長さ360mmの円筒体で構成されている。
【0102】
弾性層612の材質としては、公知の材質の中から選択されるが、耐熱性の高い弾性体であればどの材料を用いてもよい。特に、ゴム硬度が15から45°(JIS−A)程度のゴム、エラストマー等の弾性体を用いるのが好ましく、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0103】
本実施形態においては、これらの材質の中でも、表面張力が小さく、弾性に優れる点でシリコーンゴムが好ましい。該シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。
【0104】
なお、弾性層612の厚みとしては、3mm以下であることが好ましく、0.5から1.5mmの範囲であることがより好ましい。定着装置72では、ゴム硬度が35°(JIS−A)のHTVシリコーンゴムを72μmの厚さでコアに被覆している。
【0105】
表面層613の厚みとしては、例えば5μm以上50μm以下が挙げられ、10μm以上30μm以下であってもよい。
【0106】
定着ロール610を加熱する加熱源としては、例えばハロゲンランプ660が用いられ、上記コア611の内部に収容する形状、構造のものであれば特に制限はなく、目的に応じて選択される。ハロゲンランプ660により加熱された定着ロール610の表面温度は、定着ロール610に設けられた感温素子690により計測され、制御手段によりその温度が制御される。感温素子690としては、特に制限はなく、例えば、サーミスタ、温度センサなどが挙げられる。
【0107】
[画像形成装置]
次に、本実施形態の無端ベルトおよび本実施形態のロールを用いた本実施形態の画像形成装置について説明する。
図3は、本実施形態に係る無端ベルトを定着装置の加圧ベルトとして備え、本実施形態に係る無端ベルトを中間転写ベルトとして備え、且つ本実施形態に係るロールを定着装置の定着ロールとして備えたタンデム式の、画像形成装置の要部を説明する模試図である。
【0108】
具体的には、画像形成装置101は、感光体79(静電潜像保持体)と、感光体79の表面を帯電する帯電ロール83と、感光体79の表面を露光し静電潜像を形成するレーザー発生装置78(静電潜像形成手段)と、感光体79表面に形成された潜像を、現像剤を用いて現像し、トナー像を形成する現像器85(現像手段)と、現像器85により形成されたトナー像が感光体79から転写される中間転写ベルト86(中間転写体)と、トナー像を中間転写ベルト86に転写する1次転写ロール80(一次転写手段)と、感光体79に付着したトナーやゴミ等を除去する感光体清掃部材84と、中間転写ベルト86上のトナー像を記録媒体に転写する2次転写ロール75(二次転写手段)と、記録媒体上のトナー像を定着する定着装置72(定着手段)と、を含んで構成されている。感光体79と1次転写ロール80は、
図3に示すとおり感光体79直上に配置していてもよく、感光体79直上からずれた位置に配置していてもよい。
【0109】
さらに、
図3に示す画像形成装置101の構成について詳細に説明する。
画像形成装置101においては、感光体79の周囲に、反時計回りに帯電ロール83、現像器85、中間転写ベルト86を介して配置された1次転写ロール80、感光体清掃部材84が配置され、これら1組の部材が、1つの色に対応した現像ユニットを形成している。また、この現像ユニット毎に、現像器85に現像剤を補充するトナーカートリッジ71がそれぞれ設けられており、各現像ユニットの感光体79に対して、帯電ロール83の(感光体79の回転方向)下流側であって現像器85の上流側の感光体79表面に画像情報に応じたレーザー光を照射するレーザー発生装置78が設けられている。
【0110】
4つの色(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)に対応した4つの現像ユニットは、画像形成装置101内において水平方向に直列に配置されており、4つの現像ユニットの感光体79と1次転写ロール80との転写領域を挿通するように中間転写ベルト86が設けられている。中間転写ベルト86は、その内面側に以下の順序で反時計回りに設けられた、支持ロール73、支持ロール74、および駆動ロール81により支持され、ベルト支持装置90を形成している。なお、4つの1次転写ロールは支持ロール73の(中間転写ベルト86の回転方向)下流側であって支持ロール74の上流側に位置する。また、中間転写ベルト86を介して駆動ロール81の反対側には中間転写ベルト86の外周面を清掃する転写清掃部材82が駆動ロール81に対して接触するように設けられている。
【0111】
また、中間転写ベルト86を介して支持ロール73の反対側には用紙供給部77から用紙経路76を経由して搬送される記録用紙の表面に、中間転写ベルト86の外周面に形成されたトナー像を転写するための2次転写ロール75が、支持ロール73に対して接触するように設けられている。
【0112】
また、画像形成装置101の底部には記録媒体を収容する用紙供給部77が設けられ、用紙供給部77から用紙経路76を経由して2次転写部を構成する支持ロール73と2次転写ロール75との接触部を通過するように、記録媒体が供給される。この接触部を通過した記録媒体は、更に定着装置72の接触部を挿通するように不図示の搬送手段により搬送され、最終的に画像形成装置101の外へと排出される。
【0113】
次に、
図3に示す画像形成装置101を用いた画像形成方法について説明する。トナー像の形成は各現像ユニット毎に行なわれ、帯電ロール83により反時計方向に回転する感光体79表面を帯電した後に、レーザー発生装置78(露光装置)により帯電された感光体79表面に潜像(静電潜像)を形成し、次に、この潜像を現像器85から供給される現像剤により現像してトナー像を形成し、1次転写ロール80と感光体79との接触部に運ばれたトナー像を矢印C方向に回転する中間転写ベルト86の外周面に転写する。なお、トナー像を転写した後の感光体79は、その表面に付着したトナーやゴミ等が感光体清掃部材84により清掃され、次のトナー像の形成に備える。
【0114】
各色の現像ユニット毎に現像されたトナー像は、画像情報に対応するように中間転写ベルト86の外周面上に順次重ね合わされた状態で、2次転写部に運ばれ2次転写ロール75により、用紙供給部77から用紙経路76を経由して搬送されてきた記録用紙表面に転写される。トナー像が転写された記録用紙は、更に定着装置72の接触部を通過する際に加圧加熱されることにより定着され、記録媒体表面に画像が形成された後、画像形成装置外へと排出される。
【0115】
―定着装置(画像定着装置)―
図4は、本実施形態に係る画像形成装置101内に設けられた定着装置72の概略構成図である。
図4に示す定着装置72は、回転駆動する回転体としての定着ロール610と、無端ベルト620(加圧ベルト)と、無端ベルト620を介して定着ロール610を加圧する圧力部材である圧力パッド640とを備えて構成されている。なお、圧力パッド640は、無端ベルト620と定着ロール610とが相対的に加圧されていればよい。従って、無端ベルト620側が定着ロール610に加圧されてもよく、定着ロール610側が無端ベルト620に加圧されてもよい。
【0116】
定着ロール610の内部には、挟込領域において未定着トナー像を加熱する加熱手段の一例としてのハロゲンランプ660が配設されている。加熱手段としては、ハロゲンランプに限られず、発熱する他の発熱部材を用いてもよい。
【0117】
一方、定着ロール610の表面には感温素子690が接触して配置されている。この感温素子690による温度計測値に基づいて、ハロゲンランプ660の点灯が制御され、定着ロール610の表面温度が設定温度(例えば、150℃)に維持される。
【0118】
無端ベルト620は、内部に配置された圧力パッド640とベルト走行ガイド630と、図示しないエッジガイドによって回転自在に支持されている。そして、挟込領域Nにおいて定着ロール610に対して加圧された状態で接触して配置されている。
【0119】
圧力パッド640は、無端ベルト620の内側において、無端ベルト620を介して定着ロール610に加圧される状態で配置され、定着ロール610との間で挟込領域Nを形成している。圧力パッド640は、幅の広い挟込領域Nを確保するためのプレ挟込部材641を挟込領域Nの入口側に配置し、定着ロール610に歪みを与えるための剥離挟込部材642を挟込領域Nの出口側に配置している。
【0120】
さらに、無端ベルト620の内周面と圧力パッド640との摺動抵抗を小さくするために、プレ挟込部材641および剥離挟込部材642の無端ベルト620と接する面に低摩擦シート680が設けられている。そして、圧力パッド640と低摩擦シート680とは、金属製のホルダ650に保持されている。
【0121】
さらに、ホルダ650にはベルト走行ガイド630が取り付けられ、無端ベルト620がスムーズに回転するように構成されている。すなわち、ベルト走行ガイド630は、無端ベルト620内周面と摺擦するため、静止摩擦係数の小さな材質で形成されている。また、ベルト走行ガイド630は、無端ベルト620から熱を奪い難いよう熱伝導率の低い材質で形成されている。
【0122】
そして定着ロール610は、図示しない駆動モータにより矢印C方向に回転し、この回転に従動して無端ベルト620は、定着ロール610の回転方向と反対の方向へ回転する。すなわち、定着ロール610が
図4における時計方向へ回転するのに対して、無端ベルト620は反時計方向へ回転する。
【0123】
未定着トナー像を有する用紙Kは、定着入口ガイド560によって導かれて、挟込領域Nに搬送される。そして、用紙Kが挟込領域Nを通過する際に、用紙K上のトナー像は挟込領域Nに作用する圧力と、定着ロール610から供給される熱とによって定着される。
【0124】
上記定着装置72では、定着ロール610の外周面に倣う凹形状のプレ挟込部材641により挟込領域Nが確保される。
【0125】
また、本実施形態に係る定着装置72では、定着ロール610の外周面に対し突出させて剥離挟込部材642を配置することにより、挟込領域Nの出口領域において定着ロール610の歪みが局所的に大きくなるように構成されている。この構成により、定着後の用紙Kが定着ロール610から剥離する。
【0126】
また、剥離の補助手段として、定着ロール610の挟込領域Nの下流側に、剥離部材700が配設されている。剥離部材700は、剥離バッフル710が定着ロール610の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に定着ロール610と近接する状態でホルダ720によって保持されている。
【0127】
<ポータブル機器>
本実施形態に係る表面保護膜は、携帯端末(ポータブル機器)において、画像を表示する画面等における保護膜として用い得る。
スマートフォンや携帯電話、ポータブルゲーム機等の携帯端末(ポータブル機器)における画面(例えば液晶画面)等には、操作の際に指の先(爪)が接触したり、更に操作用のスティックがある場合には該スティックの先端が接触して擦れることにより擦り傷がつくことがあった。これに対し、本実施形態に係る表面保護膜を保護膜として有することで、たとえ擦り傷が発生した場合であっても該擦り傷が修復されるため、表面に永久に残る擦り傷(永久傷)の発生が効率的に抑制される。
【0128】
<窓ガラス、車のボディ>
本実施形態に係る表面保護膜は、建物や車等における窓ガラスの保護膜として用い得る。また、本実施形態に係る表面保護膜は、車のボディの保護膜として用い得る。
建物の窓ガラス、車の窓ガラスやボディ等は、野外環境に曝されるため風によって運ばれる砂、葉、木の枝等との接触や、虫等との接触など、様々な要因により擦り傷がつくことがあった。これに対し、本実施形態に係る表面保護膜を保護膜として有することで、たとえ擦り傷が発生した場合であっても該擦り傷が修復されるため、表面に永久に残る擦り傷(永久傷)の発生が効率的に抑制される。
【0129】
<眼鏡のレンズ>
本実施形態に係る表面保護膜は、眼鏡のレンズの保護膜として用い得る。
眼鏡のレンズには、表面に細かい粒子(汚れ)が付着していることがあり、その上から乾拭きを行うことで擦り傷がつくことがあった。これに対し、本実施形態に係る表面保護膜を有することで、たとえ擦り傷が発生した場合であっても該擦り傷が修復されるため、表面に永久に残る擦り傷(永久傷)の発生が効率的に抑制される。
【0130】
<光ディスク>
本実施形態に係る表面保護膜は、光ディスクの記録面の保護膜として用い得る。
CD,DVD,BD等の光ディスクの記録面等には、ケースからの出し入れの際に該ケースの角に接触したり、再生装置,記録装置等からの出し入れの際に該装置の角に接触したり、また指の先(爪)が接触することがあり、これらとの擦れにより擦り傷がつくことがあった。その結果、記録面についた傷に起因して、読み取りエラーが生じることがあった。これに対し、本実施形態に係る表面保護膜を保護膜として有することで、たとえ擦り傷が発生した場合であっても該擦り傷が修復されるため、表面に永久に残る擦り傷(永久傷)の発生が効率的に抑制される。その結果、読み取りエラーの発生も効率的に抑制される。
【0131】
<太陽光パネル>
本実施形態に係る表面保護膜は、太陽光パネルの反射面の保護膜として用い得る。
太陽光電池パネルや太陽光を反射させるパネルは、野外環境に曝されるため風によって運ばれる砂、葉、木の枝等との接触や、虫等との接触など、様々な要因により擦り傷がつくことがあった。これに対し、本実施形態に係る表面保護膜を保護膜として有することで、たとえ擦り傷が発生した場合であっても該擦り傷が修復されるため、表面に永久に残る擦り傷(永久傷)の発生が効率的に抑制される。
【実施例】
【0132】
以下、実施例を交えて本発明を詳細に説明するが、以下に示す実施例のみに本発明は限定されるものではない。尚、以下において「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0133】
〔実施例1〕
<表面保護膜形成用塗布液の調製>
下記の組成物を混合して、塗布液を調製した。
・パーフルオロアルキレンエーテル構造を主鎖に有するフッ素樹脂(ソルベイ社製、商品名:MT70、構造/主鎖:一般式(1)におけるn1が1、n2が0のユニットと、n1が2、n2が0のユニットとの共重合、全構成単位に対する一般式(1)で表される構成単位100モル%、末端:両末端をメタクリレートで変性、官能基数4、数平均分子量2000) 50部
・重合開始剤(BASF社製、商品名:DAROCURE1173) 0.5部
・溶媒(化合物名:メチルエチルケトン) 50部
【0134】
<表面保護膜の形成(架橋重合)>
上記塗布液を90μm厚のポリイミドフィルムに塗布(キャスト)して、80℃で5分間乾燥することで溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線照射を行い、硬化膜を得た。紫外線の照射条件は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)、高圧水銀灯を用い、1000mmJ/cm
2の光量を照射した。
【0135】
〔実施例2〕
実施例1において、架橋剤(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート)25部を追加し、溶媒(メチルエチルケトン)の量を75部に変更した以外は、実施例1に記載の方法により、表面保護膜を形成した。
【0136】
〔実施例3〕
実施例1において、架橋剤(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート)200部を追加し、溶媒(メチルエチルケトン)の量を300部に変更した以外は、実施例1に記載の方法により、表面保護膜を形成した。
【0137】
〔実施例4〕
両末端にアルコール(水酸基)を有するパーフルオロアルキレンエーテルD10H(ソルベイ社製、構造/主鎖:一般式(1)におけるn1が1、n2が0のユニットと、n1が2、n2が0のユニットとの共重合、数平均分子量1500)50部をTHF50部に溶解し、攪拌下で2−イソシアナトエチルメタクリレート10部、オクチル酸第一スズ0.1部を加えた。60℃で5時間攪拌後、反応液を水、および酢酸エチルで洗浄し、両末端がウレタン含有メタクリレートで変性されたパーフルオロアルキレンエーテル44部を得た。この構造は、IRを用いてメタクリレート、およびウレタン結合のピークを有することを確認した。
【0138】
これにDAROCURE1173(重合開始剤)を0.5部添加し、90μm厚のポリイミドフィルムに塗布(キャスト)して、80℃で5分間乾燥することで溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線照射を行い、硬化膜を得た。紫外線の照射条件は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)、高圧水銀灯を用い、1000mmJ/cm
2の光量を照射した。
【0139】
〔実施例5〕
両末端にアルコール(水酸基)を有するパーフルオロアルキレンエーテルD10H(ソルベイ社製)50部をTHF50部に溶解し、攪拌下で水素化ナトリウム2部を発泡に注意しながら少しずつ添加した。30分攪拌後、塩化アクリロイル8部を加えた。室温で5時間攪拌後、水を加え残っている水素化ナトリウムを分解し、反応液を水で洗浄し、両末端がアクリレートで変性されたパーフルオロアルキレンエーテル46部を得た。
【0140】
これにDAROCURE1173(重合開始剤)を0.5部添加し、90μm厚のポリイミドフィルムに塗布(キャスト)して、80℃で5分間乾燥することで溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線照射を行い、硬化膜を得た。紫外線の照射条件は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)、高圧水銀灯を用い、1000mmJ/cm
2の光量を照射した。
【0141】
〔実施例6〕
両末端にアルコール(水酸基)を有する下記構造のパーフルオロアルキレンエーテル化合物50部をTHF50部に溶解し、攪拌下でトリエチルアミン36部、塩化アクリロイル23部を加えた。室温で5時間攪拌後、反応液を水で洗浄し、両末端がアクリレートで変性されたパーフルオロアルキレンエーテル51部を得た。
【0142】
【化9】
【0143】
これにDAROCURE1173(重合開始剤)を0.5部添加し、90μm厚のポリイミドフィルムに塗布(キャスト)して、80℃で5分間乾燥することで溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線照射を行い、硬化膜を得た。紫外線の照射条件は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)、高圧水銀灯を用い、1000mmJ/cm
2の光量を照射した。
【0144】
〔比較例1〕
両末端にアルコール(水酸基)を有するパーフルオロアルキレンエーテルD4000(ソルベイ社製、構造/主鎖:一般式(1)におけるn1が1、n2が0のユニットと、n1が2、n2が0のユニットとの共重合、数平均分子量4000)50部にTHF20部を添加し、攪拌下で2−イソシアナトエチルメタクリレート5部、オクチル酸第一スズ0.1部を加えた。60℃で5時間攪拌後、反応液を水、および酢酸エチルで洗浄し、両末端がウレタン含有メタクリレートで変性されたパーフルオロアルキレンエーテル48部を得た。
【0145】
これにDAROCURE1173(重合開始剤)を0.5部添加し、90μm厚のポリイミドフィルムに塗布(キャスト)して、80℃で5分間乾燥することで溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線照射を行い、硬化膜を得た。紫外線の照射条件は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)、高圧水銀灯を用い、1000mmJ/cm
2の光量を照射した。
【0146】
〔比較例2〕
両末端にアルコール(水酸基)を有するパーフルオロアルキレンエーテルD4000(ソルベイ社製)50部にTHF20部を添加し、攪拌下で水素化ナトリウム1部を発泡に注意しながら少しずつ添加した。30分攪拌後、塩化アクリロイル4部を加えた。室温で5時間攪拌後、水を加え残っている水素化ナトリウムを分解し、反応液を水で洗浄し、両末端がアクリレートで変性されたパーフルオロアルキレンエーテル45部を得た。
【0147】
これにDAROCURE1173(重合開始剤)を0.5部添加し、90μm厚のポリイミドフィルムに塗布(キャスト)して、80℃で5分間乾燥することで溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線照射を行い、硬化膜を得た。紫外線の照射条件は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)、高圧水銀灯を用い、1000mmJ/cm
2の光量を照射した。
【0148】
[評価]
上記実施例および比較例にて形成した保護膜サンプルについて、下記の方法により自己修復性、静止接触角、耐傷性、およびトナー剥離性に関する試験を行った。また、前述の方法により動的粘弾性測定を行い、動的ガラス転移温度Tg、Tg+40Kでの貯蔵弾性率E’
40、および架橋密度nを、前述の方法により測定または算出した。
【0149】
・自己修復性(戻り率の測定)
前述の方法により戻り率を測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0150】
・接触角の測定
上記実施例および比較例で得られた樹脂層サンプルを、水またはヘキサデカンを用いて、接触角を測定した。なお、上記接触角の測定は、接触角計(協和界面科学社製、型番:CA−S−ルガタ)を用いて、25℃においてθ/2法で行った。結果を表に示す。
【0151】
・耐傷性
上記実施例および比較例で得られた樹脂層サンプルを、引っ掻き式硬度計(ERICHSEN社製、先端直径0.75mm)を用いて、100℃において引っ掻き評価を行い、付いた傷が修復するまでの荷重を測定した。荷重が大きい程、耐傷性が高いサンプルである。
【0152】
・トナー剥離性
樹脂層サンプルが形成されたポリイミドフィルムを、定着機の定着ロール表面にはりつけ、黒の未定着ベタ画像を通紙して定着性を確認した。なお、上記定着機として富士ゼロックス社製の商品名:DocuCentre C2101を用いた。評価基準は以下の通りであり、結果を表に示す。
×:樹脂層サンプルの全面にトナー付着
△:樹脂層サンプルの約半分にトナー付着
○:樹脂層サンプルにトナーの付着なし
【0153】
【表1】