特許第6187280号(P6187280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン・エィ・ダブリュ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6187280-差動歯車装置及びその製造方法 図000002
  • 特許6187280-差動歯車装置及びその製造方法 図000003
  • 特許6187280-差動歯車装置及びその製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187280
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】差動歯車装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/08 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   F16H48/08
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-9715(P2014-9715)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-137706(P2015-137706A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】長田 知也
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−071528(JP,U)
【文献】 特開2012−211368(JP,A)
【文献】 特開2009−097716(JP,A)
【文献】 特開2009−204038(JP,A)
【文献】 特開平08−320059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛合う複数の差動歯車を有する差動歯車機構と、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部材と、前記保持部材の外周に固定された外周ギヤと、を備えた差動歯車装置であって、
前記保持部材は、第一保持部材と第二保持部材とを有し、
前記外周ギヤは、前記第一保持部材に取り付けられる保持部材取付部を備えるとともに、当該保持部材取付部に前記保持部材の回転軸心に平行な方向である基準軸方向の一方側に向かうに従って部材の厚さが減少する先細り部を有し、
前記第一保持部材と前記外周ギヤの前記先細り部とが第一溶接部において溶接され、
前記第一保持部材と前記第二保持部材とが第二溶接部において溶接され、
前記第一溶接部と前記第二溶接部とは、前記基準軸方向において、前記差動歯車機構の中心位置を挟んで、互いに反対側に設けられている差動歯車装置。
【請求項2】
前記外周ギヤの母材は、前記第一保持部材の母材より硬度が高い材料とされている請求項1に記載の差動歯車装置。
【請求項3】
前記外周ギヤは、少なくとも歯面に、内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有している請求項1又は2に記載の差動歯車装置。
【請求項4】
前記第一保持部材、前記第二保持部材、及び前記外周ギヤは、鍛造部品である請求項1から3のいずれか一項に記載の差動歯車装置。
【請求項5】
前記第一保持部材は、前記中心位置側から前記基準軸方向の一方側に向かうに従って部材の厚さが減少する第一先細り部を備え、
前記第一溶接部が、前記第一先細り部の先端部と前記外周ギヤの前記先細り部の先端部とに亘って設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の差動歯車装置。
【請求項6】
前記第一保持部材は、前記中心位置側から前記基準軸方向の他方側に向かうに従って部材の厚さが減少する第二先細り部を備えている請求項1からのいずれか一項に記載の差動歯車装置。
【請求項7】
前記差動歯車機構は、前記第一保持部材により保持された軸であってその軸心が前記保持部材の回転軸心に直交交差する第一回転軸と、当該第一回転軸により前記保持部材に対して回転可能に支持された第一傘歯車と、前記保持部材に対して回転可能に支持されている共に前記第一傘歯車に噛み合う第二傘歯車と、を有し、
前記第一溶接部と前記第二溶接部とは、前記基準軸方向において、前記第一回転軸を挟んで、互いに反対側に設けられている請求項1からのいずれか一項に記載の差動歯車装置。
【請求項8】
前記第一溶接部と前記第二溶接部とは、前記基準軸方向において、前記差動歯車機構を構成する前記第一回転軸と前記第一傘歯車と前記第二傘歯車の本体部との全体を挟んで、互いに反対側に設けられている請求項7に記載の差動歯車装置。
【請求項9】
前記第二溶接部は、前記保持部材と前記第一傘歯車との摺動面に対して、前記基準軸方向における前記第一回転軸から離れる側に設けられている請求項7又は8に記載の差動歯車装置。
【請求項10】
前記第一保持部材は、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部を避けて形成された切欠部を有し、前記切欠部は、前記第一溶接部側から前記第二溶接部側に向かう方向に開口する請求項1からのいずれか一項に記載の差動歯車装置。
【請求項11】
互いに噛合う複数の差動歯車を有する差動歯車機構と、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する部材であって第一保持部材と第二保持部材とを有する保持部材と、前記保持部材の外周に固定された外周ギヤと、を備え、前記外周ギヤが、前記第一保持部材に取り付けられる保持部材取付部を備えるとともに、当該保持部材取付部に前記保持部材の回転軸心に平行な方向である基準軸方向の一方側に向かうに従って部材の厚さが減少する先細り部を有する差動歯車装置の製造方法であって、
前記第一保持部材と前記外周ギヤの前記先細り部とを溶接する第一溶接工程と、
前記第一溶接工程の後、前記外周ギヤの歯面を研磨する歯研磨工程と、
前記歯研磨工程の後、前記第一保持部材に前記複数の差動歯車を組み付ける歯車組付工程と、
前記歯車組付工程の後、前記基準軸方向における、前記第一溶接工程の溶接部に対して前記差動歯車機構の中心位置を挟んだ反対側で、前記第一保持部材と前記第二保持部材とを溶接する第二溶接工程と、を行う差動歯車装置の製造方法。
【請求項12】
前記第一溶接工程の前に、前記外周ギヤの少なくとも歯面に、浸炭処理及び焼入れ処理を行う請求項11に記載の差動歯車装置の製造方法。
【請求項13】
前記外周ギヤ、前記第一保持部材、及び前記第二保持部材を鍛造により成形する鍛造成形工程を行う請求項11又は12に記載の差動歯車装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
互いに噛合う複数の差動歯車を有する差動歯車機構と、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部材と、前記保持部材の外周に固定された外周ギヤと、を備えた差動歯車装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような差動歯車装置として、例えば、下記の特許文献1から3に記載された装置が既に知られている。
特許文献1の技術では、保持部材は、第一保持部材と第二保持部材とを有しており、第一保持部材と第二保持部材とがボルトにより結合されている。また、第一保持部材と第一外周ギヤとが一体形成されており、第二保持部材と第二外周ギヤとが一体形成されている。
特許文献2の技術では、保持部材は、第一保持部材と第二保持部材とを有しており、第一保持部材と第二保持部材とが溶接により結合され、当該溶接部の径方向外側に、外周ギヤが溶接により結合されている。
特許文献3の技術では、保持部材は、第一保持部材と第二保持部材とを有しており、第一保持部材と第二保持部材とが溶接により結合されている。また、第一保持部材と外周ギヤとが一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−266162号公報
【特許文献2】特表2006−509172号公報
【特許文献3】特開2009−097716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、ボルトにより第一保持部材と第二保持部材とを結合するため、ボルトを用いた締結機構の分、装置の重量が増加する。
特許文献2の技術では、保持部材同士の溶接部と、保持部材と外周ギヤとの溶接部とが近接して設けられており、溶接によるひずみが一部分に集中し、集中した部分におけるひずみ量(変形量)が大きくなるおそれがあった。その結果、外周ギヤの位置(真円度など)が悪化するおそれがあった。
特許文献3の技術では、第一保持部材と外周ギヤとが一体形成されているため、外周ギヤと第一保持部材とで同じ母材を用いる必要があり、外周ギヤと第一保持部材とで、それぞれに必要な特性に合わせて、材質の異なる母材を用いることができない。
【0005】
そこで、外周ギヤと保持部材とで材質の異なる母材を用いることができると共に、各部材を互いに結合する結合部の重量を軽減しつつ、結合による部材のひずみの影響を軽減できる差動歯車装置及びその製造方法の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、互いに噛合う複数の差動歯車を有する差動歯車機構と、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部材と、前記保持部材の外周に固定された外周ギヤと、を備えた差動歯車装置の特徴構成は、前記保持部材は、第一保持部材と第二保持部材とを有し、前記外周ギヤは、前記第一保持部材に取り付けられる保持部材取付部を備えるとともに、当該保持部材取付部に前記保持部材の回転軸心に平行な方向である基準軸方向の一方側に向かうに従って部材の厚さが減少する先細り部を有し、前記第一保持部材と前記外周ギヤの前記先細り部とが第一溶接部において溶接され、前記第一保持部材と前記第二保持部材とが第二溶接部において溶接され、前記第一溶接部と前記第二溶接部とは、前記基準軸方向において、前記差動歯車機構の中心位置を挟んで、互いに反対側に設けられている点にある。
【0007】
この特徴構成によれば、外周ギヤと第一保持部材とが別体とされているため、外周ギヤと第一保持部材とで、それぞれに必要な特性に合わせて、材質の異なる母材を用いることができる。従って、外周ギヤと第一保持部材のそれぞれに、適切な特性を備えさせることが容易となっている。
また、第一保持部材と外周ギヤとが溶接により結合され、第一保持部材と第二保持部材とが溶接により結合されているので、ボルトを用いた締結機構に比べて結合部の重量を軽減させることができる。
また、第一溶接部と第二溶接部とが、基準軸方向において差動歯車機構の中心位置を挟んで互いに反対側に設けられているため、第一溶接部と第二溶接部とを、中心位置を挟んだ両側に離すことができる。このため、第一溶接部における溶接により生じたひずみと、第二溶接部における溶接により生じたひずみと、を分散させて集中しないようにでき、ひずみ量(変形量)が大きくなることを抑制できる。また、第二溶接部を、第一溶接部側に設けられた外周ギヤから離すことができ、第二溶接部における溶接により生じたひずみの影響が、外周ギヤの歯面に伝わり難くできる。さらに、第一保持部材と外周ギヤの先細り部とが溶接されるため、溶接によりひずみ(変形)が生じたとしても、外周ギヤの先細り部の先端部のひずみ量(変形量)が大きくなり、第一溶接部における溶接により生じたひずみの影響も、外周ギヤの歯面に伝わり難くできる。このため、外周ギヤの歯面の位置(真円度など)の悪化を抑制でき、加工精度が悪化することを抑制できる。
【0008】
ここで、前記外周ギヤの母材は、前記第一保持部材の母材より硬度が高い材料とされていると好適である。
【0009】
この構成によれば、歯面が形成され高い硬度が求められる外周ギヤに、より硬度が高い材料が用いられ、歯面ほど応力が集中せず、また複雑な形状に成形される第一保持部材に、より硬度が低い材料が用いられる。よって、外周ギヤの母材と第一保持部材の母材とを、それぞれに必要な特性に合った材質とすることができる。
【0010】
ここで、前記外周ギヤは、少なくとも歯面に、内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有していると好適である。
【0011】
この構成によれば、少なくとも歯面に浸炭層を有しているので、歯面の硬度を向上させることができる。また、外周ギヤは、第一保持部材とは別体であるため、浸炭層を形成する際、外周ギヤ単体で浸炭処理及び焼入れ処理を行うことができる。従って、第一保持部材の防炭処理が不要になるなど、浸炭処理及び焼入れ処理の製造コストを低減することができる。
【0012】
ここで、前記第一保持部材、前記第二保持部材、及び前記外周ギヤは、鍛造部品であると好適である。
【0013】
この構成によれば、各部材は、鍛造部品であるため、鋳造部品の場合よりも、部材間の溶接が容易となり、溶接部の強度を確保することできる。また、必要な強度を確保しつつ各部の肉厚を鋳造部品の場合よりも薄くして軽量化を図ることが容易となる。
【0014】
ここで、前記第一保持部材は、前記中心位置側から前記基準軸方向の一方側に向かうに従って部材の厚さが減少する第一先細り部を備え、前記第一溶接部が、前記第一先細り部の先端部と前記外周ギヤの前記先細り部の先端部とに亘って設けられていると好適である。
【0015】
ここで、前記第一保持部材は、前記中心位置側から前記基準軸方向の他方側に向かうに従って部材の厚さが減少する第二先細り部を備えていると好適である。
この構成によれば、第二溶接部における溶接によりひずみ(変形)が生じたとしても、先細り部の先端部のひずみ量(変形量)が大きくなり、先細り部の根元(部材が厚さが厚い側)に向かうに従ってひずみ量が減少していく。このように、先細り部の先端部が変形することによって、第二溶接部によるひずみの影響を吸収し、第二溶接部によるひずみの影響が、外周ギヤの歯面など他の部分に伝わり難くすることができる。
【0016】
ここで、前記差動歯車機構は、前記第一保持部材により保持された軸であってその軸心が前記保持部材の回転軸心に直交交差する第一回転軸と、当該第一回転軸により前記保持部材に対して回転可能に支持された第一傘歯車と、前記保持部材に対して回転可能に支持されている共に前記第一傘歯車に噛み合う第二傘歯車と、を有し、前記第一溶接部と前記第二溶接部とは、前記基準軸方向において、前記第一回転軸を挟んで、互いに反対側に設けられていると好適である。
【0017】
この構成によれば、第一回転軸により支持された第一傘歯車と、第一傘歯車に噛み合う第二傘歯車とを有する差動歯車機構において、第一溶接部と第二溶接部とを、差動歯車機構の中心位置にある第一回転軸を挟んだ両側に適切に離して配置することができる。
この場合において、前記第一溶接部と前記第二溶接部とは、前記基準軸方向において、前記差動歯車機構を構成する前記第一回転軸と前記第一傘歯車と前記第二傘歯車の本体部との全体を挟んで、互いに反対側に設けられていると好適である。
【0018】
ここで、前記第二溶接部は、前記保持部材と前記第一傘歯車との摺動面に対して、前記基準軸方向における前記第一回転軸から離れる側に設けられていると好適である。
【0019】
この構成によれば、保持部材と第一傘歯車との摺動面が、第一保持部材側に設けられるので、摺動面の加工が容易になる。また、第二溶接部における溶接により、摺動面へ影響が及ぶことを抑制できる。
【0020】
ここで、前記第一保持部材は、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部を避けて形成された切欠部を有し、前記切欠部は、前記第一溶接部側から前記第二溶接部側に向かう方向に開口すると好適である。
【0021】
第一保持部材の第一溶接部側では、外周ギヤとの間で力が作用するため第一保持部材の強度が必要であるが、第二溶接部側では外周ギヤとの間で力が作用しないため第二保持部材の強度を第一溶接部側よりも低下させることができる。上記の構成によれば、切欠部は、第一溶接部側から第二溶接部側に向かう方向に開口しているため、強度を低下させることができる第二溶接部側に開口させて、適切に差動歯車装置の軽量化を図ることができる。また、この際、切欠部は、複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部を避けて形成されるので、保持部の強度を維持することができる。
【0022】
また、本発明に係る、互いに噛合う複数の差動歯車を有する差動歯車機構と、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する部材であって第一保持部材と第二保持部材とを有する保持部材と、前記保持部材の外周に固定された外周ギヤと、を備え、前記外周ギヤが、前記第一保持部材に取り付けられる保持部材取付部を備えるとともに、当該保持部材取付部に前記保持部材の回転軸心に平行な方向である基準軸方向の一方側に向かうに従って部材の厚さが減少する先細り部を有する差動歯車装置の製造方法の特徴構成は、前記第一保持部材と前記外周ギヤの前記先細り部とを溶接する第一溶接工程と、前記第一溶接工程の後、前記外周ギヤの歯面を研磨する歯研磨工程と、前記歯研磨工程の後、前記第一保持部材に前記複数の差動歯車を組み付ける歯車組付工程と、前記歯車組付工程の後、前記基準軸方向における、前記第一溶接工程の溶接部に対して前記差動歯車機構の中心位置を挟んだ反対側で、前記第一保持部材と前記第二保持部材とを溶接する第二溶接工程と、を行う点にある。
【0023】
この製造方法により製造された差動歯車装置も、上述した差動歯車装置に係る作用効果を得ることができる。
特に、上記の製造方法によれば、第一保持部材と外周ギヤとが第一溶接部において溶接された後に、外周ギヤの歯面が研磨されるので、第一溶接部における溶接によりひずんだ歯面を研磨により修正し、加工精度を向上させることができる。この研磨の段階では、第一保持部材に複数の差動歯車が組み付けられていなので、研磨及び研磨後の洗浄を行い易い。
その後、第一保持部材と第二保持部材とが溶接される第二溶接部は、第一溶接部側に設けられた外周ギヤから離れているので、第二溶接部により生じたひずみの影響が、研磨された外周ギヤの歯面に伝わり難くできる。従って、研磨後に外周ギヤの加工精度が悪化することを抑制できる。
【0024】
ここで、前記第一溶接工程の前に、前記外周ギヤの少なくとも歯面に、浸炭処理及び焼入れ処理を行うと好適である。
【0025】
この構成によれば、外周ギヤが第一保持部材に溶接される前の段階で、外周ギヤ単体で浸炭処理及び焼入れ処理を行うことができ、第一保持部材の防炭処理が不要になるなど、浸炭処理及び焼入れ処理の製造コストを低減することができる。
【0026】
ここで、前記外周ギヤ、前記第一保持部材、及び前記第二保持部材を鍛造により成形する鍛造成形工程を行うと好適である。
【0027】
この構成によれば、各部材は、鍛造により成形されるため、鋳造により成形される場合よりも、部材間の溶接が容易になり、溶接部の強度を確保することできる。また、必要な強度を確保しつつ各部の肉厚を鋳造の場合よりも薄くして軽量化を図ることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る差動歯車装置の断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る差動歯車装置の側面図である。
図3】本発明の実施形態に係る差動歯車装置の製造方法に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る差動歯車装置1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、差動歯車装置1の断面図であり、図2は、差動歯車装置1の側面図である。
差動歯車装置1は、互いに噛合う複数の差動歯車2を有する差動歯車機構3と、複数の差動歯車2の回転軸4を保持する保持部材CAと、保持部材CAの外周に固定された外周ギヤRGと、を備えている。
保持部材CAは、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とを有している。第一保持部材CA1と外周ギヤRGとが第一溶接部W1において溶接されている。第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とが第二溶接部W2において溶接されている。第一溶接部W1と第二溶接部W2とは、保持部材CAの回転軸心Aに平行な方向である基準軸方向Xにおいて、差動歯車機構3の中心位置Cを挟んで、互いに反対側に設けられている。
【0030】
上記のように、保持部材CA及び保持部材CAと一体回転する外周ギヤRGの回転軸心Aに平行な方向を基準軸方向Xと定義する。基準軸方向Xにおいて、第二溶接部W2側から第一溶接部W1側に向かう方向を基準軸第一方向X1と定義し、基準軸第一方向X1の反対方向である、第一溶接部W1側から第二溶接部W2側に向かう方向を基準軸第二方向X2と定義する。
以下、本実施形態に係る差動歯車装置1について詳細に説明する。
【0031】
1.差動歯車装置1の概略構成
<差動歯車機構3>
差動歯車機構3は、互いに噛合う複数の差動歯車2を有する歯車機構である。
本実施形態では、差動歯車機構3は、互いに噛み合う傘歯車であるピニオンギヤPG及びサイドギヤSGを用いた差動歯車機構とされている。
具体的には、差動歯車機構3は、保持部材CAにより保持された軸であってその軸心が保持部材CAの回転軸心Aに直交交差するピニオン回転軸PSと、当該ピニオン回転軸PSにより保持部材CAに対して回転可能に支持されたピニオンギヤPGと、保持部材CAに対して回転可能に支持されている共にピニオンギヤPGに噛み合うサイドギヤSGと、を有している。
ここで、ピニオンギヤPGが、本発明における「第一傘歯車」に相当し、サイドギヤSGが、本発明における「第二傘歯車」に相当し、ピニオン回転軸PSが、本発明における「第一回転軸」に相当する。
【0032】
本実施形態では、差動歯車機構3は、ピニオン回転軸PSを挟んで基準軸方向Xの両側に、歯面が向き合って配置される一対の第一サイドギヤSG1及び第二サイドギヤSG2と、当該2つのサイドギヤSG1、SG2の双方に噛み合うと共に保持部材CAの回転軸心Aを挟んでピニオン回転軸PSの軸方向の両側に、歯面が向き合って配置される一対の第一ピニオンギヤPG1及び第二ピニオンギヤPG2を有している。各サイドギヤSG1、SG2は、保持部材CAの回転軸心Aと同軸上に配置される。各サイドギヤSG1、SG2は、保持部材CAにより回転可能に支持された円筒状の回転軸部50と、回転軸部50に固定された円錐状の傘歯車部51とを備えている。
【0033】
各ピニオンギヤPG1、PG2は、保持部材CAと共に回転(公転)すると共に、ピニオン回転軸PS周りに回転(自転)するように構成されている。各ピニオンギヤPG1、PG2は、基準軸方向X両側の2つのサイドギヤSG1、SG2の双方と噛み合っている。保持部材CAが回転すると、保持部材CAと共に回転するピニオンギヤPG1、PG2を介して、基準軸方向X両側の2つのサイドギヤSG1、SG2が回転する。ここで、各ピニオンギヤPG1、PG2は、ピニオン回転軸PS周りに回転(自転)することにより、2つのサイドギヤSG1、SG2を差動動作させる。
【0034】
保持部材CAは、非回転部材であるケース部材(不図示)に対して回転可能に支持されている。外周ギヤRGは、保持部材CAと一体回転するように連結されている。外周ギヤRGは、駆動力源に連結された出力ギヤ(不図示)に噛み合わされる。各サイドギヤSG1、SG2はそれぞれ、車輪に接続された車軸(不図示)と一体回転するように連結される。
差動歯車装置1は、駆動力源の出力ギヤから外周ギヤRGに伝達された回転及びトルクを保持部材CAに伝達し、保持部材CAに伝達された回転及びトルクを、保持部材CAが保持するピニオンギヤPG1、PG2を介して、基準軸方向X両側の2つのサイドギヤSG1、SG2に分配して伝達する。各サイドギヤSG1、SG2に伝達された回転及びトルクはそれぞれ、車軸を介して車輪に伝達される。
【0035】
2.差動歯車装置1の詳細構成
<各部材の材質など>
保持部材CAは、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とを有している。
第一保持部材CA1と外周ギヤRGとが第一溶接部W1において溶接されており、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とが第二溶接部W2において溶接されている。
第一保持部材CA1、第二保持部材CA2、及び外周ギヤRGは、鍛造による塑性変形によって成形された鍛造部品とされており、炭素濃度が高い鋳造部品と比較して、互いに溶接することが容易になっている。
【0036】
第一保持部材CA1は、鍛造部品であり、鋳造部品よりも単位質量当たりの強度が高いため、軽量化及び小型化を図ることができる。本実施形態では、図2に示すように、第一保持部材CA1は、複数の差動歯車2の回転軸4を保持する保持部26を避けて形成された切欠部31を有しており、切欠部31は、第一溶接部W1側から第二溶接部W2側に向かう方向(基準軸第二方向X2)に開口している。本実施形態では、切欠部31は、ピニオン回転軸PSを保持する保持部26(本例では貫通孔)が設けられていない周方向の位置で、外周ギヤRGを支持するギヤ取付部21の基準軸第二方向X2側の端部から基準軸第二方向X2に延びて、基準軸第二方向X2側の端部に開口している。切欠部31は、ピニオン回転軸PSを保持する保持部26に対して基準軸第一方向X1側まで延びている。
【0037】
外周ギヤRGと第一保持部材CA1は、それぞれに必要な特性に合った材質を用いることができるように別体とされている。外周ギヤRGには歯面65が形成され応力が集中するため高い硬度が求められる。第一保持部材CA1は、摺動面で各傘歯車を支持するなど、歯面65ほど応力が集中せず、また複雑な形状に塑性変形させる必要があるため、外周ギヤRGに比べて求められる硬度が低い。よって、外周ギヤRGの母材は、第一保持部材CA1の母材より硬度が高い材料とされている。
【0038】
また、第二保持部材CA2は、第二サイドギヤSG2を保持するので、第一サイドギヤSG1に加えてピニオンギヤPG1、PG2及び外周ギヤRGを保持する第一保持部材CA1に比べて求められる硬度が低い。よって、第二保持部材CA2の母材の硬度は、第一サイドギヤSG1の母材の硬度と同じか、それより低くされている。
【0039】
外周ギヤRGの母材として、クロムモリブデン鋼(例えば、日本工業規格(JIS)のSCM420H)などが用いられる。第一保持部材CA1として、炭素鋼(例えば、日本工業規格(JIS)のS45C、S35C)などが用いられる。第二保持部材CA2として、炭素鋼(例えば、日本工業規格(JIS)のS35C、S15C)などが用いられる。
【0040】
外周ギヤRGは、少なくとも歯面65に、内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有している。このような浸炭層は、浸炭処理及び焼入れ処理により形成される。外周ギヤRGは、第一保持部材CA1と別体であるため、外周ギヤRGのみを対象として、浸炭処理及び焼入れ処理を行うことができる。
【0041】
<溶接部W1、W2に係る配置構成>
第一溶接部W1と第二溶接部W2とは、基準軸方向Xにおいて、差動歯車機構3の中心位置Cを挟んで、互いに反対側に設けられている。本実施形態では、差動歯車機構3の中心位置Cに、ピニオン回転軸PSが配置されている。そして、第一溶接部W1と第二溶接部W2とは、基準軸方向Xにおいて、ピニオン回転軸PSを挟んで、互いに反対側に設けられている。
【0042】
第一保持部材CA1は、ピニオン回転軸PSの基準軸方向Xの両側に跨って延びている。外周ギヤRG及びその第一溶接部W1は、ピニオン回転軸PSに対して基準軸第一方向X1側に配置されている。第二保持部材CA2及びその第二溶接部W2は、ピニオン回転軸PSに対して基準軸第二方向X2側に配置されている。
【0043】
第一保持部材CA1は、ピニオン回転軸PS及びピニオンギヤPG1、PG2並びに第一サイドギヤSG1を保持している。第二保持部材CA2は、第二サイドギヤSG2を保持している。
第一保持部材CA1は、ピニオンギヤPG1、PG2の径方向外側を覆うように基準軸方向Xに延出しているピニオンギヤ支持部27を備えている。ここで、径方向外側は、保持部材CAの回転軸心Aについての径方向外側である。本実施形態では、ピニオンギヤ支持部27の径方向内側の面は、ピニオンギヤPG1、PG2の径方向外側の面(歯面と反対側の面)と接触しており、当該ピニオンギヤPG1、PG2と摺動する摺動面22となっている。本実施形態では、ピニオンギヤPG1、PG2の径方向外側の面は、径方向外側に突出する球面状となっており、第一保持部材CA1の摺動面22も対応する球面状となっている。従って、摺動面22は、ピニオンギヤPG1、PG2の径方向外側の面全体と接する。
【0044】
第一保持部材CA1は、ピニオンギヤ支持部27に対して基準軸第一方向X1側に、第一サイドギヤSG1を回転可能に支持するサイドギヤ支持部28を備えている。本実施形態では、サイドギヤ支持部28は、ピニオンギヤ支持部27の基準軸第一方向X1側の端部から径方向内側に延出した円環板状のギヤ支持壁部24と、当該ギヤ支持壁部24の径方向内側の端部から基準軸第一方向X1側に延出した円筒状のギヤ支持ボス部25と、を備えている。ギヤ支持壁部24の基準軸第二方向X2側の面が、第一サイドギヤSG1の傘歯車部51の基準軸第一方向X1側の面(歯面と反対側の面)と摺動する摺動面となっている。ギヤ支持ボス部25の内周面が、第一サイドギヤSG1の回転軸部50の外周面を回転可能に支持している。ギヤ支持ボス部25の外周面が、軸受を介して非回転部材であるケースにより回転可能に支持される(不図示)。第一サイドギヤSG1の回転軸部50の内周面に車軸の外周面がスプライン嵌合される(不図示)。
【0045】
ピニオンギヤ支持部27の基準軸第二方向X2側の端部が、基準軸第二方向X2に向けて開口した端部延出部23となっており、当該端部延出部23に第二保持部材CA2が取り付けられている。
【0046】
第二保持部材CA2は、第一保持部材CA1の端部延出部23に取り付けられる部分から、径方向内側に延出した円環板状のギヤ支持壁部40と、当該ギヤ支持壁部40の径方向内側の端部から基準軸第二方向X2側に延出した円筒状のギヤ支持ボス部41と、を備えている。ギヤ支持壁部40の基準軸第一方向X1側の面が、第二サイドギヤSG2の傘歯車部51の基準軸第二方向X2側の面(歯面と反対側の面)と摺動する摺動面となっている。ギヤ支持ボス部41の内周面が、第二サイドギヤSG2の回転軸部50の外周面を回転可能に支持している。ギヤ支持ボス部41の外周面が、軸受を介して非回転部材であるケースにより回転可能に支持される(不図示)。第二サイドギヤSG2の回転軸部50の内周面に車軸の外周面がスプライン嵌合される(不図示)。
【0047】
<第二溶接部W2の配置構成>
第二溶接部W2における溶接により生じた部材のひずみが、外周ギヤRGの歯面65や、第一保持部材CA1におけるピニオンギヤPG1、PG2の支持部や、第一保持部材CA1における第一サイドギヤSG1の支持部などにできるだけ影響しないように、第二溶接部W2が、外周ギヤRGなどからできるだけ離れるように配置される。外周ギヤRGの歯面65や各ギヤの支持部は、ピニオン回転軸PSに対して基準軸第一方向X1側、又はピニオン回転軸PSの周囲に配置されているので、第二溶接部W2を、ピニオン回転軸PSから基準軸第二方向X2側にできるだけ離して配置すればよい。
【0048】
本実施形態では、第二溶接部W2は、保持部材CAとピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22に対して、基準軸方向Xにおけるピニオン回転軸PSから離れる側(基準軸第二方向X2側)に設けられている。なお、第二保持部材CA2とピニオンギヤPG1、PG2とは接しておらず、第二保持部材CA2は、ピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22を備えていない。第一保持部材CA1が、ピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22を備えている。
【0049】
ピニオンギヤ支持部27は、ピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22に対して基準軸第二方向X2側に延出しており、当該延出部が、第二保持部材CA2が取り付けられる端部延出部23とされている。端部延出部23の内周面は、切欠部31が設けられた断続的な円筒状に形成されており、端部延出部23の内周面に第二保持部材CA2のギヤ支持壁部40の外周面が嵌合している。そして、第二溶接部W2は、端部延出部23の内周面とギヤ支持壁部40の外周面との当接部における基準軸第二方向X2側の端部に形成されている。すなわち、第二溶接部W2は、摺動面22に対して基準軸第二方向X2側に延出するピニオンギヤ支持部27における基準軸第二方向X2側の端部に設けられている。
このように、第一保持部材CA1は、第二溶接部W2をピニオン回転軸PSから基準軸第二方向X2側にできるだけ離すため、摺動面22に対して基準軸第二方向X2側に延出するよう構成されている。
【0050】
また、第一保持部材CA1は、基準軸方向Xに沿って中心位置C側から第二保持部材CA2との第二溶接部W2に向かうに従って、部材の厚さが減少する先細り部20を備えている。
本実施形態では、端部延出部23が、先細り部20とされている。すなわち、端部延出部23は、基準軸第二方向X2に向かうに従って、径方向の部材の厚さが減少するように形成されている。このため、端部延出部23は、基準軸第二方向X2に向かうに従って、変形し易くなっている。第二溶接部W2は、この部材の厚さが減少した先細り部20の先端部(基準軸第二方向X2側の端部)に設けられている。
【0051】
第二溶接部W2における溶接によりひずみ(変形)が生じたとしても、先細り部20の先端部のひずみ量(変形量)が大きくなり、先細り部20の根元(基準軸第一方向X1側)に向かうに従ってひずみ量が減少していく。このように、先細り部20の先端部が変形することによって、溶接によるひずみの影響を吸収し、先細り部20の基準軸第一方向X1側にひずみの影響が伝わらないようにできる。
【0052】
<第一溶接部W1の配置構成>
第一保持部材CA1は、ピニオン回転軸PSに対して基準軸第一方向X1側に、外周ギヤRGが取り付けられるギヤ取付部21を備えている。本実施形態では、ギヤ取付部21は、ピニオンギヤ支持部27におけるピニオン回転軸PSに対して基準軸第一方向X1側の部分から、径方向外側及び基準軸第一方向X1側に延出している。ギヤ取付部21は、外周ギヤRGが嵌合される取付け嵌合面29を備えている。本実施形態では、取付け嵌合面29は、ギヤ取付部21の径方向外側に設けられた円筒状の外周面とされており、保持部材CAの回転軸心Aと同軸上に配置されている。
【0053】
外周ギヤRGは、第一保持部材CA1に取り付けられる保持部材取付部63を備えている。保持部材取付部63は、ギヤ取付部21の取付け嵌合面29と嵌合されるギヤ嵌合面60を備えている。本実施形態では、ギヤ嵌合面60は、保持部材取付部63の径方向内側に設けられた円筒状の内周面とされており、保持部材CAの回転軸心Aと同軸上に配置されている。また、保持部材取付部63は、ギヤ嵌合面60に対して基準軸第二方向X2側において径方向内側に突出し、ギヤ取付部21の基準軸第二方向X2側の面に当接する円筒状のフランジ部61を備えている。
【0054】
第一溶接部W1は、取付け嵌合面29とギヤ嵌合面60との当接部における基準軸第一方向X1側の端部に形成されている。すなわち、第一溶接部W1は、ピニオンギヤ支持部27から基準軸第一方向X1に延出しているギヤ取付部21における基準軸第一方向X1側の端部に設けられている。これにより、第一溶接部W1を、第一保持部材CA1におけるピニオンギヤPG1、PG2の支持部、第一サイドギヤSG1の支持部、及び第二溶接部W2からできるだけ離して、第一溶接部W1における溶接により生じた部材のひずみが、これらにできるだけ影響しないようにできる。
【0055】
本実施形態では、ギヤ取付部21は、第一溶接部W1が設けられた基準軸第一方向X1に向かうに従って、部材の厚さが減少する先細り部30を備えている。また、保持部材取付部63も、第一溶接部W1が設けられた基準軸第一方向X1に向かうに従って、部材の厚さが減少する先細り部62を備えている。このため、ギヤ取付部21及び保持部材取付部63は、基準軸第一方向X1に向かうに従って、変形し易くなっている。第一溶接部W1は、この部材の厚さが減少した先細り部30、62の先端部(基準軸第一方向X1側の端部)に設けられている。
【0056】
第一溶接部W1における溶接によりひずみ(変形)が生じたとしても、先細り部30、62の先端部のひずみ量(変形量)が大きくなり、先細り部30、62の根元(基準軸第二方向X2側)に向かうに従ってひずみ量が減少していく。このように、先細り部30、62の先端部が変形することによって、溶接によるひずみの影響を吸収し、先細り部30、62の基準軸第二方向X2側にひずみの影響が伝わらないようにできる。
【0057】
外周ギヤRGは、歯面65を形成する歯部64を有している。本実施形態では、歯部64は、保持部材取付部63から径方向外側に延出しており、円筒状に形成されている。歯部64は、保持部材CAの回転軸心Aと同軸上に配置されている。歯面65は、歯部64の外周面に形成されている。
【0058】
3.差動歯車装置1の製造方法
差動歯車装置1は、図3に示すように、第一溶接工程♯03、歯研磨工程♯04、歯車組付工程♯05、及び第二溶接工程♯06などを備えた製造方法により生産される。
第一溶接工程♯03では、第一保持部材CA1と外周ギヤRGとを溶接する。歯研磨工程♯04では、第一溶接工程♯03の後、外周ギヤRGの歯面65を研磨する。歯車組付工程♯05では、歯研磨工程♯04の後、第一保持部材CA1に複数の差動歯車2を組み付ける。第二溶接工程♯06では、歯車組付工程♯05の後、保持部材CAの回転軸心Aに平行な方向である基準軸方向Xにおける、第一溶接工程♯03の溶接部(第一溶接部W1)に対して差動歯車機構3の中心位置Cを挟んだ反対側(基準軸第二方向X2側)で、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とを溶接する。
【0059】
本実施形態では、差動歯車装置1の製造方法は、第一溶接工程♯03の前に、外周ギヤRG、第一保持部材CA1及び第二保持部材CA2を鍛造により成形する鍛造成形工程♯01を備えている。また、差動歯車装置1の製造方法は、鍛造成形工程♯01の後であって、第一溶接工程♯03の前に、外周ギヤRGの少なくとも歯面65に、浸炭処理及び焼入れ処理を行う浸炭焼入れ処理工程♯02を備えている。
【0060】
鍛造成形工程♯01では、上述したように、外周ギヤRG、第一保持部材CA1、及び第二保持部材CA2のそれぞれに必要とされる特性に合った、外周ギヤRG用の母材、第一保持部材CA1用の母材、及び第二保持部材CA2の母材を、それぞれ用意する。その後、各母材を鍛造により塑性変形させて、各部材を成形する。鍛造成形の後、外周ギヤRGの歯面65、並びに各部材の嵌合面及び摺動面などの加工精度が必要な部分は、切削加工によって成形する。
【0061】
浸炭焼入れ処理工程♯02では、外周ギヤRGに対して浸炭処理及び焼入れ処理を行って、少なくとも外周ギヤRGの歯面65に、内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を形成する。
【0062】
第一溶接工程♯03では、第一保持部材CA1に外周ギヤRGを組み付けた後、第一溶接部W1において第一保持部材CA1と外周ギヤRGとを溶接する。本実施形態では、第一保持部材CA1の取付け嵌合面29と外周ギヤRGのギヤ嵌合面60とを嵌合させた後、レーザ溶接機のレーザ光線が、基準軸第一方向X1側から、取付け嵌合面29とギヤ嵌合面60との当接部に向けて照射される。そして、取付け嵌合面29とギヤ嵌合面60との当接部における、基準軸第一方向X1側の端部が、溶接されて第一溶接部W1が形成される。この溶接の際、第一保持部材CA1を溶接装置の支持機構に取り付けた後、第一保持部材CA1を回転させたり、レーザ溶接機を周方向に移動させたりして、当接部を周方向に溶接する。溶接機には、レーザ溶接の他、電子ビーム溶接、摩擦攪拌溶接、プラズマ溶接、TIG溶接などを用いてもよい。
【0063】
歯研磨工程♯04では、第一溶接部W1における溶接により生じたひずみ等を修正するために、外周ギヤRGの歯面65を研磨する。この際、第一保持部材CA1の嵌合面及び摺動面なども、溶接によるひずみ等を修正するために研磨するようしてもよい。また、研磨の後、研磨により生じた切屑を除去するために、外周ギヤRG及び第一保持部材CA1の洗浄を行う。
【0064】
歯車組付工程♯05では、歯研磨工程♯04の後、第一保持部材CA1に複数の差動歯車2を組み付ける。本実施形態では、まず、第一サイドギヤSG1を、第一保持部材CA1(端部延出部23)の基準軸第二方向X2側の開口部から第一保持部材CA1内に挿入して、組み付ける。その後、ピニオンギヤPG1、PG2を、第一保持部材CA1の開口部から、第一保持部材CA1内に挿入し配置した後、ピニオン回転軸PSを、第一保持部材CA1の貫通孔及びピニオンギヤPG1、PG2の貫通孔に挿入し、その後、ピニオン回転軸PSを、かしめなどにより第一保持部材CA1に固定する。そして、第二サイドギヤSG2を、第一保持部材CA1の開口部から第一保持部材CA1内に挿入し配置する。
【0065】
第二溶接工程♯06では、第一保持部材CA1に第二保持部材CA2を組み付けた後、基準軸方向Xにおいて、第一溶接部W1に対してピニオン回転軸PSを挟んだ反対側に配置される第二溶接部W2において、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とを溶接する。本実施形態では、第一保持部材CA1の端部延出部23の内周面と、第二保持部材CA2のギヤ支持壁部40の外周面とを嵌合させた後、レーザ溶接機のレーザ光線が、基準軸第二方向X2側から、端部延出部23の内周面とギヤ支持壁部40の外周面との当接部に向けて照射される。そして、端部延出部23の内周面とギヤ支持壁部40の外周面との当接部における、基準軸第二方向X2側の端部が、溶接されて第二溶接部W2が形成される。この溶接の際、第一保持部材CA1を溶接装置の支持機構に取り付けた後、第一保持部材CA1を回転させたり、レーザ溶接機を周方向に移動させたりして、当接部を周方向に溶接する。溶接機には、レーザ溶接の他、電子ビーム溶接、摩擦攪拌溶接、プラズマ溶接、TIG溶接などを用いてもよい。
【0066】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0067】
(1)上記の実施形態において、外周ギヤRGの母材が、第一保持部材CA1の母材より硬度が高い材料とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、外周ギヤRGの母材は、第一保持部材CA1の母材と同じ材料、又はそれより硬度が低い材料とされていてもよい。
【0068】
(2)上記の実施形態において、外周ギヤRGが、少なくとも歯面65に、内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、外周ギヤRGは、歯面65以外の部分にも、浸炭層を有してもよく、或いは、歯面65に浸炭層を有していなくてもよい。
【0069】
(3)上記の実施形態において、第一保持部材CA1、第二保持部材CA2、及び外周ギヤRGは、鍛造部品である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一保持部材CA1、第二保持部材CA2、及び外周ギヤRGの内の1つ又は複数が、鍛造以外の方法、例えば、鋳造や削り出しなどにより成形された部品であってもよい。
【0070】
(4)上記の実施形態において、第一保持部材CA1は、基準軸方向Xに沿って中心位置C側から第二溶接部W2に向かうに従って、部材の厚さが減少する先細り部20を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一保持部材CA1は、先細り部20を備えておらず、基準軸方向Xに沿って中心位置C側から第二溶接部W2に向かうに従って、部材の厚さが変化しないように構成されてもよく、反対に部材の厚さが増加するように構成されてもよい。
【0071】
(5)上記の実施形態において、第一保持部材CA1の基準軸第二方向X2側の端部(端部延出部23)の内周面に、第二保持部材CA2の外周面が嵌合し、内周面と外周面との当接部における基準軸第二方向X2側の端部が溶接されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第二溶接部W2は、基準軸方向Xにおいて、差動歯車機構3の中心位置Cを挟んで、第一溶接部W1とは反対側に設けられていればよく、例えば、第一保持部材CA1の基準軸第二方向X2側の端面に、第二保持部材CA2の基準軸第一方向X1側の端面が接した状態で、端面同士の当接部における径方向外側の端部が溶接され、第二溶接部W2とされていてもよい。
【0072】
(6)上記の実施形態において、第一溶接部W1が、取付け嵌合面29とギヤ嵌合面60との当接部における基準軸第一方向X1側の端部に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一溶接部W1は、基準軸方向Xにおいて、差動歯車機構3の中心位置Cを挟んで、第二溶接部W2とは反対側に設けられていればよく、例えば、第一溶接部W1は、取付け嵌合面29とギヤ嵌合面60との当接部における基準軸第二方向X2側の端部に形成されていてもよい。
【0073】
(7)上記の実施形態において、第二溶接部W2は、保持部材CAとピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22に対して、基準軸方向Xにおけるピニオン回転軸PSから離れる側(基準軸第二方向X2側)に設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第二溶接部W2は、基準軸方向Xにおいて、差動歯車機構3の中心位置Cを挟んで、第一溶接部W1とは反対側に設けられていればよく、例えば、保持部材CAとピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22におけるピニオン回転軸PSに対して基準軸第二方向X2側の部分と径方向に見て重複する位置に設けられていてもよい。この場合は、第二保持部材CA2も、ピニオンギヤPG1、PG2との摺動面22を備えており、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2との当接部が、第一保持部材CA1の摺動面22と第二保持部材CA2の摺動面22との間に位置していてもよい。
【0074】
(8)上記の実施形態において、第一保持部材CA1は、切欠部31を有している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一保持部材CA1は、切欠部31を有していなくてもよい。
【0075】
(9)上記の実施形態において、切欠部31が、周方向の2カ所に設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、切欠部31は、周方向に、1か所以上の任意の数だけ設けられていてもよい。
【0076】
(10)上記の実施形態において、第一保持部材CA1と外周ギヤRGとが、溶接により第一溶接部W1で結合され、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2とが、溶接により第二溶接部W2で結合されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一保持部材CA1と外周ギヤRGとは、溶接以外の方法、例えば、圧入や、焼き嵌めや、かしめ等により結合されていてもよい。また、圧入や焼き嵌めに際しては、その圧入部をスプライン形状にしてもよい。
この場合においても、第一保持部材CA1と第二保持部材CA2との結合部である第二溶接部W2を、外周ギヤRGから離すことができ、第二溶接部W2における溶接により生じたひずみの影響が、外周ギヤRGの歯面65に伝わり難くでき、外周ギヤRGの歯面65の位置(真円度など)の精度が悪化することを抑制でき、また、その後の加工における加工精度が悪化することを抑制できるという、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、互いに噛合う複数の差動歯車を有する差動歯車機構と、前記複数の差動歯車の回転軸を保持する保持部材と、前記保持部材の外周に固定された外周ギヤと、を備えた差動歯車装置及びその製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 :差動歯車装置
2 :差動歯車
3 :差動歯車機構
4 :差動歯車の回転軸
20 :先細り部
21 :ギヤ取付部
22 :保持部材とピニオンギヤとの摺動面
23 :端部延出部
24 :ギヤ支持壁部
27 :ピニオンギヤ支持部
29 :取付け嵌合面
31 :切欠部
65 :外周ギヤの歯面
A :保持部材の回転軸心
C :差動歯車機構の中心位置
CA :保持部材
CA1 :第一保持部材
CA2 :第二保持部材
PG :ピニオンギヤ(第一傘歯車)
PG1 :第一ピニオンギヤ
PG2 :第二ピニオンギヤ
PS :ピニオン回転軸(第一回転軸)
RG :外周ギヤ
SG :サイドギヤ(第二傘歯車)
SG1 :第一サイドギヤ
SG2 :第二サイドギヤ
W1 :第一溶接部
W2 :第二溶接部
X :基準軸方向
X1 :基準軸第一方向
X2 :基準軸第二方向
図1
図2
図3