特許第6187293号(P6187293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187293
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】非水系二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20170821BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170821BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170821BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M4/58
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-24058(P2014-24058)
(22)【出願日】2014年2月12日
(65)【公開番号】特開2015-153484(P2015-153484A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−053083(JP,A)
【文献】 特開平10−289729(JP,A)
【文献】 特開平06−290811(JP,A)
【文献】 特開2012−252839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36−10/39
H01M 4/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液と、前記正極、前記負極、及び前記非水電解液を収容したケースとを備える非水系二次電池の組付体(以下、「電池組付体」という)に、前記電池組付体の電圧が定格電圧以上4.2V以下の範囲に到達するように初回充電を行う初回充電工程と、
前記初回充電工程を行った後から12時間未満にエージング処理を開始し、前記エージング処理では前記電池組付体を40℃以上50℃以下の高温環境に所定時間保持する高温保持工程と、
前記エージング処理を行った前記電池組付体に、前記電池組付体の電圧が4.2Vを超える範囲に到達するまで充電を行い、その後放電を行うコンディショニング処理を行う充放電工程と、を有し、
前記エージング処理での前記電池組付体の高温環境での保持時間は、10時間以上72時間未満であり、
前記初回充電工程と前記エージング処理との間では充放電処理を行わないことを特徴とする非水系二次電池の製造方法(ただし、非水電解液に、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、及びプロパンスルトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(A)と、無水マレイン酸、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及びLiBFからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(B)とを含む非水系二次電池の製造方法を除く。)。
【請求項2】
前記初回充電工程での初回充電の充電レートは、0.1C以上1C以下である請求項1記載の非水系二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記充放電工程のコンディショニング処理の充電は、前記電池組付体の電圧が4.2Vを超え且つ4.6V以下の範囲に到達するまで行う請求項1又は2に記載の非水系二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記充放電工程でのコンディショニング処理の充電レートは、0.1C以上2C以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記コンディショニング処理を行う雰囲気は、40℃未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質は、リチウム金属複合酸化物及びポリアニオン系化合物の群から選ばれる1種以上を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水系二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧での使用が可能な非水系二次電池を製造する非水系二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。この要望に応える高容量二次電池として、正極材料としてリチウム複合金属酸化物、負極材料としては炭素系材料を用いた非水系二次電池が開発されている。
【0003】
正極活物質として用いられるリチウム複合金属酸化物には、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3が挙げられる。
【0004】
ところで、非水系二次電池の一般的な電圧上限値は4.2Vであるが、4.2Vを超える電圧まで充電することが検討されている(特許文献4参照)。このような高電圧の充電は正極に過剰な負荷を与え、正極活物質の構造に損傷が生じて、抵抗の増加やサイクル特性の低下を引き起こすことが懸念される。
【0005】
非水系二次電池では、充放電サイクル特性を向上させるために、所定条件下で初回の充放電(コンディショニング処理)を行うことが提案されている。例えば、特許文献1では、初回の充放電を、35〜80℃で行うことが提案されている。特許文献2では、初回の充電の条件を、充電電圧4.2〜4.75V、充電時間10〜20分とすることが提案されている。特許文献3では、電解液にLiBOBが含まれる場合、BOBアニオンの酸化分解生成物の皮膜が正極活物質表面に形成される高電圧範囲に属するまで充電処理を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−230779号公報
【特許文献2】特開2009−238433号公報
【特許文献3】特開2009−252489号公報
【特許文献4】特開2012−160435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に開示されている条件で初回の充放電を行っても、高電圧下での電池使用の際に、正極活物質の構造損傷が生じて、サイクル特性の向上を図ることができない。
【0008】
そこで、本発明者は、高電圧下での使用でもサイクル特性に優れた非水系二次電池を開発するべく、初回充放電の条件を鋭意研究した。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、サイクル特性に優れた非水系二次電池を製造するための非水系二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の非水系二次電池の製造方法は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液と、前記正極、前記負極、及び前記非水電解液を収容したケースとを備える非水系二次電池の組付体(以下、「電池組付体」という)に、前記電池組付体の電圧が定格電圧以上4.2V以下の範囲に到達するように初回充電を行う初回充電工程と、前記初回充電工程を行った後から12時間未満にエージング処理を開始し、前記エージング処理では前記電池組付体を40℃以上65℃以下の高温環境に所定時間保持する高温保持工程と、前記エージング処理を行った前記電池組付体に、前記電池組付体の電圧が4.2Vを超える範囲に到達するまで充電を行い、その後放電を行うコンディショニング処理を行う充放電工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、上記のように所定の条件下でエージング処理とコンディショニング処理を行っているため、サイクル特性に優れた非水系二次電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の非水系二次電池の製造方法は、非水系二次電池の組付体(電池組付体)に初回充電工程と、高温保持工程と、充放電工程とを有する。初回充電工程と高温保持工程と充放電工程とは、非水系二次電池の実使用前に行われるため、本発明の非水系二次電池の製造方法は、非水系二次電池の前処理方法として把握することもできる。本明細書において、充電工程と高温保持工程と充放電工程とを行う電池を電池組付体といい、これらの工程を行って製造された電池を非水系二次電池という。
【0014】
一般に、電池組付体には、正極の表面に、正極活物質の原料、焼き残り、酸化物などの不純物が残存する。このため、正極では電池反応が局部集中して起こり、正極活物質の結晶構造が破壊される。正極活物質の劣化につながり、サイクル特性が低下する。
【0015】
そこで、本発明では、初回充電を行った後に高温保持工程で電池組付体を高温で保持することにより、実使用前の段階で正極の表面に残存する不純物を分解除去するとともに、電解液と均一に反応する表面状態とする。
【0016】
その後、充放電工程において高電圧下で電池組付体にコンディショニング処理を行うことにより、より安定な表面状態となる。高電圧使用で、抵抗が少なく、サイクル特性が向上する。
【0017】
もし、コンディショニング処理のみを行うと、コンディショニング処理のときに正極に過剰な負荷がかかり、反応性が不均一になり、局所的に結晶構造破壊を引き起こし、抵抗の増加を引き起こす。初回充電とコンディショニング処理を行うと、コンディショニング処理のみを行う場合よりも抵抗を下げることができるが、サイクル特性が若干低下する傾向にある。初回充電とエージング処理とコンディショニング処理を行うことで、更に、抵抗を低くでき、またサイクル特性も向上させることができる。
【0018】
非水系二次電池の組付体(電池組付体)は、後述するように、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液と、これらを収容するケースとを有する。この電池組付体には、初回充電工程、高温保持工程、及び充放電工程を行う、以下、各工程について詳細に説明する。
【0019】
(1)初回充電工程
初回充電工程では、電池組付体に、電池組付体の電圧(電池電圧)が定格電圧以上4.2V以下の範囲に到達するように初回充電を行う。初回充電は、電池組付体の正極と電解液とが接触した時点から20時間以内に開始するとよい。初回充電の開始が遅すぎると、負極集電箔が溶解するおそれがある。
【0020】
電池組付体の初回充電では、充電器を用いて、電池組付体の電圧、即ち正極と負極との電位差が定格電圧以上4.2V以下の範囲に到達するようにする。電池組付体の電圧が4.2Vを超える場合には、高電圧が正極に印加され正極に過剰な負荷がかかる。この場合、正極活物質の電池反応が不均一になり、局所的に結晶構造破壊を引き起こし、抵抗の増加及びサイクル特性の低下を起こすおそれがある。
【0021】
電池組付体の初回充電の電圧の範囲の下限は、例えば、非水系二次電池の定格電圧である。電池組付体の初回充電の電圧が定格電圧未満では、電圧不足で、抵抗及びサイクル特性が低下するおそれがある。
【0022】
定格電圧とは、非水系二次電池を安定して使用できる電圧の上限値をいう。非水系二次電池の定格電圧は、多くの場合4.2V以下である。例えば、正極と負極の種々の組み合わせの場合の定格電圧を以下に例示列挙する。
【0023】
【表1】
【0024】
初回充電工程において、電池組付体に印加される印加電圧は、電池組付体に充電され到達する電池電圧よりも高いことが必要である。印加電圧は4.2V以下であることがよい。印加電圧が4.2Vを超えると、初回充電時に正極活物質に過大な負荷がかかり、実使用時のサイクル特性が低下するおそれがある。電池組付体に印加される印加電圧の下限は、非水系二次電池の定格電圧であるとよい。電池組付体に印加する印加電圧を定格電圧以上4.2V以下とすることで、電池組付体の電圧(正極と負極の電位差)を定格電圧以上4.2V以下に到達させるとよい。
【0025】
初回充電での充電レートは0.05C以上2C以下であることがよく、更には0.1C以上1C以下がよい。充電レートが過大である場合には、初回充電時の正極活物質への負荷が大きく、正極活物質の構造に欠陥が生じるおそれがある。充電レートが過少である場合には、初回充電に時間を要する。充電レートについて「C」とは、電池の全容量を充電する際の速さ、即ち充電率をいう。例えば充電レートについて1Cとは、電池を1時間で満充電状態(SOC100%)とする電流値で表わすことができる。
【0026】
初回充電を行う際の電池組付体の温度は、特に限定しないが、次の高温保持工程での温度以下であることがよい。高温保持工程での温度よりも高い温度で初回充電を行うと、正極活物質の結晶構造に欠陥が生じるおそれがあるからである。
【0027】
初回充電に費やす時間は、0.5時間以上20時間以下であることがよく、1時間以上10時間以下であることが好ましい。この場合には、電池の抵抗を低下させることができる。初回充電が短すぎる場合には所定電圧に到達せず充分なコンディショニングとならないためにサイクル特性が低下するおそれがあり、長すぎる場合には、電圧の高い状態に長時間にさらされるため活物質の損傷をもたらし、サイクル特性を低下させるおそれがある。
【0028】
電池組付体に初回充電を行う雰囲気の温度は、0℃以上60℃以下であることがよく、更に、20℃以上40℃以下であることが好ましい。温度が低すぎる場合には、負極へリチウムが析出し、セパレータを突き破って短絡するおそれがあり、高すぎる場合には活物質損傷によるサイクル特性低下のおそれがある。
【0029】
(2)高温保持工程
高温保持工程では、初回充電工程を行った後から12時間未満にエージング処理を開始し、エージング処理では電池組付体を40℃以上65℃以下の高温環境に所定時間保持する。初回充電工程を行った後から12時間未満にエージング処理を開始するのは、高温での均一な皮膜形成を促進するためである。
【0030】
エージング処理は、電池組付体を40〜65℃で所定時間保持する処理である。電池組付体を40〜65℃で保持すると、その後に所定のコンディショニング処理を行うことで、充放電サイクル特性が確実に向上する。エージング処理での電池組付体の保持温度が40℃未満の場合には、エージング不足で、サイクル特性が低下するおそれがある。保持温度が65℃を超える場合には、その後にコンディショニング処理を行っても非水系二次電池の抵抗が上がり、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0031】
エージング処理での電池組付体の高温環境下での保持時間は10時間以上72時間未満であるとよい。保持時間が72時間以上の場合には、放電容量が低下するおそれがある。10時間未満では、エージング不足で、抵抗及びサイクル特性が低下するおそれがある。
【0032】
エージング処理は、電池組付体を充電器から切り離して電池組付体に電圧を加えることなく行うとよい。電圧を加えながらエージング処理を行うと、正極活物質に大きな負荷が加わり、結晶構造が損傷し、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0033】
(3)充放電工程
エージング処理を行った電池組付体に、電池組付体が4.2Vを超える電圧(電池電圧)に到達するまで充電を行い、その後放電を行うコンディショニング処理を行う。
【0034】
電池組付体の充電は、充電器を用いて、電池組付体の電圧(電池電圧)が4.2Vを超える範囲に到達するまで行う。即ち、電池組付体の正極と負極との電位差が4.2Vを超える範囲に到達するまで充電を行う。使用時の高電圧状態で電池性能を安定化させるためである。電池組付体の電池電圧が4.2V未満では、高電圧使用時に電池性能が不安定になるおそれがある。
【0035】
コンディショニング処理において、電池組付体の充電は、非水系二次電池の実使用時電圧の中で正極と負極との間の電位差が最大となる最大使用電圧以下となるまで行うとよい。電池組付体の充電を、使用時電圧の中で最大となる最大使用電圧を超える電圧に到達するまで充電を行うと、正極活物質の結晶構造が破壊し、抵抗が高くなり、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0036】
最大使用電圧とは、予定されている使用時電圧の中で最大となる電圧であり、たとえば、充電曲線のプラトー部分(平坦な部分)の電圧よりも高い電圧であり、または、正極活物質の平均充電電圧よりも高い電圧である。各種電池には、放電時に所定電圧に達した場合に電圧の印加を終止させるよう設定されている。この終止電圧を、最大使用電圧として把握することができる。
【0037】
前記充放電工程のコンディショニング処理の充電は、前記電池組付体の電圧が4.2Vを超え且つ4.6V以下の範囲に到達するまで行うことが好ましい。4.6Vを超える場合には、コンディショニング処理の充電時に、正極活物質の結晶構造が破壊される可能性があり、容量が低下するおそれがある。
【0038】
電池組付体を4.2Vを超える電圧(電池電圧)に到達させるためには、電池組付体に印加される印加電圧は、4.2Vを超える電圧であることが必要である。好ましくは、印加電圧は4.2Vを超え且つ4.6V以下であるとよい。過剰に高い電圧を印加すると、正極活物質の構造破壊が生じ、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0039】
コンディショニング処理での充電レートは、0.1C以上2C以下であることがよく、更には0.2C以上1C以下であることが好ましい。充電レートが過大である場合には、負極にLiが過剰に析出し、セパレータを突き破って短絡するおそれがある。充電レートが過少である場合には、充電に時間を要する。コンディショニング処理での充電レートは、初回充電工程での充電レートと同義である。
【0040】
コンディショニング処理での放電レートは、0.1C以上2C以下であることがよく、更には0.2C以上1C以下であることが好ましい。放電レートが過大である場合には、電池反応が不均一となり局所劣化を引き起こすおそれがある。放電レートが過少である場合には、放電に時間を要する。放電レートについて「C」とは、電池の全容量を放電する際の速さ、即ち放電率をいう。例えば放電レートについて1Cとは、電池を1時間で放電状態(SOC0%)とする電流値で表わすことができる。
【0041】
コンディショニング処理での放電は、電池組付体の電圧(電池電圧)が定格電圧以下に到達するまで行うことがよく、更に、2.5V以上3.0V以下に到達するまで放電を行うことがよい。
【0042】
コンディショニング処理は、充電及び放電ともにそれぞれ1回以上5回以下行うとよい。非水系二次電池の種類にもよるが、充放電を5回まで繰り返す間に多くの電池は安定化するため、5回を超えての充放電を繰り返しても、それによる更なる効果を期待できない。
【0043】
充電と放電の間に、充電状態を維持した状態で所定時間保持することがよい。充電されて加熱された電池組付体を放冷させて安定化させるためである。保持時間は、1時間以上5時間以下であることが好ましい。充電状態を維持した状態での保持の間は、充電器に接続して定電圧を印加させてもよく、または、充電器から切り離して電圧を印加しなくてもよい。電池組付体を安定化させるためには、好ましくは、電圧を印加していないことがよい。
【0044】
コンディショニング処理は、0℃以上65℃以下の雰囲気で行うことがよく、更に、10℃以上40℃以下の雰囲気で行うことが好ましい。過剰な高温雰囲気でコンディショニング処理を行うと、正極活物質の結晶構造が破壊して抵抗が高くなり、サイクル特性が低下するおそれがある。コンディショニング処理の雰囲気温度が過剰に低い場合には、負極へLiが析出し、セパレータを突き破って短絡するおそれがある。
【0045】
(非水系二次電池の組付体)
非水系二次電池の組付体(電池組付体)は、正極と、負極と、非水電解液と、ケースとを有する。正極は、金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する。正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
【0046】
正極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質であるとよい。リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質は、リチウム金属複合酸化物、及び/又はポリアニオン系化合物をもつとよい。
【0047】
このリチウム金属複合酸化物は、スピネル構造を有することがよい。スピネル構造を有するリチウム金属複合酸化物は、一般式:Lix(AyMn2-y)O4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0<y≦1)で表されると良い。一般式の中のAを構成し得る遷移金属元素は、例えば、Fe、Cr、Cu、Zn、Zr、Ti、V、Mo、Nb、W、La、Ni、Coから選ばれる少なくとも1の元素であるとよい。リチウム金属複合酸化物の具体例としては、LiMn及びLiMn及びLiNi0.5Mn1.5から選ばれる少なくとも一種であることがよい。
【0048】
リチウム金属複合酸化物は、スピネル構造をもつもののほかにも、層状岩塩構造をもつものであってもよい。層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物は、層状化合物ともいわれる。層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物は、一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Ni、Coから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、LiMnOを挙げることができる。前記一般式の中のb:c:dの比率は、0.5:0.2:0.3、1/3:1/3:1/3、0.75:0.10:0.15、0:0:1、1:0:0、及び0:1:0から選ばれる少なくとも1種類であることが良い。
【0049】
即ち、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物の具体例としては、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiMnO、LiNiO、及びLiCoOから選ばれる少なくとも一種であることがよい。
【0050】
また、正極活物質は、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物と、LiMn、LiMn等のスピネルとの混合物で構成される固溶体を含んでいてもよく、例えば、LiMnO−LiMoがある。
【0051】
ポリアニオン系化合物は、例えば、リチウムを含有するポリアニオン系化合物であることがよい。リチウムを含有するポリアニオン系化合物は、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。
【0052】
正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能であるし、Mgなどの他の金属元素を基本組成のものに加えて金属酸化物としてもよい。
【0053】
本発明の非水系二次電池の製造方法により製造される非水系二次電池は高電圧(例えば4.2Vを超える電圧)で使用することが可能である。高電圧で使用するためには、正極活物質の反応可能な電位がLi/Li電極基準で4.2Vを超えることがよい。
【0054】
上記の各種正極活物質の中で、リチウム金属複合酸化物及び/又はポリアニオン系材料は、Li/Li電極基準で4.2Vを超える領域で反応することが好ましい。
【0055】
Li/Li電極基準で4.2Vを超える電位で反応し得るリチウム金属複合酸化物及びポリアニオン系化合物は、例えば、LiNi0.5Mn1.5(スピネル)、LiCoPO(ポリアニオン)、LiCoPOF(ポリアニオン)、LiMnO−LiMO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)(層状岩塩構造をもつ固溶体系)、LiMnSiO(ポリアニオン)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0056】
また、リチウム金属複合酸化物及びポリアニオン系化合物は、Li/Li電極基準で4.2V以下の領域で反応してもよい。このようなリチウム金属複合酸化物としては、例えば、層状岩塩構造をもつものの中では、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiMnO、LiNiO、及びLiCoOから選ばれる少なくとも一種が挙げられるが、これに限定されない。
【0057】
上記の正極活物質及び、それらを用いた電池を表2に示すタイプに分類して特徴を説明する。
【0058】
リチウム金属複合酸化物は、固溶体型と二相共存型とがある。固溶体型は、活物質の反応が固溶体を経由する場合で、放電が進むとともに正極電位が徐々に低下し、充電が進むとともに電位が徐々に上昇する。二相共存型は、活物質が放電すると第二の相が現れて二相が共存し、放電が進んでも正極電位が低下しない領域があり、充電が進んだ場合にも電位が上昇しない領域がある。
【0059】
固溶体型の4V級活物質(LiCoOなど)を使った電池で、正極活物質の最高使用電位(Li/Li基準)を5Vにすると、平均放電電圧及び容量が若干向上する。ただし、一般的には活物質自体も高電位にしたことで劣化する場合がある。
【0060】
二相共存型の4V級活物質(LMnなど)を使った電池で、最高使用電位(Li/Li基準)を5Vにすると、平均放電電圧及び容量はほとんど変わらない。ただし、一般的に活物質自体の高電位耐性は高いので、最高使用電位(Li/Li基準)を5Vまで上げることができる。
【0061】
二相共存型の5V級活物質(LiNi0.5Mn1.5など)を使った電池では、最高使用電位(Li/Li基準)を4Vにすると容量は低くなり、5Vにすると容量が出現する。
【0062】
【表2】
【0063】
正極活物質として用いられるリチウム金属複合酸化物は、上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能であるし、Mgなどの他の金属元素を基本組成のものに加えて金属酸化物としてもよい。
【0064】
正極の集電体は、使用する活物質に適した電位に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体は、非水系二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0065】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0067】
結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
【0068】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。
【0069】
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリメタクリル酸など、分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0070】
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。したがって親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0071】
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する、あるいはポリマーにカルボキシル基を付与する、などの方法で製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。これらから選ばれる二種以上のモノマーを重合してなる共重合ポリマーを用いてもよい。
【0072】
例えば特開2013-065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体からなり、カルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造があることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどの金属イオンをトラップし易くなると考えられている。さらに、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてカルボキシル基が多く酸性度が高まると共に、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、この結着剤を用いて形成された負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
【0073】
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0074】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0075】
正極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、正極活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0076】
本発明の非水系二次電池に用いられる負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。
【0077】
負極活物質としては、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0078】
負極活物質の電位(Li/Li基準)は、例えば、黒鉛などの炭素の場合0.1〜0.2V、ケイ素の場合0.1〜1.0V、LTO(LiTi12)の場合1〜2Vである。非水系二次電池が高電圧で実際に使用できるようにするために、これらの負極活物質と正極活物質とを組み合わせて、正極活物質と負極活物質の電位差である電圧が4.2Vを超えて高くなるようにするとよい。
【0079】
ここで、正極活物質と負極活物質が、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料である非水系二次電池は、リチウムイオン二次電池と称される。中でも、負極活物質がLiである非水系二次電池は、リチウム二次電池とも称される。
【0080】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極の集電体は、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。
【0081】
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0082】
負極の集電体は、使用する活物質に適した電位に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。負極の結着剤および導電助剤は正極で説明したものを採用できる。
【0083】
集電体の表面に活物質層を形成させる方法には、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0084】
非水系二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンなどの金属イオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。電解液は粘度がやや高く極性が高いため、水などの極性溶媒が浸み込みやすい膜が好ましい。具体的には、存在する空隙の90%以上に水などの極性溶媒が浸み込む膜がさらに好ましい。
【0085】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えて非水系二次電池とするとよい。また、本発明の非水系二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電位範囲で充放電を実行されればよい。
【0086】
本発明の非水系二次電池のケースの形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。ケースは、例えば、アルミニウムなどの金属で形成されているとよい。
【0087】
本発明の非水系二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に非水系二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に非水系二次電池を搭載する場合には、非水系二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。非水系二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の非水系二次電池は、風量発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0088】
以上、電解液の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0089】
電池1〜11のリチウムイオン二次電池を以下のように作製し、各電池のサイクル評価試験を行った。
【0090】
(電池1)
まず、黒鉛粉末(炭素、負極活物質、Li/Li電極基準の反応可能な電位0.1〜0.2V)質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック1質量部と、結着剤として、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)1質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを混合し、この混合物を適量のイオン交換水に分散させてスラリーを作製した。このスラリーを負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布し、スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、厚さ45μm程度の負極とした。
【0091】
次に、正極活物質としてのリチウム・ニッケル複合酸化物LiNi1/3Co1/3Mn1/3(Li/Li電極基準の反応可能な電位3.6V)94質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック3質量部とバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)3質量部とを混合してスラリーとなし、このスラリーを集電体として20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて塗布し、スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、厚さ50μm程度の正極とした。正極と負極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜を挟み込んだ。この正極、セパレータ及び負極からなる電極体を複数積層した。2枚のアルミニウムフィルムの周囲を、一部を除いて熱溶着をすることにより封止して、袋状とした。袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、更に、電解液を注入し、真空封止した。電解液は、電解質としてのLiPFが、有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、EC/DEC=3:7(質量比)の配合比で混合して調製した。電解液中のLiPFの濃度は、1mol/Lであった。以上により、電池1(電池組付体)を得た。
【0092】
(電池2)
電池組付体(電池1)について、電解液注入後20時間以内に、コンディショニング処理(充放電工程)を行った。コンディショニング処理は、雰囲気温度25℃で行った。コンディショニング処理では、充電レート1C、CCCV(定電流定電圧)の充電器を電池組付体に接続して、電池組付体の電圧(電池電圧)が4.5Vに到達した後、電圧を保持して3時間充電した。電池電圧が4.5Vとなった電池組付体を、充電器から切り離して電圧を印加することなく3時間保持した。次に、電池組付体の正極と負極とを接続して放電レート1Cにて電池電圧が3Vに到達するまで放電させた。その後、ガス抜き、再度真空封止をして、電池2とした。
【0093】
(電池3)
電池組付体(電池1)について、電解液注入後20時間以内に、初回充電を行った(初回充電工程)。初回充電は、常温(25℃)の雰囲気で行った。初回充電では、充電レート0.8C、CCCV(定電流定電圧)の充電器に電池組付体を接続して、電池電圧が3.9Vに到達し、合計充電時間が4時間となるまで電圧を保持して充電した。初回充電終了後ただちに充電器から電池組付体を切り離した。合計充電時間は、充電開始から初回充電終了までの時間をいう。
【0094】
初回充電の後に、電池2と同様にコンディショニング処理を行った(充放電工程)。その後、ガス抜き、再度真空封止をして、電池3とした。
【0095】
(電池4)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、エージング処理(高温保持工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。
【0096】
電解液注入後20時間以内に、電池3と同様に初回充電を行った(初回充電工程)。初回充電終了後1時間以内に50℃の恒温槽に電池組付体を移して、エージング処理を開始した。50℃の恒温槽に電池組付体を20時間保持してエージング処理(高温保持処理)を行った。50℃の恒温槽に電池組付体を20時間保持した後に、電池組付体を25℃の恒温槽に移し、25℃の恒温槽で3時間以上放置して電池組付体の温度を25℃とした。
【0097】
電池組付体の温度が25℃となった後、電池2と同様にコンディショニング処理(充放電工程)を行った。
【0098】
(電池5)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、エージング処理(高温保持工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。エージング処理において、50℃恒温槽での電池組付体の保持時間を72時間とした他は、電池4と同様である。
【0099】
(電池6)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。初回充電において、充電レート0.8C、CCCV(定電流定電圧)の充電器に電池組付体を接続して、電池組付体の電池電圧を4.2Vに到達するまで充電した。その他は、電池3と同様である。
【0100】
(電池7)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、エージング処理(高温保持工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。その他は、電池4と同様である。
【0101】
(電池8)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、エージング処理(高温保持工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。初回充電において、充電レート0.8C、CCCV(定電流定電圧)の充電器に電池組付体を接続して、電池組付体の電池電圧を4.2Vに到達するまで充電した。その他は、電池5と同様である。
【0102】
(電池9)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。初回充電において、充電レート0.8C、CCCV(定電流定電圧)の充電器に電池組付体を接続して、電池組付体の電池電圧を4.5Vに到達するまで充電した。その他は、電池3と同様である。
【0103】
(電池10)
電池組付体(電池1)について、電解液注入後20時間以内に、電池9と同様に初回充電を行った(初回充電工程)。初回充電において、充電レート0.8C、CCCV(定電流定電圧)の充電器に電池組付体を接続して、電池組付体の電池電圧を4.5Vに到達するまで充電した。その他は、電池4と同様である。
【0104】
(電池11)
電池組付体(電池1)について、初回充電(初回充電工程)、エージング処理(高温保持工程)、及びコンディショニング処理(充放電工程)を行った。初回充電において、充電レート0.8C、CCCV(定電流定電圧)の充電器に電池組付体を接続して、電池組付体の電池電圧を4.5Vに到達するまで充電した。その他は、電池5と同様である。
【0105】
以上の電池1〜11の製法について表1にまとめた。
【0106】
<電池性能評価>
電池1〜11の充放電(サイクル)試験及び抵抗試験を行った。充放電試験では、充電レート1Cの条件での充電と放電レート1Cの条件での放電とを200回繰り返した。充放電試験の結果から、初回放電容量及び200サイクル後の放電容量、200サイクル後の容量維持率をもとめた。200サイクル後の容量維持率(X)は、以下の式(A)により求めた。この容量維持率は電池のサイクル特性を表わしている。
【0107】
X(%)=100×(200サイクル後放電容量)/初回放電容量・・・(A)
放電直流抵抗は、電圧を3.6Vに保持し、3Cレートで放電したときの電圧降下分より測定した。上記の試験結果を表4に示した。
【0108】
表4に示すように、電池4,5,7,8は、電池1〜3、6、9〜11に比べて、容量維持率が高かった。コンディショニング処理のみを行った電池2は、コンディショニング処理を行っていない電池1に比べて、サイクル特性が向上したが、その半面、放電直流抵抗が高くなった。初回充電及びコンディショニング処理を行った電池3、及び初回充電、エージング処理及びコンディショニング処理を行った電池4は、これらの処理を行っていない電池1よりも抵抗が低くなった。
【0109】
電池4,7,10は、電池5,8,11に比べて、エージング処理の保持時間が短い。電池4,7,10は、電池5,8,11に比べて、抵抗が低く初期放電容量が上昇し、且つサイクル特性は上昇した。
【0110】
電池4,7,10を比べると、電池10は電池4,7に比べて容量維持率が低下した。このことから、初回充電の電圧が4.2Vを超えて上がると、サイクル特性が低下することがわかった。
【0111】
電池2〜11では初回充電の温度が常温であるが、0℃の低温、65℃の高温で初回充電を行った場合には、充電異常の不具合が生じた。電池4,5,7,8,10,11ではエージング処理は初回充電後の1時間以内に開始したが、12時間以上経過した後にエージング処理を開始した場合には、サイクル特性の低下が生じた。電池4,5,7,8,10,11ではエージング処理の温度が50℃であるが0℃の低温、65℃の高温である場合には、抵抗の増加、サイクル特性の低下が生じた。また、エージング処理の保持時間が0.5時間の短時間の場合には、エージング処理を行っていない場合に等しい結果となった。
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】