特許第6187350号(P6187350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187350層状珪酸塩の製造方法、オレフィン重合用触媒成分の製造方法およびオレフィン重合用触媒の製造方法
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  • 特許6187350-層状珪酸塩の製造方法、オレフィン重合用触媒成分の製造方法およびオレフィン重合用触媒の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187350
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】層状珪酸塩の製造方法、オレフィン重合用触媒成分の製造方法およびオレフィン重合用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/38 20060101AFI20170821BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20170821BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C01B33/38
   C08F4/6592
   C08F10/00 510
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-65827(P2014-65827)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-189590(P2015-189590A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 美幸
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 竹弘
(72)【発明者】
【氏名】細井 淳
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−268711(JP,A)
【文献】 特開昭63−252916(JP,A)
【文献】 特開2000−001310(JP,A)
【文献】 特開平11−005810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
C08F 4/60−4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間イオンとしてプロトン(H)を有するイオン交換性層状珪酸塩と塩基類とを接触させる工程(工程C)と、イオン交換性層状珪酸塩のプロトンと金属陽イオンとをイオン交換する工程(工程D)とを含む層状珪酸塩の製造方法であって、
該イオン交換する工程(工程D)は、工程全体を通してpHが7.32を超えることがないイオン交換性層状珪酸塩のスラリー下で行われ、かつ、工程終了時には、該スラリーのpHが4.5〜7.32であることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法。
【請求項2】
工程Cは、工程Dと同時にまたは工程Dよりも先に行われることを特徴とする請求項1に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項3】
さらに、イオン交換性層状珪酸塩と酸類とを接触させる工程(工程A)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項4】
工程Aは、工程Cよりも先に行われることを特徴とする請求項3に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項5】
さらに、イオン交換性層状珪酸塩を溶媒で洗浄する工程(工程B)を含み、該洗浄は、洗浄倍率が1/1000以上で行われることを特徴とする請求項3又は4に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項6】
工程Cのイオン交換性層状珪酸塩は、イオン交換性層状珪酸塩の八面体シートを構成する主な金属を10〜80モル%溶出させたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項7】
前記塩基類は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩もしくは炭酸水素塩、アミン類、フェノール類またはアンモニアであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項8】
前記塩基類は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属の水酸化物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項9】
工程Dの金属陽イオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属陽イオンであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項10】
工程Dの金属陽イオンは、前記塩基類から発生する金属陽イオンと同種のものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項11】
工程Dの金属陽イオンは、前記塩基類から発生する金属陽イオンであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項12】
工程Cのイオン交換性層状珪酸塩は、八面体シートを構成する主な金属元素がアルミニウムであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の層状珪酸塩の製造方法により得られる層状珪酸塩を用いることを特徴とするオレフィン重合用触媒成分の製造方法
【請求項14】
下記の成分(a)、成分(b)、並びに必要に応じて用いられる成分(c)および/または成分(d)を接触させるオレフィン重合用触媒の製造方法
成分(a):メタロセン化合物
成分(b):請求項13に記載の製造方法により得られるオレフィン重合用触媒成分
成分(c):有機アルミニウム化合物
成分(d):炭素数2〜20のオレフィン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状珪酸塩の製造方法、層状珪酸塩を含むオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒に関し、詳しくは、イオン交換性層状珪酸塩のプロトンと金属陽イオンとのイオン交換反応を促進し、さらに、その後処理を効率化することが可能な層状珪酸塩の製造方法、その製造方法によって得られる層状珪酸塩を含むオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換性層状珪酸塩は、触媒担体、オレフィン重合用触媒成分などに利用されている。
イオン交換性層状珪酸塩を酸類、塩類、塩基類等で化学処理する技術は、公知である(例えば、特許文献1〜3など参照。)。また、オレフィン重合用触媒成分として、水溶性の塩類または酸性水溶液に可溶な塩類と接触させたイオン交換性層状珪酸塩を用いる技術も、公知であり(例えば、特許文献4など参照。)、塩類として、周期表第4〜6族遷移金属原子の陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸、有機酸の陰イオンからなる化合物等が、開示され、また、酸性水溶液とは、pH6以下を示している。さらに、イオン交換性層状珪酸塩のイオン交換性を利用し、層間の交換性イオンを別のイオンと置換することも、公知であり(例えば、特許文献5、6など参照。)、ここでは、未処理のままのイオン交換性層状珪酸塩について、周期表第1〜14族原子を含む陽イオンとハロゲン原子、無機酸、有機酸から誘導される陰イオンからなる化合物を用いて、イオン交換する技術が開示されている。
【0003】
その他、イオン交換性層状珪酸塩の化学処理に関する技術としては、イオン交換性層状珪酸塩を酸類で処理した後に、溶媒を使用し、洗浄率を1/1000以下とした後に、塩類による処理を行い、イオン交換性層状珪酸塩の交換性イオンと塩類のイオンとをイオン交換する方法がある(例えば、特許文献7参照。)。この方法によれば、洗浄工程が必要となること、しかも、洗浄率を1/1000以下にしなければならず、大量の洗浄廃液が発生することとなり、環境面で負荷がかかる。さらに、この洗浄工程に時間を要し,生産効率が低下し,コスト面でも負荷がかかる。さらに、イオン交換率(%、100×交換された金属陽イオンの量mol×イオンの価数÷層電荷の量mol)は高いが、イオン転換率(%、100×交換された金属陽イオンの量mol÷使用した金属陽イオンの量mol)は、非常に低く,効率のよくない方法である。
このように、オレフィン重合用触媒成分として用いた場合に、高活性を示すような化学処理イオン交換性層状珪酸塩の製造方法は、これまでに数多く研究されてきたが、工業的に製造していく上では、環境負荷や、生産効率に関して、未だ課題が多く残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−309907号公報
【特許文献2】特開平8−127613号公報
【特許文献3】特開2002−060412号公報
【特許文献4】特開平9−194517号公報
【特許文献5】特開平10−226712号公報
【特許文献6】特開平10−265518号公報
【特許文献7】特開2003−020304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の状況や問題点に鑑み、省エネルギーで高生産効率であり、環境負荷を低減した、高いイオン転換率(%、100×交換された金属陽イオンの量mol÷使用した金属陽イオンの量mol)となる化学処理した層状珪酸塩の製造方法、その製造方法によって得られる層状珪酸塩を含むオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒を提供することにある。
尚、本明細書では、後述の段落[0041]に記載されているように、以下、イオン転換率とイオン交換率は、いずれも百分率表示で、次式の定義とする。
イオン転換率(%):100×交換された金属陽イオンの量mol÷使用した金属陽イオンの量mol
イオン交換率(%):100×交換された金属陽イオンの量mol×イオンの価数÷層電荷の量mol)
【課題を解決するための手段】
【0006】
層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩のプロトンを金属陽イオンに交換させる際の反応条件と、そこから生成する層状珪酸塩のイオン転換率(%)に関しては、未だ不明瞭な点が多く、より効率良く、また、環境に配慮した層状珪酸塩の製造方法の開発について、検討の余地があった。
そのため、本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の製造方法により、層状珪酸塩を高イオン転換率(%)で得られ、さらに、その方法は、公知技術よりも環境に対して、クリーンに製造できるものであり、このようにして製造した層状珪酸塩をオレフィン重合用触媒成分として用いると、高活性に重合が進行するという知見を得た。より詳しくは、本発明者らは、層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状ケイ酸塩に対して、塩基類を添加し、特定のpH範囲で交換を行うことにより、得られた層状珪酸塩のイオン転換率(%)が顕著に向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、層間イオンとしてプロトン(H)を有するイオン交換性層状珪酸塩と塩基類とを接触させる工程(工程C)と、イオン交換性層状珪酸塩のプロトンと金属陽イオンとをイオン交換する工程(工程D)とを含む層状珪酸塩の製造方法であって、
該イオン交換する工程(工程D)は、工程全体を通してpHが7.32を超えることがないイオン交換性層状珪酸塩のスラリー下で行われ、かつ、工程終了時には、該スラリーのpHが4.5〜7.32であることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、工程Cは、工程Dと同時にまたは工程Dよりも先に行われることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、さらに、イオン交換性層状珪酸塩と酸類とを接触させる工程(工程A)を含むことを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、工程Aは、工程Cよりも先に行われることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第5の発明によれば、第3又は4の発明において、さらに、イオン交換性層状珪酸塩を溶媒で洗浄する工程(工程B)を含み、該洗浄は、洗浄倍率が1/1000以上で行われることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、工程Cのイオン交換性層状珪酸塩は、イオン交換性層状珪酸塩の八面体シートを構成する主な金属を10〜80モル%溶出させたものであることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、前記塩基類は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩もしくは炭酸水素塩、アミン類、フェノール類またはアンモニアであることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、前記塩基類は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属の水酸化物であることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、工程Dの金属陽イオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属陽イオンであることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、工程Dの金属陽イオンは、前記塩基類から発生する金属陽イオンと同種のものであることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明において、工程Dの金属陽イオンは、前記塩基類から発生する金属陽イオンであることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第12の発明によれば、第1〜11のいずれかの発明において、工程Cのイオン交換性層状珪酸塩は、八面体シートを構成する主な金属元素がアルミニウムであることを特徴とする層状珪酸塩の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第13の発明によれば、第1〜12のいずれかの発明に係る層状珪酸塩の製造方法により得られる層状珪酸塩を用いることを特徴とするオレフィン重合用触媒成分の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第14の発明によれば、下記の成分(a)、成分(b)、並びに必要に応じて用いられる成分(c)および/または成分(d)を接触させるオレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
成分(a):メタロセン化合物
成分(b):第13の発明の製造方法により得られるオレフィン重合用触媒成分
成分(c):有機アルミニウム化合物
成分(d):炭素数2〜20のオレフィン
【発明の効果】
【0014】
本発明の層状珪酸塩の製造方法によれば、使用する塩基類などの処理剤の量を削減でき、さらに、排出される廃液量の削減および廃液中に含まれる副生成物や反応残渣を低濃度化することができるため、環境に対する負荷を低減することが可能である。このようにして製造された層状珪酸塩を、オレフィン重合用触媒成分として使用すると、オレフィン重合は、高活性に進行し、その結果、高活性にオレフィン(共)重合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例(実施例/比較例)において、工程D終了時のスラリーのpHに対して、得られた層状珪酸塩のイオン転換率(%)をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.層状珪酸塩の製造方法
1.イオン交換性層状珪酸塩について
本発明において、原料のイオン交換性層状珪酸塩としては、層間イオンとしてプロトン(H)を有するイオン交換性層状珪酸塩を用いる。
層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩としては、天然のものでも、イオン交換性層状珪酸塩に化学処理を施して製造したものでもよい。天然のものとしては、よく知られているように、酸性白土または単に白土といわれるものがある。一方、化学処理を施して製造したものとしては、前述の白土を、さらに硫酸によって活性化した活性白土や、白土化されていないイオン交換性層状珪酸塩を、無機酸、有機酸等の酸類で処理したイオン交換性層状珪酸塩が挙げられる。
本発明では、イオン交換性層状珪酸塩を酸類で処理する化学処理によって製造したイオン交換性層状珪酸塩であることが好ましい。
【0017】
本発明に使用される、化学処理を施す前のイオン交換性層状珪酸塩は、天然物であっても、人工合成物であっても良い。化学処理を施す前のイオン交換性層状珪酸塩は、層間に交換性のイオンを有しているものが好ましい。当該イオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、例えば、「粘土ハンドブック第三版」(日本粘土学会著、技法堂出版株式会社、2009年)に記載されている次のようなものが挙げられる。
2:1層が主要な構成層である、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族珪酸塩、バーミキュライト等のバーミキュライト族珪酸塩、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族珪酸塩、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、緑泥石群等。
【0018】
これらは、混合層を形成していても良い。また、多くのイオン交換性層状珪酸塩は、天然には、粘土鉱物の主成分として産出されるため、夾雑物(石英やクリストバライト等が挙げられる。)が含まれることが多いが、それらを含んでいても良い。
本発明に係るイオン交換性層状珪酸塩は、上記のように、2:1型構造を有するイオン交換性層状珪酸塩が好ましい。より好ましくは、スメクタイト族珪酸塩であり、さらに好ましくは、モンモリロナイトである。
【0019】
次に、本発明の層状珪酸塩の製造方法のそれぞれの工程について、詳細に説明する。
2.工程A
本発明の層状珪酸塩の製造方法では、工程Aとして、イオン交換性層状珪酸塩と酸類とを接触させる工程を含んでいてもよい。この工程Aを行うことによって、イオン交換性層状珪酸塩を、層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩に、変換することができる。また、イオン交換性層状珪酸塩と酸類とを接触させることを、イオン交換性層状珪酸塩を酸類で処理(化学処理ということもある。)する、ということもある。
層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩は、天然物でも、化学処理によって得られた物でもよい。
化学処理によって得られた物を生成する方法としては、無機酸や有機酸などの酸類で処理する方法がある。イオン交換性層状珪酸塩を酸類で処理する方法について、現象と処理条件について、詳しく説明する。
【0020】
層間イオンに交換性のイオンを有しているイオン交換性層状珪酸塩を、酸類で処理すると、表面の不純物が除去されるだけでなく、交換性の陽イオン(層間イオン)が溶出し、プロトン(H)との交換が起こり、次いで、八面体シートを構成する金属が溶出する。このような化学処理にて、層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩は、生成する。
この溶出の過程において、酸点、細孔構造、比表面積等の特性が変化する(参考文献:「粘土ハンドブック第三版」236ページ、2009年4月30日発行、技報堂出版株式会社参照。)。このとき、層間イオンと交換するプロトンの量は、後述する層間イオンの成り立ちから、化学処理されたイオン交換性層状珪酸塩の同形置換に由来する層電荷の量に等しい。
【0021】
八面体シートを構成する金属が溶出する程度は、酸類の種類、酸類の濃度、処理時間等によって異なるが、八面体シートの主金属として、マグネシウムを多く含むものが一般に大きく、次いで鉄の多いもの、アルミニウムの多いものの順になる。また、結晶度が高く、粒子の大きいものほど、溶出する程度は、低いが、これは、酸類が結晶層間や結晶構造内に侵入することと関係していると、考えられる。
【0022】
次に、その接触方法などについて説明する。
イオン交換性層状珪酸塩と酸類との接触は、イオン交換性層状珪酸塩のスラリー下で行うことが好ましい。スラリー化のための溶媒としては、水、アルコール等の有機溶媒などが挙げられる。
酸自体が液状であれば、酸自身が溶媒であってもよい。
酸類の濃度としては、スラリーの酸濃度を重量%[使用する酸の重量÷(使用するイオン交換性層状珪酸塩の重量と反応に使用する溶媒、酸、その他使用する試薬等の重量の総和)、%]で示すと、下限は、好ましくは3wt%で、より好ましくは5wt%、さらに好ましくは7wt%である。一方、濃度の上限は、好ましくは45wt%で、より好ましくは40wt%、さらに好ましくは35wt%、よりさらに好ましくは30wt%、特に好ましくは25wt%である。
また、処理温度の下限は、好ましくは40℃で、より好ましくは50℃、さらに好ましくは60℃である。処理温度の上限は、好ましくは102℃で、より好ましくは100℃、さらに好ましくは95℃である。あまり温度を低下させると、極端に陽イオンの溶出速度が低下し、製造効率が低下するおそれがある。一方、温度を上げ過ぎると、操作上の安全性が低下するおそれがある。
また、このときのイオン交換性層状珪酸塩の濃度[イオン交換性層状珪酸塩の重量÷(イオン交換性層状珪酸塩の重量+試薬,溶媒などの重量の総和)、%]の下限は、好ましくは3wt%で、より好ましくは5wt%である。一方、イオン交換性層状珪酸塩の濃度の上限は、好ましくは30wt%で、より好ましくは25wt%、さらに好ましくは20wt%である。濃度が低くなると、工業的に生産する場合は、大きな設備が必要となってしまうおそれがある。一方、濃度が高い場合には、スラリーの粘度が上昇してしまい、均一な攪拌混合が困難になり、やはり製造効率が低下するおそれがある。
さらに、処理時間としては、特に制限はないが、前述の金属の溶出量と処理条件(上記酸類の濃度、処理温度、イオン交換性層状珪酸塩スラリーの濃度)によって決まるものであり、本発明に好ましい溶出量となる時間に設定するのが好ましい。
【0023】
酸類による化学処理は、複数回に分けて行うことも、可能である。
使用する酸類として、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、安息香酸、ステアリン酸、プロピリオン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸などの無機酸および有機酸が例示される。その中でも、無機酸が好ましく、塩酸、硝酸、硫酸がより好ましい。さらに好ましくは塩酸、硫酸であり、特に好ましくは硫酸である。
【0024】
本発明で用いる層間イオンにプロトンを有しているイオン交換性層状珪酸塩は、このような酸類による化学処理によって、八面体シートの金属が溶出したイオン交換性層状珪酸塩であることが好ましい。
化学処理、特に上述の酸類による処理で、八面体シートを構成する主金属の溶出量の下限は、化学処理前の含有量に対して、好ましくは10%で、より好ましくは15%であり、さらに好ましくは20%であり、よりさらに好ましくは25%である。一方、主金属の溶出量の上限は、好ましくは80%であり、より好ましくは75%であり、さらに好ましくは65%、よりさらに好ましくは60%、特に好ましくは55%、もっとも好ましくは50%である。ここで溶出する八面体を構成する主金属は、アルミニウム、マグネシウム、鉄等が挙げられ、好ましくはアルミニウムである。
主金属の溶出量の計算は、次のようにモル比から求める。例えば、主金属がアルミニウムの場合では、以下の式で、表される。
[化学処理前のアルミニウム/珪素(モル比)−化学処理後のアルミニウム/珪素(モル比)]÷化学処理前のアルミニウム/珪素(モル比)×100 %
酸類による処理時間としては、酸類の濃度、処理温度と主金属の溶出量の設定で決まり、任意の時間が選ばれる。
【0025】
3.工程B
本発明の層状珪酸塩の製造方法では、工程Aから工程Cを行う間に、洗浄の工程Bを行ってもよい。
従来の技術では、上述の酸類による化学処理後、スラリー中に、反応物もしくは未反応物が残存することから、水などの溶媒で洗浄することが好ましいとされてきたが、本発明では、洗浄は、必須ではなく、洗浄をしてもよく、洗浄をしなくてもよい。
洗浄倍率が1/1000以下の洗浄をしてもよく、1/1000を超える洗浄をしてもよい。洗浄倍率とは、「(希釈前の酸類の量+希釈剤の量−除去した希釈剤の量)÷(希釈前の酸類の量+希釈剤の量)」のことをいい、例えば、希釈前の酸類の量が1であり、洗浄操作として99の希釈剤(溶媒)を加えて、均一に希釈した後、99の希釈した溶液を除去すれば、洗浄倍率は、1/100ということになる。
【0026】
工程Aの酸類による化学処理から、次工程までの洗浄において、使用する洗浄溶媒の量は、例えば、イオン交換性層状珪酸塩量1gに対して、上限は、好ましくは20mL/gであり、より好ましくは17.5mL/gで、さらに好ましくは10mL/gで、よりさらに好ましくは7.5mL/gである。一方、下限としては、好ましくは1mL/gである。
【0027】
工程Bの洗浄を行わずに、後述の工程Dのイオン交換を行う場合は、スラリーのpHを所定の範囲にするための塩基類の添加量が増加し、結果的に、イオン転換率(%)が低下する可能性があることから、酸類による化学処理したイオン交換性層状珪酸塩のスラリーのpHの下限は、スラリー濃度を17wt%に加減したときに、pH0.7であることが好ましく、より好ましくはpH0.9で、さらに好ましくはpH1である。一方、上限としては、pH3であることが好ましく、より好ましくはpH2.5であり、さらに好ましくはpH2である。
【0028】
ろ過は、ある時間静定させた後に、上澄みをデカンテーションにより除去する方法や、ヌッチェやろ過ビンを用いて、アスピレータまたは減圧ポンプによる強制ろ過する方法などがあり、後者が好ましい。
【0029】
また、工程Aまたは工程Bの後に、乾燥を行ってもよい。乾燥は、イオン交換性層状珪酸塩の構造破壊を起こさないように、行うことが好ましく、また、構造破壊されなくとも、乾燥温度により特性が変化するために、用途に応じて、乾燥温度を変えることが好ましい。
一般的には、乾燥温度は、100〜800℃で実施可能であり、好ましくは150〜600℃、より好ましくは150〜300℃である。乾燥温度は、イオン交換性層状珪酸塩の構造破壊が起こらないように、800℃以下で、実施することが好ましい。
また、乾燥時間は、通常1分〜24時間、好ましくは5分〜4時間である。乾燥の雰囲気は、乾燥空気、乾燥窒素、乾燥アルゴン、又は減圧下であることが好ましい。乾燥方法に関しては、特に限定されず、各種方法で実施可能である。
【0030】
4.工程C
本発明の層状珪酸塩の製造方法において、工程Cは、層間イオンとしてプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩と塩基類とを、接触させる工程である。
まず、イオン交換性層状珪酸塩の層間イオン(層間に取り込まれているイオン)とは、次の様な珪酸塩の構造に由来して発生するものである(参考文献:「粘土鉱物学」朝倉書店、2003年2月1日第8版、第2章2および第3章1参照。)。
イオン交換性層状珪酸塩も含んだ広義の層状珪酸塩鉱物は、金属陽イオンにO2−またはOHが配位してできる八面体シート、およびケイ素イオン(Si4+)にO2−またはOHが配位してできる四面体シートから、構成されている。イオン交換性層状珪酸塩の中で、2:1型構造のものでは、2枚の四面体シートが1枚の八面体シートの両側を挟んだ構造により、単位珪酸塩層を構成している。
【0031】
2:1型構造において、四面体シートがSiのみ、八面体シートの金属がAl(3価)またはMg(2価)のみのときは、電気的に中性となっている。しかし、配位するO2−またはOHの個数は不変のまま、四面体シートのSiや八面体シートの金属は、一般的に、イオンの価数が異なる金属に置換されていることが多く、これを同形置換という(参考文献:技報堂出版株式会社「粘土ハンドブック(第三版)」P124等参照。)。
この同形置換により、シート内で電荷の過不足が生じ、八面体シートを四面体シートが挟み込んだ層全体で、プラスまたはマイナスの電荷(層電荷)を帯びることになる。この層電荷を電気的に中和するために、層電荷と反対の電荷を有するイオン(層間イオン)が存在する。つまり、層間イオンとは、層電荷に見合うだけの層間に存在している陽イオンまたは陰イオンのことを言う。単位重量当たりの層間イオンの電荷の量は、単位重量当たりの層電荷の量に等しく、単位重量当たりの層電荷の量は、シートを構成する主金属と同形置換している金属のイオンの価数の差に単位重量当たりの置換量かけたものとして、求めることができる。たとえば、八面体シートのみで同形置換が生じており、シートを構成する主金属がアルミニウムであり、そこにマグネシウムがイオン交換性層状珪酸塩1gに対して、0.3mmolで同形置換している場合の層電荷の量は、(イオン交換性層状珪酸塩1gに対して、)イオンの価数の差1(アルミニウム3価−マグネシウム2価)×0.3mmol=0.3mmolとして求める。
【0032】
本発明に係るイオン交換性層状珪酸塩の層間イオンは、八面体シートの同形置換により発生している陽イオンであることが好ましい。層間イオンの量は、未処理の場合は原料に依存するが、イオン交換性珪酸塩の構造を変化させる化学処理、たとえば、八面体シートの金属とともに同形置換の金属も溶出させるような操作を行うことにより、原料よりも減少することもある。たとえば、酸類による化学処理では、八面体シートの金属とともに同形置換している金属も、溶出する。そのため、酸類で処理した後のイオン交換性層状珪酸塩の層間イオンの量は、酸類処理による陽イオンの溶出程度の影響も受けることになる。
しかし、層間イオンの量(層電荷の量)は、酸類による処理等による金属の溶出の有無にかかわらず、後述する化学分析により同形置換原子の定量を行ない、前述の計算より、求めることが可能である。
層電荷を発生させる同形置換の金属としては、主金属がアルミニウムの場合には、マグネシウム、鉄が好ましく、特に、マグネシウムであることが好ましい。
また、複数の陽イオンにより同形置換している場合は、同形置換量はそれらの和になる。
【0033】
本発明に使用するイオン交換性層状珪酸塩は、八面体シートで同形置換が起こっているイオン交換性層状珪酸塩であることが好ましく、八面体シートを構成する主金属がアルミニウムであることが好ましく、アルミニウムがマグネシウムに同形置換されていることがより好ましい。
同形置換率としては、主金属に対しての存在比(たとえば、主金属がアルミニウムで同形置換の金属がマグネシウムの場合の存在比は、マグネシウムmol÷アルミニウムmolで求める)の下限は、好ましくは0.05で、0.07がより好ましく、0.09がさらに好ましく、0.10がよりさらに好ましく、0.13が特に好ましい。一方、同形置換率の上限は、1.00で、0.90が好ましく、0.80がより好ましく、0.70がさらに好ましく、0.60がよりさらに好ましく、0.50が特に好ましい。
また、同形置換の量の下限は、イオン交換性層状珪酸塩1gに対して、0.05mmolが好ましく、0.10mmolがより好ましく、0.20mmolがさらに好ましく、0.30mmolがよりさらに好ましく、0.40mmolが特に好ましい。一方、同形置換の量の上限は、イオン交換性層状珪酸塩1gに対して、5.0mmolが好ましく、4.0mmolがより好ましく、3.0mmolがさらに好ましく、2.5mmolがよりさらに好ましく、2.0mmolが特に好ましく、1.5mmolがもっとも好ましい。
【0034】
次に、イオン交換性層状珪酸塩と塩基類との接触は、イオン交換性層状珪酸塩のスラリー下で行うことが好ましい。スラリー化のための溶媒としては、水、アルコール等の有機溶媒などが挙げられ、好ましくはアルコール、水で、より好ましくは水である。
上記塩基類とは、塩基性またはアルカリ性を示す物質であり、ブレンステッド塩基として働く物質である。塩基類は、プロトンと反応して水を発生する(中和反応)性質を持つ物質であり、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩や、有機高分子イオン、無機高分子イオンからなる塩、アミン類、フェノール類またはアンモニアがある。より好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第3〜14族の金属から選ばれる金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩である。さらに好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第3〜14族の金属から選ばれる金属の水酸化物、炭酸塩である。さらにより好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第3〜14族の金属から選ばれる金属の水酸化物である。特に好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Pbの水酸化物または炭酸塩である。さらに特に好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Pbの水酸化物である。最も好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mg、Zn、Alの水酸化物である。
【0035】
以下に、限定されるわけではないが、具体例を挙げると、LiOH、NaOH、KOH、CsOH、RbOH、Be(OH)、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、Mn(OH)、Cu(OH)、Cu(OH)、Zn(OH)、Al(OH)、Sn(OH)、Pb(OH)、Ni(OH)、LiCO、NaCO、KCO、CsCO、RbCO、BeCO、MgCO、CaCO、MnCO、CuCO、Al(CO)、ZnCO、PbCO、LiHCO、NaHCO、RpHCO、CsHCO、Ca(HCO、Mg(HCOなどがある。
【0036】
また、使用する塩基類は、後述する工程Dのイオン交換性層状珪酸塩のプロトンと交換する金属陽イオンと同種の金属の塩基類であることが好ましい。または、後述する工程Dのイオン交換性層状珪酸塩のプロトンと交換する金属陽イオンが塩基類から発生する金属陽イオンであることがより好ましい。
塩基類は、単独でも用いても、複数用いてもよい。使用方法には、特に制限はない。
イオン交換性層状珪酸塩と接触させる際の塩基類の状態は、溶媒に溶解させていても、固体のままでもいい。溶媒に溶解させて接触させる場合は、その濃度に、制限はなく、上限としては、飽和する濃度以下であり、一方、下限としては、イオン交換性層状珪酸塩スラリーのスラリー濃度の下限を下回らないよう、調製した濃度である。
また、塩基類の使用量は、塩基類との接触前のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHにも依存し、これらの塩基類の添加し、pHは、後述する工程Dで、工程全体を通して、pHが8以下であり、かつ工程Dを終了するときに、pHが4.5〜8となる量を使用する。例を挙げるとすれば、下限は、イオン交換性層状珪酸塩1g中の層電荷の量に対して、0.1mmolであり、好ましくは0.25mmolで、さらに好ましくは0.40mmolで、より好ましくは0.50mmolである。一方、上限としては、同様にイオン交換性層状珪酸塩1gに対して、そのイオン交換性層状珪酸塩の層電荷の量の2.5mmolであり、好ましくは2.0mmolで、より好ましくは1.9mmolである。
【0037】
塩基類の添加方法としては、塩基類を固体のままイオン交換性層状珪酸塩スラリーに添加する方法、塩基類を溶媒に溶解させてからイオン交換性層状珪酸塩スラリーに添加する方法、粉体またはケーキのような固体状のイオン交換性層状珪酸塩に塩基類の溶液を加えていく方法がある。好ましくは、塩基類を固体のままイオン交換性層状珪酸塩スラリーに添加する方法、塩基類を溶媒に溶解させてからイオン交換性層状珪酸塩スラリーに添加する方法である。
塩基類を溶解させる溶媒としては、イオン交換性層状珪酸塩スラリーと同種または、水、アルコールであることが好ましく、特に好ましくは水である。塩基類(OH)濃度の上限は、飽和溶液であり、下限は、0.01mol/Lであることが好ましい。
【0038】
工程Cは、後述する工程Dと同時に、または工程Dよりも先に行われることが好ましく、工程Dと同時に実施している場合、工程途中で接触させる塩基類を追加してもいい。また、工程Dよりも先に行われた場合、さらに、工程Dと同時に、または工程Dの途中に実施してもいい。
しかしながら、いずれの場合においても、工程Dは、工程全体を通してpHが8以下で、かつ工程終了時には、pH4.5〜8であるイオン交換性層状珪酸塩のスラリー下で行う必要がある。
後述する工程Dにおいて、塩基類から発生する金属陽イオンと同種または同一であった場合、塩基類の使用量は、金属陽イオンの総和であり、その上限は、層間イオンの量に対して2.5倍以下の量であることが好ましく、より好ましくは2倍以下である。一方、下限としては、イオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHにも依存するが、層間イオンの量に対して0.1倍以上であることが好ましく、よりこのましくは0.3倍以上、さらに好ましくは、0.5倍以上、特に好ましくは1倍以上である。
【0039】
5.工程D
次に、本発明の層状珪酸塩の製造方法において、層間イオンにプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩のプロトンを、金属陽イオンに交換する工程(工程D)について、説明する。
層間イオンの量は、層電荷の量に対応しており、層電荷の量は、同形置換金属の種類、イオンの価数の差およびその量から求めることができる。
置換している金属の種類は、蛍光エックス線などによる組成分析と、イオン交換性層状珪酸塩の種類(たとえば、バーミキュライトやスメクタイト族のモンモリロナイトやサポナイト、バイデライトは、それぞれシートを構成する主金属が明白であり、主金属以外の異なる価数の金属が同形置換している金属となる。)から、判別できる。
また、イオンの価数の差は、シートを構成する主金属(上記種類からでは、ケイ素やアルミニウム)との価数の差であり、その量は、同形置換の量であり、化学分析により求めることができる。
【0040】
イオン交換性層状珪酸塩の分析は、具体的には、前記参考文献の「粘土ハンドブック第三版」(技報堂出版2009年4月1日発行)の第II編第1章1−3などに示されている方法が、一般的であり、本発明では、湿式分析や蛍光X線分析を利用した。
また、構造式の決定には、同書のP272−4に示されている方法等があり、このような方法から、同形置換の量および層電荷量を求め、層間イオンの量を求めることが好ましい。さらに、層間イオンの量を見積もる他の方法としては、一般的なイオン交換容量の測定により、求める手法もある(参考文献:「粘土鉱物学」朝倉書店、2003年2月1日第8版、第4章9参照。)。
【0041】
本発明において、イオン交換率(%)とは、層電荷を中和するために必要な電荷つまり層間イオンの量(層電荷の量)に対して、交換された金属陽イオンが占める割合を示すもので、具体的には、交換された金属陽イオンの量(mol)に、そのイオンの価数をかけたものを層電荷の量(mol)で割った百分率のことを指す。
イオン交換率(%):100×交換された金属陽イオンの量mol×イオンの価数÷層電荷の量mol)
工程Dは、10〜100%の層間イオンのプロトンを、金属陽イオンに交換させる工程であることが好ましい。より好ましくは、20〜100%であり、さらに好ましくは30〜100%であり、特に好ましくは40〜100%である。
また、本発明において、イオン転換率(%)とは、使用した金属陽イオンの量に対して、どれだけがイオン交換性層状珪酸塩中に取り込まれたかを、示すもので、交換された金属陽イオンの量(mol)を使用した金属陽イオンの量で割った百分率のことを指す。
イオン転換率(%):100×交換された金属陽イオンの量mol÷使用した金属陽イオンの量mol
【0042】
未処理のイオン交換性層状珪酸塩の層間イオンは、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の陽イオンを単一または複数有しているが、酸類の接触を行った後のイオン交換性層状珪酸塩は、前述のように、層間イオンは、酸類のプロトンに置換されて、層間にプロトンを有したイオン交換性層状珪酸塩となる。
白土や活性白土も、これと同様に、層間にプロトンを有するイオン交換性層状珪酸塩であり、白土は、天然に発生するものである。このようなイオン交換性層状珪酸塩の層間イオンを金属陽イオンに交換させることは、公知であるが、高イオン交換率(%)を達成させるために、交換させる金属陽イオンを大過剰にして行われ、イオン転換率(%)は、10%に満たないものであった。
さらに、公知技術では、酸類による処理後に、イオン交換反応を実施する場合、残存する酸類由来のプロトンや副反応で生じる酸成分を除去するために、溶媒による洗浄操作を実施する。この方法では、大量の溶媒と、洗浄のための時間が必要で、経済的、生産効率的にも望ましいものではない。また、水素結合のように化学結合したプロトンは、これらの方法では、取り除くことは難しく、洗浄を行っても、イオン交換率(%)を高めるためには、大過剰の金属陽イオンが必要であることには変わりなく、イオン転換率(%)を高めることは、できなかった。
【0043】
本発明では、イオン交換時に、イオン交換性層状珪酸塩のスラリーに、前記の工程Cとして、塩基類を添加して、イオン交換性層状珪酸塩と塩基類とを接触させることで、イオン交換性層状珪酸塩が有するプロトンを中和し、スラリー中のプロトンの濃度を適正にすることにより、過剰な交換イオンを使用する必要性を低めている。これにより、イオン転換率(%)を大きく向上させることが可能になったと考えている。
【0044】
本発明において、工程Dは、工程全体を通して、イオン交換性層状珪酸塩スラリーがpH8を超えないことが好ましい。本発明では、pH範囲として、pH8以下であることが好ましい。pHが8を超えると、イオン交換性層状珪酸塩は、珪酸からのケイ素(Si)の溶出が進行し、構造変化を起こすことがある。また、上限のpH8以上となった場合、層間とのイオン交換反応の以外に、珪酸塩表面への吸着も起こり、金属含量からイオン交換率を計算すると、100%を超える現象が起こり、好ましくない。さらに、上限のpH8以上となった場合、沈降性が低下したり、ろ過速度が遅くなったり、ハンドリングが悪くなるため、製造時間が長時間化し、生産効率が低下する可能性があり、好ましくない。以上のような理由から、反応のいずれの時点であっても、pH8を超えることは好ましくない。好ましい範囲として、pHの上限は、8であり、より好ましくはpH7.5以下、さらに好ましくはpH7.3以下である。
このときのスラリーのpHは、4.5〜8であることが好ましい。
【0045】
また、工程Dの終了時のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHは、4.5以上であることが好ましい。これ以上低くなると、イオン転換率(%)は、向上しない。より好ましくはpH4.8以上である。一方、工程Dの終了時のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHの上限は、好ましくはpH8.0以下であり、より好ましくはpH7.5以下であり、さらに好ましくはpH7.3以下である。
また、工程Dは、工程の途中で、pHが4.5以下にあってもよく、工程が終了するときに、pHが4.5〜8であるイオン交換性珪酸塩のスラリー下で行うことが好ましく、工程を終了する5分前から工程を終了するまでを、pH4.5〜8であるイオン交換性珪酸塩のスラリー下で行うことがより好ましく、工程を終了する10分前から工程を終了するまでをpH4.5〜8であるイオン交換性珪酸塩のスラリー下で行うことがより好ましく、工程を終了する30分前から工程を終了するまでをpH4.5〜8であるイオン交換性珪酸塩のスラリー下で行うことがさらに好ましく、工程を終了する60分前から工程を終了するまでpH4.5〜8であるイオン交換性珪酸塩のスラリー下で行うことがよりさらに好ましい。また、工程D全体を通して、珪酸塩スラリーのpHが4.5〜8であってもよい。一方で、工程終了時のイオン交換性珪酸塩のスラリーのpHは、4.5〜8である必要がある。
【0046】
ここで、工程Dの終了時とは、イオン交換反応の終了時をいい、珪酸塩スラリーを、スラリーの状態から溶媒と珪酸塩との分離操作により、珪酸塩をケーキ状または粉体状などの固体状態にする時点のことを言う。スラリー状態とは、珪酸塩が溶媒に懸濁して流動性を有している状態のことで、また、ケーキ状とは、珪酸塩が溶媒を含んでいるが、流動性を有しない状態のことを言う。例として、スラリーとケーキまたは粉体の状態との違いを、珪酸塩濃度として示すとすると、珪酸塩濃度が35wt%以上となった状態を示す。
【0047】
プロトンと交換する金属陽イオンの種類は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、周期表第3〜14族の金属からなる群から選ばれる金属陽イオンであり、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、マンガン、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛が好ましく、より好ましくはアルカリ金属およびアルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、スズであり、さらに好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、スズであり、特に好ましくは、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛であり、もっとも好ましくは、リチウム、マグネシウム、亜鉛である。
【0048】
これらを示す具体的な処理剤として、例示するならば、LiCl、LiBr、LiSO、Li(PO)、LiNO、Li(OOCCH)、NaCl、NaBr、NaSO、Na(PO)、NaNO、Na(OOCCH)、KCl、KBr、KSO、K(PO)、KNO、K(OOCCH)、MgCl、MgSO、Mg(NO、Mg(C、CaCl、CaSO、Ca(NO、Ca(C、SrCl、SrSO、Sr(NO、Sr(C、NiCO、Ni(NO、NiC、Ni(ClO、NiSO、NiCl、NiBr、FeCl、Fe(SO、Fe(NO、Fe(C)、CuCl、CuBr、Cu(NO、CuC、Cu(ClO、CuSO、Cu(OOCCH、Zn(OOCH、Zn(CHCOCHCOCH、ZnCO、Zn(NO、Zn(ClO、Zn(PO、ZnSO、ZnF、ZnCl、ZnBr、ZnI、MgCl、AlF、AlCl、AlBr、AlI、Al(SO、Al(C、Al(CHCOCHCOCH、Al(NO、AlPO、Sn(OOCCH、Sn(SO、SnF、SnCl等が、挙げられる。
これらの各種処理剤は、適当な溶剤に溶解させて、処理剤溶液として用いてもよいし、処理剤自身を溶媒として用いてもよい。使用できる溶剤としては、水、アルコール類、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類、フラン類、アミン類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、二硫化炭素、ニトロベンゼン、ピリジン類やこれらのハロゲン化物などが挙げられる。また、処理剤溶液中の処理剤濃度は、0.1〜100重量%程度が好ましく、より好ましくは5〜50重量%程度である。処理剤濃度がこの範囲内であれば、処理に要する時間が短くなり、効率的に生産が可能になるという利点がある。
【0049】
工程Dは、溶媒にイオン交換性層状珪酸塩を分散させたスラリー状態で実施することが好ましい。使用する溶媒としては、水、有機溶媒等、特に制限はないが、好ましくはアルコール、水で、より好ましくは水である。
また、イオン交換性層状珪酸塩スラリーの濃度は、3〜30wt%であることが好ましく、5〜25wt%がより好ましく、7〜20wt%がさらに好ましい。
また、工程Dは、0℃から溶媒が還流するまでの温度で行うことが良く、好ましい上限としては、100℃で、より好ましくは90℃、さらに好ましくは80℃、よりさらに好ましくは70℃である。一方、好ましい温度の下限としては、5℃であり、より好ましくは10℃、さらに好ましくは20℃、よりさらに好ましくは30℃である。温度が低い場合は、工業的に製造する際に温度制御のためのエネルギー消費が大きくなるおそれがあり、逆に、温度を上げ過ぎると、操作上の安全性が低下するおそれがあることから、例示の範囲のような適度な温度で実施することが好ましい。
【0050】
また、反応の時間は、特に制限はないが、例を挙げると、5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上、特に好ましくは60分以上である。一方、上限としては、特に制限はないが、生産性を考慮すると、48時間以内が好ましく、24時間以下がより好ましく、12時間以下がさらに好ましく、6時間以下が特に好ましい。
【0051】
工程Dについて、金属陽イオンの濃度は、特に制限はないが、例えば、下限としては、0.001mmol/L以上が好ましく、0.01mmol/g以上がより好ましく、0.05mmol/g以上がさらに好ましく、0.1mmol/L以上がよりさらに好ましい。一方、上限としては、イオン交換性層状珪酸塩がスラリーとして流動可能な状態であれば特に制限はない。
【0052】
公知の製造方法としては、反応系内に、金属陽イオンを過剰に存在させるもので、経済性を低下させることや発生する廃液処理が問題となる可能性があり、少量で高交換を達成することが望まれている。
一方、本発明では、工程Dの終了時のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHを4.5〜8とすることにより、処理剤の量を、従来法よりも大きく削減できる。
また、工程Dに使用する金属陽イオンの量の上限としては、層間イオン(層電荷の量)の量に対して、2.5倍以下の量であることが好ましく、より好ましくは2倍以下である。一方、下限としては、イオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHにも依存するが、層間イオンの量(層電荷の量)に対して、0.1倍以上であることが好ましく、よりこのましくは0.3倍以上、さらに好ましくは、0.5倍以上、特に好ましくは1倍以上である。
【0053】
このように、工程Cと工程D、または工程A〜工程Dを経て、得られる化学処理層状珪酸塩の層間イオンの交換率(%)の下限は、10%で、好ましくは20%、より好ましくは30%、さらに好ましくは40%である。一方、上限としては100%となることが好ましい。また、イオン転換率(%)の下限は、40%で、好ましくは45%、より好ましくは50%、さらに好ましくは60%である。一方、上限は、100%となることが好ましい。
【0054】
ここで、層間イオンを異なる種類の金属陽イオンに交換することで、どのような作用が生まれるかを例示する。
層間イオンとしてプロトン(H)を有しているイオン交換性層状珪酸塩に対して、Hよりも陽イオン性が小さい陽イオンを置換することで、例えば、モンモリロナイトの持つ層電荷のバランスが、電気的に中和されており、バランスがとれていても、イオン性の違いによる微妙な性質の変化を与え、このような層状珪酸塩を、例えば、オレフィン重合用触媒成分の1つとして、用いると性能が向上すると考えている。
【0055】
また、工程Dの終了後は、洗浄を行うことが好ましい。洗浄方法、条件については、特に制限はないが、洗浄により、洗浄倍率が1/10以下となるように、洗浄することが好ましい。
洗浄に利用する溶媒は、水、アルコール類、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類、フラン類、アミン類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、二硫化炭素、ニトロベンゼン、ピリジン類やこれらのハロゲン化物などが挙げられる。好ましくは、工程Bの溶媒として使用したものと、同じ種類が良く、より好ましくは、水、エタノール、炭化水素である。
【0056】
6.乾燥
本発明の層状珪酸塩の製造方法では、工程Cと工程D、または工程A〜工程Dの後、洗浄および脱水を行い、その後は、好ましくは乾燥を行う。
乾燥は、得られた層状珪酸塩の構造破壊を起こさないように行うことが好ましく、一般的には、乾燥温度は、100〜800℃、好ましくは150〜600℃で実施可能であり、特に好ましくは150〜300℃で実施することが好ましい。
これらの層状珪酸塩は、構造破壊されなくとも、乾燥温度により特性が変化するために、用途に応じて、乾燥温度を変えることが好ましい。
また、乾燥時間は、通常1分〜24時間、好ましくは5分〜4時間であり、雰囲気は、乾燥空気、乾燥窒素、乾燥アルゴン、又は減圧下であることが好ましい。乾燥方法に関しては、特に限定されず各種方法で実施可能である。
【0057】
さらに、一般に、層状珪酸塩には、吸着水および層間水が含まれる。
本発明においては、これらの吸着水および層間水を除去して使用するのが好ましい。水の除去には、通常、加熱処理が用いられる。その方法は、特に制限されないが、付着水、層間水が残存しない、また、構造破壊を生じないような条件を選ぶことが好ましい。
加熱時間は、0.1時間以上、好ましくは0.2時間以上である。その際、除去した後の水分含有率が、温度200℃、圧力1mmHgの条件下で2時間脱水した場合の水分含有率を0重量%とした時、3重量%以下、好ましくは1重量%以下であることが好ましい。
【0058】
7.造粒
イオン交換性層状珪酸塩または層状珪酸塩は、造粒することが可能であり、造粒して、造粒体にて用いることが好ましい。
造粒方法としては、特に制限されないが、好ましい造粒体の製造方法としては、撹拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法、ブリケッティング、コンパクティング、押出造粒法、流動層造粒法、乳化造粒法、液中造粒法、圧縮成型造粒法等が挙げられる。より好ましくは、噴霧乾燥造粒や噴霧冷却造粒、流動層造粒、噴流層造粒、液中造粒、乳化造粒等が挙げられ、特に好ましくは噴霧乾燥造粒や噴霧冷却造粒が挙げられる。
噴霧造粒を行う場合、原料スラリーの分散媒として、水あるいはメタノール、エタノール、クロロホルム、塩化メチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の有機溶媒を用いる。好ましくは水を分散媒として用いる。
噴霧造粒の際、原料スラリー液中におけるイオン交換性層状珪酸塩または層状珪酸塩の濃度を、0.1〜70重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは4〜45重量%、さらに好ましくは5〜40重量%にすることで、球状の造粒体が得られる。上記濃度の上限を超えると、球状粒子が得られず、また、上記濃度の下限を下回ると、造粒体の平均粒径が小さくなりすぎる。球状粒子が得られる噴霧造粒の熱風の入口の温度は、分散媒により異なるが、水を例にとると、80〜260℃、好ましくは100〜220℃で行う。
【0059】
また、造粒の際に、有機物、無機塩等の各種バインダーを用いてもよい。用いられるバインダーとしては、例えば、砂糖、デキストローズ、コーンシロップ、ゼラチン、グルー、カルボキシメチルセルロース類、ポリビニルアルコール、水ガラス、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、アルコール類、グリコール、澱粉、カゼイン、ラテックス、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、タール、ピッチ、アルミナゾル、シリカゲル、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等が挙げられる。
造粒前のイオン交換性層状珪酸塩の形状については、特に制限はなく、天然に産出する形状、人工的に合成した時点の形状でもよいし、また、粉砕、造粒、分級などの操作によって形状を加工したものを用いてもよい。
【0060】
また、造粒したイオン交換性層状珪酸塩または層状珪酸塩の粒径は、5μm以上、300μm以下であり、球状であることが好ましい。より好ましくは5μm以上、250μn以下であり、さらに好ましくは、5μm以上、200μm以下である。5μm未満の微粒子が多く存在すると、反応器への付着等が起こりやすく、ポリマー同士の凝集、重合プロセスによっては、ショートパスあるいは長期滞留の要因となってしまい、好ましくない。300μm以上の粗粒子については、閉塞が起こりやすい等の問題が生じるために好ましくない。これらを満たす平均粒径とするために、あるいは平均粒径に対して極度に小さい、または大きい粒径を示す粒子が存在する場合には、分級、分別等により粒径を制御してもよい。
【0061】
II.オレフィン重合用触媒
本発明の層状珪酸塩の製造方法から得られた層状珪酸塩は、オレフィン重合用触媒成分として、好適に用いられる。オレフィン重合用触媒とは、一般的に、チーグラーナッタ触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。
本発明では、好適には成分(a)、成分(b)並びに必要に応じて成分(c)及び/又は成分(d)を接触させて、オレフィン重合用触媒を調製することがきる。
成分(a):メタロセン化合物
成分(b):上述の製造方法により製造した層状珪酸塩
成分(c):有機アルミニウム化合物
成分(d):炭素数2〜20のオレフィン
【0062】
1.成分(a):メタロセン化合物
本発明で使用する成分(a)の好ましい周期表第4族遷移金属のメタロセン化合物は、共役五員環配位子を少なくとも一個有するメタロセン化合物である。かかる遷移金属化合物として好ましいものは、下記一般式(1)〜(4)で表される化合物である。
【0063】
【化1】
【0064】
上記一般式(1)〜(4)中、AおよびA’は、置換基を有してもよい共役五員環配位子(同一化合物内においてAおよびA’は同一でも異なっていてもよい)を示し、Qは、二つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基を示し、Zは、窒素原子酸素原子、珪素原子、リン原子またはイオウ原子を含む配位子を示し、Q’は、共役五員環配位子の任意の位置とZを架橋する結合性基を示し、Mは、周期表第4族から選ばれる金属原子を示し、XおよびYは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、リン含有炭化水素基または珪素含有炭化水素基(同一化合物内においてX及びX’は、同一でも異なっていてもよい。)を示す。
【0065】
AおよびA’としては、例えば、シクロペンタジエニル基を挙げることができる。シクロペンタジエニル基は、水素原子を五個有するもの[C−]であってもよく、また、その誘導体、すなわちその水素原子のいくつかが置換基で置換されているものであってもよい。
この置換基の例としては、炭素数1〜40、好ましくは炭素数1〜30の炭化水素基である。この炭化水素基は、一価の基としてシクロペンタジエニル基と結合していても、また、これが複数存在するときに、その内の2個がそれぞれ他端(ω−端)で結合してシクロペンタジエニルの一部と共に環を形成していてもよい。後者の例としては、2個の置換基がそれぞれω−端で結合して、該シクロペンタジエニル基中の隣接した2個の炭素原子を共有して縮合六員環を形成しているもの、即ちインデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、および縮合七員環を形成しているもの、即ちアズレニル基、テトラヒドロアズレニル基が挙げられる。
【0066】
AおよびA’で示される共役五員環配位子の好ましい具体的例としては、置換または非置換のシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基、またはアズレニル基等が挙げられる。この中で、特に好ましいものは、置換または非置換のインデニル基、またはアズレニル基である。
【0067】
シクロペンタジエニル基上の置換基としては、前記の炭素数1〜40、好ましくは炭素数1〜30の炭化水素基に加え、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子基、炭素数1〜12のアルコキシ基、例えば、−Si(R)(R)(R)で示される珪素含有炭化水素基、−P(R)(R)で示されるリン含有炭化水素基、または−B(R)(R)で示されるホウ素含有炭化水素基が挙げられる。これらの置換基が複数ある場合、それぞれの置換基は同一でも異なっていてもよい。上述のR、R、Rは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜24、好ましくは炭素数1〜18のアルキル基を示す。
さらに、シクロペンタジエニル基上の置換基として、少なくとも1つの第15〜16族元素(すなわち、ヘテロ元素)を有しても良い。この場合、ヘテロ元素自身を活性点近傍に、しかも金属と結合、配位することなく存在させて、活性点の性質を向上させようという思想から、第15〜16族元素と共役五員環配位子とを結合する原子数が1以下であるメタロセン錯体がさらに好ましい。
第15〜16族元素の配位子上の位置は、特に制限は無いが、2位の置換基上に有することが好ましい。さらに好ましくは2位の置換基が、5員又は6員環中に酸素原子、硫黄原子、窒素原子、及びリン原子よりなる群から選択されるヘテロ原子を含有する単環式又は多環式であることが好ましい。また、好ましくはケイ素もしくはハロゲンを含んでもよい炭素数4〜20のヘテロ芳香族基であり、ヘテロ芳香族基は、5員環構造が好ましく、ヘテロ原子は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が好ましく、酸素原子、硫黄原子がより好ましく、酸素原子がさらに好ましい。
【0068】
Qは、二つの共役五員環配位子間を任意の位置で架橋する結合性基を、Q’は、共役五員環配位子の任意の位置とZで示される基を架橋する結合性基を表す。
QおよびQ’の具体例としては、次の基が挙げられる。
(イ)メチレン基、エチレン基、イソプロピレン基、フェニルメチルメチレン基、ジフェニルメチレン基、シクロヘキシレン基等のアルキレン基類
(ロ)ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジプロピルシリレン基、ジフェニルシリレン基、メチルエチルシリレン基、メチルフェニルシリレン基、メチル−t−ブチルシリレン基、ジシリレン基、テトラメチルジシリレン基等のシリレン基類
(ハ)ゲルマニウム、リン、窒素、ホウ素あるいはアルミニウムを含む炭化水素基類
【0069】
さらに、具体的には、(CHGe、(CGe、(CH)P、(C)P、(C)N、(C)N、(C)B、(C)B、(C)Al、(CO)Alで示される基等である。好ましいものは、アルキレン基類およびシリレン基類である。
【0070】
また、Mは、金属原子のことで、特に周期表第4族から選ばれる遷移金属原子を示し、例を挙げるならば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等である。特に、ジルコニウム、ハフニウムが好ましい。
さらに、Zは、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子またはイオウ原子を含む配位子、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基を示す。好ましい具体例としては、酸素原子、イオウ原子、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のチオアルコキシ基、炭素数1〜40、好ましくは炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜40、好ましくは炭素数1〜18の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜40、好ましくは炭素数1〜18のリン含有炭化水素基、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20の炭化水素基である。
【0071】
XおよびYは、各々水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基、アミノ基、ジフェニルフォスフィノ基等の炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のリン含有炭化水素基、またはトリメチルシリル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基等の炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のケイ素含有炭化水素基である。XとYは同一でも異なってもよい。これらのうちハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基、および炭素数1〜12のアミノ基が特に好ましい。
【0072】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、
(1)ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(2)ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(3)ビス(1、3−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(4)ビス(1−n−ブチル−3−メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(5)ビス(1−メチル−3−トリフルオロメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(6)ビス(1−メチル−3−トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(7)ビス(1−メチル−3−フェニルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(8)ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、
(9)ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、
(10)ビス(2−メチル−テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、
等が挙げられる。
【0073】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、
(1)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4−イソプロピル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(2)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(3)ジメチルシリレンビス〔1−{2−メチル−4−(4−フルオロフェニル)−4H−アズレニル}〕ジルコニウムジクロリド、
(4)ジメチルシリレンビス[1−{2−メチル−4−(2、6−ジメチルフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(5)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4、6−ジイソプロピル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(6)ジフェニルシリレンビス{1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(7)ジメチルシリレンビス{1−(2−エチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(8)エチレンビス{1−[2−メチル−4−(4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]}ジルコニウムジクロリド、
(9)ジメチルシリレンビス{1−[2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]}ジルコニウムジクロリド、
(10)ジメチルシリレンビス{1−[2−メチル−4−(2’、6’−ジメチル−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]}ジルコニウムジクロリド、
(11)ジメチルシリレン{1−[2−メチル−4−(4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]}{1−[2−メチル−4−(4−ビフェニリル)インデニル]}ジルコニウムジクロリド、
(12)ジメチルシリレン{1−(2−エチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}{1−(2−メチル−4、5−ベンゾインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(13)ジメチルシリレンビス{1−(2−エチル−4−フェニル−7−フルオロ−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(14)ジメチルシリレンビス{1−(2−エチル−4−インドリル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(15)ジメチルシリレンビス[1−{2−エチル−4−(3、5−ビストリフルオロメチルフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウムジクロリド、
(16)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}ジルコニウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)、
(17)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(18)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4、5−ベンゾインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(19)ジメチルシリレンビス〔1−{2−メチル−4−(1−ナフチル)インデニル}〕ジルコニウムジクロリド、
(20)ジメチルシリレンビス{1−(2−メチル−4、6−ジイソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(21)ジメチルシリレンビス{1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(22)エチレン−1、2−ビス{1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(23)エチレン−1、2−ビス{1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(24)イソプロピリデンビス{1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(25)エチレン−1、2−ビス{1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(26)イソプロピリデンビス{1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)}ジルコニウムジクロリド、
(27)ジメチルゲルミレンビス{1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(28)ジメチルゲルミレンビス{1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(29)フェニルホスフィノビス{1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、
(30)ジメチルシリレンビス[3−(2−フリル)−2、5−ジメチル−シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロリド、
(31)ジメチルシリレンビス[2−(2−フリル)−3、5−ジメチル−シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロリド、
(32)ジメチルシリレンビス[2−(2−フリル)−インデニル]ジルコニウムジクロリド、
(33)ジメチルシリレンビス[2−(2−(5−メチル)フリル)−4、5−ジメチル−シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロリド、
(34)ジメチルシリレンビス[2−(2−(5−トリメチルシリル)フリル)−4、5−ジメチル−シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロリド、
(35)ジメチルシリレンビス[2−(2−チエニル)−インデニル]ジルコニウムジクロリド、
(36)ジメチルシリレン[2−(2−(5−メチル)フリル)−4−フェニルインデニル][2−メチル−4−フェニルインデニル]ジルコニウムジクロリド、
(37)ジメチルシリレンビス(2、3、5−トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(38)ジメチルシリレンビス(2、3−ジメチル−5−エチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
(39)ジメチルシリレンビス(2、5−ジメチル−3−フェニルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
等が挙げられる。
【0074】
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、
(1)(テトラメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(ビスt−ブチルアミド)ジクロリド、
(2)(テトラメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(ビスイソプロピルアミド)ジクロリド、
(3)(テトラメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(ビスシクロドデシルアミド)ジクロリド、
(4)(テトラメチルシクロペンタジエニル)チタニウム{ビス(トリメチルシリル)アミド)}ジクロリド、
(5)(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)チタニウム{ビス(トリメチルシリル)アミド}ジクロリド、
(6)(2−メチルインデニル)チタニウム(ビスt−ブチルアミド)ジクロリド、
(7)(フルオレニル)チタニウム(ビスt−ブチルアミド)ジクロリド、
(8)(3、6−ジイソプロピルフルオレニル)チタニウム(ビスt−ブチルアミド)ジクロリド、
(9)(テトラメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(フェノキシド)ジクロリド、
(10)(テトラメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(2、6−ジイソプロピルフェノキシド)ジクロリド、
等が挙げられる。
【0075】
一般式(4)で表される化合物としては、例えば、
(1)ジメチルシランジイル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(t−ブチルアミド)チタニウムジクロリド、
(2)ジメチルシランジイル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(シクロドデシルアミド)チタニウムジクロリド、
(3)ジメチルシランジイル(2−メチルインデニル)(t−ブチルアミド)チタニウムジクロリド、
(4)ジメチルシランジイル(フルオレニル)(t−ブチルアミド)チタニウムジクロリド、等が挙げられる。
【0076】
これらの例示化合物のジクロリドは、ジブロマイド、ジフルオライド、ジメチル、ジフェニル、ジベンジル、ビスジメチルアミド、ビスジエチルアミド等に置き換えた化合物も、同様に例示される。さらに、例示化合物中のジルコニウムは、ハフニウムまたはチタニウムに、チタニウムは、ハフニウムまたはジルコニウムに置き換えた化合物も、同様に、例示される。
【0077】
本発明で使用する遷移金属化合物としては、一般式(2)で示される化合物が好ましく、さらに、置換基に縮合七員環を形成しているもの、即ちアズレニル基、テトラヒドロアズレニル基を有する化合物が特に好ましい。
なお、メタロセン化合物は、一種類を用いることも、二種類以上を併用して用いることもできる。
【0078】
二種類以上を併用して用いる場合は、上記一般式(1)〜(4)のうちいずれか一つの一般式に含まれる化合物群の中から二種類以上を選ぶことができ、一つの一般式に含まれる化合物群の中から選ばれる一種または二種以上と他の一般式に含まれる化合物群の中から選ばれる一種または二種以上とを選ぶこともできる。
例えば、オレフィンマクロマーを生成する重合用触媒を形成するメタロセン化合物であり、オレフィンマクロマーを生成する重合用触媒を形成するメタロセン化合物とは、70℃でプロピレン単独重合を行った場合に、末端ビニル率が0.5以上を満たすプロピレン単独重合体を形成するメタロセン化合物(a−1)と、一般式(4)で表されるメタロセン化合物(a−2)との併用を挙げることができる。成分(a−2)に対する成分(a−1)のモル比(a−1)/(a−2)は、1.0〜99.0とすることができる。
【0079】
2.成分(c):有機アルミニウム化合物
成分(c)は、有機アルミニウム化合物である。
本発明で成分(c)として用いられる有機アルミニウム化合物は、一般式:(AlR3−n で表される有機アルミニウム化合物が使用される。
式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基又はアミノ基を表し、nは1〜3の整数を表し、mは1または2を表す。
有機アルミニウム化合物は、単独であるいは複数種を組み合わせて使用することができる。
【0080】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、トリノルマルデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。
これらのうち、好ましくは、m=1、n=3のトリアルキルアルミニウム及びアルキルアルミニウムヒドリドである。さらに好ましくは、Rが炭素数1〜8であるトリアルキルアルミニウムである。
【0081】
3.成分(d):炭素数2〜20のオレフィン
本発明に係るオレフィン重合用触媒では、予め、オレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付すことが好ましい。
使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレンなどを使用することが可能であり、特にプロピレンを使用することが好ましい。
【0082】
予備重合時のオレフィンの供給方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持する供給方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせるなど、任意の方法が可能である。
予備重合時間は、特に限定されないが、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が、成分(b)1gに対し、好ましくは0.01〜100g、さらに好ましくは0.1〜50gである。
また、予備重合温度は、特に制限は無いが、0℃〜100℃が好ましく、より好ましくは10〜70℃、特に好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは30〜50℃である。この範囲を下回ると、反応速度が低下したり、活性化反応が進行しないという弊害が生じる可能性があり、一方、上回ると、予備重合ポリマーが溶解したり、予備重合速度が速すぎて粒子性状が悪化したり、副反応のため活性点が失活するという弊害が生じる可能性がある。
【0083】
予備重合時には、有機溶媒等の液体中で実施することもでき、かつこれが好ましい。予備重合時の触媒の濃度には、特に制限は無いが、好ましくは30g/L以上、より好ましくは40g/L以上、特に好ましくは45g/L以上である。濃度が高い方がメタロセンの活性化が進行し、高活性触媒となる。
さらに、上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0084】
予備重合後の触媒は、そのまま使用してもよいし、乾燥してもよい。乾燥方法には、特に制限は無いが、減圧乾燥や加熱乾燥、乾燥ガスを流通させることによる乾燥などが例示され、これらの方法を単独で用いてもよいし、2つ以上の方法を組み合わせて用いてもよい。乾燥工程において触媒を攪拌、振動、流動させてもよいし、静置させてもよい。
【0085】
4.オレフィン重合用触媒の調製
本発明に係るオレフィン重合用触媒は、成分(a)と成分(b)及び必要に応じて成分(c)を接触させた後、さらに必要であれば成分(d)を接触させて、触媒とする。
その成分(a)、(b)、(c)の接触方法は、特に限定されないが、以下のような順序で接触させることができる。この接触は、成分(d)として示したオレフィンの不存在化で行っても、存在下で行ってもよい。これらの接触において、接触を充分に行うため溶媒を用いてもよい。溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素やこれらのハロゲン化物、また予備重合モノマーなどが例示される。
(i)成分(a)と成分(b)を接触させる。
(ii)成分(a)と成分(b)を接触させた後に、成分(c)を接触する。
(iii)成分(b)と成分(c)を接触させた後に、成分(a)を接触する。
(iv)成分(a)と成分(c)を接触させた後に、成分(b)を接触する。
(v)三成分を同時に接触させる。
【0086】
好ましい接触方法は、成分(b)と成分(c)を接触させた後、未反応の成分(c)を洗浄等で除去し、その後再度必要最小限の成分(c)を成分(b)に接触させ、その後、成分(a)を接触させる方法である。この場合のAl/遷移金属のモル比は、0.1〜1、000、好ましくは2〜100、さらに好ましくは4〜50の範囲である。
成分(b)と成分(c)を接触させる(その場合、成分(a)が存在していても良い)温度は、0℃〜100℃が好ましく、さらに好ましくは20〜80℃、特に好ましくは30〜60℃である。この範囲より低い場合は、反応が遅く、また、高い場合は、副反応が進行するという欠点がある。
また、成分(a)と成分(c)を接触させる(その場合、成分(b)が存在していても良い)場合には、有機溶媒を溶媒として存在させることが好ましい。この場合の成分(a)の有機溶媒中での濃度は、高い方が好ましい。好ましい成分(a)の有機溶媒中での濃度の下限は、好ましくは3mmol/L、より好ましくは4mmol/L、さらに好ましくは6mmol/Lである。下限未満では、反応が遅く、十分に反応が進行しないおそれがある。
成分(b)1gにつき、成分(a)が0.001〜10mmol、好ましくは0.001〜1mmolの範囲である。
【0087】
III.オレフィン(共)重合体の製造方法
前記成分(a)、成分(b)、及び必要に応じて用いられる成分(c)、成分(d)からなるオレフィン重合用触媒を用いて行う重合は、1種類のオレフィンを重合、あるいは2種類以上のオレフィンを共重合させることにより、行われる。
共重合の場合、反応系中の各モノマーの量比は、経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも可能であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
【0088】
重合し得るオレフィンとしては、炭素数2〜20程度のものが好ましく、具体的にはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、スチレン、ジビニルベンゼン、7−メチル−1、7−オクタジエン、シクロペンテン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。好ましくは炭素数2〜8のα−オレフィンであり、さらに好ましくはエチレン、プロピレンである。共重合の場合、用いられるコモノマーの種類は、前記オレフィンとして挙げられるものの中から、主成分となるもの以外のオレフィンを1種、或いは2種以上選択して用いることができる。好ましくは主成分がプロピレンである。
【0089】
重合様式は、触媒とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いる方法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いずモノマーをガス状に保つ気相法などが採用できる。また、連続重合、回分式重合を行う方法も適用される。
スラリー重合の場合は、重合溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独又は混合物が用いられる。重合温度は、0〜150℃であり、また、分子量調節剤として補助的に水素を用いることができる。重合圧力は、0〜2000kg/cmG、好ましくは0〜60kg/cmGが適当である。
【0090】
本発明に係るオレフィン(共)重合体の製造方法によって得られるオレフィン(共)重合体としては、特に限定されないが、以下に例を挙げるとすれば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン/エチレン−α−オレフィン系共重合体などが挙げられる。
【実施例】
【0091】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、物性測定に使用した分析機器および測定方法は、以下の通りである。
【0092】
(各種物性測定法)
(1)イオン交換性層状珪酸塩の組成分析:
Al、SiおよびMgは、700℃で1時間試料を焼成したのち、試料0.5gを融剤(Li)4.5g、剥離剤(KBr)0.03gと混合し、ガラスビードを作成し、XRF分析装置(理学電機工業(株)ZSX−100e)により、検量線法にて定量分析を行った。
検量線範囲は、Siが19.48〜44.22%、Alが2.01〜19.41%、Mgが0.22〜3.02%である。
Liは、試料を石英製ビーカーに採取し、電気炉に入れて700℃で1時間焼成した。焼成後、試料を白金製るつぼに採取して、硫酸とフッ化水素酸を添加して加熱し、Siを除去した。溶液をメスフラスコに定容して、Liを原子吸光光度計(日立製作所製、Z−5310型)で測定した。
Znは、700℃で1時間乾燥した試料に硫酸とフッ化水素酸を加え加熱溶解したのち、その溶液をICP発光分析ICP−OES(堀場製作所製、ULTIMA2)にて測定した。
【0093】
(2)イオン交換性層状珪酸塩スラリーのスラリーpH測定
イオン交換性層状珪酸塩スラリーを、撹拌装置を用いて均一となる回転速度(およそ100−300rpm)にて分散させ、そこに堀場製作所のガラス電極式水素イオン濃度計D−21型を浸け、読み取った数値を採用した。工程Dにおいて、pHは、常にモニタリングした(連続監視)。
下記表1に記載の「金属陽イオン量、mmol/g−珪酸塩」は、塩基類から発生する金属陽イオンと同種のものであった場合、使用した金属陽イオンの総和として記載した(表1に記載の金属陽イオン量=塩基類から発生する金属陽イオン+金属陽イオン)。
【0094】
[実施例1]
1.工程A:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理
撹拌翼と還流装置を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、645.1gの蒸留水に98%硫酸82.6gを添加し、95℃まで昇温した。温度が安定したところで、市販のモンモリロナイト(水澤化学工業社製、平均粒径14μm、Al=9.78wt%、Si=31.79wt%、Mg=3.18wt%、Al/Si=0.320、Mg/Al=0.359、八面体シートの主金属はアルミニウム、同形置換している金属はマグネシウムで、同形置換量は1.31mmol/g)100gを添加し、95℃を維持したまま、320分反応させた。320分後、0.5Lの蒸留水に、上記のモンモリロナイトの酸水溶液を注ぎ、反応を停止した。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて濾過した。
【0095】
2.工程B:イオン交換性層状珪酸塩の洗浄
上記のろ過後のケーキ状のモンモリロナイトを0.25Lの蒸留水でリンスした。ここから得られたケーキは、4gサンプリングし、95℃のオーブンにて2時間以上、乾燥させることで、ケーキ中の固体分を求めた。
ケーキ1g中の固体分は0.31gであった。この化学処理モンモリロナイトの化学組成は、Alが7.68wt%、Siが36.05wt%(Al/Si=0.222)、Mgが2.13wt%(硫酸処理後の同形置換の量は0.876mmol/g)であり、この処理により溶出したAlは、30.6%であった。洗浄倍率は、0.11であった。
【0096】
3.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記ケーキに、モンモリロナイト濃度が16.5wt%となるように、蒸留水を加えた。この時のスラリーのpHは、1.63だった。40℃まで昇温し、ここにモンモリロナイトに対して、1.03mmol/gとなるように、3.414gの水酸化リチウム・水和物(塩基類)を固体のまま加え、1時間40℃を維持したまま反応させた。
このときの反応終了時のスラリーのpHは、6.74だった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
1時間後、反応スラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて濾過し、1Lの蒸留水で3回洗浄した。回収したケーキを110℃で1晩乾燥し、79gの化学処理モンモリロナイトを得た。
この化学処理モンモリロナイトには、0.72mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、69.9%で、リチウムイオンの交換率(%)は、82.2%であった。
【0097】
[実施例2]
1.工程A:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理
実施例1と同様に実施した。
2.工程B:イオン交換性層状珪酸塩の洗浄
実施例1において、工程Bのリンス後、1Lの蒸留水を用いて、さらに洗浄を行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。洗浄倍率は、0.047であった。
【0098】
3.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
塩基類との接触前のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHは、2.48であった。
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを使用し、使用した水酸化リチウム・水和物の量を、スラリーのpHが8を超えないように、モンモリロナイトに対して、0.73mmol/gとした以外は、実施例1の工程C、Dと同様の操作を行った。
反応終了時のスラリーpHは、7.18であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
この反応から得られた化学処理モンモリロナイトは78.3gであった。この化学処理モンモリロナイトには、0.73mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、100.0%で、リチウムイオンの交換率(%)は、83.3%であった。
【0099】
[実施例3]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例1と同様に実施した。
2.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを使用し、使用した水酸化リチウム・水和物の量がモンモリロナイトに対して0.85mmol/gとした以外は、実施例1の工程C、Dと同様の操作を行った。
このときの反応終了時のスラリーpHは、5.02であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
この反応から得られた化学処理モンモリロナイトは81gであった。この化学処理モンモリロナイトには0.53mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、62.4%で、リチウムイオンの交換率(%)は、60.5%であった。
【0100】
[実施例4]
1.工程A:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理
実施例1と同様の操作を実施した。
2.工程B:イオン交換性層状珪酸塩の洗浄
リンス操作は行わなかった。洗浄倍率は、0.21であった。
【0101】
3.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
塩基類との接触前のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHは、1.15であった。
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを使用し、使用した水酸化リチウム・水和物の量がモンモリロナイトに対して1.73mmol/gとした以外は、実施例1の工程C、Dと同様の操作を行った。
工程D終了時のスラリーのpHは、5.87であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
この反応から得られた化学処理モンモリロナイトは80gであった。この化学処理モンモリロナイトには、0.76mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、43.9%で、リチウムイオンの交換率(%)は、86.8%であった。
【0102】
[実施例5]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例1の同様の操作を実施した。
2.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを使用し、水酸化リチウム・水和物の代わりに水酸化亜鉛を、モンモリロナイトに対して、0.60mmol/g使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
このときの反応終了時のスラリーpHは、7.21であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
この反応から得られた化学処理モンモリロナイトは79gであった。この化学処理モンモリロナイトには、0.38mmol/gの亜鉛イオンが交換しており、亜鉛イオンの転換率(%)は、63.3%で、亜鉛イオンの交換率(%)は、86.8%であった。
【0103】
[実施例6]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例1の同様の操作を実施した。
2.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを40g使用(粉体として)し、蒸留水176gによりスラリー化させた(pH1.62、18.5wt%)。40℃としたところに、水酸化リチウム・水和物2.03g(0.048mol)を16mLの蒸留水に溶解させた水酸化リチウム水溶液(水酸化リチウム濃度3.0mol/L)を3分間かけて徐々に加えていき、全量加え終わってから117分間撹拌を継続し、反応させた。
工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。117分経過した反応終了時のスラリーpHは、6.34であった。
実施例1と同様に洗浄および乾燥を行い、39.3gの化学処理モンモリロナイトを得た。
この化学処理モンモリロナイトには、0.72mmol/gのリチウムが交換しており、使用したリチウム量は、粘土1gに対して1.2mmol/gで、リチウムイオン転換率(%)は、60.0%で、リチウムイオンの交換率(%)は、82.2%であった。
【0104】
[実施例7]
1.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
市販の活性白土(八面体シートの主金属は、アルミニウム、同形置換は、マグネシウムによるもので、同形置換量は0.677mmol/g)50gに、蒸留水268gによりスラリー化させ(pH2.48、15.7wt%)、40℃に昇温した。
ここに固体の水酸化リチウム・水和物を1.343g(0.032mol)を徐々に加えた。全量添加後、95分間撹拌を継続し、反応させた。
95分経過後のスラリーpHは6.72であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
実施例1と同様に、洗浄および乾燥を行い、49.5gの化学処理モンモリロナイトを得た。
この化学処理モンモリロナイトには、0.63mmol/gのリチウムが交換しており、使用したリチウム量は、粘土1gに対して0.64mmol/gで、リチウムイオン転換率(%)は、98.4%で、リチウムイオンの交換率(%)は、93.1%であった。
【0105】
[実施例8]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例2の同様の操作を実施した。
2.工程C:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを40g使用(粉体として)し、蒸留水176gによりスラリー化させた(pH2.12、18.5wt%)。40℃としたところに、水酸化リチウム・水和物1.225g(0.029mol)を15mLの蒸留水に溶解させた水酸化リチウム水溶液(水酸化リチウム濃度1.9mol/L)を徐々に加えていき、全量加え終わったところで、反応溶液のスラリーのpHは、7.25であった。
【0106】
3.工程D:イオン交換性層状珪酸塩のイオン交換
上記反応スラリーに固体の硫酸リチウム水和物2.432g(0.019mol)を添加し、全量加え終わってから100分間撹拌を継続し、反応させた。
100分経過後のスラリーpHは、6.23であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
実施例1と同様に洗浄および乾燥を行い、39.3gの化学処理モンモリロナイトを得た。
この化学処理モンモリロナイトには、0.80mmol/gのリチウムが交換しており、使用したリチウム量は、粘土1gに対して1.68mmol/gで、リチウムイオン転換率(%)は、47.6%で、リチウムイオンの交換率(%)は、91.3%であった。
【0107】
[実施例9]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例1の同様の操作を実施した。
2.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを40g使用(粉体として)し、蒸留水174gによりスラリー化させた(pH1.61、18.7wt%)。40℃としたところに、水酸化リチウム・水和物1.430g(0.034mol)を20mLの蒸留水に溶解させた水酸化リチウム水溶液(濃度1.7mol/L)を徐々に加えていき、10mL添加したところで、操作を終えた。
このときのスラリーpHは4.8であった。ここに固体(粉体)の硫酸リチウム水和物を2.560g(0.020mol)追加したところ、イオン交換にともなう層間からのプロトン放出により、スラリーpHは、徐々に低下していき、5分経過後に珪酸塩スラリーのpHは、4.2となった。そのため、このスラリーに、先ほどの水酸化リチウム水溶液の残り10mLを徐々に加えていき、全量加えたのち、95分間撹拌を継続し、反応させた。
95分経過後、反応終了時の珪酸塩スラリーのpHは、5.87であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
実施例1と同様に、洗浄および乾燥を行い、39.2gの化学処理モンモリロナイトを得た。
この化学処理モンモリロナイトには、0.76mmol/gのリチウムが交換しており、使用したリチウム量は、粘土1gに対して1.85mmol/gで、リチウムイオン転換率(%)は、41.1%で、リチウムイオンの交換率(%)は、86.8%であった。
【0108】
[実施例10]
1.工程A:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理
撹拌翼と還流装置を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、2264の蒸留水に98%硫酸669gを添加し、90℃まで昇温した。温度が安定したところで、市販のモンモリロナイト(水澤化学工業社製、平均粒径18μm、Al=9.44wt%、Si=35.81wt%、Mg=1.45wt%、Al/Si=0.274、八面体シートの主金属はアルミニウムで、同形置換している金属はマグネシウム)400gを添加し、90℃を維持したまま215分反応させた。215分後、2Lの蒸留水に上記のモンモリロナイトの酸水溶液を注ぎ、反応を停止した。
【0109】
2.工程B:洗浄
上記スラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて濾過し、1Lの蒸留水でリンスした。ろ過後、ヌッチェ内のケーキを5Lプラスチックビーカーに回収し、そこに4Lの蒸留水を加えて洗浄した。
このスラリーをろ過し、得られたケーキを95℃のオーブンにて一晩乾燥させたところ、275gの化学処理モンモリロナイトを得た。
この化学処理モンモリロナイトの化学組成は、Alが6.71wt%、Siが38.27wt%(Al/Si=0.183)、Mgが1.14wt%(硫酸処理後の同形置換量は0.469mmol/g、Mg/Al=0.189)であり、この処理により溶出したAlは、33.2%であった。洗浄倍率は、0.047であった。
【0110】
3.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイト73g使用し、実施例1の工程C、Dにおいて、水酸化リチウム・水和物を0.73mmol/gとした以外は、同様の操作を行った。
塩基類との接触前のイオン交換性層状珪酸塩スラリーのpHは、2.58であった。反応終了時のスラリーpHは、7.32であった。工程中にスラリーのpHは、8を超えなかった。
この反応から得られた化学処理モンモリロナイトには、0.46mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、63.0%で、リチウムイオンの交換率(%)は、98.1%であった。
【0111】
[比較例1]
1.工程A:イオン交換性層状珪酸塩の酸処理
実施例1と同様に行った。
2.工程B:洗浄
実施例1において、リンス後、1Lの蒸留水で4回洗浄した以外は、実施例1と同様に行った。洗浄率は、0.0004であった。
【0112】
3.工程D:イオン交換性層状珪酸塩のイオン交換
1Lフラスコに硫酸リチウム・水和物84.736g(0.662mol)を分取し、そこに蒸留水480mlを加えて、硫酸リチウム水溶液を調製した。
この水溶液に、上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイト78.3gを添加し、40℃で2時間反応させた。
このとき、反応終了時のスラリーのpHは、3.0だった。
このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて濾過し、0.7Lの純水で3回洗浄し、回収したケーキを120℃で終夜乾燥した。
その結果、78.3gの化学処理モンモリロナイトを得た。この化学処理モンモリロナイトには、0.74mmol/gのリチウムが交換しており、使用したリチウム量は、粘土1gに対して、16.9mmol/gで、リチウムイオンの転換率(%)は、4.4%で、リチウムイオンの交換率(%)は、84.5%であった。
【0113】
[比較例2]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例1と同様に行った。
2.工程D:イオン交換性層状珪酸塩のイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを使用し、水酸化リチウムの代わりに硫酸リチウム水和物を、モンモリロナイトに対してリチウムの量が0.52mmol/gとなる量を使用した以外は、実施例1の工程C、Dと同様の操作を行った。
このときの反応終了時のスラリーpHは、1.6であった。この反応から得られた化学処理モンモリロナイトは、80gであった。
この化学処理モンモリロナイトには、0.07mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、6.7%で、リチウムイオンの交換率(%)は、8.0%であった
【0114】
[比較例3]
1.工程A:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理
実施例10と同様に行った。
2.工程B:洗浄
実施例10と同様に行った。
【0115】
3.工程D:イオン交換性層状珪酸塩のイオン交換
水酸化リチウム・水和物の代わりに、硫酸リチウム・水和物3.411g(0.027mol)を、化学処理モンモリロナイトを71g使用した以外は、実施例10と同様の操作を実施した。
このときの反応終了時のスラリーpHは、2.21であった。この反応から得られた化学処理モンモリロナイトには、0.21mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、27.6%で、リチウムイオンの交換率(%)は、44.8%であった。
【0116】
[比較例4]
1.工程A、B:イオン交換性層状珪酸塩の酸類処理と洗浄
実施例1と同様に行った。
2.工程C、D:イオン交換性層状珪酸塩と塩基類の接触およびイオン交換
上記工程を経て得られた化学処理モンモリロナイトを使用し、水酸化リチウム・水和物の量が1.03mmol/gの代わりに、モンモリロナイトに対して1.27mmol/g使用した以外は、実施例1の工程C、Dと同様の操作を行った。
このときの反応終了時のスラリーpHは、8.57であった。また、工程終了後の洗浄で減圧濾過において、実施例1に要した時間の3倍のろ過時間を要した。
この反応から得られた化学処理モンモリロナイトは、80gであった。この化学処理モンモリロナイトには、0.92mmol/gのリチウムが交換しており、リチウムイオンの転換率(%)は、72.4%で、リチウムイオンの交換率(%)は、105.0%であった。
【0117】
上記実施例1〜10と比較例1〜4について、各工程のまとめと、評価結果を表1に示す。また、図1には、工程D終了時のスラリーのpHに対して、得られた層状珪酸塩のイオン転換率(%)をプロットした結果を示す。
また、表1中のろ過の容易性の評価では、以下の評価基準で評価した。
◎:工程D終了時の洗浄操作で、ろ過時間が短時間であり、非常に良好。
○:工程D終了時の洗浄操作で、ろ過時間が短〜中時間であり、良好。
×:工程D終了時の洗浄操作で、ろ過時間が長時間であり、不可。
【0118】
[重合例1]
1.触媒調製
以下の操作は、不活性ガス下、脱酸素、脱水処理された溶媒、モノマーを使用して実施した。
実施例1で調製した化学処理モンモリロナイトを容積200mlのフラスコに入れ、200℃でおよそ3時間(突沸がおさまってから2時間以上)減圧乾燥した。
次に、内容積1Lのフラスコに、この乾燥モンモリロナイト10.01gを秤量し、ヘプタン65ml、トリイソブチルアルミニウム(TiBA)のヘプタン溶液35ml(25.5mmol、濃度144.3g/l)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、ヘプタンで残液率1/100まで洗浄し、最後に、スラリー量を100mlに調製した。これに、ヘプタン85mlとトリノルマルオクチルアルミニウム(TnOA)のヘプタン溶液1.53ml(濃度143.6mg/ml、599.2μmol)を加え、室温で15分撹拌した。
ここに、別のフラスコ(容積200ml)中で調製した、(r)−[1、1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウムジクロライド(合成は、特開平10−110136号公報の実施例に従って実施した。)125mg(153.8μmol)のヘプタン(30mL)溶液を加えて、60℃で60分間撹拌した。反応終了後、ヘプタンを追加して333mlに調製した。
窒素置換を行った内容積1Lの撹拌式オートクレーブに、上記で調製したモンモリロナイト/メタロセン錯体を導入した。オートクレーブ内の温度が40℃に安定したところでプロピレンを5g/時間の速度で供給し、温度40℃を維持した。4時間後プロピレンの供給を停止し、さらに1時間維持して予備重合を行った。
予備重合終了後、残存プロピレンをパージして、予備重合触媒スラリーをオートクレーブより回収した。回収した予備重合触媒スラリーを静置し、上澄み液を160ml抜き出した。続いて、TiBAのヘプタン溶液4.14ml(2.96mmol)を室温にて加え、その後、40℃にて1時間減圧乾燥した。
これにより、触媒1g当たりにポリプロピレンを2.03g含む予備重合触媒が30.67g得られた。
【0119】
2.プロピレン重合
内容積3Lの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分置換した後に、TiBAのヘプタン溶液5.6ml(4.04mmol)を加え、水素45ml、液体プロピレン750gを導入し、70℃に昇温しその温度を維持した。予備重合触媒をヘプタンでスラリー化し、触媒として(予備重合ポリマーの重量は除く)20.8mgを圧入し、重合を開始した。内温を70℃に維持したまま、1時間重合を継続した。その後、エタノール5mlを加え重合反応を停止させた。残ガスをパージしてポリマーを得た。得られたポリマーを90℃で1時間乾燥した。
その結果、225.8gのポリマーが得られた。触媒活性は、10、856g−PP/g−触媒/hrであった。MFRは2.0g/10分であった。得られた重合パウダーのパウダーBDは、0.45g/ccであった。
【0120】
【表1】
【0121】
表1と図1から、層間イオンにプロトンを有するモンモリロナイトを塩基類と接触させる工程Cと、工程全体を通しpHが8を超えることがなく、かつ工程終了時には、pHが4.5〜8であるイオン交換性層状珪酸塩のスラリー下でイオン交換を行う工程Dを、同時または逐次で実施することにより、高いイオン交換率(%)の層状珪酸塩が、高いイオン転換率(%)で得ることが可能になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の層状珪酸塩の製造方法では、例えば、化学処理モンモリロナイトの製造工程において、公知の洗浄操作に使用していた大量の水および時間および廃液中の金属イオン含量を大幅に削減することができ、省エネルギー化および生産性向上にも大きく貢献する。また、本発明の層状珪酸塩の製造方法から得られた層状珪酸塩は、オレフィン重合用触媒成分として使用すると、オレフィン重合は、高活性に進行し、その結果、高活性にオレフィン(共)重合体を製造することができ、産業上、利用可能性が高い。
図1