特許第6187410号(P6187410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187410
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ステッチラインの形成方法
(51)【国際特許分類】
   D05B 55/14 20060101AFI20170821BHJP
   D05B 85/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   D05B55/14 A
   D05B85/02
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-158739(P2014-158739)
(22)【出願日】2014年8月4日
(65)【公開番号】特開2016-34420(P2016-34420A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2016年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】戸田 稔
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 千春
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 亮太
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−043571(JP,A)
【文献】 特開平02−046887(JP,A)
【文献】 実開昭59−125387(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00−97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層部分が表皮により構成された表皮材を、同表皮材の厚み方向に直交する方向へ送り出しつつ、ミシン針を前記表皮材の厚み方向へ往復動させる縫製サイクルを行なうことにより、同表皮材に針孔を形成するとともに、前記ミシン針の往復動に伴い送られる上糸を、前記表皮材の表側から前記針孔に通して、同表皮材の裏側の下糸に交差させた後に同針孔から表側へ抜き出し、前記縫製サイクルを繰り返すことで、隣り合う針孔間にステッチを形成するとともに、複数の前記ステッチが列をなすように配置されてなるステッチラインを前記表皮上に形成するステッチラインの形成方法であって、
前記ミシン針として、先端部に四角形の断面を有するものを用い、
前記下糸にテンションがかけられることで発生し、かつ前記上糸と前記下糸との交差部分を支点として、前記針孔内で隣り合う一対の前記ステッチの各端部を回転させようとする力の向きを回転方向とした場合、前記回転方向とは反対方向へ前記ミシン針を回転させることで、前記断面の対角線を前記表皮材の送り出し方向に対し傾斜させ、この状態で前記ミシン針を往復動させるようにしたステッチラインの形成方法。
【請求項2】
前記対角線の一方を前記送り出し方向に対し10°〜20°傾斜させた状態で前記ミシン針を往復動させる請求項1に記載のステッチラインの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材にステッチラインを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のインストルメントパネル、コンソール等の内装品として、少なくとも表層部分が表皮によって構成されたもの(以下「表皮付き製品」という)が知られている。この表皮付き製品の一形態として次のようなものがある。表皮付き製品は、基材と、基材上に設けられた表皮材とを備えている。表皮材としては、表皮単層により構成されるものと、表皮の裏側にクッション層を積層することにより構成されたものとがある。表皮材には、表皮の表面に複数のステッチを列をなすように配置してなるステッチラインが形成されている。
【0003】
この表皮付き製品の製造に際しては、例えば表皮材にステッチラインが形成される。次いで、ステッチラインの形成された表皮材が基材に貼り付けられる。
表皮材にステッチラインを形成するには、図11に示すように、表皮材51を、同表皮材51の厚み方向(図11では紙面に直交する方向)に直交する方向である送り出し方向Aへ送り出すとともに、ミシン針を表皮材51の厚み方向へ往復動させる縫製サイクルが行なわれる。この縫製サイクルにより、表皮材51に針孔52が形成される。また、ミシン針の往復動に伴い送られる上糸53が、表皮材51の表側から針孔52に通されて、同表皮材51の裏側の下糸54に交差された後に同針孔52から表側へ抜き出される。この縫製サイクルが繰り返されることで、隣り合う針孔52間にステッチ55が形成されるとともに、複数のステッチ55が列をなすように配置されてなるステッチライン56が形成される。各針孔52には、隣り合う一対のステッチ55の各端部55aが配置される。
【0004】
上記ミシン針としては、先端部に円形の断面を有するものが一般に用いられる。
なお、上糸及び下糸を用いて表皮材を縫製することによりステッチラインを形成する技術は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−43571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、表皮付き製品の質感向上の観点から、複数のステッチ55がそれぞれ表皮材51の送り出し方向Aに沿って延びて、ステッチライン56が直線状をなすことが求められる傾向にある。
【0007】
ところが、上述した従来のステッチラインの形成方法では、外観等の縫製品質を確保するために、図11において矢印Xで示すように、下糸54にテンションがかけられると、上糸53と下糸54との交差部分57を支点として、針孔52内で両端部55aを回転させようとする力F1が発生する。この力F1により、両端部55aが、針孔52の曲面状をなす内周面58に沿って移動することで、交差部分57の周りを図11の時計回り方向へ旋回する。この旋回が針孔52毎に行なわれることで、図10及び図12に示すように、各ステッチ55が表皮材51の送り出し方向Aに対し傾斜した状態となり、上記要求に応えることができない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、より直線に近く質感の高いステッチラインを形成することのできるステッチラインの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するステッチラインの形成方法は、少なくとも表層部分が表皮により構成された表皮材を、同表皮材の厚み方向に直交する方向へ送り出しつつ、ミシン針を前記表皮材の厚み方向へ往復動させる縫製サイクルを行なうことにより、同表皮材に針孔を形成するとともに、前記ミシン針の往復動に伴い送られる上糸を、前記表皮材の表側から前記針孔に通して、同表皮材の裏側の下糸に交差させた後に同針孔から表側へ抜き出し、前記縫製サイクルを繰り返すことで、隣り合う針孔間にステッチを形成するとともに、複数の前記ステッチが列をなすように配置されてなるステッチラインを前記表皮上に形成するステッチラインの形成方法であって、前記ミシン針として、先端部に四角形の断面を有するものを用い、前記下糸にテンションがかけられることで発生し、かつ前記上糸と前記下糸との交差部分を支点として、前記針孔内で隣り合う一対の前記ステッチの各端部を回転させようとする力の向きを回転方向とした場合、前記回転方向とは反対方向へ前記ミシン針を回転させることで、前記断面の対角線を前記表皮材の送り出し方向に対し傾斜させ、この状態で前記ミシン針を往復動させるようにしている。
【0010】
上記方法によると、ステッチラインの形成に際し、表皮材をその厚み方向に直交する方向へ送り出すとともに、ミシン針を表皮材の厚み方向へ往復動させる縫製サイクルが行なわれる。この縫製サイクルにより、表皮材に針孔が形成される。針孔の形状は、ミシン針の先端部の断面に対応する形状である四角形をなす。針孔は4つの平らな内壁面を有する。しかも、この四角形の針孔では、対角線が表皮材の送り出し方向に対し傾斜している。また、ミシン針の往復動に伴い送られる上糸が、表皮材の表側から針孔に通されて、同表皮材の裏側の下糸に交差された後に同針孔から表側へ抜き出される。この縫製サイクルが繰り返されることで、隣り合う針孔間にステッチが形成される。各針孔には、隣り合う一対のステッチの各端部が配置される。そして、複数のステッチによりステッチラインが形成される。
【0011】
上記ステッチラインの形成に際し、縫製品質を確保するために下糸にテンションがかけられると、上糸と下糸との交差部分を支点として、針孔内で、隣り合う一対のステッチの各端部を回転させようとする力が発生する。しかし、針孔の平らな内壁面は、両ステッチの各端部を受け止めようとする。そのため、針孔が円形である場合とは異なり、上記両端部が交差部分の周りを旋回することが規制される。とはいえ、針孔が形成される表皮材は柔らかい。そのため、上記力により、針孔の内壁面が平らな状態を維持しきれず、両端部が交差部分の周りをわずかに旋回するおそれがある。
【0012】
ところが、四角形の針孔の対角線が、表皮材の送り出し方向に対し、針孔内で両ステッチの各端部を回転させようとする上記力の向き(回転方向)とは反対方向へ傾斜している。そのため、上記のように両ステッチの各端部が交差部分の周りを旋回しようとしても、両端部は、表皮材の送り出し方向に沿って延びる線上又はその近くに位置する。各ステッチは上記線上又はその線の近くで、同線に沿って延びる。従って、複数のステッチからなるステッチラインもまた、表皮材の送り出し方向に沿って延びる直線状になる。
【0013】
上記ステッチラインの形成方法において、前記対角線の一方を前記送り出し方向に対し10°〜20°傾斜させた状態で前記ミシン針を往復動させることが好ましい。
この範囲でミシン針を送り出し方向に対し傾斜させて往復動させると、ミシン針のセットのばらつきや加工のばらつきが採り得る最大であっても、ステッチラインをより直線に近づける上記効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
上記ステッチラインの形成方法によれば、より直線に近く質感の高いステッチラインを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態におけるステッチラインの形成方法を経て製造された表皮付き製品の部分斜視図。
図2】一実施形態におけるステッチラインが形成された表皮材を示す部分縦断面図。
図3】(a)は、一実施形態におけるステッチラインの形成方法の実施に用いられるミシン針の先端部を示す部分正面図、(b)は同先端部の断面図。
図4】一実施形態におけるミシン針と、表皮材の送り出し方向との関係を示す部分平断面図。
図5】一実施形態におけるステッチラインの形成方法によって形成されたステッチラインの部分平面図。
図6】一実施形態におけるステッチラインの形成方法を示す図であり、下糸にテンションがかけられる際の針孔及びその周辺部分の状態を示す部分平面図。
図7】(a)〜(d)は、図1の表皮付き製品を製造する工程を示す工程図。
図8】ステッチラインが形成された表皮材の変形例を示す部分縦断面図。
図9図8のステッチラインを表皮材に形成する途中の状態を示す図であり、隣り合う一対の表皮が縫合された状態を示す部分縦断面図。
図10】従来のステッチラインの形成方法によって形成されたステッチラインを示す部分平面図。
図11】従来のステッチラインの形成方法を示す図であり、下糸にテンションがかけられる際の針孔及びその周辺部分の状態を示す部分平面図。
図12】従来のステッチラインの形成方法を示す図であり、下糸にテンションがかけられた後の針孔及びその周辺部分の状態を示す部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ステッチラインの形成方法が含まれる、表皮付き製品の製造方法を具体化した一実施形態について、図1図7を参照して説明する。
まず、本実施形態の製造方法が適用されて製造される表皮付き製品について説明する。本実施形態では、自動車のインストルメントパネル、コンソール、ドアトリム、グローブボックス、ピラーガーニッシュ等の各種自動車用内装品を、表皮付き製品の対象としている。なお、説明の便宜上、表皮付き製品を単純な形状で例示する。
【0017】
図1に示すように、表皮付き製品10は、基材11と、ステッチライン17が形成され、かつ基材11上に配置された表皮材12とを主要な構成部材として備えている。次に、表皮付き製品10の各構成部材について説明する。
【0018】
<基材11>
基材11は、表皮付き製品10の骨格部分をなす部材であり、高い剛性を有している。基材11は、ポリプロピレン、ポリエチレン、PC/ABSアロイ等の樹脂材料を用い、射出成形等の樹脂成形を行なうことによって、製品形状に形成されている。基材11は、曲面、屈曲面、凹凸面等といった非平面状の表面(三次元表面)を有するものであってもよい。
【0019】
<表皮材12>
表皮材12は、基材11の表面に沿わされており、自身の裏面において基材11の表面に密着させられた状態で接着剤によって貼り付けられている。表皮材12の少なくとも表層部分は、表皮13によって構成されている。
【0020】
本実施形態では、表皮材12として、表層部分を構成する上記表皮13と、その裏側(図1の下側)に積層されたクッション層14とからなるものが用いられている。クッション層14は表皮13に対し、接着剤によって貼り付けられている。
【0021】
表皮13は、主として表皮付き製品10の質感向上、触感向上等を図る目的で用いられている。表皮13は、ポリウレタン、塩化ビニル、熱可塑性エラストマ(TPO)等からなる合成皮革(合皮)によって、厚みの均一なシート状に形成されている。
【0022】
表皮13としては、0.35mm〜1.5mmの厚みを有するものが用いられることが望ましい。表皮13の厚みが上記の範囲にあると、表皮付き製品10の製造の過程で表皮13においてステッチライン17の近くにシワが入ることが起こりにくい。また、表皮13が過度に硬くならず、表皮材12が基材11に貼り付けられる際に、表皮13が基材11に沿って変形しやすく、貼り付けがしやすい。
【0023】
なお、表皮13は、皮革製品に見られるようなシボ(皺模様)を、自身の表面に有していてもよい。
クッション層14は、主にスラブウレタンによって構成されており、弾力性を有している。クッション層14は、表皮付き製品10の触感向上のために用いられている。
【0024】
クッション層14としては、1.5mm〜3.5mmの厚みを有するものが用いられることが望ましい。厚みが上記の範囲にあると、表皮付き製品10の見栄えが確保される。
ステッチライン17は、表皮材12の表層部分を構成する表皮13において、その表皮13のパーツの縫い合わせを擬似的に再現することで、本革を使用しているような外観を表皮付き製品10に持たせて高級感を演出するためのものであり、装飾(加飾)を目的として設けられている。こうした形態のステッチライン17は、飾りステッチとも呼ばれる。
【0025】
ステッチライン17は、上糸18及び下糸19を用いて表皮材12に対し、縫製サイクルを繰り返すことによって形成されている。ステッチライン17は、表皮13の表面において列をなすように配置された複数のステッチ21からなる。表現を変えると、上糸18が断続的に表皮13の表面に現出しており、この現出部分がステッチ21を構成している。図2に示すように、各ステッチ21の両端部21aは、突状に湾曲した状態で、表皮材12の針孔25内に引き込まれている。各ステッチ21のうち両端部21aの間の中間部21bは略平坦状をなしている。
【0026】
次に、本実施形態の作用として、表皮付き製品10を製造する方法について説明する。
まず、図7(a),(b)に示すように、表皮材12にステッチライン17が形成される。この形成に際しては、ミシン(図示略)によって縫製が行なわれる。このミシンでは、図3(a),(b)に示すミシン針22が用いられる。ミシン針22の先端部の軸線L1に直交する仮想平面P1を考えた場合、その仮想平面P1でのミシン針22の断面CSは四角形(ここでは略菱形)をなしている。このミシン針22は、図4に示すように、上記断面CSを構成する四角形における一対の対角線DLの一方が表皮材12の送り出し方向Aに沿う線L2に対し、角度αで傾斜した態様でミシンに組み付けられる。
【0027】
ここで、図6に示すように、下糸19にテンションがかけられることで、上糸18と下糸19との交差部分24を支点として、針孔25内で隣り合う一対のステッチ21の各端部21aを回転させようとする力F1が発生するところ、この力F1の向きを回転方向とする。すると、図4に示すように、ミシン針22の上記傾斜の方向、表現を変えると、断面CSにおいて上記一方の対角線DLが通る一対の角部23が指向する方向は、上記線L2に対し、上記回転方向とは反対方向へ傾斜した方向である。このように対角線DLを傾斜させることは、ミシン針22を自身の軸線L1を中心として、図3(b)及び図4の反時計回り方向へ回転させることによってなされる。
【0028】
上記角度αは、10°〜20°に設定されることが望ましい。この範囲で上記対角線DLを送り出し方向A(線L2)に対し傾斜させると、ミシン針22のセットのばらつきや加工のばらつきが採り得る最大であっても、ステッチライン17を表皮材12の送り出し方向Aに沿って延びる直線状にする効果が得られる。
【0029】
ステッチライン17の形成に際しては、図4に示すように、ミシンの送り機構により、表皮材12がその厚み方向(紙面に直交する方向)に直交する送り出し方向Aへ送り出されるとともに、ミシン針22が自身の軸線L1に沿って表皮材12の厚み方向へ往復動させられることで縫製サイクルが行なわれる。
【0030】
この縫製サイクルの実施により、図6に示すように、表皮材12に針孔25が形成される。針孔25の形状は、ミシン針22の先端部の断面CSに対応する形状である四角形(この場合、略菱形)をなす。針孔25は4つの平らな内壁面26を有する。しかも、この四角形の針孔25では、一方の対角線DLが表皮材12の送り出し方向A(線L2)に対し角度αだけ傾斜している(図4参照)。傾斜の方向は、上記力F1の向き(回転方向)とは反対方向(図6の反時計回り方向)である。また、ミシン針22の往復動に伴い送られる上糸18が、表皮材12の表側から針孔25に通されて、同表皮材12の裏側の下糸19に交差された後に同針孔25から表側へ抜き出される。
【0031】
上記縫製サイクルが繰り返されることにより、隣り合う針孔25間にステッチ21が形成される。各針孔25には、隣り合う一対のステッチ21の各端部21aが配置される。そして、複数のステッチ21によりステッチライン17が形成される。
【0032】
上記ステッチライン17の形成に際し、外観等の縫製品質を確保するために下糸19に対し、図6の矢印Xで示す方向にテンションがかけられると、交差部分24を支点として、針孔25内で両端部21aを回転させようとする力F1が発生する。しかし、各針孔25の平らな内壁面26は、両端部21aを受け止めようとする。そのため、針孔52が円形である従来のものとは異なり、上記両端部21aが交差部分24の周りを力F1に沿う方向である時計回り方向へ旋回することが規制される。とはいえ、針孔25が形成される表皮材12(表皮13、クッション層14)は柔らかい。そのため、各端部21aを回転させようとする力F1により、針孔25の内壁面26が平らな状態を維持しきれず、各端部21aが僅かであるが交差部分24の周りを旋回するおそれがある。
【0033】
ところが、四角形の針孔25の対角線DLが、上述したように表皮材12の送り出し方向Aに対し、力F1の向き(回転方向)とは反対方向(図6の反時計回り方向)へ傾斜している。そのため、上記のように両端部21aが交差部分24の周りを旋回しようとしても、図5に示すように、各端部21aは、送り出し方向Aに沿って延びる線L2上又はその近くに位置する。各ステッチ21は線L2上又はその近くで、同線L2に沿って延びる。従って、複数のステッチ21からなるステッチライン17もまた、送り出し方向Aに沿って延びる直線状になる。
【0034】
上記のようにステッチライン17の形成された図7(b)の表皮材12は、図1に示す表皮付き製品10の製造に供される。この製造には、図7(c)に示すように、表皮材12とは別に形成された基材11が用いられる。
【0035】
図7(b),(c)に示すように、基材11の表面及び表皮材12(クッション層14)の裏面の少なくとも一方に接着剤が塗布される。そして、クッション層14の裏面の略全面が基材11の表面に対し密着させられた状態で貼り付けられる。
【0036】
本実施形態では、この貼り付けに際し、互いに重ね合わされた基材11及び表皮材12が、それらの厚み方向についての両側から、プレス機(図示略)によって互いに接近する方向へ押し付けられる。この押し付けにより、図7(d)に示すように、表皮材12のクッション層14が基材11の表面に貼り付けられ、目的とする表皮付き製品10が得られる。
【0037】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)ミシン針22として、先端部に四角形(略菱形)の断面CSを有するものを用いる(図3(a),(b))。下糸19にテンションがかけられることで発生し、かつ針孔25内で一対の端部21aを回転させようとする力F1(図6)の向きを回転方向とした場合、その回転方向とは反対方向へミシン針22を回転させることで、上記断面CSを構成する四角形の対角線DLを表皮材12の送り出し方向Aに対し傾斜させる(図4)。この状態で、ミシン針22を往復動させるようにしている。
【0038】
そのため、力F1により両端部21aが旋回しようとしても(図6)、両端部21aを、表皮材12の送り出し方向Aに沿って延びる線L2上又はその近くに位置させることができる(図5)。各ステッチ21を線L2上又はその近くで、同線L2に沿って延びるようにし、ステッチライン17を送り出し方向Aに沿って延びる直線状にすることができる。その結果、より直線に近く質感の高いステッチライン17を形成することができる。
【0039】
(2)一対の対角線DLの一方を送り出し方向A(線L2)に対し10°〜20°傾斜させた状態でミシン針22を往復動させるようにしている(図4)。
そのため、ミシン針22のセットのばらつきや加工のばらつきが採り得る最大であっても、より直線に近く質感の高いステッチライン17を形成するといった上記(1)の効果を得ることができる。
【0040】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
・表皮材12の表皮13として、合成皮革に代えて本革からなるものが用いられてもよい。
【0041】
・クッション層14として、スラブウレタンからなるものに代えて、エチレンフォーム、プロピレンフォーム等の発泡材からなるものが用いられてもよい。これらの発泡材には、気泡が連通していて柔らかく、復元性を有するという特徴がある。また、織物がクッション層14に用いられてもよい。
【0042】
・クッション層14は表皮13に対し、接着剤に代えて、両面テープ又は粘着剤により貼り付けられてもよい。また、フレーム処理により表皮13及びクッション層14が貼り合わされてもよい。
【0043】
同様に、表皮材12は基材11に対し、接着剤に代えて両面テープ又は粘着剤により貼り付けられてもよい。又は、接着剤が無い状態で表皮材12と基材11とが構成されていてもよい。
【0044】
・ミシン針22として、四角形であることを条件に、略菱形とは異なる断面CSを先端部に有するものが用いられてもよい。
・ステッチライン17は、上記実施形態のように、表皮13のパーツの縫い合わせを擬似的に再現する飾りステッチであってもよいが、複数の表皮材12を結合するためのものであってもよい。
【0045】
・表皮材12は、上記実施形態のように、表皮13の裏側にクッション層14が積層されたもののほか、表皮13のみによって構成されたもの、いわゆる表皮13の単層材によって構成されたものであってもよい。図8及び図9は、それぞれ表皮13のみからなる複数枚の表皮材12を用い、各表皮材12にステッチライン17を形成する例を示している。
【0046】
この形成に際しては、まず、図9に示すように、隣り合う表皮13の少なくとも端部同士が重ね合わされ、その重ね合わされた部分のうち端面から一定距離離れた箇所が、上糸31及び下糸32によって縫合されることで両表皮13が結合される。この縫合によって複数のステッチが形成されるが、各ステッチは、上記実施形態と同様に送り出し方向Aに平行であってもよいし、同送り出し方向Aに対し傾斜してもよい。
【0047】
続いて、両表皮13において縫い代33を除く箇所(以下「一般部34」という)が開かれる。各縫い代33は重なった、又は接近した状態に維持され、一般部34に対し、それらの裏側(図9の下側)で略直交した状態となる。この場合、上糸31及び下糸32による縫合部分と、両縫い代33とは、表側(図9の上側)からは見えない、又は見えにくい。
【0048】
次に、図8に示すように、各縫い代33が開かれ、一般部34側へ折り曲げられ、同一般部34の裏側に重ねられる。そして、上記実施形態と同様の断面CSを有するミシン針22(図3(a),(b))が用いられ、その断面CSの対角線DLが表皮材12の送り出し方向A(線L2)に対し傾斜させられた状態で、ミシン針22が往復動させられて縫製サイクルが行なわれる。この場合には、より直線に近く質感が高く、互いに接近した状態で平行に延びる2本のステッチライン17が形成される。
【0049】
なお、上記のように表皮材12が表皮13のみからなる場合には、表皮付き製品10は、表皮13が基材11の表面に直接貼り付けられることにより構成される。
・表皮材12の基材11への貼り付けに際しては、基材11及び表皮材12の一方に対してのみ、他方へ押し付ける力が加えられてもよい。
【0050】
・上記ステッチラインの形成方法は、自動車用内装品に限らず、ステッチライン17が形成された表皮材12を有する表皮付き製品に広く適用可能である。
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
【0051】
(A)請求項1又は2に記載のステッチラインの形成方法において、前記表皮材として表皮のみからなるものが用いられる。
(B)請求項1又は2に記載のステッチラインの形成方法において、前記表皮材として表皮の裏側にクッション層を積層したものが用いられる。
【0052】
表皮材としては、上記(A)のように、表皮のみからなるもの、いわゆる単層材が用いられてもよいし、上記(B)のように表皮及びクッション層の2層からなるものが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0053】
12…表皮材、13…表皮、17…ステッチライン、18,31…上糸、19,32…下糸、21…ステッチ、21a…端部、22…ミシン針、24…交差部分、25…針孔、A…送り出し方向、CS…断面、DL…対角線、F1…力。
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図12