特許第6187418号(P6187418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187418
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】化学蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20170821BHJP
   F01N 5/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F28D20/00 G
   F01N5/02 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-178947(P2014-178947)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-53431(P2016-53431A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2016年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】針生 聡
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貴文
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−085093(JP,A)
【文献】 特開2013−234625(JP,A)
【文献】 特開2011−149639(JP,A)
【文献】 特開2012−211713(JP,A)
【文献】 特開2013−113564(JP,A)
【文献】 特開2012−097996(JP,A)
【文献】 特開2012−026447(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第2506354(GB,A)
【文献】 特開平02−120283(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/141189(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
F01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象物を加熱する化学蓄熱装置において、
反応器と、
前記反応器との間で反応媒体を流通可能に前記反応器に接続され、前記反応媒体を貯蔵する貯蔵器と、を備え、
前記反応器は、
前記加熱対象物の周囲に配置された容器と、
前記容器内に収容され、前記反応媒体との化学反応により発熱すると共に蓄熱により前記反応媒体を脱離させる反応材と、
前記容器内に収容され、前記反応材における前記加熱対象物に対向する側と反対側に配置されると共に前記容器を構成する材料よりも熱膨張係数の大きい熱膨張部材と、
前記容器内に収容され、前記熱膨張部材と前記容器との間に配置された断熱材と、を有する化学蓄熱装置。
【請求項2】
前記熱膨張部材は、前記反応材を前記加熱対象物側に付勢するように前記反応材の周囲に沿って設けられた波板状の部材である、請求項1記載の化学蓄熱装置。
【請求項3】
前記断熱材は、圧縮歪を0.5%とする場合に必要な圧縮応力が0.5MPa以上で、且つ圧縮歪を1%とする場合に必要な圧縮応力が2MPa以上となる硬質断熱材である、請求項1又は2記載の化学蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の化学蓄熱を利用した暖機装置として、例えば特許文献1に記載されている化学蓄熱装置が知られている。特許文献1に記載の化学蓄熱装置は、エンジンから排出される排気ガスに含まれる環境汚染物質を浄化する排ガス浄化装置の触媒を暖機する暖機装置として構成されており、反応材が収容されると共に化学蓄熱を利用して酸化触媒(加熱対象物)を加熱する蓄熱器(反応器)と、蓄熱器に接続されていると共に反応材と化学反応させるためのNH(反応媒体)を貯蔵する貯蔵器とを備えている。そして、この化学蓄熱装置は、酸化触媒が環境汚染物質の浄化に適した活性化温度よりも低い場合(例えば、エンジンの冷間始動時)に、貯蔵器から反応器にNHを供給することで、NHと反応器内の反応材とを化学反応(化学吸着)させて、反応器内に発生する熱で酸化触媒を活性化温度になるまで加熱する。また、エンジンが定常状態となって排気ガスの温度が高温になると、その排気ガスの熱が加熱対象物を介して反応器の反応材に伝達されて反応材からNHが脱離(再生)し、NHが反応器から貯蔵器に再び回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−234625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の構成では、反応材と反応媒体とを化学反応させる発熱反応時には、反応材は反応媒体を化学吸着して容器内でその体積を膨張させるので、容器と反応材が密着して反応材が発生する熱が加熱対象物に伝わりやすくなっている。ところが、排気ガス(熱媒体)の熱を反応材に伝えて化学吸着された反応媒体を反応材から脱離(再生)させる吸熱反応時には、反応材は反応媒体が脱離して疎の状態となると共にその体積を収縮させるので、徐々に反応材と容器との密着性が悪くなり、排気ガスの熱が反応材に伝わりにくくなる。その結果、反応材から反応媒体が脱離しにくくなり、反応媒体の回収効率が低下してしまう。
【0005】
本発明の目的は、反応材に熱媒体の熱を加えて反応媒体を脱離させる反応材の再生時において、熱媒体の熱を反応材に効率良く伝えることができる化学蓄熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加熱対象物を加熱する化学蓄熱装置において、反応器と、反応器との間で反応媒体を流通可能に反応器に接続され、反応媒体を貯蔵する貯蔵器と、を備え、反応器は、加熱対象物の周囲に配置された容器と、容器内に収容され、反応媒体との化学反応により発熱すると共に蓄熱により反応媒体を脱離させる反応材と、容器内に収容され、反応材における加熱対象物に対向する側と反対側に配置されると共に容器を構成する材料よりも熱膨張係数の大きい熱膨張部材と、容器内に収容され、熱膨張部材と容器との間に配置された断熱材と、を有する。
【0007】
このような本発明の化学蓄熱装置においては、再生反応が進むに連れて、反応材が収縮する一方で、反応材から熱膨張部材に熱が伝達されることにより熱膨張部材が熱膨張する。このとき、熱膨張部材の熱膨張係数は容器を構成する材料の熱膨張係数よりも大きいので、熱膨張部材の容器側への熱膨張は規制される。これにより、熱膨張部材は反応材側へ膨張し易くなるので、熱膨張部材に押されて反応材は加熱対象物側へ近づく。このため、再生反応の進行状況に関わらず、加熱対象物から反応材への伝熱性が低下し難くなるので、再生反応に費やされる時間が短縮される。
【0008】
また、熱膨張部材は、反応材を加熱対象物側に付勢するように反応材の周囲に沿って設けられた波板状の部材であってもよい。この場合、熱膨張部材には、反応材から離れた領域が存在する。このため、発熱反応時においては、反応材から発生した熱が熱膨張部材に奪われ難くなるので、加熱対象物が効果的に加熱される。一方で、熱膨張部材には、反応材に近接した領域が存在する。このため、再生反応時においては、当該近接した領域を介して熱膨張部材に押されることにより反応材は加熱対象物へ近づけられるので、加熱対象物から反応材への伝熱性が低下し難くなる。
【0009】
また、断熱材は、圧縮歪を0.5%とする場合に必要な圧縮応力が0.5MPa以上で、且つ圧縮歪を1%とする場合に必要な圧縮応力が2MPa以上となる硬質断熱材であってもよい。この場合、断熱材が押し潰され難いので、熱膨張部材の容器側への熱膨張がより一層規制される。このため、熱膨張部材は、より効果的に反応材側へ膨張する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応材に熱媒体の熱を加えて反応媒体を脱離させる反応材の再生時において、熱媒体の熱を反応材に効率良く伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る化学蓄熱装置の一実施形態を備えた排気浄化システムを示す概略構成図である。
図2図1に示した化学蓄熱装置の要部を示す断面図である。
図3図2におけるIII-III線断面図である。
図4】硬質断熱材における圧縮応力と圧縮歪との関係を示すグラフである。
図5図3に示した化学蓄熱装置の要部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明に係る化学蓄熱装置の一実施形態を備えた排気浄化システムを示す概略構成図である。同図において、排気浄化システム1は、車両のディーゼルエンジン2(以下、単にエンジン2という)の排気系に設けられ、エンジン2から排出される排気ガス中に含まれる有害物質(環境汚染物質)を浄化するシステムである。
【0014】
排気浄化システム1は、エンジン2と接続された排気管3と、排気管3の途中に配設された熱交換器4、ディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)5、ディーゼル排気微粒子除去フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)6、選択還元触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)7、及びアンモニアスリップ触媒(ASC:Ammonia Slip Catalyst)8とを備えている。これらの熱交換器4、DOC5、DPF6、SCR7、及びASC8は、排気上流側から排気下流側に向けて順に配置されている。
【0015】
熱交換器4は、排気管3内を流れる排気ガスと後述する反応器11との間で熱交換を行う。熱交換器4は、図2及び図3に示すように、円筒状の筒部材4aと、この筒部材4aの内部に配置された熱交換部材4bとを有している。筒部材4aは、例えばステンレス鋼で形成されている。熱交換部材4bは、例えばSiSiC等のセラミックで形成され、複数の貫通孔(セル)を有するハニカム構造となっている。熱交換部材4bは、各貫通孔の貫通方向が筒部材4aの軸方向と平行な向きで、筒部材4aの内部に配置されている。筒部材4aの軸方向での両端部は、熱交換部材4bよりも突出している。この熱交換器4は、筒部材4aの軸方向が排気管3の軸方向と平行な向きで、排気上流側及び排気下流側にそれぞれ位置する各排気管3の端部に筒部材4aの各端部が重なるように配置されている。熱交換器4は、筒部材4aの各端部が各排気管3の端部に例えば溶接されることで固定されている。なお、熱交換器4としては、特にハニカム構造には限られず、周知の熱交換構造が利用可能である。
【0016】
再び図1を参照し、DOC5は、排気ガス中に含まれるHC及びCO等を酸化して浄化する触媒である。DPF6は、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集して取り除くフィルタである。SCR7は、尿素またはアンモニア(NH)によって、排気ガス中に含まれるNOxを還元して浄化する触媒である。ASC8は、SCR7をすり抜けてSCR7の下流側に流れたNHを酸化する触媒である。
【0017】
また、排気浄化システム1は、可逆的な化学反応を利用して、外部エネルギーレスで熱交換器4などの加熱対象物を加熱(暖機)する化学蓄熱装置10を備えている。具体的には、化学蓄熱装置10は、後述する反応材14と反応媒体とを分離した状態にすることにより、排気ガスの熱(排熱)を化学蓄熱装置10の内部に蓄えておく。そして、化学蓄熱装置10は、反応媒体を必要なときに反応材14に供給して、反応材14と反応媒体とを化学反応(化学吸着)させ、化学反応時の反応熱を利用して熱交換器4を加熱する。この実施形態では、反応媒体としてNH(アンモニア)を用いている。化学蓄熱装置10は、熱交換器4の周囲に配置された反応器11と、この反応器11に接続された吸着器(貯蔵器)12とを備えている。
【0018】
反応器11は、図2及び図3に示すように、容器13と、反応材14と、熱膨張部材15と、硬質断熱材16とを有している。容器13は、外筒13aと、一対の蓋部材13bとを有している。外筒13aは、例えば、ステンレス鋼で形成された厚肉が3mm程度の円筒状の部材である。外筒13aは、熱交換器4の筒部材4aの外径よりも内径が大きくなるように形成されている。外筒13aの軸方向における中央には、外周面と内周面とを貫通する貫通孔13cが形成されている。各蓋部材13bは、外筒13aと同一の材料で形成された円環状の板部材である。各蓋部材13bは、互いに対向するように外筒13aの軸方向での両端部にそれぞれ配置されている。各蓋部材13bは、外筒13aの各端部に例えば溶接によってそれぞれ固定されている。
【0019】
このような容器13は、熱交換器4の周囲に配置されている。より詳細には、容器13は、外筒13aの軸方向が筒部材4aの軸方向と平行な向きで、外筒13aの内周面が筒部材4aの外周面と対向し且つ離間するように配置されている。容器13は、各蓋部材13bの内周における縁部によって、筒部材4aの各端部及び排気管3の外周面に例えば溶接で固定されている。なお、外筒13aの内周面、各蓋部材13b、及び筒部材4aの外周面とで囲まれた領域は、外部から隔離された閉空間となっている。そして、筒部材4aは、外筒13a及び各蓋部材13bと共に当該閉空間を囲むため、容器13の一部としても機能している。
【0020】
反応材14は、複数(本実施形態では3つ)の丸瓦型の成形ペレットを有し、各成形ペレットを繋ぎ合わせることで円筒状に形成されている。反応材14としては、組成式MXaで表されるハロゲン化物が用いられる。ここで、Mは、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の遷移金属である。Xは、Cl、Br、I等である。aは、Mの価数により特定される数であり、2〜3である。なお、反応材14は、ステンレス鋼、金属ビーズ、SiCビーズ、Siビーズ、カーボンビーズ、アルミナビーズ等の高熱伝導体を含んでいてもよい。反応材14は、気体の反応媒体であるNHと化学反応して発熱すると共に、排気ガスの熱を蓄熱することによりNHを脱離させる。
【0021】
このような反応材14は、容器13内に収容されている。より詳細には、反応材14は、上記の閉空間内に収容され、筒部材4aの外周面に沿って当該外周面と接触するように位置している。なお、反応材14の周囲には、反応材14の全周に渡ってNHを導くための多孔体シート(不図示)が配置されている。
【0022】
熱膨張部材15は、容器13よりも熱膨張係数の大きい金属で形成された断面真円状をなす円筒状の部材である。上記のように容器13がステンレス鋼で形成されている場合には、熱膨張部材15は、例えばアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、ジュラルミン、又は黄銅で形成される。熱膨張部材15の肉厚は、例えば0.5mm程度であって、容器13の外筒13aの肉厚(3mm程度)よりも十分に薄く形成されている。なお、図2及び図3には、説明の便宜上、熱膨張部材15の肉厚が実際よりも厚めに描かれている。熱膨張部材15の軸方向における中央には、外周面と内周面とを貫通する貫通孔15aが形成されている。
【0023】
このような熱膨張部材15は、容器13内に収容され、反応材14における熱交換器4に対向する側(反応材14の内周面側)と反対側(反応材14の外周面側)に配置されている。より詳細には、熱膨張部材15は、上述した閉空間内に収容され、且つ内周面全体が多孔体シートに接触するように多孔体シートの周囲に沿って位置している。熱膨張部材15は、容器13の外筒13aに形成された貫通孔13cに対して貫通孔15aが重なるように位置している。
【0024】
硬質断熱材16は、ゾノライト系ケイ酸カルシウムを主原料として形成された一対の半円筒状の部材から構成され、当該一対の部材を繋ぎ合わせることで円筒状をなしている。硬質断熱材16の軸方向における中央には、外周面と内周面とを貫通する貫通孔16aが形成されている。硬質断熱材16の熱伝導率は、1W/m/K以下である。また、硬質断熱材16の比熱は、例えば、200℃において800J/Kg/K、300℃において886J/Kg/K、500℃において880J/Kg/K、及び700℃において920J/Kg/Kである。このように、硬質断熱材16の比熱は比較的小さいため、硬質断熱材16の熱容量は小さい。
【0025】
ここで、図4を参照して、硬質断熱材16についてより詳細に説明する。図4は、硬質断熱材16における圧縮応力及び圧縮歪の関係を示すグラフである。図4では、縦軸は圧縮応力を示し、横軸は圧縮歪を示している。なお、図4は、直方体状の硬質断熱材(試験片)を用いた場合の結果を示している。圧縮応力は、試験片の両端面に圧縮力が付与されたときの当該試験片の内部に生じる力を示している。圧縮歪は、当該圧縮力が付与された場合において、試験片の圧縮方向での相対変化を示している。
【0026】
硬質断熱材16は、圧縮歪を0.5%とする場合に必要な圧縮応力が0.5MPa以上で、且つ圧縮歪を1%とする場合に必要な圧縮応力が2MPa以上となるように形成されている。すなわち、図4に示すように、硬質断熱材16は、圧縮歪を0.5%とする場合に必要な圧縮応力が0.5MPaとなるデータA、及び圧縮歪を1%とする場合に必要な圧縮応力が2MPaとなるデータBから導かれる近似直線Lを基準として、縦軸側(圧縮応力が大きくなる側)に位置する硬質領域P(近似直線Lも含む)に該当するように形成されている。
【0027】
このような硬質断熱材16は、容器13内に収容され、熱膨張部材15と容器13との間に配置されている。より詳細には、硬質断熱材16は、上述した閉空間内に収容され、且つ熱膨張部材15の周囲に沿って、熱膨張部材15の外周面と容器13の内周面とに接触するように位置している。硬質断熱材16は、容器13の外筒13aに形成された貫通孔13c及び熱膨張部材15に形成された貫通孔15aに対して貫通孔16aが重なるように位置している。
【0028】
再び図1を参照し、吸着器12は、NHの物理吸着による保持及び脱離が可能な吸着材12aを内蔵している。吸着材12aとしては、活性炭、カーボンブラック、メソポーラスカーボン、ナノカーボン及びゼオライト等が用いられる。吸着器12は、NHを吸着材12aに物理吸着させることで、NHを貯蔵する。なお、吸着材12aは、粉末状でも成形体でもよい。
【0029】
反応器11及び吸着器12は、導入管17を介してNHを流通可能に接続されている。導入管17の一端部は、容器13の外筒13aに形成された貫通孔13c、熱膨張部材15に形成された貫通孔15a、及び硬質断熱材16に形成された貫通孔16aに挿入されている。導入管17の一端部は、例えば溶接により貫通孔13cの縁に固定されている。導入管17には、反応器11と吸着器12との間の流路を開閉させる開閉弁である電磁弁18が設けられている。電磁弁18は、コントローラ(不図示)により制御される。
【0030】
このような化学蓄熱装置10において、エンジン2からの排気ガスの温度が低いときは、電磁弁18が開くことで、吸着器12から反応器11にNHが導入管17を通じて供給され、反応器11の反応材14(例えばMgCl)とNHとが化学反応(化学吸着)し、反応器11内で熱が発生する。つまり、下記の反応式(A)における左辺から右辺への反応(発熱反応)が起こる。そして、反応器11で発生した熱によって熱交換器4が加熱されると共に、熱交換器4を介して排気ガスが加熱される。
【0031】
MgClNH ⇔ Mg(NHCl+熱 …(A)
【0032】
一方、エンジン2からの排気ガスの温度が高くなると、排熱が反応器11の反応材14に与えられることで、反応材14とNHとが分離する。つまり、上記の反応式(A)における右辺から左辺への反応(再生反応)が起こる。そして、反応材14から脱離したNHは、導入管17を通じて吸着器12に戻り、吸着器12の吸着材12aに物理吸着(回収)される。
【0033】
以上、本実施形態に係る化学蓄熱装置10では、再生反応が進むに連れて、反応材14が収縮する一方で、反応材14から熱膨張部材15に熱が伝達されることにより熱膨張部材15が熱膨張する。このとき、熱膨張部材15の熱膨張係数は容器13を構成する材料の熱膨張係数よりも大きいので、熱膨張部材15の容器13側への熱膨張は規制される。これにより、熱膨張部材15は反応材14側へ膨張し易くなるので、熱膨張部材15に押されて反応材14は熱交換器4側へ近づく。このため、再生反応の進行状況に関わらず、熱交換器4から反応材14への伝熱性が低下し難くなるので、再生反応に費やされる時間が短縮される。
【0034】
また、硬質断熱材16は、圧縮歪を0.5%とする場合に必要な圧縮応力が0.5MPa以上で、且つ圧縮歪を1%とする場合に必要な圧縮応力が2MPa以上となる断熱材である。このような物性を有する硬質断熱材16は押し潰され難いので、熱膨張部材15の容器13側への熱膨張が規制される。このため、熱膨張部材15は、より効果的に反応材14側へ膨張する。
【0035】
図5は、図3に示した化学蓄熱装置10の要部の変形例を示す断面図である。図中、上記実施形態と同一又は同等の部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0036】
上記実施形態では、熱膨張部材15は断面真円状をなす円筒状の部材であったが、本変形例では、熱膨張部材15の代わりに、熱膨張部材115が用いられる。熱膨張部材115は、熱膨張部材15と同様、容器13よりも熱膨張係数の大きい金属で形成された筒状の部材である。一方で、熱膨張部材15と異なり、熱膨張部材115は、断面波状をなすように、半径方向の外側に向かって突出した複数の第一突出部115aと、半径方向の内側に向かって(すなわち、熱膨張部材の中心軸に向かって)突出した複数の第二突出部115bとを有している。各第一及び第二突出部115a,115bは、熱膨張部材115の軸方向に沿ってそれぞれ延在している。このような第一及び第二突出部115a,115bが熱膨張部材115の周囲に沿って交互に配置されると共に連結されることにより、熱膨張部材115は断面波状をなす波板状の部材となる。複数の第一突出部115aのいずれか1つの延在方向の中央には、外周面と内周面とを貫通する貫通孔115cが形成されている。
【0037】
このような熱膨張部材115は、上記実施形態の熱膨張部材15と同様、反応材14と硬質断熱材16との間に配置されている。すなわち、熱膨張部材115は、反応材14を熱交換器4側に付勢するように反応材14の周囲に沿って設けられている。より詳細には、各第一突出部115aは硬質断熱材16側に位置し、各第二突出部115bは多孔体シート側に位置している。熱膨張部材115は、容器13の外筒13aに形成された貫通孔13c及び硬質断熱材16に形成された貫通孔16aに対して貫通孔115cが重なるように位置している。貫通孔115cが形成された第一突出部115aと反応材14の外周面とで囲まれた流路Rは、導入管17と連通すると共にNHの流通経路となっている。流路Rは、反応材14の軸方向に沿って延在している。
【0038】
以上、熱膨張部材115は、反応材14を熱交換器4側に付勢するように反応材14の周囲に沿って設けられた波板状の部材である。このような熱膨張部材115には、反応材14から離れた第一突出部115aが存在する。このため、発熱反応時においては、反応材14から発生した熱が熱膨張部材115に奪われ難くなるので、熱交換器4が効果的に加熱される。一方で、熱膨張部材115には、反応材14に近接した第二突出部115bが存在する。このため、再生反応時においては、第二突出部115bに押されることにより反応材14は熱交換器4へ近づけられるので、熱交換器4から反応材14への伝熱性が低下し難くなる。
【0039】
また、流路Rを通じて反応材14の軸方向にNHが供給されるので、反応材14の全体に渡ってNHが効果的に導かれる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、所定以上の強度を有する硬質断熱材16が用いられているが、例えば、硬質断熱材16よりも強度の弱いグラスウール等で形成された断熱材が用いられてもよい。この場合、熱膨張部材15に押されて断熱材は押し潰され得るが、容器13が配置されているため、熱膨張部材15の容器13側への熱膨張は適切に規制される。
【0041】
また、上記実施形態では、反応媒体であるNHと組成式MXaで表されるハロゲン化物からなる反応材14とを化学反応させて発熱させるようにしたが、反応媒体としては、特にNHには限られず、例えばCOまたはHO等を使用してもよい。反応媒体としてCOを使用する場合、COと化学反応する反応材としては、MgO、CaO、BaO、Ca(OH)、Mg(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、FeO、Fe、Fe等を使用することができる。反応媒体としてHOを使用する場合、HOと化学反応する反応材としては、CaO、MnO、CuO、Al等を使用することができる。
【0042】
また、上記実施形態では、熱膨張部材は、断面真円状又は断面波状をなすように形成されているが、他の形状であってもよい。例えば、各第一及び第二突出部115a,115bが、熱膨張部材の周方向のみならず軸方向にも交互に配置されてもよい。この場合、当該熱膨張部材の内周面と反応材14の外周面とで囲まれた流路を通じて、反応材14の軸方向及び周方向にNHが供給されるので、反応材14の周囲にNHがより効果的に導かれる。
【0043】
また、上記実施形態では、熱膨張部材15は金属で形成されているが、熱膨張部材15の代わりに、容器13よりも熱膨張係数の大きい断熱材が用いられてもよい。当該断熱材の材料としては、例えばNaAlSiO、ネフェリン((Na,K)AlSiO)、ソーダライト(NaClAlSi24)、リューサイト(KAlSi)等のセラミックがある。
【0044】
また、上記実施形態では、反応器11は、熱交換器4の周囲に直接的に配置されているが、排気管3内に熱交換器4が配置されることによって、熱交換器4の周囲に排気管3を挟んで反応器11が間接的に配置されてもよい。さらに、反応器11は、熱交換器4を加熱する装置であるが、例えばDOC5等、ディーゼルエンジン2の排気系に設けられた他の部分を加熱する構成要素、ガソリンエンジンの排気系に設けられた加熱対象物を加熱する構成要素、或いはエンジンの排気系以外の加熱対象物を加熱する構成要素にも適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
4…熱交換器(加熱対象物)、10…化学蓄熱装置、11…反応器、12…吸着器(貯蔵器)、13…容器、14…反応材、15,115…熱膨張部材、16…硬質断熱材(断熱材)。
図1
図2
図3
図4
図5