(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施例の電子放出装置の要部斜視図を模式的に示す。
【
図2】第1実施例の電子放出装置の要部平面図を模式的に示す。
【
図3】第1実施例の変形例の電子放出装置の要部平面図を模式的に示す。
【
図4】第1実施例の変形例の電子放出装置の要部平面図を模式的に示す。
【
図5A】第1実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図5B】第1実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図5C】第1実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図5D】第1実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図5E】第1実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図5F】第1実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図6】第2実施例の電子放出装置の要部斜視図を模式的に示す。
【
図7A】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7B】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7C】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7D】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7E】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7F】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7G】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7H】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7I】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7J】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7K】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図7L】第2実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図8】第3実施例の電子放出装置の要部斜視図を模式的に示す。
【
図9A】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図9B】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図9C】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図9D】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図9E】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図9F】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図9G】第3実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図10】第4実施例の電子放出装置の要部斜視図を模式的に示す。
【
図11】第4実施例の変形例の電子放出装置の要部斜視図を模式的に示す。
【
図12A】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12B】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12C】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12D】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12E】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12F】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12G】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【
図12H】第4実施例の電子放出装置の製造過程の一工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0010】
本明細書で開示される電子放出装置の一実施形態は、例えば、フィールドエミッションアレイとして構成されてもよい。この電子放出装置の用途としては、例えば、トランジスタ、電子線リソグラフィ又は電子表示装置等が挙げられる。本明細書で開示される電子放出装置の一実施形態は、基板及び電子放出膜を少なくとも備えていてもよい。基板の材料は、特に限定されるものではないが、半導体又は絶縁体であるのが望ましい。電子放出膜は、基板の上方に設けられており、開口が形成されている。電子放出膜は、基板の上面に直接的に接触するように基板の上方に設けられていてもよく、他の部材を介して基板の上方に設けられていてもよい。電子放出膜には、単一の開口が形成されていてもよく、複数の開口が形成されていてもよい。電子放出膜の開口の形状は、特に限定されるものではなく、様々な形状を採用することができる。また、電子放出膜に複数の開口が形成されている場合、複数の開口はストライプ状に配置されていてもよく、複数行と複数列で構成される格子状に配置されていてもよい。電子放出膜は、電子放出源として利用されるものであり、自由電子を含む材料であるのが望ましい。電子放出膜の材料は、モリブテン又はタングステン等の遷移金属の単体又は遷移金属の化合物であってもよい。あるいは、電子放出膜の材料は、金、銀、銅、アルミニウム又は白金等の金属であってもよい。あるいは、電子放出膜の材料は、バリウムを含むアルカリ土類金属の酸化物であってもよい。あるいは、電子放出膜の材料は、ダイヤモンド又はグラファイトであってもよい。電子放出膜は、開口を画定する端部に光が照射したときに、端部から電子を放出するように構成されている。このため、電子放出膜は、平板状の薄膜であるのが望ましい。
【0011】
本明細書で開示される電子放出装置の一実施形態は、光照射装置をさらに備えていてもよい。光照射装置は、電子放出膜に向けて光を照射するように構成されている。光照射装置の種類は、特に限定されるものではないが、半導体レーザ、固体レーザ又は気体レーザを光照射装置として採用することができる。この実施形態の電子放出装置は、光照射装置の光照射に基づいて、電子放出膜からの電子の放出を制御することができる。
【0012】
電子放出膜の開口は、基板の上面に対して直交する方向から観測したときに、長手方向を持って伸びる形状を有していてもよい。この場合、光照射装置は、電界の振動面が電子放出膜の開口の長手方向に直交する直線偏光のレーザ光を照射するように構成されているのが望ましい。ここで、直線偏光のレーザ光は、連続発振のレーザであってもよく、パルス発振レーザであってもよい。この実施形態の電子放出装置は、電子放出膜の開口を画定する端部のうちの長手方向に沿って伸びる端部において、光電場が効率的に印加され、電界集中が促進される。この結果、この実施形態の電子放出装置は、電界電子放出の効率が高いという特徴を有することができる。
【0013】
基板の材料は、光照射装置の光に対して透明であってもよい。具体的には、基板の材料は、光照射装置の光の透過率が少なくとも80%以上であるのが望ましい。この場合、光照射装置は、基板を透過して電子放出膜に光を照射するように構成されているのが望ましい。この実施形態の電子放出装置では、光照射装置の光が透明な基板を透過して電子放出膜に照射されるので、光照射装置の光が効率的に電子放出膜に照射される。この結果、この実施形態の電子放出装置は、電界電子放出の効率が高いという特徴を有することができる。
【0014】
本明細書で開示される電子放出装置の一実施形態は、引き出し電極をさらに備えていてもよい。引き出し電極は、電子放出膜の上方に設けられており、開口が形成されている。引き出し電極の開口は、電子放出膜の開口の上方に配置されている。このような引き出し電極が設けられていると、必要に応じて、電子放出膜と引き出し電極の間に電圧を印加したときに、電子放出膜の開口を画定する端部の電界強度を高くすることができる。この実施形態の電子放出装置は、光照射による光電場だけでは電界電子放出ができないときに、電子放出膜と引き出し電極の間に電圧を印加することで、電界電子放出を行うことができる。
【0015】
基板の上面に対して直交する方向から観測したときに、電子放出膜の開口を画定する端部は、引き出し電極の開口の範囲内に存在するのが望ましい。電子放出膜の開口と引き出し電極の開口がこのような位置関係に配置されていると、電子放出膜の開口を画定する端部から放出された電子は、引き出し電極の開口を効率的に通過して、引き出し電極の上方に引き出される。
【0016】
引き出し電極を備える電子放出装置の一実施形態では、基板が凸部を有していてもよい。この場合、凸部の側面の一部は、電子放出膜で被覆されているのが望ましい。さらに、凸部の頂面は、電子放出膜の開口を介して露出するのが望ましい。この実施形態の電子放出装置では、電子放出膜と引き出し電極の間に印加する電圧が低い場合でも、電子放出膜の開口を画定する端部の電界強度が高くなる。このため、この実施形態の電子放出装置は、電子放出膜と引き出し電極の間に印加する電圧が低い場合でも、電界電子放出を行うことができる。
【0017】
本明細書で開示されるトランジスタの一実施形態は、基板、カソード膜及びアノード膜を少なくとも備えていてもよい。基板の材料は、特に限定されるものではないが、半導体又は絶縁体であるのが望ましい。カソード膜は、基板の上方に設けられており、開口が形成されている。カソード膜は、基板の上面に直接的に接触するように基板の上方に設けられていてもよく、他の部材を介して基板の上方に設けられていてもよい。カソード膜には、単一の開口が形成されていてもよく、複数の開口が形成されていてもよい。カソード膜の開口の形状は、特に限定されるものではない。また、カソード膜に複数の開口が形成されている場合、複数の開口はストライプ状に配置されていてもよく、複数行と複数列で構成される格子状に配置されていてもよい。カソード膜は、電子放出源として利用されるものであり、自由電子を含む材料であるのが望ましい。カソード膜の材料は、モリブテン又はタングステン等の遷移金属の単体又は遷移金属の化合物であってもよい。あるいは、カソード膜の材料は、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン又は白金等の金属であってもよい。あるいは、カソード膜の材料は、バリウムを含むアルカリ土類金属の酸化物であってもよい。あるいは、カソード膜の材料は、ダイヤモンド又はグラファイトであってもよい。アノード膜は、カソード膜の上方に設けられている。カソード膜は、開口を画定する端部に光が照射したときに、端部から電子を放出するように構成されている。このため、カソード膜は、平板状の薄膜であるのが望ましい。
【0018】
本明細書で開示されるトランジスタの一実施形態は、光照射装置をさらに備えていてもよい。光照射装置は、カソード膜に向けて光を照射するように構成されている。光照射装置の種類は、特に限定されるものではないが、半導体レーザ、固体レーザ又は気体レーザを光照射装置として採用することができる。この実施形態のトランジスタは、光照射装置の光照射に基づいて、カソード膜とアノード膜の間を流れる電流を制御することができる。
【0019】
カソード膜の開口は、基板の上面に対して直交する方向から観測したときに、長手方向を持って伸びる形状を有していてもよい。この場合、光照射装置は、電界の振動面がカソード膜の開口の長手方向に直交する直線偏光のレーザ光を照射するように構成されているのが望ましい。ここで、直線偏光のレーザ光は、連続発振のレーザであってもよく、パルス発振レーザであってもよい。この実施形態のトランジスタは、電子放出膜の開口を画定する端部のうちの長手方向に沿って伸びる端部において、光電場が効率的に印加され、電界集中が促進される。この結果、この実施形態のトランジスタは、電界電子放出の効率が高いという特徴を有することができる。
【0020】
基板の材料は、光照射装置の光に対して透明であってもよい。具体的には、基板の材料は、光照射装置の光の透過率が少なくとも80%以上であるのが望ましい。この場合、光照射装置は、基板を透過してカソード膜に光を照射するように構成されているのが望ましい。この実施形態のトランジスタでは、光照射装置の光が透明な基板を透過して電子放出膜に照射されるので、光照射装置の光が効率的に電子放出膜に照射される。この結果、この実施形態のトランジスタは、電界電子放出の効率が高いという特徴を有することができる。
【0021】
本明細書で開示されるトランジスタの一実施形態は、カソード膜とアノード膜の間に設けられている引き出し電極をさらに備えていてもよい。引き出し電極の開口は、カソード膜の開口の上方に配置されている。このような引き出し電極が設けられていると、必要に応じて、カソード膜と引き出し電極の間に電圧を印加することで、カソード膜の開口を画定する端部の電界強度を高くすることができる。この実施形態のトランジスタは、光照射による光電場だけでは電界電子放出ができないときに、カソード膜と引き出し電極の間に電圧を印加することで、電界電子放出を行うことができる。
【0022】
基板の上面に対して直交する方向から観測したときに、カソード膜の開口を画定する端部は、引き出し電極の開口の範囲内に存在するのが望ましい。カソード膜の開口と引き出し電極の開口がこのような位置関係に配置されていると、カソード膜の開口を画定する端部から放出された電子は、引き出し電極の開口を効率的に通過して、引き出し電極の上方に引き出される。
【0023】
引き出し電極を備えるトランジスタの一実施形態では、基板が凸部を有していてもよい。この場合、凸部の側面の一部は、カソード膜で被覆されているのが望ましい。さらに、凸部の頂面は、カソード膜の開口を介して露出するのが望ましい。この実施形態のトランジスタでは、カソード膜と引き出し電極の間に印加する電圧が低い場合でも、カソード膜の開口を画定する端部の電界強度が高くなる。このため、この実施形態のトランジスタは、カソード膜と引き出し電極の間に印加する電圧が低い場合でも、電界電子放出を行うことができる。
【実施例1】
【0024】
図1に示されるように、電子放出装置1は、真空中に電子を放出する装置であり、フィールドエミッションアレイとして構成されている。電子放出装置1は、基板12、電子放出膜14、絶縁膜16、引き出し電極18及びレーザ光照射装置20を備える。
【0025】
基板12は、レーザ光照射装置20から出射されるレーザ光に対して透明な材料で形成されている。後述するように、この例では、レーザ光照射装置20から出射されるレーザ光の波長域は、赤外から近赤外である。このため、この例では、基板12の材料には、炭化珪素(SiC)若しくは窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体、サファイア又は酸化マグネシウムが用いられている。
【0026】
電子放出膜14は、基板12の上面の一部を被覆しており、基板12の上面に直接的に接する。電子放出膜14は、平板状の薄膜である。電子放出膜14は、電子放出源として利用される。このため、電子放出膜14には、自由電子を含む材料が用いられるのが望ましい。この例では、電子放出膜14の材料には、タングステンが用いられている。
【0027】
電子放出膜14には、複数の開口14Aが形成されている。
図2に示されるように、電子放出膜14の複数の開口14Aの各々は、基板12の上面に対して直交する方向(以下、z軸方向という)から観測したときに、y軸方向に長手方向を持って伸びる矩形状に形成されている。さらに、電子放出膜14の複数の開口14Aは、基板12の上面において、x軸方向に等間隔に並んだストライプ状に配置されている。なお、
図1及び
図2は、電子放出装置1の要部を図示するものであり、実際には、より多くの開口14Aがx軸方向に並んでいる。
【0028】
絶縁膜16は、電子放出膜14と引き出し電極18の間に設けられており、電子放出膜14と引き出し電極18の各々に直接的に接する。絶縁膜16は、電子放出膜14と引き出し電極18を電気的に絶縁する。この例では、絶縁膜16の材料には、酸化シリコン(SiO
2)が用いられている。
【0029】
引き出し電極18は、絶縁膜16の上面を被覆しており、絶縁膜16の上面に直接的に接する。後述するように、引き出し電極18は、電子放出膜14との間に電位差が生じるように正電圧が印加されて用いられる。このため、引き出し電極18は、導体、特に金属であるのが望ましい。この例では、引き出し電極18の材料には、モリブテンが用いられている。
【0030】
引き出し電極18には、複数の開口18Aが形成されている。引き出し電極18の複数の開口18Aの各々は、z軸方向に沿って電子放出膜14の複数の開口14Aの各々に対応して設けられている。引き出し電極18の開口18Aと電子放出膜14の開口14Aは、絶縁膜16に形成されている空間を介して連通するように配置されている。
図2に示されるように、引き出し電極18の複数の開口18Aの各々は、z軸方向から観測したときに、y軸方向に長手方向を持って伸びる矩形状に形成されており、電子放出膜14の開口14Aと相似形であり、電子放出膜14の開口14Aよりも大きい。このため、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aは、z軸方向から観測したときに、引き出し電極18の開口18Aの範囲内に存在する。
【0031】
レーザ光照射装置20は、基板12の下面に対向するように配置されており、基板12を透過して電子放出膜14にレーザ光を照射するように構成されている。この例では、レーザ光照射装置20には、チタンサファイアレーザが用いられている。このため、レーザ光照射装置20は、約650nm〜1100nmの赤外から近赤外の波長域のレーザ光を出射する。また、レーザ光照射装置20は、出射されるレーザ光が電子放出膜14に対してp偏光となるように構成されている。この例では、レーザ光照射装置20は、出射されるレーザ光の電界の振動面がxz面となるように構成されている。このため、レーザ光の電界の振動面が、電子放出膜14の開口14Aの長手方向(y軸方向)に直交する関係になっている。
【0032】
次に、電子放出装置1の動作を説明する。まず、電子放出膜14に対して引き出し電極18が正電位となるように、電子放出膜14と引き出し電極18の間に電圧が印加される。これにより、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aの電界強度が高くなる。このとき、電子放出膜14の端部14aの電界強度が10
7V/cm以下となるように、電子放出膜14と引き出し電極18の間に印加される電圧が設定される。
【0033】
電子放出装置1は、レーザ光照射装置20のレーザ光を利用して、電子放出膜14からの電子の放出を制御する。レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射されないときは、上記したように、電子放出膜14の端部14aの電界強度が10
7V/cm以下であり、電子放出膜14から電子が放出しない。一方、レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射されると、電子放出膜14の端部14aに光電場が重畳され、電子放出膜14の端部14aの電界強度が高くなる。さらに、電子放出膜14の端部14aでは、プラズモン共鳴が発生し、電子放出膜14の端部14aの電界強度が高くなる。レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射されると、これらの現象により、電子放出膜14の端部14aの電界強度が電界電子放出に十分な値まで高くなる。この結果、電子放出膜14に存在する電子は、量子力学的なトンネル効果によって真空障壁を透過し、電子放出膜14の端部14aから真空中に放出される。電子放出膜14から放出された電子は、引き出し電極18の開口18Aを通過して引き出し電極18の上方の空間に引き出される。
【0034】
上記したように、電子放出装置1は、レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射したときに電子放出膜14の端部14aからの電子の放出を実行し、レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射しないときに電子放出膜14の端部14aからの電子の放出を停止するように動作する。電子放出装置1は、レーザ光照射装置20のレーザ光を利用して電界電子放出を制御することができるので、電気的なノイズに対して強く、高速動作が可能という特徴を有する。さらに、電子放出装置1に印加される電圧は、電子放出膜14と引き出し電極18の間のみであり、その間は絶縁膜16によって絶縁が確保されている。電子放出装置1は、簡易な構成で絶縁を確保することができるので、信頼性が高いという特徴も有する。
【0035】
電子放出装置1では、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aが、電子放出領域として機能する。このため、電子放出膜14の厚みが薄ければ、電子放出膜14の端部14aの曲率半径が小さくなり、電子放出膜14の端部14aにおける電界集中が促進される。電子放出膜14の端部14aの曲率半径が小さければ、レーザ光照射装置20のレーザ光の照射に対して効率的に電子を放出することができる。電子放出装置1は、電子放出膜14の厚みを調整するだけで、電子放出領域として機能する電子放出膜14の端部14aの曲率半径を調整することができる。このように、電子放出装置1では、電子放出膜14に開口14Aを形成するという容易な加工によって、高効率な電子放出領域を構成することができる。電子放出装置1は、製造が容易な構造であるという特徴を有する。なお、電子放出膜14の端部14aの厚みは、電界電子放出が可能な厚みであればよく、求められる特性等に応じて適宜調整される。一例では、電子放出膜14の端部14aの厚みは、約10〜100nmであるのが望ましい。また、電子放出膜14の端部14aの厚みを薄くするために、電子放出膜14の全体の厚みを薄くしてもよいし、必要に応じて、電子放出膜14の端部14aのみを薄くし、他の部分を厚くしてもよい。
【0036】
上記したように、電子放出装置1は、レーザ光照射装置20のレーザ光が基板12を透過して電子放出膜14に照射されるように構成されている。このため、レーザ光照射装置20のレーザ光は、他部材に遮られることなく、効率的に電子放出膜14に照射される。
【0037】
電子放出装置1では、レーザ光照射装置20から出射されるレーザ光が電子放出膜14に対してp偏光であり、レーザ光の電界の振動面が電子放出膜14の開口14Aの長手方向(y軸方向)に直交する関係になっている。このため、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aのうちのy軸方向に伸びる一対の端部14aには、レーザ光照射装置20から出射されるレーザ光による光電場が効率的に重畳する。電子放出装置1では、電子放出膜14の開口14Aがy軸方向に長手方向を持つ矩形状なので、y軸方向に伸びる一対の端部14aが長く形成されている。このため、電子放出装置1は、その長尺な一対の端部14aにおいて電界電子放出を行うことができるので、高効率に電界電子放出を行うことができる。
【0038】
また、電界電子放出の効率をさらに向上させるために、
図2に示されるように、電子放出膜14の開口14Aを画定する一対の端部14a間の距離(以下、電子放出膜14の開口幅14Wという)は、レーザ光照射装置20のレーザ光の波長に対して短くするのが望ましい。この例では、電子放出膜14の開口幅14Wは、約300〜1000nmであるのが望ましい。電子放出膜14の開口幅14Wがレーザ光照射装置20のレーザ光の波長よりも短ければ、レーザ光が電子放出膜14を超えて引き出し電極18に到達することが抑えられ、引き出し電極18の発熱が抑えられる。さらに、電子放出膜14の開口幅14Wが短いと、電子放出領域として機能する電子放出膜14の端部14aが高密度に配置されるので、電子放出装置1は、高効率に電界電子放出を行うことができる。
【0039】
また、電子放出装置1では、電子放出膜14が基板12の上面に直接的に接する。このような形態では、基板12は、半絶縁性の材料であるのが望ましい。例えば、基板12の材料は、炭化珪素又は窒化ガリウム等の高抵抗なワイドバンドギャップ半導体であるのが望ましい。この場合、電子放出膜14と引き出し電極18の間に印加される電圧によって形成される等電位線が、電子放出膜14の開口14Aを通って基板12内に入り込むように屈曲する。このように、比誘電率が1よりも大きい基板材料であれば、電子放出膜14の下部が真空の場合と比して、等電位線が電子放出膜14の開口14Aを通って基板12内に深く入り込むように屈曲する。このため、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aの電界集中が促進され、電界電子放出の効率が向上する。
【0040】
図3に示されるように、電子放出膜14の開口14Aの形状は、z軸方向から観測したときに、y軸方向に伸びる一対の端部14aにおいて、複数個の直角な部分が含まれるように構成されていてもよい。あるいは、
図4に示されるように、電子放出膜14の開口14Aの形状は、z軸方向から観測したときに、y軸方向に伸びる一対の端部14aにおいて、複数個の鋭角な部分が含まれるように構成されていてもよい。このような直角又は鋭角な部分は、曲率半径がさらに小さくなり、電界集中がさらに促進され、電界電子放出の効率がさらに向上する。
【0041】
次に、
図5を参照して、電子放出装置1の製造方法を説明する。まず、
図5Aに示されるように、基板12を準備する。
【0042】
次に、
図5Bに示されるように、蒸着技術を利用して、基板12の上面に電子放出膜14を堆積する。さらに、フォトリソグラフィ技術を利用して、電子放出膜14の上面にフォトマスク42をパターニングする。フォトマスク42は、電子放出膜14に形成される開口の位置に対応する範囲が除かれるようにパターニングされる。
【0043】
次に、
図5Cに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、フォトマスク42の開口から露出する電子放出膜14の一部を除去して開口14Aを形成し、基板12の上面の一部を露出させる。その後、フォトマスク42を除去する。
【0044】
次に、
図5Dに示されるように、CVD技術を利用して、電子放出膜14の上面に絶縁膜16を堆積する。さらに、蒸着技術を利用して、絶縁膜16の上面に引き出し電極18を堆積する。
【0045】
次に、
図5Eに示されるように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を利用して、引き出し電極18の一部を除去して開口18Aを形成し、絶縁膜16の上面の一部を露出させる。
【0046】
次に、
図5Fに示されるように、ウェットエッチング技術を利用して、引き出し電極18の開口18Aから露出する絶縁膜16を除去する。エッチング液には弗化水素が用いられる。これにより、絶縁膜16の一部が除去され、電子放出膜14の開口14Aと引き出し電極18の開口18Aが連通する。最後に、レーザ光照射装置20を取り付けることにより、電子放出装置1が完成する。
【実施例2】
【0047】
図6に、実施例2の電子放出装置2を示す。なお、
図1の電子放出装置1と実質的に共通する構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
電子放出装置2では、基板12の上面にメサ段差状の複数の凸部12Aが形成されている。凸部12の側面の一部は、電子放出膜14で被覆されている。凸部の頂面は、電子放出膜14の開口14Aを介して露出する。このため、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aは、引き出し電極18に向けて突出するように構成されている。
【0049】
この電子放出装置2では、電子放出膜14と引き出し電極18の間に電圧が印加されたときに、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aの電界強度が、電子放出装置1に比して強くなる。このため、電子放出膜14と引き出し電極18の間に印加する電圧が低くても、電子放出装置2は、高効率に電界電子放出を行うことができる。電子放出膜14と引き出し電極18の間に印加する電圧を低く抑えることができるので、電子放出装置2は、絶縁破壊が抑えられ、高い信頼性を有することができる。
【0050】
次に、
図7を参照して、電子放出装置2の製造方法を説明する。まず、
図7Aに示されるように、基板12を準備する。
【0051】
次に、
図7Bに示されるように、フォトリソグラフィ技術を利用して、基板12の上面にフォトマスク44をパターニングする。フォトマスク44は、基板12の上面に形成される凸部の位置に対応する範囲に残存するようにパターニングされる。
【0052】
次に、
図7Cに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、基板12の上面を加工し、メサ段差状の凸部12Aを形成する。
【0053】
次に、
図7Dに示されるように、フォトマスク44を除去する。
【0054】
次に、
図7Eに示されるように、蒸着技術を利用して、基板12の上面に電子放出膜14を堆積する。電子放出膜14は、凸部12Aの側面及び頂面を含む基板12の上面を完全に被覆する。
【0055】
次に、
図7Fに示されるように、CVD技術を利用して、電子放出膜14の上面にマスク46を堆積する。マスク46の材料は、例えば、酸化シリコンである。なお、この堆積工程では、次工程のエッチバック工程のために、マスク46の上面が平坦であるのが望ましい。このため、堆積されるマスク46は、リン又はボロンを添加した流動性に優れたものであるのが望ましい。あるいは、マスク46を堆積した後に、マスク46の上面を平坦化する熱処理工程を実施してもよい。あるいは、マスク46を堆積した後に、CMP技術を利用して、マスク46の上面を平坦化してもよい。
【0056】
次に、
図7Gに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、基板12の凸部12Aの側面を被覆する電子放出膜14が露出するまでマスク46をエッチバックする。
【0057】
次に、
図7Hに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、マスク46で被覆されていない電子放出膜14の一部を除去して開口14Aを形成し、基板12の凸部12の側面の一部及び頂面を露出させる。
【0058】
次に、
図7Iに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、マスク46を除去する。
【0059】
次に、
図7Jに示されるように、CVD技術を利用して、電子放出膜14の上面に絶縁膜16を堆積する。さらに、蒸着技術を利用して、絶縁膜16の上面に引き出し電極18を堆積する。
【0060】
次に、
図7Kに示されるように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を利用して、引き出し電極18の一部を除去して開口18Aを形成し、絶縁膜16の上面の一部を露出させる。
【0061】
次に、
図7Lに示されるように、ウェットエッチング技術を利用して、引き出し電極18の開口18Aから露出する絶縁膜16を除去する。エッチング液には、弗化水素が用いられる。これにより、絶縁膜16の一部が除去され、電子放出膜14の開口14Aと引き出し電極18の開口18Aが連通する。最後に、レーザ光照射装置20を取り付けることにより、電子放出装置2が完成する。
【実施例3】
【0062】
図8に、実施例3の電子放出装置3を示す。なお、
図1の電子放出装置1と実質的に共通する構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0063】
電子放出装置3は、基板12と電子放出膜14の間に設けられている下側絶縁膜13を備える。下側絶縁膜13の材料には、酸化シリコン(SiO
2)が用いられている。下側絶縁膜13は、電子放出膜14の開口14Aの下方部分が選択的に除去されている。これにより、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aは、他部材から突出して真空中に浮いた状態で設けられている。
【0064】
例えば、
図1に示す電子放出装置1では、基板12の材料に絶縁体が用いられた場合、基板12のスクリーニング効果(等電位線が電子放出膜14の開口14Aから基板12に入り込まない)によって、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aの電界強度が弱くなる。一方、本実施例の電子放出装置3では、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aが真空中に浮いた状態で設けられているので、基板12の材料に関わらず、等電位線が電子放出膜14の開口14Aから下方に入り込むように形成される。このように、電子放出装置3は、基板12の材料選択の自由度が高くなるという特徴を有する。
【0065】
次に、
図9を参照して、電子放出装置3の製造方法を説明する。まず、
図9Aに示されるように、基板12を準備する。
【0066】
次に、
図9Bに示されるように、CVD技術を利用して、基板12の上面に下側絶縁膜13を堆積する。さらに、蒸着技術を利用して、下側絶縁膜13の上面に電子放出膜14を堆積する。
【0067】
次に、
図9Cに示されるように、フォトリソグラフィ技術を利用して、電子放出膜14の上面にフォトマスク48をパターニングする。フォトマスク48は、電子放出膜14に形成される開口の位置に対応する範囲が除かれるようにパターニングされる。
【0068】
次に、
図9Dに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、フォトマスク48の開口から露出する電子放出膜14の一部を除去して開口14Aを形成し、下側絶縁膜13の上面の一部を露出させる。その後、フォトマスク48を除去する。
【0069】
次に、
図9Eに示されるように、CVD技術を利用して、電子放出膜14の上面に絶縁膜16を堆積する。さらに、蒸着技術を利用して、絶縁膜16の上面に引き出し電極18を堆積する。
【0070】
次に、
図9Fに示されるように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を利用して、引き出し電極18の一部を除去して開口18Aを形成し、絶縁膜16の上面の一部を露出させる。
【0071】
次に、
図9Gに示されるように、ウェットエッチング技術を利用して、引き出し電極18の開口18Aから露出する絶縁膜16を除去する。エッチング液には、弗化水素が用いられる。絶縁膜16の一部が除去されて電子放出膜14が露出すると、その電子放出膜14の開口14Aから露出する下側絶縁膜13に向けてもエッチングが進行する。これにより、絶縁膜16の一部が除去されて電子放出膜14の開口14Aと引き出し電極18の開口18Aが連通するとともに、下側絶縁膜13の一部が除去されて電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aが他部材から突出した状態となる。最後に、レーザ光照射装置20を取り付けることにより、電子放出装置3が完成する。
【実施例4】
【0072】
図10に、電子放出装置を備える3極管構成のトランジスタ4を示す。なお、
図1の電子放出装置1と実質的に共通する構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
トランジスタ4は、電子放出装置に加えて、上側絶縁膜32及びアノード膜34を備える。トランジスタ4では、電子放出膜14(トランジスタ4においてカソード膜として機能する)とアノード膜34の間の空間が真空に維持されている。
【0074】
上側絶縁膜32は、引き出し電極18とアノード膜34の間に設けられており、引き出し電極18とアノード膜34の各々に直接的に接する。上側絶縁膜32は、引き出し電極18とアノード膜34を電気的に絶縁する。この例では、上側絶縁膜32の材料には、酸化シリコン(SiO
2)が用いられている。
【0075】
アノード膜34は、上側絶縁膜32の上面を被覆しており、上側絶縁膜32の上面に直接的に接する。アノード膜34は、上側絶縁膜32の空間を介して引き出し電極18の開口18Aに連通する。アノード膜34には、電子放出膜14の端部14aから放出された電子が流入する。このため、アノード膜34は、導体、特に金属であるのが望ましい。この例では、アノード膜34の材料には、モリブテンが用いられている。
【0076】
次に、トランジスタ4の動作を説明する。まず、電子放出膜14に対して引き出し電極18が正電位となるように、さらに、引き出し電極18に対してアノード膜34が正電位となるように、電子放出膜14と引き出し電極18の間及び引き出し電極18とアノード膜34の間の各々に電圧が印加される。一例では、電子放出膜14に0V(接地電位)が印加され、引き出し電極18に+100Vが印加され、アノード膜34に+110Vが印加される。電子放出膜14に対して引き出し電極18が正電位となるので、電子放出膜14の開口14Aを画定する端部14aの電界強度が高くなる。このとき、電子放出膜14の端部14aの電界強度が10
7V/cm以下となるように、電子放出膜14と引き出し電極18の間に印加される電圧が設定される。
【0077】
トランジスタ4は、レーザ光照射装置20のレーザ光を利用して、アノード膜34から電子放出膜14に流れる電流を制御する。レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射されないときは、上記したように、電子放出膜14の端部14aの電界強度が10
7V/cm以下であり、電子放出膜14から電子が放出しない。一方、レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射されると、電子放出膜14の端部14aに光電場が重畳され、電子放出膜14の端部14aの電界強度が高くなる。さらに、電子放出膜14の端部14aでは、プラズモン共鳴が発生し、電子放出膜14の端部14aの電界強度が高くなる。レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射されると、これらの現象により、電子放出膜14の端部14aの電界強度が電界電子放出に十分な値まで高くなる。この結果、電子放出膜14に存在する電子は、量子力学的なトンネル効果によって真空障壁を透過し、電子放出膜14の端部14aから真空中に放出される。電子放出膜14から放出された電子は、引き出し電極18の開口18Aを通過してアノード膜34に流入する。これにより、アノード膜34から電子放出膜14に向けて電流が流れる。
【0078】
上記したように、トランジスタ4は、レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射したときに電子放出膜14の端部14aから電子を放出して電流を流し、レーザ光照射装置20のレーザ光が電子放出膜14に照射しないときに電子放出膜14の端部14aからの電子の放出を停止して電流を止めるように動作する。トランジスタ4は、レーザ光照射装置20のレーザ光を利用して、アノード膜34から電子放出膜14に流れる電流のオンとオフを切換えるように制御することができる。このように、トランジスタ4は、レーザ光照射装置20のレーザ光を利用して電流を制御することができるので、電気的なノイズに対して強く、高速動作が可能という特徴を有する。さらに、トランジスタ4に印加される電圧は、電子放出膜14と引き出し電極18の間及び引き出し電極18とアノード膜34の間のみであり、それらの間は絶縁膜16及び上側絶縁膜32によって絶縁が確保されている。トランジスタ4は、簡易な構成で絶縁を確保することができるので、信頼性が高いという特徴も有する。
【0079】
また、トランジスタ4は、電子放出膜14とアノード膜34の間が真空に維持されている。このため、電子放出膜14の端部14aから放出された電子は、電子放出膜14からアノード膜34までバリスティック伝導する。したがって、トランジスタ4では、半導体中を電子が伝導するトランジスタのように、不純物濃度に依存したオン抵抗と耐圧の間のトレードオフ関係が存在しない。トランジスタ4は、極めて低いオン抵抗と極めて高い耐圧を両立することができる。また、半導体を利用するトランジスタでは、結晶欠陥の少ない高品質な半導体基板を開発することが必要である。一方、真空を利用するトランジスタ4では、そのような材料開発の負担がない。さらに、トランジスタ4は、高温時にも動作が安定するという特徴を有する。
【0080】
3極管構成のトランジスタ4は、電流が飽和しない静電誘導型トランジスタ(SIT)に近いモードで動作する。電界効果トランジスタ(FET)に近いモードで動作させたい場合、
図11に示されるように、引き出し電極18とアノード膜34の間に遮蔽電極(スクリーングリッド)33が挿入された4極管構成のトランジスタ5としてもよい。遮蔽電極33は、第1上側絶縁膜32aを介して引き出し電極18から電気的に絶縁されており、第2上側絶縁膜32bを介してアノード膜34から電気的に絶縁されている。遮蔽電極33には、複数の開口33Aが形成されている。遮蔽電極33の複数の開口33Aの各々は、z軸方向に沿って引き出し電極18の複数の開口18Aの各々に対応して設けられている。遮蔽電極33の開口33Aと引き出し電極18の開口18Aは、第1上側絶縁膜32aに形成されている空間を介して連通するように配置される。遮蔽電極33の開口33Aとアノード膜34は、第2上側絶縁膜32bに形成されている空間を介して連通するように配置される。
【0081】
トランジスタ5では、例えば、電子放出膜14に0V(接地電位)が印加され、引き出し電極18に+100Vが印加され、遮蔽電極33に(接地電位)が印加され、アノード膜34に+2〜3Vが印加される。このような条件において、トランジスタ5は、レーザ光照射装置20のレーザ光を利用して、アノード膜34から電子放出膜14に流れる電流のオンとオフを切換えるように制御することができ、その動作モードが電界効果トランジスタ(FET)に近い動作モードとなる。
【0082】
次に、
図12を参照して、トランジスタ4の製造方法を説明する。まず、
図12Aに示されるように、基板12を準備する。
【0083】
次に、
図12Bに示されるように、蒸着技術を利用して、基板12の上面に電子放出膜14を堆積する。さらに、フォトリソグラフィ技術を利用して、電子放出膜14の上面にフォトマスク52をパターニングする。フォトマスク52は、電子放出膜14に形成される開口の位置に対応する範囲が除かれるようにパターニングされる。
【0084】
次に、
図12Cに示されるように、ドライエッチング技術又はウェットエッチング技術を利用して、フォトマスク52の開口から露出する電子放出膜14の一部を除去して開口14Aを形成し、基板12の上面の一部を露出させる。その後、フォトマスク52を除去する。
【0085】
次に、
図12Dに示されるように、CVD技術を利用して、電子放出膜14の上面に絶縁膜16を堆積する。さらに、蒸着技術を利用して、絶縁膜16の上面に引き出し電極18を堆積する。
【0086】
次に、
図12Eに示されるように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を利用して、引き出し電極18の一部を除去して開口18Aを形成し、絶縁膜16の上面の一部を露出させる。
【0087】
次に、
図12Fに示されるように、CVD技術を利用して、引き出し電極18の上面に上側絶縁膜32を堆積する。さらに、蒸着技術を利用して、上側絶縁膜32の上面にアノード膜34を堆積する。
【0088】
次に、
図12Gに示されるように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を利用して、アノード膜34の一部を除去して開口34Aを形成し、上側絶縁膜32の上面の一部を露出させる。アノード膜34の開口34Aは、引き出し電極18の開口18Aの長手方向(
図10のy軸方向)に沿って一定の周期で形成されるのが望ましい。より望ましくは、アノード膜34の開口34Aは、引き出し電極18の開口18Aの長手方向に沿って、引き出し電極18の開口18Aの開口幅(
図10のx軸方向の幅)の2〜3倍の周期で形成されるのが望ましい。
【0089】
次に、
図12Hに示されるように、ウェットエッチング技術を利用して、アノード膜34の開口34Aから露出する上側絶縁膜32を除去する。エッチング液には、弗化水素が用いられる。上側絶縁膜32の一部が除去されて引き出し電極18が露出すると、その引き出し電極18の開口18Aから露出する絶縁膜16に向けてもエッチングが進行する。これにより、上側絶縁膜32の一部が除去されて引き出し電極18の開口18Aとアノード膜34が連通するとともに、絶縁膜16の一部が除去されて電子放出膜14の開口14Aと引き出し電極18の開口18Aが連通する。なお、上側絶縁膜32及び絶縁膜16に形成される空洞の形状は、アノード膜34の開口34Aの密度に依存する。このため、アノード膜34の開口34Aは、上記した態様で形成されているのが望ましい。最後に、レーザ光照射装置20を取り付けることにより、トランジスタ4が完成する。
【0090】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。