特許第6187507号(P6187507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187507
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】廃液処理方法及び廃液処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20170821BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20170821BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C02F1/72 ZZAB
   C02F1/52 K
   B01D53/50 290
   B01D53/50 245
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-45039(P2015-45039)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-163863(P2016-163863A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】逢澤 正人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 淳
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−117783(JP,A)
【文献】 特開昭53−037178(JP,A)
【文献】 特開平07−136669(JP,A)
【文献】 特開平10−277564(JP,A)
【文献】 特開昭52−023506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52−56、72
B01D 21/01、53/50
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液に沈降分離処理を施し、該沈降分離処理後の上澄み廃液を湿式排煙脱硫装置に送り、該湿式排煙脱硫装置の補給水として利用する廃液処理方法であって、
前記廃液のサンプルに、過酸化水素水の注入濃度を段階的に上げて添加し、各注入濃度におけるCOD濃度および鉄濃度をそれぞれ測定し、酸化分解の効率が緩慢になると判断される注入濃度の範囲における下限を前記過酸化水素水の注入濃度と決定し、
前記廃液に、決定された前記注入濃度となるように過酸化水素水を注入して酸化させ、該過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整し、前記廃液の重金属を沈降分離することを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
前記過酸化水素水による酸化分解の効率は、前記COD濃度が800mg/l程度まで低下した場合、または前記鉄濃度が730mg/l程度まで低下した場合に、緩慢になったと判断される、
ことを特徴とする請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記pH調整後の廃液で重金属が凝集分離されていない場合に凝集剤を注入して、前記廃液の重金属を凝集沈殿させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記廃液の重金属を沈降分離した後の上澄み液を湿式排煙脱硫装置に送り、該湿式排煙脱硫装置の補給水として利用し、最終的に前記廃液を前記湿式排煙脱硫装置の脱硫排水の一部として、前記湿式排煙脱硫装置の脱硫排水を処理する排水処理装置で処理することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の廃液処理方法。
【請求項5】
湿式排煙脱硫装置と、
前記湿式排煙脱硫装置から排出される脱硫排水を処理する排水処理装置と、
廃液を貯留する貯槽と、
前記廃液のサンプルに、過酸化水素水の注入濃度を段階的に上げて添加し、各注入濃度におけるCOD濃度および鉄濃度をそれぞれ測定し、酸化分解の効率が緩慢となると判断される注入濃度の範囲における下限を前記過酸化水素水の注入濃度と決定する分析手段と、
前記廃液が貯留された貯槽に、前記分析手段で決定された注入濃度となるように過酸化水素水を注入して酸化させる過酸化水素水注入手段と、
前記過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整するpH調整剤注入手段と、
前記貯槽における廃液の重金属を沈降分離した後の上澄み廃液を前記湿式排煙脱硫装置に送るポンプと、
を備えることを特徴とする廃液処理システム。
【請求項6】
前記分析手段は、前記COD濃度が800mg/l程度まで低下した場合、または前記鉄濃度が730mg/l程度まで低下した場合に、前記過酸化水素水による酸化分解の効率が緩慢になったと判断する、
ことを特徴とする請求項5に記載の廃液処理システム。
【請求項7】
前記pH調整後の廃液で重金属が凝集分離されていない場合に凝集剤を注入して、前記廃液の重金属を凝集沈殿させる凝集剤注入手段、
を備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の廃液処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃液処理方法及び廃液処理システムに関し、特に、廃液の重金属濃度が高い場合でもコスト増を抑制しつつ廃液処理を行い得る廃液処理方法及び廃液処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭または重油焚きの火力発電所で使用される貫流型ボイラでは、蒸発管の内面に付着するスケール(酸化鉄などの固体微粒子が付着,堆積して形成される硬質の金属酸化皮膜)を除去するための化学洗浄が行われている。有機酸による化学洗浄が行われており、化学洗浄後に発生する廃液には、鉄等の重金属類が多量に含まれ、化学的酸素要求量(COD)も非常に高いことから、排水処理が必要となる。この排水処理の手法として、一般的には、湿式薬品処理法や逆浸透法などによる処理を行って排水基準に適合する水質に改善している。しかしながら、湿式薬品処理法は非常に高コストで汚泥の発生量が多く、また、逆浸透膜法は濃縮液を産業廃棄物として焼却処分するが、処理コストが高く、新たな産業廃棄物の発生として自治体への届出等も必要となるという事情があった。
【0003】
特許文献1では、汚泥の発生量を抑制する方法として、発電用ボイラを有機酸で洗浄したとき排出される洗浄廃液に過酸化水素水を接触させた後、この廃液に他の廃液を供給して希釈し、この希釈廃液に凝集剤を添加して希釈廃液中に存在する重金属類を凝集沈殿させる手法が開示されている。この従来技術は、過酸化水素水を添加してCOD濃度を低減するとともに、この廃液に10倍量程度の希釈液を添加した後に凝集剤を添加して、廃液中の重金属類を凝集沈殿させるもので、廃液処理時に生じる汚泥の発生量を低減し、さらに後工程として活性炭吸着工程を設けることでCOD濃度を低減するものであるが、大量の希釈液を必要とし、処理工程も多く、多くの設備を必要とすることから、設備や薬剤等の面で高コストである。
【0004】
また、特許文献2では、簡単で、低コストで処理を行う手法として、ボイラの化学洗浄廃液に過酸化水素水を所定量添加し、過酸化水素水を所定量添加した廃液を湿式排煙脱硫装置に送水し、該廃液を湿式排煙脱硫装置の補給水として利用し、最終的に廃液を湿式排煙脱硫装置の脱硫排水の一部として、湿式排煙脱硫装置の脱硫排水を処理する排水処理装置で処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−276845号公報
【特許文献2】特許5084130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の手法では、相対的に重金属濃度が低い化学洗浄廃液については処理可能であるが、相対的に重金属濃度が高い化学洗浄廃液については処理できないという事情があった。なお、特許文献1の手法では、大量の希釈液を用いる希釈工程を経て処理され、実質的に重金属濃度が低減されるので、相対的に重金属濃度が高い化学洗浄廃液についてもある程度までは処理可能と考えられるが、設備や薬剤等の面で高コストであるという問題が残る。
【0007】
そこでこの発明は、廃液の重金属濃度が高い場合でもコスト増を抑制しつつ廃液処理を行い得る廃液処理方法及び廃液処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、廃液に処理を施し、該処理後の上澄み廃液を湿式排煙脱硫装置に送り、該湿式排煙脱硫装置の補給水として利用する廃液処理方法であって、前記廃液のサンプルに、過酸化水素水の注入濃度を段階的に上げて添加し、各注入濃度におけるCOD濃度および鉄濃度をそれぞれ測定し、酸化分解の効率が緩慢になると判断される注入濃度の範囲における下限を前記過酸化水素水の注入濃度と決定し、前記廃液に、決定された前記注入濃度の過酸化水素水を注入して酸化させ、該過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整し、前記廃液の重金属を沈降分離することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の廃液処理方法において、前記過酸化水素水による酸化分解の効率は、前記COD濃度が800mg/l程度まで低下した場合、または前記鉄濃度が730mg/l程度まで低下した場合に、緩慢になったと判断される、ことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の廃液処理方法において、前記pH調整後の廃液で重金属が凝集分離されていない場合に凝集剤を注入して、前記廃液の重金属を凝集沈殿させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の廃液処理方法において、前記廃液の重金属を沈降分離した後の上澄み液を湿式排煙脱硫装置に送り、該湿式排煙脱硫装置の補給水として利用し、最終的に前記廃液を前記湿式排煙脱硫装置の脱硫排水の一部として、前記湿式排煙脱硫装置の脱硫排水を処理する排水処理装置で処理することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5の発明は、湿式排煙脱硫装置と、前記湿式排煙脱硫装置から排出される脱硫排水を処理する排水処理装置と、廃液を貯留する貯槽と、前記廃液のサンプルに、過酸化水素水の注入濃度を段階的に上げて添加し、各注入濃度におけるCOD濃度および鉄濃度をそれぞれ測定し、酸化分解の効率が緩慢となると判断される注入濃度の範囲における下限を前記過酸化水素水の注入濃度と決定する分析手段と、前記廃液が貯留された貯槽に、前記分析手段で決定された注入濃度となるように過酸化水素水を注入して酸化させる過酸化水素水注入手段と、前記過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整するpH調整剤注入手段と、前記貯槽における廃液の重金属を沈降分離した後の上澄み廃液を前記湿式排煙脱硫装置に送るポンプと、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5に記載の廃液処理システムにおいて、前記分析手段は、前記COD濃度が800mg/l程度まで低下した場合、または前記鉄濃度が730mg/l程度まで低下した場合に、前記過酸化水素水による酸化分解の効率が緩慢になったと判断する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1または請求項6に記載の廃液処理システムにおいて、前記pH調整後の廃液で重金属が凝集分離されていない場合に凝集剤を注入して、前記廃液の重金属を凝集沈殿させる凝集剤注入手段、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、5の発明によれば、ボイラの化学洗浄廃液等の廃液に、該廃液の重金属濃度に応じた量の過酸化水素水を注入するので、廃液の重金属濃度が高い場合でも充分に酸化せしめることができ、廃液中の重金属が酸化分解されて上澄み液中の重金属濃度を一定水準まで低減させることができると共に、化学的酸素要求量の原因となる成分(即ち、COD成分)も酸化分解されてCOD濃度を一定水準まで低減させることができる。また、該過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整し、前記廃液中で重金属の水酸化物フロックを形成して沈降分離するので、上澄み液中の重金属濃度をさらに低減させることができると共に、COD濃度も低減させることができる。さらに、処理後の上澄み液は湿式排煙脱硫装置に送られ、該湿式排煙脱硫装置の補給水として利用され、最終的には脱硫排水の一部として、湿式排煙脱硫装置の脱硫排水を処理する排水処理装置で処理される。湿式排煙脱硫装置内の液中のCOD濃度は高く、また湿式排煙脱硫装置の保有液量も大きいため、廃液を投入しても湿式排煙脱硫プロセスに殆ど影響を及ぼすことはない。このように、廃液の重金属濃度が高い場合であっても、大量の廃水等を用いて希釈する希釈工程を経ることなく、過酸化水素水注入工程とpH調整剤注入工程のみで、しかも別途貯槽を用意することなく、重金属濃度およびCOD濃度を低減できるので、コスト増を抑制しつつ廃液処理を行うことができる。
【0016】
また、過酸化水素水の注入量は、廃液のサンプルに注入する過酸化水素水注入濃度を所定範囲で段階的に上げて行ったときのCOD濃度および重金属濃度の推移に基づいて、酸化分解の効率が緩慢となると判断される過酸化水素水注入濃度の範囲において下限となる過酸化水素水注入濃度を求め、該過酸化水素水注入濃度となるように設定される。換言すれば、酸化分解の効率が相対的に良いと判断される過酸化水素水注入濃度の範囲において上限となる過酸化水素水注入濃度が選択されて、該過酸化水素水注入濃度に基づき過酸化水素水の注入量が決定されることになる。これにより、過酸化水素水注入濃度を酸化分解の効率が良い範囲に止められ、過酸化水素水注入の後に行われるpH調整剤注入におけるpH調整剤の注入量を無駄に増やすことなく適正なものとすることができ、全体として薬剤に要するコストを抑制することが可能となる。また、請求項2、6に記載の発明によれば、過酸化水素水による酸化分解の効率は、COD濃度が800mg/l程度まで低下した場合、または鉄濃度が730mg/l程度まで低下した場合に緩慢になったと判断することができる。
【0017】
請求項3、7の発明によれば、pH調整後の廃液で重金属が凝集分離されていない場合に凝集剤を注入するので、凝集剤を注入した場合には、廃液の重金属の凝集沈殿が加速され、完全な重金属の凝集沈殿による汚泥の凝集分離が可能となる。また、pH調整を行った段階で重金属を凝集分離させることができた場合には、凝集剤の注入は不要であり、そのまま上澄み液の移送に移行すれば良い。この場合、凝集剤の薬剤コスト分だけコストを抑制することが可能となる。
【0018】
請求項4の発明によれば、処理後の上澄み廃液は湿式排煙脱硫装置に送られ、該湿式排煙脱硫装置の補給水として利用され、最終的には脱硫排水の一部として、湿式排煙脱硫装置の脱硫排水を処理する排水処理装置で処理される。湿式排煙脱硫装置内の液中のCOD濃度は高く、また湿式排煙脱硫装置の保有液量も大きいため、廃液を投入しても湿式排煙脱硫プロセスに殆ど影響を及ぼすことはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態に係る廃液処理システムの構成図である。
図2】発明の実施の形態に係る廃液処理方法における沈降分離処理の概略を説明するフローチャートである。
図3】実施の形態における分析手段による予備実験の結果を例示する説明図であり、(a)は過酸化水素水注入濃度に応じたCOD濃度および鉄濃度の推移を、(b)は苛性ソーダを注入した際のpHに対するCOD濃度および鉄濃度の推移を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下の説明では、廃液をボイラの化学洗浄廃液として説明を行うが、本発明の廃液処理方法および廃液処理システムが処理対象とする廃液がボイラの化学洗浄廃液に限定されないことはいうまでもない。
【0021】
図1において、この実施の形態の廃液処理システム1は、主な設備として、化学洗浄廃液を貯留する貯槽2と、湿式排煙脱硫装置4に付属の脱硫貯留槽3と、硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置4と、貯槽2における沈降分離処理で堆積した汚泥を処理する産業廃棄物処理装置5と、湿式排煙脱硫装置4から排出される脱硫排水を処理する排水処理装置6と、を備える。なお、貯槽2には、ボイラの化学洗浄廃液の受入時に用いる配管21と、化学洗浄廃液の沈殿分離処理後の上澄み液を脱硫貯留槽3へ移送する際に用いる水中ポンプ22および配管23と、を備える。また、脱硫貯留槽3には、該脱硫貯留槽3の上澄み液を湿式排煙脱硫装置4のろ過水槽(図示せず)へ移送する際に用いる水中ポンプ24および配管25を備える。
【0022】
また、廃液処理システム1は、貯槽2における化学洗浄廃液の沈降分離処理を行うための手段構成として、予め予備実験を行い、化学洗浄廃液の鉄濃度(重金属濃度)が所定閾値(1000[mg/l])未満となる過酸化水素水注入濃度に基づき過酸化水素水の注入量を決定する分析手段11と、化学洗浄廃液に、該化学洗浄廃液の重金属濃度に応じた量の過酸化水素水を注入して酸化させる過酸化水素水注入手段12と、過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整するpH調整剤注入手段13と、pH調整後の廃液に凝集剤を注入して、化学洗浄廃液の重金属を凝集沈殿させる凝集剤注入手段14と、を備える。
【0023】
次に、図2のフローチャートに沿って、この実施の形態の廃液処理方法における沈降分離処理について順次説明する。なお、沈降分離処理とは、分析手段11、過酸化水素水注入手段12、pH調整剤注入手段13および凝集剤注入手段14による処理の総称である。
【0024】
先ず、ステップS1では、ボイラの化学洗浄廃液の受入が行われる。発電所で使用されている貫流型ボイラの蒸発管の化学洗浄には、クエン酸、グリコール酸などの有機酸が使用されている。したがって、化学洗浄に伴って排出される化学洗浄廃液には、蒸発管に付着したスケールを溶解させたことに起因して金属類、有機酸などのCOD成分が多く含まれることになる。特に、金属類の内、重金属である鉄の濃度が他と比較して突出して高く、金属類として、ナトリウム、マンガン、マグネシウム、カルシウムなどがあり、種々の金属類が入り混じっている。発電所の貫流型ボイラの化学洗浄に伴って排出される洗浄廃液の量は900[m]前後であり、化学洗浄廃液は、配管21を介して貯槽2に貯留される。
【0025】
なお、この実施の形態で処理対象とする化学洗浄廃液の特徴的な点は、重金属(鉄)の濃度が相対的に高い点である。すなわち、特許文献2で開示されている実験においては、COD濃度が約2400[mg/l]で、鉄濃度が1024[mg/l]であったが、この実施の形態では、具体的に実施した化学洗浄廃液(以下、実施例という)のCOD濃度は約5500[mg/l]で、鉄濃度は1900[mg/l]であり、COD濃度および鉄の濃度が共に高い濃度の化学洗浄廃液を扱う。
【0026】
次に、ステップS2では、分析手段11による化学洗浄廃液の分析が行われる。分析手段11では、化学洗浄廃液のサンプルについて、過酸化水素水の注入濃度を1〜10[%]の範囲で段階的に注入濃度を上げて、各注入濃度におけるCOD濃度および鉄濃度をそれぞれ測定する。なお、COD濃度、鉄濃度の測定はJISK0102に基づき行う。実施例の化学洗浄廃液(COD濃度5500[mg/l]、鉄濃度1900[mg/l])について行った実験結果を図3(a)に示す。
【0027】
特許文献2の実施例においては、過酸化水素水の注入濃度を1[%]として沈殿分離させた結果が報告されているが、この実験においては、COD濃度が3400[mg/l]、鉄濃度が1450[mg/l]で、共に非常に高く、従来と同様の処理手法では十分な沈降分離を行うことができないことを確認できた。また、全体的な結果として、過酸化水素水の注入濃度を1〜10[%]の範囲とした場合に、過酸化水素水の注入だけでは十分な沈降分離を行うことができないことも確認できた。
【0028】
また、COD成分の過酸化水素水注入による酸化分解の状況について分析すると、次のようになる。すなわち、過酸化水素水注入濃度7[%]でCOD濃度は850[mg/l]となり、約85[%]分解されている。また、過酸化水素水注入は、投入初期(注入濃度が相対的に低い範囲)では酸化分解の効率が良く、COD濃度が800[mg/l]程度まで低下すると酸化分解の効率が緩慢になることが確認された。
【0029】
また、鉄(重金属)成分の過酸化水素水注入による酸化分解の状況について分析すると、次のようになる。すなわち、過酸化水素水注入濃度7[%]で鉄濃度は730[mg/l]となり、約60[%]分解されている。また、過酸化水素水注入は、投入初期(注入濃度が相対的に低い範囲)では酸化分解の効率が良く、鉄濃度が730[mg/l]程度まで低下すると酸化分解の効率が緩慢になることが確認された。
【0030】
なお、この実施の形態で、「化学洗浄廃液の鉄濃度(重金属濃度)が所定閾値(1000[mg/l])未満となる過酸化水素水注入濃度に基づき過酸化水素水の注入量を決定する」としているのは、過酸化水素水注入濃度が相対的に高い範囲では酸化分解の効率が緩慢になるという性質に基づいている。
【0031】
過酸化水素水注入濃度を所定範囲で段階的に上げて行ったときの、各注入濃度におけるCOD濃度および重金属濃度をそれぞれ測定し、酸化分解の効率が緩慢となると判断される過酸化水素水注入濃度の範囲における下限が過酸化水素水注入濃度7[%]である。換言すれば、酸化分解の効率が相対的に良いと判断される過酸化水素水注入濃度の範囲において上限となる過酸化水素水注入濃度7[%]が選択されて、該過酸化水素水注入濃度7[%]に基づき過酸化水素水の注入量が決定されることになる。なお、過酸化水素水の注入量を決定するための閾値1000[mg/l]は、過酸化水素水注入濃度が6[%]のときの鉄濃度1000[mg/l]から過酸化水素水注入濃度が7[%]のときの鉄濃度730[mg/l]までの範囲内で選択設定された値である。
【0032】
相対的に高濃度の重金属を含む廃液の場合、過酸化水素水注入濃度を所定範囲で段階的に上げて行ったときのCOD濃度および重金属濃度の推移は、図3(a)と同様になると推察される。したがって、ボイラの化学洗浄廃液以外の廃液であっても、酸化分解の効率が緩慢となると判断される過酸化水素水注入濃度の範囲において下限となる過酸化水素水注入濃度を実験結果から求め、過酸化水素水の注入量を決定するための重金属濃度閾値を設定するようにすれば良い。
【0033】
このように、過酸化水素水注入濃度を酸化分解の効率が良い範囲に止めることにより、過酸化水素水注入の後に行われるpH調整剤注入におけるpH調整剤(苛性ソーダ)の注入量を無駄に増やすことなく適正なものとすることができ、全体として薬剤に要するコストを抑制することができる。
【0034】
また、上記実験データと共に、ボイラの化学洗浄廃液に含まれる金属類の濃度データを蓄積していくことにより、化学洗浄廃液を受け入れる際に、該受入化学洗浄廃液が過去に処理した化学洗浄廃液と類似しているか否かの判断が可能となる。受入化学洗浄廃液が過去に処理した化学洗浄廃液と類似している場合には、類似した過去の化学洗浄廃液についての実験データを用いて過酸化水素水の注入量を決定するようにしても良い。この場合、分析手段による予備実験を行わずとも、過去のデータに基づく過酸化水素水の注入量の決定のみで、過酸化水素水注入を実施することが可能となる。
【0035】
次に、ステップS2では、過酸化水素水注入手段12により貯槽2に過酸化水素水が注入される。すなわち、過酸化水素水注入手段12では、化学洗浄廃液に、該化学洗浄廃液の重金属濃度に応じた量の過酸化水素水を注入して酸化させる。実施例の化学洗浄廃液では、上述した通り、過酸化水素水注入濃度を7[%]として、貯槽2の900[m]の化学洗浄廃液に対して、60[トン]の35%過酸化水素水を注入した。
【0036】
具体的には、タンクローリ車により過酸化水素水を貯槽2に圧送した。なお、注入方法としては、貯槽2内で過酸化水素水の出口部を分岐させ、過酸化水素水を貯槽2内で分散させるようにするのが望ましい。また特に、過酸化水素水の吹き込み流速を大きくし、貯槽内に循環流が形成するように供給すればさらに好ましい。なお、貯槽2内を均一に撹拌する方法は、特に限定されないが、常法である撹拌機による撹拌、或いはケミカルポンプなどによる液循環などを行っても良い。
【0037】
実施例では、過酸化水素水の注入より、液色が橙色に変化し、重金属類と過酸化水素水とが激しく反応し、酸素ガスが発生すると共に液温が上昇した。沈降状況は、注入直後から時間が経過した後も沈殿分離状況は悪く、化学洗浄廃液の上澄み液が透明にならなかった。
【0038】
次に、ステップS4では、pH調整剤注入手段13により貯槽2にpH調整剤が注入される。すなわち、pH調整剤注入手段13では、過酸化水素水が注入された廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整する。
【0039】
ここで、pH調整値を決定するために、予め行った予備実験について説明する。予備実験では、過酸化水素水を注入した化学洗浄廃液のサンプルについて、pH調整剤として苛性ソーダを注入して、pH7.0、pH8.0、pH8.5およびpH9.0の4通りに調整し、それぞれのCOD濃度および鉄濃度を測定した。予備実験の結果を図3(b)に示す。
【0040】
上澄み液の鉄濃度については、pH7.0調整時に580[mg/l]であったものが、pH8.0に調整することによって12[mg/l]となり、約98[%]低下させることができた。また、pH8.5以上への調整によって1.3[mg/l]となり、約99[%]低下させることができた。また、COD濃度については、pH7.0調整時に420[mg/l]であったものが、pH9.0への調整によって340[mg/l]となり、約20[%]低下させることができた。
【0041】
なお、pH8.0以上への調整によって上澄み液の液色が橙色から透明に変化した。過酸化水素水を注入していない化学洗浄廃液のサンプルについて、pH8.0への調整を行ったが、沈降分離は見られず、上澄み液の液色も透明にはならなかった。このことから、pH調整は、過酸化水素水注入前に行っても効果はなく、過酸化水素水注入後に行う必要があることが確認できた。
【0042】
実施例の化学洗浄廃液については、貯槽2の900[m]の化学洗浄廃液に対して、調整pH値をpH8.5として、1.12[トン]の48%苛性ソーダを注入した。具体的には、タンクローリ車により苛性ソーダを貯槽2に圧送した。なお、注入方法については過酸化水素水注入と同様である。実施例では、苛性ソーダの注入により、予備実験結果とは異なり最終的な液色に変化は見られず、また、鉄の析出物が浮遊した状態で、時間が経過した後も、化学洗浄廃液の上澄み液が透明にならなかった。
【0043】
次に、ステップS5では、凝集剤注入手段14により貯槽2に凝集剤が注入される。すなわち凝集剤注入手段14では、pH調整後の廃液に凝集剤を注入して、化学洗浄廃液の重金属を凝集沈殿させる。
【0044】
ここで、注入する凝集剤の濃度を決定するために、予め行った予備実験について説明する。予備実験では、pH調整後の化学洗浄廃液のサンプルについて、凝集剤としてPAC(ポリ塩化アルミニウム;Poly Aluminum Chloride)を使用し、720[mg/l]、960[mg/l]、1200[mg/l]および1440[mg/l]の4通りの濃度のPACを注入し、経過観察を行った。
【0045】
PAC注入濃度を720[mg/l]および960[mg/l]としたものについては、凝集沈殿の効果は不十分であった。また、PAC注入濃度を1200[mg/l]および1440[mg/l]としたものについては凝集沈殿の効果があり、PAC注入濃度を1200[mg/l]以上とすることにより、凝集沈殿させることができることを確認できた。
【0046】
実施例の化学洗浄廃液については、貯槽2の900[m]の化学洗浄廃液に対して、凝集剤としてPACを使用し、14[トン]のPACを注入した。具体的には、タンクローリ車によりPACを貯槽2に圧送した。なお、注入方法については過酸化水素水注入と同様である。実施例では、PACの注入により、貯槽2内で表層部から貯槽底部までの高さが3[m]の化学洗浄廃液について、表層部から1.5[m]下までの上澄み液が透明になった。
【0047】
次に、ステップS6では、貯槽2内の水中ポンプ22により、化学洗浄廃液の上澄み液を配管23を介して脱硫貯留槽3へ移送する。実施例では、水中ポンプ22を、化学洗浄廃液の表層部から徐々に沈めていき、貯槽底部の重金属の沈殿物を吸い上げないよう留意した。
【0048】
その後、脱硫貯留槽3内の廃液は、水中ポンプ24により、その上澄み液が配管23を介して湿式排煙脱硫装置4のろ過水槽(図示せず)へ移送されることになる。すなわち、化学洗浄廃液の重金属を沈降分離した後の上澄み廃液は、湿式排煙脱硫装置4の補給水として利用され、最終的に廃液を湿式排煙脱硫装置4の脱硫排水の一部として、湿式排煙脱硫装置4の脱硫排水を処理する排水処理装置送られて処理されることとなる。
【0049】
湿式排煙脱硫装置4は、例えば、石灰石石膏法により、石炭又は重油などの燃料排ガスを処理する装置である。湿式排煙脱硫装置4の具体的な構成や処理については、特許文献2を参照されたい。この実施の形態においても特許文献2に記載の湿式排煙脱硫装置と同等の構成を備え、同等の処理が行われる。
【0050】
ここでは、脱硫排水の処理について簡単に説明しておく。すなわち、凝集沈殿工程でポリ塩化アルミニウム、水酸化ナトリウムなど添加し、排水中のSS分、重金属を除去する。また、硝化窒化工程で、亜硝酸菌、硝酸菌、脱窒菌を利用して排水に含まれるアンモニウムイオンを無害化させる。また、砂ろ過工程で、アンスライサト等の粒子層を通過させることで、液中に懸濁するSS分を除去する。さらに、活性炭吸着工程で、有機物を吸着除去する。
【0051】
また、湿式排煙脱硫装置4のろ過水槽へ投入する洗浄廃液に油分とリンが含まれている場合は、湿式排煙脱硫装置内で発泡が生じる、或いは材料が腐食するなどの悪影響を及ぼすことから、これら成分を含む廃液を補給水とすることはできない。したがって、補給水に利用しようとする廃液であって、油分及びリンが含まれている廃液またはこれら成分が含まれていると予想される廃液の場合などでは、油分、リンの除去操作を行った後に、湿式排煙脱硫装置4のろ過水槽に投入する必要がある。
【0052】
また、ステップS6の水中ポンプ22による上澄み液の移送後に、貯槽2内の底部に残存する汚泥は、産業廃棄物処理装置5に送られて、産業廃棄物として処理される。
【0053】
以上説明したように、この実施の形態の廃液処理方法及び廃液処理システムでは、過酸化水素水注入手段12により、ボイラの化学洗浄廃液に、該化学洗浄廃液の重金属濃度に応じた量の過酸化水素水を注入するので、化学洗浄廃液の重金属濃度が高い場合でも充分に酸化せしめることができ、化学洗浄廃液中の重金属が酸化分解されて上澄み液中の重金属濃度を一定水準まで低減させることができると共に、COD成分も酸化分解されてCOD濃度を一定水準まで低減させることができる。
【0054】
また、pH調整剤注入手段13により、該過酸化水素水が注入された化学洗浄廃液にpH調整剤を注入して、該廃液をアルカリ性側にpH調整し、化学洗浄廃液中で重金属の水酸化物フロックを形成して沈降分離するので、上澄み液中の重金属濃度をさらに低減させることができると共に、COD濃度も低減させることができる。
【0055】
また、凝集剤注入手段14により、pH調整後の廃液に凝集剤を注入するので、化学洗浄廃液の重金属の凝集沈殿が加速され、完全な重金属の凝集沈殿による汚泥の凝集分離が可能となる。
【0056】
さらに、処理後の上澄み廃液は湿式排煙脱硫装置4に送られ、該湿式排煙脱硫装置4の補給水として利用され、最終的には脱硫排水の一部として、湿式排煙脱硫装置4の脱硫排水を処理する排水処理装置6で処理される。湿式排煙脱硫装置内の液中のCOD濃度は高く、また湿式排煙脱硫装置の保有液量も大きいため、廃液を投入しても湿式排煙脱硫プロセスに殆ど影響を及ぼすことはない。
【0057】
このように、ボイラの化学洗浄廃液の重金属濃度が高い場合であっても、大量の廃水等を用いて希釈する希釈工程を経ることなく。過酸化水素水注入工程とpH調整剤注入工程のみで、しかも別途貯槽を用意することなく、上澄み液の重金属濃度およびCOD濃度を低減できるので、コスト増を抑制しつつ廃液処理を行うことができる。
【0058】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、実施の形態で例示した実施例では、ステップS4のpH調整剤注入手段13によるpH調整を行った段階で、重金属を凝集分離させることができなかったことから、ステップS5の凝集剤注入手段14による凝集剤注入に移行することとしたが、pH調整を行った段階で重金属を凝集分離させることができた場合には、ステップS5の凝集剤注入手段14による凝集剤注入は不要であり、そのままステップS6の上澄み液の移送に移行すれば良い。この場合、凝集剤の薬剤コスト分だけコストを抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 廃液処理システム
2 貯槽
3 脱硫貯留槽
4 湿式排煙脱硫装置
5 産業廃棄物処理装置
6 排水処理装置
11 分析手段
12 水素水注入手段
13 pH調整剤注入手段
14 凝集剤注入手段
21,23,25 配管
22,24 水中ポンプ
図1
図2
図3