(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転する断面円形の弾性体の軸方向に対して傾斜する方向に沿って刃を振動させながら前記弾性体の外周面から前記弾性体の内部に挿入して前記弾性体の角部を切除する切除工程において、
表面にアモルファスカーボン構造を有する前記刃で、かつ、前記刃の厚さ方向から見た刃先の角度が15〔°〕以上25〔°〕以下の前記刃が用いられるゴムロールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係るゴムロールの端部加工装置、及びゴムロールの製造方法の一例を
図1〜
図9に従って説明する。なお、図中に示す矢印Hは装置上下方向(鉛直方向)を示し、矢印Wは装置幅方向(水平方向)を示す。
【0015】
ゴムロールの端部加工装置10(以下「端部加工装置10」)は、円筒状(断面円形)の弾性体の一例としてのゴムロール体150の角部150Bを切除する装置である(
図1参照)。そして、ゴムロール体150の角部150Bが切除されることで、角部が面取りされたゴムロール部120が形成される(
図6参照)。
【0016】
図6に示されるように、角部が面取りされたゴムロール部120と、ゴムロール部120を貫通する金属製の軸部材(シャフト)110とを含んで、ゴムロール100が構成されている。このゴムロール100は、例えば、電子写真方式の画像形成装置の感光体ドラムと接触して従動回転しながら感光体ドラムを帯電させる帯電ロールとして用いられる。感光体ドラムの帯電ばらつきを抑制するため、ゴムロール部120の軸方向の角部がハネ上がるため、ゴムロール部120に軸方向の角部が面取りされ、面取り部120Bが形成される。
【0017】
また、ゴムロール部120において面取りされた面取り部120Bの少なくとも一部を含む外周面120Cには、フローコート法により導電性被膜154(
図6、
図7参照)が施されている(形成されている)。
【0018】
本実施形態では、一例として、軸部材110の軸径は8〔mm〕とされ、軸部材110の全長は355〔mm〕とされている。さらに、ゴムロール部120の外径は12〔mm〕とされ、ゴムロール部120の全長は320〔mm〕とされている。また、ゴムロール部120には、一例として、エピクロルヒドリンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムが用いられる。
【0019】
また、導電性被膜154は、一例として、平均膜厚10〔μm〕とされ、導電性被膜154として、高分子材料に導電剤を分散した樹脂が用いられている。
【0020】
なお、以下の説明では、ゴムロール部120と軸部材110とを含んで構成されるゴムロール100と区別するため、面取りされていないゴムロール体150と軸部材110とを含んで構成される部材をプレゴムロール160と称する。
【0021】
(装置全体構成)
端部加工装置10は、
図1に示されるように、プレゴムロール160を回転させる回転部材の一例としての回転装置20と、ゴムロール体150の角部150Bを切除する刃36を有する切除装置30とを備えている。さらに、端部加工装置10は、ゴムロール体150の端面150Aを支持する支持パッド46と、ゴムロール体150の軸方向の端部側の部分に空気を吹き付ける吹付部材38とを備えている。
【0022】
〔回転装置〕
回転装置20は、プレゴムロール160の軸部材110の両端部を支持するようになっている。この構成において、回転装置20は、プレゴムロール160(ゴムロール体150)をゴムロール体150の周方向に回転させるようになっている(
図1の矢印E参照)。なお、本実施形態では、回転装置20は、プレゴムロール160を50〔rpm〕の回転速度で回転させるようになっている。
【0023】
〔切除装置〕
切除装置30は、刃36を有するカッタ32と、超音波でカッタ32を加振する加振部(図示省略)及びカッタ32を移動させる移動部(図示省略)を有する駆動部34とを備えている。
【0024】
カッタ32は、一例としてヤング率が1000〔Gpa〕の炭素鋼で形成され、装置奥行方向から見て、プレゴムロール160の回転軸方向に対して傾斜するように配置されている。また、カッタ32の刃36の刃先36Aは、ゴムロール体150の外周面150Cと対向している。このカッタ32の基端側の厚さは、1〔mm〕とされ、カッタ32の刃36は、刃36の厚さ方向から見て、
図5に示されるように、幅方向の寸法が徐々に小さくなる先細り形状とされている。
【0025】
また、カッタ32の表面には、蒸着によって表面にアモルファスカーボン構造(Tetrahedral Amorphous Carbon:テトラヘドラル アモルファス カーボン)が形成されている。本実施形態では、アモルファスカーボン構造のアモルファス度(非晶質の度合)は、60〔%〕以上とされている。なお、アモルファス度については、X線回折法を用いて測定することができる。
【0026】
駆動部34は、
図1に示されるように、カッタ32を支持する支持部34Aを有し、カッタ32を退避位置と、切除位置とに移動させるようになっている。カッタ32の退避位置は、カッタ32の刃先36Aがゴムロール体150の外周面150Cからプレゴムロール160の回転軸方向に対して傾斜する方向に離間して外周面150Cと対向する位置である(
図1、
図2(A)参照)。一方、カッタ32の切除位置は、カッタ32の刃先36Aが、プレゴムロール160の回転軸方向に対して傾斜する方向からゴムロール体150の内部に外周面150Cから挿入され、刃先36Aがゴムロール体150の内部から端面150Aを貫通する位置である(
図3(B)参照)。
【0027】
このように、駆動部34は、カッタ32を、装置奥行方向から見てプレゴムロール160の回転軸方向に対して傾斜する方向に移動させるようになっている。なお、本実施形態では、駆動部34は、カッタ32を0.3〔mm/sec〕の速度で移動させるようになっている。
【0028】
さらに、駆動部34は、支持部34Aを介して超音波振動をカッタ32に伝達するようになっている。そして、カッタ32は、振幅が15〔μm〕以上30〔μm〕以下、周波数が40〔KHz〕でカッタ32の移動方向に振動するようになっている。
【0029】
この構成において、駆動部34は、カッタ32の移動方向にカッタ32を振動させながらカッタ32をゴムロール体150の外周面150Cからゴムロール体150の内部に挿入するようになっている。そして、カッタ32の刃36は、ゴムロール体150の角部150Bを切除し、面取り部120Bを有するゴムロール部120が形成されるようになっている。
【0030】
なお、本実施形態では、面取り部120Bの面取り長さ(
図2(A)の長さL)は、2〔mm〕とされている。さらに、プレゴムロール160の回転軸方向に対するカッタ32の傾斜角度(
図2(A)の角度G)は、20〔°〕とされている。
【0031】
〔支持パッド〕
支持パッド46は、軸部材110が貫通する貫通孔が形成された円環状であって、
図1に示されるように、ゴムロール体150の角部150Bを挟んでカッタ32の刃先36Aと対向するように配置されている。そして、支持パッド46は、示せぬ固定部材を用いて軸部材110に固定されている。また、本実施形態では、支持パッド46は、ウレタンで形成されている。
【0032】
この構成において、支持パッド46は、後述する回転工程において、プレゴムロール160と一緒に回転するようになっている。また、支持パッド46は、後述する切除工程において、ゴムロール体150の端面150Aを支持するようになっている(
図3(A)(B)参照)。具体的には、支持パッド46は、切除工程においてゴムロール体150の変形した部分の端面150Aの一部を支持するようになっている。
【0033】
なお、カッタ32が退避位置に配置されている場合には、支持パッド46とゴムロール体150の端面150Aとのクリアランスは、0.5〔mm〕とされている。
【0034】
〔吹付部材〕
吹付部材38は、
図1に示されるように、退避位置に配置されているカッタ32の刃先36Aに対して上方側に配置され、ゴムロール体150の角部150Bに向けて空気を吹き付けるようになっている。これにより、吹付部材38は、刃36によってゴムロール体150の角部150Bが切除された場合に生じる削りカスを吹き飛ばすようになっている。
【0035】
(その他)
次に、ゴムロール体150の角部150Bが切除されて形成されたゴムロール部120に導電性被膜154を施す塗布装置50について説明する。塗布装置50は、所謂フローコート法によってゴムロール部120に導電性被膜154を施す装置であって、
図7に示されるように、軸部材110の両端部を支持してゴムロール部120を回転させる回転部材52を備えている。さらに、塗布装置50は、ゴムロール部120の上方側に配置されると共に、軸部材110の軸方向に移動可能とされる吐出部54を備えている。この吐出部54が、塗布液をゴムロール部120に向けて吐出しながら軸部材110の軸方向に移動することで、ゴムロール部120に導電性被膜154が施されるようになっている。この導電性被膜154は、トナー中の外添剤等によってゴムロール部120が汚染されるのを防止するようになっている。
【0036】
(作用)
次に、端部加工装置10等を用いて、ゴムロール100を製造する製造方法について説明する。
【0037】
〔プレゴムロールの製造工程〕
プレゴムロール160の製造工程では、押出成形によって軸部材110の周りに円筒状のゴム部材を形成させ、ゴム部材の両端側の部分を切除して軸部材110において両端側の部分を外部に露出させる。これにより、軸部材110とゴムロール体150とを含んで構成されるプレゴムロール160が製造される。ここで、ゴム部材の両端側の部分を切除すると、ゴム部材の内部の残留応力が解放され、ゴムロール体150の両端部がハネ上がってしまう。
【0038】
〔準備工程〕
準備工程では、支持パッド46が、
図1に示されるように、装置幅方向の一方側(
図1の右側)に露出した部分の軸部材110に取り付けられる。さらに、回転装置20が、プレゴムロール160の軸部材110の両端部を支持する。なお、カッタ32については、退避位置に配置されている。
【0039】
この状態で、退避位置に配置されているカッタ32は、装置奥行方向から見て、プレゴムロール160の回転軸方向に対して傾斜しており、カッタ32の刃先36Aがゴムロール体150の外周面150Cと対向している。また、支持パッド46は、ゴムロール体150の角部150Bを挟んでカッタ32の刃先36Aと対向している。
【0040】
〔回転工程〕
回転工程では、回転装置20が、
図1、
図2(B)に示されるように、プレゴムロール160をゴムロール体150の周方向に回転させる(図中の矢印E参照)。
【0041】
〔切除工程〕
切除工程では、吹付部材38が、ゴムロール体150の角部150Bに向けて空気を吹き付ける。さらに、駆動部34が、
図2(B)、
図3(A)に示されるように、退避位置に配置されているカッタ32を振動させながら切除位置へ移動させる。これにより、カッタ32の刃先36Aが、回転しているゴムロール体150の外周面150Cからゴムロール体150の内部に挿入される。ゴムロール体150において刃先36Aが挿入された部分が変形して、ゴムロール体150の端面150Aの一部が、支持パッド46に接触して支持される。換言すれば、支持パッド46が、ゴムロール体150の端面150Aの一部を支持し、ゴムロール体150の変形を抑制する。
【0042】
さらに、カッタ32の刃先36Aが、
図3(A)(B)に示されるように、ゴムロール体150の端面150Aを貫通して、カッタ32が切除位置に移動する。カッタ32が切除位置に移動すると、駆動部34がカッタ32の移動を停止する。その後、回転装置20が、ゴムロール体150を一回以上回転させてからゴムロール体150の回転を停止する。
【0043】
ゴムロール体150の回転が停止した後、駆動部34が、
図3(B)、
図4(A)に示されるように、切除位置に配置されているカッタ32の振動を停止させ、カッタ32を退避位置に移動する。
【0044】
さらに、回転装置20が、プレゴムロール160の軸部材110の両端部を解放し、
図4(A)(B)に示されるように、支持パッド46が軸部材110から取り外される。
【0045】
以上より、ゴムロール体150において装置幅方向の一方側の角部150Bが切除され、ゴムロール体150の一方の端部に面取り処理が施される。さらに、プレゴムロール160を反転させて、前述した工程を繰り返すことで、ゴムロール体150において装置幅方向の他方側の角部150Bが切除される。これにより、面取り部120Bを有するゴムロール部120が形成される。
【0046】
〔塗布工程〕
塗布工程では、
図7に示されるように、回転部材52が軸部材110の両端部を支持し、ゴムロール部120を回転させる。さらに、吐出部54が塗布液をゴムロール部120に向けて吐出しながら軸部材110の軸方向に移動することで、ゴムロール部120に導電性被膜154が施される。
【0047】
これにより、
図6に示されるように、一方の面取り部120Bの一部から他方の面取り部120Bの一部まで導電性被膜154が施されたゴムロール100が製造される。
【0048】
(評価)
次に、実施例に係る端部加工装置10を用いて製造されたゴムロール100と、比較例に係る端部加工装置を用いて製造されたゴムロールとを評価した評価結果について説明する。
【0049】
〔仕様〕
ゴムロールを製造するのに用いた端部加工装置の刃について、アモルファスカーボン構造の有無、及び刃先の角度(
図5の角度D:以下「刃先角度」)を下記に記載する。下記に記載する仕様以外については、実施例に係る端部加工装置10と比較例に係る端部加工装置とでは同様である。
【0050】
実施例1:アモルファスカーボン構造有り、刃先角度15〔°〕
実施例2:アモルファスカーボン構造有り、刃先角度20〔°〕
実施例3:アモルファスカーボン構造有り、刃先角度25〔°〕
実施例4:アモルファスカーボン構造有り、刃先角度10〔°〕
実施例5:アモルファスカーボン構造有り、刃先角度30〔°〕
比較例1:アモルファスカーボン構造無し、刃先角度20〔°〕
比較例2:アモルファスカーボン構造無し、刃先角度30〔°〕
比較例3:アモルファスカーボン構造無し、刃先角度10〔°〕
【0051】
〔評価項目〕
1.バリ高さ評価
各実施例及び各比較例の端部加工装置を用いて製造されたゴムロール100において、ゴムロール部120の外周面120Cと面取り部120Bとの稜線に生じたバリの高さ(
図8に示す寸法H1)を測定した。また、バリの高さについては、バリの高さを全周に亘って光学顕微鏡を用いて測定し、最も高い部分をバリの高さとした。なお、バリとは、膜状の突出部である。
【0052】
なお、バリの高さが高い程、バリの部分に施される導電性被膜154の厚さが薄くなり、導電性被膜154が剥離してしまう可能性が高くなる。
【0053】
2.耐久性評価
富士ゼロックス社製の画像形成装置(DocuCentre Color a450)に各実施例及び各比較例の端部加工装置を用いて製造されたゴムロール100を装着し、この画像形成装置を用いてA3サイズのシート部材に画像を形成させた。
【0054】
具体的には、低温低湿(室温10〔°〕、湿度20%RH)の環境下にてA3サイズのシート部材3万枚に画像密度5〔%〕の画像を形成した。この後、高温高湿(28〔°〕、75%RH)の環境下にてA3サイズのシート部材3万枚に画像密度5〔%〕の画像を形成した。
【0055】
合計6万枚のシート部材に画像を形成した後、導電性被膜154のシワ、剥がれを目視にて評価した。
【0056】
〔評価基準〕
1.バリ高さ評価
A:高さが10μm未満 ⇒導電性被膜154の厚さが薄くならない。実用上、問題のないレベル
B:高さが10μm以上30μm未満 ⇒導電性被膜154の厚さが他の部位と比して薄くなるが、導電性被膜154の剥がれ等の虞が少ない。実用上、許容可能なレベル
C:高さが30μm以上 ⇒導電性被膜154の厚さが他の部位と比して薄くなり、導電性被膜154の剥がれ等の虞がある。実用上、問題となるレベル
2.耐久性評価
A:表面にシワ、剥がれの発生なし ⇒ 実用上、問題のないレベル
B:一部分に軽微なシワ、剥がれ発生 ⇒ 実用上、許容可能なレベル
C:表面にシワ、剥がれ発生 ⇒ 実用上、問題となるレベル
【0057】
〔評価結果〕
図9には、バリ高さ評価、及び耐久性評価の評価結果が表で示されている。
図9の表に示されるように、実施例1〜3については、両方の評価が「A」であった。また、実施例4〜5については、バリ高さ評価が「B」で、耐久性評価が「A」であった。
【0058】
これに対して、比較例1〜3については、少なくとも一方の評価が「C」であった。
【0059】
〔考察〕
表面にアモルファスカーボン構造を有する刃36を用いることで、表面にアモルファスカーボン構造を有しない刃を用いる場合と比して、刃とゴム材との間で生じる摩擦抵抗が低減する。このため、各実施例に係る刃36を用いることで、バリ高さが低くなったものと考えられる。
【0060】
(まとめ)
前述した評価結果から分かるように、表面にアモルファスカーボン構造を有する刃36を用いることで、アモルファスカーボン構造を有しない刃を用いて面取りを行う場合と比して、面取りされた部分に発生するバリの高さが低くなる。
【0061】
また、実施例1〜3と、実施例4、5を比較して分かるように、刃先36Aの角度を15〔°〕以上25〔°〕以下とすることで、面取りされた部分に発生するバリの高さがさらに低くなる。
【0062】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、端部加工装置10を用いて帯電ロールを製造したが、転写ロール、搬送ロール等の他のロールを製造してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、フローコート法により導電性被膜154をゴムロール部120に施したが、他の工法により、導電性被膜154をゴムロール部120に施してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、刃36の振動方向と刃36の移動方向とが同様であったが、異なっていてもよい。