(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置として、400V、600V、1200V、1700V、3300Vの耐圧またはそれ以上の耐圧を有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)やダイオード(Diode)等が公知である。これらの電力用半導体装置はコンバータやインバータなどの電力変換装置に用いられている。
【0003】
この電力用半導体装置の製造方法として、次の方法が公知である。まず、半導体基板のおもて面におもて面素子構造を形成する。次に、半導体基板の裏面を研削等により除去し、半導体基板を薄板化する。次に、半導体基板の研削された裏面に不純物イオンをイオン注入する。そして、熱処理によって、半導体基板の裏面に注入された不純物を活性化して裏面素子構造を形成する。また、このような方法において、半導体基板にプロトンを照射し、熱処理をすることで、照射(注入)された水素原子と、その周辺の空孔等による複合欠陥がドナーとなる水素誘起ドナー(あるいは単に水素ドナー)を利用して半導体基板の内部に高濃度のn
+層を形成する方法が種々提案されている。
【0004】
熱処理によるプロトンの活性化現象を利用した半導体装置の製造方法について、トレンチゲート型IGBTを例に説明する。
図26〜31は、従来の製造途中の半導体装置を示す断面図である。
図32は、
図31に続く工程後の半導体装置を示す断面図である。まず、
図26に示すようにn
-ドリフト層101となるn
-型の半導体基板を用意する。次に、
図27に示すように、半導体基板のおもて面にpベース領域102、n
+エミッタ領域103、トレンチ104、ゲート酸化膜105およびゲート電極106からなるトレンチゲート型のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を形成する。符号108は層間絶縁膜である。
【0005】
次に、
図28に示すように、pベース領域102およびn
+エミッタ領域103に接するエミッタ電極107を形成する。次に、半導体基板の裏面を研削等により除去し、半導体基板を薄板化する。次に、半導体基板の研削された裏面にプロトン(H
+)121を照射する。
図28において、半導体基板の裏面近傍の×印は、照射されたプロトンをあらわしている(以下、
図7,11,18,22,48,50,52においても同様)。次に、
図29に示すように、アニールによって、半導体基板に照射されたプロトン121を活性化し、n
-ドリフト層101の内部の裏面付近にnフィールドストップ(FS:Field Stop)層110を形成する。
【0006】
次に、
図30に示すように、半導体基板の裏面のnフィールドストップ層110よりも浅い領域にボロンイオン(B
+)122をイオン注入する。
図30において、半導体基板の裏面近傍の点線は、イオン注入された不純物をあらわしている(以下、
図5,9,16,20,37,53においても同様。)。次に、
図31に示すように、アニールによって、半導体基板に注入されたボロンイオン122を活性化し、半導体基板の内部の裏面側の表面層にp
+コレクタ層109を形成する。その後、
図32に示すように、p
+コレクタ層109に接するコレクタ電極111を形成することにより、トレンチゲート型IGBTが完成する。
【0007】
また、熱処理によるプロトンの活性化現象を利用した半導体装置の製造方法について、ダイオードを例に説明する。
図33〜38は、従来の製造途中の半導体装置の別の一例を示す断面図である。
図39は、
図38に続く工程後の半導体装置を示す断面図である。まず、
図33に示すように、n
-型の半導体基板131を用意する。次に、
図34に示すように、半導体基板131のおもて面に、pアノード領域132を形成する。符号134は層間絶縁膜である。
【0008】
次に、
図35に示すように、半導体基板131のおもて面に、pアノード領域132に接するアノード電極133を形成する。次に、
図35,36に示すように、上記IGBTの製造方法と同様に、半導体基板131の裏面を研削した後、プロトン照射およびアニールによって、半導体基板131の内部の裏面付近にnフィールドストップ層136を形成する。次に、
図37に示すように、半導体基板131の裏面のnフィールドストップ層136よりも浅い領域にリンイオン(P
+)123をイオン注入する。
【0009】
次に、
図38に示すように、アニールによって、半導体基板131に注入されたリンイオン123を活性化し、半導体基板131の内部の裏面側の表面層にn
+カソード層135を形成する。その後、
図39に示すように、n
+カソード層135に接するカソード電極137を形成することにより、ダイオードが完成する。すなわち、IGBTおよびダイオードのいずれの製造方法においても、nフィールドストップ層を形成するためのプロトン照射およびアニールを行った後に、半導体基板の裏面側の表層面に裏面素子構造を形成するためのイオン注入およびアニールを行っている。
【0010】
このような半導体装置の製造方法として、半導体基板にプロトンを照射し熱処理によって高濃度のn
+バッファ層(フィールドストップ層)を形成した後に、リン(P)などのp型不純物を注入してp
-コレクタ領域を形成する方法が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、意図的にリンや砒素(As)などのp型不純物のドーズ量を少なくし、高濃度なコレクタ領域を形成するために最適なアニール温度よりも低いアニール温度でアニールを行い、p
-コレクタ領域を形成している。
【0011】
また、下記特許文献2には、半導体基板の裏面からプロトンを複数回照射することにより、水素ドナーからなるフィールドストップ層を複数形成し、特に基板裏面から最も深いフィールドストップ層の基板裏面からの深さが15μmであるIGBTの構造が記載されている。基板裏面から深さ15μmまでの間に複数のフィールドストップ層を形成し、特に基板裏面に近い程フィールドストップ層の不純物濃度を1×10
16/cm
3程度に高濃度とすることで、確実に空乏層の伸びをフィールドストップ層で止めて、空乏層がpコレクタ層に達することを防ぐことができる。
【0012】
また、下記特許文献3には、IGBTの製造方法として、次の方法が提案されている。半導体基板のおもて面側にMOSゲート構造を形成したのち、基板裏面の研削等により半導体基板を薄板化する。続いて、半導体基板の研削面(裏面)からプロトンを照射し、その後アニール処理によりフィールドストップ層を形成する。続いて、半導体基板の裏面にボロンをイオン注入しレーザーアニールを行ってp型コレクタ層を形成している。
【0013】
また、下記特許文献4には、IGBTの製造方法として、次の方法が提案されている。半導体基板のおもて面側にMOSゲート構造を形成したのち、基板裏面の研削等により半導体基板を薄板化する。続いて、半導体基板の研削面(裏面)からプロトンを照射する。その後、プロトン照射面(基板裏面)にパルスレーザーと半導体連続波レーザーとの2波長のレーザー光によるアニール処理を行い、プロトン照射面から約15μm程度までの深さにフィールドストップ層を形成している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0031】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法により作製(製造)される半導体装置の一例としてトレンチゲート型IGBTの構造について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す断面図である。
図1の紙面左側には、エミッタ電極(第1主電極)7とn
++エミッタ領域3との境界から半導体基板の深さ方向における不純物濃度分布を示す。
図1に示す実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置において、n
-ドリフト層1となる半導体基板の内部には、おもて面側の表面層にpベース領域2が設けられている。
【0032】
pベース領域2の内部には、半導体基板のおもて面に露出するようにn
++エミッタ領域3が選択的に設けられている。n
++エミッタ領域3の不純物濃度は、n
-ドリフト層1の不純物濃度よりも高い。n
++エミッタ領域3およびpベース領域2を貫通しn
-ドリフト層1に達するトレンチ4が設けられている。トレンチ4の側壁および底面に沿って、ゲート絶縁膜5が設けられている。トレンチ4の内部には、ゲート絶縁膜5の内側に、トレンチ4に埋め込まれるようにゲート電極6が設けられている。これらが、MOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造となる。
【0033】
エミッタ電極7は、pベース領域2およびn
++エミッタ領域3に接する。また、エミッタ電極7は、層間絶縁膜8によってゲート電極6と電気的に絶縁されている。また、n
-ドリフト層1となる半導体基板の内部には、裏面側の表面層にp
+コレクタ層(第1半導体層)9が設けられ、裏面側のp
+コレクタ層9よりも深い領域にn
+フィールドストップ(第2半導体層)層10が設けられている。コレクタ電極(出力電極)11は、p
+コレクタ層9に接する。p
+コレクタ層9の不純物濃度は、コレクタ電極11とのオーミックコンタクトが得られる程度に高い。
【0034】
n
+フィールドストップ(FS)層10は、p
+コレクタ層9とほぼ平行となるように、半導体基板の深さ方向に直交する方向に延在する。また、n
+フィールドストップ(FS)層10は一様な厚さで設けられている。n
+フィールドストップ層10は、p
+コレクタ層9から離れていてもよいし、p
+コレクタ層9に接していてもよい。n
+フィールドストップ層10の不純物濃度は、n
-ドリフト層1の不純物濃度よりも高い。n
+フィールドストップ層10は、プロトン照射による水素誘起ドナーが導入された半導体層である。この半導体層を形成する水素誘起ドナーは複合欠陥であることから、キャリアの再結合を促す機能を有することもある。
【0035】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法の概要について説明する。
図2は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。まず、
図2に示すように、半導体基板のおもて面に、前述の各半導体領域(pベース領域2、n
++エミッタ領域3など)およびMOSゲート構造、層間絶縁膜8などを形成する(ステップS1)。次に、半導体基板のおもて面におもて面電極を形成する(ステップS2)。次に、半導体基板のおもて面に表面保護膜を形成する(ステップS3)。次に、半導体基板の裏面を研削またはエッチングなどにより除去し、半導体基板の厚さを一様に薄く(薄板化)する(ステップS4)。
【0036】
次に、薄板化された半導体基板の裏面に、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層を形成するための不純物イオンをイオン注入する(ステップS5)。ステップS5のイオン注入は、後の工程で形成される裏面電極とのオーミックコンタクトが得られる程度に高いドーズ量で行う。次に、第1アニールによって、ステップS5で注入された不純物イオンを活性化する(ステップS6)。ステップS6により、半導体基板の内部の裏面側の表面層に、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層(例えば、コレクタ層)が形成される。
【0037】
次に、半導体基板の裏面に、フィールドストップ層を形成するためのプロトン照射を行う(ステップS7)。ステップS7のプロトン照射は、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層よりも深い領域に照射可能な程度の照射エネルギーで行う。次に、第2アニールによって、ステップS7で照射されたプロトンを活性化(ドナー化)する(ステップS8)。これにより、半導体基板の内部の裏面側の深い領域に、フィールドストップ層が形成される。ステップS8の第2アニールの温度は、例えばプロトン照射により形成された格子欠陥を減少させない程度の温度であることが好ましい。その後、例えばスパッタリングなどの物理気相成長法により半導体基板の裏面に裏面電極を形成し(ステップS9)、実施の形態1にかかる半導体装置が完成する。
【0038】
上述した半導体装置の製造方法において、ステップS7およびステップS8の一連の工程を照射エネルギーおよびアニール温度を種々変更して複数回繰り返し行い、半導体基板の深さ方向に直交する方向に伸びるストライプ状に複数のフィールドストップ層を形成してもよい。複数のフィールドストップ層を形成する場合、各フィールドストップ層を形成するための第2アニールは、それぞれ、直前に行われたプロトン照射で照射されたプロトンの活性化に最適なアニール温度で行われる。また、複数のフィールドストップ層を形成するための各第2アニールは、アニール温度が高い順に行われる。隣り合うフィールドストップ層どうしは、接していてもよいし、離れていてもよい。
【0039】
次に、この実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法について、
図1に示すトレンチゲート型IGBTを作製する場合を例に具体的に説明する。
図3〜8は、実施の形態1にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。まず、
図3に示すように、n
-ドリフト層1となる半導体基板を用意する。次に、
図4に示すように、半導体基板のおもて面に、一般的な方法によりpベース領域2、n
++エミッタ領域3、トレンチ4、ゲート絶縁膜5およびゲート電極6からなるトレンチゲート型のMOSゲート構造を形成する。
【0040】
次に、
図5に示すように、スパッタリングによって、半導体基板のおもて面にエミッタ電極7となるアルミニウムシリコン(AlSi)膜を堆積する。次に、アルミニウムシリコン膜をパターニングして配線パターンを形成した後、アニールを行う。これにより、半導体基板のおもて面にエミッタ電極7が形成される。次に、エミッタ電極7を覆うように、半導体基板のおもて面に表面保護膜(不図示)となる例えばポリイミド膜を塗布する。次に、ポリイミド膜をパターニングしエミッタ電極7の一部を露出させた後、ポリイミド膜をキュア(焼成)する。次に、半導体基板の裏面を研削して、半導体基板を薄板化した後、半導体基板を洗浄して付着物を除去する。
【0041】
次に、半導体基板の研削された裏面に、例えばボロンイオン(B
+)などのp型不純物イオン21をイオン注入する。このイオン注入は、後の工程で形成されるコレクタ電極11とのオーミックコンタクトが得られる程度に高いドーズ量で行う。p型不純物イオン21のボロンのドーズ量は、例えば1×10
13/cm
2以上1×10
16/cm
2以下であり、後述する実施例1では3×10
13/cm
2とした。次に、
図6に示すように、第1アニールとして例えば炉アニールを行うことによって、半導体基板の裏面に注入されたp型不純物イオン21を活性化し、半導体基板の裏面の表面層にp
+コレクタ層9を形成する。第1アニールの温度は、後述する実施例1では、例えば450℃とした。
【0042】
次に、
図7に示すように、半導体基板の裏面のp
+コレクタ層9よりも深い領域にプロトン22を照射する。プロトン22の照射エネルギーは、典型的な平均飛程Rpが5μm以上300μm以下程度であり、この平均飛程Rpに対応しておよそ0.4MeV以上6.0MeV以下である。後述する実施例1では、プロトン22の照射エネルギーは、平均飛程Rpが例えば12μmで0.83MeVとした。また、プロトン22のドーズ量は、典型的には1×10
12/cm
2以上1×10
16/cm
2以下であり、後述の実施例1では1×10
13/cm
2とした。
【0043】
次に、
図8に示すように、第2アニールとして例えば炉アニールを行うことによって、半導体基板の裏面に照射されたプロトン22を活性化し、半導体基板の裏面のp
+コレクタ層9よりも深い領域にn
+フィールドストップ層10を形成する。第2アニールの温度は、後述する実施例1では350℃である。
【0044】
第1アニールは、エミッタ電極7の電気特性に悪影響を与えない程度に高い温度で行われるのが好ましい。具体的には、第1アニールは、エミッタ電極7が例えばアルミニウム(Al)を主成分とする金属でできている場合、420℃〜アルミニウムの融点程度までの範囲内の温度で行われるのが好ましい。アルミニウムの融点は、例えばアルミニウムに1重量%のシリコンを含む合金の場合、約660℃である。第2アニールは、例えばプロトン照射により形成された格子欠陥を減少させない程度の温度で行うことが好ましい。具体的には、第2アニールは、第1アニールの温度を超えない条件で、例えば300℃〜500℃程度の範囲内の温度で行ってもよい。また、第1アニールの温度が420℃〜500℃の場合は、第2アニールの温度はこれらの値よりも低い温度とする。第1,2アニールはともに、処理時間を0.5時間〜10時間としてもよい。好ましくは、第2アニールの温度は、第1アニールの温度をこえない範囲で、380℃以上450℃以下、好ましくは400℃以上420℃以下である。
【0045】
第2アニールと後述する金属アニールとが同じアニール温度である場合、第2アニールを金属アニールと同時に行ってもよい。半導体基板の深さ方向に直交する方向に伸びるストライプ状に複数のフィールドストップ層を形成するためにプロトン照射および第2アニールの一連の工程を繰り返し行う場合、アニール温度が高い順に各第2アニールを行う。このとき、複数回行われる第2アニールのうちの1回目の第2アニールと第1アニールとが同じアニール温度である場合、1回目の第2アニールを第1アニールと同時に行ってもよい。また、複数回行われる第2アニールのうちの最後の第2アニールと、後述する金属アニールとが同じアニール温度である場合、第2アニールを金属アニールと同時に行ってもよい。
【0046】
次に、例えばアルミニウムを主成分とする金属膜を1層目として積層されたコレクタ電極11を形成するための前処理として、シリコン(Si)半導体層とアルミニウム膜とのコンタクト抵抗を小さくするためのフッ化水素(HF)処理を行う。次に、
図1に示すように、例えばスパッタリングにより、半導体基板の裏面にアルミニウム、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)および金(Au)を順に堆積して、これら4層の金属膜が積層されてなるコレクタ電極11を形成する。次に、コレクタ電極11の表面成形性を改善させるための金属アニールを行う。これにより、トレンチゲート型IGBTが完成する。
【0047】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、p
+コレクタ層を形成するボロン注入および第1アニールを、n
+フィールドストップ層を形成するプロトン照射前に行うことにより、第2アニールよりも高いアニール温度で第1アニールを行うことができる。このため、コレクタ電極とのオーミック接触を形成することができる程度に高いドーズ量(例えば1×10
16/cm
3程度)で注入されたp型不純物を活性化させるために適したアニール温度で第1アニールを行うことができる。これにより、コレクタ電極とのコンタクトがオーミックコンタクトとなるように高い活性化率で活性化されたp
+コレクタ層を形成することができる。したがって、従来のように、プロトン照射後のアニール温度よりも低い温度によるアニールによって、オーミックコンタクト形成に必要なp
+コレクタ層の表面濃度が不足することを回避することができ、オン電圧(Von)が低下するなどの電気特性不良の発生を回避することができる。
【0048】
また、実施の形態1によれば、n
+フィールドストップ層を形成するためのプロトン照射および第2アニールを、p
+コレクタ層を形成するためのボロン注入および第1アニール後に行うことにより、プロトン照射により形成された格子欠陥が減少しない程度に低いアニール温度で第2アニールを行うことができる。また、p
+コレクタ層を形成するための高いアニール温度(第1アニール)でプロトンの活性化が行われないため、プロトン照射により形成された格子欠陥が減少し、水素誘起ドナーの濃度が低下することを回避することができる。したがって、p
+コレクタ層およびn
+フィールドストップ層の双方に最適なアニール温度で第1,2アニールを行うことができる。これにより、コレクタ電極とのコンタクトがオーミックコンタクトとなるようにp
+コレクタ層を形成することができるとともに、所望の水素誘起ドナー濃度を有するn
+フィールドストップ層を形成することができる。
【0049】
(実施の形態2)
実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、n
+フィールドストップ層10を形成するための第2アニールの後にエミッタ電極7を形成する点である。実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法により作製される半導体装置は、実施の形態1に一例として挙げた
図1に示すトレンチゲート型IGBTと同様である。
【0050】
実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法について、
図1,3,4,9〜12を参照して説明する。
図9〜12は、実施の形態2にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。まず、
図3,4に示すように、実施の形態1と同様に、n
-ドリフト層1となる半導体基板を用意し、半導体基板のおもて面にトレンチゲート型のMOSゲート構造を形成する。次に、
図9に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面を研削した後、半導体基板を洗浄して付着物を除去する。
【0051】
次に、
図9,10に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の研削された裏面にp型不純物イオン21をイオン注入した後、第1アニールを行い、p
+コレクタ層9を形成する。次に、
図11,12に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面のp
+コレクタ層9よりも深い領域にプロトン22を照射した後、第2アニールを行い、n
+フィールドストップ層10を形成する。次に、実施の形態1と同様に、半導体基板のおもて面および裏面にそれぞれエミッタ電極7およびコレクタ電極11を形成することにより、
図1に示すトレンチゲート型IGBTが完成する。
【0052】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。実施の形態2によれば、半導体基板のおもて面にエミッタ電極を形成する前に第1アニールを行うことができるため、第1アニールを例えば900℃以上と高いアニール温度で行うことができる。したがって、p
+コレクタ層の不純物濃度をさらに高くすることができ、p
+コレクタ層とコレクタ電極との低コンタクト抵抗化を図ることができる。
【0053】
(実施の形態3)
図13は、実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す断面図である。実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、IGBTに代えてダイオードを作製する点である。
【0054】
図13に示す実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置において、n
-型の半導体基板31の内部には、おもて面側の表面層にp
+アノード領域32が選択的に設けられている。符号34は層間絶縁膜である。アノード電極(入力電極)33は、p
+アノード領域32に接する。また、n
-型の半導体基板31の内部には、裏面側の表面層にn
+カソード層(第1半導体層)35が設けられ、裏面側のn
+カソード層35よりも深い領域にn
+フィールドストップ層36が設けられている。n
+フィールドストップ層36の構成は、実施の形態1のn
+フィールドストップ層と同様である。カソード電極(出力電極)37は、n
+カソード層35に接する。n
+カソード層35の不純物濃度は、カソード電極37とのオーミックコンタクトが得られる程度に高い。
【0055】
次に、実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法について説明する。
図14〜19は、実施の形態3にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。
図14に示すようにn
-型の半導体基板31を用意する。次に、
図15に示すように、半導体基板31のおもて面に、一般的な方法によりp
+アノード領域32を形成する。次に、
図16に示すように、実施の形態1のエミッタ電極を形成する場合と同様にスパッタリングによって、半導体基板31のおもて面にアノード電極33を形成する。次に、実施の形態1と同様に、半導体基板31の裏面を研削した後、半導体基板31を洗浄して付着物を除去する。
【0056】
次に、
図16,17に示すように、実施の形態1のp
+コレクタ層を形成する場合と同様に、半導体基板の研削された裏面にn型不純物イオン23をイオン注入した後、第1アニールを行い、n
+カソード層35を形成する。次に、
図18,19に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面のn
+カソード層35よりも深い領域にプロトン22を照射した後、第2アニールを行い、n
+フィールドストップ層36を形成する。次に、実施の形態1のコレクタ電極を形成する場合と同様に、半導体基板の裏面にカソード電極37を形成することにより、
図13に示すダイオードが完成する。
【0057】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。実施の形態3によれば、ダイオードを形成する場合においても、カソード電極とのコンタクトがオーミックコンタクトとなるようにn
+カソード層を形成することができる。かつ、所望の水素誘起ドナー濃度を有するn
+フィールドストップ層を形成することができる。
【0058】
(実施の形態4)
実施の形態4にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、n
+フィールドストップ層36を形成するための第2アニールの後にアノード電極33を形成する点である。実施の形態4にかかる半導体装置の製造方法により作製される半導体装置は、実施の形態3に一例として挙げた
図13に示すダイオードである。
【0059】
実施の形態4にかかる半導体装置の製造方法について、
図13〜15,20〜23を参照して説明する。
図20〜23は、実施の形態4にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。まず、
図14,15に示すように、実施の形態3と同様に、半導体基板31を用意し、半導体基板31のおもて面にp
+アノード領域32を形成する。次に、
図20に示すように、実施の形態3と同様に、半導体基板31の裏面を研削した後、半導体基板31を洗浄して付着物を除去する。
【0060】
次に、
図20,21に示すように、実施の形態3と同様に、半導体基板31の研削された裏面にn型不純物イオン23をイオン注入した後、第1アニールを行い、n
+カソード層35を形成する。次に、
図22,23に示すように、実施の形態3と同様に、半導体基板31の裏面のn
+カソード層35よりも深い領域にプロトン22を照射した後、第2アニールを行い、n
+フィールドストップ層36を形成する。次に、実施の形態3と同様に、半導体基板31のおもて面および裏面にそれぞれアノード電極33およびカソード電極37を形成することにより、
図13に示すダイオードが完成する。
【0061】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態3と同様の効果を得ることができる。実施の形態4によれば、半導体基板のおもて面にアノード電極が形成する前に第1アニールを行うことができるため、第1アニールを例えば900℃以上と高いアニール温度で行うことができる。したがって、n
+カソード層の不純物濃度をさらに高くすることができ、n
+カソード層とカソード電極との低コンタクト抵抗化を図ることができる。
【0062】
(実施例1)
次に、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層のキャリア濃度について検証した。
図24は、実施例にかかる半導体装置のキャリア濃度分布を示す特性図である。
図25は、従来の半導体装置のキャリア濃度分布を示す特性図である。
図24,25の横軸は、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層との境界からの深さを示す。同じく縦軸は、キャリア濃度であり、周知の広がり抵抗(Spread Resistance、SR)測定法によって測定した広がり抵抗から比抵抗を算出し、さらにその比抵抗をキャリア濃度に換算した値である。電子や正孔の移動度が結晶の値(例えば電子の移動度は温度300Kにおいて約1360(cm
2/(V・s))から著しく減少しなければ、キャリア濃度はドープされた不純物のドーピング濃度(電気的に活性化した濃度)と見なすことができる。実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法に従い、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層形成のためのイオン注入(ステップS5)および第1アニール(ステップS6)を行った後、プロトン照射(ステップS7)および第2アニール(ステップS8)を行った試料を用意した(以下、実施例とする)。
【0063】
比較として、フィールドストップ層形成のためのプロトン照射後に、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層形成のためのイオン注入を行い、その後一括して熱アニールを行った試料を用意した(以下、比較例とする)。比較例の熱アニールの温度は、フィールドストップ層のキャリア濃度が実施例のフィールドストップ層のキャリア濃度と同じになるように、実施例における第2アニールと同じ温度とした。そして、実施例および比較例ともに、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層との境界から深さ方向の不純物濃度を測定した。
【0064】
図24に示す結果より、実施例では、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層41の第1アニールの温度をプロトンの活性化条件よりも高く設定することができるため、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層41の不純物濃度を高くすることができることが確認された。一方、
図25に示す結果より、比較例では、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層42のアニール温度の上限がプロトンの活性化条件で決まるため、裏面電極とそのコンタクトとなる半導体層42の不純物濃度が低い状態となることが確認された。
【0065】
(実施の形態5)
図45は、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す断面図である。
図47は、
図45の半導体装置のn
+フィールドストップ層のキャリア濃度分布を示す特性図である。
図47は、SR法により測定したキャリア濃度分布である。p
+コレクタ層9は、
図47の横軸スケールに対して深さが0.5μm程度と極めて浅いので、図示は省略した。実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、基板裏面のp
+コレクタ層9を形成するためのボロンなどのp型不純物イオン21の第1イオン注入と第1アニール後に、複数段のプロトン照射により複数のn
+フィールドストップ層10を形成する点である。
【0066】
図45に示すように、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置は、基板裏面からの深さの異なるn
+フィールドストップ層10a〜10cを備える。
図47に示すように、n
+フィールドストップ層10a〜10cは、互いに離れて設けられ、基板裏面から深い位置に配置されるほどキャリア濃度が低くなっている。また、基板裏面から最も浅い位置に配置されるn
+フィールドストップ層10cは、p
+コレクタ層9と離れて配置される。
【0067】
実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法について、
図3〜6,45,48〜52を参照して説明する。
図48〜52は、実施の形態5にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。まず、
図3〜5に示すように、実施の形態1と同様に、n
-ドリフト層1となる半導体基板を用意し、半導体基板のおもて面にトレンチゲート型のMOSゲート構造およびエミッタ電極7を形成する。次に、
図5,6に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面を研削し、半導体基板を洗浄して付着物を除去した後、半導体基板の研削された裏面にp型不純物イオン21をイオン注入し第1アニールを行うことで、p
+コレクタ層9を形成する。
【0068】
次に、
図48に示すように、1段目のプロトン照射により、半導体基板の裏面からp
+コレクタ層9よりも深い領域にプロトン51を導入する。次に、
図49に示すように、1段目のプロトン照射により導入したプロトン51の第2アニール(以下、1段目の第2アニールとする)を行い、n
+フィールドストップ層10aを形成する。n
+フィールドストップ層10aは、基板裏面から例えば60μmの深さに形成される。1段目のプロトン照射の加速エネルギーは例えば2.3MeVであり、プロトン51のドーズ量は例えば1×10
14/cm
2であってもよい。1段目の第2アニール条件は、例えば420℃の温度で1時間であってもよい。
【0069】
次に、
図50に示すように、2段目のプロトン照射により、半導体基板の裏面からp
+コレクタ層9よりも深く、かつn
+フィールドストップ層10aよりも浅い領域にプロトン52を導入する。次に、
図51に示すように、2段目のプロトン照射により導入したプロトン52の第2アニール(以下、2段目の第2アニールとする)を行い、n
+フィールドストップ層10bを形成する。n
+フィールドストップ層10bは、基板裏面から例えば30μmの深さに形成される。2段目のプロトン照射の加速エネルギーは例えば1.5MeVであり、プロトン52のドーズ量は例えば1×10
15/cm
2であってもよい。2段目の第2アニール条件は、例えば400℃の温度で1時間であってもよい。
【0070】
次に、
図52に示すように、3段目のプロトン照射により、半導体基板の裏面からp
+コレクタ層9よりも深く、かつn
+フィールドストップ層10bよりも浅い領域にプロトン53を導入する。次に、3段目のプロトン照射により導入したプロトン53の第2アニール(以下、3段目の第2アニールとする)を行い、
図45に示すようにn
+フィールドストップ層10cを形成する。n
+フィールドストップ層10cは、基板裏面から例えば5μmの深さに形成される。3段目のプロトン照射の加速エネルギーは例えば0.45MeVであり、プロトン53のドーズ量は例えば5×10
15/cm
2であってもよい。3段目の第2アニール条件は、例えば380℃の温度で1時間であってもよい。
【0071】
このように、1〜3段目のプロトン照射は基板裏面から深い位置から順に行い、1〜3段目の第2アニール温度は基板裏面から浅いほど低い温度とするのが好ましい。1〜3段目の第2アニール温度は、380℃以上450℃以下の範囲内であるのがよい。1〜3段目の第2アニールは、3段目のプロトン照射後に一括してもよい。1〜3段目の第2アニールを一括して行う場合、第2アニール温度は最も高い温度で行う1段目の第2アニールの処理温度と同じ程度が好ましい。その後、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面にコレクタ電極11を形成することにより、
図45に示すトレンチゲート型IGBTが完成する。
図45に示すように、プロトン照射前(例えばp
+コレクタ層9を形成するとき)にnバッファ層12を形成してもよい。
【0072】
また、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の別の一例を
図46に示す。
図46は、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の別の一例を示す断面図である。実施の形態5に実施の形態3を適用し、
図46に示すように複数のn
+フィールドストップ層36(例えばn
+フィールドストップ層36a〜36c)を備えたダイオードとしてもよい。n
+フィールドストップ層36a〜36cの構成および形成方法は、
図45のn
+フィールドストップ層10a〜10cと同様である。
図46に示す実施の形態5にかかる半導体装置の別の一例の、複数のn
+フィールドストップ層36を備える以外の構成は、実施の形態3と同様である。
【0073】
以上、説明したように、実施の形態5によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態5によれば、ディスオーダーのない水素ドナーのフィールドストップ層を複数(3段)形成することができる。
【0074】
(実施例2)
次に、実施例2として、本発明の半導体装置の製造方法における複数段のプロトン照射における1段目のプロトンピーク位置の好ましい位置について説明する。
図42は、一般的なIGBTのターンオフ発振波形を示す特性図である。コレクタ電流が定格電流の1/10以下の場合、蓄積キャリアが少ないために、ターンオフが終わる手前で発振することがある。コレクタ電流をある値に固定して、異なる電源電圧V
CCにてIGBTをターンオフさせる。このとき、電源電圧V
CCがある所定の値を超えると、コレクタ・エミッタ間電圧波形において、通常のオーバーシュート電圧のピーク値を超えた後に、付加的なオーバーシュートが発生するようになる。そして、この付加的なオーバーシュート(電圧)がトリガーとなり、以降の波形が振動する。電源電圧V
CCがこの所定の値をさらに超えると、付加的なオーバーシュート電圧がさらに増加し、以降の振動の振幅も増加する。このように、電圧波形が振動を始める閾値電圧を発振開始閾値V
RROと呼ぶ。この発振開始閾値V
RROが高ければ高いほど、IGBTはターンオフ時に発振しないことを示すので好ましい。
【0075】
発振開始閾値V
RROは、IGBTのpベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からn
-ドリフト層を広がる空乏層(厳密には、正孔が存在するので空間電荷領域)が、複数のプロトンピークのうち最初に達する1段目(最もpベース領域側)のプロトンピークの位置に依存する。その理由は、次のとおりである。ターンオフ時に空乏層がpベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からn
-ドリフト層が広がるときに、空乏層端が1つ目(最もpベース領域側)のフィールドストップ層に達することでその広がりが抑えられ、蓄積キャリアの掃き出しが弱まる。その結果、キャリアの枯渇が抑制され、発振が抑えられる。
【0076】
ターンオフ時の空乏層は、pベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からコレクタ電極に向かって深さ方向に沿って広がる。このため、空乏層端が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置は、pベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合に最も近いフィールドストップ層となる。そこで、n半導体基板の厚さ(エミッタ電極とコレクタ電極とに挟まれた部分の厚さ)をW
0とし、空乏層端が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置の、コレクタ電極とn半導体基板の裏面との界面からの深さ(以下、裏面からの距離とする)をXとする。ここで、距離指標Lを導入する。距離指標Lは、下記の(1)式であらわされる。
【0078】
上記(1)式に示す距離指標Lは、ターンオフ時に、増加するコレクタ・エミッタ間電圧V
CEが電源電圧V
CCに一致するときに、pベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からn
-ドリフト層1に広がる空乏層(正しくは空間電荷領域)の端部(空乏層端)の、当該pn接合からの距離を示す指標である。平方根の内部の分数の中で、分母はターンオフ時の空間電荷領域(空乏層)の空間電荷密度を示している。周知のポアソンの式は、divE=ρ/ε
Sで表され、Eは電界強度、ρは空間電荷密度でρ=q(p−n+N
d−N
a)である。qは電荷素量、pは正孔濃度、nは電子濃度、N
dはドナー濃度、N
aはアクセプタ濃度、ε
Sは半導体の誘電率である。特にドナー濃度N
dは、n
-ドリフト層を深さ方向に積分し、積分した区間の距離で割った平均濃度とする。
【0079】
この空間電荷密度ρは、ターンオフ時に空間電荷領域(空乏層)を駆け抜ける正孔濃度pとn
-ドリフト層の平均的なドナー濃度N
dとで記述され、電子濃度はこれらよりも無視できるほど低く、アクセプタが存在しないため、ρ≒q(p+N
d)と表すことができる。このときの正孔濃度pは、IGBTの遮断電流によって決まり、特に素子の定格電流密度が通電している状況を想定するため、p=J
F/(qv
sat)で表される。J
Fは素子の定格電流密度であり、v
satはキャリアの速度が所定の電界強度で飽和した飽和速度である。
【0080】
上記ポアソンの式を距離xで2回積分し、電圧VとしてE=−gradV(周知の電界Eと電圧Vとの関係)であるため、境界条件を適当にとれば、V=(1/2)(ρ/ε
S)x
2となる。この電圧Vが、定格電圧V
rateの1/2としたときに得られる空間電荷領域の長さxを、上記の距離指標Lとしているのである。その理由は、インバータ等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を、定格電圧の半値程度とするためである。フィールドストップ層は、ドーピング濃度をn
-ドリフト層よりも高濃度とすることで、ターンオフ時に広がる空間電荷領域の伸びを、フィールドストップ層において広がり難くする機能を有する。IGBTのコレクタ電流がMOSゲートのオフにより遮断電流から減少を始めるときに、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置が、ちょうどこの空間電荷領域の長さにあれば、蓄積キャリアがn
-ドリフト層に残存した状態で、空間電荷領域の伸びを抑えることができるので、残存キャリアの掃出しが抑えられる。
【0081】
実際のターンオフ動作は、例えばIGBTモジュールを周知のPWMインバータでモーター駆動するときには、電源電圧V
CCや遮断電流が固定ではなく可変であることが多い。このため、このような場合では、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置の好ましい位置に、ある程度の幅を持たせる必要がある。発明者らの検討の結果、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、
図44に示す表のようになる。
図44は、本発明にかかる半導体装置において空乏層が最初に達するフィールドストップ層の位置条件を示す図表である。
図44には、定格電圧が600V〜6500Vのそれぞれにおいて、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを示している。ここで、X=W
0−γLとおき(γは係数である)、このγを0.7〜1.6まで変化させたときのXを
図44に示している。
【0082】
図44に示すように、各定格電圧では、素子(IGBT)が定格電圧よりも10%程度高い耐圧を持つように、安全設計をする。そして、オン電圧やターンオフ損失がそれぞれ十分低くなるように、
図44に示すようなn半導体基板の総厚(研削等によって薄くした後の仕上がり時の厚さ)とし、n
-ドリフト層1を平均的な比抵抗とする。平均的とは、フィールドストップ層を含めたn
-ドリフト層1全体の平均濃度および比抵抗である。定格電圧によって、定格電流密度J
Fも
図44に示したような典型値となる。定格電流密度J
Fは、定格電圧と定格電流密度J
Fとの積によって決まるエネルギー密度が、およそ一定の値となるように設定され、ほぼ
図44に示す値のようになる。これらの値を用いて上記(1)式に従い距離指標Lを計算すると、
図44に記載した値となる。最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、この距離指標Lに対してγを0.7〜1.6とした値をn半導体基板の厚さW
0から引いた値となる。
【0083】
これら距離指標Lおよびn半導体基板の厚さW
0の値に対して、ターンオフ発振が十分抑えられるような、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを定める係数γは、次のようになる。
図41は、電圧波形が振動を始める閾値電圧について示す特性図である。具体的には、
図41には、γに対する発振開始閾値V
RROの依存性を、典型的ないくつかの定格電圧V
rate(600V、1200V、3300V)について示す。ここで、縦軸は、発振開始閾値V
RROを定格電圧V
rateで規格化している。3つの定格電圧ともに、γが1.6以下で発振開始閾値V
RROを急激に高くできることが分かる。
【0084】
前述のように、インバータ等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を定格電圧V
rateの半値程度とするため、電源電圧V
CCを定格電圧V
rateの半値とするときには、少なくともIGBTのターンオフ発振は生じないようにしなければならない。つまり、V
RRO/V
rateの値は0.5以上とする必要がある。
図41から、V
RRO/V
rateの値が0.5以上となるのは、γが0.2以上1.5以下であるので、少なくともγを0.2〜1.5とすることが好ましい。
【0085】
また、図示しない600V〜1200Vの間(800Vや1000Vなど)、1200V〜3300Vの間(1400V,1700V,2500Vなど)、および3300V以上(4500V、6500Vなど)のいずれにおいても、
図41に示す3つの曲線からは大きく逸脱せず、これら3つの曲線と同様の依存性(γに対する発振開始閾値V
RROの値)を示す。
図41から、γが0.7〜1.4の範囲で、いずれの定格電圧V
rateも発振開始閾値V
RROを十分高くすることができる領域であると分かる。
【0086】
γが0.7より小さくなると、発振開始閾値V
RROは定格電圧V
rateのおよそ80%以上であるものの、フィールドストップ層がpベース領域に近くなるため、素子のアバランシェ耐圧が定格電圧V
rateより小さくなる場合が生じる。そのため、γは0.7以上が好ましい。また、γが1.4より大きくなると、発振開始閾値V
RROは定格電圧V
rateの約70%から急速に減少し、ターンオフ発振が発生し易くなる。したがって、γは1.4以下であるのが好ましい。より好ましくは、γが0.8〜1.3の範囲内、さらに好ましくはγが0.9〜1.2の範囲内であれば、素子のアバランシェ耐圧を定格電圧V
rateよりも十分高くしつつ、発振開始閾値V
RROを最も高くすることができる。
【0087】
この
図41に示す本願発明の効果で重要な点は、いずれの定格電圧V
rateにおいても、V
RROを十分高くできるγの範囲は、ほぼ同じ(例えば0.7〜1.4)ことである。これは、空乏層が最初に到達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xの範囲を、W
0−L(つまりγ=1.0)を略中心に含むようにすることが最も効果的なためである。γ=1.0を含むことが最も効果的なのは、パワー密度(定格電圧V
rateと定格電流密度J
Fとの積)が略一定(例えば1.8×10
5VA/cm
2〜2.6×10
5VA/cm
2)となることに起因する。つまり、ターンオフ等のスイッチング時に、素子の電圧が定格電圧V
rate相当になったときに、空間電荷領域端の距離(深さ)は上記(1)式で示す距離指標L程度となり、このLの位置に裏面から最も深いフィールドストップ層のピーク位置があれば(すなわちγが約1.0)、スイッチング時の発振を抑制することができる。そして、パワー密度が略一定なので、距離指標Lは定格電圧V
rateに比例するようになる。これにより、どの定格電圧V
rateにおいても、γ=1.0を略中心に含む範囲とすれば発振開始閾値V
RROを十分高くでき、スイッチング時の発振抑制効果を最も大きくすることができる。
【0088】
以上より、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを上記範囲とすることで、ターンオフ時にIGBTは蓄積キャリアを十分残存させることができ、ターンオフ時の発振現象を抑えることができる。したがって、いずれの定格電圧V
rateにおいても、最初に空乏層端が達するフィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、距離指標Lの係数γを上述の範囲とすることがよい。これにより、ターンオフ時の発振現象を効果的に抑制することができる。
【0089】
また、
図44では、定格電圧V
rateが600V以上において、上述のように裏面から最も深い1つ目(1段目)のフィールドストップ層の裏面からの深さをγ=1程度とする場合、距離指標Lはいずれの定格電圧V
rateも20μmより深いことがわかる。すなわち基板裏面から最も深い1段目のプロトンピークを形成するためのプロトンの平均飛程Rpを基板裏面から15μmよりも深く、20μm以上とする理由は、まさにこの発振抑制効果を最も高くするためである。
【0090】
(実施例3)
実施例3として、本発明にかかる半導体装置の製造方法におけるプロトンの加速エネルギーについて説明する。上記のγの範囲を満たすように、空乏層が最初に達するフィールドストップ層のピーク位置が基板裏面からの距離Xを有するように当該フィールドストップ層を実際にプロトン照射で形成するには、プロトンの加速エネルギーを、以下に示す
図43の特性図から決めればよい。
図43は、本発明にかかる半導体装置のプロトンの平均飛程とプロトンの加速エネルギーとの関係を示す特性図である。
【0091】
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、プロトンの平均飛程Rp(フィールドストップ層のピーク位置)と、プロトンの加速エネルギーEとについて、プロトンの平均飛程Rpの対数log(Rp)をx、プロトンの加速エネルギーEの対数log(E)をyとすると、下記(2)式の関係があることを見出した。
【0092】
y=−0.0047x
4+0.0528x
3−0.2211x
2+0.9923x+5.0474 ・・・(2)
【0093】
図43は、上記(2)式を示す特性図であり、プロトンの所望の平均飛程Rpを得るためのプロトンの加速エネルギーを示している。
図43の横軸はプロトンの平均飛程Rpの対数log(Rp)であり、log(Rp)の軸数値の下側の括弧内に対応する平均飛程Rp(μm)を示す。また、縦軸はプロトンの加速エネルギーEの対数log(E)であり、log(E)の軸数値の左側の括弧内に対応するプロトンの加速エネルギーEを示す。上記(2)式は、実験等によって得られた、プロトンの平均飛程Rpの対数log(Rp)と加速エネルギーの対数log(E)との各値を、x(=log(Rp))の4次の多項式でフィッティングさせた式である。
【0094】
なお、上記のフィッティング式を用いて所望のプロトンの平均飛程Rpからプロトン照射の加速エネルギーEを算出(以下、算出値Eとする)して、この加速エネルギーの算出値Eでプロトンをシリコン基板に注入した場合における、実際の加速エネルギーE’と実際に広がり抵抗(SR)測定法等によって得られた平均飛程Rp’(プロトンピーク位置)との関係は、以下のように考えればよい。
【0095】
加速エネルギーの算出値Eに対して、実際の加速エネルギーE’がE±10%程度の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp’も所望の平均飛程Rpに対して±10%程度の範囲に収まり、測定誤差の範囲内となる。そのため、実際の平均飛程Rp’の所望の平均飛程Rpからのバラつきが、ダイオードやIGBTの電気的特性へ与える影響は、無視できる程度に十分小さい。したがって、実際の加速エネルギーE’が算出値E±10%の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp’は実質的に設定どおりの平均飛程Rpであると判断することができる。あるいは、実際の加速エネルギーE’を上記(2)式に当てはめて算出した平均飛程Rpに対して、実際の平均飛程Rp’が±10%以内に収まれば、問題ない。
【0096】
実際の加速器では、加速エネルギーEおよび平均飛程Rpはいずれも上記の範囲(±10%)に収まり得るため、実際の加速エネルギーE’および実際の平均飛程Rp’は、所望の平均飛程Rpと算出値Eとで表される上記(2)式に示すフィッティング式にしたがっていると考えて、全く差支えない。さらに、バラつきや誤差の範囲が、平均飛程Rpに対して±10%以下であればよく、好適には±5%に収まれば、申し分なく上記(2)式に従っていると考えることができる。
【0097】
上記(2)式を用いることにより、所望のプロトンの平均飛程Rpを得るのに必要なプロトンの加速エネルギーEを求めることができる。上述したフィールドストップ層を形成するためのプロトンの各加速エネルギーEも、上記(2)式を用いており、実際に上記の加速エネルギーE’でプロトンを照射した試料を周知の広がり抵抗測定法(SR法)にて測定した実測値ともよく一致する。したがって、上記(2)式を用いることで、極めて精度よく、プロトンの平均飛程Rpに基づいて必要なプロトンの加速エネルギーEを予測することが可能となった。
【0098】
(実施の形態6)
実施の形態6にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、基板裏面のp
+コレクタ層9を形成するためのボロンなどのp型不純物イオン21の第1イオン注入後の第1アニールを、レーザーアニール61とする点である。n
+フィールドストップ層10は、実施の形態1のように1段のプロトン照射により1つ設けてもよいし、実施の形態5のように複数段のプロトン照射により複数設けてもよい。
【0099】
実施の形態6にかかる半導体装置の製造方法について、
図1,3〜8,53を参照して説明する。
図53は、実施の形態6にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。まず、
図3〜5に示すように、実施の形態1と同様に、n
-ドリフト層1となる半導体基板を用意し、半導体基板のおもて面にトレンチゲート型のMOSゲート構造およびエミッタ電極7を形成する。次に、
図5に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面を研削し、半導体基板を洗浄して付着物を除去した後、半導体基板の研削された裏面にp型不純物イオン21をイオン注入する。
【0100】
次に、
図53に示すように、第1アニールとしてレーザーアニール61を行い、
図6に示すように半導体基板の裏面の表面層にp
+コレクタ層9を形成する。次に、
図7,8に示すように、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面のp
+コレクタ層9よりも深い領域にプロトン22を照射した後、第2アニールとして炉アニールを行い、n
+フィールドストップ層10を形成する。次に、実施の形態1と同様に、半導体基板の裏面にコレクタ電極11を形成することにより、
図1に示すトレンチゲート型IGBTが完成する。
【0101】
図45に示す複数のn
+フィールドストップ層10を備えた半導体装置を作製する場合には、第1アニールとしてレーザーアニール61を行い(
図53,6)、半導体基板の裏面の表面層にp
+コレクタ層9を形成した後に、複数段のプロトン照射および第2アニールを行えばよい(
図48〜52)。
【0102】
また、実施の形態6に実施の形態3を適用し、
図13に示すダイオードや、
図46に示すように複数のn
+フィールドストップ層36(例えばn
+フィールドストップ層36a〜36c)を備えたダイオードを作製してもよい。この場合の実施の形態6にかかる半導体装置の製造方法は、実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法においてn
+カソード層35を形成するための第1アニールをレーザーアニールとすればよい。
【0103】
以上、説明したように、実施の形態6によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態6によれば、p
+コレクタ層を形成するためのレーザーアニール後にn
+フィールドストップ層を形成するため、p
+コレクタ層を形成するためのレーザーアニールの影響が、n
+フィールドストップ層に及ばない。特に、n
+フィールドストップ層を複数形成する場合、p
+コレクタ層に近い位置に形成される3段目(平均飛程Rpが例えば5μm)のn
+フィールドストップ層の水素ドナー濃度がレーザーアニールによって低減されないため、n
+フィールドストップ層を高濃度に維持することができる。これにより、n
+フィールドストップ層が消失することを防止することができる。
【0104】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、フィールドストップ層を設けることができるさまざまな半導体装置に適用することが可能である。例えば、実施の形態1,2ではトレンチゲート型IGBTを例に説明したが、プレーナゲート型IGBTに適用してもよい。また、実施の形態2,4では第2アニールの後に入力電極(エミッタ電極、アノード電極)を形成する場合を例に説明したが、第1アニールよりも後に入力電極を形成する場合に実施の形態2と同様の効果を奏する。また、各実施の形態では、出力電極とのコンタクトとなる半導体層(コレクタ層、カソード層)を形成するための不純物導入方法は、イオン注入に限らず、種々変更可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。