特許第6187575号(P6187575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187575インモールド射出成形金型装置及び樹脂成形品製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187575
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】インモールド射出成形金型装置及び樹脂成形品製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20170821BHJP
   B29C 33/18 20060101ALI20170821BHJP
   B29C 45/34 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B29C45/16
   B29C33/18
   B29C45/34
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-240336(P2015-240336)
(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-105061(P2017-105061A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】瀬堂 統太
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−096571(JP,A)
【文献】 特開2011−104962(JP,A)
【文献】 特開2007−136976(JP,A)
【文献】 特開2014−133371(JP,A)
【文献】 特開2000−254939(JP,A)
【文献】 特開平07−060791(JP,A)
【文献】 特開平11−034104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品形状部の加飾面側の形状を形成するキャビティ11を有する第1金型10と、
前記第1金型10に対応して製品形状部の非加飾面側の形状を形成するコア21を有する第2金型20と、
型開き時に前記キャビティ11の外周を形成する、前記第1金型10における前記第2金型20との分割面である第1分割面13に対し加飾フィルム30を押し付けることにより、前記加飾フィルム30と前記第1分割面13との間を気密にシールするように前記加飾フィルム30を前記第1分割面13との間に拘束するクランプ部材40と、
前記加飾フィルム30が前記クランプ部材40により拘束されることにより形成される前記加飾フィルム30と前記キャビティ11の内面との間の密閉空間の空気を吸引する、前記第1金型10に形成された吸引通路14とを有し、
前記クランプ部材40は、前記加飾フィルム30を前記第1金型10に押し付ける部材として柔軟性材料からなる押付部材41を有し、
前記押付部材41は、前記密閉空間の吸引時に前記加飾フィルム30に作用する張力により撓むことにより、前記加飾フィルム30を前記第1金型10に押し付ける押付面41Aが前記キャビティ11側へ移動するように構成されている
インモールド射出成形金型装置。
【請求項2】
前記キャビティ11は入れ子構造として前記第1金型10に形成されるとともに、前記コア21は入れ子構造として前記第2金型20に形成され、
前記クランプ部材40は、前記コア21側の入れ子であるコア入れ子22に収納可能に設けられている
請求項1記載のインモールド射出成形金型装置。
【請求項3】
前記クランプ部材40は、前記密閉空間の空気吸引時に前記加飾フィルム30に作用する張力が大きくなる部分を対象として取り付けられている
請求項1又は請求項2記載のインモールド射出成形金型装置。
【請求項4】
前記吸引通路14は、複数の吸引通路14A,14Bからなり、
前記複数の吸引通路14A,14Bのうちの少なくとも一部の吸引通路14A,14Bは、前記キャビティ11における複数の角部のうちの、前記密閉空間の空気吸引時に前記加飾フィルム30に作用する張力が大きくなる角部に対し開口するように形成されている
請求項3記載のインモールド射出成形金型装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載されたインモールド射出成形装置を用いて樹脂成形品を製造する樹脂成形品製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インモールド射出成形金型装置及び樹脂成形品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インモールド射出成形は、携帯電話、化粧品容器、雑貨品などの比較的寸法の小さい外装部品に広く採用されている。ところが、最近ではルームエアコンの前面パネルのような大きなサイズの樹脂成形品についてまでインモールド射出成形法による加飾が求められるようになってきた。
【0003】
一般に、インモールド射出成形金型装置は、特許文献1、特許文献2等に開示されているようなものであって、製品形状部の加飾面側の形状を形成するキャビティを有する第1金型、第1金型に対応して製品形状部の非加飾面側の形状を形成するコアを有する第2金型、キャビティの外側で加飾フィルムをクランプするクランプ部材などを備えている。
【0004】
また、このようなインモールド射出成形金型装置は、次の手順で樹脂成型が行われている。
先ず、金型開き時に加飾フィルムを金型内に走向させる工程(フィルム送り工程)、クランプ部材により加飾フィルムをクランプしてキャビティ側金型の第1分割面に押し付ける工程(クランプ工程)、加飾フィルムとキャビティの内面との間に形成される空間部を真空引きする工程(吸引工程)が順次行われる。これにより加飾フィルムに伸びと変形を加えて加飾フィルムをキャビティの内面に密着させる。そして、その後型閉めし、その後に内部空間に溶融樹脂を射出する工程(射出工程)を行う。次いで、溶融樹脂を冷却し、これにより溶融樹脂を固化するとともに、加飾フィルムの模様を樹脂成形品に転写させる工程(冷却工程)を経て、最後に型開きし、完成した樹脂成形品を取り出す工程(取出工程)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−184300号公報
【特許文献2】特開2001−239525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のインモールド射出成形金型装置は、加飾フィルムを第1金型の、第2金型との分割面、すなわちクランプ面にOリングを介して押し付けることにより、吸引工程におけるエアリークを抑制し、これにより加飾フィルムのキャビティ内面への密着度を高めようとしていた。しかし、この従来の方法ではクランプ部材による加飾フィルムの固定力が高く、吸引時に加飾フィルムがキャビティ側へ移動することが全くないため、キャビティ角部において密着不足が生じ易いという問題があった。また、キャビティの角部において、加飾フィルムに必要とされる伸びや変形が過大となり密着不足が生じる場合があった。この結果、吸引時及び溶融樹脂射出時にキャビティの角部において加飾フィルムに色々な方向の応力が作用し、加飾フィルムに皴、破れ、傷、局部的な伸びに起因する転色層の薄肉化などが発生し、良品が得られないという問題があった。また、樹脂成形品が大型化すると、特にこの問題が顕著に表れていた。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み成されたものであって、樹脂成形品に転写される加飾フィルムに生じ易い皴、傷、破れ、加飾フィルムの局部的薄肉化による薄色化などを緩和するインモールド射出成形金型装置と、このようなインモールド射出成形金型装置を用いて樹脂成形品を製造する樹脂成形品製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するインモールド射出成形金型装置は、製品形状部の加飾面側の形状を形成するキャビティを有する第1金型と、前記第1金型に対応して製品形状部の非加飾面側の形状を形成するコアを有する第2金型と、型開き時に前記キャビティの外周を形成する、前記第1金型における前記第2金型との分割面である第1分割面に対し加飾フィルムを押し付けることにより、前記加飾フィルムと前記第1分割面との間を気密にシールするように前記加飾フィルムを前記第1分割面との間に拘束するクランプ部材と、前記加飾フィルムが前記クランプ部材により拘束されることにより形成される前記加飾フィルムと前記キャビティの内面との間の密閉空間の空気を吸引する、前記第1金型に形成された吸引通路とを有し、前記クランプ部材は、前記加飾フィルムを前記第1金型に押し付ける部材として柔軟性の高い材料からなる押付部材を有し、前記押付部材は、前記密閉空間の吸引時に前記加飾フィルムに作用する張力により撓み、前記加飾フィルムを前記第1金型に押し付ける押付面が前記キャビティ側へ移動するように構成されている。
【0009】
加飾フィルムは、キャビティの外側でクランプ部材の柔軟性材料からなる押付部材により第1金型に押し付けられて拘束されている。そして、加飾フィルムとキャビティ内面との間の密閉空間の空気を吸引する時に、加飾フィルムに作用する引張応力により、クランプ部材の押付部材が加飾フィルムを第1金型に押し付けた状態のまま撓み、押付部材の押付面がキャビティ側へ移動する。これにより、加飾フィルムとキャビティ内面との間の密閉空間の吸引時に、キャビティの2次元角部や3次元角部に対し加飾フィルムが引き込まれ、キャビティの角部における加飾フィルムに必要とされる伸び代や変形量が緩和される。このため、樹脂成形品の加飾側表面に生じ易い加飾フィルムの皴、破れ傷、或いは、加飾フィルムの局部的な伸びによる転色層の薄肉化やマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記キャビティは入れ子構造として前記第1金型に形成されるとともに、前記コアは入れ子構造として前記第2金型に形成され、前記クランプ部材は、前記コア側の入れ子であるコア入れ子に収納可能に設けられているものとしてもよい。
【0011】
通常、製造する樹脂成形品が変われば、キャビティ側のキャビ入れ子及びコア側のコア入れ子を変更するとともに、適切に弾性的に支持されるクランプ部材に変更する必要がある。したがって、上記のような構成にすれば、製造する樹脂成形品に対応してキャビ入れ子及びコア入れ子を変更する際に、クランプ部材をその都度適正なものに変更することが容易となる。
【0012】
前記クランプ部材は、前記密閉空間の空気吸引時に前記加飾フィルムに作用する張力が大きくなる部分を対象として取り付けられているようにしてもよい。
このような構成にすれば、すべてのクランプ部材を、押付部材の押付面がキャビティ側に移動可能な構造とする必要がなく、このようなクランプ部材を必要とされる個所にのみ使用すればよいので、コストの上昇を抑制することができる。
【0013】
前記吸引通路は、複数の通路からなり、前記複数の吸引通路のうちの少なくとも一部の吸引通路は、前記キャビティにおける複数の角部のうちの、前記密閉空間の空気吸引時に前記加飾フィルムに作用する張力が大きくなる角部に対し開口するように形成されているものとしてもよい。
【0014】
加飾フィルムとキャビティの内面との間の密閉空間の吸引時に加飾フィルムに作用する張力が大きくなる角部は、加飾フィルムに高い伸び率が要求されるので空気が溜まり易い。しかし、上記のように構成すれば、この角部から直接空気を吸引することができるので、前述の押付部材の押付面がキャビティ側に移動するように弾性的に支持されるクランプ部材の使用効果と相俟って、加飾フィルムの傷、破れ、皴、局部的な薄肉化を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る樹脂成形品製造方法は、上記何れかのインモールド射出成形装置を用いて樹脂成形品を製作するものである。
インモールド射出成形装置により製作される樹脂成形品は、加飾フィルムとキャビティ内面との間の密閉空間の吸引時、形状変化率の大きいキャビティの角部において加飾フィルムに高い伸び率が要求される。しかし、樹脂成形品が上記インモールド射出成形装置により製造される場合には、このような高い伸び率の要求に対して加飾フィルムの伸び代が確保されるので、傷、破れ、皴、局部的な薄肉化が抑制される。したがって、外観の良好な加飾樹脂成形品を供給することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂成形品の加飾面側に生じやすい加飾フィルムの皴、破れ、傷、或いは、加飾フィルムの局部的な伸びによる転色層の薄肉化やマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係るインモールド射出成形装置のフィルム送り工程図である。
図2】同インモールド射出成形装置のクランプ工程図である。
図3】同クランプ工程時のクランプ部材周りの詳細図である。
図4】同インモールド射出成形装置により製造される樹脂成形品の一例の外観斜視図である。
図5】同インモールド射出成形装置におけるクランプ部材の平面配置図である。
図6】同インモールド射出成形装置の吸引工程図である。
図7】同吸引工程におけるクランプ部材周りの詳細図である。
図8】同吸引工程に関連する参考説明図である。
図9】同インモールド射出成形装置の射出工程図である。
図10】同射出工程におけるクランプ部材周りの詳細図である。
図11】同インモールド射出成形装置の取出し工程図である。
図12】同インモールド射出成形装置により製造される樹脂成形品の他の例の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、以下図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面は理解し易くするために、主要な構成要素を模式的に示している。また、図示された各構成要素の縦横等の寸法は、図面作成の都合上実際の寸法とは異なる。また、以下に説明される寸法、構造、材質等は一例であって特に限定されるものではなく、本発明の趣旨から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
本実施の形態に係るインモールド射出成形装置の全体構成の概要を図1に基づき説明する。
本実施の形態に係るインモールド射出成形装置は、図1に示すように、製品形状部の加飾面側の形状を形成するキャビティ11を有する第1金型10と、製品形状部の非加飾面側の形状を形成するコア21を有する第2金型20とを備えたものであって、型開き可能な金型として構成されている。なお、図10で見て分かるように、キャビティ11及びコア21は、中央部から外周傾斜面の途中までの範囲が製品形状に対応する。外周傾斜面におけるその外側は、製品形状部の外側になっている。したがって、コア21は、製品形状部に対応する形状対応部分21Aとその外側の非形状対応部分21Bとの間に製品の肉厚分の段差が形成されている。
【0020】
また、本インモールド射出成形装置は、加飾フィルム30をクランプするクランプ部材40を備えたものである。クランプ部材40は、第2金型20側にあって、図1及び図2からわかるように第1金型10に対し遠近方向に移動可能に取り付けられている。このクランプ部材40は、加飾フィルム30を第1金型10の第2金型20に対する分割面である第1分割面13に押し付けてクランプするものである。
【0021】
第1金型10は、固定型であって、キャビティ11が入れ子構造として形成されている。この入れ子はキャビ入れ子12と称されている。
また、第1金型10は、キャビティ11の外側に第2金型20との分割面である第1分割面13を有する。また、第1金型10には、図示しない吸引装置に連通する吸引通路14が形成されており、この吸引通路14はキャビ入れ子12内において複数の吸引通路14A,14Bに分岐されている。複数の吸引通路14A,14Bは、キャビティ11の内面角部の周辺の底面に開口するように形成されている。
【0022】
第2金型20は、可動型であって、コア21が入れ子構造として形成されている。この入れ子はコア入れ子22と称されている。このコア入れ子22には、溶融樹脂を流し込むためのスプル23と、クランプ部材40を収容する収容凹部24が形成されている。
【0023】
第2金型20は、コア21の外側に第1金型10との分割面である第2分割面25を有する。なお、コア21は、前述のように、製品対応の形状対応部分21Aとその外側の非形状対応部分21Bとは製品の肉厚分の段付きに形成されており、非形状対応部分21Bの部分がキャビティ11の内面とが加飾フィルム30を挟んで突き合わされる構造となっている(射出工程時の図10参照)。
【0024】
また、第2金型20には、図示省略されているが、コア入れ子22を貫通する位置に、クランプ部材40を第1金型10に対し遠近方向に移動させるためのアーム(不図示)を貫通させる貫通孔(不図示)が形成されている。そして、クランプ部材40は、このアームを介して移動装置(不図示)により移動制御されている。
【0025】
本インモールド射出成形装置に用いられる加飾フィルム30は、従来のものと同様のものであって、基体フィルム31上に転写層32を備えている。また、図面上で明示されていないが、基体フィルム31と転写層32との間には剥離層が形成され、転写層32の表面側(すなわち製品側)には接着層が設けられている。
【0026】
次に、クランプ部材40について図3に基づき具体的に説明する。
クランプ部材40は、加飾フィルム30を第1金型10の、第2金型20との分割面である第1分割面13に押し付ける押付部材41と、この押付部材41を支持する支持部材42と、押付部材41を支持部材42に取り付けるための取付ボルト43とを有する。
【0027】
押付部材41は、断面四角形の長尺部材であって、一面が加飾フィルム30を押し付ける押付面41Aに形成されている。押付部材41の反押付面側は、支持部材42に抱き込まれた状態で、取付ボルト43により支持部材42に取り付けられている。このため、押付部材41の反押付面側には取付ボルト43を螺合するためのねじ穴41Bが形成されている。
【0028】
また、押付部材41は、柔軟性材料からなるものであって、加飾フィルム30を第1分割面13に押し付けている状態の吸引工程において加飾フィルム30に張力が作用したときに、この張力により押付部材41の押付面41A側が撓んで押付面41Aがキャビティ11側へ移動するように構成されている。この押付部材41の材料としてはニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムや天然ゴムが用いられる。
【0029】
支持部材42は、図示しない前述のアームにより第1金型10に対し遠近可能となるように第2金型20に取り付けられている。そして、支持部材42は、型締めの際に第2金型20の収容凹部24内に収容される大きさに形成されている(図10参照)。また、支持部材42は、断面四角形の長尺部材の第1分割面13側に押付部材41を抱き込む第1凹溝42Aが長手方向に伸びるように形成され、反第1分割面側には取付ボルト43を適宜の間隔で複数取り付けることができるようにするための第2凹溝42Bが形成されている。これにより第1凹溝42Aと第2凹溝42Bとの間に取付壁部42Cが形成されている。
【0030】
支持部材42の第1凹溝42Aの深さは、押付部材41の第1分割面13と直角な方向の寸法の、約1/3〜1/2ぐらいを抱き込む寸法に形成されている。また、取付壁部42Cには、取付ボルト43を挿入するための複数のボルト孔42Dが形成されている。取付ボルト43は、座金組み込み六角穴つき頭部43Aと、ねじ部43Bとを備えている。また、第2凹溝42Bは、取付ボルト43の頭部43Aを収納できる幅及び深さ寸法に形成されている。
【0031】
また、このようなクランプ部材40は、キャビティ11の外側全域で加飾フィルム30を挟持可能とするために、キャビティ11の外周を取り巻くように配置されている。例えば、成形される製品が図4に示す深堀形状の箱型成形品50の場合には、図5に示すように、押付部材41を備えたクランプ部材40がキャビティ11の外周に沿う四辺の位置61,62,63,64と、この四辺の角部を斜めに繋ぐ四つのコーナ部65,66,67、68とに取り付けられる。
【0032】
次に、本実施の形態の動作の説明として、上記のように構成されたインモールド射出成形装置による樹脂成形品の製造方法について説明する。
図1に示すように、フィルム送り工程では、加飾フィルム30がフィルム送り装置(不図示)により型開きしている金型内へ送られる。ここでは、クランプ部材40が第1金型10から離れた位置に移動保持されており、加飾フィルム30はクランプ部材40と第1金型10との間を走向する。
【0033】
図2に示すように、次のクランプ工程では、第1金型10から離れた位置に保持されていたクランプ部材40が第1金型10における第2金型20との第1分割面13まで移動する。そして、キャビティ11の外周部で加飾フィルム30を、第1金型10の第1分割面13へ押し付ける。これにより、加飾フィルム30とキャビティ11の内面との間に密閉空間が形成される。このときの状態は、図3に示すように、未だ加飾フィルム30に張力が作用していない状態であって、クランプ部材40の押付部材41の押付面41A側はまだ撓んでいない。
【0034】
次に、図6に示すように、吸引工程では、吸引通路14に連通する吸引装置(不図示)が駆動され、吸引通路14,14A,14Bにより加飾フィルム30とキャビティ11の内面との間の密閉空間(図2参照)が真空引きされる。これにより、図6及び図7に示すように、加飾フィルム30がキャビティ11の内面に密着して沿うように変形する。また、クランプ部材40により挟持される加飾フィルム30に張力が作用する。また、図7に示すように、クランプ部材40において、押付部材41が撓んで押付面41Aがキャビティ11側に移動する。この結果、クランプ部材40と第1分割面13との間に挟持された加飾フィルム30がキャビティ11側へ引き込まれる。このため、キャビティ11内面の角部における加飾フィルム30の張力及び変形が緩和される。
【0035】
因みに、従来のようにクランプ部材40の固定により加飾フィルム30が移動しない構造であって、キャビティ11内面の角部付近に吸引通路を有していない構造の場合は、吸引工程においてクランプ部材40に挟持されている加飾フィルム30がキャビティ11内面に引き込まれることがない。このために、図8に示すように、キャビティ11内面の角部における加飾フィルム30の密着が不足し、角部に空間部110が残る。また、この場合は、真空引きにより加飾フィルム30に過大な張力が作用したり、溶融樹脂射出時に空間部110に位置する加飾フィルム30に大きな力が作用したりする。これら要因により、加飾フィルム30に皴、破れ、傷、局部的に箔肉化が生るという問題があり、樹脂成形品の外観が低下するという問題が生じていた。しかし、本実施の形態の場合にはこのような問題を緩和することができる。
【0036】
なお、樹脂成形品の形状や大きさが異なると、吸引工程において加飾フィルム30に作用する張力が変わり、必要とする移動距離も変わってくるので、樹脂成形品の形状や大きさに応じの押付部材41の形状、大きさ、材質を調節し、押付部材41の押付面41Aの移動量、すなわち、加飾フィルムの引込量を調節することが必要である。
【0037】
次に、吸引工程に続いて射出工程が行われる。真空引きの開始後又は真空引き終了後に金型が閉じられて、金型の内部に成形空間が形成され、射出工程が行われる。
図9図10に示すように、この実施の形態においては、加飾フィルム30がクランプ部材40と第1分割面13との間に挟持された状態のまま第2金型20が第1金型10の方へ移動して型締めが行われる。そして、型締めされた後、射出工程に移行し、スプル23から金型内部の成形空間に溶融樹脂26が流し込まれる。
【0038】
このとき、加飾フィルム30は、溶融樹脂26からの伝熱によりさらに軟化する。そして、流動する溶融樹脂26と接触することにより、加飾フィルム30の各部分が成形空間内において、溶融樹脂26が最後に到達する予定の領域の方へ延ばされた状態で、溶融樹脂26の射出が終了する。
【0039】
溶融樹脂26が成形空間内に充填された後、溶融樹脂26は冷却されて固化する。そして溶融樹脂26が固化した後、型開きされて取出し工程に移行する。
このとき、図11に示すように、固化した樹脂からなる成形品、この場合は箱型成形品50が第1金型10から離れるときに、加飾フィルム30の転写層32が成形品側にくっ付いて転写される。そして、型開きした後、ロボットなどにより成形品が金型から例えば図示矢印で示す方向へ取り出される。
【0040】
(効果)
本実施の形態に係るインモールド射出成形装置は、以上のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
【0041】
(1)加飾フィルム30は、型開き時にキャビティ11の外側でクランプ部材40の押付部材41と第1分割面13との間に挟持拘束されているが、加飾フィルム30とキャビティ11内面との間の密閉空間の空気を真空吸引する時に、加飾フィルム30に作用する張力により、押付部材41が加飾フィルム30を挟持拘束した状態のまま撓んで、押付面41Aがキャビティ11側へ移動する。これにより、加飾フィルム30とキャビティ11内面との間の密閉空間の吸引時に、加飾フィルム30がキャビティ11の2次元或いは3次元の角部に対し引き込まれ、キャビティ11の角部における加飾フィルム30に必要とされる伸び代や変形量が緩和される。このため、加飾フィルム30の破れ、傷、局部的な伸びによる転色層の薄肉化の発生を抑制することができる。
【0042】
(2)クランプ部材40は、押付部材41が撓んで押付面41Aがキャビティ11側へ移動するように弾性的に支持されている。したがって、加飾フィルム30とキャビティ11内面との間の密閉空間を気密に保持しながら、加飾フィルム30を移動させることができる。また、柔軟性材料からなる押付部材41の材質、寸法、大きさ等を調整することにより、加飾フィルム30に作用する張力、及び張力の変化に追随して移動させる加飾フィルム30の移動量を適切に設定することができる。
【0043】
(3)キャビティ11は入れ子構造として第1金型10に形成されるとともに、コア21は入れ子構造として第2金型20に形成され、さらに、クランプ部材40は型締め時コア21側のコア入れ子22に収納可能に設けられている。したがって、製造する樹脂成形品に対応してキャビ入れ子12及びコア入れ子22を変更する際に、クランプ部材40をその都度適正な仕様に変更することが容易となる。
【0044】
(4)吸引通路14は、複数の吸引通路14A,14Bからなり、複数の吸引通路14A,14Bのうちの少なくとも一部の吸引通路14A,14Bは、キャビティ11における複数の角部のうちの、吸引工程時の加飾フィルム30に作用する張力が大きくなる角部に対し開口するように形成されている。したがって、クランプ部材40の押付部材41の押付面41Aを前述のような移動可能に構成することに加えてこのような吸引通路14,14A,14Bを設けることにより、吸引工程時におけるキャビティ11の内面角部における加飾フィルム30の密着を良好にすることができる。これにより、加飾フィルム30の傷、破れ、皴、局部的な薄肉化を効果的に抑制することができる。
【0045】
(5)本実施の形態に係るインモールド射出成形装置を用いて樹脂成形品を製造すると、外観の良好な加飾樹脂成形品を製造することができる。特に、高い伸び率が要求される大型樹脂成形品において良好な製品を供給することができる。
【0046】
(変形例)
上記実施の形態に関する説明は、本発明に従うインモールド射出成形装置が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に従うインモールド射出成形装置は、例えば以下に示される上記実施の形態の変形例、及び、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。上記実施の形態において以下のように変更することもできる。
【0047】
・上記実施の形態においては、キャビティ11を備える第1金型10が固定型であって、コア21を備える第2金型20が可動型であったが、第1金型10を可動型、第2金型20を固定型とするように変更してもよい。
【0048】
・上記実施の形態においては、樹脂成形品は深堀形状の箱型成形品50であったが、このような形状に限られるものではない。例えば、図12に示すような、平面形状が四角形であって、一片のみに折曲部が形成されているような二次元的成形品70にも適用して効果がある。
【0049】
・また、樹脂成形品において、加飾フィルム30の張力が大きくなる位置が全周でなく一部の周辺に存在する場合、例えば、前出の図12のような二次元的成形品70を制作する場合には、本実施の形態のようなクランプ部材40を周囲四辺や角部の全部に配置する必要がない。したがって、この場合は、折曲部のある一片のみに本実施の形態に係るクランプ部材40を配置すればよい。
【0050】
・また、前記実施の形態においては、クランプ部材40には、適宜の間隔で取り付けられる取付ボルト43の頭部43Aを収納するためのスペースとして第2凹溝42Bが形成されていたが、この凹溝に代えて1個の取付ボルト43の頭部43Aを収納する凹部を取付ボルト43の個数分設けるようにしてもよい。
【0051】
・本実施の形態においては、図10に記載されているように、コア21の外周斜面部とキャビティ11の内面における外周斜面部とが斜面の途中で加飾フィルム30を挟んで突き合わされる金型となっているが、第1金型10と第2金型20との突合せ面をキャビティ11及びコア21の外周側とする従来一般的な金型としてもよい。
【0052】
・吸引通路14は、キャビ入れ子12内において複数の吸引通路14A,14Bに分岐され、キャビティ11内面の角部付近の底面に開口するように形成されているが、前記実施の形態のように1段階的に分岐される形態に限定されるものではない。例えば、1次的な吸引通路14A,14Bに対しさらに2次的な吸引通路を設けるような形態とすることもできる。また、キャビ入れ子12内で分岐せずにその外側から直接的に目的位置に吸引通路を開口するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0053】
10…第1金型
11…キャビティ
13…第1分割面
14…吸引通路
14A…吸引通路
14B…吸引通路
20…第2金型
21…コア
22…コア入れ子
30…加飾フィルム
40…クランプ部材
41…押付部材
41A…押付面
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図12