(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載されたCu−Mg系合金においては、Mgの含有量が多いため、導電性が不十分であり、高い導電性が要求される用途には適用することが困難であった。
また、特許文献2に記載されたCu−Mg系合金においては、Mgの含有量が0.01〜0.5mass%、及びPの含有量が0.01〜0.5mass%とされていることから、粗大な晶出物が生じ、冷間加工性及び曲げ加工性が不十分であった。
【0006】
ところで、小型化が進む電子・電気機器用部品の中でもサイズが比較的大きいリレーや大型端子といった電子・電気機器用部品を製造する場合には、電子・電気機器用部品の長手方向が、銅合金圧延板の圧延方向に対して平行方向を向くように打ち抜き加工されることが多い。すると、大型端子等においては、銅合金圧延板の圧延方向に対して曲げの軸が直交方向になるように曲げ加工が施されることになる。
最近では、電子・電気機器の軽量化にともない、これら電子機器や電気機器等に使用されるコネクタ等の端子、リレー、リードフレーム等の電子・電気機器用部品の薄肉化が図られている。このため、コネクタ等の端子においては、接圧を確保するために、厳しい曲げ加工を行う必要があり、従来にも増して、曲げ加工性が要求されている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、及び、バスバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明の電子・電気機器用銅合金は、Mgを0.15mass%以上、0.35mass%未満の範囲内で含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、導電率が75%IACS
を超えるとともに、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと、0.2%耐力YSと、から算出される降伏比YS/TSが88%を超えて
おり、前記0.2%耐力YSが313MPa以上であり、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされていることを特徴としている。
【0009】
上述の構成の電子・電気機器用銅合金によれば、Mgの含有量が0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内とされているので、銅の母相中にMgが固溶することにより、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。具体的には導電率が75%IACS超えとされているので、高い導電性が要求される用途にも適用することができる。
そして、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと0.2%耐力YSとから算出される降伏比YS/TSが88%超えとなっていることから、0.2%耐力YSが強度TSに対して相対的に高くなっている。よって、耐力−曲げバランスが向上し、圧延方向に対して平行方向における曲げ加工性が優れることになる。そのため、リレーや大型端子のように、銅合金圧延板の圧延方向に対して平行方向に曲げ加工し、複雑な形状に成形した場合であっても、割れ等の発生を抑制することができる。
さらに、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上であることから、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、例えばコネクタ端子等の接圧の低下を抑制することができる。よって、エンジンルーム等の高温環境下で使用される電子機器用部品の素材として適用することが可能となる。
【0010】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、Pを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含んでいてもよい。
この場合、Pの添加によって、Mgを含む銅合金溶湯の粘度を下げることができ、鋳造性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の電子・電気機器用銅合金においてPを上述の範囲で含有する場合には、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕+20×〔P〕<0.5の関係式を満足していることが好ましい。
この場合、MgとPを含む粗大な晶出物の生成を抑制でき、冷間加工性及び曲げ加工性が低下することを抑制できる。
【0012】
さらに、本発明の電子・電気機器用銅合金においてPを上述の範囲で含有する場合には、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕/〔P〕≦400の関係式を満たすことが好ましい。
この場合、鋳造性を低下させるMgの含有量と鋳造性を向上させるPの含有量との比率を、上述のように規定することにより、鋳造性を確実に向上させることができる。
【0013】
また、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、平均結晶粒径が100μm以下とされていることが好ましい。
結晶粒径と降伏比YS/TSとの関係を調査した結果、結晶粒径を小さくすることによって降伏比YS/TSを向上することが可能であることが判明した。そして、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、平均結晶粒径を100μm以下に抑制することにより、上述の降伏比を大きく向上させることができる。
【0015】
本発明の電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。
この構成の電子・電気機器用銅合金塑性加工材によれば、上述の電子・電気機器用銅合金で構成されていることから、導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性に優れており、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0016】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金塑性加工材においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することが好ましい。
この場合、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有しているので、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。なお、本発明において、「Snめっき」は、純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は、純Agめっき又はAg合金めっきを含む。
【0017】
本発明の電子・電気機器用部品は、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。なお、本発明における電子・電気機器用部品とは、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等を含むものである。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0018】
本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0019】
本発明のバスバーは、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成のバスバーは、上述の電子・電気機器用銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、及び、バスバーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態である電子・電気機器用銅合金について説明する。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Mgを0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内で含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、導電率が75%IACS超えとされている。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと、0.2%耐力YSと、から算出される降伏比YS/TSが88%を超える。すなわち、本実施形態では、電子・電気機器用銅合金の圧延材とされており、圧延の最終工程における圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと0.2%耐力YSとの関係が上述のように規定されているのである。
【0023】
なお、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、さらにPを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含んでいてもよい。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金においてPを上述の範囲で含有する場合には、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、
〔Mg〕+20×〔P〕<0.5
の関係式を満たしている。
さらに、本実施形態では、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、
〔Mg〕/〔P〕≦400
の関係式を満たしている。
【0024】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、平均結晶粒径が100μm以下とされている。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
【0025】
ここで、上述のように成分組成、結晶粒径、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0026】
(Mg:0.15mass%以上、0.35mass%未満)
Mgは、銅合金の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
ここで、Mgの含有量が0.15mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Mgの含有量が0.35mass%以上の場合には、導電率が大きく低下するとともに、銅合金溶湯の粘度が上昇し、鋳造性が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内に設定している。
なお、強度および耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Mgの含有量の下限を0.18mass%以上とすることが好ましく、0.2mass%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率の低下及び鋳造性の低下を確実に抑制するためには、Mgの含有量の上限を0.32mass%以下とすることが好ましく、0.3mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
(P:0.0005mass%以上、0.01mass%未満)
Pは、鋳造性を向上させる作用効果を有する元素である。また、Mgと化合物を形成することで、再結晶粒径を微細化させる作用も有する。
ここで、Pの含有量が0.0005mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Pの含有量が0.01mass%以上の場合には、上記のMgとPを含有する晶出物が粗大化することから、この晶出物が破壊の起点となり、冷間加工時や曲げ加工時に割れが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においてPを添加する場合には、Pの含有量を0.0005mass%以上、0.01mass%未満の範囲内に設定している。なお、確実に鋳造性を向上させるためには、Pの含有量の下限を0.0007mass%以上とすることが好ましく、0.001mass%以上とすることがさらに好ましい。また、粗大な晶出物の生成を確実に抑制するためには、Pの含有量の上限を0.009mass%未満とすることが好ましく、0.008mass%未満とすることがさらに好ましく、0.0075mass%以下とすることが最も好ましい。
【0028】
(〔Mg〕+20×〔P〕<0.5)
Pを添加した場合には、上述のようにMgとPが共存することにより、MgとPを含む晶出物が生成することになる。
ここで、mass%で、Mgの含有量〔Mg〕とPの含有量〔P〕とした場合に、〔Mg〕+20×〔P〕が0.5以上となる場合には、MgおよびPの総量が多く、MgとPを含む晶出物が粗大化するとともに高密度に分布し、冷間加工時や曲げ加工時に割れが生じやすくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においてPを添加する場合には、〔Mg〕+20×〔P〕を0.5未満に設定している。なお、晶出物の粗大化および高密度化を確実に抑制して、冷間加工時や曲げ加工時における割れの発生を抑制するためには、〔Mg〕+20×〔P〕を0.48未満とすることが好ましく、0.46未満とすることがさらに好ましい。
【0029】
(〔Mg〕/〔P〕≦400)
Mgは、銅合金溶湯の粘度を上昇させ、鋳造性を低下させる作用を有する元素であることから、鋳造性を確実に向上させるためには、MgとPの含有量の比率を適正化する必要がある。
ここで、mass%で、Mgの含有量を〔Mg〕、Pの含有量を〔P〕とした場合に、〔Mg〕/〔P〕が400を超える場合には、Pに対してMgの含有量が多くなり、Pの添加による鋳造性向上効果が小さくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においてPを添加する場合には、〔Mg〕/〔P〕を400以下に設定している。鋳造性をより向上させるためには、〔Mg〕/〔P〕を350以下とすることが好ましく、300以下とすることがさらに好ましい。
なお、〔Mg〕/〔P〕が過剰に低い場合には、Mgが晶出物として消費され、Mgの固溶による効果を得ることができなくなるおそれがある。MgとPを含有する晶出物の生成を抑制し、Mgの固溶による耐力、耐応力緩和特性の向上を確実に図るためには、〔Mg〕/〔P〕の下限を20超えとすることが好ましく、25超えであることがさらに好ましい。
【0030】
(不可避不純物:0.1mass%以下)
その他の不可避的不純物としては、Ag、B、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、希土類元素、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Se、Te、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Zn、Cd,Hg、Al、Ga、In、Ge、Sn、As、Sb、Tl、Pb、Bi、Be、N、C、Si、Li、H、O、S等が挙げられる。これらの不可避不純物は、導電率を低下させる作用があることから、総量で0.1mass%以下とする。
また、Ag、Zn、Snは銅中に容易に混入して導電率を低下させるため、総量で500massppm未満とすることが好ましい。
さらにSi、Cr、Ti、Zr、Fe、Coは、特に導電率を大きく減少させるとともに、介在物の形成により曲げ加工性を劣化させるため、これらの元素は総量で500massppm未満とすることが好ましい。
【0031】
(降伏比YS/TS:88%超え)
圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと0.2%耐力YSとから算出される降伏比YS/TSが88%を超えていると、強度TSに対して相対的に0.2%耐力が高くなる。曲げ性は、破壊の問題であり、強度と強い相関がある。このため、強度に対して相対的に0.2%耐力が高い場合には、耐力―曲げバランスが高くなり、曲げ加工性に優れることになる。
ここで、曲げ加工性を確実に向上させるためには、上述の降伏比YS/TSを90%以上とすることが好ましく、91%以上とすることがより好ましく、92%以上とすることがさらに好ましい。
【0032】
(導電率:75%IACS超え)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金において、導電率を75%IACS超えに設定することにより、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品として良好に使用することができる。
なお、導電率は76%IACS超えであることが好ましく、77%IACS超えであることがさらに好ましく、78%IACS超えであることがより好ましく、80%IACS超えであることがさらに好ましい。
【0033】
(平均結晶粒径:100μm以下)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、平均結晶粒径が100μm以下とされている。結晶粒径が小さくなると降伏比YS/TSが向上することから、平均結晶粒径を100μm以下に設定することで、圧延方向に対して平行方向における降伏比YS/TSをさらに向上させることができる。
なお、平均結晶粒径は、50μm以下とすることが好ましく、30μm以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
(残留応力率:50%以上)
本実施形態である電子機器用銅合金においては、上述のように、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
この条件における残留応力率が高い場合には、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、接圧の低下を抑制することができる。よって、本実施形態である電子機器用銅合金は、自動車のエンジンルーム周りのような高温環境下で使用される端子として適用することが可能となる。本実施形態では、圧延方向に対して直交方向に応力緩和試験を行った残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
なお、残留応力率は150℃、1000時間で60%以上とすることが好ましく、150℃、1000時間で70%以上とすることがさらに好ましい。
【0035】
次に、このような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0036】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。ここで、銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。溶解工程では、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、H
2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
【0037】
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
この際、溶湯の凝固時に、MgとPを含む晶出物が形成されるため、凝固速度を速くすることで晶出物サイズをより微細にすることが可能となる。そのため、溶湯の冷却速度は0.1℃/sec以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5℃/sec以上であり、最も好ましくは1℃/sec以上である。
【0038】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析して濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上900℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりする。なお、この加熱工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
【0039】
ここで、加熱温度が300℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が900℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を300℃以上900℃以下の範囲に設定している。
なお、後述する粗圧延の効率化と組織の均一化のために、前述の均質化/溶体化工程S02の後に熱間加工を実施してもよい。この場合、加工方法に特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。また、熱間加工温度は、300℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
(粗加工工程S03)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。なお、この粗加工工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率(圧延率)については、20%以上が好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0041】
(中間熱処理工程S04)
粗加工工程S03後に、溶体化の徹底、再結晶組織化または加工性向上のための軟化を目的として熱処理を実施する。熱処理の方法は特に限定はないが、好ましくは400℃以上900℃以下の保持温度、10秒以上10時間以下の保持時間で、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で熱処理を行う。また、加熱後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
なお、粗加工工程S03及び中間熱処理工程S04は、繰り返し実施してもよい。
【0042】
(仕上加工工程S05)
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、仕上加工を行う。なお、この仕上加工工程S05における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するため、または軟化を抑制するために冷間、または温間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、仕上加工工程S05において、加工により十分に転位を導入し、加工硬化による強度向上、さらに耐力の向上による降伏比の上昇を達成するためには、加工率を35%以上とすることが好ましい。また。さらなる強度と降伏比の向上を図る場合には、加工率を40%以上とすることがより好ましく、加工率を45%以上とすることがさらに好ましい。
【0043】
(仕上熱処理工程S06)
次に、仕上加工工程S05によって得られた塑性加工材に対して、耐応力緩和特性の向上および低温焼鈍硬化のために、または残留ひずみの除去のために、仕上熱処理を実施する。
熱処理温度が高すぎると、回復、もしくは再結晶により組織中の転位が大きく減少し、耐力が大きく低下する。すなわち、降伏比YS/TSが低下することから、熱処理温度は、800℃以下とすることが好ましく、700℃以下とすることがより好ましい。また、仕上加工工程S05にて高い加工率で加工した際に導入された転位を再配列させ、確実に延性を回復させるために熱処理温度は250℃以上とすることが好ましく、300℃以上とすることがより好ましい。なお、この仕上熱処理工程S06においては、再結晶による強度の大幅な低下を避けるように、熱処理条件(温度、時間、冷却速度)を設定する必要がある。
例えば350℃では1秒から120秒程度保持とすることが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。
熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
さらに、上述の仕上加工工程S05と仕上熱処理工程S06とを、繰り返し実施してもよい。
【0044】
このようにして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材として圧延板(薄板)が製出されることになる。なお、この電子・電気機器用銅合金塑性加工材(薄板)の板厚は、0.05mm超え3.0mm以下の範囲内とされており、好ましくは0.1mm超え3.0mm未満の範囲内とされている。電子・電気機器用銅合金塑性加工材(薄板)の板厚が0.05mm以下の場合、大電流用途での導体としての使用には不向きであり、板厚が3.0mmを超える場合には、プレス打ち抜き加工が困難となる。
【0045】
ここで、本実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、そのまま電子・電気機器用部品に使用してもよいが、板面の一方、もしくは両面に、膜厚0.1〜100μm程度のSnめっき層またはAgめっき層を形成してもよい。この際、電子・電気機器用銅合金塑性加工材の板厚がめっき層厚さの10〜1000倍となることが好ましい。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金(電子・電気機器用銅合金塑性加工材)を素材として、打ち抜き加工や曲げ加工等を施すことにより、例えばコネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバーといった電子・電気機器用部品が成形される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金によれば、Mgの含有量が0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内とされているので、銅の母相中にMgが固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、導電率が75%IACS以上とされているので、高い導電性が要求される用途にも適用することができる。
【0047】
そして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと0.2%耐力YSとから算出される降伏比YS/TSが88%超えとなっていることから、耐力―曲げバランスが向上し、圧延方向に対して平行方向における曲げ加工性が優れることになる。そのため、リレーや大型端子のように、銅合金圧延板の圧延方向に対して平行方向に曲げ加工し、複雑な形状に成形した場合であっても、割れ等の発生を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においてPを添加し、Pの含有量を0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内とした場合には、銅合金溶湯の粘度を低下させ、鋳造性を向上させることができる。
そして、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕+20×〔P〕<0.5の関係式を満足しているので、MgとPの粗大な晶出物の生成を抑制でき、冷間加工性及び曲げ加工性が低下することを抑制できる。
さらに、本実施形態では、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕/〔P〕<400の関係式を満たしているので、鋳造性を低下させるMgの含有量と鋳造性を向上させるPの含有量との比率が適正化され、P添加の効果により、鋳造性を確実に向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、平均結晶粒径が100μm以下とされているので、降伏比YS/TSを大きく向上させることができる。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされているので、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、例えばコネクタ端子等の接圧の低下を抑制することができる。よって、エンジンルーム等の高温環境下で使用される電子機器用部品の素材として適用することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金塑性加工材は、上述の電子・電気機器用銅合金で構成されていることから、この電子・電気機器用銅合金塑性加工材に曲げ加工等を行うことで、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品を製造することができる。
なお、表面にSnめっき層又はAgめっき層を形成した場合には、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0051】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用部品(コネクタやプレスフィット等の端子、リレー、リードフレーム、バスバー等)は、上述の電子・電気機器用銅合金で構成されているので、小型化および薄肉化しても優れた特性を発揮することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態である電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品(端子、バスバー等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、電子・電気機器用銅合金の製造方法の一例について説明したが、電子・電気機器用銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
純度99.99mass%以上の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる銅原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、各種添加元素を添加して表1に示す成分組成に調製し、鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、本発明例3は断熱材(イソウール)鋳型、本発明例23はカーボン鋳型、本発明例1〜2、4〜22、24〜32、比較例1〜5は水冷機能を備えた銅合金鋳型を鋳造用の鋳型として用いた。鋳塊の大きさは、厚さ約20mm×幅約150mm×長さ約70mmとした。
この鋳塊の鋳肌近傍を面削し、最終製品の板厚が0.5mmとなるように、鋳塊を切り出してサイズを調整した。
このブロックを、Arガス雰囲気中において、表2に記載の温度条件で4時間の加熱を行い、均質化/溶体化処理を行った。
【0054】
その後、表2に記載の条件で粗圧延を実施した後、ソルトバスを用いて表2に記載された温度条件で熱処理を行った。
熱処理を行った銅素材を、適宜、最終形状に適した形にするために、切断するとともに、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。その後、常温で、表2に記載された圧延率で仕上圧延(仕上加工)を実施し、厚さ0.5mm、幅約150mm、長さ200mmの薄板を製出した。
そして、仕上圧延(仕上加工)後に、表2に示す条件で、Ar雰囲気中で仕上熱処理を実施し、その後、水焼入れを行い、特性評価用薄板を作成した。
【0055】
(鋳造性)
鋳造性の評価として、前述の鋳造時における肌荒れの有無を観察した。目視で肌荒れが全くあるいはほとんど認められなかったものを◎、深さ1mm未満の小さな肌荒れが発生したものを○、深さ1mm以上2mm未満の肌荒れが発生したものを△とした。また深さ2mm以上の大きな肌荒れが発生したものは×とした。評価結果を表3に示す。
なお、肌荒れの深さとは、鋳塊の端部から中央部に向かう肌荒れの深さのことである。
【0056】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力を測定した。なお、試験片は、圧延方向に平行な方向で採取した。そして、得られた強度TS、0.2%耐力YSから、降伏比YS/TSを算出した。評価結果を表3に示す。
【0057】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ150mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して垂直になるように採取した。評価結果を表3に示す。
【0058】
(曲げ加工性)
日本伸銅協会技術標準JCBA−T307:2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。圧延方向に対して曲げの軸が直交方向になるように、特性評価用薄板から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.3mm(R/t=0.6)のW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
曲げ部の外周部を目視で観察して割れが観察された場合は「×」、大きなしわが観察された場合は○、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を◎として判定を行った。なお、◎、○は許容できる曲げ加工性と判断した。評価結果を表3に示す。
【0059】
(平均結晶粒径)
各試料において、圧延面を鏡面研磨した後エッチングを行い、光学顕微鏡にて、圧延方向が写真の横になるように撮影し、500倍の視野(約700×500μm
2)で観察を行った。そして、結晶粒径をJIS H 0501の切断法にしたがい、写真の縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径として算出した。
また、結晶粒径が10μm以下と微細な場合は、SEM−EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を測定した。耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を大傾角粒界とし、15°以下を小傾角粒界とした。大傾角粒界を用いて、結晶粒界マップを作成し、JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径とした。
【0060】
(耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、150℃の温度で1000時間保持後の残留応力率を測定した。評価結果を表3に示す。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して平行な方向に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ
0/L
s2
ただし、
E:ヤング率(MPa)
t:試料の厚み(t=0.5mm)
δ
0:初期たわみ変位(2mm)
L
s:スパン長さ(mm)
である。
150℃の温度で、1000h保持後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、耐応力緩和特性を評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1−δ
t/δ
0)×100
ただし、
δ
t:150℃で1000h保持後の永久たわみ変位(mm)−常温で24h保持後の永久たわみ変位(mm)
δ
0:初期たわみ変位(mm)
である。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
比較例1〜2は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも少なく、0.2%耐力が低く、強度不足であった。また、耐応力緩和特性も不十分であった。
比較例3〜4は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも多く、導電率が低くかった。
比較例5は、降伏比YS/TSが低く、曲げ加工性が不十分であった。
【0065】
これに対して、本発明例においては、0.2%耐力、導電率、耐応力緩和特性、曲げ加工性に優れていることが確認される。また、Pを添加した場合には鋳造性にも優れていることが確認される。
以上のことから、本発明例によれば、導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性、鋳造性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金塑性加工材を提供できることが確認された。
【課題】導電性、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性、鋳造性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、及び、バスバーを提供する。
【解決手段】Mgを0.15mass%以上、0.35mass%未満の範囲内で含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、導電率が75%IACS超えるとともに、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の強度TSと、0.2%耐力YSと、から算出される降伏比YS/TSが88%を超えることを特徴とする。さらにPを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含んでいてもよい。