特許第6187717号(P6187717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187717評価方法、複合評価方法、評価装置、および複合評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6187717
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】評価方法、複合評価方法、評価装置、および複合評価装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20170821BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   H02M1/00 B
   G01R29/08 D
【請求項の数】21
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-34147(P2017-34147)
(22)【出願日】2017年2月24日
【審査請求日】2017年2月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】勝又 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】玉手 道雄
(72)【発明者】
【氏名】藤田 美和子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 達見子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑平
(72)【発明者】
【氏名】皆見 崇之
(72)【発明者】
【氏名】砂坂 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠則
(72)【発明者】
【氏名】荒木 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヒュー バオ チョン
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−290938(JP,A)
【文献】 特開平10−307159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
G01R 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷ケーブルにより負荷と並列に接続された半導体デバイスにスイッチング動作させる段階と、
前記スイッチング動作中に前記負荷ケーブルに流れるコモンモード電流を測定する段階と、
前記コモンモード電流に基づき、放射ノイズの評価指標を出力する段階と
を備え
前記半導体デバイスは第1デバイスを含み、
前記負荷ケーブルは、
一端が前記第1デバイスの一端に接続される第1接続線と、
一端が前記第1デバイスの他端に接続される第2接続線と、
前記第1接続線の他端および前記第2接続線の他端の間に接続される前記負荷と
を有する評価方法。
【請求項2】
前記評価指標を出力する段階は、前記コモンモード電流に含まれる、周波数成分の放射電界強度を前記放射ノイズの評価指標として算出する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記負荷ケーブルは、少なくとも一部が金属シールドで覆われている、請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記金属シールドは、前記半導体デバイスが絶縁材を介して取り付けられる導電性部材と電気的に接続される、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記導電性部材は、前記半導体デバイスの温度を調節する温度調節部の一部である、請求項4に記載の評価方法。
【請求項6】
前記半導体デバイスに対して出力した前記評価指標と、前記半導体デバイスとは異なる基準デバイスに対して出力した前記評価指標と、を比較する段階と、
前記比較結果に応じて、前記基準デバイスに対する前記半導体デバイスの前記放射ノイズの強度を評価する段階と、
を更に備える請求項1から5のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記半導体デバイスを備える装置の放射ノイズを推定する推定方法であって、
請求項1から6のいずれか一項に記載の評価方法によって、複数の条件における前記スイッチング動作に対応して出力された前記半導体デバイスの複数の評価指標を取得する段階と、
前記複数の評価指標を組み合わせて前記装置の放射ノイズを推定する段階と
を備える複合評価方法。
【請求項8】
前記評価指標の組み合わせは、前記半導体デバイスの前記複数の評価指標の最大値または和である、請求項7に記載の複合評価方法。
【請求項9】
前記評価指標の組み合わせは、前記半導体デバイスの前記複数の評価指標の平均値である、請求項7または8に記載の複合評価方法。
【請求項10】
前記評価指標の組み合わせは、前記複数の条件に対応するそれぞれの重みを、前記半導体デバイスの前記複数の評価指標のうち対応する評価指標にそれぞれ乗じてから算出する平均値である、請求項9に記載の複合評価方法。
【請求項11】
導体デバイスと荷とを電気的に接続する負荷ケーブルと、
前記半導体デバイスに予め定められたスイッチング信号を供給する信号供給部と、
前記負荷ケーブルに流れるコモンモード電流を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づき、前記半導体デバイスの放射ノイズの評価指標を出力する評価指標出力部と、
を備え
前記半導体デバイスは第1デバイスを含み、
前記負荷ケーブルは、
一端が前記第1デバイスの一端に接続される第1接続線と、
一端が前記第1デバイスの他端に接続される第2接続線と、
前記第1接続線の他端および前記第2接続線の他端の間に接続される前記負荷と
を有する評価装置。
【請求項12】
前記負荷ケーブルは、少なくとも一部が金属シールドで覆われたケーブルである、請求項11に記載の評価装置。
【請求項13】
前記検出部は、前記金属シールドで覆われたケーブル以外の箇所に設けられる、請求項12に記載の評価装置。
【請求項14】
前記金属シールドは、前記半導体デバイスが絶縁材を介して配置される基板が固定される導電性部材と電気的に接続される、請求項12または13に記載の評価装置。
【請求項15】
前記導電性部材は、前記半導体デバイスの温度を調節する温度調節部の一部である、請求項14に記載の評価装置。
【請求項16】
電源と、前記半導体デバイスにそれぞれ並列に接続される複数の容量部とを備える、請求項11から15のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項17】
前記複数の容量部のうち、少なくとも1つの容量部は、直列に接続された第1容量素子および第2容量素子を有し、
前記第1容量素子および前記第2容量素子の間は、基準電位に接続される、請求項16に記載の評価装置。
【請求項18】
前記半導体デバイスは、前記第1デバイスと直列に接続された2デバイスを含み、
記信号供給部は、前記第2デバイスに前記スイッチング信号を供給する、請求項11から17のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項19】
前記検出部は、前記第1接続線および前記第2接続線において、前記第1デバイスから前記負荷に向かって流れる前記コモンモード電流を検出する電流プローブを有する、請求項18に記載の評価装置。
【請求項20】
前記評価指標出力部が出力する前記評価指標を記憶する記憶部と、
前記評価指標出力部が出力した前記評価指標と、前記記憶部に記憶された前記半導体デバイスとは異なる基準デバイスに対する前記評価指標と、を比較する比較部と、
前記比較結果に応じて、前記半導体デバイスの前記放射ノイズの相対的な強度変化を評価する評価部と、
を更に備える請求項11から19のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項21】
請求項11から20のいずれか一項に記載の評価装置によって、複数の条件における前記スイッチング信号に対応して出力された前記半導体デバイスの複数の評価指標を取得する取得部と、
前記複数の評価指標を組み合わせて前記半導体デバイスを備える装置の放射ノイズを推定する推定部と、
を備える複合評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法、複合評価方法、評価装置、および複合評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータおよびPWM整流器等の電力変換装置をはじめとする電気電子機器が発生する電磁ノイズ(伝導・放射)には、EMC(Electro-Magnetic Compatibility)規格によって限度値が定められており、十分に電磁ノイズを低減することが求められている。このような電力変換装置の動作時に発生する電磁ノイズを、シミュレーションまたは簡易的な測定によって評価する方法が提案されていた(例えば、特許文献1から3参照)。
特許文献1 特開平6−309420号
特許文献2 特開2014−135095号
特許文献3 特開2005−233833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなシミュレーションは、解析モデルを用いる。しかしながら、当該解析モデルは、電力変換装置の回路基板や筐体構造の詳細が決まった後でなければ作成できない。また、簡易的な測定による電磁ノイズ評価も、電力変換装置が完成した後でなければ評価することができない。したがって、電力変換装置が完成した後に電磁ノイズの評価結果が「規格不適合」となることもあり、この場合、EMCフィルタ設計、部品選定、基板アートワーク、および構造検討等を再度実施しなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、負荷ケーブルにより負荷と並列に接続された半導体デバイスにスイッチング動作させる段階と、スイッチング動作中に負荷ケーブルに流れるコモンモード電流を測定する段階と、コモンモード電流に基づき、放射ノイズの評価指標を出力する段階とを備える評価方法および評価装置を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、半導体デバイスを備える装置の放射ノイズを推定する推定方法であって、第1の態様の評価方法によって、複数の条件におけるスイッチング動作に対応して出力された半導体デバイスの複数の評価指標を取得する段階と、複数の評価指標を組み合わせて装置の放射ノイズを推定する、複合評価方法および複合評価装置を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】半導体デバイス10のスイッチング特性を評価する評価回路100の構成例を示す。
図2】評価回路100を用いて半導体デバイス10のスイッチング特性を測定した結果の一例を示す。
図3】本実施形態における評価装置200の構成例を、評価対象の半導体デバイス10と共に示す。
図4】本実施形態に係る評価装置200の動作フローを示す。
図5】本実施形態に係る評価指標出力部230が出力する評価指標の一例を示す。
図6】本実施形態に係る評価装置200の変形例を示す。
図7】本実施形態における複合評価装置300の構成例を、データベース410と共に示す。
図8】本実施形態に係る複合評価装置300の動作フローを示す。
図9】本実施形態に係る評価対象の半導体デバイス10が出力する電流波形の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、半導体デバイス10のスイッチング特性を評価する評価回路100の構成例を示す。評価対象の半導体デバイス10は、直列に接続された第1デバイス12および第2デバイス14を含む例を示す。図1は、第1デバイス12がダイオードであり、第2デバイス14がIGBT等の半導体スイッチに逆並列にダイオードが接続されたダイオードの組み合わせからなる例を示す。図1に示す評価回路100を用いて、第2デバイス14のターンオン動作およびターンオフ動作等を実行することにより、半導体デバイス10のスイッチング損失およびサージ電圧等を評価することができる。評価回路100は、電源110と、第1容量部120と、第2容量部130と、負荷リアクトル140と、信号供給部150と、を備える。
【0010】
電源110は、直流電圧VDCを出力する直流電源である。電源110は、半導体デバイス10の両端に接続される。電源110は、例えば、第1デバイス12の一端(カソード端子)と第2デバイス14の他端(エミッタ端子)に接続され、第1デバイス12および第2デバイス14に直流電圧を供給する。この場合、第1デバイス12の他端(アノード端子)が第2デバイス14の一端(コレクタ端子)に接続される。
【0011】
第1容量部120は、半導体デバイス10と並列に接続され、電源110から出力される直流電圧VDCを平滑化する。第1容量部120は、例えば、容量CDCのコンデンサである。第1容量部120は、一例として、電解コンデンサである。第2容量部130は、半導体デバイス10と並列に接続され、サージ電圧を抑制する。第2容量部130は、例えば、容量Cのコンデンサである。第1容量部120および第2容量部130は、異なる容量のコンデンサであることが望ましく、例えば、容量CDCは、容量Cよりも大きい容量である。
【0012】
負荷リアクトル140は、第1デバイス12の両端に接続される。負荷リアクトル140は、一例として、インダクタンスLを有している。
【0013】
信号供給部150は、半導体デバイス10に予め定められたスイッチング信号を供給する。信号供給部150は、例えば、パルス発生装置および増幅回路等を有し、第2デバイス14のゲート端子にパルス状のスイッチング信号Vを供給する。第2デバイス14は、当該スイッチング信号Vがゲート端子に供給されることにより、コレクタ端子およびエミッタ端子間の電気的な接続状態(オン状態)および切断状態(オフ状態)を切り換える。
【0014】
以上の評価回路100は、スイッチング信号を第2デバイス14に供給して、半導体デバイス10をスイッチング動作させることができる。したがって、例えば、スイッチング動作中のコレクタ端子に流れるコレクタ電流iを外部の測定装置等で測定することで、第2デバイス14のスイッチング特性を取得することができる。
【0015】
また、スイッチング動作中において、第1デバイス12に流れる順方向電流iを外部の測定装置等で測定することで、第1デバイス12のスイッチング特性を評価することができる。なお、第2デバイス14のコレクタおよびエミッタの端子間電圧をVceとし、第1デバイス12の両端電圧をVとする。評価回路100を用いたスイッチング特性の測定について次に説明する。
【0016】
図2は、評価回路100を用いて半導体デバイス10のスイッチング特性を測定した結果の一例を示す。図2は、横軸を時間、縦軸を電圧値または電流値とする。図2は、評価回路100がスイッチング信号Vにより、第2デバイス14のオン状態およびオフ状態を切り換えて、第2デバイス14にターンオン動作およびターンオフ動作させた例を示す。
【0017】
スイッチング信号Vは、時刻tにおいてハイ電圧となり、第2デバイス14をオン状態にする。第2デバイス14のコレクタ端子およびエミッタ端子の間が導通になることにより、電源110から負荷リアクトル140を介して第2デバイス14へと電流が流れる。第2デバイス14へと流れる電流は、コレクタ電流iとして観測され、時刻tから略一定の変化率di/dtで上昇する。ここで、変化率di/dtは、次式で示される。
【数1】
【0018】
また、スイッチング信号Vは、時刻tにおいてロー電圧となり、第2デバイス14をオフ状態にする。ここで、評価回路100は、予め定められたコレクタ電流iが流れた時点で、第2デバイス14をオフ状態に切り換えるように、時刻tから時刻tまでの時間を設定してよい。これにより、評価回路100は、予め定められたコレクタ電流iの条件における、第2デバイス14のターンオフ動作を実行することができる。即ち、予め定められたコレクタ電流iの条件で第2デバイス14をターンオフ動作させた場合の、過渡応答を測定することができる。
【0019】
なお、コレクタおよびエミッタの端子間電圧Vceは、第2デバイス14がオフ状態の時刻tまでの時間において、直流電圧VDCと略同一の電圧となる。そして、時刻tから時刻tまでの時間において、第2デバイス14がオン状態となるので、端子間電圧Vceは略0Vとなる。また、第1デバイス12は、時刻tまでの時間は電流を流さないので、順方向電流iは略0Aとなる。また、第1デバイス12の両端電圧Vは、時刻tまでは略0Vであり、時刻tから時刻tまでの時間において、直流電圧VDCと略同一の電圧となる。
【0020】
時刻tにおいて、第2デバイス14がオフ状態になると、負荷リアクトル140は、流れていた電流を継続させて流すように働くので、当該負荷リアクトル140から第1デバイス12の経路に電流が環流する。したがって、第1デバイス12の順方向電流iは、時刻tにおいて立ち上がり、時間と共に電流値が徐々に減少する。なお、第1デバイス12の時刻tにおける順方向電流iの立ち上がりを、準回復動作とする。そして、第1デバイス12に順方向電流iが流れているうちに、第2デバイス14をオン状態とすることで、当該第1デバイス12の逆回復動作と、第2デバイス14のターンオン動作を実行することができる。
【0021】
ここで、評価回路100は、予め定められた順方向電流iが流れた時点で、第2デバイス14をオン状態に切り換えるように、時刻tから時刻tまでの時間を設定してよい。これにより、評価回路100は、予め定められた順方向電流iの条件における、第1デバイス12の逆回復動作および第2デバイス14のターンオン動作を実行することができる。即ち、予め定められた順方向電流iの条件で第2デバイス14をターンオン動作させた場合の、第2デバイス14および第1デバイス12の過渡応答を測定することができる。
【0022】
このように、スイッチング信号Vは、時刻tにおいて再びハイ電圧となり、第2デバイス14をオン状態にする。第2デバイス14の端子間電圧Vceは、第2デバイス14がオフ状態の時刻tから時刻tまでの時間において、直流電圧VDCと略同一の電圧となり、時刻tから再び略0Vとなる。また、第1デバイス12の両端電圧Vは、時刻tから時刻tまでの時間において、略0Vとなり、時刻tから再び直流電圧VDCと略同一の電圧となる。
【0023】
なお、第1デバイス12の準回復動作および第2デバイス14のターンオフ動作は、同一のスイッチング信号Vで、少なくとも一部が同一の時間領域で観測できる。同様に、第1デバイス12の逆回復動作および第2デバイス14のターンオン動作も、同一のスイッチング信号Vで、少なくとも一部が同一の時間領域で観測できる。
【0024】
例えば、信号供給部150が、第2デバイス14をターンオン動作させるスイッチング信号Vを第2デバイス14のゲート端子に供給した場合を考える。この場合において、第2デバイス14のコレクタ・エミッタの端子間電圧Vceの過渡応答を検出すると、第2デバイス14のターンオン特性を観測することができる。また、第1デバイス12に流れる電流iを検出すると、第1デバイス12の準回復特性を観測することができる。
【0025】
同様に、信号供給部150が、第2デバイス14をターンオフ動作させるスイッチング信号Vを第2デバイス14のゲート端子に供給した場合を考える。この場合において、第2デバイス14のコレクタ・エミッタの端子間電圧Vceを検出すると、第2デバイス14のターンオフ特性を観測することができる。また、第1デバイス12に流れる電流iを検出すると、第1デバイス12の逆回復特性を観測することができる。
【0026】
このように、評価回路100を用いて半導体デバイス10のスイッチング特性を測定し、例えば、予め定められた基準を満たす良品と評価された半導体デバイス10が、市場等に出荷される。しかしながら、スイッチング特性が良好な半導体デバイス10を用いて電力変換装置等を製造しても、当該電力変換装置が発生する電磁ノイズがEMC規格で定められた基準値を超えてしまうことがある。この場合、電力変換装置が完成した後に、EMCフィルタ設計、半導体デバイス10を含む部品の再選定、基板アートワーク、および構造検討等を再度実施しなければならず、膨大な手間とコストが発生してしまう。
【0027】
そこで、本実施形態に係る評価装置200は、半導体デバイス10のスイッチング特性を評価すると共に、当該半導体デバイス10の放射ノイズを評価して評価指標を出力する。これにより、当該半導体デバイス10を搭載した電力変換装置等が発生する放射ノイズを、当該電力変換装置が完成する前に推定することができ、製造過程における手間とコストを低減させる。このような評価装置200について、次に説明する。
【0028】
図3は、本実施形態における評価装置200の構成例を、評価対象の半導体デバイス10と共に示す。評価装置200は、一部が図1に示す評価回路100と同様の構成である。したがって、評価装置200を用いることで、図1および図2で説明した半導体デバイス10のスイッチング特性を評価することができる。評価装置200は、電源110と、第1容量部120と、第2容量部130と、負荷リアクトル140と、信号供給部150と、負荷ケーブル210と、検出部220と、評価指標出力部230と、記憶部240と、比較部250と、評価部260と、を備える。
【0029】
図3に示す電源110、第1容量部120、第2容量部130、負荷リアクトル140、および信号供給部150は、図1で説明した電源110、第1容量部120、第2容量部130、負荷リアクトル140、および信号供給部150の動作と略同一なので、同一の符号を付している。したがって、ここではこれらの説明を省略する。
【0030】
なお、図3において、評価対象の半導体デバイス10は、直列に接続された第1デバイス12および第2デバイス14を含む例を示す。ここで、第1デバイス12および第2デバイス14は、MOSFETまたはIGBT等の半導体スイッチである。図3は、第1デバイス12および第2デバイス14がIGBTで、それぞれにダイオードが逆並列に接続されている例を示す。
【0031】
負荷ケーブル210は、評価対象の半導体デバイス10に電気的に接続される。負荷ケーブル210は、第1接続線212と、第2接続線214とを有する。第1接続線212は、一端が第1デバイス12の一端に接続され、他端が負荷リアクトル140の一端に接続される。第2接続線214は、一端が第1デバイスの他端に接続され、他端が負荷リアクトル140の他端に接続される。即ち、負荷リアクトル140は、第1接続線212の他端および第2接続線214の他端の間に接続される。なお、第1デバイス12の一端はコレクタ端子であり、他端はエミッタ端子である。
【0032】
負荷ケーブル210を流れるコモンモード電流iradは、任意の瞬間において第1接続線212と第2接続線214を流れる電流の差分として表現できる。
【0033】
検出部220は、負荷ケーブル210に流れるコモンモード電流iradを検出する。検出部220は、例えば、コモンモード電流iradに応じて発生する電界および/または磁界を検出して、当該コモンモード電流iradを検出する。検出部220は、一例として、第1接続線212および第2接続線214において、第1デバイス12から負荷リアクトル140に向かって流れるコモンモード電流を検出する電流プローブを有する。
【0034】
評価指標出力部230は、検出部220の検出結果に基づき、半導体デバイス10の放射ノイズの評価指標を出力する。評価指標出力部230は、検出部220が検出したコモンモード電流の周波数成分を放射ノイズの評価指標として出力する。評価指標出力部230は、例えば、コモンモード電流に含まれる、周波数成分の放射電界強度を放射ノイズの評価指標として算出する。一例として、評価指標出力部230は、スペクトラムアナライザ等の周波数ドメインの測定を実行する測定器を有し、周波数ドメインの測定結果を評価指標として出力する。また、評価指標出力部230は、オシロスコープ等の時間ドメインの測定器を有し、時間ドメインの測定結果をフーリエ変換して、周波数ドメインのデータに変換し、評価指標として出力する。評価指標出力部230は、評価指標を記憶部240および比較部250に供給する。
【0035】
記憶部240は、評価指標出力部230が出力する評価指標を記憶する。記憶部240は、例えば、当該評価装置200が評価した評価対象の半導体デバイス10と対応付けて、評価指標を記憶する。記憶部240は、一例として、当該評価装置200が評価して出力した過去の評価指標を記憶して、評価指標のデータベースとして機能する。なお、記憶部240は、当該評価装置200の内部および外部のいずれかに設けられてもよい。また、記憶部240は、ネットワーク等を介して評価装置200の本体と接続されるデータベースとすることもできる。
【0036】
比較部250は、評価指標出力部230が今回出力した評価指標と、記憶部240に記憶された半導体デバイス10とは異なる基準デバイスに対する過去の評価指標と、を比較する。ここで、半導体デバイス10は、基準デバイスを改良したデバイスであってよい。この場合、比較部250は、改良前の基準デバイスの評価指標と、改良後の半導体デバイス10の評価指標とを比較する。
【0037】
評価部260は、比較部250の比較結果に応じて、半導体デバイス10の放射ノイズの相対的な強度変化を評価する。評価部260は、評価結果を出力する。評価部260は、表示装置、または、外部のデータベース等に評価結果を出力する。また、評価部260は、評価結果をデータシート等の予め定められた形式で出力してもよい。
【0038】
以上の本実施形態に係る評価装置200は、図1および図2で説明した半導体デバイス10のスイッチング動作を実行して、当該半導体デバイス10の放射ノイズを評価する。評価装置200による半導体デバイス10の評価動作について、次に説明する。
【0039】
図4は、本実施形態に係る評価装置200の動作フローを示す。評価装置200は、図4に示すS410からS460の動作を実行して、評価対象の半導体デバイス10の放射ノイズを評価する。
【0040】
まず、負荷ケーブル210が電気的に接続された半導体デバイス10に、スイッチング動作を実行させる(S410)。即ち、負荷ケーブル210により負荷と並列に接続された半導体デバイス10にスイッチング動作させる。例えば、信号供給部150は、図2に示すスイッチング信号Vを第2デバイス14のゲート端子に供給して、第1デバイス12の準回復動作と逆回復動作、および第2デバイス14のターンオン動作とターンオフ動作といったスイッチング動作を実行させる。
【0041】
そして、半導体デバイス10のスイッチング動作中に、検出部220は、負荷ケーブル210に流れるコモンモード電流を測定する(S420)。評価指標出力部230は、例えば、検出部220が検出したコモンモード電流の時間波形を周波数変換して、周波数成分を算出する。また、評価指標出力部230は、スペクトラムアナライザ等の周波数ドメインの計測装置を有し、コモンモード電流の周波数成分を測定してもよい。
【0042】
次に、コモンモード電流の測定結果に基づき、放射電界強度を算出する(S430)。評価指標出力部230は、例えば、コモンモード電流の周波数成分に基づき、半導体デバイス10の放射ノイズの放射電界強度を算出する。評価指標出力部230は、一例として、次式を用いて、放射電界強度を算出する。
【数2】
【0043】
ここで、(数2)式は、ダイポールアンテナ放射の理論演算式として既知の式である。(数2)式のfは周波数[Hz]、lはダイポールの線路帳[m]、rは測定距離[m]、βは波数[m−1]、Iは微小ダイポールを流れる電流[A]、xはアンテナ上の位置、μは真空の透磁率[H/m]、εは真空の誘電率[F/m]、2πf/v=2πf(μ・ε1/2、vは光速[m/s]である。
【0044】
評価指標出力部230は、予め定められた周波数範囲における放射電界強度を算出する。なお、評価装置200は、負荷ケーブル210上の検出部220の位置を変更して、複数個所の位置におけるコモンモード電流の周波数成分を観測してよい。この場合、評価指標出力部230は、当該複数個所のコモンモード電流の周波数成分に応じて、放射電界強度をそれぞれ算出し、これらを合成して評価指標を出力してもよい。
【0045】
次に、コモンモード電流に基づき、放射ノイズの評価指標を出力する(S440)。評価指標出力部230は、例えば、算出した放射電界強度の周波数特性を、放射ノイズの評価指標として出力する。ここで、評価指標は、一例として、30MHzから1GHzといった、予め定められた周波数帯域における放射電界強度の算出結果(放射電界強度スペクトル)である。評価指標出力部230は、記憶部240に評価指標を出力して記憶させてよく、また、評価部260に当該評価指標を供給してもよい。また、評価指標出力部230は、放射電界強度スペクトルを、半導体デバイス10のデータシートの一部として出力してもよい。
【0046】
次に、半導体デバイス10に対して出力した評価指標と、半導体デバイス10とは異なる基準デバイスに対して過去に出力した評価指標と、を比較する(S450)。例えば、比較部250は、記憶部240から過去の評価指標を読み出し、評価指標出力部230が出力した評価指標と、過去の評価指標とを比較する。比較部250は、一例として、予め定められた周波数帯域における評価指標の差分スペクトルを算出する。
【0047】
次に、比較結果に応じて、半導体デバイス10の放射ノイズの相対的な強度変化を評価する(S460)。評価部260は、例えば、差分スペクトルを相対的な強度変化としてよい。また、評価部260は、差分スペクトルにおける予め定められた周波数に対応する値を、相対的な強度変化としてよい。また、評価部260は、差分スペクトルにおいて、予め定められた複数の周波数に対応する値の平均値を、相対的な強度変化としてよい。
【0048】
評価部260は、相対的な強度変化を、評価結果として出力する。評価部260は、半導体デバイス10のスイッチング動作の種類毎に、評価結果を出力してよい。また、評価部260は、負荷ケーブル210上の検出部220の位置毎に、評価結果を出力してもよい。一例として、基準デバイスが過去に装置等に搭載したデバイスの場合、相対的な強度変化は、半導体デバイス10を当該装置等に搭載することによって変化する相対的な放射電界強度の指標となる。また、基準デバイスが半導体デバイス10と略同一のデバイスの場合、相対的な強度変化は、デバイスの製造ばらつきまたは継時変化、デバイスが実装される構造の相違等の指標となる。
【0049】
本実施形態に係る評価装置200は、以上の動作フローにより、半導体デバイス10の放射ノイズを評価して出力することができる。なお、以上の評価装置200は、過去の評価指標との差分である、相対的な強度変化を評価結果として出力する例を説明したが、これに限定されることはない。評価装置200は、評価指標出力部230が算出する、絶対的な周波数スペクトルを示す評価指標を出力してもよい。また、評価装置200は、放射電界強度の強度スペクトルに代えて、コモンモード電流の周波数成分を評価指標として出力してもよい。また、評価装置200が評価指標を出力する装置の場合、比較部250および評価部260は無くてもよい。
【0050】
図5は、本実施形態に係る評価指標出力部230が出力する評価指標の一例を示す。図5は、10MHzから300MHzの周波数帯域における、評価指標出力部230が半導体デバイス10の評価指標を算出した例を示す。また、図5は、「計算結果A」および「計算結果B」を導出する場合に用いたスイッチング動作と同様のスイッチング動作を半導体デバイス10に実行させて、放射ノイズを計測した結果を「測定結果」として示す。
【0051】
また、図5は、負荷ケーブル210を流れるコモンモード電流iradとダイポールアンテナの放射の理論式から計算された放射電界強度スペクトルを「計算結果A」として示す。「計算結果A」および「測定結果」のスペクトルを比較すると、「計算結果A」は、「測定結果」とほぼ一致することがわかる。即ち、半導体デバイス10から放出される放射ノイズの主要因は、電気配線等からのダイポールアンテナ放射が支配的であることがわかる。したがって、評価装置200がコモンモード電流に基づいて出力する評価指標は、半導体デバイス10の放射ノイズを正確に表す指標であることがわかる。
【0052】
また、図5は、ループアンテナの放射の理論式から計算された放射電界強度スペクトルを「計算結果B」として示す。「計算結果B」は、図3において、第2容量部130の一端から半導体デバイス10を介して第2容量部130の他端までのループ経路によって形成されるループアンテナによる放射ノイズを示す。「計算結果B」は、半導体デバイス10のスイッチング動作中に、ループ経路を流れるループ電流を観測し、当該ループ電流の周波数成分から、次式を用いて算出された結果の一例である。
【数3】
【0053】
なお、ループ電流は、半導体デバイス10のスイッチング動作中の当該半導体デバイス10を流れる電流を観測して取得してよい。(数3)式は、ループアンテナ放射の理論演算式として既知の式である。(数3)式のfは周波数[Hz]、Sはループ面積[m]、μは真空の透磁率[H/m]、Iはループ経路を流れる電流[A]、rは測定距離[m]、vは光速[m/s]である。
【0054】
「計算結果B」および「測定結果」のスペクトルを比較すると、「計算結果B」は、「測定結果」よりも著しく小さいことがわかる。したがって、評価装置200がコモンモード電流を検出することで、半導体デバイス10の放射ノイズを評価できることがわかる。
【0055】
以上の本実施形態に係る評価装置200は、負荷ケーブル210に流れるコモンモード電流を観測することにより、半導体デバイス10の放射ノイズを評価することを説明した。コモンモード電流は、負荷ケーブル210および負荷リアクトルと、アース等の基準電位との間の浮遊容量を介して流れると考えられるので、このような浮遊容量を安定に保つ測定系であることが望ましい。そこで、コモンモード電流を更に再現性良く測定できる評価装置200について次に述べる。
【0056】
図6は、本実施形態に係る評価装置200の変形例を示す。本変形例の評価装置200において、図2に示された本実施形態に係る評価装置200の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。本変形例の評価装置200は、金属シールド310と、導電性部材320と、第3容量部330と、を更に備える。
【0057】
金属シールド310は、負荷ケーブル210の少なくとも一部を覆う。即ち、負荷ケーブル210は、少なくとも一部が金属シールド310で覆われたケーブルである。金属シールド310は、負荷ケーブル210に対する電気的な外乱を遮蔽すると共に、負荷ケーブル210との間の浮遊容量を略一定の安定な値に保つ。ここで、金属シールド310および負荷ケーブル210の間の浮遊容量を第1浮遊容量とする。また、金属シールド310は、半導体デバイス10が絶縁材を介して取り付けられる導電性部材320と電気的に接続される。なお、検出部220は、金属シールド310で覆われたケーブル以外の箇所に設けられることが望ましい。
【0058】
導電性部材320は、半導体デバイス10の温度を調節する温度調節部の一部である。例えば、導電性部材320は、ヒータ、冷却装置、および放熱フィンのうちの少なくとも1つの一部である。金属シールド310および導電性部材320は、安定に固定されることが望ましい。金属シールド310および導電性部材320は、一例として、金属材料で形成されたネジで固定される。これにより、金属シールド310および導電性部材320の間の接触抵抗を略一定の安定な値に保つことができる。ここで、金属シールド310および導電性部材320の間の接触抵抗を第1接触抵抗とする。
【0059】
また、導電性部材320は、半導体デバイス10の環境温度を安定に保つ機能を有する。したがって、導電性部材320は、直接的に半導体デバイス10に固定されることが望ましい。また、導電性部材320は、半導体デバイス10が固定される基板にも固定されることが望ましい。これにより、半導体デバイス10および導電性部材320の間の浮遊容量を略一定の安定な値に保つことができる。ここで、半導体デバイス10および導電性部材320の間の浮遊容量を第2浮遊容量とする。
【0060】
金属シールド310および導電性部材320により、半導体デバイス10から、負荷ケーブル210、第1浮遊容量、第1接触抵抗、導電性部材320、および第2浮遊容量を介して半導体デバイス10への閉回路が形成される。当該閉回路は、安定な浮遊容量を有し、コモンモード電流が流れる経路となる。ここで、当該閉回路の浮遊容量は、負荷ケーブル210および基準電位の間の浮遊容量よりも大きくすることができる。したがって、負荷ケーブル210に流れるコモンモード電流は、ほとんど安定な浮遊容量の経路を流れることになり、再現性の良い安定な電流値となる。
【0061】
本変形例の評価装置200は、このような安定なコモンモード電流を検出することができるので、より再現性の高い評価指標を出力することができる。
【0062】
また、本変形例の評価装置200は、半導体デバイスにそれぞれ並列に接続される複数の容量部を備え、複数の容量部のうち、少なくとも1つの容量部は、直列に接続された複数の容量素子を有してよい。図6に示す評価装置200は、第3容量部330が第1容量素子332および第2容量素子334を有する例を示す。ここで、第1容量素子332および第2容量素子334の間は、基準電位340に接続される。
【0063】
第3容量部330は、放射ノイズを低減させるEMCフィルタとして用いられる既知の回路である。評価装置200は、このような回路を設けることにより、半導体デバイス10が実際に搭載される回路構成に近づけ、より精度の高い評価結果を出力することができる。評価装置200は、第3容量部330に加えて、同種および/または異なる種類のEMCフィルタ等を更に設けてもよい。
【0064】
以上の本実施形態に係る評価装置200は、半導体デバイス10をスイッチング動作させて、精度よく半導体デバイス10の放射ノイズを評価できることを説明した。しかしながら、半導体デバイス10を実際に装置等に搭載した場合、当該半導体デバイス10のスイッチング電流は時々刻々と変化することがある。半導体デバイス10が放出する放射ノイズは、このようなスイッチング電流に応じて放出されるので、スイッチング動作中のコモンモード電流に応じて算出される放射ノイズと比較して異なる結果となることがある。
【0065】
このような放射ノイズは、実際に装置等を完成させた後に、完成した装置を電波暗室内に設置して当該スイッチング電流で動作させ、専用のアンテナおよび測定装置等を用いて観測していたので、コストおよび手間等が膨大なものになっていた。しかしながら、評価装置200は、半導体デバイス10の種々のスイッチング動作に対する精度の高い評価結果を出力することができるので、このような評価結果を用いて、半導体デバイス10を装置等に実装した場合に発生する放射ノイズを推定することができる。半導体デバイス10を搭載した装置の放射ノイズを推定する複合評価装置300について、次に説明する。
【0066】
図7は、本実施形態における複合評価装置300の構成例を、データベース410と共に示す。データベース410は、評価装置200が出力する評価指標を記憶する。データベース410は、半導体デバイス10の複数の異なるスイッチング動作において、それぞれ異なる複数のコモンモード電流の条件において出力された評価指標を記憶することが望ましい。なお、データベース410は、評価装置200の記憶部240であってもよい。複合評価装置300は、このような評価指標を用いて半導体デバイス10を備える装置が放出する放射ノイズを推定する。ここで、半導体デバイス10が搭載された装置を、搭載装置と呼ぶ。複合評価装置300は、取得部420と、推定部430と、を備える。
【0067】
取得部420は、評価装置200によって、異なる複数の条件におけるスイッチング信号に対応して出力された半導体デバイス10の複数の評価指標を取得する。取得部420は、例えば、ネットワーク等を介して、データベース410から評価指標を取得する。また、取得部420は、データベース410に直接接続され、評価指標を取得してよい。また、取得部420は、半導体デバイス10の出力電流の情報を取得してよい。
【0068】
推定部430は、半導体デバイス10の出力電流に応じて、複数の評価指標を組み合わせて搭載装置の放射ノイズを推定する。推定部430は、例えば、予め定められた周波数毎に、複数の評価指標の当該周波数に対応する放射電界強度を加算して、放射ノイズの推定値を算出する。推定部430は、算出した推定値を出力する。
【0069】
図8は、本実施形態に係る複合評価装置300の動作フローを示す。複合評価装置300は、図8に示すS510からS530の動作を実行して、搭載装置において半導体デバイス10が放出する放射ノイズを推定する。
【0070】
まず、半導体デバイス10が出力する電流を取得する(S510)。取得部420は、データベース410等から、搭載装置が半導体デバイス10を駆動して出力させる電流の情報を取得する。これに代えて、取得部420は、搭載装置に接続され、搭載装置から出力電流の情報を取得してもよい。これに代えて、取得部420は、搭載装置の設計者または使用者等の複合評価装置300のユーザにより、出力電流の情報が入力されてもよい。
【0071】
次に、評価装置200によって、複数の条件におけるスイッチング動作に対応して出力された半導体デバイス10の複数の評価指標を取得する(S520)。取得部420は、半導体デバイス10の出力電流に対応して、複数の評価指標の組み合わせを取得する。取得部420は、例えば、出力電流の極性および大きさ等に応じて、対応する評価指標を取得する。また、取得部420は、駆動信号の時間的な変化に応じて、対応する評価指標を取得してよい。また、取得部420は、出力電流の時間的な変化に対応する重みを評価指標に乗じて、複数の評価指標を算出してよい。
【0072】
次に、推定部430は、半導体デバイス10の出力電流に応じて、取得部420が取得した複数の評価指標を組み合わせて搭載装置の放射ノイズを推定する(S530)。推定部430が用いる評価指標の組み合わせは、例えば、半導体デバイス10の複数の評価指標の最大値または和である。また、推定部430が用いる評価指標の組み合わせは、半導体デバイス10の複数の評価指標の平均値であってもよい。推定部430が用いる評価指標の組み合わせは、複数の評価指標の最大値または和と、平均値であってもよい。
【0073】
例えば、国際無線障害特別委員会(CISPR)等による電子機器の放射ノイズの規格は、準尖頭値および平均値等で定義されている。したがって、このような規格値に対応すべく、推定部430は、複数の評価指標の最大値および平均値を用いて放射ノイズを推定してよい。このように、推定部430が最大値および平均値を採用して、複合評価装置300は、両者を出力してよい。この場合、例えば、出力された当該最大値および平均値の差分の大小関係等から、準尖頭値をある程度予測することができる。
【0074】
また、推定部430が用いる評価指標の組み合わせは、半導体デバイス10を駆動する駆動信号に対応する複数の重みを、半導体デバイス10の複数の評価指標のうち対応する評価指標にそれぞれ乗じてから算出する平均値でもよい。
【0075】
以上のように、複合評価装置300は、半導体デバイス10を駆動する駆動信号に応じて、予め精度良く評価された評価指標を組み合わせて放射ノイズの推定値を算出するので、精度良く放射ノイズを推定することができる。本実施形態に係る複合評価装置300は、種々の条件のスイッチング動作によるコモンモード電流を観測して評価した複数の評価指標のうち、スイッチング電流に対応する評価指標を取得して組み合わせる。このように、コモンモード電流に対応する放射ノイズをそれぞれ評価した評価指標を用いることができるので、複合評価装置300は、より正確な放射ノイズを推定することができる。
【0076】
図9は、本実施形態に係る評価対象の半導体デバイス10が出力する電流波形の一例を示す。図9は、搭載装置として三相インバータを想定した場合、一相の半周期分の正弦波出力電流の例を示す。図9は、横軸が時間軸であり、縦軸が出力電流の振幅値を示す。なお、横軸および縦軸の値は、規格化した値を用いた。出力電流が正弦波信号の一部なので、図9の時間軸である横軸は、位相が180°の時刻を100%とした規格化した位相で示す。
【0077】
図9に示すように、出力電流の極性がプラスの場合、取得部420は、一例として、半導体デバイス10のターンオン動作に応じて出力された評価指標を取得する。また、取得部420は、正弦波の出力電流の振幅値のピーク値に対応する条件において、評価装置200が出力した評価指標を取得してよい。また、取得部420は、正弦波の出力電流の振幅値のピーク値に最も近い条件において、評価装置200が出力した評価指標を取得してよい。取得部420は、例えば、出力電流に応じた重みを取得した評価指標に乗じて、複数の評価指標を取得する。
【0078】
取得部420は、一例として、出力電流を振幅値に応じて複数の領域に分割する。図9は、出力電流の振幅を、ピーク値を1とした場合の0から0.25、0,25から0.5、0,5から0.75、0.75から1の、4つの領域に等分割した例を示す。そして、取得部420は、各領域における出力電流の時間軸の占有率を算出する。例えば、振幅強度が0から0.25の領域は、出力電流が時間軸の最初の立ち上がりと最後の立ち下がりにおいて占有する。即ち、振幅強度が0から0.25の領域は、出力電流が100%の全体の位相領域に対して16%の位相領域を占有するので、占有率を16%とする。
【0079】
同様に、取得部420は、振幅強度が0.25から0.5の領域の占有率を17%、振幅強度が0.5から0.75の領域の占有率を21%、振幅強度が0.75から1の領域の占有率を46%とする。このような占有率の分布は、三相インバータ動作における出力電流の発生頻度にそのまま置き換えることができるので、取得部420は、占有率に応じた複数の評価指標を算出できる。
【0080】
即ち、取得部420は、出力電流の振幅値のピーク値に応じて取得した、基準となる評価指標の周波数毎の電圧に0.16を乗じることで、振幅強度が0から0.25の領域の第1評価指標を算出する。また、取得部420は、当該基準となる評価指標に0.17を乗じることで、振幅強度が0.25から0.5の領域の第2評価指標を算出する。同様に、取得部420は、当該基準となる評価指標に0.21および0.46をそれぞれ乗じることで、振幅強度が0.5から0.75の領域の第3評価指標および振幅強度が0.75から1の領域の第4評価指標を算出する。推定部430は、第1評価指標から第4評価指標の4つの評価指標の周波数毎の平均値を、放射ノイズの推定値として算出する。推定部430は、算出した推定値を出力する。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る複合評価装置300は、駆動信号に応じて、出力電流電流の発生頻度を考慮した複数の評価指標を用いるので、様々な駆動信号に対応してより正確に放射ノイズを推定することができる。なお、本実施形態において、出力電流の振幅を4つの領域に等分割した例を説明したが、これに限定されることはない。駆動信号の振幅の分割数は、種々の分割数に設定可能でよい。また、評価指標に乗じる重み等も、出力電流に応じて調整可能でよい。
【0082】
以上のように、本実施形態に係る評価装置200および複合評価装置300は、半導体デバイス10が装置等に搭載される前の段階において、当該装置に搭載された場合の放射ノイズを推定することができる。また、半導体デバイス10が出力する電流が複雑であっても、複合評価装置300は、評価装置200が出力する評価指標を組み合わせることで、放射ノイズを推定することができる。
【0083】
また、評価装置200が出力する評価指標を当該半導体デバイス10のデータシートとして出力することにより、装置設計を容易にする有意義な情報を提供できる。なお、この場合、評価装置200は、過去のデバイスに対する評価結果と共に評価指標を出力することが望ましい。これにより、例えば、過去に用いたデバイスからどの程度放射ノイズが低減または増加するかの指標を容易に把握することができ、装置設計をスムーズに実行することができる。
【0084】
装置設計の例としては、予め国際標準規格を満足するように半導体デバイスの駆動条件を決定し、または駆動回路定数の決定を行う。具体的には、駆動条件としては、半導体デバイスのゲート端子に入力するゲート電圧値と時間の関係等である。また、駆動回路定数としては、ゲート抵抗値、ゲート配線のインダクタンス値、容量、使用される電源の仕様等である。さらに、例えばハーフブリッジ回路の下アームにおける半導体デバイスのターンオン時に発生する放射ノイズが支配的であるときは、下アームにおける半導体デバイスの駆動条件または駆動回路定数等を調整する。装置の構造としては、放射ノイズが支配的な半導体デバイスとプリント基板との間にシールド板を設ける、放射ノイズの強弱に応じて装置内の配置を決定する、装置筐体へのシールド板の設置や、グランドへの接地等が上げられる。
【0085】
半導体デバイスの設計においては、デバイスの内部抵抗値等を調整してもよい。また、半導体デバイスが搭載されるモジュール設計においては、絶縁基板、樹脂絶縁基板等の枚数、形成されている回路パターン形状・厚み・電流経路等の調整、さらに絶縁基板等に使用される絶縁板の厚み・材料の調整、半導体デバイスに形成される表面電極上に接合される配線(ワイヤー、リードフレーム等)の形状・寸法・材料の調整等、モジュールに使用される筐体(ケース)の形状・材料の調整等を行ってもよい。
【0086】
なお、本実施形態において、評価装置200および複合評価装置300を別個独立の装置として説明したが、このような構成に限定されることはない。評価装置200および複合評価装置300は、例えば、一つの装置として構成されてもよい。また、評価装置200および/または複合評価装置300は、少なくとも一部が計算機等で構成されてよい。
【0087】
以上の本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよい。フローチャートおよびブロック図におけるブロックは、(1)オペレーションが実行されるプロセスの段階または(2)オペレーションを実行する役割を持つ装置の「部」として表現されてよい。特定の段階および「部」が、専用回路、コンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。
【0088】
なお、専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、また、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、およびプログラマブルロジックアレイ(PLA)等のような、論理和、排他的論理和、否定論理積、否定論理和、および他の論理演算、フリップフロップ、レジスタ、並びにメモリエレメントを含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0089】
コンピュータ可読記憶媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよい。これにより、当該有形なデバイスに格納される命令を有するコンピュータ可読記憶媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定されたオペレーションを実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読記憶媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。
【0090】
コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(登録商標)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0091】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ等を含んでよい。また、コンピュータ可読命令は、Smalltalk、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードを含んでよい。
【0092】
コンピュータ可読命令は、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、もしくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサ、またはプログラマブル回路に提供されてよい。これにより、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、もしくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサ、またはプログラマブル回路は、フローチャートまたはブロック図で指定されたオペレーションを実行するための手段を作成するために、当該コンピュータ可読命令を実行できる。なお、プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0093】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0094】
10 半導体デバイス、12 第1デバイス、14 第2デバイス、100 評価回路、110 電源、120 第1容量部、130 第2容量部、140 負荷リアクトル、150 信号供給部、200 評価装置、210 負荷ケーブル、212 第1接続線、214 第2接続線、220 検出部、230 評価指標出力部、240 記憶部、250 比較部、260 評価部、300 複合評価装置、310 金属シールド、320 導電性部材、330 第3容量部、332 第1容量素子、334 第2容量素子、340 基準電位、410 データベース、420 取得部、430 推定部
【要約】
【課題】半導体デバイスの放射ノイズを簡便に評価し、半導体デバイスが搭載された装置の放射ノイズを推定する。
【解決手段】負荷ケーブルにより負荷と並列に接続された半導体デバイスにスイッチング動作させる段階と、スイッチング動作中に負荷ケーブルに流れるコモンモード電流を測定する段階と、コモンモード電流に基づき、放射ノイズの評価指標を出力する段階とを備える評価方法および評価装置を提供する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
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図7
図8
図9